17歳起業家が紡ぐカンボジアと日本の架け橋|SMATERIAに込めた想い

2025年7月12日。赤坂のダイニングバーの一角で、ピンク、ブルー、グリーン、オレンジと鮮やかな色彩のバッグに囲まれながら、白いシャツを着た女性が来店客に丁寧に商品を説明しています。その自然な笑顔と温かい語りかけに、多くの人が足を止めて聞き入っていました。彼女の名前は森瑞穂さん、17歳。現役高校2年生でありながら、カンボジアの女性たちが作るリサイクル素材ブランド「SMATERIA(スマテリア)」の日本独占販売を手がける起業家です。

単なるファッションアイテムを超えた物語がここにはあります。まさか高校生が、と驚く来店客も多いのですが、瑞穂さんの商品への愛情と真摯な想いは、年齢を超えて多くの人の心を動かしているのです。

偶然が運んだ運命の出会い

「元々はめっちゃ起業したいとか、会社やりたいと思ってやったわけではないんです」と瑞穂さんは振り返ります。母親がカンボジアで活動する中でSMATERIAと出会い、瑞穂さん自身も小さい頃から「気づいたらSMATERIAの商品を使ってる」ほど、このブランドの魅力に引き込まれていました。

SMATERIAは2008年にプノンペンで始まったブランドで、イタリア人デザイナーがカンボジアの女性たちを雇用し、使われなくなった萱や漁に使う魚網などを再利用した商品を展開しています。転機が訪れたのは今年。前任の日本での販売代理店が辞めることになった際、カンボジア支援事業を行っていたお母さんから「日本でやってみない?」という提案がありました。「とにかくわくわくした。販売できるんだ、みたいな驚きから入って」と当時を振り返る瑞穂さんの目は今でも輝いています。

法人とは何かも分からない状態から一つ一つ学び、昨年12月に合同会社emiimiを設立しました。そして2月に現地を訪れてデザイナーやビジネスマネージャーとの独占販売契約を締結し、今年4月から本格的な日本での販売をスタートさせました。迷いはなかったのかという問いに、「止めるものは何もなかった」と即答する姿からも、そのスピード感こそが彼女の最大の武器かもしれません。

リサイクルが生み出す新しい美しさ

SMATERIAの魅力について瑞穂さんは熱っぽく語ります。「カンボジアって高床式の家が多くて、そこで使われなくなった蚊帳や漁に使う網を再利用したナイロンネットでできてるんです。すごい軽くて丈夫で洗えるし」。実際に手に取ってみると、リサイクル素材とは思えないほど滑らかで、独特の風合いが心地よく感じられます。

特に印象的なのは、その色彩の豊かさでしょう。「こういうカラフルなのって、意外と日本にはあんまりなかったりするじゃないですか。日本だとシンプルなのが多いけど、日常にこういうオレンジのポーチが1個あるだけで気分が上がる」。彼女自身もオレンジ色のアクセサリーを身につけており、ブランドへの愛情の深さがうかがえます。

瑞穂さんが愛用しているメイクポーチを見せてくれた時、その色合いの美しさに思わず見とれてしまいました。「シンプルなんですけど、シンプルの奥におしゃれさがある。しかも環境にいいことをしている気にもなれる」。使う人の心も豊かにするアイテムなのでしょう。

さらに驚くのは、仕入れ時のカスタマイズ性です。「ここはこの色でチャックがピンクで、とかオーダーできるんです。お客さんからこういう形でこの色が欲しいと言われたら、次の仕入れのときに入れたりもします」。注文から約1週間で現地で作ってくれるという迅速さも魅力の一つでしょう。

周囲に支えられた等身大の挑戦

高校生起業家と聞くと大変そうに思えますが、瑞穂さんは「学校がすごい自由で、いろんな人がいる面白いところ」と笑います。担任の先生は職員室でも彼女のことを話してくれるほどの応援ぶりで、前回の五反田のポップアップには先生が娘さんへのプレゼントを買いに来てくれたそうです。

学校の友人には事業をやっていることを詳しく話していませんでしたが、担任の先生には伝えていました。「社会の授業で社会主義と資本主義の話になったとき、先生が『瑞穂の会社はどっち?』って聞いてくれて、説明する機会を作ってくれた」。そんなエピソードからも、彼女を取り巻く温かい環境が見えてきます。

学業との両立については「週2回のダンス部の練習もあるけど、特に支障はない」と自然体です。母親からは「選択肢を与えてくれる人」として様々な可能性を示してもらい、友達には最近まで詳しく話していなかったものの、イベントを手伝ってもらうなど少しずつ理解を得ています。

毎月のポップアップで感じる手応え

「ポップアップストアは毎月1回はどこかしらでやろう」と決めている瑞穂さん。これまでに東京、大阪、名古屋、愛知の犬山などで開催し、今回の赤坂で東京では4回目の開催となります。

「やりがいを一番感じるのは、実際にお客様の顔を見て商品をお渡しすること。直接の反応が見えるのがすごく嬉しい」と話す彼女の表情は充実感に満ちています。特に印象的なのは、プレゼント用に購入してくれるお客様の存在でしょう。「SMATERIAの魅力を感じてくれて、その他の人にもプレゼントしたいと思ってくれる気持ちが嬉しい」

実際、購入後に「渡しました」というツーショット写真を送ってくれたり、インスタグラムに投稿してくれたりする反応も多く、一つ一つが彼女の励みになっているようです。幅広い年齢層の来店客がいる中で、特に若い世代への認知拡大が今後の目標だということでした。

循環する想いが紡ぐ未来

瑞穂さんの視線は、ブランドの向こう側にある大きな循環を見据えています。「SMATERIAの工房では70名ぐらいのカンボジアのお母さんたちが働いていて、工房の上には保育園もある。朝子供を預けて作って、夕方連れて帰るという環境が整っている」

SMATERIAの本社では保育園・幼稚園を併設し、フェアトレード基準に基づいた賃金・保証も充実しています。瑞穂さんも「スマテリア・ブランドの意志を引き継ぎ、従業員が働きやすい環境を提供したい」と語ります。

そして彼女自身の想いとして、「お母さんたちが楽しく子供たちと接することができる世界になればいい」と語ります。高校卒業後は保育免許を取得する予定で、将来的にはブランドの活動と子どもに関わる仕事を結びつけたいという夢も持っているそうです。

「売り上げの一部をカンボジアの孤児院や子供たちに寄付する仕組みも作っていきたい。可愛い商品を買うだけで気分も上がるし、そのお金の一部が子供たちの支援に繋がる循環を作りたい」。実際に合同会社emiimiでは、売上の一部をカンボジアの孤児院へ寄付することを約束しています。

短期目標として掲げているのは、設立初年度となる今年12月までに売上1000万円です。「何もわからないで経営のこともやっているので一つ一つ教えてもらいながら勉強している」と謙遜しますが、その真摯な姿勢こそが多くの人を惹きつける理由なのでしょう。

新しい時代を切り拓く自然体の力

赤坂のダイニングバー空間でのポップアップストアという組み合わせも、瑞穂さんの手にかかると自然に溶け合います。商品を手に取るお客様との記念撮影でも見せる彼女の自然な笑顔は、年齢を超えた信頼関係を物語っているでしょう。

「何もわからないで経営をしている」と笑いながらも、着実に歩みを進める17歳。周りを明るく照らしながら新しい時代の起業家として成長していく姿が、とても眩しく見えました。今後も彼女とSMATERIAの歩みから、きっと多くの人が勇気をもらえるはずです。

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