
「あなたの幸せって何ですか」——インドで毎日泣いた私が、ウェルネスで世界を変えると決めるまで
「あなたの幸せって何ですか——」。インドのヨガ留学、その初日。先生から投げかけられたこの問いに、横幕真理さんは何も答えられませんでした。自分のことは自分が一番わかっている。そう思っていたはずなのに、何ひとつわかっていなかった——。
そう静かに振り返るのは、株式会社MAJOLI代表取締役の横幕真理さん。29歳のとき資本金1万円・年収30万円から起業し、いまではヨガ・ピラティスの資格スクールで5,000名以上のインストラクターを輩出。韓国式マシンピラティススタジオ「Pilates isM」を全国へと広げています。掲げるのは「ウェルネスで、世界をハッピーに」。
体が硬くて運動が苦手、自己肯定感の低かった一人の人間が、なぜ「世界を変える」と決められたのか。挫折と転機、そして「ブームを文化に変える」経営哲学に迫ります。
「これしかない」と腹を括った2カ月——過酷なインド留学が、すべての出発点
横幕さんとヨガの出会いは、決して甘いものではありませんでした。

「学生の頃から『社長になりたい』という気持ちはあったんです。でも自己肯定感がすごく低くて、コンプレックスだらけで。好きなことも得意なこともない。自分は何もできない人間だと思っていました」
「大学に行けば見つかる、見つからない。海外に留学すれば見つかる、見つからない」。少し声のトーンを落として語る横幕さん。何かを探し続けた末に芽生えたのが、どうしてもインドに行きたいという気持ちでした。一人旅が苦手で友達を誘うも次々に断られ、それでも一人で行ける方法を調べるうちに、インドがヨガ発祥の地だと知ります。20代前半、ロンドン留学中にダイエット目的でヨガに出会うも「きつい割に痩せない」と挫折した過去がありましたが、「もうこれしかない」と腹を括り、ホテル・食事・資格付きで約30万円の留学へ向かいました。
そして初日、あの問いが待っていました。「あなたの幸せって何ですか」。
「答えられなかったんです。これまでのチャレンジは全部、自分が幸せになるためと思ってやってきたのに、自分がどうなったら幸せかがわかっていなかった。自分のことを一番わかっていると思っていたのに、何もわかっていなかった」
最初はヨガの哲学に強く反発し、「怖いところに来てしまった」とすら感じたといいます。朝から晩までヨガしかしない毎日。シャワーもお湯も出ず、食事は毎日カレー。見たくなかった自分と向き合う時間に、横幕さんは最初の2週間ずっと泣いていました。
「立ち止まるのも苦しいし、帰った先の自分も見えていない。だからここで頑張ることが一番マシ、という感じでした。今は苦しいけど前に進んでいると信じて、頑張るしかなかった」
2カ月後、横幕さんは「生きるのがすごく楽になっていた」と振り返ります。ヨガはただの運動ではない——その確信を抱いて帰る道中、少し良いホテルで温かいシャワーを浴びた瞬間、涙が止まらなくなったそうです。「こんなに辛かったんだな、って」。穏やかな表情の奥に、あの2カ月の重さがにじみました。
体が硬くて運動嫌い。それでも「先生」になれた、自己否定からの逆算
人生が変わる体験をした横幕さんは、「同じきっかけを世界中の人に届けたい」と願います。しかし一人で伝えられる人数には限界がある。イベントで集めても一度に50人、100人。「これでは生きている間に、私が目指す世界は実現できない」。そこで選んだのが、同じ思いを持つインストラクターを増やす養成スクール事業でした。
ただ横幕さん自身は身体が硬く、人前で話すのも苦手。「自分が先生という立場で誰かにヨガを教えることは、自分自身の基準の中では許せなかった」。それでも「養成スクールをやるなら、まず自分が経験しなければ」と、一歩を踏み出します。
現場に立つ中で気づいたのは、業界の課題でした。「資格講座では、私自身もインド・オーストラリア・バリと3カ国でヨガインストラクター資格を取りましたが、資格は取れても実際に1時間のレッスンができるようにはならなかった。すごくもったいないと思って」。そこで横幕さんのスクールでは、ポーズの順番もトークもそのままレッスンで使えるレベルで事細かに記したマニュアルを渡し、「まず実際にレッスン提供ができる=インストラクターデビューができる」状態を作りました。「現場に出ないと何も始まらないんです」。
もう一つ壊そうとしたのが「メンタルブロック」です。自ら「私はもともと身体が硬いインストラクターです。だからこそ、同じような身体の悩みを抱える方でもできる、わかりやすいレッスンを提供できます」と発信すると、ヨガに通うことへのハードルの高さを感じていた初心者や男性、運動が苦手な女性に強く刺さりました。
「上を見ればきりがない。有名な先生に会うと『このレベルにならないと人前に立てない』と思ってしまう。でも海外には、お酒を飲む先生も、フランクに講義する先生も、色々な”先生”がいる。『そうなりたい』とは思わなかったけど、『それでもいいんだ』と思えたんです」
少し誇らしそうに、横幕さんは続けます。「うちでは全員が同じマニュアル・同じ台本で最終発表をするんです。でも、みんな全然違うクラスになる。それが個性なんですよね。みんな個性を探そうとするけど、もうあるんですよ、って」。ないものを探すのではなく、今あるものに気づく。横幕さんの経営哲学の輪郭が、ここに見えてきます。
資本金1万円、年収30万円。「起業が夢」だった人間が、起業を”手段”に変えた日
横幕さんが株式会社MAJOLIを設立したのは29歳のとき。けれど「社長になりたい」という思いは、10代から抱き続けていたものでした。
「起業が夢、目標になってしまっていたんです。だからずっとできなかった。27歳でヨガに出会って、『ヨガで世界をハッピーにしたい』という大きなビジョンができたときに、起業が”手段”に変わったんですよね」
それでもすぐには動けませんでした。経営者の先輩に「こういうことをしたい」と話しても、20代の自分には「僕にもそういう時があったよ」と返ってくるばかり。そんな日々が1年ほど続いたとき、背中を押したのは夫のひと言でした。「『もう起業しちゃいなよ。株式会社の代表となると、話をちゃんと聞いてもらえる』と。肩書きなんて関係ないと思っていたけど、それで話を聞いてもらえるなら登記をしよう、と」。
資本金は1万円。1期目の年収はたったの30万円——月収に換算すれば、わずか2〜3万円ほどです。立ち上げから3年は睡眠時間が2〜3時間という日々。LP制作もマーケも説明会運営も、すべて一人でこなしました。「お金も人脈もないところからのスタート。なかなか形にならず、悔しい思いをしました」。それでも横幕さんは、「一歩踏み出すことが、すごく大事だった」と噛みしめます。
その後、海外を起点にした事業を構想した矢先、コロナ禍が直撃します。渡航が止まり「本当に終わったと思った」横幕さんは、そこから業界初のオンラインヨガスクールへと舵を切りました。これが大きく当たります。
誰も私をわかってくれない——繊細で負けず嫌いだった少女と、母への想い
横幕さんの「人を輝かせたい」という気質は、どこから来たのか。話は幼少期へさかのぼります。
「引っ込み思案で、保育園に行くのも母の陰に隠れているような人見知りでした。でも負けず嫌いで、これと決めたら一番を取る。『自分はなんで生まれてきたんだろう』とずっと考えるような子供で、誰かが傷ついているのを見ると自分事のように悲しくなる。感情がすごく豊かで、繊細でした」
三兄弟の長女として、姉さん気質や面倒見の良さも備えていました。「なんでもやってあげたくなるところは、今の経営にも出ているかもしれません」。一方、田舎の男尊女卑的な環境で「女のくせに」「子供のくせに」と言われたこともあり、感情を押さえつけられるフラストレーションを抱えます。完璧主義で理想が高く、それに及ばない自分が嫌い。褒められても「この人は私をわかっていない」と相手まで嫌いになる。「人気者だったと思うんですけど、ずっと孤独でした」。高校生のときには激しい反抗期が訪れ、学校にも行かなくなったといいます。
とりわけ抱えていたのが、母への複雑な感情でした。10代で横幕さんを産んだ母は、その目に「自分の意見ややりたいことを我慢している女性」と映っていた時期がありました。「『かっこいい自立した女性になりたい』——社長になりたいというのも、ここから来ているのかもしれません」。
そのわだかまりが溶けたのは、27歳で結婚するとき。両親への手紙に向き合うなかで、母の生き方を強く肯定できたといいます。「自分を犠牲にして、家族を一番に考えて選択してくれた。それって何よりも強いことかもしれない、と。そこで浄化されました」。いまは両親ともにとても尊敬していると、穏やかに話してくれました。
「何がウェルネスだ」。祖父の死が、ヨガからピラティスへ向かわせた
スクール事業が軌道に乗り、卒業生が1,000人を超えた頃。横幕さんは「健康産業を盛り上げられているんじゃないか」と、少しの自信を持ち始めていました。そのさなかに届いたのが、祖父の危篤の報せです。
「親が心配させたくなくて、知らせてくれていなかったんです。久しぶりに会った祖父は、もともと大きくてかっこいい人だったのに、別人みたいにやせていて。コロナで病室にも入れず、本当に死に目に会えた、という感じでした」
仕事を辞めてから日課にしていた散歩を、足をくじいたのをきっかけにやめ、外に出なくなってから急速に衰えていった——。そう聞いたとき、横幕さんは深く後悔しました。「健康産業に従事している者として、身近な人を救うこともできなかった。『何がウェルネスだ、何が世界ハッピーだ』って。すごくショックでした」。
祖母を「一緒にヨガをやろう」と誘っても、「きついわ、ハードルが高いわ」と返されます。そのとき横幕さんは「確かにな」と立ち止まりました。ヨガに興味のない人に、どうやってウェルネスを届けるのか。その問いの先で出会ったのが、リハビリを起源とするピラティスでした。「これだったら、おじいちゃんでもおばあちゃんでもできると思ったんです」。
横幕さんの「本物に学ぶ」姿勢は徹底しています。ピラティスの創始者の孫弟子にあたる指導者から学ぶため、アメリカ・ラスベガスの大学まで足を運びました。「本質をわかった上で自分が伝えたい。自分がやっていないものは、どうしても勧められないんです」。まだブームが来る前から養成校をスタートさせた理由を、こう言い切ります。「私みたいに後悔をしてもらいたくない。身近な人の健康を守れる自分でいよう、と」。祖父の死は、横幕さんの事業の射程を「世界」から「一番身近な人」へと、確かに広げました。
フィットネス人口3%を奪い合わない。争いが嫌いな経営者の「業界の広げ方」
横幕さんの経営判断には、一本の太い軸が通っています。「大手と同じ土俵で戦わない」という姿勢です。
「私、とにかく争いが嫌いなんです。競合はほぼ見ません。競合調査はしますが、戦える市場規模があっても、差別化すれば当たると思っても、同じように戦うことは絶対にしない」
判断基準は、感情論ではなくビジョンとの整合性にあります。「日本はフィットネス人口がたったの3%。その3%を取り合っても仕方ない。私が掲げているビジョン通りかと考えると違う。だから『業界初』をすごく意識して、他の企業ができない新しいことをするんです」。
オンライン化はその象徴でした。大手がシステム整備に時間をかけるあいだに素早く立ち上げ、半年から1年ほど先行します。「ビジネス的にも勝てたし、今まで届けられなかった方に届けられた。業界を少し広げられた」。同じパイを奪い合うのではなく、パイそのものを大きくする。争いを嫌う気質が、そのまま静かで強い経営戦略になっています。
コントリでは、想いある経営者のインタビューを無料で掲載しています。あなたの会社の話も、聞かせてください。
ブームを文化に。美容を入り口に、健康との境目をなくす

横幕さんがいま最も注力するのが、ブームになりつつあるピラティスを「文化」に変えることです。その入り口に据えたのが、意外にも「美容」でした。
祖父の死をきっかけにピラティスの価値を痛感した横幕さん。けれど、いざ一般の人へ広めようとすると、「健康のため」という正面からの訴えだけでは、なかなか響かないという壁にぶつかります。人の心を最初に動かすのは、もっと手前にある欲求ではないか——。そう考え抜いた末にたどり着いたのが、「美容」という入り口でした。
「『健康になりたい』は、病気にならないと出てこない。不調が出たり、同い年の人が病気になったと聞かないと危機感は芽生えない。それだと遅いんです。それより表面に出てくるのは『綺麗になりたい、若くいたい』という美容。だから、リハビリのピラティスを土台にしながら韓国式を採用して、美容業界と健康業界の境目をなくしたいんですよね」。
「綺麗になりたいからピラティス」を入り口にし、健康を付加価値として届ける。そのほうが広がりは早い、という読みです。横幕さんはピラティスを「感覚を養うもの」と表現します。「普段まっすぐ立っているつもりでも、まっすぐじゃない。頑張る姿勢ではなく、心地よい快適な姿勢が、美しい姿勢に変わってくるんです」。
半年ほど通うお客様は、体の変化だけでなく、やがてメンタルの話を始めるといいます。「気持ちが前向きになった」「自信がついた」。転職や結婚など、ライフステージそのものが変わる人も少なくありません。「みんな『ピラティスのおかげ』と言ってくれる。本当に人生に寄り添えるんです」と、嬉しそうに語ります。
文化にするキーワードは「習慣化」。著書『ちょこっとピラティス』では、マット1枚で一日5分からできるメニューを紹介し、スタジオも週1回の対面に週4回のオンラインを組み合わせて、自宅でも整えられる設計にしています。続けてもらう工夫も徹底し、その質を支える採用で最も重視するのは、スキルでも経験でもありません。「結局、人柄なんです。スキルや知識は与えられるけれど、心配りは教えられない。何より、ピラティスが好きかどうか。先生が楽しそうにしていると、お客様も楽しんでくれる」。
オンラインで成功しながら、あえてリスクを取ってリアル店舗「Pilates isM」を開いたのも、卒業生たちの「先生のスタジオが全国に欲しい」という声に背中を押されたからでした。「ビジョンに向かって、自分自身が挑戦し続けることがすごく大事。これからもウェルネスで、いろんな方をハッピーにしていきたい」。横幕さんの挑戦は、まだ始まったばかりです。
コントリより
今回のインタビューで何度も立ち返ったのは、「ないものはない。今あるもので何ができるか」という横幕さんの姿勢でした。体が硬い、運動が苦手、自己肯定感が低い——「自分には何もない」と感じていた人が、その弱みすら入り口に変えて、5,000名を超えるインストラクターを育て、全国にスタジオを広げる経営者になった。その軌跡には、強がりではない本物の説得力があります。
印象的だったのは、祖父の死を後悔で終わらせず、「同じ思いをする人を減らしたい」という使命へと変えた誠実さ。そして、争いを避けながら業界そのものを広げていく静かな強さです。「やりたいことも、得意なこともない」。そう感じて立ち止まっている方こそ、横幕さんの言葉に耳を傾けてみてください。あなたの「今あるもの」で踏み出す一歩を、横幕さんはきっと後押ししてくれるはずです。
あなたの会社にも、
まだ言葉にしていない物語があります。
コントリは「ご縁でつながる」経営者インタビューメディアです。売上や規模でランク付けはしません。なぜこの事業を選んだのか、どんな失敗を越えてきたのか——数字の裏にある“人”を、プロの聞き手が引き出し、5,000字の記事に仕立てます。
- 取材費・掲載費は一切かかりません(応募フォームは5分で完了)
- お願いするのは事前ヒアリングと取材の60〜90分だけ。準備は不要です
- 完成した記事は採用サイト・SNS・営業資料に自由にお使いいただけます
プロフィール
株式会社MAJOLI 代表取締役
一般社団法人 国際ヨガアカデミー協会 代表理事
一般社団法人 国際ピラティス協会 代表理事
横幕 真理(よこまく まり)
兵庫県姫路市出身。大学で経営学を専攻したのち、ロンドンへの語学留学や、セブ島でWebマーケティング企業の海外拠点立ち上げ勤務など海外を拠点に活動する。20代でインドのヨガ留学に出会い、「あなたの幸せって何ですか」という問いを起点に人生観が一変。インストラクターとして海外で経験を積み、2018年、29歳のときに資本金1万円で株式会社MAJOLIを創業する。業界初を標榜するオンラインヨガ資格スクールを皮切りに、5,000名以上のインストラクターを輩出。祖父の死を機にピラティスへ向かい、韓国式マシンピラティススタジオ「Pilates isM」を全国へ展開する。国際ヨガアカデミー協会 代表理事・国際ピラティス協会 代表理事として、ヨガ・ピラティスの資格認定団体を運営。掲げるビジョンは「ウェルネスで、世界をハッピーに」。著書に『ちょこっとピラティス』がある。
ギャラリー












会社概要
| 会社名 | 株式会社MAJOLI |
| 設立 | 2018年 |
| 資本金 | 500万円(創業時1万円) |
| 本社所在地 | 東京都中央区銀座4-13-8 ソフィアスクエア銀座3F |
| 代表者 | 代表取締役 横幕 真理(一般社団法人 国際ヨガアカデミー協会/一般社団法人 国際ピラティス協会 代表理事) |
| 事業内容 | ①ヨガ・ピラティス資格スクール事業 ②韓国式マシンピラティススタジオ「Pilates isM」事業 ③ウェルネスメディア事業 ④コミュニティ事業 |
| コーポレートサイト | https://majoli.jp/ |
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