人事評価制度の形骸化対策|中小企業が90日で評価が動く状態に戻す手順

人事評価制度の形骸化対策|中小企業が90日で評価が動く状態に戻す手順

評価シートは毎期回しているのに、処遇への反映が止まっている。面談が報告会で終わってしまっている。そんな感覚を抱えていらっしゃる経営者の方は、決して少なくありません。

結論から先にお伝えします。人事評価制度の形骸化対策の核は、90日間で『誰が・いつ・何を判断するか』を再定義することです。中小企業の現場では、3つの原因が重なって形骸化が進みます。導入目的の不在・評価項目の抽象化・評価者の時間不足の3つです。立て直しの順番さえ間違えなければ、30名から100名規模の組織でも、3ヶ月で評価が動く状態に戻せます。

本記事では、3症状の見分け方から始めます。続いて根本原因5つを整理いたします。そのうえで90日で立て直す6ステップへ。さらに経営者が先に決めるべき判断軸、再発防止の運用ルールも順にお伝えします。最後によくある質問にもお答えしました。コントリ編集部が経営者インタビューを重ねてきた現場感を交えています。ご自社の評価制度を見つめ直す一助となれば嬉しく思います。

INTERVIEW

評価制度を立て直した経営者の方々は、何から手を打ったのか。

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人事評価制度の形骸化とは|評価が機能を失った組織で起きる3つの典型症状

人事評価制度の形骸化とは、評価シートは回っているのに実質が伴わない状態です。処遇への反映や育成への接続が止まっています。

『評価のための評価』に成り下がっている、と言い換えていただけます。中小企業では、社員数が30名を超えたあたりから症状が表面化していくケースが目立ちます。社長と社員の距離が縮まっていた創業期とは、状況が大きく変わるためです。評価を仕組みで支えなければならない局面に入ります。まずは典型的な3症状で、自社の現在地を確認していただくところから始めましょう。

症状1 評価結果が昇給賞与にほとんど反映されず社員の納得感が消えている

最初の症状は、評価ランクごとの昇給差・賞与差がほぼ無くなっている状態です。A評価とC評価で月給差が数千円、賞与でも数万円といった水準だとどうでしょう。社員から見れば『頑張っても評価されない』という心象が強まります。

人事評価制度には3つの機能があります。処遇配分・育成促進・企業文化浸透の3つです。処遇連動が機能を失うと、残る2つも徐々に説得力を失っていきます。コントリの取材で伺ったある製造業の経営者の方も、似た時期を振り返っておられました。評価制度を導入してから5年間、評価ランクと昇給を実質的に切り離して運用していた。その間、優秀な若手から順に離職していった、というお話です。

評価結果と処遇の連動度合いは、評価制度の生命線と言えます。形骸化の入り口は、この生命線が細っていく瞬間にあります。

症状2 評価面談がフィードバックではなく報告書の読み合わせで終わっている

次に多いのが、評価面談の儀礼化です。一次評価者の管理職が、評価シートに書いた内容をそのまま読み上げる。社員が黙ってうなずく。そんなシーンが繰り返されるパターンを指します。

本来、評価面談は『来期の行動を変えるための対話』であるはずです。深石圭氏のチャンネル『人事評価大学』も、同じ問題提起をしています。「人事評価制度に〇〇が入っていませんか」の動画内で、面談が形式化する組織の共通点を挙げています。それは『評価者が伝えるだけで終わっている』点です。

私自身、過去に勤めていた組織で似た経験を持ちます。30分の面談がすべて報告で終わり、その期の働き方が何も変わらなかった、という空虚な実感です。報告会化のサインは、面談直後の社員の表情に表れます。

症状3 評価基準が現場業務と乖離しており評価期間直前に帳尻合わせが起きている

3つ目は、評価項目と日々の業務がつながっていない状態です。「協調性」「責任感」のような抽象項目だけが並ぶ。現場の管理職が期末に『なんとなく』スコアを付けてしまう状況を指します。

このパターンでは、評価期間の直前2週間に急な動きが出ます。管理職と社員のあいだで急に1on1が組まれる。書類上のつじつまを合わせる作業が発生します。評価が現場の意思決定を導いていない証拠です。

YouTubeチャンネル『社長が3ヶ月不在でも事業を拡大する方法』も、同じ指摘をしています。「失敗する人事評価の共通点」の中で、評価項目の抽象化が形骸化を招く典型パターンと挙げているのです。ご自社の評価シートを見直していただきたいと思います。現場の管理職が翌週の意思決定に使える具体性があるか、問うてみてください。

なぜ中小企業の人事評価制度は形骸化するのか|現場で起きている5つの根本原因

形骸化の症状が見えてきたら、次に取りかかるのは根本原因の特定です。原因の構造を押さえる工程となります。

コントリ編集部が経営者の方々への取材を重ねてきた中で、共通の構造が見えてきました。導入時のコンサル提案をそのまま運用に乗せた結果、自社の事業や人員構成と噛み合わなくなっているケースが大半です。代表的な5つの原因を整理します。経営者の方ご自身が、どの原因が一番効いているかを見極める手がかりとしてご覧いただけたら幸いです。表面的な対症療法ではなく、根本に手を入れる起点としてご活用ください。

原因1 導入目的が『他社もやっているから』で経営課題と接続していない

最も根が深い原因が、導入目的の不在です。「同業他社が導入しているから」「コンサルに勧められたから」という入り口で制度を立ち上げる。すると運用フェーズで判断軸を失います。

評価制度の目的は3つの中から選び取るものです。処遇配分・育成促進・企業文化浸透の3つから絞る必要があります。すべてを同時に追うと、制度設計がぶれてしまいます。コントリ取材では、創業10年目を境に評価制度を見直した経営者の方の話が印象的でした。「導入当初は他社真似で始めてしまった」「何のための評価かを5年間問い直さなかった」と振り返っておられたのです。

目的が曖昧な制度は、項目設計も評価基準も曖昧になります。形骸化対策の第一歩は、この目的の再定義です。

原因2 評価項目が抽象的で評価者ごとに解釈がバラついている

2つ目は、項目の抽象化です。「主体性」「協調性」「責任感」といった項目が並ぶシートでは何が起きるか。評価者ごとに解釈が異なります。結果として組織横断での公平性が失われます。

抽象的な項目は、評価者から見れば『書きやすい』反面、被評価者から見れば『何を頑張ればよいかわからない』ものになります。評価項目は被評価者が翌日の行動を変えられる粒度であるべき、というのが現場の鉄則です。

例えば営業部門でしたら、こう書き換えます。「主体性」ではなく「自分起案で新規アプローチを月3件以上着手したか」。製造部門でしたら「責任感」ではなく「不良品発生時に翌日中に原因仮説を出したか」。こうした具体化を進めると、評価者の解釈バラつきが大きく減っていきます。

原因3 一次評価者の管理職が評価業務に時間を割けず締切直前作業になっている

3つ目は、評価者の時間不足です。中小企業の管理職はプレイングマネージャーであることが多いものです。自身の業務に追われて評価業務が後回しになりがちです。

評価期末になって慌ててシートを埋め、面談を15分で済ませる。そんな運用が常態化すると、評価の質は確実に下がっていきます。SMARTCAMP EVENTS 公式の動画「社員が納得する評価制度づくりのポイント」も、同じ指摘をしています。評価者の時間確保が制度品質を左右する最重要要素として挙げられているのです。

筆者がコントリの取材で印象に残っているのは、あるサービス業の経営者の方のお話です。評価業務を年2回の集中イベントから月1回の1on1に分散したのです。年間の評価工数自体は変わらないものの、評価者の負担感は半減した、と語っておられました。評価精度も上がったとのことです。

原因4 評価結果のフィードバックが社長と人事だけで止まり本人に届いていない

4つ目は、フィードバック断絶です。評価結果が社長と人事の手元で止まってしまうケースが少なくありません。本人に届く情報は『最終ランク』だけ、というパターンです。

本人にとっては『なぜそのランクになったか』のロジックが分からない状態です。納得感も学びも生まれません。フィードバックは、評価者の言葉で具体的な行動事例を引きながら伝えることが鍵となります。そうすることで、初めて行動変容につながります。

コントリの取材では、ある経営者の方の事例が印象に残っています。フィードバックの粒度を上げるためのルールです。『良かった行動3つ・改善してほしい行動3つ』を、面談の場で必ず書面で渡すと決めておられました。シンプルなルールですが、行動変容の手応えが変わったと伺いました。

原因5 評価制度の改訂サイクルが決まっておらず初期設計のまま3年以上塩漬けになっている

5つ目は、改訂サイクルの不在です。事業も組織も人も変わるのに、評価制度だけが導入当初のまま塩漬けになっている。3年以上経っても改訂されていない、という状態は意外と多いものです。

評価制度は、半年〜1年のスパンで見直しの場を持つことで、現場との乖離を最小化できます。改訂を恐れる経営者の方も多いのですが、視点を変えてみてください。改訂を前提に設計しておけば、現場の納得感はむしろ高まります。「変えてはいけない聖域」として制度を扱うほど、形骸化のリスクが高まるという逆説があります。

人事評価制度の形骸化対策 6ステップ|中小企業が90日で評価が動く状態に戻すロードマップ

ここからは本記事の中核となる、立て直しの手順をお伝えしていきます。実務に落とせる粒度で組み立てました。

経営者インタビューと、人事評価の実務家による発信を突き合わせました。社員数30〜100名規模の中小企業が現実的に踏める6ステップを、時系列で整理しています。経営者の方が90日間というカレンダーを意識して動かれることを前提に組み立てました。

各ステップに『所要期間』『主担当』『陥りやすい罠』を併記しています。順番を入れ替えると効果が薄れる構造です。ステップ1から順に進めていただくのが安全です。

ステップ1 形骸化診断|評価シートと面談記録から3症状の有無を棚卸しする(2週間)

最初のステップは、現状の棚卸しです。直近1年分の評価シート・面談記録・昇給賞与の実績データを並べます。第1章で挙げた3症状がどこに表れているかを可視化します。

主担当は経営者と人事責任者の2名で、外部の力を借りずに進められる工程です。陥りやすい罠は、現場の管理職を診断に巻き込みすぎることにあります。『誰が悪いか』の犯人探しになってしまいかねません。診断は制度設計の責任で行うものであり、現場管理職の評価スキルを問う場ではない、という前提を共有して始めてください。

成果物として、A4一枚の『形骸化診断レポート』を作っていただくとよいでしょう。次のステップで判断軸が定まります。コントリ取材では、診断レポートを社長から全社員に共有することで、改訂への巻き込みがスムーズになった事例も伺っています。

ステップ2 評価目的の再定義|経営課題と接続する1枚の評価設計書を作る(2週間)

次のステップは、評価制度の目的を経営課題に接続し直す工程です。処遇配分・育成促進・企業文化浸透の3つを並べてみてください。自社が今後3年で最も解きたい課題に紐づく1〜2つを選びます。

選び方の例をお伝えします。優秀な若手の離職が課題でしたら『処遇配分の納得性』が主となります。管理職候補の薄さが課題でしたら『育成促進』が主、といった具合に選び取ってください。目的を1〜2つに絞ることで、評価項目・面談設計・処遇連動のすべての判断軸が定まります

成果物は、A4一枚の『評価設計書』です。書き込む内容はシンプルにします。「評価の主目的」「評価対象社員の範囲」「評価サイクル」「評価結果の用途」の4項目です。書き切ると、後のステップで意思決定が一気に楽になります。経営者の方が単独で書くのではなく、人事責任者と幹部数名で議論しながらまとめることをおすすめします。コントリの「経営者コラム」でも、組織課題と経営戦略の接続を扱った記事を公開しております。

SERVICE コントリ取材記録

制度を変える前に、
経営者の判断軸を整える。形骸化を抜け出すヒント。

評価制度の改訂に踏み出された経営者の方々の取材を、コントリでは継続してお届けしています。判断軸を磨くための事例をご覧ください。

ステップ3 評価項目と基準の絞り込み|10項目以内に再構成する(3週間)

3つ目のステップが、項目の絞り込みです。多くの中小企業の評価シートは、項目数が20〜40に膨れ上がっています。評価者も被評価者も追いきれない状態にあります。

目安として、評価項目は10項目以内に再構成します。職種共通項目5〜6本と、職種別項目3〜4本に整理する構造が運用しやすいでしょう。各項目には『翌週から行動が変わる粒度』の評価基準を必ず添えてください。

陥りやすい罠は、現場管理職の意見を聞きすぎて項目が再び増えてしまうことです。意見聴取は重要です。ただし最終的な絞り込みは経営者と人事責任者の意思決定で行ってください。

ステップ4 評価者トレーニング|管理職の評価スキルと面談技術を底上げする(3週間)

4つ目は、評価者である管理職のトレーニングです。制度を変えても、運用する管理職のスキルが上がらなければ、形骸化は再発してしまいます。

トレーニングの内容は3点が柱となります。評価基準の解釈合わせ・面談ロールプレイ・フィードバック技術の3点です。社内で実施する場合は、人事責任者がファシリテーターを務めてください。管理職同士で評価ケースをディスカッションする形式が効果的だと言えます。

外部研修を活用するなら、半日〜1日の集合研修に絞り、内製の継続フォローと組み合わせる形が現実的です。コントリ取材では、ある運用の事例を伺いました。評価者トレーニング後に管理職同士で『評価面談振り返り会』を月1回開く形にされたのです。その結果、評価のばらつきが大幅に減ったとのことです。

ステップ5 処遇反映ルールの明文化|評価結果と昇給賞与の連動を1枚で示す(2週間)

5つ目は、処遇連動ルールの明文化です。評価ランクごとの昇給額・賞与係数・昇格判定への影響を、A4一枚にまとめます。

ここで重要なのは、評価ランク間の差を経営の意思として明示することです。A評価とC評価で実質的な差が出ない設計だと、評価制度全体の信頼が損なわれます。差をつける度合いは、経営者ご自身の判断軸に従って決めてください。具体的な軸は後述します。

成果物の明文化シートは、就業規則や賃金規程の改訂を要する場合があります。社労士に整合性チェックを依頼する工程を必ず挟んでください。

ステップ6 改訂サイクル運用|半年ごとの振り返り会議をカレンダーに固定する(継続)

最後のステップは、改訂サイクルの運用化です。半年に1回、評価制度の振り返り会議を開きます。経営者・人事責任者・管理職代表で集まり、運用上の課題と改善案を整理します。

会議はカレンダーに固定し、議題テンプレートを用意することが定着のコツです。Dao and Crew. の動画「評価決定会議が劇的に変わる13の鉄則」でも同じ指摘があります。定例化と議題テンプレ化が、形骸化を防ぐ要諦として紹介されているのです。

人事評価制度の形骸化対策で経営者が先に決めておきたい4つの判断軸

6ステップを踏み始める前に、経営者ご自身に答えていただきたい4つの問いがあります。

評価で何を実現したいのか。処遇反映の許容幅をどう設定するか。評価者にどこまで権限を委ねるか。運用負荷をどこまで受け入れるか。この4つです。早い段階で言語化しておくことで、後の各論の意思決定が一気に楽になっていきます。経営幹部数名で議論しながら、ご自身の答えを固めていくプロセスをおすすめします。

コントリ編集部が経営者の方々の『改訂してから気づいた』を逆算して整理した4つの判断軸を、順にお伝えします。先に決めておくほど、後の意思決定が楽になります。

軸1 評価で実現したいのは処遇配分か、育成促進か、企業文化の浸透か

最初の軸は、評価制度の主目的を1つ選ぶ判断です。3つすべてを同時に追うことは可能ですが、優先順位がないと制度設計の各論で迷子になります。

処遇配分を主目的にする場合、評価項目は『行動成果』寄りに、基準は定量的にします。育成促進を主目的にする場合、評価項目は『プロセス』寄りに、面談頻度を増やす設計が向きます。企業文化浸透を主目的にする場合、評価項目に『行動指針への準拠』を組み込みます。主目的の選択が、制度設計のすべての分岐点になります。

軸2 評価結果による昇給賞与の差を、最大何倍まで広げてよいか

2つ目の軸は、処遇差の許容幅です。A評価とC評価で月給差を何円つけるか。賞与係数をどこまで広げるか。経営の意思として先に決めます。

差を大きくつけるほど、優秀な社員には強いインセンティブとなります。一方で、組織の心理的安全性にはマイナスの作用も生まれ得ます。中小企業の場合、賞与で1.5〜2倍程度の差を上限とする設計が多いものです。月給差は段階的に広げていく形が、コントリ取材の中では多く伺った着地点でした。

軸3 一次評価者の管理職にどこまで決定権を委ねるか

3つ目の軸は、評価者への権限委譲の度合いです。一次評価者の管理職に最終ランクの決定権を委ねるか。経営者と人事責任者の最終調整を必ず挟むか。どちらかを決めます。

権限委譲を進めるほど、管理職の責任感と評価スキル向上が促されます。一方で、評価ランクの組織横断での公平性は確保しにくくなります。中小企業では二段階構造が運用しやすいバランスとなるケースが多いと言えます。一次評価は管理職主導、最終調整は経営会議で必ず行う形です。

軸4 評価業務に管理職が割ける時間を年間何時間まで確保するか

4つ目の軸は、評価業務に割く時間の上限設定です。管理職1人あたり、年間で何時間を評価業務に確保するか。先に決めずに制度設計を進めると、現場が破綻します。

目安は、管理職1人あたり年間40〜60時間です。被評価者10名想定の数値となります。この時間を確保できない場合、設計調整が必要になります。面談頻度を下げる、評価項目をさらに絞るなどの工夫です。経営者の方が『時間は何とかなる』と楽観すると、ステップ4の評価者トレーニングが回らなくなる、という落とし穴があります。

人事評価制度の形骸化を再発させないための運用ルールと外部リソースの使い分け

立て直しに成功しても、1年で再び形骸化してしまう中小企業の組織が少なくありません。意外と見落とされる落とし穴です。

再発を防ぐには、両輪が必要となります。運用ルールを社内で固定する仕組みと、外部の知見を定期的に入れる仕組みの2つです。社労士・人事コンサル・1on1サービス・経営者コミュニティの使い分けを、コントリの取材知見と公的情報を交えて整理します。長く制度を機能させるための、いわば守りの設計図とお考えいただけたら幸いです。1年後・3年後の安定運用を見据えた設計の話となります。

再発防止の運用ルール|評価カレンダー・1on1月1回・改訂会議半年1回の3点固定

社内で固定すべき運用ルールは3点です。評価カレンダー・1on1月1回・改訂会議半年1回の3点となります。

評価カレンダーは、年間の日程をすべて事前に決めてしまう仕組みです。評価シート配布・自己評価提出・一次評価・経営会議・面談実施・処遇反映までの日程をカレンダーに入れます。1on1月1回は、評価期末の集中作業を分散する仕組みです。改訂会議半年1回は、ステップ6で固定したサイクルを継続するための装置となります。

3点をカレンダーに固定するだけで、形骸化の再発率は大幅に下がります。中小企業庁の「中小企業白書 2024年版」も、人材投資の継続性が中小企業の成長率を左右するデータを示しています。

社労士には『就業規則と賃金規程の整合性チェック』を依頼する

社労士の活用範囲は、評価制度の改訂に伴う整合性チェックに絞ると効果的です。就業規則・賃金規程との整合性を確認していただきます。評価ランクと昇給賞与の連動ルールを変える場合、賃金規程の改訂が必要になるケースがあります。

社労士は人事評価制度の設計コンサルというより、法的整合性の番人として活用するのが現実的です。コントリ取材では、ある活用パターンが多く伺えました。評価制度改訂の3ヶ月前に社労士に相談を始めるパターンです。ステップ5の処遇反映ルール明文化と並行して賃金規程改訂を進めるとスムーズに進みます。

厚生労働省の「職業能力評価基準」も、評価項目設計の参考として公開されています。

人事コンサルは『評価設計の改訂フェーズ』にスポットで投入する

人事コンサルは、改訂フェーズにスポットで投入するのが費用対効果が高い活用法となります。ステップ2の評価目的再定義と、ステップ3の評価項目絞り込みのフェーズが投入のタイミングです。

長期契約で評価制度の運用すべてを委ねる形は、避けたほうが無難です。コンサル費用が膨らむ割に、自社内に運用ノウハウが残らない、という弱点が出やすいものとなります。改訂時の意思決定支援に限定して活用することで、コンサル費用を圧縮しつつ、自社の運用力を高められます。

経営者コミュニティで他社の評価運用事例を聞き、自社のルールを磨く

最後に、経営者コミュニティの活用です。同規模・同業界の経営者の方々と、評価制度の運用事例を交換します。他社の試行錯誤の生情報に触れることで、自社のルールを継続的に磨いていけます。

コントリの「経営者インタビュー」でも、評価制度の試行錯誤を率直に語ってくださる経営者の方々が多くいらっしゃいます。「自社だけが苦労しているわけではない」と分かるだけでも、改訂の腰が軽くなる、と伺うことが少なくありません。一社で抱え込まず、外の事例を取り入れる姿勢が大切です。再発防止の最後の砦となります。

人事評価制度の形骸化対策に関するよくある質問

経営者の方々から多くいただく5つの質問にお答えする章です。実務寄りの問いを集めました。

評価制度の廃止判断、MBOとOKRの選び方、評価者の負担軽減、社員への説明方法、成果が出るまでの期間の5テーマです。ご自社の判断材料として、ぜひ参考になさってください。

具体的な悩みに応じて、必要な箇所からお読みいただけます。経営者の方々の現場で繰り返し出てきた問いを集めましたので、共感していただける質問もきっとあるはずです。改訂を進めるうえでの不安を解消する一助となりましたら、心より嬉しく思います。

Q 形骸化がひどい場合は人事評価制度を一旦廃止してもよいですか

結論として、完全廃止はおすすめしません。評価制度がない状態は『社長の主観で処遇が決まる』状態に戻ることを意味します。社員の納得感はかえって下がります。

現実解は、複雑な制度を一旦シンプル版に縮約してから再構築する『仕切り直し』です。評価項目を10項目以内に絞り、面談を月1回の1on1に置き換えます。これだけでも、形骸化感は3ヶ月でかなり緩和されます。廃止ではなく『最小構成への戻し』が、経営者の選択肢として現実的なのです。

Q MBOとOKR、中小企業の形骸化対策にはどちらが向いていますか

目安として、社員数50名以下であればMBOの簡素版が向きます。50〜100名規模であればOKRの導入適性が出てくる、と捉えていただけます。

MBOとは、Management by Objectivesの略です。日本語で『目標による管理』。個人目標を期初に設定し、達成度で評価する仕組みを指します。OKRとは、Objectives and Key Resultsの略です。組織の挑戦目標と日常業務を分離して運用する目標管理の手法となります。

MBOは個人目標と処遇連動が明確な反面、目標設定が形骸化しやすい弱点があります。OKRは挑戦目標と日常業務を分離できる強みがある一方、処遇反映ルールを別途設計しなければなりません。コントリ取材では、二段階アプローチが定着率の高い事例として多く挙がりました。まずMBOで評価運用を整えます。組織が安定してからOKRを部分導入する流れです。

Q 一次評価者の管理職の負担をどう軽減すればよいですか

評価業務を月1回の1on1で評価材料を積み上げる方式に切り替えるのが現実的です。年2回の集中イベントではなく分散する形となります。1on1の記録テンプレートを評価シートと連動させてください。評価期末の作業量を半分以下に抑えられます

あわせて、評価項目を10項目以内に絞ること、評価会議の時間を1人あたり10分以内に固定することも効果的です。参考になる手法もあります。チャエン氏の「ChatGPTで人事評価制度を作る方法」をご覧ください。AIツールで1on1記録の要約を半自動化する手順が紹介されています。近年は現実的な打ち手になってきています。

Q 評価制度の改訂を社員にどう説明すれば納得を得られますか

説明の順番が鍵となります。三層構造で進めるのが有効です。まず『なぜ改訂するのか』の経営課題を社長から直接共有します。続いて『何が変わるのか』を人事から具体的に伝えます。最後に『自分の評価がどう変わるのか』を一次評価者の管理職が個別に面談で説明する形です。

コントリ取材では、社長が説明会で5分話すだけで、その後の混乱が大きく減ったという事例が多く挙がりました。社員の不安の本質は『自分の処遇がどう変わるか分からない』ことにあります。個別面談で具体的に伝える工程を省かないことが重要です。

Q 評価制度を立て直してから現場の変化が見えるまで何ヶ月かかりますか

変化が見える期間は、何を見るかで異なります。面談の納得感など定性的な変化は3ヶ月が目安です。離職率や昇給配分の妥当性など定量的な変化は12ヶ月かかります。企業文化への浸透は24ヶ月が目安となります。

最初の3ヶ月で『評価面談が報告会から対話になった』と現場が感じられれば、軌道に乗っています。逆に3ヶ月経っても1on1が定着しない場合は、ステップ4の評価者トレーニングに戻る判断が必要です。変化のサインは管理職の口数に表れる、というのが取材の現場感です。

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編集部より

人事評価制度の形骸化対策は、経営者の方の意思の表明から始まる仕事だと、コントリ編集部は捉えております。

「評価で何を実現したいのか」と問う。「処遇差をどこまで広げるか」と問う。「権限をどこまで委ねるか」と問う。その問いに経営者ご自身が答えを出していくことで、制度の骨格が定まります。やがて現場の管理職と社員に伝わっていく構造です。

立て直しを成し遂げた経営者の方々の共通点も見えてきました。改訂のプロセスを社員と共有された誠実さです。「会社のあり方を変えていきたい」想いが届いた瞬間に、社員の側にも変化が訪れます。

ご自社の評価制度を見つめ直していらっしゃる経営者の方にとって、本記事が次の一歩のヒントになりましたら幸いです。コントリの「経営者インタビュー」もあわせてご覧ください。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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