旬を提案する農家を目指して【株式会社柴海農園】
「スーパーには形や色がキレイな野菜が並んでいるのが当たり前」
そのようなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
みなさんは、旬の野菜を選ぶことを意識していますか?柴海農園では、1年間を通して約60品目野菜を農薬・化学肥料を使わずに栽培しています。旬の野菜のみでなくピクルスやジャムなど、野菜を無駄にしないように加工食品にも力を注いでいます。
今回は、このような有機栽培を15年間続けてきて、美味しい旬の有機野菜をお客様に提供しようと日々成長し続けている株式会社柴海農園の柴海社長にスポットを当てさせていただきました。柴海社長の熱い想いをみなさんにお届けします。
柴海農園の事業について
まずは御社の事業について教えていただけますでしょうか?
柴海農園は旬の野菜を作っている有機栽培農家です。農薬や化学肥料を使わずに、年間を通して約60品目にも及ぶ豊富な種類の野菜を栽培し、旬な野菜を一番おいしく食べられるベストなタイミングでお届けしています。
例えば、葉物が旬な季節には、葉物だけを詰め合わせたサラダセットを作り、お客様にお届けし喜んで頂いています。柴海農園のもう一つの特徴としては、野菜を直接販売しているという所です。
販売先としては、個人だけでなく飲食店などにもお届けしています。
事業を始めたきっかけについて
旬の野菜が食べられるなんて素敵ですね!
有機栽培かつ多くの種類の野菜を作るという農法を聞くと、とても大変な印象なのですが
このようなスタイルになったきっかけは何だったのでしょうか?
有機栽培農家を志したきっかけは、大学で有機栽培を学んだことでした。学ぶのみでなく、実践したいと常に思っていました。
そのために、農家さんに泊まり込みをして実践経験を積み、その中で出てきた疑問を大学に行って解消するという日々を過ごしていました。
大学卒業後は3年間、国立ファームの「農家の台所」というレストランで働き、野菜の仕入れや接客、マネジメントなどを学びました。その後、2009年に千葉県印西市で有機栽培農業を始めたというのがスタートですね。
ご実家が農業をやられていたと伺いましたが、柴海さんが有機栽培農業を始めた時に意識したことがあれば教えていただけますでしょうか?
2009年に有機栽培農業を始めたましたが、これは両親がやっていた農業を継ぐ形ではありませんでした。ただ、売り方は両親の方法を取り入れて、直売という形にしました。
元々、両親がトマト農家をしていて市場に出荷した際に適切な値段が付かなくて苦労しているところをずっと身近で見てきました。
そこで直売をはじめたら、市場に出すと一箱600円だったトマトが直売をすることで一箱3,000円で売れるようになりました。
さらに、その方法でお客様との信頼関係を築けていたので、私が農業を始める時もその売り方を踏襲しようと思いました。
今までで一番感動した出来事について
柴海農園は個人経営の農家ではなく会社として経営されていますが、会社として農業をやるうえで感動したことはありますでしょうか?
農薬を使わない有機栽培は生産が不安定な農業なので日々大変ですが、私のみではなくスタッフと今のように一緒に作り上げていく状態になっていることが感動です。
会社を経営する中で私が思っていることと、スタッフに伝わることにはギャップが発生することもあります。過去にはスタッフとの大きなすれ違いもありましたが、今では信頼できる仲間と一緒に仕事が出来ており、充実感を感じています。
直売場に入った瞬間にとても暖かい雰囲気を感じました。
スタッフとの関りの中で大切にしていることはありますでしょうか?
成果も大切ですが、どちらかというとプロセスがとても大事だと思っています。農業での結果は、やはりすぐには出ません。出来ることを少しずつ増やして、結果的に少し利益が出たというのを積み上げてきました。
それを「どういうメンバーでやっていくのか?」、「どういう日々の関係で作り上げていくか?」という所の方が、実は大事なのかなと思います。1日1日を大切にして、良い1日を過ごしていくと結果もついてきます。
人も野菜も育っていくプロセスが大切なんですね。
一緒に働いている人たちはどんな方ですか?
有機栽培農業を「面白い」と思ってやっている人たちですね!!
みなさん、柴海農園で働いている方々は農業経験者は多いのでしょうか?
農業はマイナーな仕事なので経験者は少なく農業経験がない方もいらっしゃいます。
柴海農園を始めてからの地域の人との関係づくりはどのようにやっていかれたのでしょうか?
有機栽培農業をスタートして最初の5年間ぐらいは、変わり者のように見られていて地元の人からも話しかけられなかったです(笑)
とても明るくて良さそうな若者という感じはするけれど、やっていることがぶっ飛んでるな〜という感じだったのでしょう(笑)
畑も今のように綺麗に管理されていなくて、野菜も見えず草しか見えない状態でした。
周りからは絶対に3年ぐらいで辞めてしまうだろうと思われていたかもしれないですね。でも根性だけはあるので、夜も仕事しているし、イノシシと間違えられたこともありましたね。畑でゴソゴソしていて絶対イノシシだと思っていたら柴海だったということがありました(笑)
個人的には必死でした。徐々に畑も良くなってきて、段々と周りからも認められるようになっていき、今では普通に話しかけてくれるようになりました。
続けていくことが一番の信用ですね。
イノシシと間違われるくらい夜中も一生懸命、野菜のことを考えて行動されていたのですね。
その野菜を育てている畑は柴海農園さんが所有されているものなのでしょうか?
いいえ。弊社が所有している畑ではありません。
今まで畑で農業をしていたけれど、高齢化などで農業が出来なくなった地主さんから土地を借りています。
つまり地主さんの想いがある土地を預かって、綺麗に管理して次の世代に引き渡すことを常に意識しています。
野菜を育てることのみではなく、次へ繋げていくことも意識されているのですね。
多品目で旬の野菜を常に育てている柴海農園さんは、有機栽培農業の中でもとても珍しい農家さんのようですが周りからの反響はいかがですか?
柴海農園は有機栽培農家の中ではチャレンジングな農家です。私が好奇心旺盛な性格であるため、有機栽培では興味関心が向くものがたくさんあります。
「いろいろやってみたい」「知らないことを知りたい」「今までできなかったこと、ちょっとでもできるようになりたい」という思いがとても強いです。
その様子が周りから見ると、とても楽しそうでスタッフも多くいて、経営的にも成り立っていると思っていただいているのでしょう。他の農家さんから、そのような姿を見て頂き「元気をもらえる!」と言って頂いたことがあります。
他の農家さんからすれば弊社は輝いて見えるのでしょうか(笑)
それによって「元気をもらえて、今も続けられてます」という風に言われたのはとても嬉しいです。だからこのままで良いと感じています。好き勝手やっていますが、そのように言ってくださる方が1人でもいてくださるということは本当に嬉しいことです。
今までで一番苦労したエピソードについて
今まで、柴海農園の経営を続けてきた中で一番苦労したことはどういったことでしょうか?
令和元年の台風ですね。これは弊社のみでなく千葉県全体で影響が大きかったです。
令和元年の台風が過ぎ去った後の惨状を見る限り私が生きてきた中で一番強い台風でした。
ハウスが潰されてしまった農家さんも多く、農業を辞める人も出てしまいました。
台風直後は、電気もきていない状態だったので、2週間ぐらい出荷が出来ませんでした。
実際に台風の影響が出るのは、台風を受けた直後のみではなく、野菜が収穫される2~3か月後まで長期的な影響を受けました。弊社は、年間契約している定期便のお客様が多いので、野菜が収穫出来ないと定期便が成り立たなくなってしまうのです。
なんとか乗り越えたのですがいろいろと大変でした。
その時の台風の経験から、今後も同じ規模の台風が来たときの対策はされていますでしょうか?
毎年やっています。具体的には台風が来ても大丈夫なように【作付け計画】というのを作っています。それを少し工夫して、台風のタイミングに当たらないよう計画しています。
作付け計画表というのは、野菜の種をいつ・どのタイミングで蒔いていくかということをスタッフと共有してる表です。
多品目で更に複数回に分けて種を蒔くとなると、とても大変そうですね。
年間で大体400回ぐらい種を蒔いているのが他の農家さんとの大きな違いです。
弊社では野菜の種類によって工程が異なりますが、蒔くときは手作業や機械作業でおこなっています。
とても大変な作業をやられているのですね。
その原動力はやはり【旬の野菜を届ける】ということでしょうか?
そうですね。
お客様が必要な分だけを作り、直販するというのが弊社の事業の軸なのです。
ちなみに、こんなに種類が多いと種のまき忘れもあったりするのでしょうか?
あります、あります(笑)
年に1回しか蒔けないからすごい落ち込みます。。。
コロナ禍で大変だったことはありましたでしょうか?
コロナで緊急事態宣言が初めて発令された時、レストランへの出荷がゼロになり、大量の野菜が余ってしまったことがありました。ただ、その中でも助けてくれる方もいらっしゃいました。
大変な状況もそのような方達のおかげでなんとか乗り越えることが出来ました。
これがきっかけになり、売り上げが大きく伸びました。人の繋がりがとても大切だと痛感しました。本当に人の繋がりは資産なのだと感じました。
現在の事業に対する「想い」「大切にしていること」「やりがい」について
有機栽培農業を続けていく上で「想い」「大切にしていること」「やりがい」はどんなことでしょうか?
個人的には、有機栽培農業は好奇心を満たしてくれるものなので本当に面白いです。私は、この面白い仕事を共有できる仲間を増やしたいと思っています。
この仕事を通して、自分の責任で難しい課題にチャレンジしていく人を増やしたいです。私自身もこれを体現するために頻繁に他の農家さんの見学に行き、その方の考え方などを吸収して自分のフィールドに活かすようなこともやっています。
自分の活動を通してチャレンジングな人が増やせればいいですよね!
柴海さん自身もチャレンジを続けているからこそ、周りにもそのような人が集まってくるのですね。
ちなみに、他の農家さんから柴海農園のやり方について質問されたりすることもあるのでしょうか?
質問を受けることはあります。真剣に質問してくれる相手の目を見れば、大体何を考えてるか分かりますね。大変で必死なんだなって。私もそうでした。何度も何度も質問をしていました。
わからないことに対して周りが見えなくなるくらい。そういう人には、全力で協力して私が知っていることは何でも惜しみなく教えています。
柴海さんは野菜を作るのみでなく、有機栽培農業を広げていく活動もされてるようですが、具体的にはどのようなことをされているのでしょうか?
4年前ぐらいからイノベーション大学で講師業をやっております。
その他には、お世話になった母校でも年に1回講義をしています。強い想いを持って有機栽培農業に取り組みたいと考えている人に選択肢を与えたいという気持ちでやっています。
今後のビジョンについて
常に成長し続けている柴海農園さんの今後のビジョンを教えていただけますでしょうか?
柴海農園の目標は、【旬のある暮らしを分かち合う】です。夏の野菜が冬にも手に入ってしまう現代では、「旬」を感じにくくなっています。だからこそ「旬を提案する農家」がいても良いのではないかと思います。『この時期にこの野菜を必ず食べてください』というように。
そのような【わがままを貫き通す農家】がもっとあっても、いいのではと思います。市場の特徴として旬から逸脱した方が高く売れるという理由がありました。多くの野菜が一年中いつでも手に入れることができる状態になっています。それは、便利になったように感じますが、美味しくない野菜も出回る原因にもなってしまいます。
だからこそ、柴海農園は【旬に立ち返る】という提案を自信を持って出来る農家でありたいですね。
そのような想いを持った有機栽培農家が経営として成り立っている。それだけではなく、有機農業を多品目栽培でやっているといったら「柴海農園だよね」と言っていただけるように頑張っていきたいと思います。
柴海農園さんの「旬が届く定期便」の特徴はどういったところなのでしょうか?
旬の野菜をお届けすることを目的としているので、毎回違う野菜をお届け出来るとは限らないというのが弊社の定期便の特徴です。
前回と違う野菜を届けるために、旬でない野菜を入れることはありません。ですので、2回連続で同じ野菜が届くことがあります。「旬が届く定期便」のコンセプトはお客様にとっては分かりやすいのですが、少しお客さんが慣れるまで時間がかかってしまいます。「さつまいもが2回連続で来たんだけど」みたいな(笑)
そうなると、毎回焼き芋っていうのではさすがに・・・様々な食べ方で食べないといけないので自然と食卓が豊かになっていきます。
コントリ編集部からひとこと
この度はお忙しいところ、株式会社柴海農園の柴海社長にお時間を頂きました。
この日はインタビューの前に、柴海農園の畑を見学させて頂きました。一つひとつ丁寧に説明されている柴海さんからは、野菜に対するとても熱い想いを感じました。
現状に満足するのではなく、みなさんに美味しい旬の野菜を届けるために常に新しいことにチャレンジされている姿がとても印象的でした。
大切に育てられた旬の野菜だからこそ、地元の人にも愛されて続けているのだと感じました。
みなさんも、是非食べてみてください!
ギャラリー
柴海 祐也様 プロフィール
1986年3月7日に千葉県印西市に生まれる。高校を卒業後は東京農業大学に進学し有機農業に出会う。東京農業大学を卒業後は国立ファームの「農家の台所」で、野菜の仕入れや店内の接客業、マネジメントを学ぶ。2009年に実家のある印西市にて、有機農業を始める。好奇心旺盛で気になった農家に見学に行き、日々学びを深めている。
趣味は子どもと釣り。座右の名は「なめてかかって本気でやれ」
【会社概要】株式会社 柴海農園
設立 | 2009年8月 |
所在地 | 〒270-1614 千葉県印西市瀬戸459−1 |
従業員数 | 15人 |
事業内容 | 有機栽培農業 |
URL | http://shibakai-nouen.com/ |