待ったなし!2025年4月から完全義務化される「65歳までの雇用確保」、今すぐ準備すべきこと

経営者の皆さん、従業員の定年後の雇用について、きちんと準備は進んでいますでしょうか。

2025年3月31日をもって、高年齢者雇用安定法の経過措置が終了しました。つまり、4月1日からは、65歳までの雇用を希望する従業員全員に対して、雇用機会を確保することが完全に義務化されたということです。「まだ先のこと」と考えていた経営者の方も、もう猶予はありません。未対応のままでは法令違反となり、企業の信頼を失うことにもつながりかねないのです。

この記事では、今回の完全義務化の内容と、中小企業の経営者が今すぐ取り組むべき具体的なアクションについて、わかりやすく解説します。

2025年4月から何が変わったのか?

経過措置の終了で「希望者全員」が対象に

高年齢者雇用安定法は、2013年の施行以降、段階的に継続雇用制度の対象年齢を引き上げてきました。これまでは、労使協定を締結することで、継続雇用の対象者を一定の基準で限定できる経過措置がありました。

たとえば、2022年4月から2025年3月までは、64歳以上の従業員に対してのみ継続雇用制度の対象者を限定できていたのです。しかし、この経過措置が2025年3月31日で終了したことにより、4月1日以降は、定年後も働きたいと希望する従業員全員に対して、65歳まで雇用機会を提供しなければなりません。

「65歳定年」が義務化されたわけではない

ここで誤解されがちなポイントがあります。今回の改正は「定年を65歳に引き上げること」を義務づけたものではありません。企業には3つの選択肢が用意されており、そのいずれかを実施すればよいという仕組みです。

選択肢は以下の3つ。

  1. 65歳までの定年引上げ:定年年齢そのものを65歳以上に設定する
  2. 継続雇用制度の導入:定年後も希望者全員を65歳まで再雇用または雇用延長する
  3. 定年制の廃止:定年という制度そのものをなくす

多くの企業では、現行の60歳定年制を維持しつつ、継続雇用制度(再雇用制度または勤務延長制度)を導入するケースが一般的といえます。ただし、これまでのように「基準を満たした人だけ」という限定はできなくなりました。希望者全員を対象にする必要があるのです。

高年齢雇用継続給付の支給率も縮小

同時期に、もう一つ重要な変更がありました。高年齢雇用継続給付の支給率が縮小されたのです。

高年齢雇用継続給付とは、60歳以降も働き続ける従業員の賃金が、60歳時点に比べて75%未満に低下した場合、賃金の一部を補填する雇用保険の給付金制度。2025年4月からは、この支給率が15%から10%に引き下げられました。

この給付金を前提に賃金制度を設計していた企業では、従業員の収入が減少することになります。生活の困窮や給与への不満につながる可能性もあるため、賃金制度の見直しが必要になるかもしれません。

なぜ今、雇用確保が義務化されたのか

少子高齢化による労働人口の減少

日本では急速に少子高齢化が進んでおり、若年層だけでは労働力を確保することが難しくなってきました。豊富な経験と知識を持つ高齢者を労働市場に取り込むことは、企業にとっても、社会全体にとっても重要な課題です。

年金支給年齢の引き上げ

かつて老齢年金は60歳から支給されていましたが、段階的に引き上げられ、現在は65歳からの支給となっています。60歳で定年退職すると、年金支給までの5年間、収入がない期間が生まれてしまうのです。

この「収入の空白期間」を埋めるためにも、65歳までの雇用確保が必要とされているのではないでしょうか。

高齢者の就業意欲の高まり

医療技術の進歩や健康意識の向上により、高齢者の方々も心身ともに元気な方が増えています。「定年後もまだまだ働きたい」という意欲を持つ方も多く、その力を活かす環境を整備することが、企業にも社会にも求められています。

企業が今すぐ取り組むべき3つのこと

1. 就業規則の見直しと改定

まず最優先で取り組むべきは、就業規則の見直しです。継続雇用制度を採用している場合、対象者を限定する基準が記載されているケースが多いでしょう。この部分を「希望する従業員全員」を対象とする内容に改定する必要があります。

就業規則の改定には、従業員代表の意見聴取や労働基準監督署への届出が必要。早急に着手しないと、4月1日に間に合わなくなる恐れもありました。もし、まだ対応できていない場合は、今すぐ社会保険労務士に相談することをおすすめします。

2. 雇用契約書・労働条件通知書の整備

継続雇用制度を利用する場合、定年後の雇用形態や労働条件を明確にしておくことが重要です。再雇用後の賃金、勤務時間、業務内容などについて、従業員と合意形成を図り、書面で明示しましょう。

特に、高年齢雇用継続給付の縮小により、従業員の手取り額が減少する可能性もあります。生活に支障が出ないよう、賃金水準についても慎重に検討したいところです。

3. 賃金制度・評価制度の見直し

60歳以降の賃金をどう設定するかは、企業にとって大きな課題ではないでしょうか。体力や能力の変化を考慮しつつ、本人のモチベーションを維持できる制度設計が求められます。

また、シニア人材の経験や知識を活かせる役割を用意することも大切。若手への技術伝承やメンター役など、年齢に応じた適切な業務配置を考えることが、組織全体の生産性向上につながるはずです。

活用できる助成金制度

高齢者雇用の推進には、国の支援制度も用意されています。特に注目したいのが「65歳超雇用推進助成金」です。

65歳超雇用推進助成金とは

この助成金は、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備などに取り組む事業主を支援するもの。以下の3つのコースで構成されています。

65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年引上げ、定年廃止、または66歳以上の継続雇用制度を導入した場合に支給されます。

高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者向けの評価制度や賃金制度を整備し、雇用管理の改善を行った場合に支給。

高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年未満の有期契約労働者を無期雇用に転換した場合に対象となります。

助成金活用の注意点

ただし、注意すべき点があります。今回義務化された「65歳までの雇用確保」は法令遵守のための措置ですので、この措置だけでは助成金の対象外となります。

助成金の対象となるのは、法律を上回る取り組みです。具体的には、「65歳を超えて働ける制度の整備」、たとえば66歳以上の継続雇用制度の導入や、65歳以上への定年引上げ、定年制の廃止などが該当します。

つまり、65歳までの雇用確保は義務として当然実施すべきもの。それに加えて、さらに高齢者が活躍できる環境を整備する場合に、助成金の支援を受けられるという仕組みです。

申請には、事前の計画届や事後の実績報告が必要で、審査にも数ヶ月かかります。また、助成金は全ての取組みが終わった後に支給されるため、一時的に企業が費用を負担することになる点も考慮しておきましょう。

詳しくは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部に問い合わせるか、社会保険労務士に相談されることをおすすめします。

シニア人材が活躍できる職場づくり

制度を整えることも大切ですが、それ以上に重要なのが、高齢者が実際に活躍できる職場環境を作ること。

経験を活かせる役割の創出

長年培ってきた経験や知識は、企業にとって貴重な財産です。若手社員の育成やメンター役、業務改善の提案など、シニア人材ならではの役割を用意することで、本人のやりがいも高まります。

柔軟な働き方の提供

体力面を考慮し、短時間勤務や週4日勤務など、柔軟な働き方を選択できる制度があると、高齢者も無理なく働き続けられるでしょう。

世代間のコミュニケーション促進

異なる世代がお互いの強みを認め合い、協力できる職場文化を育てることも大切。定期的な面談や社内イベントなどを通じて、世代を超えたコミュニケーションを促進していきたいものです。

70歳までの雇用確保も視野に

2021年の法改正で、70歳までの就業確保措置が努力義務とされました。現時点では努力義務ですが、将来的には義務化される可能性も高いと考えられています。

65歳までの雇用確保が軌道に乗ったら、次は70歳雇用に向けた準備を進めることをおすすめします。先を見据えた対応が、企業の競争力を高めることにもつながるはずです。

まとめ:今こそ高齢者雇用を経営戦略に

2025年4月からの完全義務化は、確かに企業にとって新たな負担かもしれません。しかし、見方を変えれば、これは大きなチャンス。

少子高齢化が進む中、若手人材の確保は年々難しくなっています。一方で、元気で働く意欲のある高齢者は増えている。この力を活かさない手はないのではないでしょうか。

シニア人材の経験や知識を活かし、若手との技術伝承を進めることで、組織全体の力を底上げできます。また、多様な世代が活躍する職場は、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。

法令対応という義務としてではなく、企業の成長戦略の一環として、高齢者雇用に取り組んでみませんか。その第一歩が、今回の65歳までの雇用確保の完全義務化への対応です。

未対応の企業は、今すぐ就業規則の見直しに着手してください。すでに対応済みの企業も、この機会に賃金制度や評価制度を見直し、より高齢者が活躍しやすい環境づくりを進めていきましょう。

一人ひとりの従業員が、年齢に関わらず生き生きと働ける会社。そんな職場を実現することが、企業の持続的な成長につながっていくと信じています。

【参考資料・相談窓口】

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相談窓口

  • 最寄りの労働局・ハローワーク
  • 都道府県の社会保険労務士会
  • 各地域の商工会議所・商工会

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