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笑顔の写真しか使わない。カンボジアの子どもたちと歩んだ21年間が教えてくれた「まわり めぐる ハッピー」の経営哲学|認定NPO法人グローブジャングル 代表理事 森 絵美子 氏

「自分をいかにハッピーにさせるか。それが、リーダーとして一番大事な仕事だと思っています」——。

力強くそう言い切る森絵美子さんは、カンボジアの子どもたちの支援活動を21年間続ける認定NPO法人グローブジャングルの代表理事です。孤児院運営、学校建設、奨学金支援、女性自立支援、スタディツアー企画と、活動は多岐にわたります。「悲しい写真と悲しいコピーで支援を集めろ」という先輩のアドバイスを真っ向から無視し、笑顔の写真だけで21年間走り続けた森さん。その哲学の根底には、「ハッピーの連鎖」という揺るぎない信念がありました。組織をどう育て、お金をどう集め、リーダーとしてどう在り続けるのか。ひとりのNPO代表の言葉の中に、中小企業経営者にも深く刺さる経営の本質が宿っていました。

バックパッカーがカンボジアに「惚れすぎた」——21年間の原点

大手スポーツメーカーで6年間営業職を務めた後、森さんは世界35カ国を旅するバックパッカーへと転身します。さまざまな国を巡る中で出会ったカンボジアは、ほかの国とはまったく違う引力を持っていました。気づけば滞在が長引き、帰国の時期をどんどん後ろへずらしていました。

「もうカンボジアが好きすぎて、ここを離れられなくなってしまったんです」と、目を細めながら振り返ります。そのまま現地に腰を据え、日本語ボランティアとして近くの寺子屋に関わり始めたことが、21年という長い旅の出発点でした。

最初の大きな転機は、農村を訪ねたときのことです。水を汲む井戸が1本もなく、子どもたちは遠くまで水を運びに行かなければなりませんでした。近くの小学校を覗けば、雨をしのぐ屋根が半分しかない教室で、子どもたちが授業を受けていました。

「これは何とかしなければ、ではなく、『やろう!』という気持ちがすっと湧いてきたんです。そのわくわくした感覚と、縁があったから動いた——それだけですね」

誰かに頼まれたわけでも、事業として計画したわけでもない。井戸を掘り、屋根を付け、気づけば学校を建てていた。「これをやりたいと思ったらやる。なんか違うと感じたら、その場では動かない。その繰り返しで21年が経っていたので、ずっとわくわくし続けていられたんだと思います」と、軽やかに笑います。

エンタメで子どもを育てる、世界でも珍しい孤児院「くっくま」

現在グローブジャングルが運営支援するカンボジア・プノンペンの「くっくま孤児院」には、23名の子どもたちが共同生活を送っています。片親だったり、貧困で生活が苦しくなった家庭の子だったり、さまざまな事情で親と暮らせない子どもたちです。

この孤児院が世界的にも珍しい存在である理由は、その育て方にあります。勉強だけでなく、伝統舞踊や音楽という「エンタメ」を軸に子どもたちを育てているのです。孤児院の創設者は自身も孤児院出身のカンボジア人の踊りの先生。一緒に子どもたちを育てているのは、日本から駐在している美和お母さん(団体の副代表)。「エンターテインメントで子どもたちを育てる」という信念から始まった取り組みは、驚くほどの効果をもたらしています。

施設に来たばかりの子どもは、まるでこの世が終わったような表情をしています。ところが周囲はみんな笑顔で踊り、日本から来た訪問者に演技を披露して大きな拍手をもらっている。その空気の中に毎日いることで、少しずつ変わっていくのです。

「その繰り返しの中で、子どもたちはだんだんと自信に満ち溢れていくんです」と、森さんは穏やかな口調で話します。

変化は早い。1〜2週間でもう別人のように変わっていくといいます。大人がケアするのではなく、先に孤児院に入ったお兄ちゃん・お姉ちゃんたちが手を引いていく。「かわいそうな子」として扱われ続けると、その役割から抜け出せなくなってしまう——という鋭い観察は、支援の現場で21年過ごした者だからこそ言える言葉です。

自己肯定感を育てる具体的な仕掛けとして、「デビューの日」という制度があります。踊りを一つ覚えると、小さな子も必ずデビューの日を迎えます。全員でサポートし、みんなに見守られながら舞台に立つ。成功体験を積み重ねることで、子どもたちは確実に変わっていきます。

そして、孤児院を訪れた人が必ず驚くエピソードがあります。生まれて初めて誕生日を祝ってもらった子が、ホールケーキを切って自分のお皿に乗せ、その一口目をためらいなくお客さんに差し出すのです。自分が先に食べようとする子は、一人もいないといいます。

「どの子も、一番最初に食べるのは自分じゃないんです。孤児院を始めた最初の頃から、それはずっと変わらない」と、森さんは静かに言います。

満たされた子は、誰かに与えたくなる。この小さな事実の中に、グローブジャングルが21年かけて育ててきた哲学のすべてが凝縮されていました。

「笑顔の写真しか使わない」——逆張りブランディングが21年間を救った

活動を始めた当初、資金集めは苦戦続きでした。50万円をどうしようかという状態で、先輩の支援団体に相談すると、こんなアドバイスが返ってきました。「ガリガリに痩せた、グレーがかった写真でポスターを作って、悲しいキャッチコピーにしたらすぐ集まるよ」と。

確かに効果はあるかもしれない——そう思いながらも、森さんはある直感を信じました。自分が現地で出会ったカンボジアは、そのアドバイスとはまったく違う景色だったからです。

「みんな笑顔で、とにかくカラフルで。暗い写真を使うなんて、私が見てきたものと全然違う、と思ったんです」

「笑顔の写真だけを使う」と決めた。逆張りだとわかりながら。

結果は予想を超えるものでした。集まってきたのは「支援することで自分もハッピーになりたい」という人たちだけ。暗い訴求をしていたら、「本当にちゃんとやっているのか」とチェックされるような、ぎこちない関係になっていたかもしれない——と、森さんは静かに振り返ります。

「『こういう世界を一緒に作っていきましょう』というスタンスを21年間貫き続けた結果、大阪府から認定NPO法人として認めていただけました。本当にありがたかったです」

認定NPO法人は、全NPO法人の約3%しか取得できない称号です。ポジティブブランディングを貫いたことが、組織への信頼となって積み上がっていきました。

あなたの事業は、「かわいそう」を使わずに共感と支援を集められているでしょうか。森さんの選択は、NPOに限らず、あらゆる事業のブランディングに突き刺さる問いを投げかけます。

「素敵なお金しか受け取らない」——コロナ禍を笑いで乗り切ったクラウドファンディング

新型コロナウイルスの感染拡大は、グローブジャングルに壊滅的な打撃を与えました。支援ツアーがまったくできなくなり、「孤児院も解散か」というどん底まで追い詰められたといいます。

そのとき森さんが打ち出したのは、「世界一おもしろいクラウドファンディングをやろう」という発想の転換でした。

リターンのラインナップは前代未聞のものでした。孤児院のお母さんが子どもたちを起こす声を録音して送るボイスメッセージ(5,000円)、「絵美子とボードゲームをやる権」(1万円)。そして圧巻は、「あなただけのためにザ・ベストテンをやります」(20万円)というリターン。「今週の第10位」とアナウンスして、サザンオールスターズが来たら子どもたちが一斉に踊り、郷ひろみが来たら孤児院の男の子が歌う——という企画には、複数の申し込みが入りました。

森さんがこだわったのは、支援する側とされる側が対等であるということです。

「お願いして集めるのではなく、こちらもちゃんと価値を提供する。支援する側とされる側に、上も下もないと思っているんです」

この言葉の背景には、森さんが徹底している「お金のエネルギー」への哲学があります。協力者を得るとき、相手のことをすごく好きになり、こちらのこともすごく好きになってもらう。相思相愛の状態を作ることが大前提です。

「お気持ちのいいお金、素敵な人からのお金だけをお預かりする。それだけは絶対に曲げません」

この覚悟が、21年間の「まわり めぐる ハッピー」の土台を支えています。

渡すのが得意なリーダー——任せることで育つ組織の哲学

活動が広がるにつれ、プロジェクトは6〜7つに増えていきました。孤児院運営、奨学金、学校建設、ミシンプロジェクト、ツアー運営——それぞれに「やりたい」というスタッフが加わってきます。

森さんの方針はシンプルです。「その人がやりたいことをやればいい」。

孤児院の運営は副代表に全面委任しています。奨学金をやりたいという人が入ってきたら、本当にその人がやりたいようにやればいい。ツアーも同様です。

任せた直後は、もどかしく感じる瞬間もあります。進み方が遅かったり、思うような結果が出なかったりすることもある。それでも口を出さずに待ち続けると、いつの間にか自分がやっていたころよりずっといいプロジェクトになっている、と森さんは言います。

「任せた方が、その人もプロジェクトも確実に育つんです。私が引き継いだときより、ずっとしっかりしたものになっていく」

少し照れくさそうに続けます。「渡すのは得意なのかもしれないですね。……でも、まだ自分で抱え込んでいるものも正直たくさんあって(笑)」。現場に入ると「ここにセロテープ貼ればいい?」と下っ端になってしまうプロジェクトもいっぱいあるそうです。

それでも「どれだけ手を離すかが、組織と人の育て方だ」という確信は揺らぎません。責任者として全体を俯瞰しながら声をかけ続ける。その絶妙な距離感こそが、組織を育てる森さん流のリーダーシップです。

リーダーの一番大事な仕事は「自分をハッピーにすること」

森さんの明るさの裏には、重い過去があります。小学4年生のころから、お母様が精神を患い、病院への入退院を繰り返していました。中学3年生のとき、お母様は自ら命を絶ちました。

その経験は、幼い森さんの中に独自の「生き方のマニュアル」を刻みつけていきました。夜に考え事をしてはいけない、小さいことは気にしない、友人をたくさん作る——目の前で見てきたものが、反面教師となって生き方の軸になっていったのです。

「大人って、深く考え込みすぎると壊れてしまうんだ、ということを子どものころから知っていました。だから、考えすぎないで生きることを自分に言い聞かせてきたんだと思います」

お父様は、お母様が亡くなったとき、「もうお前ら好きなことやれ」と言ってくれました。進路も一人旅も、決まったら「そっか、うまくやれ」という人でした。行きたいところへ行け、旅先で出会う人を大事にしろ——その言葉が、カンボジアへの旅を後押しします。

「強くなければ続けられない。でも、人を頼ることなく強くあろうとすると、どこかで折れてしまう。そのバランスを意識しながら生きてきた気がします」

そして今、リーダーとして一番大事な仕事は何かと問われると、森さんは迷わず答えます。自分がハッピーでいることが、そのままチームへの貢献になる——それが21年かけてたどり着いた確信です。

「少し落ちることはあっても、落ち込み続けている時間なんてないんです。前を向くしかないので」

社長が暗いと組織がすぐ暗くなる——それはNPOも中小企業も変わりません。リーダーのエネルギーが組織の体温を決める。森さんの言葉は、すべての経営者への問いかけでもあります。

夢は1,000人の会場で子どもたちと——「まわり めぐる ハッピー」の次のステージ

「今年の大きなビジョンは——」と目を輝かせながら、森さんは語ります。

2026年10月、くっくま孤児院の子どもたちが日本にやってきます。大阪・名古屋・横浜でバンドLIVEと公演を予定。横浜では1,000人規模の会場を押さえているといいます。

「前回のツアーでは2,000人に来ていただけたので、今年も絶対できると思っています。当日どんな空気になるか、もう頭の中に見えているんですよ。演出も全部自分でやりたくて、今からわくわくしています」

力強いのは、この公演の目的です。単に日本に来て楽しんで終わりではない。公演の収益は、カンボジア農村部の子どもたちの学校建設に充てる予定です。くっくま孤児院の子どもたち自身が、目標として一緒に描いているビジョンです。

「自分たちが一生懸命踊って得た収益が、どこかの村の子どもたちの笑顔に変わる。その体験を子どもたちと一緒に作ることが、今回の一番の目標なんです」

かつて「この世の終わり」のような顔で孤児院に来た子どもたちが、今度は誰かの笑顔を作るために舞台に立つ。これこそが、グローブジャングルが21年かけて育ててきた「まわり めぐる ハッピー」の完成形かもしれません。

「今年は、ダンプカーみたいに前だけ見て突き進みます!」

インタビューの最後、そう言って破顔した森さんの笑顔は、取材を通じて一度もくもることがありませんでした。

2026年10月の日本公演「GLOFES2026」の詳細・チケット情報はこちらからご確認いただけます。

コントリより

森絵美子さんのお話を聞きながら、「逆張り」という言葉の本質について深く考えさせられました。グレーのポスターを使わなかったのは、単なる戦術的な判断ではありません。「私が出会ったカンボジアはカラフルすぎる」という、現実を正直に見た者だけが下せる決断でした。

「ハッピーは戦略だ」——そう言い切れる経営者が、どれだけいるでしょうか。21年間、カツカツながらも続いてきたのは、笑顔が笑顔を呼び、支援が支援を呼ぶ、その連鎖を愚直に信じ続けたからです。

NPOであれ、中小企業であれ、事業の核心には「誰と、何のために、どういう姿で」という問いがあります。森さんはその答えを、活動の最初から一度もブラさなかった。それが認定NPO法人という称号となり、21年という時間となり、1,000人の観客を集める公演へと結実しようとしています。

「まわり めぐる ハッピー」は、グローブジャングルだけのモットーではないかもしれません。あなたの事業の中にも、きっとそのサイクルを生み出す種があるはずです。

くっくま孤児院の活動を継続的に支えるマンスリーサポーターも随時募集しています。詳細はグローブジャングル公式サイトをご覧ください。

プロフィール

認定特定非営利活動法人 Globe Jungle(グローブジャングル)
代表理事
森 絵美子(もり えみこ)

千葉県出身。大手スポーツメーカー営業職を経て、世界35カ国をバックパッカーとして旅する。2005年よりカンボジア支援活動を開始し、2016年にNPO法人を設立。カンボジアにおける孤児院運営支援・学校建設・奨学金支援・女性自立支援・スタディツアー運営など、多岐にわたる活動を展開している。座右の銘は「まわり めぐる ハッピー」。

ギャラリー

会社概要

設立2005年11月
所在地大阪府箕面市森町南1-11-44
従業員数8人
事業内容カンボジアにおける孤児院運営支援、奨学金支援(パパママ大作戦)、学校建設、給食支援、大学進学支援、女性自立支援(NATURAL VALUE)、スタディツアー企画・運営
HPhttps://glojun.com/

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