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「燃えていない自分は腐っていく」—— 失敗と挫折からたどり着いた、PRの本質と経営哲学|株式会社LITA 代表取締役 笹木 郁乃 氏

「売ることに必死になっていた頃、隣のブランドは販売員がいなくても飛ぶように売れていたんです。それが、PRという魔法を確信した瞬間でした」——。

東京・水道橋のオフィスで穏やかに語り始めた笹木郁乃氏の言葉には、エアウィーヴやバーミキュラという誰もが知るブランドの「舞台裏」を支えた経験から生まれた、揺るぎない確信が宿っていました。

2017年に設立した株式会社LITAは、現在50名以上の従業員を抱えるPR会社です。営業担当者は一人もおらず、自社のPR力だけで問い合わせが続く仕組みを体現しながら、1,600社以上の企業のPR支援と8,000名を超えるキャリア支援に携わってきました。研究開発職からの大きな転身、エアウィーヴでの苦闘と成長、そして売上の9割を手放した決断。この記事では、笹木氏の経営哲学の核心に迫ります。

研究開発職で”居場所を失った”エンジニアが、PRに出会うまで

山形大学工学部を首席で卒業し、アイシン精機(現・株式会社アイシン)に研究開発職として入社した笹木氏。輝かしいスタートに見えますが、当時を振り返ると苦笑いが漏れます。

「これほど自分の性格に合わない仕事はなかったですね」

担当したのはクッションゴムの研究開発。毎日、静かなオフィスで図面を書き、実験を繰り返す。外部との接点は材料メーカー2〜3社とのやり取りだけ。どれだけ頑張っても、その成果が誰かの笑顔として返ってくると実感したことはありませんでした。そんな環境に、笹木氏は徐々に追い詰められていきます。

「アイシン精機の時はずっと、自分がいなくてもいいな、と思っていました」

その閉塞感の正体を、笹木氏はこう言葉にします。

「自分が燃えていない時に、私はめちゃくちゃ腐ってしまうんです」

この言葉の背景には、幼い頃からの自分自身への深い洞察があります。小学3年生の時、「自主学習ノートを毎日提出し続けたらすごい人になれる」と言われ、卒業まで一日も欠かさず続けたのは笹木氏だけでした。目標があれば燃え上がり、なければ途端に腐ってしまう——そういう自分の性質を、この頃からすでに知っていたのです。

入社3年目、とうとう会社に行けなくなり、初めて精神科を受診しました。しかし医師の言葉は、思いがけず前向きなものでした。

「うつ病じゃなくて、環境が合わないだけ。変えてみたら?」

その一言が、笹木氏の人生を大きく動かします。転職活動では徹底的な自己分析を行い、仕事に求める条件が少しずつ明確になっていきました。「燃えること」「自分の頑張りが誰かの喜びにつながること」——その軸をたどって行き着いたのが、当時まだ無名だったエアウィーヴでした。

他の会社にはほぼ落ち続けるなか、高岡社長だけが採用を決めてくれました。後から聞けば「こいつ、ガッツありそう」という第一印象だったといいます。

「本当に運命が変わった出来事でした」と、笹木氏は目を細めました。

エアウィーヴで気づいた「PRという魔法」の正体

正社員1人目として入社した笹木氏が担ったのは、広告、販売、接客、PRと、文字通りなんでも屋の仕事でした。東急ハンズに足を運び、「うちのマットレスを置いてもらえませんか」と直談判して期間限定での設置を勝ち取り、自ら販売員として立って売る日々が続きます。

そこで目撃したのが、圧倒的な格差でした。声をかけても50人に1人も立ち止まらないエアウィーヴの隣で、某有名ブランドのマットレスは、販売員がいなくても飛ぶように売れていく。お客さんの口からこぼれる言葉は決まっていました。

「テレビで見た」「雑誌で見た」

その光景に、笹木氏は何かが音を立てて変わる感覚を覚えました。

「どれだけ頑張っても、先にブランドを作らないと無理だ」

そう気づいた笹木氏は、PRという手法に本腰を入れます。しかし最初は試行錯誤の連続でした。女性誌への広告出稿は売上につながらず、月30万円のプレスリリース代行サービスを半年続けても、店頭の状況は何も変わりません。苦い経験を率直に振り返ります。

プレスリリースを出せば、確かにウェブメディアに転載はされる。でもそれはプレスリリース代行のサービスが機能しただけで、店頭の売上も、ホームページへの問い合わせも、何一つ変わらなかった。

その後、社長のトップ営業に同席し、直接電話や訪問でプレゼンするための事前準備の仕方や話し方を間近で学んだことで、メディアとの向き合い方が大きく変わっていきました。

愛知から週2〜3回東京へ出張し、1日3〜4件のメディアを回る。社長からは厳しいルールが課されていました。

「3件のアポが取れなければ出張NG」

何としても3件入れなければという状況が、逆に笹木氏を磨き上げました。やがてメディアの担当者が楽しそうに話を聞いてくれるようになり、ウェブメディアから地方テレビ、そして全国放送へ。2〜3年をかけて手繰り寄せた「伝えることの絶大な力」が、エアウィーヴの年商を1億円から115億円へと成長させる礎になりました。

「うまい文章より、熱量のある文章」|LITAが営業部隊を持たない理由

株式会社LITAには、営業担当者が一人もいません。顧客は、メディア露出と口コミのみで集まります。これは単なる方針ではなく、「本物のPRとはこういうものだ」という笹木氏の哲学が会社そのものに宿っているからです。

今回のコントリへのアプローチも、その哲学を象徴する一幕でした。取材依頼の8割以上を断るコントリが、LITAのメンバーからの一通に心を動かされた理由——それは「文章のうまさ」ではありませんでした。文章は決してうまくはなかった。それでも、人間味と熱量が伝わってきた。定型文感がなかった。そこに、引っかかるものがあったのです。

笹木氏はその話を聞いて、嬉しそうに表情をほぐしながら言います。

「綺麗な文章でも、『定型文でみんなに送っているのかな』と思うと伝わらないんです。人対人で心を動かす感じが大事だよ、というのを社員に常に言っているので」

LITAのPR代行は、プレスリリースの一斉配信(ワイヤーサービス)に頼りません。クライアントの事業背景や経営者の想いを深く掘り下げた約10ページの企画書を作成し、メディア担当者一人ひとりに合わせた切り口で個別に直接アプローチします。その結果、2024年の実績では1社あたり平均26.7件の取材を獲得。契約継続率は93%にのぼり、まるで自社の広報部のように信頼を寄せるクライアントが続いています。

「利他」の経営が導いた選択

2024年半ば、笹木氏は一つの大きな決断を下しました。7年間にわたって会社の主軸だったPR塾(オンラインスクール事業)から離れ、PR代行事業へ本格的に舵を切るという選択です。

PR塾は、多くの受講生に支持されてきた事業でした。新しい働き方やキャリアに挑戦する方々を支援し、多くの変化や成長の瞬間にも立ち会ってきました。

一方、PR代行の仕事については、こう振り返ります。

「エアウィーヴやバーミキュラのような、本当に素晴らしい価値を持つ企業に関われる。その価値を社会に届ける仕事に、大きな意義を感じていました。」

社名「LITA」は、京セラ創業者・稲盛和夫氏の「利他の心」という言葉に感銘を受けて名付けられました。

「PR代行に集中するようになってから、本当によかったと思っています。ビジョンや採用のメッセージも一本化できて、語りやすくなりました」

本物のPRは「泥臭い」|一斉配信に頼らないLITA流アプローチ

LITAのアプローチの核心は、「企画力」と「直接の働きかけ」の2点に集約されます。電話での連絡が業務の大半を占め、対面訪問も積極的に行う——この泥臭いスタイルこそが、笹木氏がエアウィーヴ時代に身体で学んだPRの本質です。

メディアとの向き合い方について、笹木氏はこう言い切ります。

「仲良くなること優先よりも、このメディアに必要な情報・企画に変換して話をすることが、まず一番大事なんです」

メディアを深く研究した上でアプローチし、そこから中長期の関係を築いていく。その順番を崩さないことが、LITA流の信頼構築の要です。

この哲学は、採用基準にも直結しています。大手PR会社出身者や大企業の広報経験者は「リリース配信を中心に進める」という仕事観を持つ方も少なくありません。そのため、LITAのスタイルに合わないことが多いといいます。逆に活躍するのは、第二新卒や未経験者。泥臭さを受け入れられる人材が、LITAでは力を発揮します。

採用の第一基準を、笹木氏はこう表現します。

「クライアントさんを本気で勝たせたいという情熱があるかどうか、です」

PRはプロセスがわかりにくい仕事だからこそ、誰も見ていなくても本気でクライアントのために動ける人間性が、決定的に重要だといいます。現在は未経験でも、2年かけてプロに育てるモデルを確立しています。

AI時代に「属人ビジネス」が最強な理由

かつて経営者仲間から「非効率だ」と言われ続けたPR代行の属人型ビジネスが、今や笹木氏の大きな武器になっています。落ち着いた口調で、こう語ります。

「SaaSやアプリは今やAIで自分でも作れてしまう時代ですが、人が人に寄り添って信頼関係を作る仕事はAIには代替しにくい」

テクノロジーが進化するほど、人間にしかできない仕事の価値が際立ってくる——逆説的なようで、笹木氏はそこに強い確信を持っています。

さらに、実績と口コミの蓄積がAI時代にも直接的な効果をもたらしています。AIがPR会社としてLITAを推薦するようになった理由を調べると、10年間で4冊の出版実績と、受講生による口コミの多さが挙げられていたといいます。目を細めながら、こう続けました。

「AIが見ているのも結局、信頼できる実績や口コミなんですよね」

そして、属人型ビジネスを選ぶ理由をこう表現します。

「1人で100億より、100人で100億の方がずっと豊かで楽しい」

みんなで一緒に成果を喜ぶことが好きだという笹木氏の性格と、属人型ビジネスの方向性は完全に一致しています。素材(取材・企画・人間関係)こそが最重要であり、AIはその素材を整形するツールとして活用する。このPR哲学もまた、一貫しています。

「表面的なテクニックより、本質的なことをやり続けることが大事だ」という話の流れの中で、笹木氏は力強くうなずきながら言いました。

「まさにそうですね。真っ正面から愚直にやり続けることが、AIの時代にも通用することだと思います」

日本一、社会課題をPRで解決する|笹木郁乃のビジョン

笹木氏がこの言葉を口にした時、その表情には静かな闘志がにじんでいました。

「富士山は誰でも知っているけど、二番目の山は知らないじゃないですか」

LITAが掲げるビジョンは「日本一、社会課題をPRで解決するPR会社」です。社員1,000名という数字目標の背景には、地方中小企業の廃業防止、女性活躍の推進、人材不足の解決という具体的な社会課題があります。素晴らしい技術を持ちながら情報発信力の弱さから廃業に追い込まれる地方企業を救いたい。自分自身が子育てと仕事の両立に悩んだ経験があるからこそ、同じように悩む女性を支援したい。その想いは、起業の原点から一本の線でつながっています。

今年4月に50名体制へと組織を拡大したLITAは、着実にその目標に近づいています。業界1位への挑戦について、笹木氏は力強く言い切ります。

「業界トップの座は、本物の実力で取りにいきたい。LITAが1位になることが、世の中のためになると信じています」

コントリ編集部から

研究開発職でつまずき、精神科の扉を叩き、転職活動でほぼ全落ちした過去を持つ笹木氏が、今や「日本一のPR会社」を本気で目指している——この道のりの中に、経営者が普遍的に学べるヒントが詰まっています。

「実績が先、品質が先」という順番を守り続けること。売上の9割を手放してでも、本当に意義を感じられる事業に全振りすること。そして、時代が変わっても人間が人間と向き合う仕事の価値を信じ続けること。これらは華やかな成功論ではなく、泥まみれになりながら体で覚えてきた、本物の哲学です。

「迷ったら心が躍る道を選ぶ」——笹木氏の座右の銘は、彼女自身のキャリアそのものを体現しています。その心が躍る方向が、社会課題の解決と重なっているのだとすれば、LITAの未来はまだまだ大きく広がっていくに違いありません。

プロフィール

株式会社LITA
代表取締役・PRプロデューサー
笹木 郁乃(ささき いくの) 

1983年生まれ、宮城県仙台市出身。山形大学工学部を卒業後、アイシン精機(現・株式会社アイシン)に研究開発職として入社。3年目に環境の不一致を感じ広報PR職へ転身。エアウィーヴの初代広報担当として年商1億円から115億円への成長に貢献し、愛知ドビーでは「バーミキュラ」を1年で12ヶ月待ちのヒット商品へ押し上げるのに尽力した。2017年に独立・起業し、現在はPR代行事業を通じて1,600社以上の企業を支援。「日本一、社会課題をPRで解決するPR会社」を目指し、50名を超える組織を率いる。著書に『仕事をしながら1日30分で売上が最大化する「超効率PR」』など計4冊。

ギャラリー

会社概要

設立2017年2月
資本金1,000万円
所在地〒112-0004 東京都文京区後楽1-2-2 ココタイラビル5階・8階(受付8階)
従業員数52人
事業内容PR代行事業(企業の広報・PR活動の代行、認知度向上・売上拡大・採用強化を支援)
PR塾(PRオンラインスクール、PRプロデューサーの育成)
HPhttps://lita-pr.com/

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