
補助金と助成金の違い|中小企業が押さえる5つの判断軸と使い分け
「補助金と助成金、どちらに申請すればいいのか。そもそも何が違うのかを、よく理解できていない」。中小企業の経営者の方とお話ししていると、こうしたご質問をよく伺います。設備投資にも人材戦略にも追い風が欲しい時代に、制度の輪郭がぼやけているのは、もったいないお気持ちなのではないでしょうか。
結論からお伝えします。補助金と助成金の違いは、ひとことで言えば「政策誘導のための競争型」か「要件適合での受給型」かにあります。補助金は主に経済産業省・中小企業庁が所管し、予算枠と公募回ごとに採択審査が行われる仕組み。助成金は主に厚生労働省が所管し、雇用保険料などを原資として、要件を満たせば原則受給できる設計です。所管・財源・採択方式・申請タイミング・入金タイミングという5つの軸で見ると、両者の性格は一気に立体化します。
本記事では、補助金と助成金の違いを5つの判断軸で整理したうえで、代表的な制度の種類、経営者がどちらを優先すべきかの使い分け、申請から受給までの実務ポイントまでを順にまとめました。「自社の経営判断にとって、いま手を伸ばすべきはどちらか」を見極める一助になれば幸いです。
補助金と助成金の違いとは|中小企業経営者が最初に押さえる全体像
補助金と助成金の違いとは、所管省庁・財源・採択方式・申請タイミング・入金タイミングという5つの軸で性格が分かれる、公的支援制度の運用思想の違いです。返済不要の公的支援という共通点はあるものの、両者の動かし方は大きく異なります。
補助金は経済産業省・中小企業庁を中心とした政策誘導型、助成金は厚生労働省を中心とした雇用関係の要件適合型、という大まかな住み分けをまず頭に入れておくと、個別制度の位置づけがすっきり見えてきます。設備投資・IT導入・新規事業など投資テーマと相性が良いのが補助金、人材採用・育成・処遇改善など人事テーマと相性が良いのが助成金、という整理も実務感覚として有効です。
中小企業庁・厚生労働省の公式情報を起点に、まずは全体像を押さえておきましょう(出典: 中小企業庁/厚生労働省)。
補助金と助成金の根本的な違い
補助金
- 主に経済産業省・中小企業庁が所管
- 予算枠ごとの公募回
- 採択審査あり(競争型)
- 事業完了後の精算払い
助成金
- 主に厚生労働省が所管
- 雇用保険料等が原資
- 要件適合で原則受給
- 取り組み実績ベース
出典: 中小企業庁/厚生労働省 公式情報をもとに作成
返済不要の公的支援という共通点と、運用思想の根本的な違い
補助金と助成金は、どちらも国・地方自治体・公的機関から事業者に支給される、返済不要の支援金です。融資ではないため、要件を満たして適切に使えば返済義務は発生しません。この点は両者の共通点として、まず押さえておきたい部分です。
一方で、運用思想は大きく異なります。補助金は「政策目標を達成するために、優れた事業計画を持つ事業者を選んで支援する」競争型の設計です。これに対し助成金は、「雇用保険二事業などの財源を、雇用維持や人材育成に取り組む事業者へ広く還元する」要件適合型の設計だといえます。
コントリ編集部が経営者の方への取材を重ねてきたなかでも、「補助金は申請が大変、助成金は手続きが煩雑」というお声を伺います。その背景にも、この運用思想の違いが映っていると感じる場面が少なくありません。
なぜ言葉だけで判断すると失敗するのか(名称の例外)
ここで注意したいのが、「補助金」「助成金」という名称だけで両者の性格を判断するのは危ういということです。実務上、名称の例外がいくつも存在します。
たとえば「IT導入補助金」「事業再構築補助金」は経済産業省・中小機構系の典型的な競争型補助金。一方、「業務改善助成金」は厚生労働省所管の助成金ですが、実態としては事業場内最低賃金引き上げに連動する設備投資の補助に近い性格を持ちます。「キャリアアップ助成金」「人材開発支援助成金」も、計画届の事前提出や就業規則整備など、決して簡単ではない前提条件があります(参考: 資金調達ラボ「補助金と助成金って何が違うの?3つのポイント」)。
判断したい論点は「名前ではなく、実際の所管・財源・採択方式」で考える、という姿勢。これが、制度を読み違えないための第一歩です。
経営者が違いを理解する実務メリット
補助金と助成金の違いを理解する実務メリットは、大きく3つに整理できます。
第一に、申請タイミングの戦略が立てやすくなることです。補助金は公募期間限定、助成金は通年が多い、という違いを押さえると、年間の経営カレンダーに自然に組み込めるようになります。
第二に、社内体制と外部専門家の組み立て方が明確になります。助成金は人事労務の前提整備が必須なので社労士、補助金は事業計画書の質が問われるので中小企業診断士・行政書士・税理士など、相性の良い専門家が見えてきます。第三に、資金繰り計画と整合させやすくなる点。精算払いの補助金と、実績ベースの助成金とでは、キャッシュアウトの読み方が大きく変わってきます。
5つの判断軸で読み解く補助金と助成金の違い
補助金と助成金の違いを実務に落とすときの判断軸は、所管省庁・財源・採択方式・申請タイミング・入金タイミングの5つに集約されます。どの軸も、経営者の意思決定に直結する論点ばかりです。
特に、財源と採択方式の違いは、申請する側の見通しの立て方を大きく変えます。補助金は予算枠と公募回ごとの審査があり、採択されなければゼロ円。助成金は要件適合で原則受給という設計のため、社内の前提整備さえできていれば「いつ・いくら入るか」を読みやすくなります。
ここでは、5つの判断軸を順に整理していきます。最新情報は中小企業庁・厚生労働省の公式ページで必ずご確認ください。
補助金と助成金の5判断軸 比較
| 判断軸 | 補助金 | 助成金 |
|---|---|---|
| 所管省庁 | 主に経済産業省・中小企業庁 | 主に厚生労働省・労働局 |
| 財源 | 国の一般会計予算 | 雇用保険二事業(事業主負担分)が中心 |
| 採択方式 | 公募・審査・採択(数十%) | 要件適合で原則受給 |
| 申請タイミング | 公募期間限定(年1〜数回) | 通年が中心 |
| 入金タイミング | 事業完了後の精算払い (採択から半年〜1年) |
取り組み実績ベース (申請から3〜6か月) |
出典: 中小企業庁/厚生労働省/J-Net21 公開情報をもとに作成
所管省庁の違い(経済産業省・中小企業庁/厚生労働省)
第一の判断軸は、所管省庁の違いです。補助金は主に経済産業省・中小企業庁・中小機構が所管し、地方自治体や独立行政法人が所管する制度もあります。代表的な制度として、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金、事業再構築補助金などが挙げられます。
助成金は主に厚生労働省・都道府県労働局が所管し、雇用関係助成金として体系化されています。キャリアアップ助成金、人材開発支援助成金、雇用調整助成金、業務改善助成金などが代表的な制度です。
ただし所管にも例外が存在します。たとえば各都道府県・市区町村が独自に運営する「○○補助金」「○○助成金」も多く、地域経済の振興・移住起業・観光業の支援などのテーマで設計されています。自社の所在地の自治体ホームページも、必ず確認しておきたい情報源です。
財源の違いと採択率(予算枠の競争/雇用保険料を原資とした要件適合)
第二の判断軸は、財源と採択率の違いです。補助金の財源は基本的に国の一般会計予算で、公募回ごとに予算枠が決まっています。応募が予算枠を上回ると審査による選別が行われ、制度・回によっては採択率が数十%にとどまることも珍しくありません。
これに対して助成金の財源は、雇用保険二事業(雇用保険料の事業主負担分)が中心です。雇用保険適用事業所であることが受給の前提となり、要件を満たせば予算枠の制約を受けにくいのが基本設計です(参考: 厚生労働省「雇用関係助成金」)。
「採択率」という言葉が登場するのは、ほぼ補助金の世界です。助成金は採択ではなく支給審査と呼ばれ、要件を一つでも満たさなければ不支給になる構造。「採択率」より「要件を満たし切れるか」が、助成金における最大の論点になります。
申請タイミングと入金タイミングの違い(公募期間限定と通年・精算払いと実績ベース)
第三〜第五の判断軸は、申請タイミングと入金タイミングです。補助金は「公募期間」が決まっており、その期間内に電子申請を完了させる必要があります。年に1〜数回の公募回、各2〜3か月程度の受付期間という制度が多く、計画的な準備が前提です。
助成金は通年で申請を受け付けている制度が多く、計画届の事前提出と取り組みの実施、そのうえで支給申請という流れが基本です。タイミングを逃しても、要件を満たして再申請できる柔軟性があります。
入金タイミングも大きく異なります。補助金は事業完了後の精算払いが原則で、採択から入金まで半年〜1年程度かかるケースも珍しくありません。助成金は取り組み実施後の支給申請ベースで、申請から3〜6か月程度で振り込まれる制度が中心。資金繰り計画と必ず突き合わせておきたい論点です(参考: マツムラ診断士の「補助金虎の巻」5つのポイント解説)。
代表的な補助金の種類と中小企業が活用する場面
補助金は、設備投資・IT導入・販路開拓・事業再構築・人手不足対応など、政策テーマに紐づいて設計されています。経済産業省・中小企業庁所管の代表的な制度を押さえておくと、自社の投資計画と相性の良い補助金が見えてきます。
代表的なのは、ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金・IT導入補助金・事業再構築補助金・中小企業省力化投資補助金の5制度。それぞれ補助上限額や対象経費が異なり、自社の投資テーマと制度の相性が、採択戦略の精度を大きく左右します。
詳細な公募要領や最新情報は、中小企業庁・中小機構が運営するJ-Net21などの公的情報ポータルを起点に確認するのが安全です(出典: J-Net21(中小機構))。
代表的な補助金 4制度の使い分け
ものづくり補助金
数百万〜数千万円規模
革新的な製品・サービス開発のための設備投資。製造業を中心に幅広い業種で活用。
小規模事業者持続化補助金
50〜250万円程度
商工会議所・商工会と組んだ販路開拓。HP刷新・チラシ・新商品開発に。
IT導入補助金
最大450万円(枠による)
業務効率化・インボイス対応・セキュリティ強化のためのITツール導入支援。
事業再構築補助金
数千万円規模
新分野展開・業態転換・事業再編など抜本的な事業転換の後押し。
出典: 中小企業庁/中小機構 公募要領をもとに作成(補助上限は公募回により変動)
ものづくり補助金・小規模事業者持続化補助金
ものづくり補助金は、革新的な製品・サービス開発のための設備投資を支援する制度です。正式名称は「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」で、補助上限額が数百万円〜数千万円規模になることもあり、製造業を中心に幅広い業種に活用されてきました。
小規模事業者持続化補助金は、商工会議所・商工会の支援を受けながら販路開拓に取り組む小規模事業者向けの補助金です。補助上限額は50万〜250万円程度と相対的に小さい代わりに、ホームページ刷新・チラシ作成・新商品開発など、身近な販路強化に使いやすい設計です。
「設備投資を本格的にやりたい」場合はものづくり補助金、「身近な販促や事業改善から手をつけたい」場合は持続化補助金、と整理しておくと選びやすくなります。
IT導入補助金・事業再構築補助金
IT導入補助金は、中小企業のITツール導入を支援する補助金です。通常枠・インボイス枠・セキュリティ対策推進枠・複数社連携IT導入枠の4枠で構成されており、業務効率化からインボイス対応、サイバーセキュリティ強化まで幅広く対応します。詳しくは「IT導入補助金とは|中小企業のDXを通常枠〜セキュリティ枠で支援」もあわせてご覧いただけたらと思います。
事業再構築補助金は、新分野展開・業態転換・事業再編など、抜本的な事業転換に取り組む中小企業を支援する制度として運用されてきました。補助上限額は数千万円規模になる回もあり、本格的な経営転換を後押しする位置づけです。
どちらも採択率は制度・回によって幅があり、事業計画書の精度が結果を大きく左右します。認定経営革新等支援機関のサポートを得ながら、丁寧に組み立てたい補助金です。
中小企業省力化投資補助金など人手不足対応型
人手不足対応型の補助金として、中小企業省力化投資補助金が近年注目を集めてきました。製造業・サービス業の人手不足を背景に、省力化・自動化に資する機器の導入を支援する制度として設計されています。詳しくは「中小企業省力化投資補助金とは|人手不足対応の自動化支援を5分で」をご参照ください。
このほか、地域や業界に特化した補助金として、観光業向け補助金、農林水産業の経営継承支援、移住・起業支援などが各自治体で運用されています。経営テーマに合致するものを、地道に探してみる価値があります。
「自社の悩みに、ぴたりと合う制度はあるか」を起点に検索してみると、補助金の世界の奥行きが見えてくるはずです。
代表的な補助金 5制度の対象と上限
| 制度名 | 対象 | 補助上限額の目安 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| ものづくり補助金 | 革新的な製品・サービス開発の設備投資 | 数百万〜数千万円 | 製造業ほか幅広い業種 |
| 小規模事業者 持続化補助金 |
販路開拓・販促・新商品開発 | 50〜250万円程度 | 小規模事業者・商工会員 |
| IT導入補助金 | 業務ソフト・インボイス対応・セキュリティ | 最大450万円(枠による) | DXを進めたい中小企業 |
| 事業再構築補助金 | 新分野展開・業態転換・事業再編 | 数千万円規模 | 事業転換に踏み込む企業 |
| 中小企業省力化 投資補助金 |
省力化・自動化機器の導入 | 数百万〜数千万円 | 人手不足対応に取り組む企業 |
出典: 中小企業庁/中小機構/J-Net21 公開情報をもとに作成(補助上限は公募回により変動)
代表的な助成金の種類と人事戦略への活かし方
助成金は、雇用維持・人材育成・正社員化・処遇改善など、人事労務の取り組みに沿って設計された制度群です。厚生労働省所管の代表的な助成金を眺めると、人事戦略と給付要件がきれいに重なる構造が見えてきます。
代表的なのは、キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金・雇用調整助成金・特定求職者雇用開発助成金・両立支援等助成金・業務改善助成金の6制度群。中小企業の人事課題と直結しているため、自社の3年〜5年の人事戦略と重ねて、どの助成金が手前にあるかを見ておくとロードマップが立てやすくなります。
人事戦略のロードマップとあわせて、活用できる助成金を眺めてみる視点が有効です(出典: 厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」)。
キャリアアップ助成金・人材開発支援助成金
キャリアアップ助成金は、非正規雇用の正社員化や処遇改善に取り組む事業主を支援する助成金です。「正社員化コース」「賃金規定等改定コース」など複数のコースが用意されており、有期契約から無期・正社員へ転換した社員1人あたり数十万円〜の助成が支給されます。詳しくは「キャリアアップ助成金とは|中小企業が非正規の正社員化で活用する5ステップ」もあわせてご覧ください。
人材開発支援助成金は、社員の職業訓練・人材育成に取り組む事業主を支援する制度です。「人材育成支援コース」「教育訓練休暇等付与コース」など、業務に必要なスキル習得や資格取得を後押しする内容が中心。経費助成と賃金助成の両方が用意されている点も特徴です。
「人を雇い直したい」「人を育てたい」という人事課題に取り組む際の、初手の選択肢として頭に入れておきたい助成金です。
雇用調整助成金・特定求職者雇用開発助成金
雇用調整助成金は、景気変動や経済上の理由で事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業手当などを支給して雇用を維持する場合に活用できる助成金です。コロナ禍では特例措置として大規模に活用されたことが、記憶に残っている経営者の方も多いのではないでしょうか。
特定求職者雇用開発助成金は、高年齢者・障害者・母子家庭の母親など、就職困難者をハローワーク等の紹介で継続雇用する事業主向けの助成金です。「特定就職困難者コース」「生涯現役コース」など複数のコースがあり、社会的弱者の雇用機会を広げる役割を担っています。
「雇用を守る」「多様な人材を採用する」という経営判断を、財政的に支える助成金として位置づけられています(参考: 行政書士・湯上裕盛「補助金と助成金の違いをわかりやすく説明」)。
両立支援等助成金・業務改善助成金など処遇改善型
両立支援等助成金は、仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主を支援する制度です。「出生時両立支援コース」「介護離職防止支援コース」など、育児・介護と仕事の両立を後押しするコースが用意されています。
業務改善助成金は、事業場内最低賃金の引き上げと、生産性向上に資する設備投資をセットで実施する事業主を支援する制度。「賃上げ」と「設備投資」を同時に行う制度設計は、補助金と助成金の中間的な性格を持つ制度といえます。
このほか、両立支援・処遇改善・健康経営など、人事戦略のテーマ別に多様な助成金が運用されています。社労士の方と相談しながら、自社の人事戦略にフィットする制度を選びたいところです。
人事戦略を支える助成金 5制度群
キャリアアップ
助成金
非正規の正社員化・処遇改善を支援。
人材開発支援
助成金
社員の職業訓練・スキル習得を支援。
雇用調整
助成金
休業手当で雇用を維持する事業主を支援。
特定求職者雇用
開発助成金
高年齢者・障害者など就職困難者の雇用を支援。
両立支援等/
業務改善助成金
育児・介護の両立、最低賃金引き上げを支援。
出典: 厚生労働省「事業主の方のための雇用関係助成金」公開情報をもとに作成
経営者が補助金と助成金を使い分ける3つの軸
補助金と助成金、どちらを優先するかは、制度の優劣ではなく自社の状態と時間軸で判断すべきテーマです。経営者が使い分けを考えるときの軸は、「やりたい投資が先か」「人材戦略の制度整備が先か」「資金繰りに耐性があるか」の3つに整理できます。
特に資金繰りの視点は、見落とされがちでも経営の安全性を大きく左右する論点です。補助金は精算払いの制度が多く、入金前に自社が立て替える期間が半年〜1年に及ぶことも珍しくありません。投資意思決定とキャッシュフロー予測は必ずセットで考えたい論点です。
ここでは、3つの軸を順に見ていきましょう。
補助金と助成金の使い分け 3つの軸
投資計画が先
補助金から検討
設備投資・IT投資・販路開拓など、自社の事業計画が先にあるなら補助金を取りに行く順序が王道です。
人事制度の整備が先
助成金から検討
正社員化・研修制度・処遇改善など人事課題が先にあるなら、助成金と並行して制度整備を進めます。
資金繰り余力なし
精算払いの補助金は要注意
補助金は事業完了後の精算払い。資金繰り余力が薄いと、つなぎ融資の検討が前提になります。
出典: コントリ編集部 取材所感をもとに作成
投資計画が先にある会社は補助金から検討する
第一の軸は、設備投資・IT投資・販路開拓など、具体的な投資計画が先にあるかどうかです。「業務効率化のためにIT投資を進めたい」「老朽化した設備を更新したい」「新分野に進出したい」といった構想があるなら、補助金から検討するのが順序です。
このとき大事なのは、「補助金があるから投資する」のではなく、「投資する意思決定があり、補助金で背中を押される」という順序を守ること。コントリ編集部が経営者の方々から繰り返し伺ってきたのは、「制度に合わせて事業計画を曲げると、結局あとで運用が破綻する」というお言葉です。
事業計画が先、補助金は後押し。この順序を守れる経営者ほど、補助金を最大限に活かせている印象があります。
人事制度の整備が先にある会社は助成金から検討する
第二の軸は、人事制度の整備や雇用維持・人材育成への取り組みが先にあるかどうかです。「非正規社員を正社員化したい」「研修制度を整えたい」「賃金水準を引き上げたい」という人事課題があるなら、助成金から検討するのが定石です。
助成金は要件適合で原則受給できる設計のため、要件を満たすために就業規則を見直し、賃金台帳・出勤簿を整え、労働保険料を適切に納付する、というプロセスそのものが、結果的に労務管理の質向上につながります。
「助成金をもらいたいから整える」ではなく、「労務管理を整えるなら、ついでに助成金も取りに行く」という順序が、経営の地力を高める運用です。社労士の方とのご縁を、ここで活かしたい場面でもあります。
資金繰りに余力がなければ精算払いの補助金は要注意
第三の軸は、自社の資金繰りに余力があるかどうかです。補助金は精算払いが基本のため、補助金の入金よりも前に、自社で設備購入や役務費用の支払いを完了させる必要があります。
たとえば「補助率2/3、補助上限1,000万円」の補助金で1,500万円の設備を導入する場合、補助金が入るまでの間、1,500万円の資金を自社で立て替えるイメージです。資金繰りに余力がなければ、つなぎ融資の手配が必要になります。
「補助金が決まったから設備投資できる」ではなく、「設備投資のキャッシュアウトに耐えられる前提で補助金を取りに行く」という順序。経営者の意思決定の順番を、もう一度、確認してみてください。
申請から受給までの流れと、つまずきを防ぐ実務ポイント
補助金と助成金は、申請から受給までの動き方も大きく異なります。補助金は事業計画書を作って公募回で採択を取りに行く時間軸。助成金は取り組みを実施して要件適合を証明する時間軸が基本です。
つまずきポイントは制度ごとに性格が違います。補助金は、事業計画書の精度・つなぎ資金の手当て・採択後の実績報告書類で詰まりがち。助成金は、就業規則の整備不足・労働保険料の滞納・計画届の事前提出忘れで不支給になるケースが目立ちます。専門家との連携と、社内の前提整備が、両者に共通する成功要因です。
実務でつまずきがちな論点を、補助金・助成金それぞれで整理しておきましょう。
補助金と助成金 申請から受給までの流れ
補助金の時間軸
助成金の時間軸
出典: 中小企業庁/厚生労働省/日本政策金融公庫 公開情報をもとに作成
補助金の流れと、つなぎ資金・認定支援機関の活用
補助金の申請は、公募開始の数か月前から準備を始めるのが基本です。事業計画書の作成は1〜2か月程度かかることが多く、認定経営革新等支援機関や中小企業診断士・行政書士のサポートを受けながら進めるケースが一般的です。
採択された後、交付決定の通知が届いて初めて、補助対象経費の発注に進めます。事業完了後の実績報告で、契約書・見積書・領収書・支払い記録などを整えて提出し、検査を経て精算払いが行われる流れです。
この精算払いの間の資金需要を支える手段として、日本政策金融公庫や民間金融機関の「つなぎ融資」があります。補助金の交付決定通知書を担保にした融資制度を扱う金融機関も増えてきました。資金繰りの心配がある場合は、申請前の段階で金融機関に相談しておくと安心です(参考: 日本政策金融公庫)。
助成金の流れと、就業規則・賃金台帳・労働保険料の前提整備
助成金の申請は、計画届の事前提出が必須となるケースがほとんどです。たとえばキャリアアップ助成金では「キャリアアップ計画書」を事前に提出する必要があり、これを怠ると取り組みを実施しても支給対象になりません。
支給審査で重視されるのは、就業規則・賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書などの前提整備です。労働保険料を適切に納付していること、過去2年以内に労働関係法令違反がないことなど、人事労務の基本動作が問われます。
「助成金は手続きが煩雑」と言われるのは、こうした前提条件の細部で不支給になるケースが多いからです。逆に言えば、社労士の方と組んで前提整備をきちんと進めれば、要件適合の確率は大きく高まる、ということでもあります。
専門家に相談するときの選び方(中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士)
専門家に相談するときは、補助金と助成金で適任者が分かれることを押さえておきましょう。補助金の事業計画書作成や採択戦略は、中小企業診断士・行政書士・税理士のうち、認定経営革新等支援機関の資格を持つ方が選ばれます。
助成金は、人事労務の前提整備と密接に絡むため、社会保険労務士に依頼するのが定石です。社労士は労働関係法令の専門家であり、就業規則・賃金台帳・労働条件通知書など、助成金の要件と直結する書類を整える能力を持っています。
費用は成功報酬で支給額の10〜20%程度が一般的な相場とされますが、制度や事務所により差があります。「自社で動くリソースがあるか」「専門家に任せて時間を投資に回すか」を、経営判断として比較してみてください。
補助金・助成金 申請前のセルフチェック
下記7項目で「自社の準備が整っているか」を確認しましょう。
出典: コントリ編集部作成
よくある質問(FAQ)
Q. 補助金と助成金は併用できますか?
目的・対象経費・対象期間が重ならない場合は、補助金と助成金を併用できるケースが多くあります。たとえば「IT導入補助金で会計ソフトを導入し、同じ時期にキャリアアップ助成金で非正規社員の正社員化を進める」といった組み合わせは現実的な選択肢です。一方、同一の経費を複数の制度で重複申請することは原則禁止です。併用を検討する際は、各制度の公募要領・支給要領で「他の補助金等との併給制限」を必ず確認してください。
Q. 補助金と助成金、どちらが採択されやすいですか?
一般論としては、要件適合で原則受給できる助成金のほうが受給ハードルは低い傾向です。補助金は予算枠と公募回ごとの審査があり、制度・回によって採択率は数十%にとどまるケースもあります。ただし助成金も「就業規則の整備」「賃金台帳・出勤簿の保管」「労働保険料の納付」など前提条件が厳格で、要件を一つ満たし損ねるだけで不支給になる点には注意が必要です。
Q. 補助金や助成金は税金がかかりますか?
補助金・助成金ともに、法人の場合は原則として法人税の課税対象(雑収入として益金算入)となります。個人事業主の場合は事業所得や一時所得として課税されるケースが一般的です。ただし、固定資産の取得に充当した補助金には「圧縮記帳」という会計上の特例が認められる場合があり、課税の繰り延べが可能になります。詳細は顧問税理士に必ず確認してください。
Q. 申請を社労士や行政書士に依頼するメリットはありますか?
助成金は人事労務の前提整備(就業規則・賃金台帳・労働条件通知書など)が要件と密接に絡むため、社会保険労務士に依頼するのが定石です。補助金の事業計画書作成や認定支援機関の確認書取得は、中小企業診断士・行政書士・税理士など事業計画の作成支援に強い専門家が選ばれます。費用は成功報酬で支給額の10〜20%程度が相場ですが、自社のリソースと比較して費用対効果を判断してください。
Q. 補助金と助成金の名称の違いに例外はありますか?
あります。たとえば「業務改善助成金」は厚生労働省所管ですが事業場内最低賃金の引き上げに連動する設備投資補助の性格を持ち、「キャリアアップ助成金」も計画届の事前提出が必要な厳密な制度設計です。逆に「IT導入補助金」「事業再構築補助金」など経済産業省系の制度は競争的審査の補助金ですが、要件適合性は厳格に問われます。名称ではなく「所管省庁・財源・採択方式・申請タイミング」で判断する習慣をつけてください。
編集部より
補助金と助成金の違いを知っているか否かで、経営者が取れる打ち手の幅は大きく変わります。けれども本当に大切なのは、制度を知り尽くすことよりも、自社の経営の意思決定が先にある、という順序を守ることだといえるでしょう。
私たちが取材の現場でお話を伺うたびに、経営者の方の眼差しには「会社を、社員を、地域を守りたい」という温かい想いが宿っていることを感じます。補助金や助成金は、そのお気持ちを国や自治体がそっと後押ししてくれる、ご縁のような仕組みです。
ご縁あって出会える専門家や金融機関の方々と力を合わせて、無理のないかたちで制度を活かしていただけたらと願っています。私たちコントリ編集部も、経営者の皆さまの挑戦が報われる景色を、ともに見つめていきたいと思います。

