借金300万円から始まる社会人生活を変える――奨学金バンク創業者が語る、問題解決型ビジネスの作り方

大学生の2人に1人が平均330万円の奨学金を借りています。15年かけて返還する若者たちに、新入社員研修で「これから一緒に成長していきましょう」と伝えても、どこまで響くでしょうか。

人事コンサルティング会社を経営する大野順也氏は、研修の現場でその限界に気づきました。300万円を超える借金を抱えて社会に出る若者たちの経済的・心理的負担が、組織活性化の根本的な障壁になっていると。

2024年3月、大野氏は日本初の奨学金返還支援プラットフォーム「奨学金バンク」をローンチしました。三井住友信託銀行、日本学生支援機構との三者協働で実現した前例のない取り組みです。

人材業界で28年間、組織・人事・人材という領域に向き合い続けてきた経営者は、なぜ奨学金問題に挑むのでしょうか。株式会社アクティブ アンド カンパニー代表取締役・大野順也氏に話を聞きました。

「なんで?」が止まらなかった少年時代――理屈っぽい性格が、営業の武器になった

1974年、兵庫県西宮市で育った大野氏は、幼い頃から「なんで?」と問い続ける子どもでした。

「何でも『なんで?』『なんで?』って聞く子だったみたいです。母親がそれに一つひとつ答えてくれたので、周りからは理屈っぽい子だとよく言われていました」

大阪産業大学経済学部に進学した大野氏は、アルバイトに精を出しました。トラック運転手甲子園球場の売り子は続きましたが、ファミレスの皿洗いは1日で辞めました。

「続いたバイトと続かなかったバイトの違いは、自分の頑張りが成果として見えるかどうか、なんです。やってもやらなくても同じ時給、というのが性に合わなかった。頑張った分だけ結果が出る仕事じゃないと、つまらなくて続かなかったですね」

この「成果へのこだわり」が、後の営業人生を決定づけることになります。

飛び込み営業で顧客データベースを作った理由――「次の次」を考えるキャリア形成論

1998年、大野氏は株式会社パソナ(現パソナグループ)に新卒入社しました。

「就職活動で説明会に行ったとき、オフィスビルから見える高層ビルがずらーっと並んでいて。『このビル全部に会社が入っていて、全部に人がいるんだな』と思ったら、すごく興奮したんですよ。人材ビジネスって、市場が一番大きいんじゃないかって」

配属された人材派遣の営業部門で、大野氏は朝から晩まで飛び込み営業。しかし、心が折れることはありませんでした。営業ではなく「情報収集」をしていたからです。

「飛び込んだ先で『どこの派遣会社を使っていますか?』『何人くらい派遣していますか?』って、全部聞いてExcelにまとめていったんです。それがどんどん膨らんで、最終的にはAccessでデータベース化しました」

来月契約が切れる派遣スタッフが何人いるか、すぐに分かります。そこだけに絞って訪問すれば、確度の高い営業活動ができます。

「情報を集めて整理して、『この会社は来月契約更新だな』ってタイミングを見計らって訪問する。すごく効率的だし、何より楽しかったんですよ」

入社3年目、通信業界専門チームの責任者を務めた後、大野氏は転職活動を始めます。だが、内定をもらっても、何か違うと感じます。

「そのとき『あれ、なんか違うな』って思ったんです。それで気づいたのが、『次の次を考えて、次を決めろ』ということ。二つ先のゴールをイメージしてから、次の一手を決めるんです」

キャリアを決めるとき、多くの人は「今が嫌だから」という近視眼的な判断をします。重要なのは「その先に何を実現したいのか」というゴールです。

大野氏は転職を思いとどまり、営業推進室に異動。大規模なアウトソーシング案件の設計に携わるようになりました。「次の次」を見据えたキャリアが、ここから始まります。

人材派遣は「存在悪」――デロイト転職を決めた、業界への違和感

パソナで6年働いた大野氏は、2004年、デロイト トーマツ コンサルティングに転職します。

きっかけは、パソナの一部上場でした。社内でコンサルティング会社を立ち上げたいと提案しましたが、子会社の社長をやれと言われました。しかし、断りました。

「コンサルティング会社を作りたいなら、まずコンサルティングの世界を知らないと戦えない。一度外に出て、外の空気を吸わないと、勝てる会社は作れないと思ったんです」

また、それだけではありません。大野氏には、人材派遣という業界そのものへの根本的な疑問がありました。

「極端な言い方かもしれませんが、私は人材業っていらないと思っているんです。今の日本に、本当に必要なのかと」

大野氏がパソナに入社した1990年代後半、派遣業は「社会に出られない主婦の人たちを社会復帰させて、雇用の流動化を図る」という社会的意義を持っていました。しかし、派遣業は変質していきました。

「今では、単に『手軽に仕事を探せる便利なサービス』になってしまっている。新卒で22、23歳の若者が『派遣で働きたいんです』って来るんですよ。内心、『いやいや、君たち正社員として就職すべきでしょ』と思うんですが、会社としてはそういう人たちも派遣するわけです」

派遣という働き方を繰り返した人が30歳になったとき、「すみません、他にご紹介する先はありません」と言われます。理由は「派遣であちこち行っていてキャリアが汚すぎる」から。

「20代のうちは『派遣でいいですよ』と言って仕事を紹介しておいて、30歳、35歳になったら『キャリアがバラバラですね』『正社員の経験がないと厳しいです』って。その人のキャリアを潰しているのは、派遣会社自身じゃないですか。でも、誰も責任を取らない。結局、使い捨てているだけなんですよ」

人材業界は約10兆円の産業規模を持ちます。だが、大野氏はこう考えました。

「今の日本、人口減少で人手不足ですよね。企業は人を欲しがっている、求職者は仕事を探している。それなのに、なんで間に人材会社を挟まないといけないんですか。もしその10兆円を別のところに使えたら、もっと本質的な社会課題を解決できるんじゃないか」

大野氏はデロイトでの組織・人事戦略コンサルティングを経て、2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニーを創業しました。「次の次」を見据えて積み上げてきたキャリアが、ついに形になった瞬間でした。

45歳で知った衝撃の事実――「大学生の2人に1人が借金300万円」という現実

創業から約13年が経った2019年頃、プライベートで知り合ったある35歳の男性との会話が、大野氏の人生を大きく変えることになります。

「彼が『実は、まだ奨学金を返しているんです』って言ったんですよ。私は驚いて、『え、35歳でまだ返してるの?早く返さなきゃダメなんじゃないの?』と言ったら、彼は『いやいや、全然普通ですよ。周りもみんなそうです。だいたい300万から400万くらい借りて、40歳前後まで返し続けるのが当たり前なんです』って、さらっと言うわけです」

信じられませんでした。調べてみると、衝撃的な数字が次々と出てきました。大学生の約2人に1人が奨学金を利用し、平均借入額は約330万円、返還期間は平均15年。返還者数は約490万人、貸付残高は9兆5000億円。

「愕然としました。大学に行くために、社会に出るために、若者たちは数百万円の借金を背負わなきゃいけないんだと」

大野氏の会社は新入社員研修も数多く手がけています。そこで若手社員に「モチベーションを上げていきましょう」と伝えても、限界があると感じていました。

「考えてみてください。借金300万円を背負って社会に出て、誰も助けてくれない。自分で働いて返せと言われる。もし奨学金を借りている男性と女性が結婚したら、世帯で600万円の借金を抱えることになるんです。マイホームも車も買っていないのに、スタートラインから600万円のマイナス。これじゃあ子供を持つことも躊躇しますよね。将来設計なんて立てられない」

新入社員研修で「頑張って成果を出していきましょう」と言ったって、刺さりません。

「この状況を少しでも変えたいと思いました。若い人たちが未来に希望を持てる、可能性を感じられる社会を作るには、やっぱりお金の問題が最優先だと。彼らの経済的負担を軽減する方法はないか、そればかり考えるようになったんです」

組織活性化のプロフェッショナルとして、大野氏は確信しました。若手社員の経済的・心理的負担を軽減しなければ、本質的な組織活性化は実現できない。奨学金問題は個人の問題ではなく、社会全体で解決すべき構造的な課題だと。

レゴブロックを組み合わせる――官民連携で実現した「奨学金バンク」の仕組み

奨学金問題に気づいてから、大野氏は2年間、解決策を考え続けました。

「45歳のとき、2019年頃に奨学金問題を知って、そこから約2年間、ずっと考えていました。2021年頃、ようやく『こういう仕組みなら実現できる』という設計図ができあがって、銀行や行政機関に提案を持っていったんです」

そして2024年3月、日本初の奨学金返還支援プラットフォーム「奨学金バンク」がローンチしました。

ビジネスモデルの核心はシンプルです。奨学金を抱える求職者を企業に紹介し、人材紹介手数料の一部を、採用が決まった方の奨学金返還に充てます。返還は本人ではなく、日本学生支援機構に直接行います。

「ここがポイントなんですが、支援金を本人に渡すのではなく、日本学生支援機構に直接払う仕組みにしました。すると、本人の所得にならないので所得税がかかりません。奨学金の返還金は国税庁でも非課税扱いなんです。さらに、所得として計上されないということは、社会保険料の算定基礎にも影響しないので、社会保険料も上がらない。つまり、税金も社会保険料も一切増えないんです。

また、三井住友信託銀行に「奨学金バンク」専用の口座を設けている点も大きな特徴です。私たちは同行と「財産隔離契約」を締結しています。これにより、口座に振り込まれた資金は弊社の資産とは法的に完全に切り離され、支援以外の目的には一切流用できない極めて強固な保全体制を敷いています。この高い透明性が担保されているからこそ、企業様からの紹介手数料や参画費のみならず、この事業に賛同いただいた個人・団体の皆様からも、広く寄付や支援をお寄せいただくことが可能になるのです。」

求職者にとっては返還負担が軽減され、企業にとっては優秀な人材を採用でき、行政にとっては奨学金返還の促進になります。三方よしのビジネスモデルです。

「ありがたいことに、口コミで自然に広がっています。普通の人材紹介業だったらここまで早く広がらなかったと思います。奨学金で困っている人が2人に1人もいるので、当事者同士で情報が共有されるんですよね」

では、大野氏はどうやってこのビジネスモデルを考案したのでしょうか。

「実を言うと、完全に新しいものを発明したわけじゃないんです。すでに存在するいくつかのビジネスモデルを組み合わせただけ。『この業界ではこういうやり方をしている』『あの会社はこんな仕組みを使っている』って、そういう要素を集めて、パズルみたいに組み合わせたんです」

大野氏は、人がやっている仕事、会社のビジネスモデルを理解する努力を習慣にしています。

「ビジネスモデルを勉強するのって、レゴブロックのパーツを集めるのと同じなんです。一つひとつのパーツ、つまり仕組みを理解して集めていけば、それを組み合わせて車も作れるし家も作れる。新しいビジネスも同じです。たくさんのパーツを知っていれば、組み合わせ次第でいろんなものが作れるんですよ」

大野氏の目標は明確です。奨学金問題の10%、つまり1兆円を返還支援すること。

「日本全体の奨学金の貸付残高は9兆5000億円もあるんです。もし私たちがそのうち1兆円の返還を支援できたら、シェア10%ですよね。行政がやっている事業で民間企業がシェア10%を担うって、相当すごいことだと思うんです。そこまでいけば、もう社会インフラの一部と言えるでしょう。そうなったら、おそらく私の手を離れて、もっと大きな仕組みとして回り始める。そういう社会インフラを作ることが、私の目標なんです」

「儲け話」を前面に出さない――官民連携を成功させる唯一の方法

前例のない官民連携を実現した大野氏。その成功の鍵は何だったのでしょうか。

「一番大事だったのは、本気で問題解決に向き合っているかどうか、だと思います」

日本学生支援機構、文部科学省、三井住友信託銀行。大野氏はこれらの機関と何度も対話を重ねてきました。そのとき、収益性の話は前面に出しませんでした。

「文科省の人とも、日本学生支援機構の人とも、何度も話しました。そのとき私が一貫して話していたのは『この問題の本質は何なのか』『どうすれば解決できるのか』ということだけ。問題解決に本気で向き合っている姿勢を見せれば、行政の人たちは必ず真剣に向き合ってくれるんですよ」

問題・課題を解決すること自体に対して、国が無視するわけがありません。しかし、「儲けようと思っているんだろうな」と思われるものに対しては、協力してくれません。

もちろん、利益が出ないと事業は継続しません。しかし、それは「結果」です。

「もちろん、利益を出さなければ事業は続きません。ただ、利益は『結果』であって『目的』じゃない。まず最優先で考えるべきは、『何が問題なのか』『どう解決するのか』『当事者は何を求めているのか』『新たな問題を生まないか』。この問題解決に完全にフォーカスする。特に行政と話すときは、これが全てだと思っています」

大野氏は今でも、2、3ヶ月に1回ぐらい日本学生支援機構を訪問し、現状を報告しています。官民連携は一度構築して終わりではなく、継続的な関係構築が必要だと考えているからです。

伝統になる革新を、いまから――組織・人事・人材の領域で成長し続ける理由

最後に、大野氏に今後のビジョンを聞きました。

「うちの会社は、常に『成長志向』です。よく『この規模で十分じゃないか』という考え方を聞きますが、私は全く違う考えです。会社は成長し続けるべきだと思っています」

なぜ成長にこだわるのでしょうか。それは、組織・人事・人材という領域に、まだまだ解決されていない課題が山ほどあるからです。

「事業領域は『組織・人事・人材』から外に出るつもりはありません。この領域にはまだ山ほど解決されていない課題があるんです。人材業界は約60年の歴史がありますが、それでもまだ、誰も気づいていない、あるいは見落とされている課題がたくさんある」

奨学金問題も、その一つでした。誰も気づかなかった、あるいは気づいていても手をつけられなかった社会課題。それを「人」という切り口から解決します。

大野氏の会社には、「伝統になる革新を、いまから。」というコーポレートアイデンティティがあります。

「『伝統』って、古臭いものばかりじゃないんです。大切に守り続けるべき価値があるから伝統になる。でも、それだけに固執していたら時代に取り残される。だから、大事なものは守りつつ、同時に変化を恐れず新しいことに挑戦し続ける。その両立が必要だと考えています」

そして、最終的なビジョンはこうです。

「中小企業が元気になれば、日本全体が元気になります。そして、奨学金を抱えた若者たち、経済的に厳しい状況にある人たちが、組織や人事の仕組みが変わることで希望を持てるようになれば、日本はもっと活性化するはずです。資本主義が生み出してしまった歪み、負の部分を、『人』という切り口から解決していく。それが、私たちがやりたいことなんです」

コントリからのメッセージ

大野氏は常に「なぜ?」を問い続けてきました。

幼い頃から「なんで?」と聞き続けた少年。飛び込み営業で情報を蓄積した20代。人材派遣業界の構造的問題に気づいた30代。奨学金問題を発見した40代。

共通しているのは、「これで本当にいいのか?」という問いです。

大野氏は、その答えをビジネスで形にしてきました。キャリアは「次の次」を見据えて積み上げる。ビジネスモデルは「レゴブロック」のように組み合わせる。行政との交渉は「問題解決」だけにフォーカスする。

奨学金バンクは、28年間「人」と向き合い続けた経営者が辿り着いた答えです。

あなたは知っているでしょうか。大学生の2人に1人が、300万円以上の借金を抱えて社会に出ている事実を。

それを自社の問題として捉え、解決しようとしている経営者が、どれだけいるでしょうか。

大野氏は語ります。

「まず、奨学金問題を一人でも多くの人に知ってほしい。これが一番です。大学生の2人に1人が300万円以上の借金を抱えているという事実を、経営者や人事の方々に知ってもらいたい。

それを知ったら、新入社員に対する接し方が変わるはずなんです。研修で何を伝えるか、どんなサポートをするか。『もう少し経済的に支援してあげよう』とか『この若者たちがちゃんと生活できるようにしてあげたい』とか、きっと向き合い方が変わると思うんです。だから、まずは正しく知ってほしい。それが私の願いです」

若者が未来に希望を持てる社会を、どう作るか。

その問いに、一人ひとりの経営者が向き合う時代が来ています。

プロフィール

株式会社アクティブ アンド カンパニー
代表取締役
大野 順也(おおの・じゅんや)

1974年、兵庫県西宮市生まれ。大阪産業大学経済学部卒業。1998年、株式会社パソナ(現パソナグループ)に新卒入社し、人材派遣営業に従事。入社3年目で通信業界専門チームの責任者に就任。2004年、トーマツコンサルティング株式会社(現デロイト トーマツ コンサルティング株式会社)に転職し、組織・人事戦略コンサルティングに携わる。2006年、株式会社アクティブ アンド カンパニーを創業し、代表取締役社長に就任。組織・人事コンサルティング事業を中核に、中堅・中小企業を中心に組織活性化を支援。2024年3月、日本初の奨学金返還支援プラットフォーム「奨学金バンク」をローンチ。人材業界での28年間の経験を活かし、社会課題の解決に挑んでいる。

ギャラリー

会社概要

設立2006年1月
資本金
所在地東京都千代田区九段南3-8-11 飛栄九段ビル5階
従業員数
事業内容組織・人事コンサルティング事業
奨学金返還支援事業(奨学金バンク)
HPHP:https://www.aand.co.jp/
奨学金バンク:https://shogakukinbank.jp/


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