2026年度税制改正で中小企業に何が変わる?賃上げ促進税制と設備投資の新ルール

2026年度の税制改正大綱が、2025年12月19日に公表されました。今回の改正では、中小企業の経営に直結する重要な変更が盛り込まれています。特に注目すべきは、賃上げ促進税制の見直しと、少額減価償却資産の特例拡大でしょう。

物価上昇が続く中、多くの経営者の方が資金繰りや人件費の負担に頭を悩ませておられるのではないでしょうか。今回の税制改正は、そんな中小企業を支援するための制度といえます。この記事では、実務に直結する改正ポイントと、今すぐ始められる対応策をわかりやすくご紹介いたします。

今回の税制改正の全体像を、以下の図解で確認しましょう。

2026年度税制改正 主要ポイント一覧
令和8年度税制改正大綱(2025年12月19日公表)
1
賃上げ促進税制の見直し
  • 中小企業向け:現行制度を継続維持
  • 大企業向け:2026年3月末で廃止前倒し廃止
  • 中堅企業向け:2027年3月末で廃止期限到来で廃止
2
少額減価償却資産の特例拡大
  • 即時償却の対象基準額を引き上げ拡充
  • 30万円未満40万円未満に拡大
  • 適用期限:2029年3月31日まで3年延長
3
年収の壁(所得税の非課税枠)引き上げ
  • 所得税の課税最低限を178万円に引き上げ拡充
  • 対象:年収665万円以下の納税者(約8割)
104万円
基礎控除
+
74万円
給与所得控除
=
178万円
非課税枠

賃上げ促進税制はどう変わる?

中小企業向けは継続、大企業は廃止へ

2026年度の税制改正で最も大きな変更といえるのが、賃上げ促進税制の見直しです。大企業向けの措置は2025年度末(令和8年3月31日)で廃止となります。中堅企業向けも2026年度末に廃止される方向で、最終年度は賃上げ率の要件が3%から4%に引き上げられました。一方で、中小企業向けの制度は現行のまま継続されることになっています。

深刻な人手不足の中、防衛的な賃上げを余儀なくされている中小企業の実情に配慮した形といえるでしょう。給与増加率1.5%以上で15%、2.5%以上で30%の税額控除が基本となります。さらに子育て支援や女性活躍支援の認定を受けた企業は、5%の上乗せが可能です。

なお、現行制度(2024年度~)では教育訓練費を増加させた場合の10%上乗せ措置がありましたが、今回の改正で廃止されることになりました。このため、改正後の最大税額控除率は35%(基本30%+子育て・女性活躍支援5%)となります。たとえば、年間100万円の賃上げを実施し、最大控除率が適用された場合、35万円の節税効果が期待できる計算になります。

改正前後の税額控除率の違いを、以下の図表で確認しましょう。

企業規模別の適用状況(2026年度税制改正後)
大企業 廃止 2026年3月31日をもって廃止
中堅企業 廃止予定 2027年3月31日をもって廃止(最終年度は賃上げ率4%以上に引上げ)
中小企業 継続 現行制度を維持(一部上乗せ措置の見直しあり)
中小企業向け税額控除率の比較(改正前後)
項目 改正前(現行) 改正後
基本控除率(給与増加率1.5%以上) 15% 15%
基本控除率(給与増加率2.5%以上) 30% 30%
上乗せ:教育訓練費増加(5%以上) +10% 廃止
上乗せ:子育て・女性活躍支援 +5% +5%(継続)
最大税額控除率 45% 35%
具体例:最大控除率適用時の節税効果
年間100万円の賃上げを実施した場合
賃上げ額 100万円
×
最大控除率 35%
=
節税効果 35万円
※税額控除額の上限は法人税額または所得税額の20%までとなります

教育訓練費の上乗せ措置は全区分で廃止

従来、教育訓練費を増加させた場合に税額控除率を上乗せする措置がありました。しかし、会計検査院から「教育訓練費の増加額を税額控除額が上回るケースがある」という指摘を受け、今回の改正で企業規模を問わず廃止されることになりました。

教育訓練に力を入れてきた企業にとっては残念な変更かもしれません。ただし、従業員のスキルアップは長期的な企業価値の向上につながるもの。税制優遇がなくなっても、人材育成への投資は引き続き重要な経営戦略といえるのではないでしょうか。

今すぐできる賃上げ対策

税制改正は2026年4月から適用されます。まず明日からできることとして、顧問税理士に「2026年度税制改正がうちの会社にどう影響するか」を確認してみてはいかがでしょうか。

1ヶ月以内には、来期の賃上げ計画を具体的に策定することをおすすめします。給与増加率を試算し、税額控除を最大限活用できるプランを立てましょう。給与増加率2.5%以上を目指すのであれば、それに見合った売上・利益の確保も必要となります。長期的には、生産性向上と賃上げをセットで実行していく戦略が求められるでしょう。

賃上げだけを実施して、税額控除の手続きを忘れてしまうケースも少なくありません。せっかくの制度を活用できるよう、経理担当者や税理士と連携して、確実に手続きを進めていきたいものです。

少額減価償却資産の特例が拡大

30万円未満から40万円未満へ引き上げ

中小企業にとって朗報といえるのが、少額減価償却資産の特例の拡大です。これまで「30万円未満」だった即時償却の対象が、「40万円未満」に引き上げられることになりました。制度創設以来の物価上昇を踏まえた見直しで、高機能なパソコンや業務用機器などが対象範囲に入りやすくなります。

この特例を使えば、購入した年度に全額を経費として計上でき、節税効果が期待できます。通常の減価償却では数年に分けて費用化する必要がありますが、即時償却により初年度の税負担を大きく軽減できるのが魅力といえるでしょう。適用期限も3年延長され、令和11年3月31日まで使える見込みとなっています。

改正のポイントを、以下の図解で確認しましょう。

少額減価償却資産の特例 改正ポイント
令和8年度税制改正大綱(2025年12月公表)
対象金額
30万円未満 40万円未満
物価上昇に対応した引き上げ
年間上限
300万円 変更なし
従業員数要件
500人以下 400人以下
対象の絞り込み
適用期限
令和8年3月31日 令和11年3月31日
3年延長
適用開始
2026年4月1日以降取得分から
活用例 35万円のPCが即時償却可能に

年間300万円までの上限は変わらず

拡充された特例ですが、いくつか注意点もあります。1事業年度あたりの合計額は、従来通り300万円までという上限があることです。複数の資産を購入する場合、合計が300万円を超える部分については通常の減価償却となります。

また、今回の改正で、常時使用する従業員数が400人を超える法人は適用対象から除外されました。従来は500人以下が対象でしたが、真に支援が必要な中小企業に絞り込む方針が示されています。年度末に駆け込みでまとめ買いをする際には、この点にもご注意ください。

設備投資のタイミングを見直すチャンス

新しい基準は2026年4月1日以降に取得した資産から適用される見込みです。PCの買い替えや業務用機器の導入を検討されているなら、この機会に設備投資計画を見直してみてはいかがでしょうか。これまで「30万円を少し超えるから対象外」と諦めていた設備も、今後は即時償却の対象となる可能性があります。

ただし、節税のためだけに不要な設備を購入するのは本末転倒でしょう。事業に本当に必要な投資かどうかを見極めた上で、賢く制度を活用していくことが大切といえます。キャッシュフローの改善と生産性向上の両立を目指していきたいものです。

年収の壁も引き上げへ

課税最低限が178万円に

今回の改正では、いわゆる「年収の壁」も大きく動きます。課税最低限が178万円に引き上げられることになりました。具体的には、基礎控除が95万円から104万円へ、給与所得控除の最低保障額が65万円から74万円へとそれぞれ引き上げられます。

これにより、パートやアルバイトで働く従業員の方の手取りが増えることが期待されます。人手不足が深刻化する中、「働き損」を気にせず働ける環境が整うことは、企業にとってもメリットといえるのではないでしょうか。

採用活動にも影響する可能性

年収の壁の引き上げは、採用や労務管理にも影響を与える可能性があります。特に、これまで年収を103万円や130万円に抑えていた方が、もう少し長い時間働けるようになるかもしれません。

人材確保に苦労されている企業にとっては、追い風となる変更でしょう。ただし、社会保険の扶養の要件は別途存在しますので、従業員の方への丁寧な説明が求められます。給与担当者や社会保険労務士と連携して、従業員の方にとって最適な働き方を一緒に考えていきたいものです。

今から準備すべきこと

まずは顧問税理士に相談を

税制改正の内容は専門的で複雑です。自社にどのような影響があるのか、まずは顧問税理士に確認することをおすすめします。特に、賃上げ促進税制の適用可否や、少額減価償却資産の特例をどう活用できるかは、専門家のアドバイスが不可欠でしょう。

税理士に相談する際は、「うちの会社は賃上げ促進税制を使えますか」「設備投資の予定があるのですが、税制面でのメリットを教えてください」といった具体的な質問を準備しておくとスムーズです。

来期の事業計画に反映させる

税制改正の内容を踏まえて、来期の事業計画を見直すことも大切です。賃上げの財源をどう確保するか、設備投資のタイミングをどう設定するか、年間を通じた資金繰りをどう組み立てるか。税制優遇を最大限活用しながら、持続可能な経営計画を立てていきましょう。

また、従業員の方への説明も忘れずに行いたいところです。特に年収の壁の変更は、パートやアルバイトの方に直接影響します。早めに情報を共有し、一人ひとりの状況に応じた最適な働き方を一緒に考えていくことが、組織の信頼関係を深めることにもつながるはずです。

まとめ

2026年度税制改正は、中小企業にとって重要な変更が多く含まれています。賃上げ促進税制は中小企業向けが継続される一方、教育訓練費の上乗せ措置は廃止となりました。少額減価償却資産の特例は30万円未満から40万円未満へ拡大され、設備投資がしやすくなります。年収の壁も178万円へ引き上げられ、人材確保の追い風となる可能性があるでしょう。

改正内容の多くは2026年4月1日以降に適用される見込みです。今のうちから顧問税理士に相談し、来期の事業計画に反映させていきましょう。税制優遇を賢く活用しながら、持続可能な経営を目指していきたいものです。

中小企業を取り巻く経営環境は決して楽ではありません。しかし、今回の税制改正は、頑張る中小企業を応援する内容といえます。一つひとつの制度を理解し、自社に合った形で活用していくことで、より強い経営基盤を築いていけるのではないでしょうか。

参考資料・相談窓口

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