コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

北の達人はなぜ売上を追わない?広告を止めるビジネスモデル

北の達人はなぜ売上を追わない?広告を止めるビジネスモデル

広告を増やせば売上は伸びるのに、利益が残る実感がないという経営者の方は多いのではないでしょうか。化粧品と健康食品の通販を営む北の達人コーポレーションは、「売上最小化、利益最大化」を掲げてきた会社です。

北の達人が売上を追わない理由は、新しい顧客1人を迎える広告費に上限を置き、超えた広告は止めるからです。上限は、顧客が1年でもたらす売上と必要な利益から逆算します。商品ごとに隠れたコストまで差し引く「5段階利益管理」が、その判断を支えてきました。

ただし、この仕組みは万能ではありません。売上高は2期続けて減り、2026年2月期は112.1億円でした。

営業利益は40.3%の減少です(出典:決算短信、2026年4月)。本文の数字は、同社の決算短信などの公開資料に基づきます。

広告を止める基準、利益の見える化、減収が続いた2年間、増収に転じた直近の計画を順に見ていきます。最後に佰食屋との比較と、中小企業が持ち帰れる4つの問いをまとめました。自社の広告費を見直す材料としてお使いください。

北の達人はなぜ売上を追わない?答えは「1人の獲得費に上限を置く」こと

北の達人コーポレーションは、売上の目標より先に、新しい顧客1人を迎える広告費の上限を決める会社です。上限を超えた広告は止めるため、売上は結果として増えたり減ったりします。

2026年2月期の売上高は112億1,000万円で、前期比5.2%減でした(出典:決算短信、2026年4月)。営業利益は10億円で、40.3%の減少です。純利益は6億9,500万円で、42.3%減りました。

営業利益率とは、売上のうち本業のもうけとして残った割合のことです。例えば売上100万円で営業利益が10万円なら、営業利益率は10%です。

単体とは、子会社を含まない会社1社だけの決算を指します。グループ全体を合わせた決算は「連結」と呼ばれます。

数字で見る北の達人コーポレーション
2026年2月期 売上高(連結)112億1,000万円前期比 ▲5.2%
2026年2月期 営業利益(連結)10億円前期比 ▲40.3%
2020年2月期 営業利益率(単体)28.9%売上高100億9,300万円・営業利益29億1,500万円
2027年2月期 売上高予想(連結)159億6,200万円前期比 +42.4%

出典:北の達人コーポレーション 2026年2月期決算短信(2026年4月14日)、2020年2月期決算短信(2020年4月14日)

2002年設立、北海道の特産品通販から始まった会社|いまは「北の快適工房」のD2C

北の達人コーポレーションは2002年5月に設立され、本社を札幌と東京に置いています(出典:事業概要、2026年7月)。創業は2000年5月です。木下勝寿社長はリクルート勤務を経て、北海道の特産品の通販を始めました(出典:投資家向け資料、2026年7月)。

主力は、自社ブランド「北の快適工房」の化粧品と健康食品です。商品は基本的に1カ月で使い切る設計で、使い切るころに次が届く定期購入が中心です。2026年2月期の北の快適工房の売上は100億2,800万円でした(出典:決算短信、2026年4月)。

D2Cとは、メーカーが問屋や小売店を通さず、自社のサイトで消費者に直接売る形のことです。例えば、自社の通販サイトだけで化粧品を売る会社がそれにあたります。北の達人は製造と発送を外部に任せ、広告や顧客対応、システム開発はほぼ自前で運営しています。

主な顧客は40代以降です(出典:決算短信、2026年4月)。売上の約7割を、定期購入の顧客が支える形になっています。

グループには、ヘアアイロンなどを扱うSALONMOONがあります。2025年12月には、カラーコンタクトレンズのカラコンダイレクトを子会社にしました。役員・従業員数は250名です(出典:投資家向け資料、2026年5月末時点)。

2026年2月期は売上高112.1億円・営業利益10.0億円

2026年2月期は、売上も利益も前の期を下回りました。それでも期初の予想に対しては、売上高が9.0%、営業利益が11.6%上回っています(出典:決算短信、2026年4月)。

決算短信によると、自社サイト経由の新規顧客の獲得人数は前期比18%増えました。顧客が増えると、広告費は売上より先に出ていきます。その分だけ、期の利益は押し下げられる関係です。

2027年2月期は、売上高159億6,200万円(42.4%増)を見込みます。営業利益は10億5,900万円(5.9%増)の計画です(出典:決算短信、2026年4月)。売上の伸びには、カラコンダイレクトが通期で加わる分も含まれます。

売上を追わない3つの仕組み|上限CPO・5段階利益管理・品質基準

決算資料と事業概要を並べると、北の達人の稼ぎ方は3つの仕組みで説明できます。どれか1つではなく、3つが互いにつながっている点が肝心と言えます。

北の達人が売上を追わない3つの仕組み
1上限CPO新しい顧客1人に使える広告費の上限を、1年LTVと必要な利益から逆算し、超えた広告は止める
25段階利益管理売上総利益から商品ごと営業利益まで5段階で差し引き、商品別の隠れコストを見える化する
3品質基準1,527項目の基準を通った商品だけを発売し、続けて買ってもらう力を高める
LTVが上がれば、上限CPOも引き上げられる

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)をもとにコントリ編集部作成

1つめは、顧客1人に使える広告費の上限を決め、超えた広告を止める仕組み。2つめは、利益を商品ごとに5段階で見て、どこにコストが隠れているかを確かめる管理会計です。3つめは、続けて買ってもらえる商品だけを出す品質基準です。

管理会計とは、社外に報告する決算とは別に、社内の判断のために利益を分けて見る仕組みのことです。例えば、商品ごとや店舗ごとの利益を出す作業がこれにあたります。

3つは、上限を決め、商品ごとに数字で確かめ、続けて買われる商品で上限を広げるという順につながっています。この流れがそろって、売上より利益を優先する経営が成り立ってきました。以下では、それぞれを数字で確かめていきます。

上限CPOで広告を機械的に止める|売上は半分でも利益は1.5倍

北の達人は、顧客1人が1年でもたらす売上から逆算し、1人あたりの広告費の上限を商品ごとに決めています。上限を超えた広告を止めると、売上は減っても利益は増えることがあります。

定期購入の商売は、最初の注文では広告費のほうが大きく、2回目以降の購入で回収する形です。会社の事業概要は、上限を守る考え方を「売上最小化、利益最大化の法則」と呼んでいます(出典:事業概要、2026年7月)。

定期購入で広告費を回収する流れ
初回の注文広告費をかけて新しい顧客が初めて注文。初回の収支はマイナス
→
2回目以降定期でお届けし、少しずつ広告費を回収
→
損益分岐点継続購入を重ねて、かけた広告費を上回る
→
その後続けて買ってもらうほど、利益が積み上がる
回収までの回数は商品で異なり、会社は具体値を開示していません。ECモールは一度の購入で収支をプラスにする単品買い切り型です。

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)、2026年2月期決算短信(2026年4月)

定期購入は初回が赤字、続けて買ってもらって回収する

北の達人の自社サイトでの販売は、初回の収支がマイナスになる前提で組まれています(出典:決算短信、2026年4月)。2回目、3回目と続けて買ってもらうことで、広告費を回収する形です。

2026年2月期の初回ROASは64.0%でした(出典:決算短信、2026年4月)。ROASとは、広告費に対して初回にどれだけ売上があったかを示す割合のことです。

100万円の広告で、64万円の初回売上が立ったという意味です。初回だけ見れば赤字でも、定期の顧客が残れば後から利益に変わります。

一方、AmazonなどのECモールでの販売は、一度の購入で収支をプラスにする売り方です。同じ会社の中でも、売り場によって回収の考え方を分けているわけです。

上限CPOは1年LTVと必要な利益から逆算する

CPOとは、Cost Per Orderの略で、新しい顧客1人の注文を得るのにかかった広告費のことです。例えば広告費10万円で10人が初めて注文したら、CPOは1万円になります。上限CPOは、その1人あたりの広告費に設ける上限額を指します。

北の達人は、上限を将来の売上の予測(LTV)と必要な利益から逆算すると説明しています(出典:決算短信、2026年4月)。LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客がもたらす生涯の売上のことです。1年LTVは、そのうち1年間でもたらす売上を指します。

例えば月3,000円の商品を平均4カ月続けてもらえば、1年LTVは1万2,000円です。これは説明のための仮の数字です。

著書の紹介記事は、「上限CPO」と「時系列LTV」を管理する発想を挙げました(出典:ダイヤモンド、2021年11月)。時系列LTVは、LTVを月ごとの時間の流れで管理する考え方です。

例えば、獲得から3カ月で何円、半年で何円と追っていく見方です。回収の時期が見えるからこそ、どこまで広告に使えるかを決められるのです。

広告Bを止めると利益率は9%から27%へ

事業概要には、上限CPOの効き目を示す例が載っています。1年LTVは1万1,000円、上限CPOは1万円、目標利益は1人1,000円です(出典:事業概要、2026年7月)。

数字の動きを、次の表にまとめました。

項目出典広告A広告BA+B合計Bを止めた後
獲得件数事業概要(2026年7月)500件500件1,000件500件
CPO事業概要(2026年7月)8,000円1万2,000円(上限超え)平均1万円8,000円
広告費事業概要(2026年7月)400万円600万円1,000万円400万円
1年の売上事業概要(2026年7月)550万円550万円1,100万円550万円
1年の利益事業概要(2026年7月)150万円▲50万円100万円(利益率9%)150万円(利益率27%)

数字は、会社が事業概要(2026年7月)で説明のために示した例です。実際の商品の値ではありません。

平均のCPOは1万円で、ちょうど上限に収まって見えます(出典:事業概要、2026年7月)。ところが広告ごとに分けると、広告Bは1人1万2,000円で、1年で見ると赤字でした。

平均で見ると上限内でも、広告ごとに見ると赤字が混ざっていたのです。ここに、この仕組みの要点があります。

広告Bを止めると、売上は1,100万円から550万円に半減します。それでも利益は100万円から150万円に増え、利益率は9%から27%になりました(出典:事業概要、2026年7月)。

獲得を増やすほど1人あたりの費用は上がる|利益が最大になる点を探す

広告費を増やせば顧客は増えますが、1人を迎える費用は少しずつ上がっていきます。北の達人は、売上ではなく、利益の額が最大になる点で上限を決めると説明しています(出典:事業概要、2026年7月)。

事業概要は、利益を次の式で表しています。

利益 = 新規顧客の獲得人数 ×(LTV − CPO)

人数を増やそうとすると、1人あたりの利益が削られる関係です。収穫逓減の法則とは、投入を増やすほど、増えた分あたりの成果が小さくなる法則のことです。広告で言えば、最初は関心の強い人に届くので安く獲得でき、広げるほど買う人の割合が下がります。

会社はここに、イノベーター理論も重ねました。イノベーター理論とは、新しい商品を買う人を、早く買う人から順に5つの層に分ける考え方のことです。

例えば1クリック100円の広告で、5人に1人が買えばCPOは500円です(出典:事業概要、2026年7月)。100人に1人しか買わない層まで広げると、CPOは1万円まで上がります。

CPOごとの利益額の試算(LTV1万円の場合)
CPO 3,000円100人・利益70万円
CPO 4,000円120人・利益72万円
CPO 5,000円150人・利益75万円
CPO 6,000円200人・利益80万円 利益が最大
CPO 7,000円250人・利益75万円
CPO 8,000円270人・利益54万円
CPO 9,000円300人・利益30万円 売上は最大の300万円、利益は最小
売上が最大の点と、利益が最大の点はずれる

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)。数字は会社が説明のために示した例

事業概要には、LTVが1万円の場合の試算もあります(出典:事業概要、2026年7月)。CPOが3,000円なら100人を獲得し、利益は合計70万円です。6,000円まで上げると200人に増え、利益は80万円で最大になります。

9,000円まで上げれば300人と最も多く、売上も300万円で最大です。ただし利益は30万円まで落ちます(出典:事業概要、2026年7月)。会社は、6,000円を上限にするのが最も望ましいとしています。

「売上最小化」とは、売上を減らすこと自体が目的なのではありません。利益が最も大きくなる点まで、売上を追うのをやめるという意味です。

1日単位で測り、上限を超えたら止める|月約5万本の広告を管理

北の達人は、月に約5万本の広告を管理し、毎日CPOを計算しています(出典:事業概要、2026年7月)。上限CPOを超えた広告は自動で止まる仕組みで、管理システムも自社で開発しました。

2026年7月の説明会では、運用の細部も語られました。

CPOは1日単位で測り、上限を超えた時点でその広告を止めるといいます(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。止めたあとは、入札の調整や広告の作り直しに回します。入札の調整とは、広告の表示1回やクリック1回に払う上限額を見直すことです。

会社は、広告費の総額を先に決める方法は取らないと答えました。基準は顧客1人あたりの獲得単価で、満たさない広告には投資を続けません。利益が出るとわかっている広告にだけ投資する「後出しジャンケン」のようなもの、と会社は表現しています。

ただし、例外もあります。伸びしろを試す「検証広告」は、一定のラインまで上限超えを認める扱いです(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。

原因の分析や改善の最終判断は、人が行う運用です。LTVの実績と予測は毎月見直し、変われば上限CPOもすぐに直します。例に出た「上限CPO1万円」は説明用で、実際の値は非公表です(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。

LTVが上がれば上限も上がる|1,527項目の品質基準の意味

同じ試算で、LTVが1万2,000円に上がった場合も示されています(出典:事業概要、2026年7月)。上限CPOが6,000円のままでも、利益は120万円に増えます。上限を7,000円に引き上げると、利益は125万円で最大です(出典:事業概要、2026年7月)。

LTVを上げるには、顧客に続けて使ってもらうことが欠かせません。北の達人は、通販向けの独自の商品開発基準として1,527項目を設けています。全役員・従業員が説明書を見ながら1カ月使う、生活環境テストもあります(出典:投資家向け資料、2026年7月)。

会社によれば、離脱の最大の理由は商品に満足いただけないことです。その背景には、使い方が十分に伝わっていないケースが多いと分析しています(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。そのため同封物の改良や、メール・電話でのフォローにも力を注いできました。

品質と説明の積み重ねがLTVを伸ばし、上限CPOを広げます。品質は、広告の採算を決める数字そのものだと読めます。

商品ごとの隠れコストをあぶり出す5段階利益管理

北の達人は、利益を商品ごとに5つの段階に分けて見る独自の管理会計を使っています。粗利だけでなく、注文ごとの費用、広告費、人件費、運営費まで商品別に差し引く方法です(出典:事業概要、2026年7月)。

売上は大きいのに利益が薄い商品が、はっきり見えてくる仕組みです。社長の著書でも、会社の弱点がわかる管理表として紹介されました(出典:ダイヤモンド、2024年11月)。

5段階利益管理の流れ(全商品合計・単位 万円)
売上高10,000
原価▲5,600
1 売上総利益4,400(44%)
注文連動費▲500
2 純粗利3,900(39%)
新規獲得費▲1,990
3 販売利益1,910(19%)
人件費 ABC▲190
4 ABC利益1,720(17%)
運営費▲700
5 商品ごと営業利益1,020(10%)
濃い色の段が5つの利益。注文のたびにかかる費用や広告費、人件費、運営費を商品ごとに差し引きます。

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)。数字は会社が説明のために示した例

売上総利益から商品ごと営業利益までの5段階

5段階の1つめは売上総利益(粗利)で、売上から原価を引いた利益です。2つめの純粗利は、粗利から注文連動費を引いたものです。注文連動費とは、決済手数料や送料、梱包資材、同封物など、注文のたびに毎回かかる費用のことです。

3つめの販売利益は、純粗利から新規獲得費(主に広告費)を差し引いて求めます。4つめのABC利益は、その商品にかかった人件費を差し引きます。

ABCとは、Activity Based Costingの略です。作業にかかった時間などをもとに、人件費を商品ごとに割り振る方法を指します。

5つめが商品ごと営業利益で、家賃や間接部門の人件費などの運営費まで差し引いた利益です。なお、純粗利と販売利益は会社の造語だと、事業概要に注記があります。

売上の大きい商品①は利益率2%、小さい商品③は52%

事業概要は、3つの商品で5段階を比べた例を示しています。売上が最も大きいのは商品①の6,000万円、最も小さいのは商品③の1,000万円です。

段階ごとの数字を、次の表に並べました。

段階(単位 万円)出典商品①商品②商品③
売上高事業概要(2026年7月)6,0003,0001,000
1 売上総利益(率)事業概要(2026年7月)2,500(42%)1,200(40%)700(70%)
2 純粗利(率)事業概要(2026年7月)2,200(37%)1,050(35%)650(65%)
3 販売利益(率)事業概要(2026年7月)600(10%)700(23%)610(61%)
4 ABC利益(率)事業概要(2026年7月)550(9%)580(19%)590(59%)
5 商品ごと営業利益(率)事業概要(2026年7月)130(2%)370(12%)520(52%)

いずれも、会社が事業概要(2026年7月)で説明のために示した例の数字です。

商品①は売上こそ大きいものの、新規獲得費を1,600万円かけています(出典:事業概要、2026年7月)。最後に残る利益率は2%です。

商品③は売上が小さい一方で、粗利率が高く、広告費も人件費もほとんどかかっていません。利益率は52%に達します。

事業概要は、もう1つ大事な点を指摘しています。人件費のかからない商品は社内で話題にならず、見過ごされがちだという点です。

手間のかからない商品ほど、社内では存在感が薄くなりがちです。売上の大きさや忙しさで評価していると、本当に稼いでいる商品を見落とします。

決算短信でも「販売利益」で業績を説明する

この管理会計は、社内だけのものではありません。北の達人は決算短信でも、5段階の3つめにあたる「販売利益」で業績を説明しています(出典:決算短信、2026年4月)。

販売利益は、粗利から送料などと広告費を引いた、会社独自の利益の物差しです。決算短信は、北の快適工房の売上を「新規獲得」「定期及びその他」「ECモール」の3つに分けています。

2026年2月期の新規獲得の販売利益は、▲18億5,700万円でした(出典:決算短信、2026年4月)。一方で、定期及びその他は47億8,200万円の販売利益を生みました。新規の赤字を、定期の黒字が回収する構造が表から読み取れます。

利益を区分ごとに見る習慣は、利益率の計算方法を考えるうえでも参考になります。

2期連続の減収と2026年2月期の大幅減益|新規獲得が細ったときの弱点

北の達人の売上高は、2024年2月期の146億6,500万円から2期続けて減りました(出典:決算短信、2025年4月)。2025年2月期は減収でも増益でしたが、2026年2月期は営業利益が40.3%減っています。

この2年間は、新規の獲得が細ると、数カ月遅れて定期の売上も細るという定期購入の弱点が表れた時期でした。事業概要も、新規売上の増減は概ね2〜3カ月後に定期売上へ表れると説明しています(出典:事業概要、2026年7月)。

売上高と営業利益の推移(単位 億円)
2020年2月期
売上高100.9億円
営業利益29.2億円
2021年2月期
売上高92.7億円
営業利益20.3億円
2022年2月期
売上高95.1億円
営業利益20.8億円
2023年2月期
売上高98.3億円
営業利益5.1億円
2024年2月期
売上高146.7億円
営業利益14.5億円
2025年2月期2期連続減収
売上高118.3億円
営業利益16.8億円
2026年2月期2期連続減収
売上高112.1億円
営業利益10.0億円
2027年2月期予想
売上高159.6億円
営業利益10.6億円
2021年2月期までは単体、2022年2月期以降は連結(グループ全体)の数字です。点線枠は会社の予想です。

出典:IR BANK 決算発表履歴(決算短信の集計)、北の達人コーポレーション 2026年2月期決算短信(2026年4月)

広告宣伝費は月6.17億円から2.27億円へ|半年あまりで4割弱の水準に

2024年2月期の決算短信には、北の快適工房の月ごとの広告宣伝費が載っています。2023年4月の6億1,700万円をピークに、11月は2億2,700万円でした(出典:決算短信、2024年4月)。半年あまりで、約37%の水準まで縮んだ計算です。

会社は、新規獲得のための投資が予想どおりに進まなかったと説明しました。広告は一定期間がたつと見飽きられ、反応が落ちていきます。会社はこれを「疲弊」と呼びます。

上限CPOを守るかぎり、反応の落ちた広告は止まります。そのため広告費の縮小は、ブレーキが設計どおりに働いた結果とも読めます。

2024年10月には、2025年2月期の業績予想を引き下げました。販売ページの疲弊で、新規獲得が想定を下回ったためです(出典:決算短信、2025年4月)。2025年2月期の売上高は19.4%減の118億2,600万円です。

販売ページとは、広告から移った先の、商品を売るページを指します。

予想を上回った利益を「ポジティブな増益要因ではない」と会社自身が書いた

2025年2月期の営業利益は16億7,500万円でした。前期より15.6%の増益です(出典:決算短信、2025年4月)。売上が2割減っても利益が増えたのは、「売上最小化、利益最大化」の言葉どおりに見えます。

会社は、利益の増え方にも注意を促してきました。2024年2月期の決算短信は、新規獲得の販売利益が業績予想を上回った点に触れています。理由は、広告費が予想どおりに進まなかったことでした。

そのうえで「ポジティブな増益要因ではありません」と明記しました(出典:決算短信、2024年4月)。

同じ見方を当てはめると、2025年2月期の減収増益も、手放しでは喜べない数字だと読めます。広告費を抑えた分だけ、将来の顧客を迎えていない状態でもあるためです。会社の資料では、新規の獲得人数は2025年2月期の第3四半期が底です(出典:決算説明会資料、2026年4月)。

2026年2月期の減益は3つの要因が重なった

2026年2月期は、新規の獲得が回復に向かった年でした。それでも営業利益は40.3%減っています。決算資料を読むと、減益は3つの要因に分けられます。

1つめは、前期までの新規減で、定期の土台が小さくなっていたことです。2つめは、回復した新規獲得に向けて、広告費を先に投じたことです。広告投資が増えたため、新規売上の販売利益は減りました(出典:決算説明会資料、2026年4月)。

3つめは、昇給などで人件費が増えたことです(出典:決算説明会資料、2026年4月)。先行投資とは、将来の売上のために、今のうちに費用をかけることです。例えば新しい顧客を迎える広告費は、数カ月後の定期の売上になって返ってきます。

利益率29%の時代と比べて人件費は2.5倍に

利益率の低下には、人への投資という別の理由も絡んでいます。説明会では、利益率が過去の30%程度より低い理由を問われました(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。

会社の答えは、高利益率の時代は人材不足で、ぎりぎりの運営だったというものです。いまは人員を増やし、人件費は当時の2.5倍です。会社は当時を「綱渡り的」と表現しています。

規模にもよりますが、会社は適正な営業利益率を15〜25%程度と考えています。利益の額と率のどちらを重視するかを問われ、答えは「額」でした。そのうえで、額が同じなら、率の高いほうが少ない売上で稼げていて事業リスクが低いと評価するといいます。

2027年2月期は一転して増収計画|同じ基準のまま獲得を増やす

2027年2月期の北の達人は、広告費の上限の決め方を変えずに新規獲得を増やし、増収に転じています。2026年2月期の決算短信でも、上限の設定基準は従来から変えていないと説明しています(出典:決算短信、2026年4月)。

四半期とは1年を3カ月ずつに分けた期間で、前年同期は前の年の同じ期間を指します。第1四半期の売上高は、前年同期比23.6%増の32億900万円でした。一方、営業損益は1億200万円の赤字です(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。

2027年2月期 第1四半期の主要数字
売上高32億900万円前年同期比 +23.6%、うちカラコンダイレクト2億8,190万円
営業損益▲1億200万円前年同期は2億4,000万円の黒字
受注残約2億8,600万円第2四半期以降に売上計上の見込み
新規顧客の獲得人数直前四半期比 +44%6四半期連続で増加

出典:北の達人コーポレーション 2027年2月期第1四半期決算短信(2026年7月15日)

新規顧客の獲得人数は6四半期連続で増加

自社サイトでの新規の獲得人数は、直前の四半期より44%増えました(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。6四半期続けての増加です。自社広告による獲得は、2026年3月に月間、4月19日に1日の過去最高を記録しました。

増収額の内訳も見ておきます。北の快適工房などの売上は約3億4,600万円増えました(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。加えて、子会社にしたカラコンダイレクトの売上が約2億8,200万円あります。

会社によれば、獲得の増加には新商品の発売が大きく寄与しました。広告は約100名のWEBマーケティング部が自社で作っています(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。生成AIで、制作の量と質も高めているといいます。

運用型広告とは、配信先の分析や入札の調整で、出す量を広げられる広告のことです。

その広告投資バランスは、最適値の1.00を超えない範囲で推移したとのことです。広告投資バランスとは、実際のCPOを上限CPOで割った独自の指標です。1.00を超えると、投資のしすぎを示します。

第1四半期は営業損失1億200万円|受注残約2億8,600万円の売上が後ろにずれた

赤字の理由は、大きく2つに分けられます。1つは、新規の獲得が急に増え、広告費が先に出たことです(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。将来の定期売上のための先行投資にあたります。

もう1つは、一部の商品で生産が需要に追いつかず、約2億8,600万円の受注残が出たことです。受注残とは、注文は受けたものの、まだ出荷していない注文のことです。広告費は第1四半期に計上され、その注文の売上は第2四半期以降に回ります。

会社は、在庫が足りていた場合の参考値も示しました。参考値の売上高は34億9,600万円、営業利益は2,900万円の黒字です(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。

ただし前年同期の2億4,000万円と比べると、87.9%減の水準です。これらの影響は、業績予想に織り込み済みと説明されています。

127件の企画のうち基準を満たしたのは17件

獲得を支える新商品は、数字の基準で選ばれています。会社は過去の約40商品で、「使用意向」などを統一のアンケートで調べました(出典:第1四半期決算短信、2026年7月)。

ヒットした商品とそうでない商品で回答を比べ、差が出た項目に基準値を設けました。新しい企画は同じ調査にかけ、基準を満たしたものだけを開発に進めます。

前期から第1四半期までに127件を調べ、基準を満たしたのは17件でした。残る110件は見送りです。

商品化の候補に残った割合は13.4%で、候補には未発売の企画も含まれます。「びっくりするほど良い商品ができた時にしか発売しない」という方針があります(出典:事業概要、2026年7月)。それを担当者の感覚ではなく、数字の基準に置き換えた形です。

中期経営計画は2028年2月期に売上高235億円・営業利益31億円

北の達人は「中期経営計画2028」で、2028年2月期の目標を掲げています。連結売上高235億円、営業利益31億円です(出典:投資家向け資料、2026年7月)。2029年2月期以降は、年に10商品を生み出せる体制が目標です。

2027年2月期は、先行投資で売上が大きく伸び、利益は横ばいという計画です。会社は、定期顧客が積み上がり、2028年2月期に営業利益が改善する道筋を描いています。

業績予想の作り方も変わりました。会社はこれまで、新商品の寄与を予想に織り込まない方針でした(出典:決算短信、2026年4月)。

2027年2月期からは、見通しの精度が上がったとして織り込んでいます。計画どおりに進むかは、これからの四半期の数字で確かめる必要があります。

佰食屋と比べて見える違い|上限を「売上」に置くか「1人の獲得費」に置くか

北の達人と佰食屋の違いは、上限を「1人の獲得費」に置くか、「1日の販売数」に置くかです。京都の佰食屋も、売上を追わない経営で知られる店です。詳しくはcomtri.jpの佰食屋のビジネスモデルで取り上げています。

上限の置き場所が違えば、売上の動き方も、弱点の出方も違ってきます。2社を並べると、「売上を追わない」という同じ言葉の中に、まったく違う設計があることが見えてきます。

売上を追わない2つの設計
北の達人
上限の置き場所新しい顧客1人の広告費(上限CPO)
売上の動き方広告の反応しだいで大きく動く。2024年2月期146.7億円から2026年2月期112.1億円へ
広告月約5万本を自社で運用
守っているもの利益の額
佰食屋
上限の置き場所1日に売る食数、100食
売上の動き方上限まで売れれば毎日ほぼ一定
広告広告費を使わない
守っているもの働く時間。営業は約3時間半で残業ゼロ
同じ「売上を追わない」でも、上限の置き場所が違う

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)・決算短信、comtri.jp 佰食屋のビジネスモデル(2026年8月、マネー現代 2019年7月ほか)

詳しい違いは、次の表にまとめました。

比べる点出典北の達人佰食屋
上限の置き場所事業概要(2026年7月)、佰食屋記事(2026年8月)新しい顧客1人の広告費(上限CPO)1日に売る食数(100食)
売上の動き方決算短信(2024〜2026年)、佰食屋記事(2026年8月)広告の反応しだいで大きく増減(2期で約24%減、今期は42.4%増の計画)上限まで売れれば、1店舗の売上はほぼ一定
広告事業概要(2026年7月)、マネー現代(2019年7月)月約5万本を自社で運用し、毎日CPOを確認広告費を使わない
守っているもの質疑応答要旨(2026年7月)、マネー現代(2019年7月)利益の額(率より額を重視)働く時間(営業約3時間半、残業ゼロ)
弱点の出方事業概要(2026年7月)、佰食屋記事(2026年8月)新規獲得が減ると、数カ月遅れて定期売上が細るコロナ禍で来店が減り、2020年に4店舗中2店舗を閉店

北の達人の数字は、事業概要、決算短信、質疑応答要旨によります。佰食屋の数字は、佰食屋の記事(マネー現代 2019年7月ほか)から引きました。「約24%減」は、146億6,500万円から112億1,000万円への減少率です(決算短信の数字から計算)。

上限の置き場所|1日100食か、1人あたりの広告費か

佰食屋は、1日100食という上限から、仕入れも人員も営業時間も逆算してきました(出典:佰食屋の記事、2026年8月)。売上そのものに天井を置く設計です。

北の達人は、売上の総額には天井を置いていません。天井があるのは、1人の顧客を迎える費用です。上限の内側で獲得できる顧客が多ければ売上は伸び、少なければ縮みます。

会社は、獲得単価を一定にしているため、獲得人数は変動すると説明しています(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。佰食屋が「量」を固定したのに対し、北の達人は「単価」を固定して量を市場に委ねた形です。どちらを固定するかで、経営者が毎日見る数字も変わります。

売上の動き方|毎日ほぼ同じか、広告の当たり外れで大きく動くか

佰食屋は上限まで売れれば、毎日の売上はほぼ同じです。北の達人は、2024年2月期に売上が49.2%伸び、翌期は19.4%減りました(出典:決算短信、2025年4月)。

北の達人の「売上を追わない」は、売上を小さく保つという意味ではありません。売上の大きさを、広告の反応と上限CPOに任せるという意味です。そのため売上の振れ幅は、むしろ大きくなるのです。

振れ幅の大きさは、人員や在庫の計画を難しくします。2027年2月期の第1四半期に受注残が出たのも、獲得が想定以上に伸びた反動でした。

売上が読みやすい佰食屋と、読みにくい代わりに伸びしろを残す北の達人。安定と成長のどちらを優先するかの違いとも言えます。

守っているもの|働く時間か、利益の額か

佰食屋の上限は、「家族で晩御飯を食べたい」という願いから生まれました(出典:佰食屋の記事、2026年8月)。守っているのは、働く人の時間です。

北の達人が守っているのは、利益の額です。会社は利益率より利益額を重視すると明言しています(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。

守るものが違えば、上限を破る誘惑の中身も変わります。佰食屋なら「行列があるのに断る」ことが、北の達人なら「売上が伸びる広告を止める」ことが試されます。何を守るために上限を置くのかを先に決めると、自社に合う置き場所が見えてきます。

弱点とリスク|新規獲得への依存・広告環境・商品の当たり外れ

北の達人のモデルは、上限の内側で新しい顧客を迎え続けられることが前提です。新規の獲得が解約を下回れば、売上は縮みます(出典:事業概要、2026年7月)。

広告の環境、主力ブランドへの依存、製造の外部委託、「利益率29%」という数字の独り歩きも見ておく必要があります。どれも、このモデルの強みと同じ場所から生まれた課題です。

強みと弱点は同じ場所から生まれる
強み上限CPOで赤字の広告を止める
↔
弱点上限内で獲得できる顧客が減ると売上が縮む。2024年2月期146.7億円から2026年2月期112.1億円へ
強み自社で広告を作り、毎日改善する
↔
弱点広告は一定期間で見飽きられ、反応が落ちる
強み北の快適工房に経営資源を集中
↔
弱点北の快適工房が連結売上の約9割。新商品の当たり外れに左右される
強み製造を外部に任せて身軽
↔
弱点需要の急増に生産が追いつかず、受注残約2億8,600万円

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)、2026年2月期決算短信(2026年4月)、2027年2月期第1四半期決算短信(2026年7月)

新規が解約を下回れば売上は縮む|縮小均衡のリスク

定期購入では、毎月一定の割合で解約が出ます。悩みが解消して卒業する人もいれば、商品が合わなかった人もいます(出典:事業概要、2026年7月)。新規の獲得が解約を上回れば売上は伸び、下回れば減る構造です。

上限CPOを厳しく守るほど、反応が落ちた局面では獲得が細ります。広告を絞ると売上が縮み、それに合わせて規模もまた小さくなっていきます。

縮小均衡とは、このように縮んだ状態で釣り合ってしまうことです。例えば、客数が減った店がチラシを減らし、さらに客数が減るような流れです。

2024年2月期の後半から2025年2月期の第3四半期までの新規減少は、その入口に近い動きでした。会社は広告の作り直しと新商品で、この第3四半期を底に獲得を戻しています(出典:決算説明会資料、2026年4月)。止める基準と、次を試す力がそろって初めて、縮小は止まります。

広告の見飽きと媒体の変化

会社は、どんなに良い広告でも一定期間で見飽きられ、獲得人数が減ると書いています(出典:決算短信、2026年4月)。新しい切り口の広告を作り続けなければ、獲得は保てません。

広告はほとんどがWEB媒体です。ほぼすべてのWEB広告媒体を試した結果、成果の出やすいものが残ったといいます(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。広告の単価や配信の仕組みが変われば、同じ上限の中で獲得できる人数も変わります。

会社は、広告に頼らない販売基盤づくりを中長期のテーマに挙げました。ただし当面は、広告を軸にした成長を続ける方針です。媒体側の変化を自社で決められない以上、外部環境への感度は常に問われ続けます。

北の快適工房への依存と、製造・供給の外部委託

2026年2月期の連結売上のうち、北の快適工房は100億2,800万円でした(出典:決算短信、2026年4月)。112億1,000万円の約9割を、1つのブランドに頼る構造です(決算短信の数字から計算)。

製造は外部のOEM会社への委託です。OEMとは、他社のブランドの商品を作る会社に、生産を任せる形のことです。身軽な反面、需要が急に伸びると生産が追いつかず、受注残が出ます。

会社は、売れ筋の商品を複数の工場で作れる体制に切り替えています。物流も、北海道と岡山の2拠点にしたと説明しました(出典:質疑応答要旨、2026年7月)。

「利益率29%」だけを切り取らない

著書の題名の「利益率29%」は、2020年2月期の営業利益率28.9%に重なります(出典:決算短信、2020年4月)。

同じ単体で比べると、2026年2月期は約9.5%です。連結では8.9%でした(出典:決算短信、2026年4月)。会社自身も、当時の運営を綱渡り的だったと振り返っています。

「29%」だけを成功事例として引くと、その後の減収や2026年2月期の減益、人への投資という判断を見落とします。数字は、どの年のどの条件で生まれたものかとセットで読む必要があります。

北の達人の特徴は、高い利益率そのものではありません。広告を止める基準と利益の見える化を、決算資料で開示し続けている点です。株価や市場区分の評価は、本記事では扱いません。

広告をいつ止めるか、基準を持っているか|北の達人から持ち帰る4つの問い

1人の顧客にいくらまで払えるかを先に決め、それを基準に広告を止める考え方は、規模を問わず使えます。毎日5万本の広告を自動で管理する仕組みは、そのまま中小企業に当てはまるものではありません。それでも、基準を言葉にしておけば、社員や取引先と同じ判断ができます。

広告やチラシ、展示会への出展を「なんとなく続けている」と感じる経営者の方は少なくないはずです。論点は、次の4つの問いに整理できます。

広告を止める基準を考える4つの問い
1 顧客1人を迎えるのに、いくらまで払えるかを決めているか1年間の粗利から、残したい利益を引いた額を上限にする
2 顧客の売上を「いつまでに・いくら」で見ているか3カ月・6カ月・12カ月の累計粗利を並べる
3 商品ごとに5段階で利益を並べたことがあるか粗利・注文ごとの費用・広告費・人の手間・家賃などを商品別に差し引く
4 広告を絞ったあと、次の獲得の手を用意しているか止めた広告の代わりに試す案を2つ持っておく

出典:北の達人コーポレーション 事業概要(2026年7月)、決算短信をもとにコントリ編集部作成

顧客1人を迎えるのに、いくらまで払えるかを決めているか

北の達人の出発点は、広告費の総額ではなく、顧客1人あたりの上限でした。総額で予算を組むと、反応が悪い広告も予算の範囲で続いてしまうものです。

上限は、次の式で考えられます。

1人あたりの上限 = 顧客1人の1年の粗利 − 1人あたり残したい利益

例えば、1年で粗利3万円をもたらす顧客に対し、1万円の利益を残したいとします。この場合、1人を迎えるのに使える費用の上限は2万円です。説明のための仮の数字で、チラシや展示会、紹介への謝礼も同じ物差しで測れます。

まずは直近の新規顧客について、媒体ごとに書き出してみてください。次の表のように並べると、上限を超えている媒体が一目でわかります(数字は仮の例です)。

媒体新規の顧客数かかった費用1人あたりの費用上限2万円との差
チラシ5人15万円3万円1万円の超過(止める候補)
展示会8人12万円1万5,000円5,000円の余裕
紹介4人4万円1万円1万円の余裕(広げる候補)

上限を超えている媒体があれば、それが最初に止める候補です。顧客1人の価値の出し方は、顧客LTVの計算方法でも詳しく扱いました。

顧客の売上を「いつまでに・いくら」で見ているか

上限を決めるには、顧客がいつまでにいくら払ってくれるかを知る必要があります。北の達人は、LTVの実績と予測を毎月見直し、上限もそれに合わせて直していました。

中小企業なら、新規顧客を獲得した月ごとに、3カ月・6カ月・12カ月の累計粗利を並べるだけで始められます。回収までの期間が見えれば、広告費をどこまで先に出してよいかが決まります。

単月の数字だけで判断すると、続けるべき広告を止めてしまうこともあります。逆に、回収に2年かかる広告を続けていたと気づくこともあるでしょう。月額や定期の商品を持つ会社は、中小企業のサブスク導入事例も参考になります。

商品ごとに5段階で利益を並べたことがあるか

5段階利益管理の例では、売上が最も大きい商品の利益率が2%でした。粗利だけで見ていると、この事実には気づけません。

始め方は、主な商品を3つ選び、表計算ソフトで列を並べることです。列は次の11本です。

売上、原価、粗利、送料・手数料、純粗利、広告費、販売利益、人の手間、ABC利益、家賃などの按分、商品ごとの利益です。按分とは、共通の費用を一定の基準で商品ごとに割り振ることを指します。

人の手間は「作業時間×時給」で出せます。担当者に1週間の作業時間を商品別に書き出してもらえば、おおよその割合がつかめます。

社内で話題にならない商品が、実はいちばん稼いでいた、という発見は珍しくありません。毎月の数字の締め方は、月次決算とはの記事でも扱っています。

広告を絞ったあと、次の獲得の手を用意しているか

北の達人の2年間が示したのは、止める基準だけでは売上が縮んでいくという現実でした。会社が回復のために動かしたのは、広告の作り直しと、数字で選んだ新商品です。

広告を止めるときは、代わりに試す案を2つ用意しておくと、縮小均衡に入りにくくなります。例えば、反応が落ちたチラシを止めるなら、新しい切り口の見出しと、既存顧客からの紹介の仕組みを同時に試す、といった形です。

止める基準と、次を試す仕組みは、セットで初めて機能します。ほかの会社の稼ぎ方と比べたい方は、ビジネスモデル一覧もご覧ください。

まとめ|北の達人が売上を追わない理由を一言でいうと

北の達人が売上を追わない理由は、新しい顧客1人の広告費に上限を置き、超えた広告を止めるからです。

上限は1年LTVと必要な利益から逆算し、月約5万本の広告のCPOを毎日確かめています。売上が最大になる点ではなく、利益の額が最大になる点で止める設計です。その判断を、商品ごとに隠れコストまで差し引く5段階利益管理と、1,527項目の品質基準が支えてきました。

一方で、広告の見飽きから新規の獲得が減り、売上高は2期続けて減少しました。2026年2月期は112億1,000万円で、営業利益は40.3%減です(出典:決算短信、2026年4月)。

2027年2月期は、同じ基準のまま新商品で獲得を増やす計画です。売上高は159億6,200万円を見込みます(出典:決算短信、2026年4月)。自社に置き換えるなら、まず顧客1人を迎えるのにいくらかかっているかを、媒体ごとに書き出すところからです。

編集部コメント

決算資料を読み直して印象に残ったのは、2024年2月期の決算短信の一文でした。利益が予想を上回った理由を、将来の顧客への投資が減った結果だと説明していたのです。そのうえで、ポジティブな増益要因ではないと書いていました。

良く見せられる数字を、自分から割り引いて説明していたわけです。その姿勢に、この会社が利益の中身をどれだけ細かく見ているかが表れていると、私たちは捉えています。

もう一つ心に残ったのは、2026年7月の質疑応答で、高利益率の時代を「綱渡り的」と振り返っていたことです。著書の題名にもなった数字を、いまは適正だと考えていないと言い切っていました。過去の看板の数字より、組織が続くことを選んだ判断です。

研究ノートを整理するなかで私たちコントリ編集部が気づいたのは、佰食屋と並べたときの対照でした。同じ「売上を追わない」でも、上限を売上に置くか、1人の獲得費に置くかで、売上の動き方も弱点もまったく違っていました。

規模は違っても、自社の広告やチラシを「いつ止めるか」の基準を、社員や取引先に自分の言葉で説明できるか。その問いは、どの経営者にも通じるものだと感じます。まずは直近の新規顧客1人あたりの費用を、媒体ごとに1つ書き出してみてはいかがでしょうか。

よくある質問(FAQ)

Q1. 北の達人はなぜ売上を追わないのですか?

A. 広告費を積み増して売上を伸ばすと、顧客1人を迎える費用が上がり、ある点から利益が減るためです。北の達人は、顧客1人に使える広告費の上限を、1年LTVと必要な利益から逆算して決めています。上限を超えた広告は止めるので、売上は結果として増減します(出典:同社事業概要、2026年7月)。

Q2. 上限CPOとは何ですか?

A. 新しい顧客1人を獲得するのに使ってよい広告費の上限額です。北の達人は、顧客が将来もたらす売上の予測と必要な利益から逆算しています。

CPOは1日単位で測り、上限を超えた広告はその時点で止める運用です(出典:同社質疑応答要旨、2026年7月)。実際の上限の金額は公表されていません。

Q3. 5段階利益管理とは何ですか?

A. 利益を商品ごとに5つの段階で見える化する、北の達人独自の管理会計です。売上総利益、純粗利、販売利益、ABC利益、商品ごと営業利益の順に費用を差し引きます。会社の例では、売上が最も大きい商品の利益率が2%、小さい商品が52%でした(出典:同社事業概要、2026年7月)。

Q4. 北の達人の業績はなぜ落ちたのですか?

A. 2025年2月期までの減収は、販売ページの疲弊で新規の獲得が減ったためです。定期の売上も、数カ月遅れて細っています(出典:同社決算短信、2025年4月)。2026年2月期の減益は、定期の土台の縮小に、回復した新規獲得への広告投資と人件費の増加が重なったものです。

売上高は146億6,500万円から112億1,000万円になりました(出典:同社決算短信、2025・2026年)。新規の獲得人数は、2025年2月期の第3四半期を底に増加が続いている状況です。

Q5. 北の達人と佰食屋のビジネスモデルの違いは?

A. どちらも売上を追わない経営で知られますが、上限の置き場所が違います。佰食屋は1日100食という販売数に、北の達人は顧客1人あたりの広告費に上限を置いています。そのため佰食屋の売上はほぼ一定で、北の達人の売上は広告の反応しだいで大きく動きます。

Q6. 中小企業が北の達人から学べることは何ですか?

A. 顧客1人を迎えるのにいくらまで払えるかを先に決め、その基準で広告をいつ止めるかを判断することです。商品ごとに隠れコストまで差し引いて利益を並べることも、表計算ソフトで今日から始められます。あわせて、広告を絞ったあとに次の獲得の手を用意しておくことが、縮小を防ぐ鍵になります。

参考資料

本記事の土台は、経営者インタビューメディア「コントリ」のビジネスモデル研究ノート(2026年9月調査)です。2026年10月初め時点で確認できた決算短信、事業概要、説明会資料と質疑応答要旨、報道と照合しています。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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