コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

楽天グループのビジネスモデル|経済圏の利益は金融が支える

楽天グループのビジネスモデル|経済圏の利益は金融が支える

楽天と聞いて、まず楽天市場を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。ところが決算資料を開くと、利益を生んでいる事業は別の場所にあります。

楽天グループのビジネスモデルは、楽天市場を入口に70以上のサービスをつなぐ「経済圏」型です。つなぎ役は、楽天IDと楽天ポイントです。2025年度の売上収益は2兆4,966億円で、29期連続の過去最高でした(同社2025年度決算)。ただし利益の柱は楽天市場ではなく、カード・銀行・証券のフィンテック事業です。

本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートを土台に、数字を楽天グループの決算資料で確かめ直しました。経済圏とSPU、楽天市場の稼ぎ方、フィンテックの強さを見ていきます。続けて、楽天モバイルの「黒字化」の読み方と資金調達を扱います。最後は、中小企業が持ち帰れる4つの問いで締めくくります。自社の収益構造を見直す材料になれば嬉しく思います。

楽天グループのビジネスモデルとは|決算の数字で見る全体像

楽天グループは、楽天市場を入口に、金融・通信・旅行など70以上のサービスを楽天IDと楽天ポイントでつなぐ会社です。2025年度の売上収益は2兆4,966億円、Non-GAAP営業利益は1,063億円です(同社決算、2026年2月)。利益の内訳を見ると、「EC企業」というイメージとは違う姿が浮かびます。

2025年度 利益の積み上がり
(Non-GAAP営業利益)

インターネットサービス+889億円
フィンテック+1,999億円
モバイル▲1,618億円
消去・調整等▲207億円
連結Non-GAAP営業利益1,063億円

フィンテックの利益(1,999億円)が、モバイルの赤字(1,618億円)を上回り、グループ全体の黒字をつくっています。

※消去・調整等は連結値とセグメント合計の差額から算出。
出典:楽天グループ「2025年度通期および第4四半期決算ハイライト」(2026年2月12日)

出店13店舗・社員6人から始まった楽天市場

楽天の原点は、1997年5月に開設したインターネット・ショッピングモール「楽天市場」です。出店は13店舗、社員は6人でした(同社公式サイト「沿革」)。

創業者の三木谷浩史氏は、日本興業銀行の出身です。在籍中に見た中小企業の販路や資金の苦労が、構想の出発点にあったと語られています。当時のネット通販は、出店に高額な費用がかかるのが一般的でした。楽天市場は月額の固定料金と、専門知識がなくても店舗ページをつくれる仕組みで、町の商店主にも門戸を開きました。

出店者が売れるほど、モールも伸びる。この発想は、今の楽天市場にも引き継がれています。

売上収益2兆4,966億円|2025年度の業績

2025年度の楽天グループは、売上収益2兆4,966億円(前年比9.5%増)で増収を続けました。Non-GAAP営業利益は1,063億円で、前年から992億円増えています(同社2025年度決算)。

Non-GAAP営業利益とは、会計基準上の営業利益から、一時的な費用などを除いた会社独自の利益指標です。例えば、買収に伴う特殊な償却費を除き、本業の稼ぐ力を見やすくするために使われます。

一方で、親会社の所有者に帰属する当期損益は、2025年度も赤字でした。売上は伸び、本業の利益も黒字に転じた。それでも最終損益は赤字という、段階ごとに違う顔を持つ決算です。

3つのセグメントで見る利益の出どころ

楽天グループの事業は、インターネットサービス、フィンテック、モバイルの3つのセグメントに分かれています。セグメントとは、事業の種類ごとに業績を分けて示す単位のことです。例えば、飲食部門と物販部門の数字を別々に見るイメージです。

決算資料を2期分並べて私たちが気づいたのは、利益の伸びの大半をフィンテックが担っている点でした。主な数字は次のとおりです。

セグメント2024年度2025年度主な事業
インターネットサービス851億円889億円(+4.5%)楽天市場、楽天トラベル、海外事業など
フィンテック1,534億円1,999億円(+30.3%)楽天カード、楽天銀行、楽天証券など
モバイル▲2,089億円▲1,618億円(471億円改善)楽天モバイルなど
連結合計71億円1,063億円消去・調整等を含む

※出典:楽天グループ「2025年度通期および第4四半期決算ハイライト」(2026年2月12日)。数字はNon-GAAP営業利益。2024年度は同資料の前年比から算出。

フィンテックの利益がなければ、グループ全体は大きな営業赤字です。楽天を理解する鍵は、この構造にあります。

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楽天経済圏とSPU|ポイントで顧客を循環させる設計

楽天経済圏の中心にあるのは、共通の楽天IDと楽天ポイントです。1つのサービスを使う人が、別のサービスも使うほど得をする設計です。2サービス以上を使う人の比率は77.3%に達しています(2025年12月末、同社資料)。楽天はこの考え方を「メンバーシップ企業」と表現しています。

楽天経済圏の循環
IDとポイントが顧客を回遊させる

楽天ID × 楽天ポイント

1楽天市場で買い物
↓
2楽天ポイントが貯まる
↓
3楽天カード・銀行・証券を使うとSPUで倍率アップ
↓
4楽天モバイル・楽天トラベルなど他サービスへ
↓
5貯まったポイントを楽天市場で使う

→ 1に戻り、使うサービスが増えるほど関係が長く太くなる

4,560万人国内の月間アクティブユーザー数
77.3%2サービス以上を使う人の比率

いずれも2025年12月時点。出典:楽天グループ「2025年度通期及び第4四半期決算説明会 補足資料」(2026年2月12日)

「メンバーシップバリュー」という独自の経営指標

楽天は、会員基盤の価値を測る独自の指標「メンバーシップバリュー」を経営管理に使っています。年間アクティブユーザー数、クロスユース(複数サービスの利用)、LTVを掛け合わせます。そこから顧客獲得費用を差し引いて算出する指標です。

LTVとは、1人の顧客が取引期間を通じて会社にもたらす利益の合計のことです。例えば、月1,000円の利益を生む顧客が5年間使い続ければ、LTVは6万円になります。

2025年第4四半期、メンバーシップバリューは初めて10兆円に届きました(同社決算説明資料)。けん引役として挙げられているのは、楽天証券や楽天銀行などのフィンテック各サービスです。国内の月間アクティブユーザー数は4,560万人で、前年同期から3.4%増えています。

楽天が見ているのは、1回の売上ではなく、会員1人との関係の総量です。「EC企業でもフィンテック企業でもない」という自己定義は、この指標に表れています。

SPU|使うサービスが増えるほどポイント倍率が上がる

SPU(スーパーポイントアッププログラム)とは、楽天市場でのポイント倍率が上がる仕組みです。他の楽天サービスをどれだけ使っているかで、倍率が決まります。例えば、楽天カードで支払う、楽天モバイルを契約する、といった条件を満たすほど倍率が積み上がります。

利用者にとっては、サービスをまとめるほど得になる仕組みです。楽天にとっては、楽天市場の顧客を金融や通信へ送り、関係を長く太くする入口になります。1つのサービスで獲得した顧客に、2つめ、3つめのサービスを使ってもらう。その後押しをポイントで設計している点が、楽天の特徴です。

なお、SPUの条件や倍率は時期によって見直されています。最新の条件は、楽天市場の公式ページで確かめてください。

ポイント条件の見直しが流通総額に与えた影響

ポイントは強力な送客の道具ですが、原資がかかります。楽天は2023年後半から2024年にかけて、SPUの倍率や条件を見直しました。

研究ノートの整理では、この見直しが、2024年の国内EC流通総額が伸び悩んだ要因の一つとされています。旅行支援策の終了による楽天トラベルの反動、ふるさと納税のルール変更なども重なりました。2025年度の国内EC流通総額は6兆3,452億円(前年比3.9%増)で、再び伸びています(同社決算)。

ポイントを絞れば利益は守れても、顧客の動きは鈍くなる。還元の厚さと収益性のバランスは、経済圏型の会社が常に向き合う問いです。

楽天市場の稼ぎ方|出店者と共に伸びるモール型

楽天市場は、出店者が自分の店舗ページを構える「モール型」のECです。料金は出店料、売上連動のシステム利用料、決済手数料、広告などの組み合わせです。出店者の売上が伸びるほど、楽天の収入も伸びます。2025年度の国内EC流通総額は6兆3,452億円でした(同社2025年度決算)。

楽天市場とAmazonの違い
モール型とマーケットプレイス型

比較軸楽天市場Amazon
形態モール型マーケットプレイス型
売り場のつくり店舗ごとに独自のページを構える同じ商品ページに直販と第三者の出品が並ぶ
主な収入源月額出店料・売上連動のシステム利用料・決済手数料・広告などの組み合わせ販売手数料などが中心
出店者の立ち位置店舗が自分の顧客を育てられる商品単位で価格や配送を比べられやすい

出典:コントリ編集部 ビジネスモデル研究ノート(2026年8月)、楽天市場 出店案内(2026年9月時点)をもとに作成

出店料・システム利用料・広告の多層構造

楽天市場の出店者向け料金は、いくつもの層でできています。主な項目は、月額出店料、売上連動のシステム利用料、決済手数料です。ほかにポイントの原資負担、アフィリエイト手数料、任意の広告費があります。

出店プランは3種類です。月額出店料は「がんばれ!プラン」が2万5,000円、「スタンダードプラン」が6万5,000円です(楽天市場、2026年9月)。システム利用料は、プランと月の売上高に応じて変わります。

固定費と変動費を組み合わせる設計は、楽天の収入を安定させつつ、出店者の成長とも連動させます。出店者が売れなければ、楽天も伸びない。この利害の一致が、モール型の強みです。

Amazonとの違い|モール型とマーケットプレイス型

同じネット通販でも、Amazonは仕組みが違います。Amazonは、自社で仕入れて売る直販と、第三者の出品が同じ商品ページに並ぶ「マーケットプレイス型」です。

マーケットプレイス型では、買い手は商品単位で価格や配送を比べます。一方、楽天市場では店舗ごとにページやメルマガを持ち、店が自分の顧客を育てられます。中小の出店者にとっては、価格だけでなく、店の個性で選ばれる余地が残る売り場と言えます。

同じ「場を提供するビジネス」でも、個人間取引の場をつくるメルカリは、また違う設計をしています。比べたい方は、メルカリのビジネスモデルもご覧ください。

送料無料ライン問題に見る、出店者との緊張関係

モール型は、出店者と利害が一致する一方で、ときに緊張も生みます。象徴的なのが、2020年3月に導入した「送料込みライン」をめぐる問題です。税込3,980円以上の購入で送料を無料にする施策に、一部の出店者が反発しました。

公正取引委員会は、独占禁止法違反の疑いで審査に入っています。楽天は、店舗の意思を尊重し、導入しない店舗を不利に扱わない措置をとりました。公取委はこれを確認し、2021年12月に審査を終えています(公正取引委員会発表)。

場を運営する側の施策は、出店者の経営に直接響きます。プラットフォームの強さと、参加者への配慮をどう両立させるか。モール型の運営に避けて通れないテーマです。

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実質の稼ぎ頭はフィンテック|カード・銀行・証券

楽天グループの利益を支えているのは、楽天カード・楽天銀行・楽天証券などのフィンテック事業です。2025年度のフィンテックのNon-GAAP営業利益は1,999億円です。インターネットサービスの889億円を大きく上回りました(同社決算)。経済圏で集まった会員が金融サービスの顧客にもなる流れが、利益を生んでいます。

実質の稼ぎ頭
楽天フィンテック事業の主要数字

フィンテック売上収益9,759億円前年比+19.0%
フィンテックNon-GAAP営業利益1,999億円前年比+30.3%
楽天カード ショッピング取扱高26.5兆円前年比+10.3%
楽天銀行 単体口座数1,763万口座前年比+7.0%
楽天銀行 単体預金残高13.2兆円前年比+10.0%
楽天証券 証券総合口座数1,326万口座前年比+11.1%

売上収益・営業利益・取扱高は2025年度、口座数・預金残高は2025年12月末時点。出典:楽天グループ「2025年度通期および第4四半期決算ハイライト」「決算説明会 補足資料」(2026年2月12日)

楽天カード|ショッピング取扱高26.5兆円

フィンテックの中核は楽天カードです。2025年度のショッピング取扱高は26.5兆円で、前年から10.3%伸びました(同社2025年度決算)。

楽天カードは、経済圏の入口と出口を兼ねています。楽天市場で使えばSPUでポイント倍率が上がり、日々の支払いに使えばポイントが貯まって、また楽天市場に戻ってくる。カードの利用が増えるほど、手数料収入と経済圏への回遊の両方が増える仕組みです。

2024年12月には、楽天カード株式の14.99%をみずほフィナンシャルグループに譲渡しました。後で触れる資金確保と、メガバンクとの提携強化の両面を持つ動きです。

楽天銀行・楽天証券|口座数と預り資産の拡大

楽天銀行の単体口座数は1,763万口座、単体預金残高は13.2兆円です(2025年12月末、同社資料)。日本銀行の政策金利引き上げで金利収益が大きく伸び、大幅な増収増益でした。

楽天証券の証券総合口座数は1,326万口座で、前年同期から11.1%増えました(同)。新NISA経由の顧客獲得が好調で、NISA口座数は2026年1月に700万を突破しています。

楽天市場でポイントを貯めた人が、銀行口座を開き、証券口座でNISAを始める。経済圏の会員基盤が、金融の顧客獲得費用を下げる役割を果たしていると、私たちは読み解いています。

2026年10月予定の再編|銀行を頂点とする金融グループへ

2026年5月、楽天は金融事業の再編で最終合意しました。楽天銀行を親会社とし、楽天カードと楽天証券ホールディングスを子会社にする内容です。効力発生は2026年10月1日の予定です(同社発表、2026年5月)。

狙いは、決済から資産形成までを1つのグループで提供する体制づくりです。データの共有やAI活用、資金調達コストの最適化が挙げられています。みずほ銀行も、再編後の楽天銀行の議決権の約10.52%を持つ予定です。

稼ぎ頭の事業を、より強い形に組み替える。楽天の次の打ち手は、金融を中心に回り始めています。

楽天モバイルの「黒字化」を3段階で読み解く

「楽天モバイルが黒字化した」という報道を目にした方も多いはずです。しかし決算資料を読むと、EBITDAの黒字、営業利益の黒字、グループ連結の黒字は、それぞれ別の到達点です。私たちコントリ編集部が決算資料を並べて見えてきた、3つの段階の違いを確認します。

楽天モバイルの「黒字化」は
3つの段階で読む

段階1EBITDA達成
楽天モバイル単体 129億円の黒字2025年度に参入以来初の通期黒字。減価償却費を足し戻した利益
↓
段階2Non-GAAP営業利益未達
モバイルセグメント ▲1,618億円楽天モバイル単体でも▲1,660億円。減価償却費を含むと赤字
↓
段階3グループ連結別物
Non-GAAP営業利益 1,063億円フィンテックなどの利益がモバイルの赤字を上回った結果

数値はすべて2025年度。出典:楽天グループ「2025年度通期および第4四半期決算ハイライト」(2026年2月12日)

段階1|EBITDA黒字化は2025年度に達成

2025年度、楽天モバイル単体のEBITDAは129億円でした(同社決算)。携帯キャリア事業への参入以来、初めての通期黒字です。契約回線数は2025年12月末に1,001万回線へ達しています。

EBITDAとは、営業利益に減価償却費などを足し戻した利益のことです。例えば、1億円の設備を10年で償却する会社なら、毎年の1,000万円の償却費を足し戻して計算します。設備の費用を除いた、日々の営業で現金を生む力を見る指標と言えます。

基地局を大量に建てる通信事業では、減価償却費が大きくなります。EBITDAの黒字は、その負担を除けば事業が回り始めたことを示す、大切な一歩です。

段階2|Non-GAAP営業利益では1,618億円の赤字

一方、減価償却費を含めたNon-GAAP営業利益で見ると、モバイルセグメントは1,618億円の赤字です。楽天モバイル単体でも1,660億円の赤字でした(同社2025年度決算)。赤字幅は前年から改善していますが、段階2にはまだ届いていません。

楽天は、2026年度に2,000億円強の設備投資を計画しています(2025年度実績は629億円)。KDDIとのローミング契約の見直しを控え、自社の基地局で通信品質を高める必要があるためです。設備投資が増えれば、将来の減価償却費も増えます。

営業利益ベースで黒字になる時期について、会社は具体的な年限を明言していません。EBITDA黒字は、営業黒字の手前にある通過点と捉えるのが正確です。

段階3|連結の黒字は、フィンテックがモバイルの赤字を上回った結果

楽天グループ全体のNon-GAAP営業利益は、2024年度に黒字へ転じ、2025年度は1,063億円でした。ただしこれは、モバイル事業が黒字になった結果ではありません。

フィンテック1,999億円とインターネットサービス889億円の利益が、モバイルの赤字1,618億円を上回った結果です。研究ノートを読み返すなかで、私たちが最も大切だと感じたのは、この3つの段階を混同しないことでした。

「黒字化」という同じ言葉でも、どの段階を指すかで意味はまったく違います。報道を読むときも、自社の決算を語るときも、どの段階の黒字かを一言添えるだけで、判断を誤りにくくなります。

2023年以降の資金繰り総力戦|増資・子会社上場・社債

モバイルへの大型投資で、楽天の財務は悪化しました。2021年7月には、米S&Pの格付けが投機的等級のBB+に下がっています(日本経済新聞)。そこから楽天は、公募増資、楽天銀行の上場、社債や永久劣後債など、複数の手段を組み合わせて資金を確保してきました。2026年4〜6月期の税引後の四半期利益は272億円で、6年ぶりの黒字でした(同社決算、2026年8月)。

楽天グループ 財務と資金調達の歩み

悪化の局面調達・回復の打ち手
2020年4月楽天モバイルが本格サービスを開始
2021年7月S&Pが長期格付けをBBB-からBB+(投機的等級)へ引き下げ
2022年度モバイルセグメントの営業損失が4,928億円(当時の発表)
2022年12月S&Pが格付けをBBへ引き下げ
2023年4月楽天銀行が東証プライム市場に上場
2023年5月公募・第三者割当で最大約3,300億円の増資を発表
2024年12月楽天カード株式の14.99%をみずほFGへ譲渡
2025年10月同社初の国内永久劣後債を発行
2025年度楽天モバイルが通期でEBITDA黒字化(129億円)
2026年4〜6月期税引後四半期利益272億円、6年ぶりの黒字

出典:楽天グループ 各種発表・決算資料(2022年度決算、2023年5月16日、2024年12月、2025年度決算、2026年度第2四半期決算)、日本経済新聞(2021年7月)

格下げと社債償還の山

楽天モバイルは、基地局の建設に巨額の投資を必要としました。2022年度のモバイルセグメントの営業損失は4,928億円に達しています(同社2022年度決算、当時の発表)。

S&Pは2021年7月に楽天の長期格付けをBBB-からBB+へ、2022年12月にはBBへ引き下げました。BB+以下は、投機的等級と呼ばれる水準です。格付けとは、会社がお金を返す力を第三者が評価した記号のことです。例えば、格付けが下がると、社債を発行するときの金利が上がりやすくなります。

研究ノートでは、2024〜2025年に大きな社債の償還が集中していた点も整理しています。返済の時期が迫るなかで、赤字の事業に投資を続ける。楽天が置かれていたのは、そうした局面でした。

公募増資と楽天銀行の上場

楽天は、この局面を1つの手段ではなく、複数の手段の組み合わせで乗り越えようとしました。

2023年4月、子会社の楽天銀行が東証プライム市場に上場しました。翌5月には、公募増資と第三者割当増資で最大約3,300億円の資金調達を発表しています(同社発表、2023年5月16日)。第三者割当の引受先には、三木谷氏の関連会社のほか、サイバーエージェントや東急などが名を連ねました。

2024年12月には、楽天カード株式の一部をみずほフィナンシャルグループに譲渡しています。株式を売る、新たに株を発行する、借りる。性質の違う手段を重ねて、時間を稼いだ形です。

「原則セルフファンディング」へ|2026年度の方針

2025年には資金調達の手段がさらに広がりました。2025年7月にはサステナビリティボンドで個人向け市場に再びアクセスしました。10月には同社初の国内永久劣後債も発行しています(同社決算)。

永久劣後債とは、返済期限を定めず、ほかの借入より返済の順位が低い社債のことです。例えば、会社の格付けの評価では、一部を借金ではなく資本に近いものとして扱われます。借入を増やしながら、財務の見え方を大きく悪化させないための手段です。

2026年度以降の楽天モバイルの資金需要は「原則セルフファンディング」の方針です。つまり、自らが生み出すお金でまかなうということです。四半期での最終黒字の回復は、その方針を支える材料の一つと言えます。

危機の出口が見え始めた今も、設備投資の負担は続きます。資金の出し手を増やし、自前で回せる範囲を広げていく。その過程そのものが、楽天の現在地です。

中小企業が持ち帰れる4つの問い

楽天グループは売上収益2兆円を超える企業ですが、その経営判断には、規模を問わず自社に置き換えられる論点があります。目立つ事業と稼いでいる事業は同じか、黒字という言葉の意味をそろえているか、といった問いです。研究ノートの整理から見えた4つの問いにまとめます。

楽天グループから持ち帰る4つの問い

1
自社の「顔」と「稼ぎ頭」は一致しているか明日やること:事業・商品ごとの売上と粗利を1枚の表に並べる
2
どの段階の黒字を指して話しているか明日やること:キャッシュ・営業利益・最終利益を並べた月次資料をつくる
3
既存顧客に2つめの商品を使ってもらう仕組みはあるか明日やること:今の顧客が次に困ることを書き出す
4
資金調達の手段を1つに頼っていないか明日やること:借入先と条件、リース・補助金などの選択肢を一覧にする

出典:コントリ編集部 楽天グループ ビジネスモデル研究ノート(2026年8月)をもとに作成

自社の「顔」と「稼ぎ頭」は一致しているか

楽天は、世間では「ネット通販の会社」と見られています。しかし利益の柱は、フィンテックでした。中小企業でも、看板商品と利益を生む商品が違うことは珍しくありません。

例えば、地域で知られた看板メニューより、法人向けの仕出しが利益を支えている飲食店があります。製造業でも、主力製品より保守や部品の販売が利益を生んでいることがあります。

まずは事業や商品ごとの売上と粗利を、1枚の表に並べてみてください。表の右端に、それぞれにかけている時間と人数を書き足すと、さらに見えやすくなります。どこに時間と人を割くべきかは、その表から見えてきます。看板商品を大切にしながら、稼ぎ頭を育てる判断もできるようになります。

どの段階の黒字を指して話しているか

楽天モバイルの事例は、「黒字」という言葉の危うさを教えてくれます。現金の出入りで見た黒字、減価償却を含めた営業利益の黒字、最終利益の黒字は、それぞれ別物です。

設備に大きく投資した年は、現金の動きは良くても、減価償却費で営業利益が赤字になることがあります。逆に、営業利益は黒字でも、借入の返済で手元の現金が減っていく会社もあります。

金融機関や社員に業績を説明するとき、どの段階の数字かをそろえているでしょうか。月次の会議で「黒字です」と言う前に、キャッシュ・営業利益・最終利益の3つを並べて示す。それだけで、話がかみ合いやすくなります。数字を自分の言葉で説明できることは、社員や取引先との信頼の土台にもなります。顧問税理士に、3つを1枚にまとめた月次資料をお願いするのも一つの方法です。

既存顧客に2つめの商品を使ってもらう仕組みはあるか

楽天経済圏の強さは、1つのサービスの顧客に、別のサービスも使ってもらう設計にあります。これは、ポイント制度がなくても応用できる発想です。

例えば、リフォーム会社が、工事後の顧客に定期点検を案内する。税理士事務所が、記帳の顧客に事業承継の相談窓口を用意する。新しい顧客を探す前に、今いる顧客が次に困ることは何かを書き出してみてはいかがでしょうか。

顧客との接点を増やす設計は、セブンイレブンのビジネスモデルでも読み解いています。

資金調達の手段を1つに頼っていないか

楽天は、増資、子会社の上場、株式の売却、社債、永久劣後債と、性質の違う手段を組み合わせて危機を乗り越えようとしました。中小企業に同じ規模は当てはまりません。それでも、お金の出し手を1つに絞らないという考え方は共通です。

取引のある金融機関は1行だけか。リースや補助金、取引条件の見直しといった手段を、平時に確かめているか。今の借入先と条件を一覧にするところから始めると、次の打ち手が見えやすくなります。

他の収益モデルと比べたい方は、ビジネスモデル一覧もご覧ください。

まとめ|楽天の仕組みを一言でいうと

楽天グループのビジネスモデルは、楽天市場を入口に、楽天IDとポイントで70以上のサービスへ顧客を循環させる経済圏型です。利益の柱は、その会員基盤から生まれたフィンテックで、2025年度は1,999億円を稼ぎました(同社決算)。楽天モバイルはEBITDAで黒字化した一方、営業利益ではまだ赤字で、その差をグループの金融事業が支えています。

自社に置き換えるなら、まず事業ごとの粗利を1枚に並べ、「顔」と「稼ぎ頭」を見比べるところからです。

編集部コメント

研究ノートを整理するなかで印象に残ったのは、打ち手の順序でした。楽天は赤字のモバイル事業を抱えながら、稼ぎ頭の金融をさらに強い形へ組み替えてきました。格下げの翌々年に増資と子会社の上場を重ね、黒字の段階を一つずつ進めている。華やかな「経済圏」の言葉の裏には、数字と向き合い続ける地道な判断があります。自社の事業別の粗利を1枚の表に並べるところから、始めてみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 楽天グループのビジネスモデルを一言でいうと何ですか?

A. 楽天市場を入口に、楽天IDと楽天ポイントで70以上のサービスをつなぐ「経済圏」型のビジネスです。1人の会員に複数のサービスを使ってもらうことで、関係を長く太くします。楽天自身は「メンバーシップ企業」と表現しています。

Q2. 楽天グループで一番稼いでいる事業はどこですか?

A. 2025年度のNon-GAAP営業利益で見ると、フィンテック事業が1,999億円と最大です。楽天市場を含むインターネットサービスの889億円を上回っています(同社2025年度決算)。

Q3. 楽天モバイルは黒字になったのですか?

A. 2025年度に楽天モバイル単体のEBITDAが129億円となり、参入以来初めて通期で黒字になりました。ただし減価償却費などを含むNon-GAAP営業利益では、モバイルセグメントで1,618億円の赤字が残っています。

Q4. SPUとは何ですか?

A. 楽天市場で買い物をするとき、他の楽天サービスの利用状況に応じてポイント倍率が上がる仕組みです。楽天カードや楽天モバイルの利用などが条件になります。条件や倍率は時期によって見直されるため、最新の条件は楽天市場の公式ページで確かめてください。

Q5. 楽天の「メンバーシップバリュー」とは何ですか?

A. 楽天が独自に算出する経営指標です。年間アクティブユーザー数、クロスユース、LTVを掛け合わせ、顧客獲得費用を差し引いて求めます。2025年第4四半期に初めて10兆円へ到達しました(同社決算説明資料)。

Q6. 中小企業が楽天グループから学べることは何ですか?

A. 看板事業と利益を生む事業を分けて把握すること、黒字という言葉がどの段階を指すかをそろえることが参考になります。既存顧客に2つめの商品を使ってもらう仕組みや、資金調達の手段を複数持つ考え方も学べます。

参考資料

本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノート(2026年8月調査)です。2026年9月時点で確認できた楽天グループの決算資料、公式発表、報道と照合しました。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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