
両立支援等助成金の活用法|中小企業が育児・介護支援で受給する条件と申請
「育児休業を社員が取りやすい会社にしたい。でも代替要員のコストが重い」——多くの経営者の方が、同じような葛藤を抱えていらっしゃるのではないでしょうか。
両立支援等助成金は、まさにその「育児・介護と仕事の両立」に取り組む中小企業を後押しする厚生労働省の助成金です。出生時両立支援・育児休業等支援・育休中等業務代替支援・不妊治療両立支援・介護離職防止支援といったコースから自社課題に合うものを選び、計画書の事前提出から支給申請まで進めていく流れになります。多くは中小企業に支給額が上乗せされる設計で、男性育休の1日取得から60万円規模のコースまで、活用の入口は意外と広く開かれています。
本記事では、制度の全体像とコース一覧、共通の受給要件、申請ステップ、そして助成金後の社内定着までを順に整理します。読み終える頃には「自社ならまずどこから着手するか」が見える状態になるよう、経営者の方への取材で繰り返し伺ってきた現場感も交えてお届けします。
両立支援等助成金とは|中小企業が育児・介護支援で活用する制度の全体像
両立支援等助成金は、職場における仕事と育児・介護の両立支援に積極的に取り組む事業主を、国が金銭面から後押しする雇用関係助成金です。所管は厚生労働省で、雇用保険適用事業主であれば、業種を問わず申請の入口に立てます。中小企業にとっては、育休制度の導入や男性育休の推進など「やった方がいいと分かっていても踏み出せなかった施策」に予算を付ける起点となる制度です。
適用事業主
両立支援等助成金の目的と所管(厚生労働省)
この助成金の目的は、育児や介護を理由に離職せざるを得ない労働者を一人でも減らし、企業内に両立支援の仕組みを根づかせることにあります。厚生労働省の雇用関係助成金に位置づけられており、制度設計は男女ともに働き続けられる職場づくりを後押しする方向で年々更新されています。
肥後労務管理事務所が運営する「人事労務の『トリセツ』TV」では、令和8年度の育児休業等支援コース(育休取得時)について、3か月以上の育児休業取得を後押しする要件が分かりやすく解説されています(YouTube動画)。動画内では「育児休業計画の策定」「実際の取得」「復帰後の継続雇用」という3段階で要件が組まれている点が示されており、制度趣旨が単なる休業取得だけでなく、復帰までを一体で見ていることが分かります。
詳細な制度概要は厚生労働省 両立支援等助成金の公式ページに集約されています。最新の支給要領は年度ごとに更新されるため、検討時には必ず当年度版を確認するのが鉄則です。
中小企業が対象となる理由と中小企業要件
両立支援等助成金が中小企業を主な対象に据えているのは、大企業に比べて育児・介護と仕事の両立支援に投資する体力が限られている現状があるためです。私自身、経営者の方への取材を重ねるなかで、「制度はあるが運用が回らない」「代替要員のコストが重い」というお声を繰り返し伺ってきました。助成金は、その重荷を国が一部肩代わりする設計です。
中小企業の範囲は、業種ごとに「資本金または出資金」「常時雇用する労働者数」のいずれかが基準を満たす場合に該当します。小売業は資本金5,000万円以下または労働者50人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、その他の業種は3億円以下または300人以下が目安です。詳細は中小企業庁の中小企業の定義で確認できます。
助成金と補助金の違い・受給後の扱い
助成金と補助金は混同されがちですが、性質はかなり異なります。助成金は要件を満たせば原則受給できる一方、補助金は予算枠と審査を経て採択された一部だけが受け取れる、というのが大きな違いです。両立支援等助成金は前者にあたります。
受給した助成金は、会計上「雑収入」として計上し、法人税の課税対象となります。「助成金は非課税」と勘違いされている経営者の方も少なくありませんが、課税の扱いを誤ると申告でつまずきます。受給後の経理処理まで見据えて、顧問税理士に早めに共有しておくと安心です。
両立支援等助成金のコース一覧|自社の課題から選ぶ4つの方向性
両立支援等助成金は単一の助成金ではなく、取り組み内容ごとに分かれた複数のコースの総称です。自社の課題が「男性育休の推進」「育休取得者が出たときの代替体制」「不妊治療との両立」「介護離職の防止」のどれに近いかから逆算してコースを選ぶのが基本になります。
出生時両立支援コース(男性育休)
出生時両立支援コースは、男性労働者の育児休業取得を後押しすることを目的にしたコースです。男性社員が短期育休でも取得し、復帰後も働き続けている、という要件を満たす中小企業に対して支給されます。
肥後労務管理事務所の解説動画では、令和8年度の出生時両立支援コースの要件が「昨年度から変更なし」として整理されています(YouTube動画)。一定期間以上の育休取得+復帰後の継続雇用+管理職向け研修などの組み合わせで支給対象となる設計です。「男性育休はうちの規模では難しい」と感じる経営者の方こそ、まずこのコースの最新要件を眺めてみる価値があります。
社内で男性育休の事例がゼロのうちは、心理的ハードルが大きく感じられるものです。私自身、コントリの経営者インタビューを通じて、最初の一例ができると一気に取得率が上がる中小企業の話を何度も伺ってきました。助成金はその「最初の一例」を作るための予算として機能します。
育児休業等支援コース(中小企業向け育休支援)
育児休業等支援コースは、中小企業限定のコースで、育休の円滑な取得と職場復帰を支援する事業主を対象としています。育休復帰支援プランの策定、実際の取得、復帰後の継続雇用といった一連の流れに対し、段階ごとに助成金が支給される設計です。
社労士へんみちゃんネルの「令和6年度・完全版」動画では、育児休業等支援コースの全体像が34分にわたって体系的に解説されています(YouTube動画)。動画では「育休取得時」「職場復帰時」「業務代替時」の3つのタイミングで支給設計が組まれている構造が示されており、社内の運用設計を考えるうえで参考になります。
育休中等業務代替支援コース(業務代替体制づくり)
育休中等業務代替支援コースは、育休取得者の業務を周囲がカバーする体制に対して支給されるコースです。代替要員の新規雇用ルート、既存社員への手当支給ルートなど、自社の運用に合わせて選びやすい設計になっています。
社労士へんみちゃんネルでは、育休中等業務代替支援コースの徹底解説動画が公開されています(YouTube動画)。動画内では「業務を引き継ぐ周囲の社員にきちんと手当を出す」設計が要件化されている点が強調されており、属人化が進んだ中小企業ほど着手する意義が大きいコースだと感じます。
不妊治療両立支援コース・介護離職防止支援コース
不妊治療両立支援コースは、不妊治療と仕事の両立に取り組む事業主を支援するコース、介護離職防止支援コースは、家族の介護で離職せざるを得ない労働者を支える仕組みを整える事業主を支援するコースです。いずれも申請件数が伸び余地のある領域で、競合と差がつきにくい今のうちに整えておく価値があります。
愛媛労働局公式チャンネルでは、不妊治療両立支援コースの申請までの流れが10分でまとめられています(YouTube動画)。動画では「不妊治療のための休暇制度・両立支援制度を就業規則に明文化する」「実際に労働者が利用する」というステップが明示されており、社内整備と実利用のセットが要件であることがよく分かります。
両立支援等助成金の受給要件|中小企業が押さえる共通条件と書類
コースによって細部は違っても、両立支援等助成金には共通して押さえるべき土台があります。雇用保険適用事業主であること、就業規則・育児介護休業規程の整備、計画書の事前提出、対象労働者の継続雇用などです。実務で最もつまずきやすいのは、この「土台」の漏れです。
雇用保険適用事業主・中小企業の範囲
両立支援等助成金は雇用保険適用事業主であることが大前提です。社員が1名でも雇用保険に加入していれば適用事業主に該当します。個人事業主であっても、要件を満たせば申請の入口に立てます。
中小企業要件についてはコース別に細かな読み方がありますが、ベースは前章で触れた中小企業庁の定義と概ね揃っています。グループ会社全体での労働者数で判定するか、単体で判定するかなど、判断に迷う領域では管轄の都道府県労働局に早めに相談するのが安全です。
就業規則・育児介護休業規程の整備
両立支援等助成金の要件として、就業規則と育児介護休業規程に必要な制度が定められていることが多くのコースで求められます。育児休業、介護休業、不妊治療のための休暇制度などを、申請対象の制度として明文化しておく必要があります。
ここで起こりやすいのが「規程はあるが、申請するコースの要件を満たす内容にはなっていない」というギャップです。例えば男性育休の取得を後押しするコースでは、育児・介護休業法上の最低基準だけでは足りず、独自の促進策を上乗せしている必要が出るケースがあります。詳細は育児・介護休業法(厚生労働省)の最新版を確認してください。
「事前手続き」が必須な理由とよくある失敗
両立支援等助成金で最も多いつまずきは、「事前手続きを忘れて事後申請してしまう」パターンです。多くのコースで「計画書の事前提出」「規程整備の事前完了」が要件化されており、育休取得後に「やっぱり申請しよう」と動いても間に合いません。
中小企業診断士・行政書士のマキノヤ先生は「助成金は事前手続きしないともらえません」と題した動画のなかで、個人事業主・中小企業向けの両立支援等助成金における事前手続きの重要性を解説しています(YouTube動画)。動画では事前手続きの典型パターンが整理されており、これから取り組む経営者の方は最初に押さえておきたい論点が見えてきます。
私自身、経営者の方々と対話してきた経験から、「育休が決まってから動き始めた経営者ほど、規程整備の遅れで申請を諦める」という現実を何度も目にしてきました。「育休の予兆を感じた瞬間が、規程と計画書の見直しタイミング」と覚えておくと、取りこぼしが減ります。
対象労働者の要件と雇用継続条件
両立支援等助成金は、対象となる労働者についても要件が定められています。雇用保険被保険者であること、一定期間以上の継続雇用が見込まれること、復帰後も一定期間継続して雇用していることなどが代表例です。
「育休だけ取って退職してしまった」という場合、コースによっては支給対象外となります。助成金は「両立して働き続ける」状態を作ることが目的であり、単発の制度利用には設計されていません。復帰後のフォロー体制まで一緒に考えるのが、結果的に近道です。
両立支援等助成金の申請の流れ|計画から支給申請までのステップ
両立支援等助成金は「思い立ったらすぐ申請」では受給できません。計画策定→社内周知→対象事象→支給申請という4つのステップで進めるのが基本構造です。中小企業の経営者の方が、自社の年間スケジュールに組み込みやすいよう、順を追って整理します。
ステップ1 自社の課題と適用コースの選定
最初の一手は、自社の人事課題を棚卸しし、どのコースが自社にフィットするかを見極めることです。男性育休が課題なら出生時両立支援コース、育休復帰の支援体制が弱いなら育児休業等支援コース、業務代替の手当設計が未整備なら育休中等業務代替支援コース、というイメージです。
ここで意識したいのは、「コースを選んでから課題に当てはめる」順番にしないことです。「もらえそうな金額」から逆算すると、社内の納得感が薄まり、運用が形だけになりがちです。コントリの中小企業の人材戦略コラムでも繰り返し触れてきたとおり、起点は自社が解きたい課題に据えるのが定着への近道です。
ステップ2 就業規則改定と計画書の作成・提出
コースが決まったら、就業規則と育児介護休業規程を申請要件に合わせて改定し、必要なコースでは計画書の事前提出に進みます。育休復帰支援プラン、業務代替体制の設計図など、コース別に求められる計画書のフォーマットが用意されています。
社労士へんみちゃんネルの「育休申請するだけで60万円対象になる助成金」動画では、育休取得から支給申請までの最新スケジュール感が整理されています(YouTube動画)。動画で示される手続きの順序を眺めると、規程改定と計画書提出を育休スタートの前倒しで進める重要性が腹落ちします。
ステップ3 育休取得や業務代替体制の運用
計画書の提出を終えたら、実際に育休の取得や業務代替の運用に入ります。ここで重要なのは、「計画通りに動いた証拠」を残すことです。育休開始日・終了日、業務代替を担った社員、手当の支給額、社内周知の方法など、後から支給申請で必要になる情報を整理しておく必要があります。
私自身、複数の経営者の方から「証拠書類の整理を後回しにして、申請直前に泣いた」という体験談を伺ってきました。スプレッドシート1枚でも構わないので、「ファイル名・日付・担当者」を揃えた台帳を、計画書の提出と同じタイミングで用意してしまうのがコツです。
ステップ4 支給申請と添付書類の準備
対象事象(育休取得や復帰など)が完了したら、いよいよ支給申請に進みます。添付書類としては、就業規則・育児介護休業規程、計画書、賃金台帳、出勤簿、育児休業申出書、業務代替に関する辞令や手当の支給記録などが代表例です。
支給申請は事業所所在地を管轄する都道府県労働局が窓口となります。窓口は各都道府県労働局・労働基準監督署の所在地から確認できます。書類の不備で差し戻されると数週間〜数か月の遅れが生じるため、提出前に第三者(顧問社労士など)の目を入れる運用が安全です。
中小企業が両立支援等助成金で成果を出す運用|助成金後の社内定着まで
両立支援等助成金は受給して終わりではなく、両立支援の仕組みを社内に根づかせる起点として活かしてこそ本当の価値が生まれます。社員の定着、採用力強化、社内ブランディングといった波及効果までを設計するのが、中小企業の経営者の腕の見せどころです。
助成金を「育休制度導入の予算」として使う発想
両立支援等助成金は、それ単体を「臨時収入」として扱うのではなく、育休制度を導入・拡充するための予算枠として位置づけるのが王道の発想です。「助成金が入る前提なら、業務代替手当を月◯万円出せる」と先回りで設計しておくと、社内の納得感が一段上がります。
助成金スキルチャンネルの「3分でわかる両立支援等助成金(育児休業等支援コース)」動画では、コースを制度導入の起点として活用する発想が短く整理されています(YouTube動画)。動画で示される設計思想を、自社のヒト関連予算と紐づけて読み解くと、活用イメージが具体化します。
復帰後のフォローと業務代替体制の継続
育休復帰後のフォローを軽視すると、復帰した本人が消耗して結局退職、というケースが起こります。両立支援等助成金の多くは「復帰後一定期間の継続雇用」を要件にしていますが、要件のためだけに整えると形骸化しやすいのが現実です。
業務代替体制も同様で、育休期間中だけの臨時運用にすると、次の育休が出たときに毎回ゼロから組み立てる羽目になります。コントリの中小企業の組織づくり関連コラムで繰り返し触れているとおり、「個人依存ではなく仕組みで回す体制」への移行を、助成金をきっかけに進めるのが理想です。
採用・定着への波及効果と社内ブランディング
両立支援等助成金を活用して育休取得実績や復帰実績を積み上げると、採用市場でのブランディングに直結します。「うちは男性育休も取れます」「育休後の業務代替手当も整っています」と具体的に語れる中小企業は、まだ多くありません。
採用ページやコーポレートサイトに、「両立支援等助成金を活用して整備しました」と明示するだけでも、候補者の安心材料になります。私自身、経営者の方々と対話してきた経験から、両立支援への取り組みを丁寧に発信する中小企業ほど、長期的に定着率が高まっていく傾向を実感してきました。
顧問社労士の活用と相談のタイミング
両立支援等助成金は、年度ごとの制度改正、コース別の細かな要件、計画書フォーマットの更新など、動きが速い領域です。社内だけで完結させるよりも、雇用関係助成金に詳しい顧問社労士と二人三脚で進めるのが安全で速い選択肢になります。
相談のベストタイミングは、「育休の予兆を感じた瞬間」「次年度の経営計画を立てるタイミング」「就業規則を改定するタイミング」の3つです。コントリでは経営者の壁打ち相談も承っていますので、社労士へつなぐ前段の整理にお役立ていただけたら嬉しく思います。
よくある質問(FAQ)
両立支援等助成金について、経営者の方から繰り返し寄せられる疑問を5問にまとめました。自社の状況と照らし合わせながら読み解いてみてください。
Q. 両立支援等助成金は中小企業だけが対象ですか。
両立支援等助成金には中小企業に限定されたコースと、中小企業以外も対象とするコースがあります。支給額についても中小企業向けに上乗せされる場合が多いため、自社が中小企業要件に該当するかを最初に確認しておきましょう。判断に迷う場合は、中小企業庁の定義と管轄労働局の見解を併せて確認するのが安全です。
Q. 育児休業を取得させれば必ず助成金がもらえますか。
育休取得だけで自動的に支給されるわけではありません。就業規則の整備、計画書の事前提出、復帰後の継続雇用など、コースごとの要件をすべて満たして初めて支給対象になります。「事前手続きが必須」と覚えておいてください。受給可能性の判定は、コース別の支給要領と自社の状況を突き合わせて行うのが確実です。
Q. 1日だけの育児休業でも対象になりますか。
出生時両立支援コースなど、男性育休を後押しするコースでは短期育休を対象にしているものがあります。ただし日数や時期、賃金支払いの有無など細かな要件があるため、活用前にコース別の支給要領を確認することをおすすめします。「1日でもOK」と単純化せず、最新の年度版要領で要件を確かめる姿勢が大切です。
Q. 両立支援等助成金と他の助成金の併用は可能ですか。
他の助成金や補助金との併用可否は制度ごとに整理されています。一部のコースでは併用制限が設けられているため、複数の制度活用を検討する場合は申請前に管轄労働局や顧問社労士に確認しておくと安心です。キャリアアップ助成金や人材開発支援助成金など、近接する制度との関係はとくに確認の優先度が高めです。
Q. 両立支援等助成金の申請はどこに相談すればよいですか。
支給申請は事業所所在地を管轄する都道府県労働局が窓口となります。制度の活用設計や書類作成については、雇用関係助成金に詳しい顧問社労士へ早めに相談しておくと、要件漏れを防ぎやすくなります。社内に人事専任者がいない中小企業ほど、社労士との連携体制を先に作っておく価値があります。
編集部コメント
両立支援等助成金は、単なる「もらえるお金」ではなく、会社の未来をつくる予算として捉え直していただきたい制度です。経営者の方への取材を重ねるなかで、両立支援にしっかり投資した中小企業ほど、社員の表情が明るくなり、結果として業績も底上げされていく光景を何度も目にしてきました。
「育休を取れる会社にしたい。でも余力がない」というお気持ち、本当によく分かります。そのお気持ちに国が答える形で用意されているのが、この両立支援等助成金です。最初の一歩は、規程の見直しでも、社労士への一本の電話でも構いません。小さな一歩が、半年後・1年後の社内ブランディングへと育っていく未来。きっと、貴社にも訪れるはずです。
お役に立てれば嬉しく思います。

