コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

星野リゾートのビジネスモデル|所有と運営の分離で85施設

星野リゾートのビジネスモデル|所有と運営の分離で85施設

店を増やしたい。けれど、土地を買い、建物を建てるだけの資金はない。設備投資の借入を思うと、次の一手に踏み出せない。そんな迷いを抱える経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。

星野リゾートのビジネスモデルは、施設を「持つ」会社と「運営する」会社を分ける「所有と運営の分離」です。土地や建物は投資家やREIT、自治体などのオーナーが持ちます。星野リゾートはブランドや予約の仕組み、人材を提供して運営を担う側です。こうして初期投資を抱えずに拠点を広げ、公式サイト掲載の施設数は85に達しています(2026年9月閲覧時点)。

運営会社は非上場で、売上高は公開されていません。そこで本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートを土台にしました。数字は、上場する星野リゾート・リート投資法人の開示資料と報道で確かめ直しています。稼ぐ仕組み、資金の受け皿、旅館再生、組織の順に見て、中小企業が持ち帰れる4つの問いへつなげます。

星野リゾートのビジネスモデルとは|全体像を数字で見る

星野リゾートは、1914年に軽井沢で開業した温泉旅館を原点とする、宿泊施設の運営会社です。施設の多くを自社で所有せず、オーナーから運営を任される形で広がってきました。公式サイト掲載の施設数は85です(2026年9月閲覧時点)。運営会社は非上場のため、この記事では上場REITの開示資料と報道をもとに全体像を読み解きます。

ブランドごとの施設数を1枚にまとめました。

星野リゾートのブランド別施設数
界24
OMO18
星のや10
その他10
日帰り施設10
リゾナーレ8
BEB4
LUCY1
合計 85 施設。界とOMOの2ブランドで42施設と、全体のほぼ半分を占めます。
※出典:星野リゾート公式サイト「会社概要」(2026年9月閲覧)。「その他」は個性的な施設の合計

軽井沢の温泉旅館から全国の運営会社へ

星野リゾートの始まりは、1914年に軽井沢で湧いた温泉をもとに開いた「星野温泉旅館」です。本社は今も長野県軽井沢町にあります。

転機は、4代目の星野佳路氏が社長に就いた1990年代の初めでした。就任年は1990年とも1991年とも書かれ、資料によって表記がゆれています。星野氏は米コーネル大学のホテル経営大学院で学んだ人物です。米国のホテル業界で一般的だった「持つ人」と「運営する人」を分ける方式を、日本の温泉旅館業に持ち込みました。

家業の旅館を継ぐのではなく、旅館を運営する会社をつくる。この発想の転換が、今の星野リゾートの土台になっています。

6ブランド・85施設という現在地

星野リゾートは、6つのブランドを持っています。高級リゾートの「星のや」、温泉旅館の「界」、ファミリー向けの「リゾナーレ」です。さらに都市観光の「OMO」、若い世代向けの「BEB」、山岳リゾートの「LUCY」が続きます。

施設数で見ると、界が24、OMOが18と大きな柱です(公式サイト、2026年9月閲覧)。どちらも比較的手頃な価格帯で、地域の魅力を旅の中心に置く点が共通しています。

海外では、インドネシアの「星のやバリ」や台湾の「星のや グーグァン」などを運営しています。さらに2028年には、米ニューヨーク州で温泉旅館を開業する予定です(ジェトロ、2024年10月)。

非上場企業の数字をどう読むか

星野リゾートの運営会社は、株式を上場していません。そのため、グループ全体の売上高や利益は公開されていないのが実情です。従業員数も資料によって大きな幅があり、集計の基準がそろっていません。

一方で、施設を保有する側の「星野リゾート・リート投資法人」は東京証券取引所に上場しています。こちらは法律に基づいて決算を開示するため、仕組みの規模を数字で確かめられます。運営会社の数字は非公開、保有側の数字は公開。この非対称さも、所有と運営を分けた会社ならではの特徴です。

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稼ぐ仕組み|「所有と運営の分離」というアセットライトモデル

星野リゾートの核心は、土地や建物を持つ「オーナー」と、施設を動かす「運営会社」を分ける考え方です。星野佳路代表は1990年代初頭、米国のホテル業界で一般的だったこの方式を日本の温泉旅館業に持ち込みました。初期投資を抱えずに拠点を増やせる一方で、手放しているものもあります。

「所有と運営の分離」の役割分担
オーナー土地と建物を保有する投資家・星野リゾート・リート投資法人・自治体・金融機関など
→
施設宿泊客が滞在する旅館・ホテル星のや・界・リゾナーレ・OMOなど
←
星野リゾート運営を担うブランド・予約システム・営業ノウハウ・総支配人などの人材を提供
オーナー → 星野リゾート
運営を委託
星野リゾート → オーナー
運営の成果
オーナー → 星野リゾート
運営の対価
※出典:コントリ編集部 研究ノート(2026年8月)、日経ビジネス電子版、星野リゾート・リート投資法人「運用戦略」をもとに作成。個別契約の料率は非公開

オーナーが持ち、星野リゾートが運営する

所有と運営の分離とは、建物の持ち主と、そこで商売をする会社を分ける経営のことです。例えば、ビルのオーナーが一階の店舗を、実力のある飲食店に任せる姿を思い浮かべると近いでしょう。

ホテル業界では、この契約を「マネジメント・コントラクト(運営受託)」と呼びます。オーナーは施設を持ち、運営会社はオーナーから運営を任されて、施設を動かします。星野リゾートの場合、オーナーは投資家や金融機関、自治体、事業会社、そして後述するREITなどです。

星野リゾートの稼ぎは、施設そのものではなく「運営する力」から生まれます。宿を建てる会社ではなく、宿を生かす会社。この位置取りが、ほかのホテル会社との大きな違いです。

運営会社が提供するもの|ブランド・予約・人材

研究ノートでは、運営会社が提供するものを4つに整理しました。1つめは「星のや」や「界」などのブランドです。2つめは予約システム、3つめは集客や営業のノウハウになります。

そして4つめが人材です。総支配人や各部門の幹部として、星野リゾートの社員が施設に入ります。つまり、オーナーが手にするのは看板だけではありません。仕組みと、それを動かす人をまとめて預ける形です。

対価の決め方について、一般的な運営受託は「固定額」と「業績に連動する歩合」の組み合わせが多いとされます。ただし、星野リゾート個別の料率を示した一次資料は見つかりませんでした。本記事でも、具体的な率には触れずにおきます。

成長スピードと引き換えに手放すもの

このモデルの強みは、土地の購入や建設という大きな初期投資を背負わずに済む点です。貸借対照表が軽くなるため、同じ資金力でも出店の速度を上げられます。アセットライトとは、このように資産を軽く持つ経営のことを指します。

一方で、手放しているものもあります。施設を持っていれば得られる、不動産の値上がり益などです。研究ノートが参照した報道では、これを「収益の可能性を捨てて成長スピードを買う」判断だと表現していました。

何を持たないかを決めることは、何で勝つかを決めること。星野リゾートは、所有の果実より運営の広がりを選んだ会社だといえます。

星野リゾート・リート投資法人|資金を回す「受け皿」

所有と運営を分けるには、施設を持ってくれる相手が必要です。その受け皿の一つが、2013年に東証に上場したホテル・旅館特化型の星野リゾート・リート投資法人です。第26期(2026年4月期)の開示から、仕組みの規模感を確認します。

星野リゾート・リート投資法人 第26期の主要数字
保有物件と取得額合計71物件 / 2,339億円第26期末(2026年4月)
営業収益93.4億円前期 86.9億円
当期純利益40.0億円前期 35.6億円
1口当たり分配金6,832円前期 6,077円
総資産額2,572億円前期 2,509億円
※第26期=2025年11月1日〜2026年4月30日。出典:星野リゾート・リート投資法人「決算ハイライト」(2026年9月閲覧)、JAPAN-REIT.COM(2026年6月)。億円未満は四捨五入

REITがオーナーになり、星野リゾートが運営する

REITとは、多くの投資家から集めたお金で不動産を買い、賃料などの収益を分配する仕組みのことです。例えば、大勢でお金を出し合ってアパートを買い、家賃を分け合う姿に近いものです。

星野リゾート・リート投資法人は、2013年7月に東京証券取引所へ上場しました。ホテルや旅館に特化したREITで、運用会社は星野リゾートが100%出資しています。星野氏自身、世界でも最小級のREITとして立ち上げた理由をダイヤモンド・オンラインで語っています。

REITが施設を買ってオーナーになり、星野リゾートが運営を受ける。2013年5月にはスポンサーサポート契約を結び、グループが持つ施設を将来の取得候補と位置づけました。運営で価値を高め、REITが取得し、その資金で次の施設へ。この循環が、所有と運営の分離を支えています。

第26期の数字|71物件・取得価格2,339億円

第26期の数字を、前期と並べてみます。

項目第25期第26期出典
営業収益86億96百万円93億44百万円同投資法人 決算ハイライト(2026年9月閲覧)
当期純利益35億55百万円39億97百万円決算ハイライト(損益)
1口当たり分配金6,077円6,832円決算ハイライト(分配金)
総資産額2,509億円2,572億円決算ハイライト(資産)
保有物件―71物件・取得額2,339億円JAPAN-REIT.COM(2026年6月)

第26期は2025年11月から2026年4月までの半年間です。営業収益、純利益、分配金のいずれも前期を上回りました。保有する71物件の取得額は合計2,339億円にのぼります。

注目したいのは、保有物件に他社が運営するホテルも含まれる点です。研究ノートによれば、都市型の「the b」や「ANAクラウンプラザ」なども入っています。星野リゾートの施設だけに頼らず、REIT自体の安定性を保つ工夫が見て取れます。

固定賃料と変動賃料で安定と成長を両立する

REITは、施設を運営会社などに貸し、賃料を受け取ります。同投資法人の運用戦略ページによると、賃料は「固定賃料」と「変動賃料」の組み合わせです。

固定賃料とは、業績にかかわらず毎期決まって入る賃料のことです。変動賃料は、施設の売上や利益に連動して増減します。つまり、運営がうまくいけば、持ち主であるREITの取り分も増える設計です。

この仕組みは、オーナーと運営会社の利害をそろえます。運営会社が価値を上げるほど、持ち主にも利益が戻ってくるわけです。星野リゾートがオーナーに選ばれ続ける理由の一つも、ここにあると私たちは考えています。

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旅館再生とブランド戦略|値下げでなく価値をつくり直す

星野リゾートは2001年のリゾナーレ小渕沢以降、経営が行き詰まった旅館やリゾートの再生を数多く手がけてきました。再生の基本は、値下げで客を呼び戻すのではなく「来てもらう理由」を設計し直すことです。再生で磨いた型は、星のや・界・リゾナーレ・OMO・BEB・LUCYというブランドの体系につながっています。

星野リゾートの歩みと主な再生事例
1914年軽井沢で「星野温泉旅館」が開業
1990年代初頭星野佳路氏が4代目社長に就任し、所有と運営の分離へ(就任年は資料により1990年または1991年)
2001年リゾナーレ小渕沢(現リゾナーレ八ヶ岳)の再生に着手
2004年星野リゾート トマムの再生
2005年伊東温泉 いづみ荘の再生
2013年星野リゾート・リート投資法人が東証に上場
2020年コロナ下でマイクロツーリズムを提唱
2028年予定米ニューヨーク州で温泉旅館を開業
※出典:コントリ編集部 研究ノート(2026年8月)、星野リゾート・リート投資法人、京都新聞(2020年11月25日)、ジェトロ(2024年10月)

代表的な再生事例|リゾナーレ・トマム・いづみ荘

最初の大きな再生案件は、2001年のリゾナーレ小渕沢(現在のリゾナーレ八ヶ岳)でした。経営に行き詰まった会員制リゾートを引き受け、立て直しに取り組んでいます。

続いて2004年には、北海道の星野リゾート トマムを手がけました。2005年には、多額の負債を抱えた伊東温泉の老舗旅館、いづみ荘の再生にも着手しています。

こうした案件を重ねるなかで、星野リゾートは「リゾート再生の達人」と呼ばれるようになります。所有と運営を分ける考え方は、再生の場面でこそ力を発揮します。建物の持ち主は変えずに、運営だけを入れ替えられるからです。

データと現場の声で「再現できる方程式」をつくる

研究ノートでは、再生の鍵を2つに整理しました。1つは「過去のしがらみを断ち切る覚悟」です。もう1つは、データという客観的な事実に基づく「再現できる方程式」づくりでした。

現場のマネジメントでは、従業員の気持ちを業務の決め方に反映させることを重んじています。星野氏自らが最前線のスタッフと議論する場を持ち、日々の運営を振り返ってきたそうです。上からの指示だけで動く組織から、各部署の声を集める組織への切り替えでした。

マーケティングでも、価格を下げて客を呼ぶ道は選びませんでした。星野氏は、人に来てもらうための価値をどう作るかを追い、結果として客単価が上がったと語っています。安くするより、来る理由をつくる。これが再生の芯にある考え方です。

6ブランドは価格ではなく旅の目的で分ける

星野リゾートのブランドは、単純な価格の上下で並んでいるわけではありません。旅の目的や過ごし方、人生の段階に合わせて分けられています。

ブランドの違いを、1枚の表にまとめました。

星野リゾート 6ブランドの比較
ブランドコンセプト主な旅のスタイル施設数
星のや和のリゾートホテル非日常を味わう滞在10
界王道なのに、あたらしい。温泉旅館ご当地の文化を楽しむ旅24
リゾナーレファミリー向けリゾート家族旅行8
OMO旅のテンションを上げる都市観光ホテル街歩き18
BEB居酒屋以上 旅未満若い世代の仲間旅4
LUCY山岳リゾート山を楽しむ旅1
※施設数は星野リゾート公式サイト「会社概要」(2026年9月閲覧)。コンセプトは同社公式サイト、旅のスタイルはコントリ編集部 研究ノート(2026年8月)による整理

例えば「界」は、その土地の伝統文化や食を体験する「ご当地楽」を全施設で用意しています。「OMO」では、スタッフが近所を案内するガイドツアーを通じて、街歩きの楽しさを届けます。

価格と体験の対応がわかりやすければ、お客様は値段ではなく体験で選べます。価格競争から一歩離れるための、ブランドの設計です。研究ノートでは、ここにも再生で培った「来る理由をつくる」発想が生きていると読み解きました。

立候補制とマルチタスク|運営会社を支える組織

施設を所有しない会社にとって、競争力の源泉は「運営する力」、つまり人と組織です。星野リゾートは、管理職に自ら手を挙げる立候補制度と、一人が複数業務をこなすマルチタスクを組み合わせてきました。コントリは、これを「アセットライトモデルが求める組織から逆算した制度」と読み解いています。

運営力を生む星野リゾートの組織 3つの特徴
1立候補制度総支配人やユニットディレクターに自ら手を挙げ、戦略をプレゼンして選ばれる。2003年ごろ開始
2役割の変更交代は昇格・降格ではなく、役割の変更と位置づける。再挑戦して返り咲く例もある
3マルチタスクフロント・客室・レストランなど複数の業務を一人がこなし、少ない人数で運営を回す
施設を持たない会社の競争力は「運営する人と組織」にある
※出典:星野リゾート採用サイト「CAREER PATH SYSTEM」、リクルートワークス研究所、ITmedia ビジネス(2024年12月)、コントリ編集部 研究ノート(2026年8月)

立候補プレゼンで総支配人・ユニットディレクターを選ぶ

星野リゾートでは、施設の責任者である総支配人を、会社が一方的に決めるわけではありません。ユニットディレクターと呼ばれる部門の責任者も同じです。社員が自ら手を挙げ、立候補プレゼンで施設や組織の戦略を発表します。

採用サイトによれば、社員はプレゼンを聞いて投票し、リーダー選びに参加できます。リクルートワークス研究所の記事では、この制度は2003年ごろに始まったと紹介されていました。

私たちコントリ編集部が経営者の方々に取材を重ねるなかでも、「任された人」より「手を挙げた人」が強い場面によく出会います。自分で言葉にした戦略は、自分の約束になるからです。立候補制度は、その約束を組織の仕組みにしたものだといえます。

交代は降格ではなく「役割の変更」

研究ノートで印象に残ったのが、ユニットディレクターの交代の捉え方です。星野リゾートでは、交代を「昇格・降格」ではなく「役割の変更」と位置づけているとされます。

役職を上下で捉えると、一度外れた人は戻りにくくなります。役割で捉えれば、経験を通じて自分の強みや課題を知り、再び挑戦することも自然です。実際に、一度外れたあとで再び立候補し、返り咲く例もあると伝えられています。

降りることが失敗にならないから、手を挙げやすくなる。立候補制度が形だけにならない理由は、この裏側の設計にあると私たちは捉えています。

マルチタスクが少人数運営と再生を可能にする

マルチタスクとは、一人のスタッフがフロント、客室の準備、レストランのサービスなど複数の仕事をこなす働き方です。星野リゾートは1990年代からこの取り組みを続けてきました。スキルの習得度は、細かく数値で管理しているとされます(ITmedia ビジネス、2024年12月)。

旅館の仕事は、時間帯によって忙しい持ち場が変わります。チェックインの時間はフロント、夕食時はレストラン、というように人の必要な場所が動くのです。一人が複数の持ち場をこなせれば、少ない人数でも無理なく回せます。

これは、再生の現場と特に相性が良い仕組みです。経営が苦しい施設ほど、人を増やす余裕はありません。同じ人数で回せる形をつくれることが、運営を任される力になります。

なぜ星野リゾートの仕組みは真似されにくいのか

「持たずに運営する」と言葉にすれば簡単ですが、同じ形をつくるのは容易ではありません。オーナーに選ばれ続ける運営力、資金の受け皿となるREIT、そして運営力を生む組織が、互いを支え合っているからです。マイクロツーリズムのような危機時の打ち手も、この循環があってこそ素早く打てたと考えられます。

真似されにくさを生む循環
STEP 1運営の実績再生・ブランド・マルチタスクで施設の価値を高める
STEP 2オーナーの信頼任せたい運営会社として選ばれる
STEP 3新しい施設の運営受託REITやオーナーが施設を保有し、運営を託す
STEP 4人材の成長機会任せられるポストが増え、手を挙げる人が育つ
1 → 2 → 3 → 4 → 再び1へ
循環の中心にあるのは 所有と運営の分離
※コントリ編集部 研究ノート(2026年8月)をもとに作成

運営実績→オーナーの信頼→新しい施設という循環

運営受託のビジネスは、オーナーに選ばれなければ始まりません。選ばれるには、任せた施設で結果を出した実績が必要です。そして実績を積むには、任される施設が必要になります。

星野リゾートは、再生案件でこの循環を回し始めました。困っている施設を立て直すことで、実績と信頼を同時に積み上げたわけです。そこにREITという受け皿が加わり、循環の速度が上がりました。

さらに施設が増えれば、総支配人やユニットディレクターのポストも増えます。手を挙げる人の挑戦の場が広がり、運営力がさらに高まる。一つの仕組みだけを真似ても、この循環までは写し取れません。

マイクロツーリズム|危機を近場の需要に変えた発想

2020年、新型コロナの影響で訪日客がほぼいなくなりました。このとき星野代表が提唱したのが「マイクロツーリズム」です。マイクロツーリズムとは、自宅から車で行ける近場への旅行のことを指します。

京都新聞(2020年11月25日)の取材で、星野代表は近隣の県の温泉地へ車で出かける旅を勧めていました。同じ記事では、星のや京都が近場からの集客で稼働を持ち直したことも紹介されています。

遠くの客を待つのではなく、近くの客を新しい市場として定義し直す。危機のなかで「誰に来てもらうか」を言い直した判断でした。運営に集中してきた会社だからこそ、打ち手の切り替えも速かったのだと私たちは考えています。

チームへの経営承継と2028年の北米進出

星野代表は、特定の一人に会社を継がせる考えではありません。「マネジメントチーム」への経営承継を目指すと語っています(東洋経済オンライン)。各ポジションの責任範囲を明確にし、チームで経営を担える体制づくりを進めているそうです。

立候補制度で育ったリーダーが、やがて経営チームを担う。そう考えると、組織の仕組みと承継の考え方はつながっています。

事業の広がりも続きます。2025年4月の発表では、今後3年で15施設の開業を計画していました。この中には米国の温泉旅館も含まれます(TravelVoice、2025年4月23日)。運営力を輸出するという挑戦も、所有と運営を分けた会社だからこそ描ける道です。

中小企業が持ち帰れる4つの問い

星野リゾートの規模は大きくても、その発想は中小企業にも置き換えられます。鍵は「何を持つか」ではなく「何で稼ぐか」を先に決め、そこから資金・組織・人事を組み立てることです。最後に、自社で考えられる4つの問いにまとめます。

星野リゾートから持ち帰る4つの問い
※コントリ編集部 研究ノート(2026年8月)をもとに作成。クリックでチェックできます

持つことがリスクになっている資産はないか

一つめの問いは、持つこと自体が重荷になっている資産の見直しです。店舗、設備、車両、倉庫など、所有が前提になっているものは少なくありません。

例えば、店舗を増やしたいなら、地域で知り合った空き店舗の持ち主と組む道もあります。ご縁のある相手から、運営だけを引き受ける形です。製造業なら、使っていない時間の設備を他社に貸すことも考えられます。持つか、運営するかを分けて考えるだけで、選択肢は広がります。

まずは、自社の貸借対照表に載っている資産を書き出してみてください。一つずつ「これを持たずに同じ価値を出せるか」と問うと、見直す候補が見えてきます。

値下げの前に「来てもらう理由」をつくり直せるか

二つめは、価格の問いです。客足が落ちたとき、最初に値下げを考える経営者の方は多いのではないでしょうか。

星野リゾートの再生は、逆の順番でした。まず「なぜこの宿に来るのか」を設計し直し、結果として客単価を上げています。値段で選ばれる店は、もっと安い店に負けます。理由で選ばれる店は、値段の比較から一歩離れられます。

手を付けるなら、直近で来てくれたお客様に「なぜうちを選んだか」を聞くところからです。返ってきた言葉を並べると、磨くべき来店理由が見えてきます。

役職を「上下」ではなく「役割」として扱えているか

三つめは、人事の問いです。役職を上下で捉える組織では、一度外れた人が再挑戦しにくくなります。「降格」の言葉が怖くて、手を挙げる人も減っていきます。

星野リゾートは、交代を「役割の変更」と呼びました。中小企業でも、店長やリーダーを任期制にし、次の人が手を挙げられる形にする方法があります。降りても戻れると分かれば、挑戦する人は増えるはずです。

最初の一歩として、次のリーダー候補に「このポジションに就いたら何をするか」を話してもらう場を設けてみてください。一人の話から始めても十分です。

事業承継を「一人」ではなく「チーム」で考えられるか

四つめは、承継の問いです。後継者が見つからない、と悩む経営者の方は少なくありません。そのとき、候補を一人に絞り込もうとしていないでしょうか。

星野代表は、特定の個人ではなく経営チームへの承継を志向しています。中小企業でも、営業・製造・管理の責任者が一緒に経営を担う形は描けます。「誰が継ぐか」を「どのチームで継ぐか」に言い換えると、見える候補が変わってきます。

まずは、社長が今一人で担っている判断を、分野ごとに書き出してみてください。誰にどの判断を預けられるかが見えたとき、チームでの承継が具体的な計画になります。

まとめ|星野リゾートは「持たずに運営する力」で広がった

星野リゾートのビジネスモデルは、施設の所有者と運営会社を分ける「所有と運営の分離」です。土地や建物は投資家やREITが持ち、星野リゾートはブランド・予約の仕組み・人材を提供して運営を担います。公式サイト掲載の施設数は85(2026年9月閲覧時点)に広がりました。

その仕組みを支えるのが、第26期に71物件・取得額2,339億円を持つ星野リゾート・リート投資法人です。そして運営力を生むのが、旅館再生で磨いた「来る理由をつくる」発想と、立候補制・マルチタスクの組織でした。

中小企業が持ち帰れるのは、規模ではなく順番です。何を持つかより先に、何で稼ぐかを決める。そこから資金・組織・人事を組み立て直すことが、最初の一歩になります。

同じシリーズでは、キーエンスのビジネスモデルやセブンイレブンのビジネスモデルも読み解いています。仕組みで勝つ会社の比較には、ビジネスモデル一覧もあわせてご覧ください。

編集部コメント:研究ノートをまとめるなかで心に残ったのは、交代を「降格」ではなく「役割の変更」と呼ぶ考え方でした。言葉を一つ変えるだけで、手を挙げる人の数が変わる。経営者の方がご自身の言葉で組織の約束を語るとき、その言葉は仕組み以上に人を動かします。取材を重ねるなかで、そう感じてきました。自社の役職の呼び方を一つ、見直してみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 星野リゾートのビジネスモデルを一言でいうと何ですか?

A. 「所有と運営の分離」です。施設の土地・建物は投資家やREIT、自治体などのオーナーが持ちます。星野リゾートはブランド・予約の仕組み・運営ノウハウ・人材を提供して運営を担い、その対価を受け取ります。

Q2. 星野リゾートは上場していますか?

A. 運営会社は非上場で、売上高などの財務数値は公開されていません。上場しているのは、施設を保有する側の星野リゾート・リート投資法人(証券コード3287)です。

Q3. 星野リゾート・リート投資法人とはどんな会社ですか?

A. 2013年に東京証券取引所に上場した、ホテル・旅館特化型の不動産投資法人です。第26期(2026年4月期)末で71物件・取得額合計2,339億円を保有しています。星野リゾートの施設のほか、他社が運営するホテルも含まれます。

Q4. 星野リゾートの施設数はいくつですか?

A. 公式サイトの会社概要では85施設です(2026年9月閲覧時点)。内訳は星のや10、界24、リゾナーレ8、OMO18、BEB4、LUCY1、その他10、日帰り施設10です。集計の方法により、報道では異なる数字が使われることもあります。

Q5. 星野リゾートの立候補制度とは何ですか?

A. 総支配人やユニットディレクターを、社員の立候補で決める制度です。立候補者は施設や組織の戦略をプレゼンし、社員の投票も参考にして選ばれます。2003年ごろから続いていると紹介されています。

Q6. 中小企業が星野リゾートから学べることは何ですか?

A. 持つことがリスクになる資産を切り離せないか考えることが一つめです。値下げの前に「来てもらう理由」を設計し直すことも参考になります。役職を上下ではなく役割として扱うことも、その一つです。

参考資料

本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートです。2026年9月時点で確認できた星野リゾートの公式サイト、星野リゾート・リート投資法人の開示資料、報道と照合しました。運営会社は非上場のため、財務数値は保有側のREITの開示に限っています。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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