
1ヶ月で8.5億円の損失。債務超過から売上91億へ——「支えられる経営者」のつくり方
「綺麗事ではなく、事業として成立させる」——。
穏やかな口調で、しかし確信を持ってそう言い切るのは、株式会社NEXT ONE代表取締役の斉藤徹氏です。24歳で創業し、電力小売「新日本エネルギー」を中心としたコンシューマープラットフォーム事業で全国約7万5000世帯に電力を供給する一方、一度は電力の高騰により1ヶ月で8.5億円の損失を出し、3.5億円の債務超過に陥った経験を持ちます。それでも前期(2025年)の売上は91億円。
なぜ、一度は大きな経営危機を経験した経営者が、今あえて障害者雇用支援という社会課題に向き合い、事業として成立するモデルづくりに挑むのか。その問いの奥にあった経営哲学を、農園の緑に囲まれながら伺いました。
1ヶ月で8.5億円の損失——売上17億の会社を襲った「事故」
NEXT ONEの中心事業は、自社の電力小売「新日本エネルギー」です。きっかけは、斉藤氏がたどり着いた4つのキーワードでした。
斉藤氏は当時を振り返ります。
「市場規模が大きいこと、市場成長性があること、ストックが大事であること、そして自社の社員が誇りに思えるサービスであること。この4つすべてが交差するものとして、電力小売を始めたんです」
2019年、もともと訪問販売の営業会社だった強みを生かし、電力を「売る」ことから事業は走り出しました。しかし、電気は売るだけでは成立しません。販売する分の電力を、日々JEPX(日本卸電力取引所)から仕入れる必要があったのです。
「2016年の規制緩和で始まった、まだ3年しか経っていない市場でした。どのくらい価格が上がるか、誰も予測できない状況だったんです」と斉藤氏は説明してくれました。
そして2021年1月、その市場価格が普段の20倍、30倍に高騰します。仕入れ値は跳ね上がるのに、お客様への売価は変えられない。差分はすべて自社で負担するしかありませんでした。
「売上17億円の会社だったにもかかわらず、たった1ヶ月で8.5億円の損失を出してしまったんです」。少し声のトーンを落として、斉藤氏は続けます。
「それまで14年かけて積み上げた純資産5億円が一瞬でなくなり、3.5億円の債務超過に陥りました」
友人たちは「徹さんは悪くないよ、事故だよ」と慰めてくれたといいます。それでも斉藤氏の胸に残ったのは、別の感情でした。

嘘であってほしかった半年間——債務超過を受け入れるまで
「本質的には、自分の経営が甘かったんだと感じました」。重い口調で、斉藤氏は当時の心境を打ち明けてくれます。税引後で5億円もの純資産が消え、残ったのは借金。その現実を受け入れるまで、半年ほどかかりました。
「深酒をして、朝起きると現実に戻る。夜になるとまた現実逃避でお酒を飲む。嘘であってほしいと思う日々でした」
主観の沼に沈みかけた斉藤氏を引き上げたのは、社員や外部の支援者の存在でした。客観的に自分を見られるよう、周囲が言葉をかけ続けてくれたのです。そして、3.5億円の債務超過は、高騰のあった同じ年の12月には返済されました。
ここで斉藤氏が強調するのは、「返したのは自分ではない」という事実です。
「社員自身が動いてくれたんです。もともとセールスの会社だったので、彼らが光ファイバーの営業に戻って、フロービジネスで返してくれた。あの姿を見たとき、自分の気持ちは本当に救われました」
潰れかけた会社に残り、逃げずに借金を返そうと走り続けた社員たち。その背中が、斉藤氏の経営観を根本から変えていきます。
「自分が動く」から「承認する側」へ——17億から91億への転換点
債務超過を経験するまで、斉藤氏には拭えない感覚がありました。社員を、心の底から100%は信用しきれない自分がいたのです。
「私は代表取締役で連帯保証もしていて、会社が大変なことになっても逃げ道がない。でも社員は転職という逃げ道がある。それ自体は悪いことではないんですが、どうしても温度差を感じていて、彼らに任せきることが100%できていなかったんです」
その壁を壊したのが、債務超過からの返済でした。自分が動いたのではなく、社員自身が動いてお金を返した——その経験が、斉藤氏の役割を変えます。
「私が意思決定する経営から、彼ら自身が現場で意思決定を下し、私はそれを承認する側に回る。役割そのものが変わったんです」
力強く、斉藤氏は言葉を継ぎます。
「2021年に17億円だった売上が、前期の2025年には91億円まで成長できました。おそらく、その意思決定の権限移譲ができたことが大きかったんだと思います」
危機が、任せられなかった経営者を「任せる経営者」へと変えた。5倍を超える成長の裏には、そんな転換がありました。

弱みは、言えるようになると強みに変わる——支えられる状況のつくり方
なぜ斉藤氏は、債務超過という最悪の局面で人に支えてもらえたのか。本人はその理由を、自身の性格に求めます。
「私は結構、自分をさらけ出すんです。『今、債務超過です』『会社が潰れかけています』と本音を周りに言えてしまうタイプ。だから腫れ物に触るような距離が生まれにくかったんだと思います」
この姿勢は社員に対しても同じだといいます。斉藤氏は穏やかな表情で語ります。
「『自分にはできないから、君に頼んでいる』。前提は自分にできないからなんです。それを正直に言う。弱みって、人に言えないから弱みであって、言えるようになると強みに変わるんですよ」
斉藤氏を支えたのは社員だけではありません。社外には、株主となってくれている方が約30人。主に60代・70代で、日本国民の8割が認知しているような方が多いといいます。中でも、おすすめの一冊に挙げる『たった一人の熱狂』の著者でもある幻冬舎の見城徹氏には、当時から深く支えられました。
「朝昼晩と、『生存確認、起きているか、飲みすぎていないか』と連絡をいただいていました」と、斉藤氏は少し照れたように明かしてくれました。
その株主たちには、相談ではなく報告と連絡をほぼ毎日続けているといいます。
「私が赤信号を渡ろうとしているとき、止めてくれるんです。日々共有しているから、いざ相談するときも話が早い。そういう環境に、自分を置くようにしています」
座右の銘は「先義後利」。人が困っているときに手を差し伸べてもらえる状況は、自分の日々の行いでつくる——斉藤氏の言葉には、その実感が滲んでいました。
究極の自己満足は、人の喜び——300件のピンポンが教えたこと
「人に支えられる状況をつくる」という発想の原点は、営業マン時代にありました。意外なことに、斉藤氏は営業を「向いていない」と思っていたといいます。
「やりたくなかったんです。たまたま訪問販売に配属になって、ずっと辞めたいと思いながら続けてきました」。苦笑いしながらそう振り返る斉藤氏ですが、踏みとどまった理由は明確でした。
「仕事は向き不向きじゃなく、慣れるもの。それに、ここで辞めたら次の課題でもまた逃げる癖がつく。そう思って自分を踏みとどまらせたんです」
1日に押すインターホンは、300件から400件。その日々の中で、斉藤氏はある接客哲学を育てます。
「ご在宅の方は、誰かと本質的に話したいと思っている人が多いんです。私たちが売っていたものは、月々50円か100円しか下がらない。それでも、お伺いした時間がお客様にとってハッピーになる接客ができたなら、それが対価だと思っていました」
噛みしめるように、斉藤氏は言葉を選びます。
「『あなただったから契約したよ』と言われるのが、すごく嬉しかった。究極の自己満足は、人の喜びなんです。それが私のモチベーションの源泉でした」
この「人のため」という感覚は、生い立ちにも根ざしています。三人兄弟の末っ子として比較的自由に育ち、創業資金の500万円は自分で貯め、借金をせずに起業しました。「徹」という名前は、優柔不断だった父が「自分の意思を通せる人間になってほしい」と願ってつけたものだといいます。
いいやつか、素直か——スキルで人を採らない理由
「人のため」を信条とする斉藤氏の哲学は、採用と組織づくりにもそのまま貫かれています。
NEXT ONEの仕事は、ほぼすべてが未経験から始まると斉藤氏は言います。電力も障害者雇用も、経理も人事も、全員が未経験のスタートです。
「『人間に不可能はない』と私自身が信じているから、経験者じゃなくてもいいという認識でできる。だから人を先入観で見ないんです」
では、何を見て採用するのか。答えは、即座に返ってきました。
「『いいやつかどうか』と『素直かどうか』。この2つだけです。スキルでは採用していません」
斉藤氏が新卒と役職者以上の面接を担当し、スキル面は別の担当が見る。基準をシンプルにしているのには理由があります。
「社員に、人間関係で悩んでもらいたくないんです。給料や待遇、業務内容よりも、人間関係がうまくいっていれば、そんなに悩むことはないと思うので」
一方で、評価には一切の甘えを持ち込みません。評価は結果主義。職種ごとに四半期ごとの達成状態を明確に伝え、異論のない状態を作ってから評価します。属人化は排除し、仕組み化・効率化・DX化を進め、人が介在しなくていいところは介在させない。それでも、斉藤氏が大切にするのは「人」です。ただし、その優しさには定義があります。
「表面的な優しさと、本質的な優しさがあると思っていて。本質的な優しさは、居心地のいい場所を作ることではないんです。彼らが成長できる環境、成長できる負荷をかけられる環境をいかに作れるか。だから表面的な優しさは、全く求めていません」

本来やってはいけない「飛び地」へ——めぐるファームに込めた恩返し
取材場所となったのは、2024年4月に開設された障害者雇用支援の農園「めぐるファーム」でした。電力やウォーターサーバーといったBtoCの事業から見れば、農業も障害者雇用も未経験の、完全な「飛び地」です。
「経営戦略の定石は、自社の強みの延長上で考えること。本来、戦略上はやってはいけないものなんです」と斉藤氏は教えてくれました。それでも踏み込んだのは、明確な人生観があったからです。
「父が一昨年、71歳でがんで亡くなりました。私が小学生の頃、厄年の父と佐野厄除け大師にお参りに行った思い出が、今でも鮮明にあるんです。当時の父の年齢を、今の私はもう超えてしまった」。今年44歳になる斉藤氏は、静かに言葉を選びます。
「いずれ自分も死を迎えるなら、そのとき『いい人生だった』と言えるようにしたい。『この会社があってよかった』と言ってもらえる生き方をしたいんです」
ただし、感謝や理想だけで事業を選ぶわけではありません。斉藤氏が新規事業に課す基準は2つ。社会課題の解決にダイレクトにつながること、そして永続のために利益が創出できることです。「この2つが重ならない限り、進出しません」
その背景には、日本の社会課題があります。障害者手帳をお持ちの方は1000万人以上で年々増加し、企業の法定雇用率も2026年7月から2.5%が2.7%へと引き上げられます。企業によっては、業務の切り出しや設計に悩み、働く方の特性や成長機会に十分合った業務を用意することが難しいケースもあります。
めぐるファームでは、メタルラック4つを「1レーン」とし、障害をお持ちの方お一人が責任を持って担当します。第一ハウスは88レーンを備え、お声がけの増加にあわせて第二ハウスも建設中。あえてオープンで開放的な空間にし、席はフリーアドレス。人間関係のトラブルがあっても席を替えられるようにするためです。夏場には40度近くになるハウス内のために、空調服を1人1着貸し出す手配も進めていました。育てるのは、ベビーリーフ、エディブルフラワー(マリーゴールドやビオラ)、栄養価の高い葉物など。
企業からは施設利用料をいただき、働く方はその企業が雇用する——この仕組みで、障害をお持ちの方の定着率は90%以上に達しているといいます。立ち上げ期には、設備投資や仕組みづくりのための先行投資も必要です。それでも斉藤氏に迷いはありません。
「システムや仕組み、プログラムを作るまでの赤字は、喜んで出していこうと思っています」
当たり前が当たり前に実現できる社会へ
斉藤氏が見据える先には、さらに大きな構想があります。障害者雇用のマッチングプラットフォームです。
「障害の程度や個性を大事にして、企業の作業内容とマッチングさせたいんです。大きい音が苦手な方、人が多いところが苦手な方もいる。今、障害者の方の離職率は50%以上と言われますが、当社では90%以上が定着している。定着率を上げるには、いかにマッチングできる企業がいるかなんです」
支援機関、ハローワーク、学校——今は分断されている情報を統一し、自社の分析を加えて最適なマッチングを実現する。その狙いの根底には、業界構造そのものへの問題意識があります。
「福祉の業界は、構造的に儲からないから給料が安い。私たちはそれを打破したい。だから最初から『生産性を生むんだ』と決めて始めました」
めぐるファームでも、いずれ営業利益率30%を目指すといいます。クルーが作ったものを「作品」として世に届け、「美味しい」と言ってもらえることが、また次のやりがいにつながる。そんな循環の設計です。
最後に、斉藤氏は自身の信条を静かに語ってくれました。
「『弱者のマネジメント』という言い方が、あまり好きではないんです。大人が子供を守るのも、高齢者を支えるのも当たり前。当たり前のことが当たり前に実現できる社会を作りたい」
その言葉には、自らの経験が重なっています。
「私自身、債務超過で会社が潰れかけて、精神障害になってもおかしくなかった。働く上で、それは紙一重だと思うんです。だから『健常者』『障害者』という区別の付け方も、私はしていません。仕事を通じて、支えられたり支えていったりする社会を作り出せたらいいなと思っています」
綺麗事ではなく、事業として成立させる。その覚悟の先に、斉藤氏が描く「当たり前の社会」が広がっていました。
コントリ編集部から
印象に残るのは、「綺麗事ではなく、事業として成立させる」という斉藤氏の言葉です。社会課題への貢献を語る経営者は少なくありませんが、斉藤氏が一貫していたのは、それを「営業利益率30%」という収益性の基準とセットで語る姿勢でした。
1ヶ月で8.5億円を失い、3.5億円の債務超過に沈みながらも、社員と支援者の力で立ち上がり、売上91億円へ。その経験は、「自分が背負う」経営から「人に支えられ、任せる」経営への転換と、座右の銘「先義後利」の実践に結実していました。弱みをさらけ出すオープンさと、結果に妥協しない厳しさ。その両方を持つ人物像が、終始印象的でした。
危機をどう越えるか、社会性と収益性をどう両立させるか——同じ問いと向き合う経営者にこそ、ぜひ一度、斉藤氏の話を聞いてみてほしいと思います。
プロフィール

株式会社NEXT ONE
代表取締役
斉藤 徹(さいとう とおる)
1982年10月11日生まれ、千葉県出身。高校卒業後、通信関連サービス会社に営業職として入社し、トップセールスから最年少支店長へと駆け上がる。札幌支店の立ち上げを経て、2006年12月、24歳で独立創業した。光ファイバーやウォーターサーバーの販売代理でストック型の事業基盤を築き、2014年にはグロービス経営大学院でMBAを取得。2019年に自社電力小売「新日本エネルギー」を開始するも、2021年の電力市場高騰で債務超過に陥る。社員とともに再生を遂げ、売上を91億円規模へと伸ばした。2024年には障害者雇用支援の農園「めぐるファーム」を開設し、社会課題の解決と収益性の両立に挑む。座右の銘は「先義後利」。
ギャラリー


















会社概要
| 設立 | 2007年6月14日(創業:2006年12月・札幌) |
| 資本金 | 5,000万円 |
| 所在地 | 〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3-3-5 NBF渋谷イースト3F |
| 従業員数 | 50人 |
| 事業内容 | コンシューマープラットフォーム事業(電力小売「新日本エネルギー」・ウォーターサーバー・インターネット回線等) スマート農園型障害者雇用支援事業「めぐるファーム」 |
| HP | https://nx1.co.jp/ |
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