採用予定企業が減少する中、賃上げ競争が激化!中小企業が今取るべき採用戦略とは?

人手不足が叫ばれる一方で、採用予定企業が減少するという矛盾した状況が生まれています。2025年度の採用市場は、初任給の大幅引き上げと中途採用の売り手市場継続という厳しい局面を迎えており、特に中小企業にとって人材確保は経営の生命線となっています。

この記事では、帝国データバンクの最新調査をもとに、採用市場の現実と中小企業が生き残るための具体的な戦略をご紹介します。

採用市場の3つの厳しい現実

正社員採用予定企業が4年ぶりに6割を下回る

帝国データバンクの調査によると、2025年度に正社員採用予定がある企業は58.8%と、コロナ禍の2021年度以来4年ぶりに6割を下回りました。

この数字が意味するのは、単なる採用競争の激化ではありません。むしろ、採用を断念する企業が増えているという深刻な現実です。

企業規模別に見ると、大企業が83.6%であるのに対し、中小企業は54.4%、小規模企業はわずか35.9%という結果に。人手不足に悩みながらも、賃上げの難しさや経営資源の制約から採用を控える中小企業が増加しています。

採用形態では、新卒採用が37.1%に対し、中途採用は51.0%と大きく上回りました。中小企業では新卒社員への教育にかける余裕がなく、即戦力となる中途採用に頼らざるを得ない状況が浮き彫りになっています。

初任給は平均9,114円アップ、給与競争が加速

2025年4月入社の新卒初任給を前年度から引き上げた企業は71.0%に達しました。引き上げ額の平均は9,114円で、「1万〜2万円未満」の引き上げが最も多く41.3%を占めています。

初任給の水準も大きく変化しました。「20万〜25万円未満」が62.1%で最多となる一方、「20万円未満」の企業は前年度から10.4ポイント減少し24.8%に。大手企業では30万円超の初任給を提示するケースも増えています。

学生の価値観も変化しています。マイナビの調査によると、企業選択において「給料が良い会社」を重視する学生が3年連続で増加しており、物価上昇を背景に収入へのこだわりを持つ学生が増えています。初任給の差が採用活動に大きな影響を与える状況です。

興味深いのは、中小企業の初任給引き上げ率が71.4%と大企業の69.6%を上回った点です。これは、厳しい経営状況の中でも、人材確保のために苦渋の選択を迫られる中小企業の現実を物語っています。

中途採用は有効求人倍率1.24倍の売り手市場が継続

2025年5月時点の有効求人倍率は1.24倍で、求職者1人に対して1.24件の求人がある売り手市場が継続しています。

特に中小企業では採用が厳しい状況です。新卒採用市場では、従業員300人未満の中小企業の求人倍率が6.50倍(2025年卒)から8.98倍(2026年卒)へと上昇しており、学生1人を約9社で取り合う激戦状態となっています。中途採用市場でも同様に、従来型の求人広告だけでは応募が集まらない現実があります。

中途採用市場では実務経験とスキルマッチングが成功の鍵を握ります。即戦力人材の獲得競争はさらに激化しており、採用手法の多様化が必須となっています。

なぜこんな矛盾が起きているのか

人手不足なのに採用予定企業が減少するという矛盾。この背景には、中小企業が直面する構造的な問題があります。

まず、賃上げの原資確保が困難な状況です。物価高騰によるコスト増と消費の停滞により、多くの中小企業が賃上げのための資金を確保できていません。

採用活動を行っても応募が来ない現実もあります。大企業との給与格差が拡大する中、条件面で見劣りする中小企業は、求人を出しても反応がない状況に陥っています。

さらに、採用・育成コストの負担増も深刻です。初任給を引き上げても、既存社員とのバランスを取るために全体の給与を見直す必要があり、人件費の総額が大幅に増加してしまいます。

結果として、「人は欲しいが雇えるほどの資金余力がない」という声が、特に小規模企業から多く聞かれるようになっています。

中小企業が今すぐ始めるべき3つの戦略

戦略1: 給与以外の魅力を明確に打ち出す

給与競争で大企業に勝つことは困難です。しかし、給与以外の部分で差別化することは可能です。

成長機会の具体的な提示が効果的です。研修制度、資格取得支援、キャリアパスを明確に示すことで、「この会社で成長できる」というメッセージを伝えられます。

柔軟な働き方の導入も重要です。テレワーク、フレックスタイム、時短勤務など、社員が働きやすい環境を整えることで、ワークライフバランスを重視する求職者にアピールできます。

社員の声を活かした採用ブランディングにも取り組みましょう。先輩社員の成長ストーリーを採用サイトで紹介し、入社後のリアルな姿を見せることで信頼感が生まれます。

明日から始められるアクションとして、自社の働きやすさを従業員に再確認し、改善点を洗い出すことから始めてみませんか。1ヶ月以内には、採用サイトや求人票の見直しを行い、自社の魅力を言語化することが大切です。

戦略2: 採用チャネルの多様化で母集団を広げる

従来型の求人広告だけでは、もはや応募が集まりません。複数の採用チャネルを並行して活用することが不可欠です。

リファラル採用(社員紹介制度)は、低コストで質の高い人材に出会える可能性があります。報奨金5〜10万円程度で、信頼できる人材を紹介してもらえる仕組みを作りましょう。

LinkedInなどのSNS活用、ダイレクトリクルーティングも効果的です。求める人物像を明確にし、自ら候補者にアプローチすることで、待ちの姿勢から脱却できます。

求人広告を出すだけで待つのではなく、能動的に人材を探すスタイルへの転換が求められています。

選考プロセスのスピード化も重要です。書類選考を3日以内に完了させ、面接も柔軟に設定することで、他社に先を越されるリスクを減らせます。

明日から始められるアクションとして、社内の人脈を活用したリファラル採用の導入検討から始めてみましょう。1ヶ月以内には、複数の採用チャネルを試験的に開始し、効果測定を行うことが大切です。

戦略3: 既存社員の定着率向上で採用コストを削減

採用難の時代だからこそ、既存社員の離職を防ぐことが最優先です。定着率の向上は、結果的に採用コストの大幅削減につながります。

給与以外の待遇改善に注目しましょう。福利厚生の充実、住宅補助、食事補助など、生活に密着した支援は社員の満足度を高めます。

社内コミュニケーションの活性化も効果的です。定期的な1on1面談や社内イベントの実施により、社員が孤立感を抱かない環境を作ることができます。

キャリア開発の機会提供も重要です。社内での成長機会を明確に示し、長期的なキャリアパスを一緒に描くことで、社員の定着率が向上します。

明日から始められるアクションとして、社員満足度調査を実施し、現状の課題を把握することから始めてみましょう。1ヶ月以内には、離職リスクの高い社員との面談を設定し、不満や要望をヒアリングすることが大切です。

よくある失敗パターンと対策

多くの中小企業が陥りがちな失敗パターンがあります。

大手と同じ土俵で給与競争をして疲弊するケースです。無理な賃上げは経営を圧迫し、結果的に事業継続リスクを高めてしまいます。給与以外の魅力で勝負する戦略に切り替えましょう。

求人票が他社と同じ内容で埋もれてしまうのも典型的な失敗です。自社ならではの特徴や働く魅力を具体的に言語化し、差別化を図ることが重要です。

面接で会社の魅力を伝えきれないという声も多く聞かれます。事前に自社の強みを整理し、面接官全員が同じメッセージを伝えられるよう準備しておきましょう。

選考に時間がかかり、他社に決まってしまうケースも増えています。選考フローを見直し、スピード感を持った対応を心がけることが必要です。

採用活動にかかる予算とROIの考え方

採用活動には様々なコストがかかりますが、投資対効果を正しく理解することが大切です。

求人広告費は月数万円から数十万円、人材紹介手数料は年収の30〜35%が相場です。リファラル採用の報奨金は5〜10万円程度で、比較的低コストでの採用が可能です。

一方、採用に失敗して早期離職が発生すると、採用・教育コストが無駄になってしまいます。定着率の向上により、長期的な採用コストを削減できることを忘れてはいけません。

価格転嫁の実現も重要な鍵となります。適切な価格転嫁により賃上げの原資を確保できれば、持続可能な採用活動が可能になります。

最初の一歩を踏み出そう

採用市場の厳しさは今後も続くと予想されますが、悲観する必要はありません。中小企業ならではの強みを活かした戦略で、確実に人材を確保している企業も数多く存在します。

まずは自社の強みや他社にない特徴を社員にヒアリングし、採用メッセージを作り直すことから始めてみましょう。競合他社の初任給を調査し、自社の給与水準を客観的に把握することも大切です。

小さな一歩かもしれませんが、それが未来を変える大きな力になります。今日という日が、新しいスタートの日になるかもしれません。

きっと多くの経営者の方が、同じような想いを抱いておられるのではないでしょうか。一人ひとりの経営者の努力が、日本の中小企業を支え、日本経済の発展につながっていくと信じています。

【参考資料・相談窓口】

調査データ

採用支援

賃上げ支援

【編集部より】

採用市場の厳しさが増す中、多くの中小企業経営者の方々が日々奮闘されている姿を取材を通じて拝見してまいりました。大企業との給与競争では厳しい状況にあっても、社員を大切にする姿勢や成長機会の提供など、中小企業ならではの魅力で人材を惹きつけている企業も数多くあります。

あなたの会社にも、必ず他社にはない強みが隠されているはずです。それを見つけ出し、言語化し、求職者に届けることから、新しい採用活動が始まります。

明日からの経営に、少しでも新しい風を感じていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。

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