「全部、自分でできる」と思っていた経営者が、50歳で手放したもの——任せて、人が育つと気づくまで

「失敗してもいいから任せないと、人は育たない」——。

穏やかに、しかし確信を持った口調でそう語るのは、アズウェル株式会社の代表取締役・鷹羽浩介氏です。アズウェルは、戸籍や選挙、年金、医療など、市役所の根幹を支えるシステムを手がける会社。2012年に名古屋で創業し、今年で14年目を迎えます。社員はまもなく60名、売上は7億円規模です。ただ、数年前までの鷹羽氏は、「何でも自分でできてしまう」がゆえに、仕事を人に任せられない経営者でした。そんな鷹羽氏が、50歳になった今、ようやくその手を開けるようになったといいます。何が、頑なだった経営者を変えたのか——その歩みを伺いました。

名古屋ではトップ、東京では井の中の蛙——視座が変わった50歳の現在地

穏やかな表情で、鷹羽氏はこの数年の自分を振り返ります。「名古屋にいて2億、3億ぐらいの企業をやっていたら、ある程度トップラインに到達してしまうんです。地方で10億やっていたら『すげえな』となる。でも東京に来たら、自分なんてまだまだ小さな存在だと感じました」

名古屋で創業した鷹羽氏は、その後、大阪、東京、福岡へと拠点を広げてきました。自治体の仕事は、その地域に人がいないと進めにくい。だからこそ、各地に拠点を構える必要があったといいます。そして東京に出てみて、人や情報、企業とのつながりが一気に広がると同時に、自分の「内面的な弱さ」を突きつけられました。

「横を見たら、自分よりずっと大きな器の経営者がいるじゃないかと。背伸びして本当に追いつけるのかと考えたとき、自分の弱さがすごく見えてきたんです。これをどうにかしなければと思って」。そこで鷹羽氏が始めたのが、毎朝「こうなりたい」という願望を書き留める習慣でした。「自分を一番認めてあげられるのは、自分じゃないですか。『今日もポジティブで行こう』と書くと、少しだけ気持ちがそっちに向くんです」。経営者の団体にも加わり、数年かけて内面を変えていきました。その間に、売上は前年比でおよそ130%に伸び始めたといいます。

「社長がスーパーマンだから」——社員の一言が解いた“何でもできる”の思い込み

少し苦笑いしながら、鷹羽氏は創業当初の自分を「もう、勢いだけで突っ走っていましたね」と明かしてくれます。「起業したときって、みんな手探りで、経験を積むしかないと思ってやっているんですよね」。当時、名古屋では売上はほぼ地元一番、年収も四千万円近く。「少しずつ欲が出てくる」なかで、何より厄介だったのは、自分が何でもできてしまうことでした。

現場の作業も、市役所の担当者と話して納得してもらうことも、自分ならできる。だからこそ、思うように動けない社員に「なんでこんなに時間がかかってるの」と問い詰めてしまう。そんなある日、一人の社員から、忘れられない一言が返ってきました。「『社長がスーパーマンだから全部できると思ってるんです。でも僕らは今、学ばせてもらってます』と言われて。そのとき、自分を改めなければと思ったんです」

それでも、すぐには変われませんでした。ある社員が「お見合いパーティに行くので休みます」と有給を申請してきたとき、現場の仕事に追われていた鷹羽氏は、正直イラッとしたと打ち明けます。「『自分はこうやって動けるのに、どうしてみんなは』という気持ちがありました。でも、それは給料の差、経験の差なんだと、ようやく分かってきたんです」。その社員は、結局辞めてしまいました。「自分の態度ひとつで、社員との関係は変わってしまう。今思えば、ずいぶん独りよがりだったんですよね」。声のトーンを落として、鷹羽氏はそう続けます。

「社長、先行ってください」——任せることで、人が育つと気づいた8年目

転機は、創業から8年、9年が過ぎた頃に訪れました。それまで現場の実務と経営を一人で抱えていた鷹羽氏が、ようやく「人に任せ、お願いする」ことを覚え始めたのです。

決定的だったのは、ある執行役員の一言でした。鷹羽氏は目を細めながら、そのときのことを教えてくれます。「あいつが『社長、先行ってください』と言ってくれたんです。『現場は僕らが見ていくので、社長はどんどん次のステージに進んでください』と。そこからですよ」。会社にとっての売上の意味、社員一人ひとりに払う給料の重み、「何のために稼ぐのか」——そうした考え方を、ここから根本的に変えていきました。

それでも、と鷹羽氏は正直に続けます。「今でもイラッとしますし、ヒヤッとすることもあるんですよ。『自分がやった』という手応えも、すごく欲しい人なので。僕は承認欲求の塊なんです」。けれど、自分が認められることよりも、それを人にしてあげることで相手が喜ぶのなら、その方がいい——そう少しずつ思えるようになってきたといいます。「失敗してもいいから任せないと、人は育たない。今さらですけど、50歳になってようやく気づいたんです」

かつての鷹羽氏は、目の前のことしか見えない「虫の目」でした。それが、空から全体を見渡す「鳥の目」へと変わり、会社の全体像を描けるようになってきた。「いいメンバーに恵まれたのが、まず大きい」と鷹羽氏は言います。会社が安定してきたからこそ、本拠地を離れても、自分は新しいものを見に行ける。「それは、支えてくれる会社とメンバーがいるからです」。

祖父の介護と、あえて選んだ「嫌いな道」——責任感の原点

鷹羽氏の根っこにある強い責任感は、幼い頃の家庭環境で育まれたようです。生まれ育ったのは、愛知県大府。「鷹羽」という姓が地元に多く、9代続く家系で、「家を守る」という感覚が身近にありました。祖父は脳梗塞で半身が不自由になり、母がつきっきりで介護をしていたといいます。鷹羽氏自身も、小学校5、6年の頃には祖父の身のまわりの世話を手伝っていました。「祖父は、たまに将棋をすると喜んでくれました」。幼くして人を支える側に回った経験が、責任感の原点になっているようです。

その責任感は、進路選びにも表れます。野球に打ち込み、中学では柔道を始めた少年が、卒業後に選んだのは、なんと「一番嫌いな道」でした。本当は車の整備や料理が好きだったといいます。それでも、あえて苦手なコンピュータを選んだのには、理由がありました。「好きなことで失敗したら、立ち直れないだろうなと思って。だから、あえて一番苦手なコンピュータを選んだんです」。専門学校のHALで、Windows 95が登場する直前の時代からパソコンに触れ続けてきた。それでも鷹羽氏は、笑いながら言い切ります。「正直、コンピュータは大嫌いですよ」。好きなことに逃げず、あえて険しい道を選ぶ——その自分への厳しさは、今の経営姿勢にも通じているように見えます。

進学先を地元に決めたのも、妹2人を抱える家計を思ってのことでした。そして、こうした判断の根っこには、いつも父の存在があったといいます。「父は、絶対の存在なんです。母には相談しますが、父にはきちんと筋を通そうと考えるタイプで」。家族に筋を通し、自分の責任を引き受ける——鷹羽氏の芯にある生き方は、この家庭のなかで形づくられていきました。

止めてはいけないインフラ——「安心・安全・信頼」に込めたものづくりの心

アズウェルが手がけるのは、戸籍、選挙、年金、医療といった、市民の暮らしを生涯にわたって支えるシステムです。「自治体の仕事は、必ず個人情報に直結します。市民一人ひとりの生活に関わるので、絶対に止めてはいけないインフラだと思っているんです」。少し力を込めて、鷹羽氏はその責任を語ります。

ITは、目に見える「モノ」が残らない仕事です。それでも鷹羽氏は「自分はものづくりが好きなんです」と言い切ります。「形のあるなしにかかわらず、これはものづくりだと思っている。お客様からの『ありがとう』や、人に認められること——それが『自分はここにいていいんだ』という証明になるんです」。だからこそ、システムを納めるときは、とにかく慎重を期します。データに食い違いがないかをすべて確認し、お客様に作業の過程と結果を見てもらい、納得を得てから本番を動かす。「時間はかかりますが、安全性も信頼性も、そこで担保していました」。

事前のヒアリングで、鷹羽氏が大切にしている言葉として挙げたのが「安心・安全・信頼」です。きっかけは、よく耳にする「安心・安全・安価」という言葉への違和感でした。「その『安価(=安さ)』が、どうもしっくりこなくて。安くなくても、安心で安全で、信頼できる製品をつくれれば、日本国内でもちゃんと戦えるはずだと思うんです」。アジアを訪れるたびに感じるのは、特に中国が、日本ならではのもてなしや思いやりを学ぼうとしている姿だといいます。「それは、日本人が生まれ持ったよさ。だから、僕らがそこを大事に磨いていきたい」。社員には、目標を書き出すシート「マンダラチャート」(大谷翔平選手が高校時代に使ったことで知られます)に取り組んでもらい、鷹羽氏自身も創業11年目頃から書き始めました。その中心に置いた言葉は、「ラブ・アンド・ピース」でした。

マイナス4000万円のコロナ禍——「自分が我慢すれば」から抜け出すまで

14年のなかで「いちばん苦しかった」と即座に答えが返ってきたのが、コロナ禍です。流行の最先端だったデルタ株に、鷹羽氏自身が真っ先に感染しました。「家族から白い目で見られて、子どもたちにも辛い思いをさせたなと」。会社の業績も大きく落ち込み、コロナの翌年にあたる9年目には、4000万円の赤字を出します。「『自分は何をしたらいいんだろう』と、途方に暮れました」。

それまで会社に蓄えてきた利益があったため、経営が立ち行かなくなる事態は避けられました。それでも、心はすり減っていきます。「正直、そのとき社員に当たってしまったんです。『なんでやってないんだ』と。そうしたら、相手を追い詰めてしまった」。それでも賞与は出しました。そして「自分さえ我慢すれば、どうにかなる」と、ひたすら耐えたといいます。今も鷹羽氏が大切にしているのは、「経営は耐える力」という言葉です。一度は辞めていった社員が、その後に会社が伸びる姿を見て「戻ってきたい」と言ってきたこともありました。それでも、採用は社員に委ねます。「現場で一緒に働くのは、僕じゃなくて社員ですから。一緒に働く仲間を採るなら、君がしっかり見てきてほしい、と」。手放すという姿勢を、ここでも貫いていました。

20年後の日本のために——息子の世代に希望を残すというビジョン

鷹羽氏のまなざしは、自社の数字の先にある「20年後、30年後の日本」へと向かっています。「30年後、僕は80歳で、ちょうど今の父と同じ年齢になる。そのとき、日本はどんな国になっているんだろうと考えるんです」。まっすぐ前を見つめて、そう語ります。一番下の息子は14歳。30年後には、鷹羽氏が起業した36歳に近い年齢になります。「そのとき、笑っていられる国であってほしいんです」。

「メイド・イン・ジャパン」が世界のトップだったのは、バブルの頃。その思い出に頼るのではなく、今あらためて「日本のものづくりは強い」という実感を取り戻したい——だから「社会のインフラをつくりながら、日本という国の土台を支えていきたい」と語ります。具体的な目標は、自社製品を持つ「メーカー」になること。全国に約1700ある市町村のうち、700にアズウェルの自治体向け製品を導入できれば、会社の社会的な存在感も、社員の誇りも大きく変わると信じています。

その入り口になるのが、採用です。採用ページのキャッチコピーを「インフラを止めない」「当たり前を止めない」に変えたところ、中途・新卒ともに応募が増え、2025年10月からの1年で15人ほどを採用。長らく越えられなかった「社員50人の壁」を突破しました。「面接で『給料は見ていませんでした』と言う人がいて、衝撃を受けたんですよ。そういう熱量を持った人に、もっと出会いたい」。会社が10年続いたとき、起業を「お前には無理だ」と言っていた父に報告すると、「まあ、すげえな」と返ってきた。「自分が認められた一つの結果かなと思って、本当に嬉しかったです」。鷹羽氏は軽やかに笑います。「挑戦できる組織をつくって、次の世代を育てていきたい。そういうことを語れる大人になりたいんです」。

コントリからのメッセージ

「横を見たら、自分よりずっと大きな器の経営者がいる」——印象に残るのは、鷹羽氏のこの一言です。何でも自分でできてしまう経営者ほど、人に任せることができない。けれど鷹羽氏は、社員の一言と、執行役員の「社長、先行ってください」という言葉を受け止め、承認欲求の強い自分を認めながら、今度は人を認める側へと回っていきました。語られているのは自治体システムという専門的な仕事の話のようでいて、その本質は、多くの経営者が一度はぶつかる「手放す勇気」という普遍的なテーマです。

「経営は耐える力」と語り、「失敗してもいいから任せないと、人は育たない」と言い切る。その変化はまだ途中で、ご本人も「まだまだです」と笑います。だからこそ、「自分が動かないと会社が回らない」と感じている経営者にこそ、ぜひ一度、鷹羽氏の話を聞いてみてほしいと思います。

プロフィール

アズウェル株式会社
代表取締役
鷹羽 浩介(たかば こうすけ)

1976年、愛知県大府市生まれ。コンピュータ専門学校HALを卒業後、IT系企業に14年間勤め、システム開発から提案・営業まで幅広く経験する。リーマンショック後、月180時間を超える残業と手取り約20万円という環境のなかで「自分の価値とは何か」を問い直し、2012年にアズウェル株式会社を創業。戸籍・選挙・年金・医療など、市民の暮らしを支える自治体向けシステムを軸に、公共・民間・デザインの3部門を展開する。名古屋を本拠に大阪・東京・福岡へ拠点を広げ、社員約60名・売上7億円規模へと事業を育てる。3児の父。座右の銘は「日々感謝、成長、未来創造」。趣味はガンプラと人間ウォッチ。

ギャラリー

会社概要

会社名アズウェル株式会社
設立2012年10月1日
資本金3,000万円
本社所在地〒450-0003 愛知県名古屋市中村区名駅南1-16-28 EDGE名駅9階
従業員数57名(2026年9月末に60名を計画)
事業内容①公共システム部門(戸籍・選挙・年金・医療など行政インフラシステムの開発・運用保守)②民間システム部門(カスタムシステム開発、自社製品「文書管理クラウド」「IT代行サービス」ほか)③デザイン部門(設計・企画・クリエイティブ制作)
コーポレートサイトhttps://www.as-well.co.jp/
採用サイトhttps://as-well-recruit.com/

関連記事一覧