
企業価値担保権とは|経営者保証なしで事業融資を実現する2026年の新制度
「不動産を持っていないから、大きな融資は難しい」——そんな声を、経営者の方から何度も伺ってきました。企業価値担保権とは、土地や建物ではなく、事業そのものの価値(技術・のれん・顧客基盤といった無形資産を含む総財産)を一体で担保にできる新しい制度です。2026年5月に施行され、不動産担保や経営者個人の保証に頼らない資金調達の道が広がりました。
本記事では、企業価値担保権の仕組み・従来融資との違い・中小企業が活用するメリットと準備の順に、経営者の目線でわかりやすく整理します。制度の言葉は難しく見えますが、要点をつかめば「自社の将来性でお金を借りる」という発想の転換が見えてきます。少しでも次の一手の参考になれば嬉しく思います。
企業価値担保権とは|2026年5月に始まった新しい担保制度
企業価値担保権とは、企業の総財産(無形資産を含む事業全体)を一体として担保に設定できる制度です。2026年5月に施行され、不動産のような個別資産がなくても、事業の将来性を裏づけに融資を受ける枠組みが整いました。まずは制度の骨格を、従来の担保と比べながらつかみましょう。
| 比較項目 | 企業価値担保権 | 従来の不動産担保・経営者保証 |
|---|---|---|
| 担保の対象 | 事業全体(無形資産を含む総財産) | 特定の不動産・個人資産 |
| 評価される価値 | 事業の将来性・稼ぐ力 | 保有資産の担保価値 |
| 個人の責任 | 個人保証への依存を和らげる | 経営者個人が保証 |
| 施行・根拠 | 2026年5月施行(事業性融資推進法) | 従来からの融資実務 |
※出典:金融庁「企業価値担保権」制度概要 2024年公表の資料をもとに整理
企業価値担保権の定義と対象になる「事業全体」
企業価値担保権とは、会社の総財産をひとまとまりの担保として扱う権利のことです。ここでいう総財産には、機械や在庫といった有形資産だけでなく、技術・ブランド・顧客との関係性といった目に見えない無形資産も含まれます。従来は担保にしづらかった価値を、まとめて評価してもらえる点が大きな特徴です。
例えば、独自のノウハウで安定した受注を持つ製造業を思い浮かべてみてください。設備は多くなくても、技術と顧客基盤という強みが備わっています。企業価値担保権では、こうした事業の稼ぐ力そのものが担保として意味を持ちます。「担保がないから借りられない」という壁に悩んできた企業様にとって、選択肢が一つ増えたと言えます。
何が担保になるのか(無形資産を含む一体としての企業価値)
担保の対象は、個々の資産ではなく事業全体の価値です。土地・建物・設備・在庫はもちろん、契約関係やのれんといった無形の要素まで、企業活動が生み出す価値をひとつの塊として捉えます。金融庁は公式チャンネルで、企業価値担保権を「無形資産を含む事業全体を担保にできる制度」として紹介しています。
私自身、経営者の方への取材を重ねるなかで「うちの強みは人と技術。でも銀行はそこを見てくれない」という悔しさを何度も聞いてきました。元銀行員が解説する動画でも、企業価値担保権について「無形資産でもお金が借りられる時代になる」と語られています(@comtri_official でも同様の論点を発信しています)。強みが正当に評価される。そこにこの制度の意義が宿るのです。
なぜ今、企業価値担保権が必要とされるのか(背景と従来融資の限界)
企業価値担保権が生まれた背景には、不動産担保と経営者保証に依存してきた日本の融資構造への問題意識があります。土地を持たない企業や、技術・サービスに強みがある企業ほど、資金を借りにくいという現実がありました。制度はこの構造を変えるために設計されました。
不動産担保・経営者保証に依存してきた従来融資の課題
これまでの中小企業融資は、不動産担保と経営者の個人保証を軸に組み立てられてきました。この仕組みは、資産を持つ企業には有利に働く一方、成長途上の企業や無形資産型の企業には高いハードルとなってきたのも事実です。担保に差し出す土地がなければ、事業に将来性があっても融資が伸び悩む場面が出てきます。
実務家の解説でも、この構造の転換が強く意識されています。財務に詳しい税理士は「赤字でも融資可能になり得る」と、従来の発想からの変化を指摘します。別の融資専門家も「普通の融資もこう変わる」と、企業価値担保権の影響が特定企業にとどまらない点を説明しています。担保の有無で将来を狭められてきた企業に、風向きが変わりつつあります。
事業性評価融資の流れと国の政策的な後押し
企業価値担保権は、単独で登場したわけではありません。数字と事業の将来性で貸す「事業性評価融資」を広げようという、国の政策の流れの中にあります。金融機関に「決算書の担保余力」だけでなく「事業の中身」を見て融資してもらう。その受け皿として、企業価値担保権という新しい仕組みが用意されました。
背景には、経営者保証への依存を見直す長年の取り組みもありました。金融庁の統計でも、経営者保証に依存しない新規融資の割合は約5割へと高まっています(※出典:金融庁の活用実績調査 2024年公表)。国は保護から伴走へと支援の軸足を移しており、企業価値担保権はその象徴的な一手と位置づけられます。制度の詳細は金融庁の解説ページでも確認できます(金融庁「企業価値担保権」)。
企業価値担保権の仕組み|何を担保に、どう借りるのか
企業価値担保権では、企業の総財産を一体として担保に設定し、事業の将来キャッシュフローを見込んで融資が行われます。担保権者として信託会社が関わる点や、事業の継続を前提にした設計になっている点が特徴です。ここでは資金を受けるまでの基本的な流れを見ていきましょう。
企業価値担保権が設定される流れ
企業価値担保権を使う融資は、事業の将来性を説明することから始まります。決算書の数字だけでなく、どんな強みで、どう稼いでいくのかを言葉と計画で示します。その上で企業価値が評価され、担保権が設定され、融資が実行されるという段取りです。担保権の管理には信託会社が担保権者として関わる仕組みになっています。
2026年開始を解説する動画では、企業価値担保権が「中小企業の新たな資金調達手段」であると整理されています。中小企業診断士による解説でも、5月施行のこの制度が「どんな融資制度か」がていねいに説明されています。制度の入口は複雑に見えますが、核は「事業を丸ごと評価してもらう」ことにあります。
融資判断で重視される「事業の将来性」とは
企業価値担保権の審査で重く見られるのは、過去の実績以上にこれから稼ぐ力です。市場での立ち位置、顧客との関係、技術やサービスの独自性、そしてそれを支える経営体制。こうした要素を束ねた「事業の将来性」が、融資の可否と規模を左右します。
事業性融資の考え方を体系的に学べる講座動画でも、事業性融資の定義と基本理念がマスター講座として整理されています。ここで大切なのは、将来性は説明できて初めて評価されるという点です。頭の中にある強みを、数字と計画に落とし込む。この準備こそが、そのまま融資交渉の土台となって効いてきます。経営者保証の考え方は経営者保証ガイドラインの解説記事もあわせてご覧ください。
経営者保証・不動産担保との違いを整理する
企業価値担保権は、従来の経営者保証や不動産担保とは前提が異なる仕組みです。個人の資産を差し出すのではなく、事業そのものの価値を評価してもらう仕組みです。ここでは、経営者が押さえておきたい違いを、責任範囲の観点から見ていきましょう。
経営者保証との違い(個人責任の考え方)
最大の違いは、個人責任の重さにあります。経営者保証は、会社の借入を経営者個人が肩代わりして返す約束です。万一のときに個人資産まで及ぶため、思い切った挑戦や円滑な事業承継の妨げになってきました。企業価値担保権は事業全体を担保とする発想のため、従来のような個人保証への依存を和らげる効果が期待されています。
もっとも、個別の融資条件は金融機関との交渉で決まります。「企業価値担保権=経営者保証が必ずゼロ」と早合点するのは禁物です。制度の趣旨を理解した上で、自社にとって望ましい条件を対話で詰めていく姿勢が欠かせません。経営者保証を見直したい方は、後継者不在の課題とあわせて後継者不在の中小企業がとるべき対策も参考になります。
不動産担保・在庫担保との違い
不動産担保や在庫担保は、特定の資産に価値を見いだす仕組みです。土地がいくら、在庫がいくら、と個別に評価します。これに対して企業価値担保権は、資産を一つひとつ切り出すのではなく、事業が一体として生み出す価値をまとめて担保にします。だからこそ、無形資産の強みが評価の対象に入ってきます。
言い換えれば、従来は「持っているモノ」で借りていたところを、企業価値担保権では「稼ぐ仕組みそのもの」で借りられるようになったということです。設備は少なくても将来性のある企業にとって、これは大きな転換点。自社の価値をどう語るかが、これまで以上に問われます。
中小企業が企業価値担保権を活用するメリットと注意点
無形資産に強みがある企業ほど、企業価値担保権の恩恵は大きくなります。一方で、事業の将来性を客観的に説明できなければ評価は受けられません。ここでは中小企業経営者の目線で、活用メリットと見落としやすい注意点を具体的に整理します。
資金調達の幅が広がる・赤字でも将来性で評価される可能性
最大のメリットは、資金調達の選択肢が広がることです。不動産を持たない企業、創業から日が浅い企業、技術やサービスに価値がある企業でも、事業の将来性を示せれば融資の可能性が開けます。法律実務の講座動画でも、企業価値担保権の概要が事業性融資の基本理念とセットで解説されています。
見逃せないのは、赤字であっても道が閉ざされない点です。財務の専門家は「赤字でも融資可能」になり得ると指摘します。もちろん無条件ではありませんが、将来のキャッシュフローや無形資産の強みを説明できれば、評価の土俵に上がれます。目先の赤字で挑戦をあきらめてきた経営者にとって、希望の持てる制度と言えるのではないでしょうか。
利用前に確認したい注意点とリスク
一方で、注意点も押さえておきましょう。第一に、将来性は「説明できて初めて」評価されるという現実です。強みが頭の中にあるだけでは伝わりません。事業計画や数字への落とし込みが不十分だと、せっかくの制度も活かしきれません。第二に、融資条件は金融機関との交渉次第で、経営者保証が完全になくなるとは限らない点です。
また、企業価値担保権は事業の継続を前提とする制度のため、事業がうまくいかない局面では担保としての性質が前面に出てきます。制度のメリットだけでなく、責任と義務の両面を理解しておくことが大切です。判断に迷うときは、資金面のリスク管理という視点で経営者の保険の選び方もあわせて検討すると、全体像がつかみやすくなります。
企業価値担保権を使うために経営者が今から準備すべきこと
企業価値担保権は「事業の将来性」を評価してもらう制度です。そのため、日頃から自社の価値を数字と言葉で説明できる準備が欠かせません。月次決算による経営の見える化と、事業計画の言語化が、そのまま融資交渉の土台になります。今日から着手できる準備を具体的にまとめます。
月次決算と事業計画で「将来性」を説明できる状態にする
まず取り組みたいのは、月次決算で自社の数字を早くつかむことです。毎月締めて業績を把握していれば、金融機関に「今」を語れます。年に一度の決算だけでは、事業の勢いや将来性を説明しきれません。数字を味方につけること。それが将来性を語る第一歩と言えます。
あわせて、事業計画の言語化を進めましょう。どんな強みで、誰に、どう価値を届け、どう稼いでいくのか。この物語を数字と結びつけて示せる企業は、企業価値担保権の審査でも評価されやすくなります。私が取材で出会ってきた強い経営者ほど、自社の未来を自分の言葉で語れる方でした。言語化は、明日からでも始められます。
金融機関・支援機関との対話を始める
準備が整ってきたら、金融機関や支援機関との対話に踏み出しましょう。企業価値担保権は、国が進める「経営力再構築伴走支援」など、対話と傾聴で自走を促す支援の流れと重なります。制度を使う前提として、日頃から自社の事業を理解してもらう関係づくりが効いてきます。
認定経営革新等支援機関のような専門家に相談すれば、事業計画づくりや資金調達の設計を伴走してもらえます。「一人で抱え込まない」ことも、立派な経営判断。企業価値担保権という新しい選択肢を、信頼できるパートナーと一緒に検討していきましょう。承継や資金の全体設計は事業承継・M&A補助金の活用ガイドも入口として役立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q. 企業価値担保権はいつから始まりましたか?
2026年5月に施行された比較的新しい制度です。事業全体を一体で担保にできる仕組みとして、中小企業の資金調達手段の選択肢が広がりました。
Q. 企業価値担保権では経営者保証は必要ですか?
企業価値担保権は事業全体の価値を担保とする制度で、従来のように経営者個人の保証に依存しない融資が期待されています。ただし個別の融資条件は金融機関との交渉によります。
Q. 赤字の会社でも企業価値担保権は利用できますか?
過去の実績だけでなく事業の将来性を評価する考え方に立つため、赤字であっても将来のキャッシュフローや無形資産の強みを説明できれば、評価される可能性があります。
Q. どんな企業が企業価値担保権に向いていますか?
不動産などの有形資産は少なくても、技術・ノウハウ・顧客基盤といった無形資産に強みがある企業に向いています。自社の将来性を数字と言葉で説明できる準備が鍵になります。
Q. 企業価値担保権を使うには何から準備すればよいですか?
まずは月次決算で自社の数字を早くつかみ、事業計画を言語化することです。その上で、金融機関や認定経営革新等支援機関などの専門家と対話を始めると、活用の道筋が見えてきます。
お話を伺うたびに感じるのは、中小企業の本当の価値は決算書の数字だけには収まらない、ということです。技術、人、顧客との信頼——そうした目に見えない強みが、これからは融資の場面でも正当に評価されようとしています。企業価値担保権は、その扉を開く制度です。自社の未来を自分の言葉で語る準備を、今日から少しずつ始めていきましょう。コントリは、その一歩に寄り添い続けます。

