「なぜ褒めてくれないの」——40歳の問いが、天職を手放した元幼稚園教諭を「愛を伝える起業家」に変えた

「褒めたくても、褒め方が分からない人がいるんです。しかも、実の親でも」——。

穏やかに、しかし確信を込めてそう語るのは、for your smile合同会社の代表・道念祐子さんです。1969年に札幌で生まれ、幼稚園教諭として通算25年、何千人もの子どもたちと向き合ってきました。臨床発達心理士でもあり、2019年には著書『褒める、認める、信じ切る、愛すること〜大切な人への愛の伝え方』(みらいパブリッシング)を出版。いまは経営者や保育現場を支えるコーチング、そして世界を巡る活動へと、その軸足を広げています。

天職と信じた幼稚園教諭の職を手放し、「愛を伝えること」を事業にする——。その決断の奥には、母との間で長く抱えてきた一つの問いがありました。この記事では、”褒められなかった人”だからこそたどり着いた経営哲学に迫ります。

道念祐子さん 横浜山手聖公会前にて
取材は、道念さんゆかりの地・横浜山手聖公会の前で行われました

教育一家に生まれた札幌の長女——「先生になる」以外の道を考えなかった原点

取材の場所に選ばれたのは、横浜山手聖公会の前。道念さんは生まれも育ちも札幌ですが、そのルーツは横浜にもつながっています。母方の祖父は、横浜・山手で牧師を務めていた人でした。

「ずっと道産子で、札幌から離れたことがないんです。だからこそ、札幌のために、北海道のために、そして日本のために何かしたいという思いを、ずっと持ってきました」。軽やかに笑いながら、道念さんは切り出します。

生家はクリスチャンホームでした。もともと北海道・網走の出身だった父は、中学2年のときに家族で札幌へ。神奈川県横浜市出身の母とは、教会関係の紹介で出会い結婚したといいます。道念さんは、その長女として生まれました。

そして道念さんの家は、教育一家でもありました。「父方の祖母が幼稚園の園長先生、祖父は小学校の校長、父は中学校の体育の先生で、母は英語を教えていました。だから物心ついた時から、幼稚園の先生になりたかったんです」。

ただ、それは園長だった祖母への憧れとは少し違うと、道念さんは言葉を選びます。「憧れというよりは、子どもながらに、子どもが本当に大好きだったんです。お姉ちゃんとして育って、妹や弟、近所のみんなと遊ぶのが大好きで」。先生になる以外の未来を、道念さんは思い描いたことがありませんでした。

一度は離れ、1年で戻った幼稚園教諭としての道。「私は幼稚園の先生しかない」という再確認

先生になるための最短の道として、道念さんは当時あった短大——藤女子短期大学の保育科へ進みます。そして就職したのは、祖母がかつて園長を務め、そして自分自身も生まれ育った、キリスト教の幼稚園でした。

「子どもたちを抱きしめたり、愛したりという保育が、やっぱり大好きでした」。目を細めながら、道念さんは当時を振り返ります。

ところが24歳のとき、働きはじめて4年が経った頃に、突然「辞めたい」という思いが湧き上がってきました。周囲に引き止められながらも、道念さんは一度、幼稚園を離れます。その後は雑誌の編集など、いくつかの仕事を経験しました。

けれど、その先で待っていたのは、満たされない自分でした。「何か満たされない自分がいて。やっぱり幼稚園の先生こそ、私に神様が与えてくださった天職だ。あの幼稚園に戻りたいと思ったんです」。

そんな道念さんに、当時の園長先生が「祐子先生、戻っておいで」と声をかけてくれました。ちょうど席も空いていたといいます。「1年間休んだことによって、やっぱり私は幼稚園の先生しかない、と再認識できたんです」。噛みしめるように、道念さんはそう続けます。

一度離れたからこそ、確信できた天職でした。そこから道念さんは、幼稚園教諭として通算25年、現場に立ち続けます。教諭、主幹教諭、特別支援教諭、そして臨床発達心理士として、何千人もの子どもたちと関わってきました。

天職を「卒業」する。目の前の子どもより、その目の前の大人を笑顔にするという逆転の発想

天職と信じてきた幼稚園教諭を、道念さんは3年間悩み抜いた末に「卒業」する決断をします。2018年のことでした。

その決断の背景には、ある辛い経験もあったといいます。それでも道念さんを前へと進ませたのは、一つの発想の転換でした。「目の前の子どもたちの笑顔を、私が直接できないのなら——子どもたちの目の前にいる大人のみなさん、ママやパパ、幼稚園や保育園の先生たち、そのほかすべての大人の皆さんの笑顔をいっぱいにすれば、必ず子どもたちの笑顔はいっぱいになる。そう思って、起業を決断したんです」。

支える相手を、目の前の子どもから、その目の前にいる大人へと一段広げる。それは、現場で子どもと関わる喜びを手放す痛みを伴いながらも、道念さんにとっては前へ進むための逆転の発想でした。

意外にも、道念さんには独立への「準備」があったわけではありませんでした。「別に準備していたわけじゃないんです。辞めるつもりもなかった」。それでも、いくつもの学びを重ねてはいました。絵本セラピストの資格を取り、福島正伸氏のコンサルティング養成講座に通い、東京で開かれていた坂田公太郎さん・佐々妙美さんご夫妻のビジネス講座には2年半通ったといいます。

「準備していたつもりはなかったけれど、そういう学びが、あとになって背中を押してくれた。徹底的に、背中を押されたんです」。静かに、しかし確かな口調で道念さんは語ります。独立後は札幌市の保育園への巡回相談や、乳児健診での発達相談などの仕事から足場を築き、活動の幅を少しずつ広げていきました。

「なぜ褒めてくれないの」——40歳で母に投げかけた問いと、返ってきた答え

道念さんの哲学の核には、母との長い関係があります。

母は専業主婦で、「家をしっかり守るタイプ」だったといいます。周りへの心遣いにすぐれ、何かあれば必ずハガキで返事やお礼状を書く、筆まめな人でした。「本当に尊敬しているんです」と道念さんは言います。

一方で、母は道念さんに厳しくもありました。「愛されていたのは、分かっているんです。でも、言葉で『頑張ってるね』『いいね』と言ってもらった記憶が、ないのです」。少し声のトーンを落として、道念さんは打ち明けてくれました。褒められないまま生きてきて、道念さんはやがて苦しくなっていきます。

40歳になったとき、道念さんはついに母に問いかけます。「どうして私を褒めてくれないの、認めてくれないの、と」。

返ってきたのは、思いがけない答えでした。「私も、褒められた経験がしてないから、どうあなたを褒めていいかが分からなかった。ごめんね」。

母もまた、褒められずに生きてきた人でした。母の実母——道念さんの祖母は、母が中学2年のときに他界していました。四姉妹の長女だった母は、幼くして下の妹たちの母代わりを担ってきた人。祖父は牧師であり大学教授でもあって多忙で、母自身、褒められた経験も、抱きしめられた経験もなかったのです。

「そのとき気づいたんです。褒めたくても、褒め方が分からない人がいるんだ、と。しかも、実の親でも」。道念さんは、まっすぐ前を見つめて言葉を選びます。「私は幼稚園の先生として、子どもたちを『なんてかわいいんだろう』と、褒めて育ててきました。私が神様からもらった賜物は、人の良いところにしか目がいかないこと。だから、褒め方が分からない人がいるのなら、その褒め方を、日本中・世界中のみんなに伝えたい、と思ったんです」。

40歳からは、「今度は私が、お母さんをいっぱい褒めよう、いっぱい抱きしめよう」と決めました。この気づきが、のちの著書『褒める、認める、信じ切る、愛すること〜大切な人への愛の伝え方』(みらいパブリッシング)へと結晶していきます。

褒める・認める・信じ切る・愛する。なぜ「愛」が一番下の土台なのか

著書のタイトルにもなった「褒める・認める・信じ切る・愛する」という4つの言葉。なぜこの言葉、この順番なのか——。道念さんに尋ねると、はっきりとした答えが返ってきました。

「私は、すべては愛から始まると信じているんです。どんなことも、愛が根底にある。愛という土台の上に、相手も自分自身も信じ切る、認める、褒める、という順番で乗っているイメージが、私の中にはあるんです」。

多くの人は、つい「褒めること」から入ろうとします。けれど道念さんの哲学では、褒めるは一番上。その足元には、認める、信じ切る、そして一番下に、すべてを支える愛があります。

だからこそ道念さんは、「こう褒めればいい」という正解を教えることはしません。「愛の伝わり方は、人によって違うんです。私は言葉で言われることで愛を感じる人だったのに、言葉で言ってもらえなかった。だから、褒め方の正解を渡すのではなく、褒められると自分がどんな気持ちになるかを体感してもらって、自分で気づいてもらう。それを大事にしています」。

この「愛を伝える」というあり方の源泉は、母だけではありません。父からは、また別のものを受け継いだと道念さんは言います。祖父の兄弟はハワイやブラジルに移住してビジネスをしており、父も国際交流に熱心でした。サッカーを続け、ブラジルからサロンフットボール(フットサル)を持ち込み、家庭ではホームステイを受け入れることもあったといいます。「英語を話したわけじゃないけれど、ボディランゲージと笑顔と、人当たりの良さで通じ合う人でした。私は多分、父に似ているんだと思います」。嬉しそうに微笑んで、道念さんは話します。

インタビューに答える道念祐子さん
「根底はいつも、愛だから」——取材中、道念さんは終始おだやかに、時に大きく笑いながら語ってくれました

保育園から世界のハグまで。バラバラに見える事業を貫く一本の軸

for your smile合同会社の事業は、驚くほど多岐にわたります。けれど、そのすべてを貫く価値観は、たった一つ——「褒める・認める・信じ切る・愛すること。すべては愛から始まる」。

事業は大きく3つの柱で成り立っています。

一つ目は、保育サポート事業。保育園・幼稚園向けのコンサルティングと、発達巡回相談です。発達障害の子どもたちを、どうインクルーシブに支えていくか。悩む先生方の「背中を押す」ことを大切にしています。保護者が我が子とどう向き合うかの支援や、先生方自身のメンタルサポートも担います。年間約400人ものママの相談を、道念さんはいまも手放さずに続けています。

二つ目は、夢実現コーチングセッションです。とりわけ道念さんがこれから力を入れたいのが、経営者への伴走です。「経営者は、決断し続けるお仕事です。誰かに答えを求めているわけではなくても、その孤独にそっと寄り添える人は、決して多くありません」。道念さんが差し出すのは、助言ではなく伴走。「経営者の方々にも、ワクワクが必要です。起業したころのあのワクワクを、もう一度思い出してほしい」。そう、道念さんは話します。加えて、本気で夢を叶え自分らしく生きたいと願う起業志望の方や、進路に迷う中高生・大学生、子育てに悩む親子まで——オンラインで全国の方々の心と向き合っています。

三つ目は、ライフワークでもあるワールドハグツアーです。「私は、言葉で愛を伝える人であり、スキンシップ、つまりハグで愛を伝える人なんです」。このツアーは、観光地を巡るためのものではありません。現地の人との交流や体験、現地でがんばる日本人の応援、そして困っている人へのサポートが目的です。2024年のカンボジアから始まり、来年1月には3回目を企画中。現地で訪問診療を続けるドクターと組み、医療支援のイベントを予定しているといいます。

現地の親子とふれあう道念祐子さん(ワールドハグツアー)
「ハグで愛を伝える」——ワールドハグツアーで、現地の親子とふれあう道念さん

保育園の現場から、世界を巡るハグまで。一見バラバラに見えるこれらの事業を、道念さんは「すべて愛から始まる」という一本の軸で束ねています。だからこそ道念さんは、正直な葛藤も明かしてくれました。「1つの業種に絞ったほうがいい、とよく言われます。『何をしている人ですか』と聞かれると、いつも難しいなと思うんです。でも、根底はいつも愛だから」。

この日、聞き手を務めたコントリ代表の飯塚は、こう応じました。「絞ることは、マーケティングとしては必要です。でも、その上位に、みんなが共感できる分かりやすいビジョンがあって、そこにエネルギーがどれだけ乗っているか。伸びている経営者ほど、そこが明確なんです」。道念さんの根底にある「愛」は、まさにそのエネルギーの源でした。

ベテランの「次の働き場所」を——経験を笑顔に変える、これからのビジョン

これから道念さんが描くのは、3つの事業をそれぞれ広げていく未来です。

なかでも保育サポート事業には、道念さんならではの構想が込められています。この事業は、年齢と経験を重ねた保育士や心理士の「次の働き場所」として設計されているのです。

「50代、60代になると、体力的に担任を持つのは難しくなってくる。でも、何千人という子どもたちと関わってきた経験値は、すごく積み上がっているんです」。力を込めて、道念さんは語ります。「退職して終わり、ではなくて。その経験が生かされる働き方ができる場所を、つくりたいんです」。

いま道念さん自身も、月に1回、1つの園に4時間入り、先生方に保育のアドバイスをしています。この働き方を、理念に共感してくれる仲間と、少数精鋭・業務委託の形で広げていく。札幌から中央へ、そして関東圏、関西圏、いずれは日本中の保育園を笑顔にしていきたいと、道念さんは思い描いています。

現場を一度離れた経験を持つ道念さんだからこそ、ベテランの居場所づくりに込める想いは切実です。かつて自分がそうしたように、経験を積んだ人が、その経験を誰かの笑顔に変えられる——そんな仕組みを残したいのです。

札幌市のふるさと納税の返礼品にもラインナップされている夢実現コーチングは、オンラインで日本中・世界中へと広がっています。「もっともっと、たくさんの方の伴走をさせていただきたい」。そう道念さんは思いを語ります。

ワールドハグツアーも、ライフワークとして続きます。去年はスペインのサグラダ・ファミリアで、日本語の歌を歌いたいという夢をみんなに語っていたら、本当にサグラダ・ファミリアの礼拝で歌う機会に恵まれたといいます。「世界に出ると、日本の良さがすごく分かるんです。カンボジアの人たちが、日本を大好きだと言ってくれる。行かなければ、知らなかったことばかりでした」。

サグラダ・ファミリアの礼拝で歌う道念祐子さんたち
スペイン・サグラダ・ファミリアの礼拝で、日本語の歌を歌う道念さんたち

すべては、あの原点へと戻っていきます。子どもたちの目の前にいる大人が笑顔なら、子どもたちは必ず笑顔になる——。褒められなかった一人の子どもが、いま日本中に、そして世界に、「愛の伝え方」を届けようとしています。

笑顔で語る道念祐子さん
「目の前にいる大人が笑顔なら、子どもたちは必ず笑顔になる」

コントリより

今回のインタビューを通じて、深く印象に残ったのは「褒めたくても、褒め方が分からない人がいる」という道念さんの言葉です。

褒める、という行為を、道念さんは薄い自己啓発の言葉としては扱いません。愛を一番下の土台に置き、その上に信じ切る・認める・褒めるを重ねる。この構造は、褒められずに苦しんだご本人の実感と、幼稚園教諭25年・臨床発達心理士としての専門性、そして経営者を支えるコーチングの経験が、一人の中で束ねられているからこそ生まれたものだと感じました。

母との和解の物語を、誰かを責める話にせず、自らの使命へと昇華させていく姿。目の前の子どもより、その目の前の大人を笑顔にするという視点の広さ。道念さんの歩みは、対人支援に携わるすべての人、そして大切な人との関係に悩むすべての人に、静かな勇気をくれます。

あなたは今日、大切な人に、愛を「言葉」で伝えられているでしょうか。道念さんの生き方は、その一歩をそっと後押ししてくれるはずです。

プロフィール

for your smile合同会社
代表
道念 祐子(どうねん ゆうこ)

1969年、北海道札幌市生まれ。クリスチャンホームの長女として育つ。藤女子短期大学 保育科を卒業後、私立幼稚園にて教諭・主幹教諭・特別支援教諭として勤務し、通算25年にわたり何千人もの子どもと保護者に向き合う。臨床発達心理士。2018年、「子どもの前にいる大人を笑顔にすれば、子どもは必ず笑顔になる」との思いから独立を決意。以降さまざまな活動を重ね、2025年3月にfor your smile合同会社を設立する。2019年には著書『褒める、認める、信じ切る、愛すること〜大切な人への愛の伝え方』(みらいパブリッシング)を出版。現在は保育園・幼稚園向けコンサルティングと発達巡回相談、経営者向けのエグゼクティブ・メンタルコーチング、夢実現コーチング、世界を巡るワールドハグツアーなどを手がける。座右の銘は「大切なのは、どれだけたくさんのことをしたかではなく、どれだけ心をこめたかです」(マザーテレサ)。趣味は旅と、大好きな人と美味しいものを食べること。

ギャラリー

会社概要

会社名for your smile合同会社
代表者道念 祐子
設立2025年3月10日
本社所在地北海道札幌市
事業内容①保育園・幼稚園向けコンサルティング(経営者向けコンサル・保育者研修・発達巡回相談)②エグゼクティブ・メンタルコーチング(チームビルディング・人財育成)③個人向けセッション(夢実現コーチング・子育てコーチング講座・絵本セラピー)④ワールドハグツアーの企画運営 ⑤講演・研修 ⑥オンラインプログラム「褒めっこ倶楽部」
コーポレートサイトhttps://www.for-your-smile.com/
リンクツリーhttps://profu.link/u/foryoursmile

関連記事一覧