
広告費ゼロで、問い合わせが途切れない会社に共通する「地味な習慣」
広告費をかけていないのに、問い合わせや紹介が途切れない会社がある。そう聞くと、多くの人は「よほど特別な強みや人脈があるのだろう」と考えるはずだ。コントリでこれまで数多くの経営者に話を聞いてきたが、この手の会社は実際に存在する。
話を聞くたびにわかったのは、そこにあるのは派手な広告戦略ではないということだった。頼まれごとを損得抜きで引き受ける、紹介してほしいと自分からはっきり言う、誘われた場には顔を出す。そんな地味な行動の積み重ねが土台にあった。
広告費をかけて何かを大きく発信するのではなく、日々の対応の仕方そのものが、紹介や問い合わせを生む仕組みになっていた。取材で会った経営者たちは、業種も規模も異なる。それでもこの点だけは、驚くほど共通していた。
この記事では、株式会社感動ムービー、ミカタカンパニー株式会社、株式会社Realizeという3社の実例をもとに、その地味な習慣の中身を具体的に見ていく。何か特別な才能や人脈の話ではなく、今日の行動の選び方から変えられる話である。
株式会社感動ムービー 伊藤大輔氏 ― 頼まれごとを、損得抜きで引き受ける
株式会社感動ムービー 伊藤大輔 氏
伊藤氏の広告費ゼロ・累計売上2億円という実績を支えていたのは、頼まれてもいないことに自分から手を挙げる習慣だった。
「頼まれごとは試されごと」という信条
株式会社感動ムービーの伊藤大輔氏は、宣伝広告費ゼロで累計売上2億円を達成している。その実績の背景を聞くと、返ってきたのは「頼まれごとは試されごと」という信条だった。
誰かに頼まれたわけでもないのに、噂を聞いて「困っているな」と思ったら、自分から手伝いに行く。その積み重ねが、広告に頼らない事業の土台になっている。
小学校のキャンプで生まれた偶然のつながり
2019年6月、伊藤氏は隣町の小学校のキャンプを手伝いに行った。誰に頼まれたわけでもなく、噂を聞いて「困ってるな」と思い、自分の判断で足を運んだだけだった。
打ち上げの席で隣に座った人が、たまたまプロのイラストレーターだったという。しかもちょうど3日前、伊藤氏は「イラストが描きたい」と直感していたところだった。
このエピソードで見逃せないのは、見返りを計算してから動いたわけではないという点だ。頼まれてもいない手伝いに出向いた先で、たまたま出会った人物が、自分の欲しかったつながりを持っていた。
偶然のように見えるが、そもそも足を運んでいなければ出会うことすらなかった場面である。私はこの話を聞いて、行動の量そのものが、機会に出会う回数を決めているのだと感じた。
広告に頼らない信頼の積み上げ方
「頼まれごとは試されごと」という言葉は、頼まれた側が試されているという意味だけではない。頼まれる前から、周囲の状況にどれだけ関心を向けているかを映す言葉でもある。
伊藤氏が隣町の小学校の噂を耳にしたのも、日頃から周囲に耳を傾けていたからだと考えられる。広告を出して依頼が来るのを待つのではなく、困っている人がいないかを自分から探しに行く姿勢が、広告費ゼロで累計売上2億円という実績につながっている。
累計売上2億円という数字は、一件一件の頼まれごとを積み重ねた結果として生まれている。広告費をかけて短期間で認知を広げるやり方とは対照的に、伊藤氏のやり方は時間をかけて信頼を積み上げていく方法だ。
即効性はない。だが一度築かれた関係は、広告のように予算が尽きても止まらない、息の長い信頼だ。
ミカタカンパニー株式会社 三宅早菜恵氏 ― 「紹介してください」と自分から言い続ける
ミカタカンパニー株式会社 三宅早菜恵 氏
三宅氏の会社は求人広告を一切使わず、全て紹介で人材を確保している。その仕組みを支えているのは、自分から紹介を頼む習慣だった。
完全紹介制という仕組みの中身
ミカタカンパニー株式会社の三宅早菜恵氏は「求人広告は一切出していません。全部ご紹介です」と話す。これは完全紹介制と呼ばれるやり方だ。完全紹介制とは、求人広告を使わず、既存の顧客や知人からの紹介だけで人材を採用する仕組みのことである。例えば、社員の知人から「この人はどうですか」と声がかかり、そこから採用につながる、といった流れだ。
完全紹介制と聞くと、何か特殊な仕組みがあるように思える。だが実際にやっていることは、経営者の交流会に参加することと、そこで自社の理念を話すことだった。
「経営者の交流会などには積極的に参加していますが、エンドユーザー獲得が目的ではありません。理念を話して『周りで活躍できそうな女性がいたら紹介してください』とお願いしています」と三宅氏は説明する。交流会に出る目的そのものが、営業ではなく紹介の依頼になっている点が、この会社の特徴と言える。
紹介はどこから広がっているか
では実際に、紹介の輪はどこから広がっているのか。三宅氏は「地元のお友達や、経営者の奥様など、本当にたくさんの方からご紹介をいただいています」と語る。地元の知人や経営者の家族といった、日常の人間関係が紹介の入口になっている。
完全紹介制という仕組みは、いきなり成立するものではない。三宅氏の場合は、経営者の交流会という「人が集まる場」に定期的に足を運び続け、そのたびに理念を語り、紹介を依頼するという行為を繰り返してきた。
一度や二度お願いしただけでは、紹介は生まれにくい。繰り返し伝え続けることで、周囲の人の記憶に残っていったと考えられる。
採用の質を左右する紹介という選び方
求人広告を出さないという判断は、コストを抑える目的だけではないはずだ。理念に共感して紹介された人材と、広告だけを見て応募してきた人材とでは、入社後にミスマッチが起きる度合いも変わってくる。
三宅氏が理念を語ることを紹介依頼とセットにしているのは、単なる集客手段ではない。採用の質を左右する選び方でもある。
株式会社Realize 大崎美紀氏 ― 誘われた場には、迷わずに顔を出す
株式会社Realize 大崎美紀 氏
大崎氏の顧客基盤は、紹介率8割という数字に表れている。転機になったのは、広告ではなく、誘いに応じて顔を出したという一つの行動だった。
「お茶会」の誘いに応じた一つの決断
株式会社Realizeの大崎美紀氏は、顧客の9割が経営者で、紹介率は8割という実績を持つ。これほどの紹介率を支えている転機は、大山峻護氏からの「お茶会があるんですが、参加されませんか」という一通の誘いだった。
大崎氏はこの誘いに「すぐに『参加します』とお返事しました」という。特別な準備や計算があったわけではなく、誘われたことにその場で応じただけだった。
そこで生まれた人とのつながりが、現在の顧客基盤につながっている。この事例で興味深いのは、大崎氏が参加するかどうかで迷った形跡がないという点だ。
誘いを受けてから返事をするまでの間に、時間を置かなかった。そのことが、結果としてその後の紹介の広がりにつながった。誘いに応じるという、それだけの行動が起点になっている。
誘いに迷わず応じることの効果
紹介率8割という数字は、大崎氏が特別な営業トークを持っていたことを意味しない。むしろ、誘いを受けた際に迷わず応じるという判断の速さが、結果的に人との接点を増やし、そこから紹介が広がっていったと見るほうが実態に近い。
顧客の9割が経営者であるという点も見逃せない。経営者同士のつながりは、一人と信頼関係を築くと、そこから別の経営者へと紹介が広がりやすい性質を持つ。
大崎氏が積み重ねてきたのは、誘いに応じるという小さな行動を、経営者が集まる場で繰り返し実践してきたことだった。
お金をかけたPRとうまくいかなかった実例、そして3社の共通点
月30万円のプレスリリース代行が動かなかった話
株式会社LITA 笹木郁乃 氏
一方で、お金をかけたPRが期待した結果につながらなかった実例もある。株式会社LITAの笹木郁乃氏のケースを通じて、3社の地味な習慣との違いを見ていく。
株式会社LITAの笹木郁乃氏は、月30万円のプレスリリース代行サービスを半年間続けたことがある。プレスリリースを出せば、ウェブメディアへの転載自体はされる。しかし結果について、笹木氏は「店頭の状況も、ホームページへの問い合わせも、何一つ変わらなかった」と振り返っている。
月30万円という金額を半年間投じても、店頭にもホームページにも変化が出なかった。この事実は、広告費の多さと成果が比例するとは限らないことを示している。
感動ムービー、ミカタカンパニー、Realizeの3社に共通していたのは、広告費をかけることではなく、目の前の頼まれごとや誘いにどう応じるかという、日々の小さな判断の積み重ねだった。
笹木氏のケースで注目すべきは、施策自体が滞りなく実行されていた点だ。月30万円を払い、プレスリリースは配信され、ウェブメディアへの転載も実現している。手順としては何も欠けていなかった。それでも、店頭やホームページの数字には表れなかった。
3社とLITAの比較
| 会社 | 地味な習慣 | 結果 |
|---|---|---|
| 株式会社感動ムービー | 頼まれごとを自分から引き受ける | 広告費ゼロで累計売上2億円 |
| ミカタカンパニー株式会社 | 「紹介してください」と自分から頼み続ける | 求人広告ゼロ、全部紹介 |
| 株式会社Realize | 誘われた場には迷わず顔を出す | 紹介率8割 |
頼まれごとを、損得抜きで受ける
感動ムービー・伊藤氏
紹介してほしいと自分から言う/誘いに迷わず応じる
ミカタカンパニー・三宅氏、Realize・大崎氏
広告費をかけずに、紹介・問い合わせが積み重なる
3社に共通する結果
こうして並べてみると、3社の習慣は業種も対象もそれぞれ異なる。それでも「自分から動く」「自分から頼む」「誘いに応じる」という、広告に頼らない行動である点は共通している。派手さで比べれば、月30万円をかけたLITAのPR施策のほうがよほど目立つ動きだったはずだ。それでも結果を分けたのは、金額の大小ではなく、日々の行動の積み重ねだった。
広告費をかけたLITAのケースと比べると、感動ムービー、ミカタカンパニー、Realizeの3社が積み重ねてきたのは、ほとんど費用のかからない行動だった。手伝いに行く、交流会で紹介を頼む、誘いに返事をする。
どれも特別な準備を必要としない。日々の中で何度でも繰り返せる、地道な積み重ね。この繰り返せるという性質そのものが、紹介や問い合わせが途切れない状態を支えていたと考えられる。
まとめ
広告費ゼロで伸びる会社の共通点
- 頼まれたことを、損得抜きで受ける
- 紹介してほしいと、自分からはっきり言う
- 誘われた場には、迷わず顔を出す
今日からできること
3社に共通する行動は、どれも今日から真似できる範囲のものであり、大きな予算も特別な人脈も前提にしていない。広告費をかけるかどうかを考える前に、目の前にある頼まれごとや誘いにどう応じているか、一度振り返ってみる価値はある。
今日できることは、決して大きくない。目の前にある頼まれごとを一つ、損得を考えずに引き受けてみる。それだけでも、明日からの一歩になる。判断そのものは一瞬。だが、その積み重ねが数字として表れるまでには、それぞれ相応の時間がかかる点も付け加えておきたい。
編集部コメント
私が今回の3社の話で印象に残ったのは、いずれも「特別な戦略」ではなく、頼まれごとや誘いへの反応の速さだったという事実だ。伊藤氏は3日前に「イラストが描きたい」と直感していたところに、噂を聞いて手伝いに行った先でイラストレーターと出会っている。大崎氏は誘いを受けた際に「すぐに」参加を決めている。どちらも、判断にかけた時間の短さが共通している。
筆者としては、三宅氏が交流会に出る目的を「エンドユーザー獲得」ではなく「紹介の依頼」だとはっきり言い切っている点も見逃せないと感じた。交流会という同じ場に出ていても、何を目的にしているかによって、そこから生まれる結果が変わってくる。この会社の実例は、それを示している。
LITAの笹木氏のケースは、広告費をかけること自体を否定する話ではない。月30万円のプレスリリース代行でウェブメディアへの転載は実現しており、施策そのものが無意味だったわけではないからだ。それでも店頭やホームページへの反応が変わらなかったという事実は、広告費の外側にある「頼まれごとを受ける」「紹介を頼む」「誘いに応じる」という行動が、この3社にとっては結果を分ける起点になっていたことを裏付けている。
今回取り上げた3社は業種も規模も異なる。それでもいずれも、自社の外側に向けて存在を大きく見せる努力よりも、目の前の頼まれごとや誘いにどう応じるかという、自社の内側にある姿勢を一貫させる努力に時間を使っていた。人との関わり方(Communication)を大切にし、目の前の相手に貢献しようとする姿勢(Contribution)――今回の3社に共通していたのは、結局のところそうした地味な積み重ねだったように思う。
広告費をかけて何かを発信する前に、日々の頼まれごとや誘いにどう応じているかを振り返ることは、業種を問わず取り組みやすい一歩だと私は考えている。

