異業種転職が半数超えの時代、未経験者採用で人材不足を乗り越える

経験者だけを求めていては、優秀な人材に出会えない。そんな時代が、もう目の前まで来ています。

転職市場を見渡せば、約半数の方が異業種への転職を選んでいるという調査結果が出ました。求職者の多くが、これまでとは異なる分野での成長を望んでいるのではないでしょうか。一方で、多くの中小企業では「経験者が来ない」「応募が集まらない」という悩みを抱えておられます。

この記事では、異業種転職が主流となった今、未経験者の受け入れと育成がなぜ重要なのか、そして具体的にどのような体制を整えればよいのかをご紹介します。

まずは、転職市場の現状を数字で確認してみましょう。

異業種転職の実態
転職市場の変化を示す最新データ
331万人
2024年 転職者数(3年連続増加)
48%
異業種転職率
(全体)
65%
ミドル層
異業種転職率
異業種転職率の比較
ミドル層
(40歳以上)
65%
全体平均
48%
異業種
かつ異職種
39.3%
転職理由 第1位
「給与」
3~4年連続でトップ
出典:総務省「労働力調査」、リクルート、doda、マイナビ各種調査(2022~2024年)

転職市場の変化が示す新しい可能性

異業種転職が半数超えという現実

リクルートエージェントの調査によると、転職成功者の約48%が異業種転職を果たしています。さらに注目すべきは、dodaの調査でミドル層(40歳以上)の約65%が異業種転職を実現しているという点です。

2024年の転職者数は331万人に達し、3年連続で増加しました。経験を積んだベテラン層でさえ、新しい業界での挑戦を選ぶ時代になったといえるでしょう。

転職理由として最も多いのは「給与」ですが、転職コンサルタントの調査によると、異業種転職を希望する背景として「今の業界・会社の先行きが不安」という声が71%に達しています。成長産業への移動を希望する方が増えており、業界の枠を越えた人材流動化が加速している状況ではないでしょうか。

企業も求職者も「経験」より「可能性」へ

リクルートの分析では、「異業種×異職種」の転職が39.3%で過去最高を記録。企業側も、これまでの常識にとらわれず、異なる業界・職種の経験者を積極的に採用する動きが広がっています。

デジタル化や事業転換が求められる中、従来と同じ業界経験だけでは不十分なケースも増えてきました。むしろ、異なる視点やスキルを持つ人材の方が、イノベーションを起こせる可能性があります。

中小企業にとって、この変化は大きなチャンス。大企業に負けない魅力として「新しいことに挑戦できる環境」を打ち出せば、優秀な人材を確保できるのではないでしょうか。

未経験者採用がもたらす3つのメリット

採用の幅が広がり人材不足を解消

「経験者限定」の求人では、応募が集まらない。そんな悩みを抱える経営者の方は少なくないでしょう。

未経験者も採用対象に含めることで、母集団が格段に広がります。実際に、未経験者の中にも、応用可能なスキルを持つ方や、コミュニケーション力に優れた方が多数いらっしゃるのです。

中小企業白書2024でも、「業界未経験採用に注力し育成した」事例が成功例として紹介されています。リクルートワークス研究所の調査では、従業員300人未満の企業の新卒求人倍率が6.50倍という厳しい状況。新卒・中途を問わず、採用の間口を広げることが生き残りの鍵となっているのではないでしょうか。

新しい視点が組織を活性化する

未経験者は既存の業界慣習にとらわれません。「前の会社ではこうだった」という固定観念がないため、素直に新しいやり方を受け入れてくれます。

この柔軟性こそが、組織に新しい風を吹き込む原動力。ベテラン社員では気づかない改善点を指摘してくれることもあるでしょう。

異業種からの転職者がもたらす多様な視点は、これからの時代に不可欠な要素です。変化の激しいビジネス環境では、同じ業界出身者だけで固めるよりも、多様なバックグラウンドを持つチームの方が強いといえます。

柔軟な人材が長期的な成長の鍵

経験やスキルは申し分なくても、社風やチームと合わず期待した成果を出せないケースがあります。一方、未経験でも企業の価値観とフィットした人材であれば、将来的に大きく貢献してくれる可能性が高いのではないでしょうか。

中小企業庁の「人材活用ガイドライン」でも、新卒採用は「将来の幹部候補の確保や組織の活性化が期待できる」と説明されています。これは未経験者採用にも当てはまるでしょう。

白紙の状態から自社のやり方を学んでもらえるため、企業文化の継承という観点でも大きなメリットがあります。5年後、10年後を見据えた人材育成が可能になるのです。

未経験者を戦力化するための育成体制

未経験者を採用した後、どのように育成すれば戦力化できるのでしょうか。以下の図で、3つの育成体制の全体像を確認しましょう。

未経験者育成の3つの柱
1
OJT
実務スキル習得
同じ部署の先輩が指導
業務を通じた実践トレーニング
2
メンター制度
精神面サポート
別部署の先輩が担当
定期面談でキャリア相談
3
マニュアル化
教育の質を均一化
手順を文書化・動画化
自律的な学習を促進
3つの施策が相互に連携
OJT メンター マニュアル
実務スキル・精神面・学習環境の3方向から未経験者を包括的にサポートし、早期戦力化と定着率向上を実現

OJTで実践的なスキルを習得

「未経験者を採用しても、育てる余裕がない」。そんな声が聞こえてきそうです。

しかし、育成体制を整えずに採用だけ進めれば、早期離職を招いてしまいます。まずはOJT(オンザジョブトレーニング)の仕組みを整えることから始めましょう。

OJTとは、実際の業務を通じて必要な知識やスキルを習得してもらう教育手法。同じ部署の先輩社員が指導役となり、実務と並行してトレーニングを行います。

明日から始められるのは、未経験者でも活躍できるポジションの洗い出しです。すべての業務で経験が必要なわけではありません。基本的な業務から段階的に任せていく計画を立ててみてはいかがでしょうか。

メンター制度で精神面もサポート

OJTが業務スキルの習得に特化しているのに対し、メンター制度は精神面のサポートに重点を置いた仕組みです。

メンターは基本的に別部署の先輩社員が担当します。直属の上司には相談しづらい悩みや、キャリアに関する不安を気軽に話せる相手がいることで、新入社員の定着率が大きく向上するのです。

実際に多くの企業でメンター制度を導入したことにより、離職率の低下が報告されています。1ヶ月以内に取り組むべきこととして、定期的な面談の機会を設けることから始めてみましょう。

メンターとメンティの相性も重要。年齢や社歴の近い先輩を選ぶことで、より本音で話せる関係を築けます。

マニュアル化で教育の質を均一化

育成担当者によって教え方がバラバラでは、教育の質が安定しません。基本的な業務手順をマニュアル化・動画化することで、誰が教えても一定水準の指導ができるようになります。

マニュアルがあれば、未経験者が自律的にスキルを習得することも可能。教育担当者の負担軽減にもつながるでしょう。

長期的な取り組みとしては、eラーニングシステムの導入も検討に値します。いつでもどこでも学習できる環境を整えることで、未経験者の成長スピードが加速するのではないでしょうか。

中小企業の場合、費用面が課題になることもあります。その際は、人材育成に関する助成金の活用も検討してみてください。厚生労働省では様々な支援制度が用意されています。

まとめ:今こそ「育てる覚悟」で未来を拓く

異業種転職が主流となった今、「経験者のみ」にこだわる採用では人材確保が困難になっています。

未経験者を受け入れ、育成する体制を整えること。それが、人材不足を乗り越える最も現実的な解決策ではないでしょうか。

短期的には研修費用や教育の手間がかかります。しかし、定着率が向上すれば、採用コストの削減につながるのです。何より、自社の価値観を理解した人材が育つことで、中長期的な企業成長の基盤が築けます。

最初の一歩は、「業界未経験でも活躍している社員」の事例を調べることから。きっと、あなたの会社にもそんな人材がいるはずです。その成功体験を言語化し、採用活動に活かしていきましょう。

「育てる覚悟」を持つことで、新しい未来が開けてくるに違いありません。

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