
「課題が大きいほど、やりがいがある」元ITコンサルが旭川で挑む、女子フットサル×地方創生のモデル
「女子フットサルという競技は、まだ発展途上にあります。しかし、この『未整備さ』そのものが地域にとって新しい文化をつくる余白になると感じました」——。
株式会社ヴォルフェ代表取締役の木下瑛博氏の言葉には、14年間のITコンサルタント経験で培われた構造的思考と、スポーツへの深い愛情が込められています。北海道旭川および旭川近郊を拠点に女子フットサルチーム「ヴォルフェ北海道」を運営する木下氏は、なぜ東京でも大阪でもなく、男子ではなく女子を、サッカーではなくフットサルを選んだのか。その選択の裏には、地方×女子スポーツの未来を再設計するビジョンがありました。
元ITコンサルタントが旭川で女子フットサルクラブを立ち上げた理由
木下氏は神奈川県川崎市出身です。Jリーグ開幕世代として小学生の頃からサッカーに打ち込み、大学時代にはプロテストを受けました。しかし、プロへの道は閉ざされました。
「そのとき、この先何をしていこうかなと考えたんです」と木下氏は振り返ります。「スポーツに育ててもらったという思いがあって、スポーツへの恩返しみたいなことができたらいいなと」
ただ、木下氏は冷静でした。「最初からスポーツの仕事をするリスクも感じていました。潰しがきかなくなるんじゃないかって」。そこで木下氏が選んだのは、まずビジネスの基礎を学ぶという道でした。
「ITで自分の武器を見つけられたら、何か価値が提供できるんじゃないかと思って」。2006年、木下氏はアビームコンサルティング株式会社に入社します。ITコンサルタントとして14年間、企業の課題解決に取り組む日々が始まりました。
その間も、スポーツへの思いは消えませんでした。2015年頃にはスポーツマネジメントスクールに通い、本格的にスポーツビジネスを学びます。そして転機が訪れます。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、社内でスポーツ関連の部署を立ち上げることになったのです。
「ぜひ自分がやらせてくれと手を挙げました」。こうして木下氏は社内でスポーツエンターテインメントセクターの立ち上げに関わります。念願だったスポーツビジネスに、ようやく本格的に携わることができたのです。
しかし、木下氏は徐々に、また違った角度からの挑戦を求めるようになりました。「コンサルティングというビジネスを経験する中で、新しい市場をつくることを主な役割とする仕事=いわゆるスタートアップの領域に次第に関心が移っていきました」
2019年、木下氏はスポーツエンタメ関連のスタートアップ企業に転職します。その転職先で運命的な出会いがありました。北海道旭川を拠点とする男子バレーボールチーム「ヴォレアス北海道」です。
「ヴォレアスが地域で展開する世界観に共感したんです。バレーボールにとどまらず、サッカーでもさらにその世界観をひろげることができないかと考えた」。木下氏は出向社員として北海道に移り住み、自らのチームを立ち上げる準備を進めます。2020年から約5年、北海道での挑戦が始まりました。
なぜ「女子フットサル」「旭川」なのか――課題が大きいほど、やりがいがある
木下氏に一つの気づきがありました。イギリスで活動する女子サッカーチームの話を知ったときのことです。
「ふと思ったんです。なんで自分は『男子サッカー』って最初から決めていたんだろうって。改めて考えてみて、自分が心から納得できる明確な理由はなかった。もちろん自分の身近に存在していたもの、世間的にもメジャーなもの、という背景はあれど、仕事として取り組む理由としては十分とは思えませんでした」
木下氏は自分に問いかけました。男子と女子、どちらがより困っているのか。答えは明らかでした。「給料、集客、環境。どう見ても圧倒的に女子の方が大変です。でも、スポーツとしての魅力に差があるとは思えなかった」
ここで木下氏のコンサルタントとしての価値観が顔を出します。「業界を変えたい、ビジネスを良くしたい。そう考えたとき、課題がより複雑で難しい方にこそ、やりがいがあるんです」
次の選択は、サッカーではなくフットサルでした。北海道の冬は厳しい。雪が降り、気温はマイナス30℃まで下がることもあります。女子サッカーは冬もシーズンが続くため、雪国では屋根付きのスタジアムがほぼ必須といえます。
「でも、女子サッカーチームのためだけに旭川にドームやピッチを覆う屋根付きのスタジアムを作るのは現実的じゃない。そう思いました」
木下氏が目をつけたのがフットサルです。室内でプレイするスポーツだから、雪の季節でも問題ありません。「外でサッカーをやってる子たちは、冬になると必ず室内に入ってフットサルをするんです。つまり、厳しい冬こそがこの地域の強みになる。そう考えました」
最後の選択が、場所でした。「東京や大阪など、都市部ではやらないと決めていました」と木下氏は言い切ります。「都市部には都市部の地域課題がありますが、相対的に地方のほうが、スポーツチームを使ってアプローチできる社会課題が多いと直感的に思いました。それに加えて、都市部には既に面白いチームがたくさんある。改めて自分がゼロからチームを立ち上げる必要性は薄いかもしれない、と思いました」
「スポーツチームを本当に必要としているのは地方なんです。応援する対象があって、定期的に人が集まる場ができる。それだけで地域に大きな価値が生まれます」
旭川は北海道第2の都市。人口約32万人を抱える地方都市です。「マイナス30℃近くまで下がる極寒の地に、これだけの人口がいるのは世界的にも珍しいらしいんです。厳しい環境でも都市として頑張っている。ポテンシャルを感じました」

スポーツ・経済・文化の三層構造――ヴォルフェ北海道が目指す地域との関わり方
木下氏が立ち上げたヴォルフェ北海道は、普通のスポーツクラブとは少し違います。
例えば、グッズ販売。ただチームロゴの入ったTシャツを売るのではなく、アーティストとコラボレーションしたアパレルグッズを作っています。
「あるギャラリーの協力のもと、SNSでアーティスト・クリエーターを募集したんです。『こういう趣旨で活動しています。賛同してくれる方、作品を作ってくれませんか』って」と木下氏。すると23作品が集まり、そのうち9作品を商品化しました。
「僕らもアーティストやクリエーターを応援したい。アーティスト・クリエーターもチームの趣旨に賛同してくれる。選手も活動資金になる。みんなが嬉しいんです」
なぜこんなことをするのか。木下氏にはある考えがあります。
「女子フットサルって、まだまだ認知度が低い。選手も集まりにくいし、スポンサーも見つけにくい。でもそれは、スポーツだけで勝負しようとするからなんです」
木下氏が目指すのは、スポーツを越えた関わり方です。「競技を見るのが好きな人、アートが好きな人、地域を盛り上げたい人。いろんな入口を用意すれば、いろんな人が関われる。そうやって関わる人が増えていけば、結果的にチームも続けられるし、選手の環境も良くなる」
「競技だけじゃなく、お金の仕組みも、地域文化としての在り方も、全部一緒に考えていく。この3つがバラバラじゃなく、うまく噛み合うことが大事なんです」
選手集めから資金調達まで――立ち上げ期の苦労と工夫
理想を語る木下氏ですが、現実は厳しいものでした。
最大の課題は、選手が集まらないことです。「課題、何かうまくいってることあるっけっていうくらいで」と木下氏は苦笑します。「選手も集まらない。監督やコーチもいない。何とか今年はリーグ戦に登録できましたが、本当にギリギリでした」
それでも支えてくれる存在がいました。例えば共同代表として並走してくれる仲間。「彼がいなかったら、現時点で、今のような形では着地してなかったと思います」
クラブを続けるには、お金の問題も避けて通れません。木下氏は海外のスポーツビジネス関係者との対話から、重要なことを学びました。
「よく議論になるんです。強いチームを先に作るべきか、先にお金を集めるべきか。でも答えは明確でした。圧倒的に『お金が先』なんです」
どんなに理想を語っても、資金がなければ選手を集められない。施設も借りられない。活動そのものが成り立たないのです。
そこで木下氏は、ある決断をしました。フットサルクラブとは別に、もう一つの事業を立ち上げることにしたのです。
「アビーム時代に培ったITコンサルティングのスキルを活かして、別の会社を作りました。2026年からそちらで人を雇用し、売り上げも作っていきます。もちろん、フットサルの事業もトントンで回せるところまでは必ず漕ぎ着けます」
短期的には苦しくとも、あの手この手でスポンサー頼みではない安定した運営を目指します。「スポンサーだけに頼ると、『今年はいいけど来年は無理』となってしまう。今は対処療法的に自分自身で別の事業でも売上をつくる形にトライしていきますが、理想はスポーツで、スポーツのビジネスを回すこと。クラブが自分で稼ぐ力を持つことが、続いていくために必要です」
スポンサーシップを超えた共創――法人・個人との新しい関係性
木下氏は、スポンサーとの関わり方も工夫しています。
従来のスポンサーシップは、企業がお金を出して、チームがロゴを掲載する。それだけで終わることが多い。でも木下氏は、それでは続かないと考えています。
「お金を入れてもらうからには、ちゃんとリターンがないといけない。向こう側が求めるもの以上の価値を返したいんです」
例えば、IT企業とは試合のデータ分析で協業しています。試合の映像からデータを取り、分析する。IT企業はそのノウハウを自社のビジネスに活かせます。
映像制作会社とは、チームの活動を記録するコンテンツを一緒に作っています。映像会社は作品を作れる。チームは宣伝に使える。お互いにメリットがあります。
「これって、スポンサーシップというより共同事業に近いんです。どうやって一緒に価値を作っていくか。そう考えています」
法人だけでなく、個人からの支援も大切にしています。木下氏が導入したのは「メンバーシップ制度」です。
「ファンクラブという言い方は、ファンとそうじゃない人の線引きをしてしまっているニュアンスがある気がしていて、あまり好きじゃなく。実際中身はファンクラブと何ら変わりないのですが、月々、それぞれが無理のない金額で応援してもらう。その気持ちを形にする仕組みがメンバーシップです」
木下氏が目指すのは、特定のスポンサーに依存しない形です。「『今年は支援できるけど、来年は無理』となったら続かない。法人も個人も、いろんな人と一緒につくっていくチームにしたいんです」

「世界一のフットサルクラブ」というビジョン――その先に見据える地域の未来
2025年11月、木下氏はフィリピンで開かれたFIFA女子フットサルワールドカップを視察しました。そこではいくつかの発見がありました。
「FIFAが『今世界で最も成長しているインドアスポーツ』という表現をフットサルに使っていたんです。伸び率で言うと、確かにフットサルは今すごく伸びてるのかもしれない。まだまだ伸びしろがあるスポーツなんです」
この確信が、木下氏の壮大な目標を支えています。それは「世界一のフットサルクラブになる」こと。
「選手たちにも伝えています。ただ、今は現実的じゃないですよね」と木下氏は率直に言います。選手集めにも苦労している現状で、世界一を目指すのは夢物語に聞こえるかもしれません。
それでも木下氏は言い続けます。「世界一になったときには、今よりも地域が元気になってるんじゃないか。日本が元気になっていたらいいなと思っています」
木下氏が考える道筋は、こうです。
まず短期的には、選手が競技を続けられる環境を作る。給料が払えて、指導者がいて、練習できる場所がある。当たり前のことを、まず整えたい。
次に中期的には、地域にスポーツ文化を根付かせる。試合を見に行く。選手を応援する。そういう習慣が地域に生まれることを目指します。
そして長期的には、北海道から新しいモデルを示したい。「地方でも、マイナー競技でも、こうやれば続けられる。こうやって文化を作ることができる。そのモデルになれたら、それが社会的な価値になると信じています」
スポーツマンの本来の意味――「良き仲間」が集まる場所を作る
木下氏には、大切にしている言葉があります。
「スポーツマンってどういう意味だと思いますか」と木下氏は問いかけてきました。「オックスフォード英英辞書でスポーツマンを引くと、グッドフェローって出てくるんです。『良き仲間』という意味なんです」
つまり、あるべきスポーツマンの姿は「良き仲間」。ルールを守って戦い、競技を全力で愉しみ、試合が終わったら味方、相手、審判と握手をする。そういう人のことを指す言葉です。
「スポーツって本来は「グッドフェロー=良き仲間」を育てるものなんです。少なくとも自分たちが活動する地域では、それを関係者間の共通認識にしていかないといけないと思っています」
この考え方は、木下氏の地域活性化への思いにもつながっています。
「地方がこのままいくと廃れてしまう。そうなったら日本全体の元気がなくなってしまう。そんな危機感を感じています」
地方でビジネスを起こすのは大変です。でも、スポーツというコンテンツなら、木下氏にはノウハウがある。「僕らが現地に活動を作ることで、地域がちょっとだけ明るくなればいいなと思っています」
そして木下氏は、「良き仲間」が集まる場所を作りたいのです。選手たちが地域で尊敬される存在になる。選手として引退した後も地域や外の世界で活躍できる。そんなクラブを目指しています。
もちろん、課題は山積みです。
「競技、経営、文化。この3つをバランスよく進めるのが難しい」と木下氏は率直に語ります。
競技だけ頑張っても、お金がなければ続かない。お金だけ追いかけても、チームが育たない。文化だけ語っても、人がついてこなければ意味がない。
「この3つのスピードをどう揃えるか。どのタイミングで、どこに力を入れるか。それは常に試行錯誤です」
それでも木下氏には、判断の軸があります。短期的な利益ではなく、長期的な価値を考える。関わる人が幸せになるか。未来の選択肢が増えるか。そして、誰かの役に立つか。
「理屈だけじゃなく、感覚も大事にしたい。そう思っています」
コントリからのメッセージ
木下瑛博氏の挑戦は、単なる「地方でスポーツクラブを作った」という物語ではありません。構造的思考を持つ経営者が、スポーツ・経済・文化という三層構造を再設計し、地方に新しい価値を生み出そうとする壮大な実験です。
「課題が大きいほど、やりがいがある」という木下氏の言葉は、多くの経営者にとって示唆に富むものです。誰もが避けたがる困難な領域にこそ、大きな可能性が眠っている。制約条件を強みに変える発想の転換。そして、短期的な最適化ではなく、長期的な存在意義を追求する姿勢。
アビームコンサルティングで14年間培ったビジネススキルは、今、北海道旭川という地で、女子フットサルという競技を通じて、地域の未来を作るための力となっています。
木下氏の取り組みから学べることは多くあります。Win-Winの関係性を設計する力。アートとスポーツを掛け合わせることで関わる人の裾野を広げる発想。そして何より「良き仲間」が集まる場所を作ることで、地域全体を明るくしていくという理念。
木下氏の挑戦は、まだ始まったばかりです。しかし、その理念と戦略、そして何より人間性は、多くの人を惹きつけ、応援したいと思わせる力を持っています。ヴォルフェ北海道の挑戦は、スポーツの未来だけでなく、地方の未来、日本の未来を照らす光となるはずです。
プロフィール

株式会社ヴォルフェ
代表取締役
木下 瑛博(きのした・あきひろ)
神奈川県川崎市出身。2006年にアビームコンサルティング株式会社に入社。2017年にはスポーツエンターテインメント領域の変革を専門とする新たな部署の設立を主導。幅広い業種業態に対応したプロジェクトマネジメントの専門家としてICT領域全般のマネジメント経験を有する。2019年より総合エンターテック(スポーツエンターテインメントxテクノロジー)のスタートアップ、playground株式会社に参画。2020年から2024年1月まで株式会社VOREASに出向。CXディビジョン、マネージャーとしてtoC事業全体を推進。2022年、女子フットサルクラブ、ヴォルフェ北海道を設立。「スポーツの力で、あらゆる人々の可能性を開く」をミッションに、地方×女子スポーツの新しいモデル構築に挑戦している。
ギャラリー











会社概要
| 設立 | 2022年7月17日 |
| 資本金 | 100万円 |
| 所在地 | 北海道上川郡比布町北二線八号 |
| 従業員数 | 2人 |
| 事業内容 | ヴォルフェ北海道の運営 |
| HP | https://woelfe.team/ |
御社の想いも、
このように語りませんか?
経営に対する熱い想いがある
この事業で成し遂げたいことがある
自分の経営哲学を言葉にしたい
そんな経営者の方を、コントリは探しています。
インタビュー・記事制作・公開、すべて無料。
条件は「熱い想い」があることだけです。
経営者インタビューに応募する
御社の「想い」を聞かせてください。
- インタビュー・記事制作・公開すべて無料
- 3営業日以内に審査結果をご連絡
- 売上規模・業種・知名度は不問
※無理な営業は一切いたしません
発信を自社で続けられる
仕組みを作りたい方へ
発信を「外注」から「内製化」へ

