“独占しない”が業界を変える―革命的ビジネスモデルの全貌|株式会社弘栄ドリームワークス

「素晴らしいロボットを弊社だけが使ってはいけない」——。

株式会社弘栄ドリームワークス代表取締役会長の船橋吾一氏の言葉には、ビジネスの常識を覆す信念が込められています。配管探査ロボット「配管くん」を開発しながらも、技術を独占せず競合にも提供する。投資回収を後回しにして、業界全体を巻き込む——。

売上40万円の会社が6年で6億円に。グループ全体で180億円を超える企業へと成長しました。建設業界に新たな風を吹かせる、革命的なビジネスモデルの全貌に迫ります。

継続する力と仲間の絆――トライアスロンから学んだ経営哲学

「練習をしていかないと完走ってできないんですよ。それも1日2日ではできなくて、継続して練習し続けなければできない競技なんです」

船橋氏は穏やかな笑顔でトライアスロンについて語ります。特にアイアンマン——3.8キロの遠泳、180キロの自転車、そしてフルマラソンを17時間半以内に完走する過酷な競技——での経験は、彼の経営哲学の根底を成しています。

「もっと言うと、1人では完走できないんですよ」と船橋氏は続けます。「仲間がいて、お互いに支え合う関係があるからこそ完走できる。その大切さを学びました」

印象的なのは、イタリアでの大会でのエピソードです。嵐で大会が2日後に延期になり、次の予定が迫る中、仲間たちと真剣に議論した結果、ある結論に至りました。

「『大会に出るだけが私たちじゃないよね』って。準備の過程とか、現地での交流とか、そういう全体を楽しむのが私たちなんじゃないかって」

こうして大会には出場せず、次の観光地へと向かったといいます。

「帰ってきて妻から『どうだったの?』って聞かれて、『いや、参加してないんだよね』って言ったら、『何しに行ったの?』って」と笑いながら振り返る船橋氏。しかし、その中で得た気づきや価値観、そして経営者仲間との交流から生まれるビジネスアイデアこそが、彼にとっての真の財産だったのです。

「遊びも仕事も、全部繋がっているんですよね」。この「仲間との共創」という哲学が、後の「独占しない」「共有する」ビジネスモデルの根底にあることは間違いありません。

2008年の危機と気づき――「商材を持つこと」の重要性

転機は2008年に訪れました。リーマンショックの影響を受け「『あの会社大丈夫か』みたいな噂が立ちました」と、当時を振り返る船橋氏の表情は険しくなります。

銀行や取引先が何社か離れ、経営が難しい状況となりました。

この危機で船橋氏が気づいたのは、社員が1人も辞めなかったという事実。そして、もう一つの重要な発見がありました。それは、日立時代と家業の工事会社との決定的な違いです。

「日立には『しろくまくん』というエアコンがありました。誰もが知っている製品です。だからお客様に飛び込んでいけるし、『日立を使いたい』と言ってもらえる」

船橋氏は続けます。

「でも工事会社には、そういうブランドが全くないんです。営業に行っても『もう間に合ってます』の一言で終わり。それどころか…」

専門工事業である自社は、お客様に直接アプローチすることが難しい状況なのです。

「この違いに気づいたとき、『何か自分たちの武器を持たないと選ばれない』と思ったんです。それで、『何かを作ろう』と」

2012年、41歳で社長に就任した船橋氏は、社員に2つのことを約束しました。

①「我々が生きる道を作ること」 ②「潰れない会社を作ること」

その答えが、オンリーワンの武器を持つこと——配管探査ロボットの開発だったのです。

配管ロボット開発の真の目的――「お客様へのアプローチ権」を獲得する

「経済学部の人間がロボットを作るって言い出したんですから、役員からは『できるわけないだろ』って言われました」

全役員から反対されたロボット開発への挑戦。大学との連携、外部の技術者への依頼——試行錯誤を重ねました。数億円を投じた開発が実用化に至らないこともありました。

「期待していたものと違って、使い物にならなかった。悔しかったですね。でも結局は自分の判断が甘かったんだと。勉強代だと思って次に進みました」

失敗を繰り返しながらも、船橋氏は歩みを止めませんでした。目的はロボットを作ることではなかったからです。真の狙いは、業界の魅力を創出することでした。

「弘栄という会社のままでは、建設業界の枠組みから抜け出せないんです。業界の枠を飛び越えて新しい事業を進めないと、会社が潰れるかもしれない」

そこで船橋氏が考えた戦略が、別法人の設立でした。

2019年11月、株式会社弘栄ドリームワークスを新会社として立ち上げました。メーカーとしての顔を持つ会社なら、過去のしがらみなくお客様に直接アプローチできる——これが戦略でした。

「毎年、利益の3分の1を投資に回しました。ロボット開発や人材採用に使ったんです」

数億円規模の投資を続けながら、2019年の設立初年度、3月決算での売上はわずか40万円でした。

「だって売るものがないんだから」と笑う船橋氏。

しかし、この40万円からの物語が、やがて業界に革命をもたらすことになります。

革命の核心――「独占しない」という逆転の発想

ここからが、船橋氏のビジネスモデルの真骨頂です。

開発に数億円を投じ、ようやく実用化の目処が立った配管探査ロボット「配管くん」。普通の経営者であれば、この技術を独占し、投資を早期に回収しようと考えるでしょう。

しかし、船橋氏の選択は全く逆でした。

「地方の中小企業が一社だけでやれることは、本当に小さいんです。でも、小さい会社同士が集まれば、何でもできる」

船橋氏は力強い口調で続けます。

「たまたま私は運良くロボットを開発できました。でも、同じことができる会社は少ない。特に下請け構造の中にいる専門工事業者は、こういう挑戦がなかなかできないんです」

「だから、大きな力を生むには数が必要だと考えました。投資の回収は後回しにして、業界全体を巻き込むことを選んだんです」

これまで投じた数億円の回収よりも、業界を変えることを優先する——。

こうして生まれたのが、建設業プラットフォーム「何とかしたいを何とかします!」です。

競合となりうる専門工事業者も含め、40社のパートナー企業を集め、配管くんという技術を共有する。互いに学び合い、共に成長していく——そんな仕組みでした。

「年に1、2回、勉強会を開くんです。上場企業の役員から、従業員10名程度の小さな会社の社長まで、みんなが2次会も3次会も一緒に行って、真剣に語り合う。『どうやって新しい仕事を作っていこうか』ってね」

船橋氏の目には、このコミュニティへの深い愛情が浮かんでいます。

「小さな会社の社長たちにとって、こんな機会は初めてなんです。大企業の役員と膝を交えて語り合い、ビジネスの可能性を一緒に考える。そこで新しい発想に触れて、『自分たちにもできるかもしれない』ってモチベーションが上がっていく」

これこそが、「独占しない」戦略の真髄でした。

技術を独り占めするのではなく、共有する。仲間を増やし、コミュニティを育て、その中から新しい価値を生み出していく——。

ビジネスの常識とは真逆の、しかし業界全体を底上げする革命的な発想でした。

仕組みの進化①――月5万円で中小企業を元請け化する「総合支援サービス」

プラットフォームを立ち上げたものの、船橋氏はすぐに新たな課題に気づきました。

「配管くんを貸し出しても、使いこなせない会社が多かったんです」

配管くんの操作技術、データ分析能力、提案書作成——これらすべてが必要でした。従業員10名以下の小規模な専門工事業者にとって、この一連の作業は大きな負担だったのです。

「やりたい気持ちはあっても、人手も技術も足りない。結局使えないんです」

そこで船橋氏が考案したのが、月額5万円のサブスクリプション型「総合支援サービス」です。

「営業、見積もり、現場調査、提案、そして工事の受注まで。このすべてを月5万円でフルサポートします。私たちが黒子となって支援するので、パートナー企業は元請けとして仕事ができるんです」

この仕組みの革新性は、小規模企業が大企業の力を借りられるという点にあります。

ドリームワークスのグループには建設業、土木業、塗装、電気など多様な専門技術が揃っています。従業員数名の小さな会社でも、この「何でもできる」バックボーンを使えるのです。

「従業員10名の会社が、180億円企業のグループ力を背景に持てる。必要な技術があれば、グループ内の専門会社に任せられる。つまり『何でもできる会社』になれるんです」

実際、この総合支援サービスを利用した企業は、今まで数万円だった受注が数百万円に変わったといいます。

月5万円の投資で、元請けとしての立場を手に入れる——これが、プラットフォームの真価でした。

仕組みの進化②――「こっちから金払えばいい」KDWアカデミーの衝撃

プラットフォームのパートナー企業の一つから、ある相談がありました。

「『社員に施工管理を勉強させたいんです。弘栄さんの現場で修行させてもらえませんか?』って」

船橋氏は快諾し、すぐに受け入れ体制を整えました。しかし、一向に連絡が来ません。

理由を聞くと、こんな返答でした。

「うちの社員は一人ひとりが売上を稼いでいるんです。その社員を勉強に出したら、その間の売上が立たない。でも給料は払わなきゃいけない。だから出せないんです」

人を育てたい。しかし、育成中は売上が立たない。

これは多くの中小企業が抱えるジレンマでした。

「ある朝、ふと思いついたんです。『こっちから給料を払えばいいじゃないか』って」

船橋氏の目が輝きます。この逆転の発想こそが、KDWアカデミーの核心でした。

「1年から3年、企業から人材を預かります。その間、私たちが給料を支払う。預かった人には、うちの現場で実践的に学んでもらう。実際に働いてもらうので、うちにとっても戦力になるんです」

企業から人材を預かり、給料を払いながら育てる。

預かった人材はドリームワークスの現場で実践的な施工管理を学び、預けた企業は売上の心配なく人材を育成できる——三方良しの仕組みでした。

「月30万円として年間360万円。でも育った人材が戻れば、その企業は今までできなかった工事も受注できるようになる。Win-Winなんです」

さらに驚くべきは、これを社内で「人件費」として計上する発想です。

「教育投資ではなく、人件費として扱う。そうすれば社内でも理解されやすいんです。実際、その期間は戦力として働いてもらいますからね」

現場を管理する社員も喜んでいるといいます。

「たとえ3年間の期間限定でも、社員が増えたことに変わりありません。しかも、学びたいという意欲のある人ばかり。今、一人採用するのに50万円以上かかる時代ですから、この仕組みは私たちにとってもメリットが大きいんです」

この施工管理育成プログラムに加え、船橋氏は現在「配管工育成起業プログラム」という更なる挑戦を準備しています。若者に配管工という技術を教え、最終的には起業まで支援するという画期的なプログラムです。

「給料も出します。宿も提供します。自己負担ゼロで手に職をつけて、将来は起業できる。AIに代替されないブルーカラーの仕事に、注目が集まっていますからね」

そして、このプログラムにはもう一つの狙いがあります。

「研修の講師として、パートナー企業の職人さんにも参加してもらうんです。若者と職人が一緒に学ぶ中で、意気投合して『うちに来ないか』となることもあるでしょう。つまり、これは採用の新しい形でもあるんです」

常識を疑い、「できない理由」を「できる方法」に変える——船橋氏の発想力は、業界の人材不足という構造的課題に、次々と新しい解決策を提示しています。

出会いとご縁、そして行動――仕組みを作る経営者の条件

これほどまでに革新的な仕組みを作り上げた船橋氏ですが、「自分は何もできない」と笑顔で語ります。

「工学もロボット工学も物理も、全くわかりません。私はただイメージを伝えるだけ。それを形にしてくれるのは社員なんです」

では、何が船橋氏を突き動かしてきたのか。

その答えは「出会いとご縁、そして行動」にありました。

印象的なのは、株式会社LITA代表の笹木さんとの出会いです。

きらやか銀行の経営者セミナーに遅刻して到着した船橋氏は、「乾杯だけして帰ろう」と思っていたといいます。ところが笹木さんの講演に引き込まれ、懇親会が終わるとすぐに名刺交換に向かいました。

「その週のうちにメールを送って、1週間後には会っていました」

この積極的な行動が、メディア戦略の重要なパートナーとの関係を生みました。

そして驚くべき事実が明らかになります。300人以上が参加した講演会で、講師にその後連絡したのは船橋氏ただ一人だったのです。

「山形あるあるなんですけど、みんな『いや、よかったよかった』って言うだけで、何のアクションもしないんですよ」

300人中1人——この差が、大きな違いを生む。

43歳で山形青年会議所に入会した船橋氏は、その後、一定規模以上の企業の経営者しか入れない会に参加。そこでタリーズコーヒー創業者の松田公太氏、ジャパネットたかた創業者の高田明氏、カプコンの辻本氏といった著名経営者と出会いました。

「彼らは桁違いの規模で挑戦している。でも、挑戦という意味では私も同じだと思ったんです。規模じゃない。『負けたくない』って気持ちが湧いてきました」

船橋氏は顧問契約にも躊躇なく投資します。月数十万円の顧問料は、年間で数百万円になります。

「正直、大変な金額です。でも、そこから次が生まれてくるんです」

新しい出会いを優先し、そこから学びを得て、具体的なビジネスモデルに落とし込んでいく——。

この「人を巻き込む力」こそが、船橋氏のビジネスモデルを実現した原動力でした。

「出会いを繋いでいく。もし上手くいかなくても、ご縁がなかったと割り切ってご挨拶すればいい。でも出会いを大切にしていくことが、成長と継続の力になっているんです」

180億円企業が証明する「仕組みの力」――今後のビジョン

売上40万円からスタートした株式会社弘栄ドリームワークスは、その後、3,800万円、7,900万円、1億5,000万円、3億円、6億円と急成長を遂げました。

6年間で実に1,500倍の成長です。

グループ全体では、船橋氏が社長に就任した2012年頃の40億円から、現在は180億円を超えました。社員も70名から400名弱に増加。会社も2社から13社のグループへと成長しました。

「配管くん」の実績も着実に積み上がっています。発電所での採用、大手ショッピングモール、鉄道会社の全駅を調査するプロジェクト——当初は想像もできなかった規模の案件が舞い込んでいます。

山形県内で売上100億円を超える企業は15社程度、建設業に限れば2社しかありませんでした。そこに3社目として名を連ねたのです。

「もう簡単には揺らがない体制ができました」と船橋氏は笑います。

しかし、船橋氏の視線は単なる売上や規模の拡大には向いていません。

「売上や規模は、会社が継続するための手段でしかありません。本当の目的は、建設業界の常識を変えること。専門工事業に光を当て、地位を向上させること。そして、専門工事業でも自ら生きる道を創造できる——そんな業界にすることです」

配管工育成起業プログラムについても、さらなる構想を語ります。

「これを電気、土木、あらゆる職人の分野に広げていきたい。ブルーカラーの職人を育てる学校を作りたいんです」

「配管くん」は技術として完成し、ビジネスモデルは回り始め、実績も積み上がってきました。

しかし、船橋氏の挑戦はまだ始まったばかりです。

「私たちが、業界を変える流れを作るきっかけになれればと思っています」

建設業界の魅力を創出し、専門工事業が自ら生きる道を創造できる——。

そんな未来を、船橋氏は一つ一つの仕組みを作りながら、着実に実現させています。

コントリからのメッセージ

「独占する」ことで利益を守る——これがビジネスの常識です。しかし、船橋会長が選んだのは真逆の道でした。「共有する」ことで仲間を増やし、業界全体を底上げする。

売上40万円から6億円、グループ全体で180億円という数字が、その正しさを証明しています。

印象的だったのは、船橋会長の「こっちから金払えばいいんじゃないの?」という言葉です。常識では「できない」とされていた課題に対し、発想を逆転させることで新しい解決策を生み出す——この思考法こそが、イノベーションの本質なのではないでしょうか。

そして、もう一つ学ばせていただいたのは「行動する」ことの重要性です。300人の講演会で連絡したのはたった1人。その1人になるかどうかが、大きな差を生む——。

建設業界だけでなく、ピラミッド構造を持つあらゆる業界の経営者の皆様に、船橋会長の「独占しない」という逆転の発想と、その先に広がる可能性を感じていただければ幸いです。

取材を終えて強く感じたのは、船橋会長の「人を巻き込む力」と「業界への深い愛情」でした。トライアスロンで学んだ「仲間との絆」が、今、建設業界に新しい風を吹き込んでいます。

私たちコントリは、こうした経営者の想いとビジョンを、これからも丁寧に伝えてまいります。

プロフィール

株式会社弘栄ドリームワークス
代表取締役会長
船橋 吾一(ふなばし・ごいち)

1971年山形県生まれ。大阪経済大学卒業後、日立冷熱を経て家業の建設設備会社に入社。2012年、41歳で代表取締役に就任し、2019年に株式会社弘栄ドリームワークスを設立。配管探査ロボット「配管くん」の開発と、「独占しない」という革命的なビジネスモデルで建設業界に新風を吹き込む。2024年にはコエルグループ(弘栄ドリームワークスを中核とするグループ企業体)を構築し、グループ全体で売上180億円超、従業員約400名の企業体を築き上げた。趣味はトライアスロンで、アイアンマン完走の経験を持つ。「仲間との絆」を経営の根幹に据え、業界の常識を変える挑戦を続けている。

ギャラリー

会社概要

設立2019年11月
資本金152,625,000円
所在地山形県山形市風間地蔵山下2068
従業員数グループ従業員数:400名
事業内容配管探査ロボット「配管くん」の開発・販売
AI漏水診断システム「音とりくん」の提供
建設業プラットフォーム「何とかしたいを何とかします!」の運営
施工管理教育機関「KDWアカデミー」の運営
HPhttps://koeidreamworks.jp/


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