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「視えることは、変えられる。」——「動きのデータ化」で日本の技術伝承を救う、アキュイティー佐藤眞平の挑戦

「昔の人の技術がデータとして残っていたら、今頃もっとすごい技術の進歩があったはず」——。

そう語る佐藤眞平氏の言葉には、10年近くにわたって製造業の現場と向き合ってきた経営者の確信が滲んでいます。アキュイティー株式会社は2015年の創業以来、AI画像処理とモーションキャプチャ技術を組み合わせたセンシングテクノロジーによって、「職人の勘」をデータ化し、技術伝承の課題に真正面から挑んできました。東北大学大学院歯学研究科で修士号を取得した技術者でもある佐藤氏は、なぜ「動きを見えるようにすること」にここまで情熱を注ぐのか。その原点から未来へのビジョンまで、じっくりお話を伺いました。

「視えることは、変えられる」——アキュイティーが解こうとしている問い

「アキュイティー(Acuity Inc.)」。聞き慣れない社名ですが、英語で「鋭い視覚・感覚」を意味する言葉です。社名の由来を尋ねると、佐藤氏は穏やかな口調でこう説明してくれました。「『鋭敏な視覚を社会に実装していく会社にしたい』という想いを、そのまま社名にしました」。

この社名には、実はユニークな誕生秘話があります。創業時、米国のパートナーと社名を考えていた際、まず「検索でなるべく上位に表示されるよう、アルファベット順でAから始まる名前にしたい」という条件が決まりました。そこからふたりで候補を探していたところ、パートナーがひと言。「Acuityって、お前たちらしくていいんじゃないか」——その言葉が決め手になったといいます。佐藤氏は当時を振り返り、「社名占いもやりましたよ。でも10年以上経つといろいろ記憶が薄れてきて」と笑います。それでも、社名に込めた世界観だけは、今も会社の根幹にしっかりと息づいています。

アキュイティーが掲げるコーポレートスローガンは「視えることは、変えられる。」。現在の事業は大きく二つの柱から成っています。一つは製品の変形・変化の計測です。たとえば自動車メーカーでは、サスペンションの素材を変えたときの衝撃吸収の違いや、ボディ溶接の仕方による走行特性の変化を、センサーでデータ化しています。もう一つが、人の動きのデータ化——いわゆる「技術伝承」です。熟練技術者と若手の動きを比較・可視化することで、生産性の向上やスポーツのパフォーマンス改善を実現しています。現在では顧客の9割以上が大手企業というその実績は、決して偶然ではありません。

スポーツ少年が気づいた「データ化の可能性」——事業の原点となった原体験

佐藤氏は1973年、東京生まれ。父はバスケット推薦で生命保険会社に入った堅実なサラリーマン、母は渋谷育ちのお嬢さんという家庭で育ちました。ご両親の出会いについて話が及ぶと、佐藤氏の表情は自然と和らぎます。「父が大学バスケ部のコーチをしていて、母がそのチームのキャプテンだったんです。そのご縁で結婚したという、なかなか面白い組み合わせのふたりですよ」。

幼少期から運動に親しみ、中学では野球部に所属。当時の熱中ぶりを振り返り、「本当に本気で、プロになれると思って練習していました」と笑います。その後アメリカンフットボールにも熱中するなど、スポーツが生活の中心にありました。そうした経験を重ねる中で、佐藤氏はあることが気になり始めます。どのスポーツでも、指導者からよく言われる言葉がありました。「もっとこう動け」「そうじゃない、感覚で覚えろ」——しかし、具体的に何をどう直せばよいのかは、言葉にならないままです。「見えるようにすれば、もっと伝えられるのに」。その思いが、少しずつ積み重なっていきました。

データ化の可能性について、佐藤氏はゴルフを例に挙げてこう話します。「練習場でビデオを撮って、自分のスイングを確認している人ってほとんどいないですよね。コーチに言われた言葉だけを頼りに練習している。でも、自分の動きをデータで見て、うまい人と何が違うのかを確認しながら練習すれば、もっと的確に改善できるはずなんです」。

スポーツでも、ものづくりでも、人の成長は長らく「感覚」と「経験」に委ねられてきました。その可能性をデータの力でさらに広げられると、誰よりも早く確信を持っていたのが、佐藤氏だったのかもしれません。

「職人の技」を次の世代へ——0.1ミリのデータが解き明かす、熟練の本質

アキュイティーの技術が製造業の現場にもたらすものは何か。佐藤氏は溶接の事例を挙げながら説明します。「現場では長年『溶接は90度の角度で行うのが正しい』と教えられてきました。ところが実際にデータを取ってみると、熟練した職人は皆、115度の角度で溶接していた。目で見ているだけでは絶対にわかりません。センサーで数値化して初めて、見えてくることがあるんです」。

さらに印象的なのは、左官職人のデータです。佐藤氏によると、若い職人は壁を塗るとき手先だけで動かしているのに対し、熟練職人は体幹全体をしっかり安定させた状態で、体ごとついていくように動いているといいます。「見えるものは変えられる」——この言葉の重さが、データを通じてはっきりと浮かび上がります。

同社の計測精度は0.1ミリ。画像処理の黎明期には3〜4ミリが限界だった非接触計測を、さまざまな技術的課題を一つひとつ乗り越えることで実現した数値です。技術的な優位性について問うと、佐藤氏は確信を持ってこう答えます。「0.1ミリという精度で、しかも対象に触れずに、3次元の動きを時間の流れとともに記録できる。この三つが揃っているからこそ、使える場面が大きく広がっているんです」。将来的には動的計測で1ミクロンまで絞り込みたいという構想もあり、技術への飽くなき探求心は今も輝きを放っています。

技術伝承という領域に注力するようになったのは、実は自然な流れだったと佐藤氏は振り返ります。「狙って取り組んだというより、モーション計測の仕事をしていたら、お客様から『これ、うちの職人の動きにも使えますか?』と聞かれることが増えてきて。応えていくうちに事例がどんどん積み上がっていった感じです」。ただ、取り組み続けた理由は明確です。スポーツを通じて感じてきた「人の可能性をもっと広げたい」というコンセプトが、技術伝承の課題とぴたりと重なったのです。

自分の可能性を追い求めたキャリア——画像処理ベンチャーとの運命的な出会い

佐藤氏のキャリアは、自らの成長を真剣に追い求める選択の連続でした。最初に入社した会社を10ヶ月、次の会社を2ヶ月で退職。キャリアの話になると、佐藤氏は少し笑いながら言います。「自分、社会不適合者なんですよ」。しかしその言葉の裏には、成長できる環境を一切妥協せずに探し続ける真剣さがありました。

最初の職場は父の紹介で入った三越の子会社の食品会社。外食事業部でレストランマネジメントを担当しました。しかし働くうちに、「この場所では自分は思うように成長できない」という思いが膨らんでいきます。10ヶ月で次のステージへ踏み出した後は、人材派遣の立ち上げに誘われるも、方向性の違いから2ヶ月で別の道を選択。そして出会ったのが、画像処理系のベンチャー企業でした。

転機になったのは、意外にも母親の一言でした。三井物産のグループ会社から内定を得ていた佐藤氏に、母はこう言い放ちます。「あなたの力が一番活きる場所は、そこじゃないはずよ」。その言葉が、画像処理のベンチャーへ向かう背中を押しました。当時を振り返り、佐藤氏は照れくさそうに笑います。「母の先見の明は本当にすごかった。今でも本当に感謝しています」。

このベンチャーでの10年間が、佐藤氏の今の事業の全ての根幹となっています。最初は営業として入社しながら、現場で課題に向き合ううちに独学で技術を習得。試行錯誤を繰り返しながら技術的な知見を積み上げていきました。その成長をこう振り返ります。「気づいたら、技術者に同行してもらわなくても、現場のトラブルを自分ひとりで解決できるようになっていた。そこから技術が本当に楽しくなりましたね。完全に現場叩き上げです」。

また、佐藤氏には35歳頃に東北大学大学院へ進学したという経歴があります。事業を通じて縁のあった東北大学から声をかけてもらったことがきっかけでした。進学を決めた理由を尋ねると、佐藤氏は少しいたずらっぽく笑います。「父が学歴をとても重視する人で、弟が一橋と慶応なんです。これはちょうどいいタイミングだと思って、飛び込みました」。修士号を取得した後、父の自分を見る目がぐっと変わったそうで、「それはそれで、一つ親孝行ができたかなと思っています」と目を細めます。

CEO兼CTOだからこそ見える景色——技術と経営を橋渡しする、稀有な視点

佐藤氏の名刺には「代表取締役CEO兼CTO」と刻まれています。珍しい肩書きについて尋ねると、佐藤氏はこう答えます。「CEOとCTOを兼ねている人が少ない理由は、シンプルに、両方できる人がそもそも少ないからだと思います」。

アキュイティーのセンシング技術は、センサーが取得するデジタル情報に、半導体の特性や温度・気温による影響、さらに幾何学的な計算を組み合わせた複雑なアルゴリズムで成り立っています。佐藤氏はその核心部分について、目を輝かせながら話します。「このアルゴリズムを考えるのが、昔から本当に好きで得意なんです。だから自然とCTOも担うことになりました」。

一方で、両方を担うことの難しさも包み隠さず話してくれます。「CEOって本来、お金の流れや事業の方向性、組織のことに集中しなきゃいけない。でも技術のことも見えてしまうと、つい細かいところが気になって立ち止まったり、逆に『あれもやれる、これもやれる』と広げすぎてしまったりするんですよ。ドラえもんみたいに、ポケットからなんでも出してしまう感じで(笑)」。

だからこそ佐藤氏は、CTOの役割を次世代に渡していく意向を明確に持っています。「できるだけ早くCTOは外れたい。20代から30代前半の、技術一本で勝負している人に担ってもらいたい。うちはAIの会社、テックの会社ですから」と、力強く言い切ります。

現場叩き上げで技術を習得した佐藤氏は、技術者からの信頼も厚かったといいます。現場の問題を自ら整理し、「あとは作るだけ」という状態にして技術者に渡すスタイルが、確かな信頼関係を築いてきました。そのスタイルについて、佐藤氏は少し誇らしそうに笑いながら話します。「どんなに難しいプロジェクトでも、実現できる形まで噛み砕いて持っていく。技術者の立場からすると、やりがいのある仕事が来た、と感じてもらえていたんじゃないかと思います」。

「早く動くことが、最大の準備」——41歳起業家が今だから伝えたいこと

起業を意識したのは20代の頃。それから実際に会社を立ち上げたのが2015年、41歳のときでした。20年近い助走期間を経て、今だからこそ言える言葉があると、佐藤氏は語り始めます。

「結婚に例えるとわかりやすいと思うんですが、『こういう条件が全部揃ったら結婚しよう』と言い続けている人って、なかなか結婚しないですよね。完璧なタイミングなんて、待ち続けても来ない。起業も同じで、『準備が整ったら動こう』と思っていると、準備はいつまでも整わないんです」

20代の頃、佐藤氏は周囲から「まだ早い、もう少し待て」と言われ続けました。その言葉に従い続けた結果を、佐藤氏は苦笑いしながらこう振り返ります。「気づいたら40歳になっていましたね」。

大手SIerへ転職したのは、「大企業の仕組みや社会の常識を知らないまま起業するのは、自分にとってもったいない」という思いからでした。その後の専門商社でも新規事業の立ち上げを経験し、着実に力を蓄えてきました。そのすべての経験が今の自分を作っていると佐藤氏は言います。ただ、振り返ってみると——。

「今の自分の目線で見ると、もっと早く動いていたら、もっと大きなことができていたと思う。たとえ失敗しても、命まで取られるわけじゃない。最初のうちは失うものも少ないですし、若いうちにしか積めない経験があるんです」

これから起業を考えている人に向けて言葉を求めると、佐藤氏は真っすぐな口調で答えました。「悩んでいるということは、心のどこかに『やりたい』という気持ちがあるということです。一度やると決めたら、どんな状況でも人は動けるものですよ。大丈夫、そう簡単には死にません(笑)」。

「ありとあらゆるところに視覚がついている世界」——佐藤眞平が残したい未来への資産

佐藤氏が描く未来は壮大です。「ありとあらゆるところに視覚がついている世界」——その実現に向けて、今この瞬間も全力で走り続けています。

目指す世界について、佐藤氏は言葉を選びながらこう語ります。「今この瞬間にも、世界中のあらゆる人が動いていますよね。その動きをデータとして記録して残すだけで、未来の人が使える資産がどんどん積み上がっていく。技術伝承はもちろん、ダンスでも、スポーツでも、会議中のちょっとした仕草から読み取れる気づきでも——動きがあるところなら、どこでも同じことが言えるんです」。

現在は大企業が顧客の9割以上を占めますが、次のステージとして中小企業やコンシューマー市場への展開を見据えています。日本の企業の99.7%が中小企業である現実に向き合い、より多くの人にこの技術の価値を届けていくことが、これからの大きなテーマです。価格のシンプル化やサポート体制の充実など、取り組むべき課題はすでに明確で、一つひとつ着実に前進しています。

インタビューの最後、少し照れくさそうな表情を見せながら、佐藤氏は言いました。「自分の最後は、元気なままぽっくり逝く『ピンピンコロリ』で締めくくりたいですね(笑)。それと——『あの会社があってよかった』『あそこで働けてよかった』と言ってくれる人が、一人でも多くなるように。それを目指して、これからも続けていきたいと思っています」。

コントリからのメッセージ

「見えるようにすることで、人と産業の成長を加速させる」——佐藤眞平氏との対話を通じて、この言葉の意味が深く心に響きました。 

職人の背中を見て覚える、コーチの言葉を手がかりに動く。そんな「当たり前」の景色をデータの力で豊かにしようと挑み続ける一人の姿が、そこにありました。0.1ミリのデータが解き明かす溶接角度の真実、体幹全体で動く熟練左官の奥義。それらは、「見えること」が持つ無限の可能性を私たちに示してくれます。 

また、「早く動くことが最大の準備」という言葉は、今まさに一歩を踏み出そうとしている方々への力強いエールでもあります。やりたい気持ちがあるなら、今こそ最善のタイミングです。その言葉を、ぜひ胸に刻んでいただければと思います。 

アキュイティー株式会社の挑戦は、日本の製造業だけでなく、スポーツ、医療、教育など、あらゆる「動き」が価値を持つ世界へと広がっていきます。佐藤眞平氏が残そうとしている「未来への資産」が、どんな世界を拓くのか。その歩みを、これからも追い続けたいと思います。

プロフィール

アキュイティー株式会社
代表取締役CEO兼CTO
佐藤 眞平(さとう しんぺい) 

1973年、東京都生まれ。東北大学大学院歯学研究科修了。1997年より画像処理ベンチャーで10年間経験を積んだ後、大手SIerおよびベンチャー企業での新規事業担当責任者を経て、2015年にアキュイティー株式会社を設立。AI画像処理とモーションキャプチャ技術を活用したセンシングソリューションの開発・普及に取り組む。座右の銘は「笑門来福」。趣味はスポーツ全般で、アメリカンフットボールを特技とする。

ギャラリー

会社概要

設立2015年3月
資本金2,000万円
所在地東京都港区港南1丁目2番70号
従業員数30人
事業内容AI画像処理システム製品および光学式モーションキャプチャシステムに関する計測機器、検査機器、情報機器、アクセサリ等の研究、設計、開発、製造、販売
AI画像処理システムおよびモーションキャプチャシステムに関するソフトウェアおよび関連システムの企画、設計、開発、製造、販売および保守
クラウドコンピューティングを利用したシステムインテグレーション事業およびDX化支援事業
各種情報処理サービス業及び情報提供サービス業
上記に関連するコンピューターシステム、ソフトウェア・ハードウェア、計測機器などのレンタル事業
上記に関連するコンサルティング事業
HPhttps://www.acuity-inc.co.jp/
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