南場智子のポートレート写真

南場智子の経営哲学|中小企業経営者が今日から実践できる10の教え

写真:Joi Ito撮影, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

「失敗を認めたら、経営者としての信用を失うのではないか」——そう感じて、うまくいかなかったことを社内にすら隠したくなったことはないでしょうか。

南場智子が経営の前提に据えたのは、失敗を隠すことではなく、実名・実数字でさらけ出すことでした。「不格好経営」「継続討議にしない」「現場に足を運ぶ」。マッキンゼーのパートナーという安定したキャリアを捨てて創業した女性経営者の言葉には、規模を問わず使える具体性があります。本稿では、南場智子の経営哲学を支える思想と、自社メディア「WELQ」の信頼性が崩れたときの向き合い方、そして中小企業経営者が今日から実践できる10の行動を、一次史料をもとに順に見ていきます。明日からの経営判断の一つの軸として、お役立ていただけると嬉しく思います。

南場智子とはどんな経営者か。「不格好経営」の哲学で知られる理由

南場智子は、マッキンゼーで日本人女性として史上3人目のパートナーに上り詰めながら、そのキャリアを捨てて1999年にDeNAを創業した実践者です。創業期の失敗・混乱・意思決定ミスを自ら書籍で公開し続けた点に、他の名経営者と一線を画す誠実さがあります。

出来事年齢
1962年新潟市で誕生0歳
1986年マッキンゼー入社24歳
1996年日本人女性史上3人目のパートナーに昇進34歳
1999年DeNA創業、「ビッダーズ」開始37歳
2005年東証マザーズに上場42歳
2011年夫の看病のため社長を退任49歳
2016年WELQ問題で謝罪会見に登壇54歳
2021年経団連史上初の女性副会長に就任59歳

筆者がこの略年表を眺めていて印象に残るのは、コンサルタントとしての絶頂期にゼロイチの創業へ飛び込んだ転身と、経営の第一線を退いた後に危機の矢面へ自ら戻ってきた復帰という、対照的な2つの決断です。まずは、マッキンゼー時代からDeNA創業に至る前半生を見ていきましょう。

南場智子 経営哲学タイムライン
1962年の誕生から2021年の経団連副会長就任まで―8つの転機
1962年
誕生
1962
1986
1986年
マッキンゼー・アンド・カンパニー入社
コンサルタントとしてのキャリアが始まる
1996年
34歳でパートナーに昇進
コンサルタントとして絶頂期を迎える
強調ポイント
1996
1999
1999年
ディー・エヌ・エー(DeNA)を創業
絶頂期のキャリアからゼロイチの創業へ転身
2005年
東証マザーズ上場
2005
2011
2011年
代表取締役社長を退任
経営の第一線から退く
2016年
WELQ問題で謝罪会見
危機の矢面に自ら戻る決断
2016
2021
2021年
経団連 女性副会長に就任
社会的な重責を担う立場へ

マッキンゼーで女性史上3人目のパートナーに

南場は津田塾大学卒業後、1986年にマッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社し、経営コンサルタントとして自動車・通信業界などを担当しました。1990年にハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得し、1996年、日本人女性として史上3人目となるパートナー(役員)に昇進を遂げました。「答えが用意された世界」の頂点近くまで登り詰めた人物が、後にあえて答えのない創業の荒野へ飛び込む転身の起点が、ここにあります。

1999年、DeNA創業からビッダーズの苦戦へ

1999年、南場はマッキンゼーを退社し、有限会社ディー・エヌ・エー(後の株式会社ディー・エヌ・エー)を設立しました。同年11月、PC向けネットオークション「ビッダーズ」を開始しましたが、当時すでに市場を席巻していたヤフオク!の背中を捉えられず苦戦が続いたのです。コンサルタントとして数多くの企業を「外側から」見てきた人物が、自ら「内側」でゼロから事業を立ち上げるという転身であり、後の『不格好経営』で描かれる悪戦苦闘の起点となりました。

「不格好経営」―失敗を隠さず開示する誠実さ

南場の経営哲学の出発点は、著書冒頭の「経営とは、こんなにも不格好なものなのか」という一節に集約されます。成功物語ではなく、資金繰りや採用の失敗を実名・実数字で記録した姿勢は、単なる自己開示の美学ではなく経営上の実利的判断でもあります。

南場哲学の出発点
経営とは、こんなにも不格好なものなのか。
だけどそのぶん、おもしろい。最高に。
南場 智子
著書『不格好経営―チームDeNAの挑戦』冒頭より

「経営とは、こんなにも不格好なものなのか」という原点

南場は「ビジネス書をほとんど読まない。こうやって成功しました、と秘訣を語る本や話はすべて結果論に聞こえる」と語っており、『不格好経営』はその反動として、創業期の資金繰りの失敗、人材採用の失敗、事業の迷走を実名・実数字で記録しました。「苦しいときほど、素晴らしい立ち直り方を魅せる格好のステージだと思って張り切る」という一節は、逆境そのものを経営者としての見せ場と捉える発想の転換を示す発言だといえます。

失敗を隠す組織は同じ失敗を繰り返すという実利的判断

これは単なる自己開示の美学ではなく、「失敗を隠す組織は同じ失敗を繰り返す」という経営上の実利的判断でもあります。採用面接の場でさえ「不格好さ」を隠さず開示する姿勢を、南場は「人を口説くのはノウハウやテクニックではない。『策』の要素を排除し、魂であたらなければならない」と語っており、後述するWELQ問題への対応にも、この思想が一貫して流れているのです。

意思決定のスピード―「継続討議にしない」という原則

マッキンゼー仕込みのロジカルさと、ベンチャー経営者としてのスピード感を融合させたのが、南場の意思決定哲学です。決定的な情報さえ揃えば、迷いを残したままでもその場で決めるという姿勢が、移り変わりの速いインターネット業界で生き残るための現実的な適応となっています。

南場智子の意思決定哲学 継続討議にしない、3ステップの意思決定プロセス
STEP 1
決定的な重要情報が 揃っているか確認する
結論を左右する決定的な情報が出揃っているかを、まず見極める。
STEP 2
揃っていれば継続討議にせず その場で決める
情報が揃っていれば、迷いを残したままでもその場で結論を出す。
STEP 3
決めないという不作為こそ 最大のリスクと捉える
先送りは選択肢を残すことではなく、変化の速い市場で機会そのものを失うリスクだと捉え、判断を遅らせない。
※ マッキンゼー仕込みのロジカルさと、ベンチャー経営者としてのスピード感を融合させた南場智子の意思決定哲学。決定的な情報さえ揃えば、迷いを残したままでもその場で決める姿勢が、移り変わりの速いインターネット業界で生き残るための現実的な適応となっている。

決定的な情報が欠落していなければその場で決める

「社長の一番大事な仕事は意思決定」「継続討議にしないということが極めて重要だ」——南場はこう語っています。情報を完璧に揃えてから決めるのではなく、「決定的な情報」さえ揃えば、迷いを残したままでもその場で決めるという姿勢が特徴です。

「決めない」という不作為こそ最大のリスクという価値観

この意思決定哲学は、単なるスピード重視ではなく、「決めない」という不作為こそが最大のリスクだという価値観の表れでもあります。マッキンゼー出身者らしく、南場は当初「ロジカルシンキングができる優秀な人材」を軸に採用を組み立てていましたが、DeNA創業を通じてその考えを修正し、「戦略立案が得意な人、サイトデザインができる人、システムがつくれる人…いろいろな役者が必要」だと語るようになりました。

【エピソード】WELQ問題―自社メディアの信頼性が崩れたとき

2016年、DeNAが運営する医療・健康情報のキュレーションサイト「WELQ」の記事内容の不正確さや無断転載が相次いで指摘され、大きな社会問題に発展しました。経営の最前線から一歩引いていた南場は、謝罪会見に「会見直前に急遽出席が決定」という形で自ら立つ道を選んでいます。

WELQ問題の経緯
非公開化から謝罪会見まで、対応のスピード感を4ステップで整理
全記事の非公開化開始から謝罪会見まで8日間というスピード対応
1
2016年11月29日
「WELQ」全記事を非公開化
2
12月1日
「MERY」を除く他9媒体も非公開化
3
12月5日までに
運営する全10サイトの記事が非公開に
4
12月7日
謝罪会見に南場智子が急遽登壇

キュレーション10サイト、全記事非公開という決断

WELQは2015年8月、筋トレなど比較的軽いヘルスケア情報を扱うサイトとしてスタートしましたが、次第に病気・治療法など専門性の高い医療情報も扱うようになり、外部から内容の信頼性を疑問視する声が上がるようになりました。2016年11月29日、DeNAはWELQの全記事を非公開化し、12月5日までに運営する全10のキュレーションサイトの記事が非公開となったのです。

「経営者として非常に不覚であった」という言葉の重み

12月7日の謝罪会見には、守安功社長兼CEO、小林賢治経営企画本部長に加え、創業者で当時取締役会長だった南場智子が「会見直前に急遽出席が決定」という形で登壇しました。南場は会見で「経営者として非常に不覚であった」と述べ、WELQが医療情報を本格的に扱うようになっていたこと自体を把握していなかったことを明かしています。担当役員や現社長に対応を委ねることもできた局面で、創業者自身が矢面に立つことを選んだという意味で、「隠さない」思想の到達点だといえます。

第三者委員会の設置とメディア事業者としてのガバナンス

DeNAはWELQ問題を受け、弁護士ら4名からなる社外の第三者委員会を設置し、キュレーション事業全体の調査を委ねました。自社で「一次情報を検証せずに大量のコンテンツを流通させる」ことの危険性を、創業者自らが公の場で認め、外部の目による検証を受け入れたプロセスは、メディア事業者としてのガバナンスのあり方を考えるうえで参考になります。

第三者委員会 調査報告書(2017年3月13日公表)

キュレーション事業 検証の規模

サンプル調査の対象記事数

37万6,671

記事

著作権侵害の可能性がある記事の推計比率

1.9~5.6

%(統計的な推計値)

著作権侵害の可能性が指摘された画像

74万7,643

(全画像472万4,571点中)

約37万記事を対象にしたサンプル調査で見えた実態

2017年3月、委員会は調査報告書(要約版だけで32ページ、全文277ページ)を公表しました。調査は運営していた10サイト・約37万6,671記事を対象としたサンプル調査で行われ、統計的に著作権・翻案権侵害の可能性がある記事の推計比率は1.9〜5.6%、その可能性を否定できない記事は0.5〜3.0%と推計されています。委員会は根本原因として、記事作成マニュアルに著作権侵害を指摘されにくくする言い換え手法が含まれていたことや、記事の正確性を専門家がチェックする体制が構築されていなかったことを指摘しました。

自ら外部の目による検証を受け入れたプロセス

DeNAはこの報告書を受け、キュレーション事業からの一時撤退・体制の抜本的な見直しを進めています。急成長するメディア事業において「更新数・PV至上主義」が「正確性・信頼性の担保」を上回ってしまった今回の経緯は、メディア事業を営むすべての企業にとって他人事ではない教訓を含んでいます。

横浜DeNAベイスターズ再建―現場に足を運ぶオーナー

2015年1月、南場は横浜DeNAベイスターズの取締役オーナーに就任しました。NPB史上初の女性オーナーの誕生です。就任にあたって南場は、チーム編成そのものはGM(ゼネラルマネジャー)や監督に委ねる姿勢を明確にする一方、観戦体験の改善には自ら積極的に関わってきました。

2015年1月、横浜DeNAベイスターズの取締役オーナーに就任した南場智子は、経営における関与の範囲を明確に切り分けた。
南場智子の関与方針 ― 委ねる領域と関与する領域の使い分け
委ねる領域
チーム編成
選手起用
GM・監督に一任
関与する領域
スタジアムの快適さ
観戦体験を高めるイベント企画
自ら積極関与

「強いチームづくりはGMや監督に任せる」という権限移譲

「もちろん強いチームにしてファンを喜ばせたいが、それはGMや監督に任せることだ」——南場自身の言葉です。専門領域の判断は現場の専門家に委ね、経営トップが過度に介入しない姿勢が、この言葉によく表れているといえるでしょう。

観戦体験の改善で来場者数が4割増えた現場主義

一方で、南場は「スタジアムをきれいにしたりイベントを催すなどで、来場者数は4割増えた」と語っており、2016年には本拠地・横浜スタジアムの運営会社をTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化し、球団と球場の一体運営に踏み切りました。買収から5年ほどで球団経営を黒字化させ、2023年には主催試合の観客動員数が230万人を超え過去最高を記録しています。自ら球場に足を運び、ファンと同じ目線で試合を見るという現場主義の姿勢は、複数のメディアで一貫して報じられている通りです。

【行動10選】中小企業経営者が南場哲学を今日から実践する方法

南場智子の経営哲学は、東証一部上場企業を率いた経営者だけのものではありません。「大企業だからできたことで、うちのような規模では関係ない」と感じる経営者の方も多くいらっしゃいます。しかし社員数名規模の中小企業でも、失敗の共有・採用・危機対応の場面に落とし込める行動レベルの示唆があります。ここでは、今日から着手できる10の実践に絞って紹介します。

南場智子の経営哲学 実践チェックリスト
中小企業経営者が今日から実践できる10の行動
大企業だからできたことではなく、社員数名規模でも取り入れられる行動レベルの示唆です。まずは1つ、自社に合いそうな項目にチェックを入れてみてください。

失敗を語れる文化と意思決定の速さをつくる4つの実践

1つ目は、成果報告ではなく今月の失敗・見込み違いだけを共有する「不格好会議」を、経営会議とは別に月1回、30分だけ設けることです。2つ目は、「決定的な情報が欠けていない案件は、その場で結論を出す」を経営判断の原則として明文化し、会議の議事録に「持ち越し」を安易に書かないようにすること。3つ目は、求人・面接の場で会社の課題や弱みを先に開示してから口説くことです。4つ目は、安全な仕事ばかりでなく、本人の実力よりわずかに背伸びが必要な仕事を年に数回任せ、任せた後の1on1で振り返りを行う実践です。

情報発信の正確性を担保する3つの実践

5つ目は、コントリが運営する各媒体について、一次情報の出典を必ず明記する、専門性の高いテーマは公開前に有資格者や専門家のレビューを経る、PV・本数目標を優先して検証を省略しないという3原則を、社内のライティングガイドラインに明記することです。6つ目は、トラブルやクレームが社会問題化しうる規模になった場合、代表自らが説明責任を負うことを社内規定・危機管理マニュアルに一文で明記しておくこと。起きてから決めるのではなく、平時に決めておきます。7つ目は、経営者自身が顧客対応の現場・制作現場・取材先に月1回同行する日をカレンダーに先入れする実践です。

経営者自身の在り方を整える3つの実践

8つ目は、経営者本人の家族の事情(介護・病気・育児等)が生じた際に、誰が代行し、どう業務を引き継ぐかを、起きる前に簡単な「バックアッププラン」として文書化しておくことです。9つ目は、結果が出なかった挑戦であっても、挑戦したこと自体を評価する項目を評価シートに設けること。10個目は、顧問税理士・社労士・信頼できる同業の経営者などに、年1回でも自社のコンテンツや業務プロセスを外部視点でレビューしてもらう機会を意図的につくることです。10の実践すべてを一度に始める必要はありません。まずは自社の状況に近いものを1つだけ選び、月次会議や評価面談といった既存の場に組み込むところから始めてみてください。

南場智子をもっと学ぶなら。読書ロードマップと柳井正との比較

南場哲学に触れる最初の一冊には『不格好経営―チームDeNAの挑戦』が向いています。まずは「はじめに」だけでも読み、著者の語り口の誠実さをつかむことをお勧めします。

まず読むべき1冊『不格好経営―チームDeNAの挑戦』

『不格好経営―チームDeNAの挑戦』は南場哲学のほぼすべてが凝縮された一冊です。創業期の資金繰り・人材採用のエピソードを実名・実数字で記録した内容は、経営書としては異例のベストセラーとなりました。撤退基準を数字で決める実践というより、失敗そのものを開示する誠実さを学ぶ一冊として位置づけられます。

南場智子の経営哲学を学ぶ読書ロードマップ 4つの一次情報を、この順番で読み進める
1 PHASE A
「不格好経営」で失敗を開示する姿勢を体感する 『不格好経営―チームDeNAの挑戦』 創業期の資金繰り・人材採用を実名・実数字で記録。撤退基準の技術よりも、失敗を隠さず開示する誠実さを学ぶ一冊。
2 PHASE B
DeNA公式の沿革・ミッションで企業としての一次情報を押さえる DeNA公式サイト(沿革・企業理念) 書籍で描かれた物語を、現在の会社が公式に発信する沿革・ミッションと突き合わせて確認する。
3 PHASE C
第三者委員会調査報告書・謝罪会見の書き起こしでWELQ問題を一次情報で理解する 第三者委員会調査報告書/謝罪会見の書き起こし 不祥事への対応を伝聞や要約ではなく、一次資料に当たって自分の目で確認する。
4 PHASE D
デライト・ベンチャーズのインタビューで現在地を知る デライト・ベンチャーズ関連インタビュー記事 投資家としての現在の立ち位置・視点を知り、創業期からの変化と一貫性を見る。
1 PHASE A
「不格好経営」で失敗を開示する姿勢を体感する 『不格好経営―チームDeNAの挑戦』 創業期の資金繰り・人材採用を実名・実数字で記録。撤退基準の技術よりも、失敗を隠さず開示する誠実さを学ぶ一冊。
2 PHASE B
DeNA公式の沿革・ミッションで企業としての一次情報を押さえる DeNA公式サイト(沿革・企業理念) 書籍で描かれた物語を、現在の会社が公式に発信する沿革・ミッションと突き合わせて確認する。
4 PHASE D
デライト・ベンチャーズのインタビューで現在地を知る デライト・ベンチャーズ関連インタビュー記事 投資家としての現在の立ち位置・視点を知り、創業期からの変化と一貫性を見る。
3 PHASE C
第三者委員会調査報告書・謝罪会見の書き起こしでWELQ問題を一次情報で理解する 第三者委員会調査報告書/謝罪会見の書き起こし 不祥事への対応を伝聞や要約ではなく、一次資料に当たって自分の目で確認する。
※ 書籍・公式情報・調査報告書・インタビューの順に読むことで、成功譚だけでなく失敗の開示姿勢まで含めた一次情報から南場智子氏の経営哲学を理解できます。

柳井正と比較するとさらに理解が深まる

柳井正の経営哲学は失敗を仕組みで防ぎ、次の勝率を上げる「学習サイクル」として捉えるのに対し、南場は失敗そのものを開示すること自体が組織の信頼資産になるという「発信の姿勢」に重心を置いています。両者を並べると、同じ「失敗を恐れない経営」でも、仕組み志向と開示・誠実さ志向という2つのアプローチの違いがより明確に見えてきます。

編集部として印象に残ったのは、経営の第一線を一度退いた南場が、WELQ問題の際に「会見直前に急遽出席が決定」という形であっても、自ら矢面に立つ道を選んだことでした。コントリもまた、日々言葉と情報を扱う会社です。順風のときも、そうでないときも、今日の自分を10年後の自分から見たら少し恥ずかしいかもしれないくらいの謙虚さで前に進み続ける姿勢に、経営哲学が一人の生き方そのものと不可分だったことを感じます。「経営者の経営哲学研究」コーナーでは、今後もこうした一次史料に基づく研究を、他の経営者にも広げていく予定です。

よくある質問

南場智子の経営哲学を一言で表すと何ですか

「不格好経営」に集約されます。成功物語ではなく、創業期の資金繰りや採用の失敗を実名・実数字で開示し続ける誠実さと、失敗を隠す組織は同じ失敗を繰り返すという実利的判断が根底にあります。

WELQ問題とはどのような出来事ですか

2016年、DeNAが運営していた医療情報サイト「WELQ」の記事内容の不正確さや無断転載が社会問題化した出来事です。DeNAは運営する全10サイトの記事を非公開にし、創業者の南場智子も謝罪会見に立っています。

「継続討議にしない」とはどのような考え方ですか

決定的な重要情報が欠落していなければ、迷いを残したままでもその場で結論を出すという意思決定の原則です。情報を完璧に揃えてから決めるのではなく、「決めない」という不作為こそ最大のリスクだという価値観に基づいています。

社員数名規模の中小企業でも南場智子の経営理念を実践できますか

実践できます。月1回失敗だけを共有する「不格好会議」を開く、採用面接で会社の課題を先に開示する、危機発生時に矢面に立つ人を事前に決めておくなど、規模に関わらず取り入れられる要素が多くあります。

南場智子と柳井正の経営哲学にはどのような違いがありますか

柳井は失敗を仕組みで防ぎ次の勝率を上げる「学習サイクル」として捉えるのに対し、南場は失敗そのものを開示すること自体が組織の信頼資産になるという「発信の姿勢」に重心があります。両者とも失敗を恐れない点は共通しています。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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