
外国人雇用で活用できる助成金|中小企業が押さえる申請要件と受給の流れ
「外国人を採用したいが、助成金が使えるのか分からない」「制度の名前が多すぎて、自社が対象なのか判断できない」。外国人材の活用を考える中小企業の経営者なら、一度はこうした壁にぶつかるのではないでしょうか。
先に答えをお伝えします。「外国人を雇えば一律にもらえる助成金」は基本的に存在しません。実際に使えるのは、正社員化・処遇改善・教育訓練といった取り組みに対して支給される雇用関係助成金を、外国人従業員にも適用する形です。代表的なのはキャリアアップ助成金・人材確保等支援助成金・人材開発支援助成金の3制度。いずれも雇用保険料を原資とし、要件を満たせば原則返済不要のお金が受け取れます。
本記事では、助成金を使える理由と全体像から始めます。主な制度・外国人ならではの申請要件・受給までの流れ・受給率を高める実務ポイントまでを順に整理。制度の名前に振り回されず、自社が取りにいける助成金を見極める一助になれば嬉しく思います。
外国人雇用で助成金を活用できる理由と全体像
外国人を雇用する中小企業は、要件を満たせば返済不要の助成金を受け取れます。原資は事業主が納める雇用保険料で、目的は雇用の安定と人材育成に置かれています。まずは制度の輪郭と、申請できる企業の前提条件から押さえましょう。
ここで大切なのは、助成金は「外国人だから」もらえるのではないという視点です。正社員化や教育訓練など、企業が従業員のために行う取り組みを国が後押しする仕組み。その対象に外国人従業員も含まれる、という構造で捉えると整理しやすくなるはずです。
私自身、外国人スタッフの採用を進める経営者から「補助金と助成金は何が違うのか」と尋ねられた経験があります。一緒に制度を一つずつ確認しながら、言葉の定義を揃えるだけで申請のハードルがぐっと下がる様子を目の当たりにしました。
助成金と補助金の違い(返済不要・雇用保険が原資)
助成金とは、要件を満たせば原則受給できる返済不要のお金のことです。雇用関係助成金の多くは厚生労働省が所管し、原資は事業主が納める雇用保険料。一方の補助金は経済産業省などが所管し、予算枠や審査による採択が前提という違いがあります。
つまり助成金は「条件を満たして手続きを踏めば受け取れる」性格が強く、補助金は「申請しても採択されないことがある」性格を持ちます。外国人雇用で先に押さえたいのは、要件が明確な雇用関係助成金のほう。両者の判断軸は補助金と助成金の違いで詳しく整理しています。
外国人雇用でも対象になる助成金の考え方
外国人従業員も、雇用保険の被保険者であれば多くの助成金の対象に含まれます。国籍を理由に対象から外す制度は基本的にありません。判断の軸になるのは「どんな取り組みをするか」であり、「誰を雇うか」ではない点を押さえておきましょう。
たとえば有期雇用の外国人スタッフを正社員に転換すればキャリアアップ助成金の射程に入りますし、計画的な研修を実施すれば人材開発支援助成金の検討対象として浮上します。取り組みの中身から逆算して使える制度を探すのが、外国人雇用における助成金活用の基本姿勢です。
申請の前提となる事業主の要件
助成金の申請には、事業主側の前提要件が存在します。代表的なのは、雇用保険の適用事業所であること、労働関係法令を順守していること、支給審査に必要な書類を整備・保存していることの3点。ここが崩れていると、取り組み自体が良くても支給されません。
特に見落とされやすいのが、労働保険料の納付状況や、過去の不正受給の有無です。これらに問題があると申請の入口で弾かれてしまいます。自社が土俵に上がれているか、まず足元の確認から始めるのが賢明です。
外国人雇用で使える主な助成金制度
外国人雇用で実際に活用しやすいのは、汎用的な雇用関係助成金です。専用制度は多くありませんが、雇用形態の改善や育成を通じて使える制度が複数そろっています。ここでは代表的な4制度を、対象と支給額の目安とともに見ていきましょう。
外国人雇用に直結する制度として押さえたいのは、雇用形態を改善するキャリアアップ助成金、定着を支える人材確保等支援助成金、育成を支える人材開発支援助成金の3本柱です。これに就職困難者向けの特定求職者雇用開発助成金を加えた4制度を理解しておくと、自社の取り組みに応じて使い分けられます。
金額は年度の制度改正で変わるため、申請時は厚生労働省の雇用関係助成金ポータルで最新の支給要領を必ず確認してください。本章の数字はあくまで目安として捉えていただければと思います。
| 制度名 | 主な対象の取り組み | 支給額の目安(中小企業) |
|---|---|---|
| キャリアアップ助成金 | 有期から正社員への転換 | 1人あたり57万円程度 |
| 人材確保等支援助成金 | 職場環境改善・定着促進 | コース別の定額 |
| 人材開発支援助成金 | 計画的な教育訓練 | 訓練経費と賃金の一部 |
| 特定求職者雇用開発助成金 | 就職困難者の継続雇用 | 対象者別の定額 |
キャリアアップ助成金(正社員化・処遇改善)
キャリアアップ助成金とは、有期雇用などの非正規労働者を正社員化したり、処遇を改善したりする企業を支援する制度です。外国人雇用で最も使いやすい助成金の一つ。正社員化コースでは、有期から正社員への転換で中小企業は1人あたり57万円程度が支給されます。
外国人スタッフを当初は有期で採用し、定着を見極めたうえで正社員へ転換する企業は少なくありません。その自然な流れがそのまま助成の対象になるわけです。制度の全体像はキャリアアップ助成金とはで詳しく解説しています。詳細な支給額は厚生労働省のキャリアアップ助成金のページをご確認ください。
人材確保等支援助成金(定着・職場環境)
人材確保等支援助成金とは、雇用管理の改善や職場環境の整備を通じて、従業員の定着を促す企業を支援する制度です。外国人材が長く働き続けられる環境づくりと相性が良い助成金。労働時間の見直しや評価制度の導入など、定着につながる取り組みが対象に含まれます。
外国人雇用では、言語や生活面の不安から早期離職が起こりやすいのが実情です。だからこそ、定着のための投資を後押しするこの制度は、現場の課題と噛み合いやすいといえます。
人材開発支援助成金(教育訓練)
人材開発支援助成金とは、従業員に計画的な教育訓練を実施する企業に対し、訓練経費や訓練中の賃金の一部を助成する制度です。外国人スタッフのスキル習得や日本語を含む業務研修にも活用しやすい設計。育成にかかるコストの負担を軽くしてくれます。
採用した外国人材を「即戦力として放置する」のではなく、計画的に育てる方針へ切り替えると、助成の対象になりながら戦力化も進みます。育成と助成を両立させる発想が、ここでは効いてきます。
特定求職者雇用開発助成金との関係
特定求職者雇用開発助成金とは、就職が特に困難な人をハローワーク等の紹介で継続雇用する企業を助成する制度です。外国人であること自体は対象要件ではありませんが、対象者の条件に当てはまる場合には併せて検討する余地があります。
混同しやすいのは「外国人だから対象になる」という誤解です。あくまで対象者ごとの要件で判断される制度。自社の採用が要件に合致するかどうかを、個別に確認する姿勢が欠かせません。
外国人雇用ならではの申請要件と注意点
外国人雇用では、在留資格と労働関係法令の順守が助成金審査の大前提です。一般の助成金にはない確認事項があり、ここでつまずくと取り組みが良くても不支給になりかねません。外国人ならではのチェックポイントを押さえましょう。
最大の違いは、在留資格の範囲内で就労しているかという確認が入る点です。働き方が在留資格と合っていなければ、雇用そのものが適法と認められません。助成金以前の土台として、ここを固める必要があります。
在留資格と就労可否の確認
外国人を雇用する際は、在留カードで在留資格と就労の可否を必ず確認します。在留資格とは、外国人が日本で活動できる範囲を定めた法的な区分のことです。資格ごとに就ける仕事や労働時間の上限が異なり、範囲を超えた就労は不法就労にあたります。
助成金の審査では、適法な雇用であることが前提です。在留資格の確認を怠ったまま申請すると、雇用の適法性そのものが問われかねません。採用時点での在留カード確認と、有効期限の管理を仕組みにしておくと安心です。
労働条件通知書・雇用契約の整備
外国人雇用では、労働条件を書面で明確に示すことがとりわけ大切です。労働条件通知書や雇用契約書で、賃金・労働時間・業務内容を曖昧さなく伝えます。母語での補足説明を添える企業も増えてきました。
助成金の審査では、これらの書類が整っているかが確認されます。口頭の約束だけでは、取り組みの実態を証明できません。書面の整備は、トラブル防止と助成金審査の両方を支える土台です。
外国人雇用状況届出など法定手続き
事業主には、外国人を雇い入れたときと離職したときに、ハローワークへ外国人雇用状況届出を行う義務があります。これは労働施策総合推進法に基づく手続きで、届出を怠ると30万円以下の罰則の対象となります。詳細は厚生労働省の外国人雇用状況の届出で確認できます。
法定手続きの不備は、助成金審査でも企業の順法性を疑わせる要素となりがちです。届出を含む基本的な手続きを確実に踏むことが、結果的に助成金を取りにいける状態を作ります。地味ですが、避けては通れない一歩です。
助成金の受給までの流れと必要書類
雇用関係助成金は「計画提出→取り組みの実施→支給申請」という順番で進みます。多くは取り組みを始める前に計画届の提出が必要で、後から遡って申請することはできません。全体の流れと書類を先に把握しておきましょう。
ここでの最重要ポイントは、動き出す前に計画を出すという順序です。採用や正社員化を実施してから「助成金を申請しよう」と思っても、計画届の段階を踏んでいなければ対象外へと外れてしまいます。順番を逆にしないことが受給の分かれ目です。
計画届の提出(取り組み前が原則)
多くの雇用関係助成金では、取り組みを始める前に計画届を提出します。計画届とは、どの従業員にどんな取り組みを行うかを事前に届け出る書類のことです。正社員化や教育訓練を実施する前に、計画として労働局へ示す段取りが欠かせません。
この事前提出を知らずに採用や転換を先に進めてしまい、申請できなくなる失敗は本当に多く見かけます。「先に計画、後に実行」を合言葉にするだけで、取りこぼしを大きく減らせます。
取り組みの実施と記録の保存
計画に沿って取り組みを実施したら、その事実を裏づける記録を保存します。出勤簿・賃金台帳・雇用契約書・研修記録など、取り組みの実態を示す書類が審査の根拠です。書類が揃わないと、実施したこと自体を証明できません。
外国人雇用では、在留資格に関する書類も併せて整えておくと審査がスムーズに進みます。日々の労務管理がそのまま助成金の証拠資料になるという意識を持つと、書類整備の優先順位が自然と前に出ます。
支給申請と審査・入金までの期間
取り組みの実施後、定められた期間内に支給申請を行います。労働局の審査を経て、要件を満たしていると認められれば助成金が入金されます。申請から入金までは数か月かかるのが一般的で、即日で資金化できるものではありません。
そのため、助成金を当てにした資金繰りには注意が必要です。入金時期を保守的に見積もり、受給を前提にしすぎない計画にしておくのが安全です。資金管理の基本は資金繰りとはも参考になります。
中小企業が受給率を高める実務ポイント
助成金は「知っていれば取れた」で終わるケースが少なくありません。限られた人手の中小企業が、確実に受給へたどり着くための現場目線の工夫をまとめます。制度を知るだけでなく、取りにいく体制を整えることが鍵です。
結論として、受給率を左右するのは書類が整っているかと相談先を持っているかの2点に集約されます。特別な裏技があるわけではありません。地道な土台づくりこそが、結果的に受給への最短ルートです。
就業規則と賃金台帳を先に整える
助成金の審査では、就業規則と賃金台帳が繰り返し参照されます。就業規則は労働条件のルールを定めた社内規程、賃金台帳は従業員ごとの賃金支払いを記録した帳簿のことです。これらが未整備だと、取り組みの正当性を示せず審査で止まってしまいます。
特に正社員化を伴う制度では、就業規則に正社員と有期雇用の区分や転換規定が明記されているかが問われます。外国人雇用に取り組む前に、まず社内規程の足場を固めておきましょう。就業規則の基本は就業規則とはで整理しています。
社会保険労務士・支援機関を活用する
助成金の要件確認や書類整備は、自社だけで抱えると負担が重くなりがちです。社会保険労務士は、労働・社会保険の手続きや助成金申請を専門に扱う国家資格者。制度に精通した専門家に相談すると、対象制度の見極めから書類整備までを効率よく進められます。
地域の商工会議所やよろず支援拠点など、無料で相談できる支援機関も活用できます。「どの制度が自社に合うのか分からない」段階こそ、外部の知見を借りる場面。一人で抱え込まないことが、受給率を高める近道です。
私自身、外国人雇用を始めたばかりの経営者から「社労士に頼む費用がもったいない」と相談を受けたことがあります。一緒に試算してみると、専門家への報酬を差し引いても受給額のほうが大きく上回るケースでした。費用を惜しんで申請を見送るより、頼って確実に取りにいくほうが得策だと、数字を前にして納得していただけた場面が印象に残っています。
複数年・複数制度を見据えた採用計画
助成金は単発で捉えるより、複数年・複数制度の視点で設計すると効果が大きく育ちます。採用した外国人材を、初年度は定着支援、次年度は正社員化、その後は教育訓練といった形で育てれば、段階ごとに異なる助成金を活用できます。
つまり助成金を採用計画に織り込むことで、人材育成とコスト軽減を同時に進められます。場当たり的な申請ではなく、人材戦略の一部として制度を組み込む発想こそ、中小企業が継続的に受給を重ねるための土台です。
よくある質問
Q. 外国人を雇うこと自体で受け取れる助成金はありますか。
「外国人を雇用したら一律にもらえる」助成金は基本的にありません。キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金など、正社員化や教育訓練といった取り組みに対して支給される制度を、外国人従業員にも適用する形で活用します。
Q. 技能実習生や特定技能でも助成金の対象になりますか。
雇用保険の被保険者であることなど各制度の要件を満たせば、対象になり得ます。ただし在留資格ごとに就労できる範囲や条件が異なります。まずは在留資格と雇用契約の整合を確認することが前提です。
Q. 助成金はいつ申請すればよいですか。
多くの雇用関係助成金は、取り組みを始める前に計画届の提出が必要です。採用や正社員化を実施してからでは間に合いません。計画の段階で要件を確認しておくことが大切です。
Q. 申請してからどのくらいで入金されますか。
制度や労働局の状況によりますが、支給申請から審査を経て入金まで数か月かかるのが一般的です。資金繰りに組み込む際は、受給を前提にしすぎない計画にしておくと安全です。
Q. 自社だけで申請するのは難しいですか。
要件確認や書類整備の負担は小さくありません。就業規則や賃金台帳の整備が前提になるため、社会保険労務士や地域の支援機関に相談しながら進めると、不支給のリスクを抑えられます。
まとめ
外国人雇用で使える助成金は、「外国人だから」もらえるものではなく、正社員化・定着・教育訓練といった取り組みに対して支給されるものでした。キャリアアップ助成金・人材確保等支援助成金・人材開発支援助成金を軸に、自社の取り組みから逆算して使える制度を探すのが基本姿勢です。
そして受給の分かれ目は、在留資格の確認と法定手続き、取り組み前の計画届、就業規則と賃金台帳の整備という土台にあります。専門家や支援機関の力も借りながら、人材戦略の一部として制度を組み込んでいきましょう。外国人材という新しい力を、助成金という追い風とともに自社の成長へつなげていただけたらと思います。

