
中小企業の6割超がデジタル人材を確保できていない――今すぐ始める人材育成の第一歩
「デジタル化を進めたいのに、ITに詳しい人材がいない」――そんな悩みを抱えておられる経営者の方は、決して少なくありません。
東京商工会議所の調査によると、中小企業の62.7%がデジタル人材を「確保できていない」と回答しました。一方で「十分確保できている」と答えた企業はわずか7.2%にとどまっています。多くの経営者が同じ課題に直面している現実が、ここにあります。
では、限られた予算と人員の中で、どのようにデジタル人材を確保・育成していけばよいのでしょうか。本記事では、実践的な解決策を3つのステップに分けて紹介していきます。
目次
なぜ今、デジタル人材が必要なのか?
深刻化する人手不足への対応
日本では生産年齢人口の減少が進み、人手不足は今後さらに深刻化すると予測されています。この状況下で企業が生き残るには、業務の効率化が不可欠といえるでしょう。
デジタルツールを活用すれば、これまで手作業で行っていた業務を自動化できます。例えば、請求書の作成や在庫管理、顧客データの整理などが挙げられます。こうした業務効率化によって、限られた人員でも生産性を維持できる体制が整うのです。
競争力強化の鍵となるDX
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2024年に実施した調査では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の取組を担う人材の不足が一層深刻化していることが明らかになりました。
デジタル化のレベルが高い企業ほど、人材確保率も高い傾向にあります。つまり、早期にデジタル人材を育成した企業ほど、さらなるデジタル化を進めやすくなるという好循環が生まれているわけです。
逆に言えば、今何もしなければ、競合他社との差がどんどん広がってしまう可能性があります。「いつか取り組もう」ではなく、今この瞬間から始めることが大切なのではないでしょうか。
デジタル人材不足の実態――あなたの会社は大丈夫ですか
情報システム担当者の設置状況
調査によると、情報システム担当者を設置している中小企業は約5割にとどまっています。専任でなくても、兼任でIT関連の業務を担う人材がいる企業は、まだ半分程度ということです。
「うちには専門家なんていない」と思われるかもしれません。しかし、最初から高度な専門知識が必要なわけではありません。まずは社内で比較的ITに詳しい人材を見つけ、その方に小さな役割から任せていくことが第一歩となります。
従業員の年齢層とデジタル化の関係
興味深いことに、従業員の平均年齢が若い企業ほどデジタル化が進んでいる傾向があります。これは若い世代が日常的にスマートフォンやパソコンを使いこなしているためと考えられます。
ただし、だからといって「うちは高齢者が多いから無理」と諦める必要はありません。年齢に関係なく、学ぶ意欲のある方であれば、基本的なデジタルスキルは十分に習得できます。大切なのは「学び続ける文化」を社内に根付かせることではないでしょうか。
今日から始める3つの実践ステップ
ステップ1: 社内のIT人材を発掘する(明日からできること)
最初のステップは、社内で「少しでもITに詳しい人」を探すことです。高度な専門知識は必要ありません。次のような経験がある方を探してみましょう。
- Excelの関数を使える
- スマートフォンのアプリに詳しい
- 若い世代でSNSを使いこなしている
- 趣味でパソコンをよく使っている
そうした方に、まずは兼任でIT担当を任命してみてください。「専任でなくてもいい」というハードルの低さが、スタートを切る際の重要なポイントです。
最初は週に数時間程度、社内のIT関連の困りごとを相談する窓口になってもらうだけで構いません。小さく始めることで、本人も周囲も負担を感じることなく新しい役割に慣れていけます。
ステップ2: 社員研修の仕組みをつくる(1ヶ月以内にやるべきこと)
次のステップは、社員がデジタルスキルを学べる環境を整えることです。幸いなことに、現在は低コストで利用できるオンライン学習サービスが充実しています。
UdemyやSchooといったプラットフォームでは、月額数千円程度で様々なITスキルを学べる講座が提供されています。年間10万円/人以下で、実践的なリスキリングが可能です。
さらに、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」を活用すれば、中小企業は研修費用の75%に加えて、研修時間中の賃金助成も受けられます。実質的な負担はさらに軽減されるでしょう。
東京都内の中小企業であれば、「スタートアップを活用したリスキリングによる中小企業デジタル化支援」という制度もあります。1社あたり100万円(税込)まで、企業負担なしでリスキリング講座を受講できる仕組みです。
こうした支援制度を活用することで、予算が限られている中小企業でも、計画的な人材育成を進めていけます。
ステップ3: 長期的な育成計画を立てる
短期的な対応だけでなく、長期的な視点での人材育成計画も欠かせません。IPAが提供する「デジタルスキル標準」などを参考に、自社に必要なスキルを明確にしていきましょう。
具体的には次のような取り組みが考えられます。
採用活動と並行した社内育成
新卒・中途採用でIT人材を探しつつ、既存社員の計画的な育成も進めていきます。外部からの採用は競争が激しく、給与水準も高くなりがちです。そのため、社内育成を主軸に据えることが現実的といえるでしょう。
段階的なスキルアップの仕組み
最初は基礎的なITリテラシーから始め、徐々に専門性を高めていく段階的な育成プログラムを設計します。全員が高度な専門家になる必要はありません。それぞれの役割に応じた適切なレベルのスキルを身につけられれば十分です。
外部専門家の活用
社内だけで解決が難しい課題については、外部のITコンサルタントや専門家の力を借りることも選択肢になります。ただし、丸投げにならないよう注意が必要です。社内にノウハウを蓄積することを意識しながら、外部支援を活用していきましょう。
成功のための3つのポイント
全社員のITリテラシー向上を目指す
「ITは専門家だけの仕事」という考え方を変えることが、デジタル化成功の鍵です。経理担当者も営業担当者も、それぞれの業務に役立つデジタルツールを使いこなせるようになれば、会社全体の生産性が大きく向上します。
特に経営者自身がデジタルツールを積極的に使う姿勢を見せることが重要でしょう。トップが率先して学ぶ姿勢を示すことで、社員も「自分も学ばなければ」という意識を持ちやすくなります。
失敗から学ぶ――外部丸投げの落とし穴
よくある失敗パターンとして、ITベンダーに業務を丸投げしてしまうケースが挙げられます。確かに専門家に任せれば短期的には楽かもしれません。
しかし、社内にノウハウが蓄積されないため、システムトラブルが起きた際に自社では何も対応できない状態になってしまいます。ベンダーへの依存度が高まり、長期的にはコストも増大しかねません。
外部の支援を受ける際は、必ず社内の担当者を関わらせ、知識や経験を蓄積していく仕組みを作っておきましょう。「教えてもらいながら自社でもできるようになる」というスタンスが大切です。
最初の一歩を踏み出す勇気
最も大事なことは、完璧を目指しすぎないことかもしれません。小さく始めて、少しずつ改善していく。その積み重ねこそが、確実な成長につながります。
まずは独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書」で業界動向を把握してみてください。他社の取り組み事例を知ることで、自社に合った方法が見えてくるはずです。
まとめ――デジタル人材育成は「今」始めるべき投資
デジタル人材の不足は、多くの中小企業が抱える共通の課題です。しかし、この課題に今から取り組むことで、将来的な競争優位性を築くことができます。
高度な専門家を一度に採用する必要はありません。社内の人材を育て、外部の支援制度を活用し、少しずつデジタル化を進めていく。そうした地道な取り組みが、5年後、10年後の会社の姿を大きく変えていくのではないでしょうか。
「うちには無理」と諦める前に、まずは小さな一歩から始めてみませんか。社内で一番ITに詳しそうな人に声をかける。それだけでも、確実に前進しているといえます。
デジタル化の波は待ってくれません。しかし、焦る必要もありません。自社のペースで、着実に歩みを進めていきましょう。
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