外国人が暮らしやすい日本を!三菱地所発の外国人向けヘルスケア事業|WELL ROOM株式会社
健康経営への取り組みが増える中、日本の「健康」への意識は確実に高まっています。その流れの中で、不動産業界の大手、三菱地所から生まれた社内ベンチャーとして、外国人向けヘルスケア事業を展開する「WELL ROOM株式会社」が注目されています。同社の下田社長は、入社3年目に新規事業を立ち上げ、会社を設立。通常の起業とは一味違う彼のストーリーと、事業にかける熱意を今回の記事でお伝えします。ぜひ、最後までお読みください。
WELL ROOM株式会社の事業について
まずは御社の事業について教えていただけますでしょうか?
WELL ROOMは、三菱地所の社内ベンチャーとして誕生しました。三菱地所は、社員発アイデアの実現サポートを行う制度として、1999年から社内ベンチャー制度(現:新事業提案制度)を開始し、2021年からはグループ会社にも対象を拡大し、MEIC(Mitsubishi Estate group Innovation Challenge)として展開しています。近年では弊社を含めて複数の子会社が設立されています。弊社は、健康診断、メンタルヘルス相談、産業医など、いわゆる予防医療のサポートサービスを中心に提供しています。
サービスの特色は、多言語や多文化へ対応しているという点です。健康診断は日本語と英語、メンタルヘルス相談は7言語、そして産業医のサービスは日本語、英語、中国語に対応しています。近年、特に日本のIT企業におけるエンジニアを始め、外国人を採用する企業が増加しています。そういった企業様が、弊社のサービスを活用していただいております。弊社のサービスは従業員の離職や休職を防ぐためのサポートとしても有効で、外国人を採用する際のPRポイントとしてもご活用いただいています。
外国人の方が健康診断を受けられる際には、予約から始まり、実際に健康診断を受けるまでにいくつものハードルがあると思っています。
そのような課題を御社のサービスではどのように解決されているのでしょうか?
健康診断のサイトは、日本語と英語の両方に対応しています。健康診断の予約は、人事担当者などがまとめて手続きを行います。予約が完了すると、各従業員に健康診断の日時や医療機関などの情報がメールで送信されます。
この情報は日本語と英語の両方で表示されるため、外国人の従業員も医療機関の詳細や受診項目、オプションの追加などをシステム上で確認・変更することが可能です。
システム上で健康診断関連のやり取りができてしまうのですね!
問診票や健康診断結果なども英語対応されているのでしょうか?
問診票や健康診断結果に関しては、英語に対応している医療機関とそうでない医療機関が存在しますので、すべての医療機関で同じ対応ができるわけではありません。
しかし、基本的に弊社と提携している医療機関の問診票などは、テンプレートを収集し、弊社で翻訳後、企業の従業員様へお渡ししております。
御社が医療機関と企業の従業員さんの橋渡しをされているのですね。
提携されている医療機関はどのような基準で選んでいるのでしょうか?
外国人の方が快適に利用できるような工夫をしている医療機関と提携しております。例えば、外国人向けの健診受診ガイドブックを提供している医療機関もございます。
このように、双方が工夫を重ねてより良いサービスを実現できる医療機関を選び、提携しております。
そのような医療機関はどのようにして探されたのでしょうか?
関東エリアの医療機関を対象にテレアポを行いました。提携を検討する際、その医療機関の内情を知らなければ、提携すべきか判断できないため、インタビューも兼ねて約100カ所の医療機関を訪問しました。
実際に足を運んで探されたのですね!とても大変だったと思います。
ちなみに、提携する産業医の先生はどのように探されたのでしょうか?
現在、直接的に連携している産業医の先生は3人ほどいらっしゃいますが、これらの先生方とは紹介を通じて繋がりました。
他にも、日本調剤グループで産業医を斡旋する事業を展開している企業と協業しており、先方の充実した産業医データベースから、外国語対応が可能な先生を弊社のために手配していただいています。
紹介や産業医斡旋サービスなど、様々なリソースを活用されてここまで仕組みを整えて来られたのですね!
会社設立までのエピソードについて
WELL ROOMを設立した経緯について教えていただけますでしょうか?
私の妻がスペイン人なのですが、周りの外国人の友人も含め、日本で暮らしている中で大変なことが色々ありました。その中でも医療については素人が解決できない問題でもありました。また、企業関連で外国人が関わる内容ということになりますと、健康診断や産業医などがありましたので、この辺りの問題を解決できたら良いのではないかと思って始めたのがきっかけです。
私は三菱地所の社内ベンチャー制度を利用して新しい会社を立ち上げましたが、会社設立自体のハードルはそれほど高くは感じませんでした。むしろ、難しさを感じたのは、なぜ不動産業を主とする三菱地所がヘルスケア事業を行うのかという理由を明確にし、社内の了解を得る点でした。
結果としては、ヘルスケア事業をどのように展開するかという議論の中で、三菱地所として直接ヘルスケア事業を手掛けるよりも、子会社を設立して取り組む方が良いのではないかという提案をし、これが承認されました。子会社としてヘルスケア事業を進めることで、決断スピードも早くなり事業も取り組みやすく、不動産業のイメージも薄くなたるため営業活動も行いやすいと考えました。
そのようにしてWELL ROOMが誕生したのですね。
ちなみに下田さんが社内ベンチャーに取り組まれたきっかけについて教えていただいてもよろしいでしょうか?
そもそも、私が三菱地所に入社した理由は、建物や街など目に見える商材を作り上げていく仕事が面白そうだと思ったこと、中でも三菱地所が丸の内、大手町、有楽町といった日本の中心エリアでコミュニティ形成や空間作りの取り組みに注力していたということが挙げられます。
現在のWELL ROOMに取り組んだ経緯としては、私は長期間同じことを続けるよりも、さまざまなことを積極的に試みる性格のため、社内ベンチャー制度の話を聞いた際、まず挑戦をしてみようと感じて応募しました。加えて、丸の内に関連した健康アプリや、女性向けの健康プログラムなど様々なヘルスケア事業に取り組んでいたことに興味を持っていました。
その背景を受け、WELL ROOMの導入によって、外国人従業員の働きやすい環境を提供し、人々がこの街での就業を希望するような雰囲気を作り上げることができるのではないかと考えました。不動産業とは一見関係なさそうですが、三菱地所が提供するサービスの付加価値として取り組んでみることが面白いと感じました。
WELL ROOMが解決しようとしている社会課題について
御社のサービスが解決しようとされている社会課題について教えていただけますでしょうか?
医療の分野でも、多言語対応が十分ではないのが現状です。国が運営するいくつかのWebサイトでは多言語対応している医療機関を紹介しており、「この医療機関は○○語対応」という情報が掲載されています。しかし、実際に訪問すると、掲載内容と異なり、対応していないことが少なくありません。
外国人に対応できる医療機関や医師自体は一定数存在しますが、外国人患者を受け入れることが診療時間の延長やその他のコストを伴うことから、積極的な受け入れを避けている医療機関も少なくありません。
この問題は、外国人に適切な医療サービスを提供する際の大きな課題として存在しています。
日本の医療機関はそのような状況なのですね。。。
それでは日本で働く外国人の方が快適に医療サービスを受けることができませんよね。
ちなみに「メンタルヘルス」という観点ですと、日本と外国ではどのような認識の差があるのでしょうか?
日本におけるメンタルヘルスへの理解は、まだ十分ではありません。新型コロナウイルスが流行する前には、休職に対するイメージも良くなく、メンタル不調による休暇に対する会社の理解も不足していました。
欧米の多くの国では、メンタル不調で仕事を休むことや、精神科に通うことはそこまで大きな話ではないのですが、日本にはそのような文化が根付いておらず、多くの外国人にとって、生活がしづらく、医療サービスの受診も難しいと感じられることがあると思います。この問題を我々のサービスを通じて解決したいと考えています。
御社のサービスは、基本的にはBtoBのサービスだと思いますが、最初からBtoBのビジネスモデルを想定していたのでしょうか?
当初、私たちはBtoCのビジネスモデルを目指していました。外国人対応ができる保険診療を提供する医療機関を紹介するサービスを計画していたのですが、新型コロナウイルスの流行の影響で外国人観光客の数が大幅に減少。これにより、個人向けのサービスは実現が困難と判断し、企業向けのサービス展開の可能性を探ることにしました。
企業における外国人従業員の健康診断やメンタルヘルス、さらには産業医の対応に関する課題は社会的な問題でありながら、十分に注目されていない領域です。街づくりを通じて多くのビルに様々なテナント企業様がご入居頂いている三菱地所グループがこの問題の解決に取り組むことは大きな意義があると感じました。
現在の事業を作り上げるまでに苦労したことについて
事業を立ち上げる中で苦労したエピソードなどがあれば教えていただけますでしょうか?
WELL ROOMを立ち上げたのは、私が三菱地所に新卒で入社して3年目の時で、社会人経験もあまりないタイミングでした。また、新型コロナウイルスの流行によって完全在宅勤務が始まりました。そのようなタイミングでスタートした新規事業の検討だったので、本当に何をしたら良いのか分からない状況でした。
なかなか大変なスタートだったのですね。
そのような状況をどのように乗り越えられたのでしょうか?
実際に色々な人とお話させていただいたり、ゼロイチ(0から1を生み出す)が得意な先輩も社内に複数人いらっしゃったので、事業の壁打ちをさせていただいたりしました。また、色々な人を紹介していただいたりもしました。このようにたくさんの人の力をお借りして勉強しつつ、新規事業をどんどん作っていくということをやっていきました。
大変な状況でスタートした新規事業の立ち上げですが、周りに力を貸してくれる人がたくさんいらっしゃったのはとても心強かったのではないでしょうか。
先ほども社内の承認を得るのが大変という話が出たかと思いますが、このあたりのお話を詳しく聞かせていただいてもよろしいでしょうか?
やはり、一番苦労したのは社内の承認を得るプロセスでした。三菱地所は不動産のプロ集団なので、経営陣も不動産業のことは良く理解しているのですが、急にメンタルヘルスや健康診断の話をしても深い理解を得ることが難しいというのが正直なところでした。
つまり、三菱地所がヘルスケアの新規事業をやるための材料は「私が何を言うか」に委ねられているような状況でした。とは言っても、過剰なことを言ってしまってもダメなので、そのあたりをどのように説明して納得していただくかが非常に難しかったです。
基本情報から詳しく相手に対して説明することはとても大変ですよね。実際に説明される際には、かなり噛み砕いた形で丁寧に説明されたのでしょうか?
社長も出席する経営会議で提案する際に使用した資料は、40〜50ページの膨大な資料になった記憶があります。最初は「日本に住む外国人の割合は⚪︎⚪︎%で・・・」といったような概況から説明しました。
このような基本情報のインプットから始めて、実際に外国人の方がどのような事に困っているのかという話をした上で、ビジネスモデル、収益性などを説明することで承認を得ていきました。
そのような大変な仕事ご苦労を経て今のWELL ROOMが出来上がったのですね!
お聞かせいただきありがとうございました。
今後のビジョンについて
最後になりますが、今後のビジョンについて教えていただけますでしょうか?
WELL ROOMの事業は、当初BtoCのヘルスケア事業を目指していました。この方向性を実現したいと考えています。現在はBtoBのビジネスモデルを採用していますが、将来的には企業の外国人従業員のご家族もそれ以外の個人の外国人の方も利用できる多言語対応の医療機関案内サービスやメンタルヘルス相談サービスを提供し、誰でも平等に予防医療と保険診療の双方を受けられるサービスを拡充したいと思っています。
また、観光客は日本で医療サービスを利用する際に困ることが多いと思います。一方、そのサービスを提供する医療機関も外国人患者への対応で戸惑うことがあります。
このような問題を解消する橋渡し的なサービスを提供することで、外国人と医療機関双方がwin-winの関係を築けるようにしたいと考えています。
コントリ編集部からひとこと
入社3年目で新規事業の立ち上げから株式会社の設立までを成し遂げた下田社長。どれほどの困難に直面したかは想像に難くないですが、それを感じさせない常に明るい態度で私たちに接してくださったのには心から感謝しています。下田社長の持つ「解決すべき課題」に対する熱意を更に強固なものにし、WELL ROOM株式会社の更なる発展を期待しております。
ギャラリー
下田 拓海 様 プロフィール
一橋大学経済学部を卒業後、2018年に三菱地所株式会社に入社。入社当初は不動産ファンド事業に携わりながら、社内ベンチャー制度を通じて「WELL ROOM」の原型のサービスを提唱し、その提案が採択されました。その成果を受けて、2021年に三菱地所の100%子会社としてWELL ROOM株式会社を立ち上げ、代表取締役として活躍しています。その熱意のもと、同年11月に在留外国人向けヘルスケアサービス「WELL ROOM」を正式にスタートし、その道を切り開き続けています。
【会社概要】WELL ROOM株式会社
設立 | 2021年4月9日 |
資本金 | 1億円 |
所在地 | 東京都千代田区大手町一丁目1番1号 |
従業員数 | 3人 |
事業内容 | 在留外国人対応ヘルスケアポータルサイト「WELL ROOM」の企画・開発・運用 |
URL | オフィシャルサイト |