
経営者保証に依存しない融資とは|個人保証を外す要件と進め方
「会社の借入に、いつまで自分の個人保証をつけ続けるのだろう」。そんな重荷を感じている経営者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。
経営者保証に依存しない融資とは、経営者個人の連帯保証に頼らず、企業の事業性や信用力を評価して行う融資のことです。国の制度改革と金融機関の意識変化により、中小企業にとっても現実的な選択肢へと近づいてきました。個人保証を外す鍵は、財務の透明性・事業の説明力・国の新しい制度をうまく使うことの3点。この掛け合わせが、重荷をほどく力になります。
本記事で扱うのは、制度の全体像・個人保証を外すための要件・融資を受けるための実践ステップ・よくある誤解の4つ。経営の重荷を軽くするヒントとして、お役に立てれば嬉しく思います。
経営者保証に依存しない融資とは
経営者保証に依存しない融資とは、経営者個人の連帯保証を前提とせず、企業そのものの事業性や信用力を評価して行う融資です。個人のリスクを切り離し、経営に集中できる環境を整える考え方といえます。
経営者保証が抱えてきた問題
経営者保証とは、会社の借入に対して経営者個人が連帯して返済義務を負う仕組みです。会社が返済できなくなれば、経営者個人が自宅や私財で肩代わりする責任を負います。
この仕組みは、思い切った設備投資をためらわせたり、円滑な事業承継を妨げたりする要因になってきました。私自身、経営者の方への取材を重ねるなかで、「保証が重くて次の一歩を踏み出せない」という声を何度も伺ってきました。個人保証は、経営者の挑戦を静かに縛る鎖になりがちだったのです。
後継者候補が「保証を引き継ぎたくない」と承継をためらう、という話も珍しくありません。経営者保証は、会社の未来にまで影を落とす課題だったといえます。
「依存しない融資」が広がる背景
近年、経営者保証に依存しない融資が急速に広がっています。背景にあるのは、国の制度改革と、金融機関の融資姿勢の変化です。
経済産業研究所(RIETI)が開いた政策シンポジウム「変わる融資慣行、試される現場力」でも、保証に頼らない融資慣行をどう根づかせるかが正面から議論されました。融資の現場が、確実に変わりつつある証といえるでしょう。
金融機関にとっても、保証頼みではなく事業を見極める力が問われる時代に入りました。担保・保証という「過去」ではなく、事業の「未来」で判断する。そんな転換が進んでいます。
国の後押し——経営者保証改革プログラムと企業価値担保権
個人保証に頼らない融資を制度面で後押ししているのが、経営者保証改革プログラムと企業価値担保権です。国をあげて、中小企業の資金調達の選択肢を広げようとしています。
経営者保証改革プログラムとは
経営者保証改革プログラムとは、金融庁・財務省・経済産業省が2022年12月に公表した、個人保証への過度な依存を減らすための施策パッケージです。金融機関に対し、保証を求める場合はその理由を具体的に説明するよう促す内容が柱になっています。
中小企業の財務チャンネルの解説「経営者保証改革プログラムが発表されました」でも、金融機関側の説明義務が強化された点が要点として挙げられています。「なんとなく保証をつける」ことが許されにくくなった、という変化です。
経営者にとっては、保証を求められた際に「なぜ必要なのか」を尋ねる根拠ができたことになります。対話の主導権を、経営者側にも取り戻す一歩といえるでしょう。
企業価値担保権という新しい選択肢
企業価値担保権とは、不動産などの有形資産ではなく、企業の事業全体(のれんや将来の収益力を含む)を担保にできる新しい制度です。担保となる土地や建物が乏しくても、事業の将来性で資金を調達できる道を開きます。
金融庁チャンネルが公開する「企業価値担保権プロモーション動画」でも、成長性のある企業の挑戦を支える仕組みとして紹介されています。私がスタートアップ的な事業を営む経営者の方に伺った際も、「土地がなくても事業で評価される時代が来た」と期待の声が聞かれました。
無形の価値が評価される制度は、知恵と技術で勝負する中小企業にとって、大きな追い風。担保に縛られない資金調達への扉が、少しずつ開かれています。
事業性評価融資という中心的な仕組み
経営者保証に依存しない融資の中心にあるのが、事業性評価融資です。担保や保証ではなく、事業の中身と将来性で融資を判断する考え方が土台になっています。
事業性評価融資とは何か
事業性評価融資とは、決算書の数字や担保だけでなく、事業の内容・強み・成長性を総合的に評価して行う融資のことです。例えば、独自の技術や安定した取引基盤といった「決算書に表れにくい価値」も判断材料になります。
赤沼慎太郎さんのチャンネル「事業性評価融資とは?〜担保・保証に頼らない融資判断〜」では、金融機関が事業の実態をどう見るかがわかりやすく解説されています。数字の裏にある「稼ぐ仕組み」を見る融資、と捉えるとイメージしやすいでしょう。
この仕組みは、財務内容だけでは評価されにくかった企業に光を当てます。自社の強みを言葉にできる経営者ほど、評価の土俵に乗りやすくなる時代といえるでしょう。
金融機関は何を見ているのか
事業性評価で金融機関が見るのは、大きく分けて「事業の将来性」と「経営者の姿勢」です。市場での立ち位置、取引先との関係、そして経営者がどこまで自社を語れるかが問われます。
事業性評価で金融機関が見る4つの視点
経営者保証に依存しない融資では、財務数値だけでなく「事業の将来性」と「経営者の姿勢」が問われます。
市場での立ち位置
属する市場の規模や成長性の中で、自社がどの位置にいるかを示せるか。
独自の強み
他社と差がつく技術・ノウハウ・顧客基盤など、選ばれる理由を明確にできるか。
取引基盤の安定性
主要取引先との関係が継続的で、収益の土台が安定しているか。
経営者の説明力
自社の現状と将来像を、経営者自身の言葉でどこまで語れるか。
※ 事業性評価は、財務データに加えて事業内容や将来性を含めて総合的に判断する考え方です。
大切なのは、これらを金融機関に「伝わる形」で示すことです。優れた事業でも、説明できなければ評価されにくいのが現実。伝える準備こそが、保証に依存しない融資への第一歩になります。
個人保証を外すための要件
経営者保証を外すには、いくつかの要件を満たすことが求められます。中でも軸になるのが、経営者保証ガイドラインが示す3つの要件です。自社がどこまで近づけているかを確認しながら読み進めてください。
経営者保証ガイドラインの3要件
経営者保証ガイドラインとは、日本商工会議所と全国銀行協会が策定した、保証のあり方に関する自主的なルールです。ここでは、保証を外すための3つの要件が示されています。
3つの要件を、自社チェックの目安とあわせて整理しました。
| 要件 | 内容 | 自社チェックの目安 |
|---|---|---|
| (1) 法人と個人の分離 | 会社と経営者の資産・経理が明確に分かれている | 役員貸付・私的流用がない |
| (2) 財務基盤の強化 | 返済能力を裏づける財務内容がある | 安定した利益・自己資本がある |
| (3) 適時適切な情報開示 | 金融機関へ経営状況を継続的に開示している | 試算表・資金繰り表を定期提出 |
3要件のすべてを一度に満たす必要はありません。まずは自社が満たせている項目を確認し、足りない部分から手をつけていく姿勢が現実的です。
法人と個人の資産・経理を分ける
3要件のなかでも、とくに入り口となるのが「法人と個人の分離」です。会社のお金と経営者個人のお金が混ざっていると、金融機関は事業単体の実力を評価できません。
例えば、役員貸付金が膨らんでいたり、会社の口座から私的な支出が出ていたりすると、分離ができていないと見なされます。まずは、こうした「混ざり」を解消することが出発点です。
分離は、特別な財務改善というより「けじめ」の問題でもあります。会社と個人の線引きを明確にすることが、保証を外す土台。地味ですが、最も効く一歩といえます。
融資を受けるための実践ステップ
要件を理解したら、次は具体的な行動です。財務の透明性を高め、金融機関と対話し、必要に応じて専門家に相談する。この3ステップが、保証に依存しない融資への近道になります。
財務の透明性を高める
第一歩は、財務の透明性を高めることです。月次試算表や資金繰り表を整え、自社の数字をいつでも説明できる状態にしておきます。
数字が見えることは、金融機関にとって安心材料になります。逆に、決算のときだけしか数字が出てこない会社は、事業性の評価が難しくなりがちです。見える化は、保証を外すための最も基本的な準備といえます。
難しく考える必要はありません。まずは毎月、試算表を出して前年と比べる。その積み重ねが、信頼という資産に変わっていきます。
金融機関と継続的に対話する
次に、金融機関と平時から対話することです。融資が必要になってから駆け込むのではなく、日頃から自社の状況を共有しておく姿勢が効いてきます。
元日本政策金融公庫の融資課長・上野光夫氏のチャンネル「経営者保証なしで融資を受ける方法」でも、金融機関との信頼関係の積み重ねが鍵として語られています。私が取材した経営者の方も、「四半期ごとに業績を報告するようにしたら、保証の話が前向きに動いた」と話していました。
よい情報だけでなく、課題も率直に伝える。その誠実さが、かえって信頼を育てます。対話の質と量が、融資条件を左右する時代です。
専門家に相談する
第三に、自社だけで抱え込まず、専門家に相談することです。税理士・中小企業診断士・商工会議所など、身近な相談先が数多く存在します。
専門家は、財務の改善点を整理したり、金融機関との橋渡し役を担ったりしてくれる心強い存在です。外部の視点が入ることで、自社の強みや課題が言語化され、説明力も磨かれていくでしょう。
一人で悩み続けるより、頼れる相手と一緒に考えるほうが道は開けやすいもの。専門家の力を借りることは、決して遠回りではありません。
よくある誤解と注意点
経営者保証を外すことには誤解もつきものです。最後に、判断を誤らないための注意点と、複数行取引の考え方を確認します。核心は「保証なし=審査が甘い」ではないという点です。
「保証なし」は「無審査」ではない
最も避けたい誤解は、「保証がなくなれば審査も甘くなる」という受け止めです。実際には、保証がない分、事業の将来性や財務の透明性がより丁寧に見られます。
つまり、保証を外すことと、融資が楽になることはイコールではありません。保証なしの融資ほど、事業の説明力が問われるという現実があります。準備を怠れば、かえって厳しく見られる場面も出てきます。
保証を外すゴールは「楽をすること」ではなく、「事業で正当に評価されること」。その本質を、冷静に押さえておきたいところです。
複数の金融機関と付き合う視点
もう一つの論点が、複数の金融機関との付き合い方です。爆アゲ税理士チャンネルの「複数銀行に浮気しても大丈夫?」でも、複数行取引をめぐる不安が取り上げられています。
結論からいえば、複数の金融機関と健全に付き合うこと自体は問題ではありません。むしろ、資金調達の選択肢を広げ、環境変化への耐性を高める効果があります。大切なのは、それぞれと誠実な関係を築くことです。
ただし、各行への情報開示に一貫性がないと、かえって信頼を損ないます。どの金融機関にも、同じ姿勢で向き合う。その一貫性が、長い関係を支えます。
よくある質問(FAQ)
Q. 経営者保証に依存しない融資とは何ですか。
経営者個人の連帯保証に頼らず、企業の事業性や信用力を評価して行う融資のことです。国の経営者保証改革プログラムや企業価値担保権、事業性評価融資の広がりにより、中小企業にとっても現実的な選択肢になりつつあります。
Q. 経営者保証を外すにはどんな要件が必要ですか。
経営者保証ガイドラインは、(1)法人と経営者の資産・経理の分離、(2)財務基盤の強化、(3)適時適切な情報開示、という3つの要件を示しています。これらを満たすほど、保証解除や無保証融資に近づきやすくなります。
Q. 企業価値担保権とは何ですか。
不動産などの有形資産ではなく、企業の事業全体(のれんや将来収益力を含む)を担保とする新しい制度です。金融庁が推進しており、成長性はあるが担保に乏しい企業の資金調達を後押しする枠組みとして期待されています。
Q. 保証を外すと審査は甘くなりますか。
いいえ。保証がなくなる分、事業の将来性や財務の透明性がより丁寧に見られます。「保証なし=無審査」ではなく、事業の中身を説明できる準備がこれまで以上に大切になります。
Q. まず何から始めればよいですか。
月次試算表や資金繰り表を整え、財務の透明性を高めることから始めるのがおすすめです。そのうえで金融機関と平時から対話し、必要に応じて税理士や中小企業診断士に相談すると、保証に依存しない融資への道が開けやすくなります。
経営者保証は、長く中小企業経営者の肩に重くのしかかってきました。取材の現場で伺ってきたのは、「保証さえなければ、もっと挑戦できるのに」という切実な想いです。国の制度改革は、その想いに応える大きな一歩といえます。
法人と個人を分け、数字を見える化し、金融機関と対話を重ねる。小さな積み重ねが、やがて保証の鎖をほどく力になります。あわせて、事業承継の進め方や中小企業の資金調達の基本、事業性評価と融資の記事も、これからの経営のヒントとしてご覧いただけたら嬉しく思います。

