
就業規則のテンプレート活用法|厚労省モデルで自社規程を整える手順
就業規則のひな形を探していて、「このテンプレートをそのまま使っていいのだろうか」と手が止まった経営者の方は多いのではないでしょうか。結論からお伝えすると、就業規則のテンプレートは厚生労働省の「モデル就業規則」を土台にするのが最も安全で、そこから自社の労働時間や賃金の実態に合わせて条文を直していく流れが王道です。ひな形は時短の道具であって、丸写しは労使トラブルの火種になります。本記事では、テンプレートの入手先、必ず盛り込む記載事項、自社用に直す手順、そして常時10人以上で生じる作成・届出義務までを順に整理します。自社の規程づくりの一歩を、安心して踏み出していただけたら嬉しく思います。
就業規則のテンプレートとは|入手先と使う前に知るべき前提
就業規則のテンプレートとは、規程の条文構成や標準的な文言をあらかじめ用意したひな形のことです。ゼロから条文を書き起こす手間を省き、抜け漏れを防ぐ土台と言えます。最も信頼できる入手先は、厚生労働省が無償公開する「モデル就業規則」です。まずは公的な標準形を起点にしましょう。
| 入手先 | 特徴 | 向いている使い方 |
|---|---|---|
| 厚生労働省 モデル就業規則 | 解説付きで網羅性が高く、無償で入手できる | 最初の土台として全社におすすめ |
| 民間サイトの無料ひな形 | 手軽だが、法改正への追随に差がある | 部分的な参考にとどめる |
| 社労士・専門家提供の様式 | 自社業種に合わせた精度が期待できる | 個別カスタマイズの相談時 |
就業規則とテンプレートの関係
就業規則とは、労働時間や賃金、休暇、退職などの労働条件と職場のルールを定めた社内の規程のことです。例えば「始業は何時か」「給料はいつ支払われるか」といった働き方の取り決めを、文書にしたものと考えてください。テンプレートは、その規程の「枠組み」と「よく使う文言」をまとめた下書きにあたります。
私自身、はじめて関与した会社で白紙から就業規則を起こそうとした際、どの項目を入れるべきか分からず途方に暮れた経験があります。そのときテンプレートの存在を知り、必要な章立てが一目で把握できたことに助けられました。テンプレートは「何を書くべきか」の地図として機能します。
厚生労働省「モデル就業規則」という標準形
数あるひな形のなかで、まず手に取りたいのが厚生労働省のモデル就業規則です。規程例と各条文の解説がセットになっており、ワード形式で編集できる状態で無償提供されています。法改正に合わせて更新される点も、民間のひな形にはない安心材料です(出典: 厚生労働省 モデル就業規則)。
公的なモデルを土台にすれば、記載すべき事項の抜けが起こりにくくなるはずです。まずはこのモデルを入手し、全体像をつかむところから始めるのが堅実な進め方です。就業規則そのものの役割をより詳しく知りたい方は、就業規則とは何かを解説した記事もあわせてご覧ください。
テンプレートが万能ではない理由
便利なテンプレートですが、万能ではありません。ひな形は平均的な企業像を前提に作られており、自社の実態と必ずしも一致しないためです。例えば、固定残業代を採用していない会社が固定残業の条文を残したまま届け出れば、運用と規程が食い違ってしまいます。
テンプレートはあくまで出発点。ここから自社に合わせて磨き上げる作業が欠かせません。次の章では、その前提として「必ず盛り込む記載事項」を確認していきます。
就業規則テンプレートに必ず盛り込む記載事項
就業規則の記載事項は、法律で絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項の2種類に分けられます。前者は必ず書く項目、後者は制度がある場合に書く項目です。テンプレートを選ぶ際は、この絶対的必要記載事項が漏れなく含まれているかを最初に確認しましょう。記載事項の根拠は労働基準法第89条にあります。
絶対的必要記載事項(必ず書く項目)
絶対的必要記載事項とは、すべての就業規則に必ず書かなければならない項目のことです。具体的には、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定や計算・支払の方法、賃金の締切と支払時期、そして退職に関する事項が含まれます(出典: 労働基準法第89条)。
この項目が一つでも欠けると、規程として不十分です。テンプレートを開いたら、まずこれらの章がそろっているかを指差し確認する習慣をおすすめします。自社のシフト制や変形労働時間制を採用している場合は、該当する条文の有無も見ておきましょう。
相対的必要記載事項(制度がある場合に書く項目)
相対的必要記載事項とは、その制度を自社で設けている場合にかぎって記載が求められる項目です。退職手当、賞与などの臨時の賃金、安全衛生、表彰や制裁、休職などがこれに該当します。制度がなければ書く必要はありません。
ここで注意したいのが、テンプレートに最初から盛り込まれている条文の扱いです。ひな形に退職金の条文があっても、自社に退職金制度がなければ、その条文は削除するか実態に合わせて書き換える必要が生じます。「ある制度だけを書く」という原則を意識すると、規程と運用のズレを防げます。
任意記載事項と企業理念の扱い
任意記載事項とは、法律で求められてはいないものの、企業が自由に盛り込める項目です。企業理念や経営の考え方、服務上の心得などが代表例といえます。法的な義務ではありませんが、職場の価値観を共有する手段として有効です。
経営者インタビューを重ねてきたなかで、就業規則の冒頭に自社の理念を掲げる会社ほど、従業員の腹落ちが深いと感じる場面が多くありました。ルールの羅列で終わらせず、「なぜこの会社で働くのか」という土台を言葉にしておく。それが、規程に魂を吹き込む工夫です。
テンプレートから自社の就業規則を作る手順
テンプレートを起点に自社の就業規則を仕上げる流れは、大きく3つの手順に分けられます。モデル就業規則を入手して全体を読み、自社の労働条件を条文に反映し、最後に関係法令との整合を確認する。この順番で進めれば、抜け漏れを抑えながら自社用の規程を組み立てられます。
つなぎとして、まず全体の流れを図で押さえておきましょう。
手順1 モデル就業規則を入手して全体を読む
最初の一歩は、厚生労働省のモデル就業規則をダウンロードし、全体に目を通すことです。いきなり書き換えに入るのではなく、どんな章立てで、どの条文があるのかを俯瞰します。この段階で、自社に関係のある章と、不要な章のあたりをつけておきましょう。
私が支援したある小売業の会社では、この「まず全部読む」工程を飛ばして部分修正から入った結果、休職規定の前提条文を見落とすという手戻りが生じました。全体像の把握は遠回りに見えて近道だと、その現場で痛感しました。
手順2 自社の労働条件を条文に反映する
全体を読んだら、自社の実際の労働条件を条文に当てはめていきます。始業・終業の時刻、休憩、休日のパターン、賃金の締め日と支払日など、現場で実際に運用している数字や仕組みを正確に書き込みます。テンプレートの「例」をそのまま残さないことが肝心です。
ここで役立つのが、既存の労働条件通知書や賃金台帳との突き合わせです。書面ごとに記載が食い違うと、後々のトラブルの種を残してしまいます。社内に散らばる労働条件の情報を、就業規則という一つの基準に集約していくイメージで進めると整理が進みます。
手順3 関係法令との整合を確認する
条文を埋め終えたら、関係法令との整合を確認します。最低賃金、法定の労働時間や休憩、年次有給休暇の付与日数など、法律が定める最低基準を下回っていないかをチェックします。就業規則は法令や労働協約に反してはならないと定められているためです。
労働基準法との関係をもう少し深く理解したい方は、就業規則と労働基準法の関係を解説した記事が参考になります。法令の最低基準を満たしているかどうかは、専門家の目を借りるのが安心な領域でもあります。
テンプレートをそのまま使う危険性と自社向けの直し方
テンプレートをそのまま使う最大の危険性は、自社の実態と合わない条文が労使トラブルや不利益変更の火種になる点です。ひな形は平均的な企業を想定して作られているため、丸写しすると運用と規程の食い違いが生まれます。経営者がまず見ておきたいのは、自社の働き方と条文がずれていないかという一点です。
| テンプレート丸写しのリスク | 自社に合わせた見直し |
|---|---|
| 固定残業代の条文が残り、運用と矛盾する | 自社の残業の扱いに合わせて条文を修正する |
| 自社にない退職金制度の条文が残る | 制度がなければ条文を削除する |
| 労働者に不利な内容を一方的に変更する | 不利益変更は合意と合理性を確認する |
丸写しが招く労使トラブルの典型例
丸写しが招くトラブルの典型は、規程と実際の運用が食い違うケースです。例えば、テンプレートに「賞与は年2回支給する」と書いてあるのを残したまま運用すると、業績によって賞与を見送った際に「規則で約束されている」と主張される余地が生まれます。書いたことは、会社の約束になります。
もう一つ多いのが、自社にない制度の条文が残るパターンです。退職金や住宅手当の条文をひな形のまま放置すると、支給義務をめぐる認識のズレが起きかねません。「書いてあるのに運用していない」状態は、最も避けたい火種です。
自社の実態に合わせて見直す条文
見直しの優先度が高いのは、労働時間、賃金、休暇、そして賞与・退職金まわりの条文です。これらは従業員の関心が高く、トラブルにも直結しやすい領域だからです。テンプレートの数字や前提を、自社の実態に一つずつ置き換えていきます。
特に注意したいのが、既存の就業規則を労働者に不利な内容へ変更する場合です。就業規則の不利益変更は原則として労働者の合意が必要で、合意がない場合は変更内容の合理性が問われます(出典: 労働契約法第9条・第10条)。テンプレートに合わせて条件を下げる、といった安易な変更は避けてください。
専門家チェックを入れる判断基準
最後に、専門家チェックを入れるべきかの判断基準です。変形労働時間制やフレックスタイム制を採用している、固定残業代を導入している、複数の雇用形態が混在している。こうした例外的な働き方がある会社ほど、社会保険労務士の確認を入れる価値が高まります。
副業を認めるかどうかも、規程の整備が必要な論点の一つです。副業の許可基準と就業規則の整え方については、副業の許可基準と就業規則を解説した記事で詳しく触れています。判断に迷う論点が一つでもあれば、専門家の目を借りる合図と捉えるとよいでしょう。
就業規則の作成義務と労働基準監督署への届出
就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では作成と届出が法律上の義務です。常時10人以上を使用する使用者は、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長へ届け出なければなりません。届出には従業員代表の意見書を添え、さらに従業員への周知まで行って初めて運用が整います。根拠は労働基準法第89条・第90条です。
常時10人以上の事業場に課される作成・届出義務
作成・届出義務の基準は、事業場ごとに常時10人以上の労働者を使用しているかどうかです。会社全体ではなく、店舗や支店といった事業場単位で数える点に注意してください。パートやアルバイトも、常態として働いていれば人数に含めます。
「うちは正社員が数人だから不要」と考えていた会社が、パートを含めると10人を超えていた、という例は珍しくありません。10人未満であっても、労働条件を明確にしトラブルを未然に防ぐ観点から、作成しておく意義は大きいと言えます。
従業員代表の意見書と届出書類
届出にあたっては、従業員代表の意見書の添付が求められます。労働者の過半数で組織する労働組合があればその組合、なければ労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、その意見を記した書面を添えます(出典: 労働基準法第90条)。
ここで誤解されやすいのが、意見書の意味です。意見書は「同意書」ではありません。たとえ反対意見であっても、意見を聴いた事実が示されていれば届出は受理されます。「合意ではなく意見聴取」という違いを押さえておきましょう。届出書類は、就業規則本体・意見書・届書の3点が基本です。
従業員への周知という最後の要件
作成して届け出ても、それだけでは要件を満たしません。最後に必要なのが、従業員への周知です。書面で配る、見やすい場所に掲示する、社内ネットワークでいつでも閲覧できるようにするなど、誰もが確認できる状態にします。
周知を欠いた就業規則は、その内容の効力が認められない場合があります。せっかく整えた規程も、従業員が存在を知らなければ機能しません。作成・届出・周知の3つがそろって、はじめて就業規則は生きたルールになります。
よくある質問
Q. 就業規則のテンプレートはどこで入手できますか。
最も信頼できるのは厚生労働省が公開する「モデル就業規則」です。規程例と解説がワード形式で無償提供されており、編集して自社用に使えます。民間サイトのひな形も流通していますが、法改正への追随や記載事項の網羅性に差があるため、まずは公的なモデルを土台にすることをおすすめします。
Q. テンプレートをそのまま提出しても問題ありませんか。
おすすめできません。テンプレートは平均的な企業を想定した内容で、自社の労働時間や賃金体系、休暇制度と食い違う条文が残ることが多いためです。実態と異なる規程は労使トラブルの原因になります。条文を一つずつ自社の運用に合わせて見直してから届け出ましょう。
Q. 就業規則は何人以上の会社で必要ですか。
常時10人以上の労働者を使用する事業場には、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。パートやアルバイトも人数に含めて数えます。10人未満でも、労働条件を明確にしトラブルを防ぐ観点から、作成しておく意義は大きいと言えます。
Q. 届出のときに意見書は必ず必要ですか。
必要です。就業規則を届け出る際は、労働者の過半数で組織する労働組合、またはそれがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、その意見書を添付しなければなりません。意見書は反対意見であっても、聴取した事実を示せば届出は受理されます。
Q. 就業規則は従業員に見せる必要がありますか。
あります。作成・届出だけでは効力が十分に及ばず、労働者への周知が要件とされています。書面の交付、見やすい場所への掲示、社内ネットワークでの常時閲覧など、誰でも確認できる状態にしておく必要があります。周知を欠くと、規定の効力が認められない場合があります。
まとめ
就業規則のテンプレートは、規程づくりを大きく前進させてくれる心強い道具です。ただし、その価値が生きるのは「土台」として使ったときに限ります。厚生労働省のモデル就業規則を起点に、絶対的必要記載事項をそろえ、自社の労働時間や賃金の実態を一つずつ条文に映し取っていく。この地道な作業こそが、自社を守る規程を育てます。
そして、常時10人以上の事業場では作成・届出・周知が法律上の義務になります。テンプレートの丸写しで終わらせず、自社の実態に向き合って磨き上げた就業規則は、従業員との信頼を支える土台になります。今日の一歩が、これからの組織づくりを支える礎になれば嬉しく思います。

