リスキリング補助金とは|中小企業の人材育成コストを軽くする助成制度

リスキリング補助金とは|中小企業の人材育成コストを軽くする助成制度

「リスキリング補助金を使えば、社員の学び直しにかかる費用を国が支えてくれるのでは」。そう考えて調べ始めた経営者の方は少なくないはずです。

最初に結論をお伝えします。「リスキリング補助金」という名前の単一制度は、実は存在しません。人材開発支援助成金や教育訓練給付など、学び直しを支える複数の制度をまとめてこう呼んでいるのです。つまり、自社の課題に合う制度を見極めて選ぶことが第一歩です。

本記事では、言葉の整理から、中小企業が使える主な制度や個人向けの支援を取り上げます。さらに制度ごとの比較、課題別の選び方、申請の実務注意点までを順に解説する流れです。自社の人材育成投資を一歩前へ進めるヒントになれば嬉しく思います。

リスキリング補助金とは|単一制度ではなく複数支援の総称

リスキリングとは、変化する事業環境に合わせて従業員が新しい知識やスキルを学び直すことです。「リスキリング補助金」という名称の単一制度は存在せず、人材育成を支える複数の助成金や給付の総称として使われています。まずはこの全体像を押さえましょう。

経営者の方への取材を重ねてきたなかで、「リスキリング補助金はどこに申請するのか」という問いをよく耳にします。けれども申請先は一つではありません。制度ごとに窓口も対象も異なるため、最初の理解がずれると遠回りになりがちです。

「リスキリング補助金」と総称される主な支援制度

単一の制度ではなく、申請主体ごとに複数の制度の総称

会社が申請する制度事業主が訓練・正社員化を実施

人材開発支援助成金

従業員の訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成。事業展開等リスキリング支援コースなど複数コース

キャリアアップ助成金

非正規雇用の正社員化や処遇改善を進めた事業主を支援

個人が申請する制度従業員本人が自発的に学び直す

教育訓練給付制度

指定講座を修了した個人が受講費用の一部の支給を受けられる仕組み

リスキリングを通じた
キャリアアップ支援事業

経済産業省の事業。在職者の学び直しを伴走支援とあわせて後押し

最新の対象・要件は各制度の公式ページでご確認ください

リスキリングという言葉の意味と背景

リスキリングとは、いまの仕事や将来の業務に必要な新しいスキルを、計画的に学び直す取り組みを指します。例えば、経理担当の社員がデータ分析を学び、社内のDX推進役へ移っていくような動きです。

似た言葉に「リカレント教育」があります。こちらは働くことと学ぶことを生涯にわたり交互に繰り返す考え方で、学校への学び直しも含みます。一方のリスキリングは、企業の事業戦略に直結した学び直しという色合いが濃いと言えます。

背景には、デジタル化や事業環境の急速な変化があります。これまでの経験だけでは対応が難しい仕事が増え、人材の中身を更新する必要性が高まってきました。だからこそ、国も学び直しを後押しする制度を整えています。

「補助金」「助成金」「給付」の違い

「補助金」「助成金」「給付」は、響きは似ていても性格が異なります。ここを取り違えると、申請のイメージそのものがずれてしまいます。

助成金とは、要件を満たせば原則として受け取れる支援で、人材開発支援助成金などが代表例です。雇用や人材育成の分野は、厚生労働省の助成金が中心です。一方の補助金は、政策目的に沿った取り組みを公募し、審査を経て採択される仕組みが一般的でしょう。予算枠があるため、要件を満たしても採択されないことも起こり得ます。

給付とは、教育訓練給付のように個人が受講費用の一部の支給を受ける制度を指します。申請の主体が会社ではなく個人である点が、助成金との大きな違いです。

「助成金」「補助金」「給付」の違い

助成金
申請主体会社(事業主)
受給のしやすさ要件を満たせば原則受給
代表例人材開発支援助成金/キャリアアップ助成金
補助金
申請主体会社(事業主)
受給のしやすさ公募・審査で採択(予算枠あり)
代表例政策目的に沿った各種公募事業
給付
申請主体個人(本人)
受給のしやすさ要件・指定講座の受講が前提
代表例教育訓練給付制度

申請主体の違いが、手続きの入口を分けるポイントです

国がリスキリングを後押しする理由

国がリスキリングを後押しする理由は、人への投資を成長の原動力と位置づけているからです。働き手が新しいスキルを身につければ、生産性が高まり、より付加価値の高い仕事へ移りやすくなるのです。

中小企業にとっては、採用が難しい時代に、いまいる人材の力を伸ばす意味も大きいでしょう。外から人を採るだけでなく、社内で育てる選択肢を広げる。そうした流れを支えるために、複数の制度が用意されているのです。

ただし、制度の名称や内容は年度ごとに見直されることがあります。検討の際は、最新の要綱や公式ページで内容を確認することをおすすめします。

中小企業が使える主なリスキリング関連の助成金

企業がまず検討したいのは、厚生労働省の人材開発支援助成金とキャリアアップ助成金です。前者は従業員の訓練費用や訓練中の賃金の一部を、後者は非正規雇用の正社員化などを支える制度です。代表的な制度を整理します。

会社として社員の学び直しを支援したい場合、軸になるのはこの2つだと考えています。役割が異なるため、自社の目的に応じて使い分ける視点が欠かせません。

人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コースほか)

人材開発支援助成金とは、職務に関連した訓練を実施した事業主を支える制度です。訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成され、複数のコースが設けられています。

なかでも事業展開等リスキリング支援コースは、新規事業の展開や業態転換などに必要な人材育成を後押しします。厚生労働省の人材開発支援助成金のページによると、訓練経費や賃金の一部を助成する設計です(出典: 厚生労働省 人材開発支援助成金)。

経営者インタビューを続けるなかでも、「新しい事業に挑むため社員に学んでもらいたい」という声は印象に残っています。そうした前向きな投資と、このコースの趣旨はよく重なります。助成額や助成率、上限は年度の要綱で変わるため、最新の公式ページで確認したうえで計画を立ててください。

人材開発支援助成金の主なコースの方向性

同じ助成金でも、コースごとに狙いが異なります

リスキリング支援

新規事業の展開や業態転換などに必要な人材育成を後押し。事業展開等リスキリング支援コースが該当

一般的な訓練支援

職務に関連した知識や技能を体系的に高める計画的な訓練を支援

自発的な学びの支援

従業員の自発的な能力開発を後押しする取り組みを対象とするコースもあります

コース構成・助成内容は年度の要綱で変わるため公式ページで確認を

キャリアアップ助成金との役割の違い

キャリアアップ助成金とは、非正規雇用で働く人の正社員化や処遇改善を進めた事業主を支援する制度です。学び直しそのものより、雇用の安定や待遇の改善に主眼があります。

人材開発支援助成金が「訓練=スキルの獲得」を支えるのに対し、キャリアアップ助成金は「雇用区分や処遇の改善」を支えます。役割が違うため、両者は対立するものではありません。

例えば、有期雇用のスタッフに訓練を受けてもらい、その後に正社員へ転換する。この流れなら、訓練の部分と正社員化の部分で、それぞれ別の制度を活用できる場合もあるのです。自社の人事計画と照らし合わせて組み合わせを考えると、選択肢が広がっていきます。

対象になる訓練・ならない訓練の考え方

助成の対象になるかどうかは、訓練が「職務に関連し、計画的に実施されるものか」という観点で判断されます。思いつきの単発研修や、業務と無関係な学びは対象外になりやすい点に注意が必要です。

対象となりやすいのは、職務上の知識や技能を体系的に高める訓練です。一方で、入社時のごく短い説明だけの研修や、趣味の範囲にとどまる内容は、対象から外れる場合もあるでしょう。

判断に迷う場合は、自己流で進めず、所轄の労働局に事前相談するのが安全です。後述するように、訓練を始める前の手続きが受給の前提になる制度も多いため、早めの確認が遠回りを防ぎます。

個人のリスキリングを後押しする支援制度

従業員個人が自発的に学び直す場合の選択肢を見ていきます。教育訓練給付制度や、経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業が候補です。会社を通さず、個人が申請できる支援がある点が特徴と言えます。

会社の助成金と個人向けの給付は、申請の主体が異なります。両者を切り分けて理解しておくと、社内での案内がぐっと整理しやすくなるはずです。

申請主体から制度を振り分けるフロー

まず「誰を支援したいか」を決める
会社が支援したい
(会社主導の取り組み)

会社が申請する助成金

人材開発支援助成金/キャリアアップ助成金。訓練や正社員化の実績に基づき助成

個人が学びたい
(本人の自発的な学び)

個人が申請する給付・事業

教育訓練給付制度/経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業

入口を取り違えると窓口違いで手続きが滞ります

教育訓練給付制度(一般・特定一般・専門実践)

教育訓練給付制度とは、厚生労働大臣が指定した講座を修了した個人が、受講費用の一部の支給を受けられる制度です。申請するのは会社ではなく、要件を満たす個人本人です。

この制度には講座区分があり、一般教育訓練・特定一般教育訓練・専門実践教育訓練に分かれます。厚生労働省の教育訓練給付制度のページによると、講座区分によって給付率や上限が異なる設計です(出典: 厚生労働省 教育訓練給付制度)。

例えば、より専門性が高く中長期のキャリア形成に資する講座は、専門実践の区分に位置づけられる傾向です。どの講座がどの区分にあたるか、給付率や上限がいくらかは、年度や指定状況で変わってきます。受講前に必ず公式の指定講座検索などで確認してください。

教育訓練給付制度の3つの区分

同じ給付でも、講座区分で性格が異なります

一般教育訓練

想定される講座の方向性

幅広い分野の指定講座。基礎的なスキルアップや資格取得を後押し

特定一般教育訓練

想定される講座の方向性

速やかな再就職やキャリア形成に資する分野の指定講座

専門実践教育訓練

想定される講座の方向性

専門性が高く、中長期のキャリア形成に資する指定講座

給付率・上限は区分や年度で異なります。公式の指定講座検索などで確認を

リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業

経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業とは、在職者の学び直しを伴走支援とあわせて後押しする取り組みです。転職を見据えてスキルを身につける過程を支えます。キャリア相談から学びの提供、転職支援までを一体で支える設計が特徴と言えるでしょう。

この事業は、補助対象となる事業者を通じて利用者を支援する形が取られてきました。個人が直接窓口に行くというより、支援事業者のプログラムを通じて関わるイメージで捉えると分かりやすいでしょう。

ただし、実施年度や募集状況、支援の内容は変わる場合もあるでしょう。利用を検討する際は、経済産業省の公式情報で最新の実施状況を確認してください。

従業員に案内するときの注意点

従業員に個人向けの支援を案内するときは、「会社の助成金とは別物だ」という前提を共有することが大切です。申請の主体が本人になるため、手続きや要件の確認も基本的には本人が行います。

注意したいのは、会社が業務として受講を命じる場合と、本人が自発的に学ぶ場合とで、適した制度が変わる点です。業務命令での訓練なら会社の助成金、本人の自発的な学びなら個人向けの給付、という整理が出発点です。

過度な期待を持たせないことも、信頼を保つうえで欠かせません。「申請すれば誰でも受け取れる」と伝えるのではなく、要件があることを正直に共有しましょう。そのうえで、最新の要綱を一緒に確認する姿勢が、結局は社員の安心へとつながっていきます。

制度ごとの対象者・助成額・申請の流れを比較

似た制度が並ぶため、対象者と申請主体で整理すると選びやすくなります。会社が申請するのか、個人が申請するのか。この一点を軸にすると、頭の中が整理されるはずです。助成額や上限は年度の要綱で変わるため、最新情報の確認を前提に全体像をつかみましょう。

ここでは細かな数値の暗記ではなく、制度を見比べる「軸」をお伝えします。軸さえ持てば、要綱が改定されても応用が利きます。

主な4制度の比較(申請主体・目的・所管・確認先)

制度申請主体主な目的所管確認先
人材開発支援助成金 会社 従業員の訓練経費・賃金の一部を助成 厚生労働省 公式ページ/労働局
キャリアアップ助成金 会社 非正規の正社員化・処遇改善 厚生労働省 公式ページ/労働局
教育訓練給付制度 個人 指定講座の受講費用の一部を支給 厚生労働省 公式ページ/指定講座検索
キャリアアップ支援事業 個人 在職者の学び直しを伴走支援 経済産業省 公式情報/支援事業者

助成額・助成率・上限は年度の要綱で変動します。最新の公式ページで確認してください

申請主体で分ける(会社が申請/個人が申請)

制度を見分ける最もシンプルな軸は、「誰が申請するか」です。会社が申請する制度と、個人が申請する制度は、はっきり分かれます。

会社が申請するのは、人材開発支援助成金やキャリアアップ助成金です。事業主が訓練や正社員化を実施し、その実績に基づいて助成を受けます。一方、個人が申請するのは教育訓練給付で、受講した本人が支給を受けます。

この区別が曖昧なまま動くと、窓口違いで手続きが滞ります。まずは「自社が支援したいのは、会社主導の取り組みか、社員個人の学びか」を決める。そこから逆算すると、見るべき制度が絞り込まれていきます。

助成額・助成率の目安と上限

助成額や助成率、上限は、制度やコース、企業規模によって細かく定められています。そして、これらは年度ごとの交付要綱や実施要領で見直される場合もあるのです。

このため本記事では、あえて具体的な金額や率の断定は控えます。古い数値をうのみにして計画を立てると、想定と実際の支給額がずれてしまう恐れがあるからです。中小企業向けに助成率が手厚く設定される制度もありますが、その水準も固定ではありません。

参照したい情報源は、厚生労働省や経済産業省の公式ページ、そして所轄の労働局です。申請を具体的に検討する段階では、最新の要綱で助成額・率・上限を確かめてから、資金計画に落とし込むようにしてください。

計画届から支給までのおおまかな流れ

会社が申請する助成金の多くは、「計画の事前提出 → 訓練の実施 → 支給申請 → 支給決定」という流れをたどります。順序を守ることが受給の前提です。

特に重要なのが、最初の計画届です。多くのコースでは、訓練を始める前に職業訓練計画などの提出が求められます。これを欠くと助成の対象外になります(出典: 厚生労働省 人材開発支援助成金)。「訓練が終わってから申請すればよい」という思い込みは禁物です。

訓練の実施中は、出勤や訓練の記録を整えておく必要があります。そして訓練後の支給申請を経て、審査のうえで支給が決まります。各段階に期限があるため、スケジュール管理が成否を分けると言っても過言ではありません。

会社が申請する助成金の標準的な流れ

1

計画届の事前提出

訓練開始前に提出

ここが急所
2

訓練の実施

計画に沿って実施

3

記録の整備

出勤・訓練記録を整える

4

支給申請

訓練後に申請

5

支給決定

審査を経て決定

多くのコースで訓練開始前の計画届提出が受給の前提。順序を守ることが大切です

自社の課題別・リスキリング支援の選び方

制度の知識だけでは、自社に合う支援は選べません。新規事業に挑むのか、DXを進めるのか、若手の定着を図るのか。経営課題ごとに、相性の良い制度は変わります。ここでは課題起点での選び方を示します。

取材現場で繰り返し伺ってきたのは、「制度から入ると迷う」という声でした。だからこそ、まず自社の課題を一つに定め、そこから制度を引き寄せる順番をおすすめしています。

新規事業・業態転換に挑むなら

新規事業や業態転換に挑むなら、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースが軸の候補です。新しい分野に必要なスキルを、計画的に社内へ取り込む取り組みと相性が良いからです。

例えば、製造中心だった会社が、自社製品のネット販売に乗り出すとします。このとき、ECやデジタルマーケティングの訓練を社員に実施する。その学び直しが、新事業を回す力に直結していきます。

ポイントは、訓練を事業計画とひもづけて設計することです。「何のために、誰が、何を学ぶのか」を事業の文脈で語れると、計画届の説得力も増します。新しい挑戦への投資。それを制度が後押ししてくれる場面です。

DX・デジタル人材を育てたいなら

DXを進め、社内にデジタル人材を育てたいなら、会社主導の訓練支援と、個人の自発的な学びの両輪で考えるのが現実的です。会社の研修だけでは、変化の速いデジタル分野は追いきれないこともあります。

会社としては、人材開発支援助成金を使って体系的な訓練を組む。あわせて、意欲のある社員には教育訓練給付の活用を案内し、個人の学びを後押しする。この組み合わせなら、組織と個人の双方からスキルを底上げできます。

大切なのは、学んだスキルを発揮できる場を社内に用意することです。学びっぱなしで終わらせず、実務で試す機会を設ける。そこまで設計して初めて、投資が成果へと結びついていきます。

課題別・リスキリング支援の選び方マップ

会社主導 ← → 個人の自発
会社主導 × 中長期

新規事業・業態転換

人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースを軸に検討

個人の自発 × 中長期

専門性の強化

教育訓練給付(専門実践など)で本人の中長期の学びを後押し

会社主導 × 短期

若手の定着・正社員化

キャリアアップ助成金で正社員転換や処遇改善を進める

両輪 × 中長期

DX・デジタル人材育成

会社の訓練支援と個人の教育訓練給付を両輪で活用

短期で成果中長期で育成

自社の課題を一つに定め、そこから相性の良い制度を引き寄せましょう

若手の定着・正社員化を進めたいなら

若手の定着や正社員化を進めたいなら、キャリアアップ助成金が中心の選択肢です。非正規で働く若手の正社員転換や処遇改善を後押しする制度だからです。

例えば、有期雇用で入社した若手に、まず職務に必要な訓練を受けてもらう。その後、本人の意欲と適性を見て正社員へ転換していく。この流れなら、訓練と正社員化の双方で制度を活かせる場合もあるでしょう。

定着の鍵は、制度の利用そのものより、その先のキャリアが見えることです。学び直しと処遇改善がセットで示されれば、若手は「ここで成長できる」と感じやすくなります。制度は、その物語を支える道具として使いたいところです。

申請でつまずかないための実務ポイントと注意点

リスキリング関連の助成金は、訓練の前に計画届の提出が必要なものが多く、手順を誤ると受給できません。手続きの順序こそが、受給の成否を分ける急所です。中小企業が実際につまずきやすい点を、先回りで押さえておきましょう。

良い訓練を実施しても、手続きの一歩を踏み外すと助成にたどり着けないこともあるのです。だからこそ、計画段階での確認が何より効いてきます。

訓練開始前に計画届を出す必要がある制度に注意

最も多いつまずきは、計画届を出す前に訓練を始めてしまうことです。多くのコースでは、訓練開始前の計画届提出が受給の前提となり、これを欠くと対象外です。

例えば「良い研修が見つかったのですぐ受講させた」というケースを考えます。事前提出の要件を満たせず、後から申請しても認められないケースが出てきます。スピード感は経営の強みですが、助成金に関しては手順が先です。

対策はシンプルです。訓練の実施を決める前に、まず対象制度と提出期限を確認する。この一手間が、せっかくの投資をムダにしないための保険です。

就業規則・賃金台帳など書類の整え方

助成金の申請では、就業規則や賃金台帳、出勤簿といった労務関係の書類が求められます。日頃の労務管理が整っていないと、申請段階で書類の不備に悩む事態を招きます。

例えば、訓練中の賃金を助成対象とする場合、賃金の支払い実績を賃金台帳などで示す必要があります。就業規則が実態と合っていない、台帳の記録が曖昧、といった状態だと、確認に時間がかかってしまいます。

ふだんから労務書類を最新の状態に保っておくこと。これが、いざ申請するときの土台です。書類の整備は地味ですが、助成金活用の体力そのものだと捉えています。

労働局やキャリアコンサルタントへ早めに相談する

判断に迷ったら、所轄の労働局やキャリアコンサルタントへ早めに相談することをおすすめします。制度は細かく、年度ごとの改定もあるため、独力ですべてを把握するのは負担が大きいからです。

労働局では、対象コースや手続きの順序について確認できます。個人の学び直しに関しては、キャリアコンサルタントへの相談が役立つ場面もあります。早い段階で相談すれば、計画届の提出時期を逃すリスクも下げられます。

「相談してから動く」。当たり前のようでいて、これが遠回りを防ぐ近道です。コントリ編集部としても、経営の意思決定を支える情報については、公式の窓口で最新の内容を確かめる姿勢を大切にしています。なお、人材戦略の考え方はコントリのコラムでも継続して取り上げています。あわせて、中小企業の人材育成に関する記事経営課題の整理に役立つ記事もご参照ください。

よくある質問

最後に、経営者の方からよく寄せられる疑問にお答えします。制度選びの最終確認にお役立てください。

「リスキリング補助金」という名前の制度はありますか?

その名称の単一制度はありません。人材開発支援助成金やキャリアアップ助成金、教育訓練給付制度、経済産業省の支援事業など、学び直しを支える複数の制度をまとめて指す言葉です。まずは自社の課題に合う制度を見極めることが出発点です。

中小企業がまず検討すべき制度はどれですか?

従業員の訓練費用を会社として助成してほしい場合は、人材開発支援助成金が中心的な選択肢です。あわせて、非正規から正社員への転換や処遇改善を進めるなら、キャリアアップ助成金が候補です。自社の課題に応じて、組み合わせを検討してください。

従業員が個人で使える支援はありますか?

あります。教育訓練給付制度は、要件を満たす個人が指定講座を受講した費用の一部の支給を受けられる仕組みです。会社の助成金とは申請主体が異なるため、従業員への案内と社内での助成金活用は、分けて考えると整理しやすいはずです。

助成額や上限はどこで確認すればよいですか?

助成額・助成率・上限は、年度ごとの交付要綱や実施要領で見直される場合もあるのです。厚生労働省や経済産業省の公式ページ、所轄の労働局で最新の要件を確認したうえで、申請計画を立てることをおすすめします。古い数値のままで計画を組まないよう注意してください。

申請すれば必ず受給できますか?

要件を満たしていても、計画届の事前提出や予算の状況といった条件があり、手順を誤ると受給に至らないケースも出てきます。特に、訓練を始める前の計画届提出など、制度ごとの順序を守ることが受給の前提です。早めに労働局へ相談しておくと安心です。

制度の内容はどのくらいの頻度で変わりますか?

コースの新設や統合、助成率の見直しなどは、年度の切り替わりを中心に行われる傾向です。前年の情報がそのまま使えるとは限りません。検討のたびに、公式の最新要綱を確認する習慣をおすすめします。

人材への投資は、すぐに数字で跳ね返るものばかりではありません。それでも、社員の学び直しを支える経営者の方の姿には、会社の未来を本気で考える熱意がにじんでいます。経営者インタビューを重ねるなかで、私たちは何度もその想いに触れてきました。

制度はあくまで道具です。大切なのは、「誰に、何を学んでもらい、どんな会社をつくりたいのか」という問い。その答えがあれば、複雑に見える制度も、自社に合う形で選び取れるはずです。最新の要綱を確認しながら、確かな一歩を踏み出していただけたらと思います。

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飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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