契約書管理のルールづくり|中小企業の紛失・更新漏れを防ぐ仕組み

契約書管理のルールづくり|中小企業の紛失・更新漏れを防ぐ仕組み

契約書の管理ルールが整っていないと感じている経営者の方は、決して少なくありません。「保管場所がバラバラ」「更新の期限を見落としていた」「あの契約書がどこにあるのか分からない」。こうしたお悩みは、限られた人と時間で会社を回す中小企業ほど起こりやすいものです。結論からお伝えします。契約書管理は「台帳で一覧化し、保管・更新・廃棄のルールを文書にする」ことから始めれば十分です。特別なシステムがなくても整えられます。本記事のテーマは、属人化や紛失といったリスクを防ぐための管理ルールづくり。保管期間や電子帳簿保存法への対応も含めてお伝えしていきます。明日から着手できる粒度まで落とし込みましたので、自社の運用と照らし合わせながら読み進めていただけたら幸いです。

なぜ中小企業ほど契約書の管理ルールが必要なのか

契約書管理のルールが必要な理由は、ひとことで言えば「会社の権利と義務を、いざというときに証明できる状態に保つため」です。契約書が見つからない、内容を把握していない、という状態は、取引トラブルや更新交渉の場面で会社を不利にします。コニカミノルタが公開する解説動画「契約書管理の必要性とメリット」でも、管理を怠ることが会社の損失につながると指摘されていました。

まずは、管理が甘いことで何が起きるのかを具体的に見ていきましょう。

契約書は「会社の権利と義務」を証明する書類

契約書は、取引先との約束を文書にしたものです。弁護士による解説動画「契約と契約書の違い」では、口頭の合意も契約として成立すると説明されていました。一方で契約書は、その内容を後から証明する役割を担います。つまり契約書は、トラブルが起きたときに会社を守る「証拠」にあたります。

その証拠が必要なときに取り出せなければ、契約書を作った意味は半減してしまいます。だからこそ、作ったあとの管理までが一連の業務だと考えることが大切です。

管理が甘いと更新漏れ・自動更新の見落としが起きる

契約書には、契約期間や更新条件が定められています。多くの取引基本契約には「期間満了の◯ヶ月前までに申し出がなければ自動更新する」といった条項が入っています。管理ルールがないと、この期限を見落とし、意図しないまま契約が自動更新されてしまうことがあります。

逆に、本来は継続したかった契約をうっかり解約期限を過ぎて失ってしまうケースもあります。更新と解約の期限を一覧で管理する仕組みは、こうした損失を防ぐうえで重要な役割を果たします。

紛失・改ざんは取引上のリスクに直結する

原本が紛失すると、契約内容を証明する手段が失われます。保管場所が定まっていない、持ち出しの記録がない、といった状態は、改ざんや情報漏えいのリスクも高めます。

契約書管理ができていないサイン

1つでも当てはまれば、管理ルールの見直しどきです

保管場所が人によって違う
契約書台帳がない
更新期限を管理していない
持ち出しが自由になっている
廃棄ルールがない

心当たりがあれば、まずは手元の契約書を集めるところから始めましょう。

これらに一つでも心当たりがあれば、管理ルールを見直すきっかけにしていただけたらと思います。

契約書管理が属人化したまま社長が抱える経営リスク

コントリ編集部が中小企業の経営者の方とお話を重ねるなかで、契約書の保管場所を「特定の担当者しか知らない」というお声を繰り返し伺ってきました。属人化は、日常の業務では問題になりにくいものです。しかし、いざというときに会社全体を止めかねない経営リスクを、静かにはらんでいます。

経営者の視点で、属人化が生むリスクを3つの角度から掘り下げます。

「あの人しか分からない」が招く事業承継・引き継ぎの停滞

担当者が急に退職したり、長期休職したりしたとき、契約書の所在や内容を誰も把握していない。これは、私たちが取材の現場で何度も耳にしてきた状況です。実際にある経営者の方は、「総務担当が辞めた途端、どの契約がいつ切れるのか分からなくなった」と振り返っていらっしゃいました。

事業承継の場面では、この問題がさらに深刻になります。会社を引き継ぐ次の世代が、会社が結んでいる契約の全体像を把握できない状態では、安心して経営のバトンを渡すことができません。

コンプライアンス・監査対応で説明できないリスク

金融機関からの融資審査や、取引先からの取引開始時のチェックでは、契約状況の説明を求められることがあります。契約書が整理されていないと、こうした場面で自社の取引実態を正確に説明できない事態に陥ります。

弁護士による解説動画「契約書のリーガルチェック9つのチェックポイント」では、契約書にはチェックすべき観点が数多くあると示されています。台帳で内容を把握できていなければ、そもそもチェックの土台が整いません。

経営者が把握すべき「契約の全体像」が見えなくなる

どの取引先と、どんな条件で、いつまで契約しているのか。これは本来、経営者が経営判断のために把握しておきたい情報です。属人化したままでは、この全体像が見えず、コスト見直しや取引先の集約といった戦略的な意思決定の精度が下がってしまいます。

属人管理とルール化された管理の違い

比較項目 属人管理 ルール化された管理
担当者が退職したとき ×
更新・解約期限の把握 ×
監査・融資での説明
経営判断への活用 ×
情報漏えい・紛失リスク 高い 抑えやすい

○=対応しやすい/△=一部対応/×=対応が難しい

こうして並べてみると、管理ルールづくりは単なる事務作業ではなく、会社を守る経営課題だと見えてくるはずです。

契約書の管理ルールに盛り込むべき5つの要素

管理ルールに最低限おさえるべき要素は5つです。保管場所、台帳、更新管理、権限、廃棄。この5つを文書にすることで、誰が担当しても同じ運用ができる状態をつくれます。自社の運用に当てはめながら、順に見ていきましょう。

管理ルールに盛り込む5つの要素

STEP 1 保管場所と
保管期間
STEP 2 契約書台帳で
一覧化
STEP 3 更新・解約の
アラート
STEP 4 アクセス権限
と持ち出し
STEP 5 廃棄・原本
管理ルール

この5要素を文書にすれば、誰が担当しても同じ運用を続けられます。

①保管場所と保管期間を決める

まず、原本をどこに保管するかを一箇所に定めます。施錠できるキャビネットや、電子契約なら指定のクラウドフォルダ。「契約書はここにある」と全員が分かる状態をつくることが出発点です。あわせて、契約類型ごとの保管期間も決めておきます。

②契約書台帳で一覧化する

台帳とは、契約書の一覧表のことです。例えば「契約先・契約名・締結日・契約期間・更新条件・保管場所・収入印紙の要否」といった項目を並べます。この台帳が、契約書管理のすべての土台になります。

③更新・解約の期限をアラート管理する

台帳に更新期限・解約通知期限の列を設け、期限が近づいたら通知が出る仕組みにします。表計算ソフトの条件付き書式でも、期限が近い行に色を付けることは可能です。自動更新の見落としによる損失は、これだけで大きく減らせます。

④アクセス権限と持ち出しルールを定める

契約書には機密情報が含まれます。誰が閲覧・持ち出しできるのかを決め、持ち出すときは記録を残すルールにします。こうした一手間が、情報漏えいや原本紛失のリスクを抑えてくれます。

⑤廃棄・原本管理のルールを明文化する

保管期間を過ぎた契約書をいつ、どのように廃棄するかも決めておきます。機密文書はシュレッダーや溶解処理など、復元できない方法で処分することが基本です。原本と写し(コピー)の区別も、台帳に記録しておくと混乱を防げます。

契約書の保管期間と電子帳簿保存法への対応

契約書管理を整えるうえで避けて通れないのが、法令で定められた保存のルールです。とくに紙と電子が混在する中小企業では、保存期間と電子帳簿保存法への対応を正しく押さえておく必要があります。ここでは実務でつまずきやすいポイントを、順にひもといていきましょう。

契約書の法定保存期間の目安

契約書をいつまで保存すべきかは、契約の種類によって異なります。一般的な債権の消滅時効は、民法の改正により原則5年とされています(民法第166条/2020年4月施行)。この時効期間を踏まえると、契約終了後も少なくとも5年程度は保存しておくのが安全です。

さらに、会社法では帳簿や事業に関する重要書類について10年間の保存が定められています(会社法第432条)。契約書のうち計算書類に関わるものなどは、より長期の保存が必要になる場合があります。書類の種類ごとに、保存期間の目安を表にまとめました。

書類の種類保存期間の目安根拠となる考え方
一般的な契約書契約終了後5年程度債権の消滅時効が原則5年(民法第166条)
会社法上の重要書類・帳簿10年帳簿等の保存義務(会社法第432条)
税務関係書類(契約書含む)原則7年法人税法上の帳簿書類の保存期間

※出典:e-Gov法令検索(民法/会社法)、国税庁ウェブサイト(帳簿書類の保存期間)2024年時点

なお、上記はあくまで一般的な目安です。個別の契約については、顧問弁護士や税理士に確認することをおすすめします。

電子契約・電子取引データの保存要件

メールやクラウドでやり取りした電子契約は、電子帳簿保存法の「電子取引」に該当します。電子帳簿保存法の改正により、2024年1月からは電子取引データを電子データのまま保存することが原則となりました(電子帳簿保存法/2022年1月改正・2024年1月本格適用)。

電子データの保存には、改ざん防止のための措置が求められます。タイムスタンプの付与や、訂正・削除の履歴が残るシステムの利用などが代表的です。あわせて、日付・取引先・金額で検索できる状態にしておくことも必要とされています。詳しい要件は、国税庁の電子帳簿保存法のページで確認できます。

紙と電子が混在する場合の整理のしかた

実務では、紙の契約書と電子契約が混在するのが一般的です。私自身、複数の契約書類を見せていただくなかで、「紙と電子で管理がバラバラになり、全体像が見えない」というお声を多く聞いてきました。

おすすめは、台帳を分けずに1つの台帳に「保存形式(紙/電子)」の列を設けて一元管理する方法です。原本の所在(キャビネット番号やフォルダのパス)を記録しておけば、形式が違っても同じように探し出せます。

中小企業が無理なく始める契約書管理の進め方

ここまで読んで「やるべきことは分かったが、手が回らない」と感じた方もいらっしゃるでしょう。いきなり完璧な仕組みを目指すと、運用が続かず途中で止まってしまいます。大切なのは小さく始めて、回りながら育てるという発想です。限られた人と時間で着手できる3ステップを紹介します。

STEP1 まず手元の契約書を集めて棚卸しする

最初の一歩は、社内に散らばっている契約書を一箇所に集めることです。キャビネット、各担当者の手元、メールの添付ファイル。あちこちにある契約書を集め、「何の契約が、いくつあるのか」を把握します。弁護士による解説動画「契約書の作り方 割印・印紙の必要性」でも、割印や印紙の管理ポイントが触れられています。この段階で収入印紙の貼り忘れや押印漏れもあわせて確認しておくと、後の手戻りを防げます。

STEP2 表計算ソフトで簡易台帳をつくる

集めた契約書を、表計算ソフトで一覧化します。最初から項目を増やしすぎず、「契約先・契約名・期間・更新条件・保管場所」の5項目程度から始めれば十分です。条件付き書式で更新期限が近い行に色を付ければ、それだけで簡易的なアラート管理になります。

無理なく始める契約書管理の3ステップ

STEP 1

契約書を集めて棚卸しする

明日からできること:キャビネット・各担当者の手元・メール添付を集める

STEP 2

表計算ソフトで簡易台帳をつくる

明日からできること:契約先・契約名・期間・更新条件・保管場所の5項目から始める

STEP 3

件数が増えたら契約管理システムを検討

明日からできること:手作業で追えなくなった更新管理を洗い出しておく

STEP3 運用が回り始めたら契約管理システムを検討する

簡易台帳で運用が回り始め、契約件数が増えて手作業では追えなくなってきたら、契約管理システムの導入を検討する段階です。更新アラートの自動通知や、契約書の全文検索。手作業では負担の大きい部分こそ、システムの得意分野です。

ここで強調しておきたいのは、システム導入はゴールではなく選択肢の一つだということです。まずは台帳とルールという土台を固めることが、何より優先されます。土台がないままシステムだけ入れても、運用は定着しにくいものです。

契約書管理でよくある質問

最後に、中小企業の経営者や管理部門の方から多く寄せられる疑問にお答えします。日々の運用で迷ったときの参考にしていただけたらと思います。

Q1. 契約書は何年保存すればよいですか?

契約の種類によって異なりますが、一般的な債権の消滅時効が原則5年であることから、契約終了後も少なくとも5年程度は保存しておくと安心です。会社法上、帳簿や重要書類は10年保存が求められるため、計算書類に関わる契約資料などはより長期の保存が必要になる場合があります。電子取引でやり取りした契約データは、電子帳簿保存法に基づく保存も必要です。自社の契約類型ごとに保存期間を一覧化しておくことをおすすめします。

Q2. 紙の契約書と電子契約書は、どう管理を分ければよいですか?

台帳を分けるよりも、1つの契約書台帳に「保存形式(紙/電子)」の列を設けて一元管理する方法が現実的です。原本の所在を記録しておくと、必要なときにすぐ取り出せます。電子取引データは電子帳簿保存法の保存要件を満たす形での保管が求められる点に注意してください。

Q3. 契約管理システムは中小企業でも導入すべきですか?

最初から高機能なシステムを導入する必要はありません。まずは表計算ソフトで簡易台帳をつくり、運用を回すことから始めるのが現実的です。契約件数が増えて手作業で追えなくなってきた段階で導入を検討すると、無理なく移行できます。

Q4. 契約書の管理担当者が退職することになりました。何から引き継げばよいですか?

まずは保管場所と契約書の一覧(台帳)を最優先で引き継いでください。あわせて、自動更新の期限が近い契約や、解約通知の期限がある契約を洗い出しておくと、引き継ぎ直後の更新漏れを防げます。属人化を解消する好機ととらえ、この機会に台帳化を進めるとよいでしょう。

Q5. 契約書の押印・印紙の管理で気をつけることはありますか?

契約書台帳に「収入印紙の要否」「押印の有無」の列を設け、貼り忘れ・押し忘れを防ぐ仕組みにしておくと安心です。印紙税が必要な契約書に印紙を貼り忘れると、後日追徴の対象になる場合があります。電子契約には原則として印紙税がかからないため、印紙コストの観点から電子化を検討する企業も増えています。

契約書の管理は、つい後回しにされがちな業務です。それでも経営者の方とお話しするなかで、「整理してみたら、止まっていた判断が動き出した」というお声を何度も伺ってきました。台帳を一つつくるだけでも、会社の輪郭がくっきりと見えてきます。完璧を目指す必要はありません。まずは手元の契約書を集めるところから、小さな一歩を踏み出していただけたらと思います。その一歩が、会社の足元を固める大きな力になるはずです。

さらに学びを深めたい方は、コントリの経営者向けコラムや、法務・リスクマネジメントに関する記事組織づくりのヒントもあわせてご覧いただけたら幸いです。契約書管理に関する公的な情報は、中小企業庁国税庁の電子帳簿保存法のページ、法令の原文はe-Gov法令検索で確認できます。

(編集部より)契約書という地味に見える書類の一枚一枚に、経営者の方が築いてこられた取引と信頼が詰まっています。お話を伺うたびに、その重みを感じずにはいられません。管理ルールづくりは、過去の積み重ねを未来へつなぐ営みでもあります。この記事が、その一助になればこれほど嬉しいことはありません。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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