
ニトリのビジネスモデル|36期増収増益を生んだ垂直統合
うちの商品は、もう少し安くできないのか。けれど、仕入れ値も運賃も上がるばかりで、値下げどころか値上げの相談ばかり。そんな板挟みを抱える経営者の方は、きっと少なくないはずです。
ニトリのビジネスモデルは、企画から製造、物流、販売、ITまでを自社グループで担う「製造物流IT小売業」です。外の会社に払っていたマージンを社内に取り込み、その差を価格に回すことで「お、ねだん以上。」を支えてきました。2026年3月期の売上収益は9,122億円、営業利益は1,255億円です(同社決算短信)。
一方で、1988年から続いた36期連続の増収増益は、2024年3月期に途切れました。2026年3月期は増益を確保したものの、国内既存店の客数は前期比92.8%にとどまっています。
本記事の材料は、コントリ編集部がまとめたビジネスモデル研究ノートです。数字は2026年9月時点の決算資料と公式サイトで確かめ直しました。稼ぐ仕組み、価格と為替、記録の終わり、人材育成の順に見たうえで、中小企業が持ち帰れる4つの問いへとつなげます。
ニトリのビジネスモデルとは|数字で見る全体像
ニトリは、家具・インテリアの企画から製造、物流、販売までを自社グループで担う会社です。2026年3月期の売上収益は9,122億円、営業利益は1,255億円で、売上収益営業利益率は13.8%でした。店舗はグループ合計1,069店で、国内808店・海外209店・島忠52店という内訳です。
主な数字を1枚にまとめました。
札幌の家具店から「製造物流IT小売業」へ
ニトリの始まりは、1967年に札幌で開いた小さな家具店です。創業者の似鳥昭雄氏は、現在の代表取締役会長です。2026年5月時点で、持株会社ニトリホールディングスの社長は白井俊之氏です。
同社は、自らの事業を「製造物流IT小売業」と呼びます。製造小売業に、物流機能とITを足したという意味の、ニトリ独自の言葉です。製造小売業とは、商品の企画から販売までを一社で手がける業態のことを指します。例えば、ユニクロや無印良品もこの型に入ります。
ニトリの公式サイトは、このモデルの狙いとして「中間コストを極力削減」することを挙げます。問屋や商社、外部の物流会社に払うはずの費用を、グループの中で減らしていく。その積み重ねが、価格の根っこにあるわけです。
2026年3月期決算の要点|減収増益という新しい形
ここ数年の数字を並べると、ニトリの「現在地」が見えてきます。長く続いた増収増益の後に、売上と利益が別々の動きを見せるようになりました。
| 決算期 | 売上収益 | 営業利益 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 9,288億円(3.6%増) | 1,177億円(5.3%減) | 2026年3月期決算短信(2026年5月14日) |
| 2026年3月期 | 9,122億円(1.8%減) | 1,255億円(6.7%増) | 同決算短信の当期実績(2026年5月発表) |
| 2027年3月期 会社予想 | 9,570億円(4.9%増) | 1,303億円(3.8%増) | 同決算短信の業績予想(2026年5月) |
2026年3月期の増益を支えたのは、ホームセンターの島忠事業です。セグメント利益とは、事業ごとに区切って計算した利益のことです。島忠事業のセグメント利益は、前期の13億円の赤字から72億円の黒字に転じました。主力のニトリ事業は、売上収益8,162億円・セグメント利益1,184億円で、ともに前期をわずかに下回りました。
売上が減っても利益が増えた背景には、物流改革もあります。竣工済みの自社物流センター6拠点がすべて本格稼働し、売上に占める物流費の割合は、当期で頭打ちになる見込みだそうです。
店舗網の内訳|ニトリ・デコホーム・海外・島忠
2026年3月末の店舗は、グループ合計で1,069店です。内訳を見ると、同じ「ニトリ」の看板でも、いくつもの入口を用意していることがわかります。
郊外の大型店に加え、都心向けの小型店「ニトリEXPRESS」も同じ枠の数字です。デコホームは、駅ビルやショッピングモールに入る小型の雑貨中心の店です。大型店に来られないお客様にも、別の入口から届く。この面の取り方も、ニトリの特徴の一つです。
経営者の挑戦と決断のストーリーを、インタビューでお届けしています。
稼ぐ仕組み|「製造物流IT小売業」という垂直統合
ニトリは自らを、製造小売業に物流とITを加えた「製造物流IT小売業」と定義しています。商品企画から原材料調達、製造、貿易、物流、販売、システム開発までを自社グループで手がけます。各工程で生じる中間コストを社内に取り込み、それを価格に回すのが基本の設計です。
垂直統合とは、商品の流れの上流から下流までを一社で抱える経営のことです。例えば、パン屋が小麦の仕入れから配達までを自前でこなす姿を思い浮かべると近いでしょう。ニトリの場合、その工程は次のような連なりです。
企画・原材料調達|お客様の「不平・不満・不便」から逆算する
ニトリの商品企画は、お客様の「不平・不満・不便」を起点にすると、同社の採用サイトにあります。例えば、工具なしで組み立てられるカラーボックス「Nクリック」です。「組み立てが面倒」という声から生まれた商品として紹介されました。
原材料の調達も、商社任せにしません。海外ソーシングは1989年のシンガポール進出に始まり、いまは中国、マレーシア、タイなどに調達拠点があります。自社のバイヤーが産地に足を運び、供給元と直接交渉・契約を結ぶ体制です。
公式サイトは、このプロセスを商社に頼っていては「品質・機能を伴った価格1/2」は実現できない、と書いています。お客様が求める価格から逆算して、原材料までさかのぼる。この順番が、ニトリの商品づくりの出発点にあたります。
製造・貿易|商品の9割を海外で製造し、通関も自社で
ニトリの商品の90%は海外で製造されています(2022年7月時点、同社新卒採用サイト)。1994年にインドネシア、2004年にベトナムの自社工場が稼働しました。グループ会社のニトリファニチャーが、その運営を担う形です。
自社工場以外で作る場合も、製造を外部に丸投げはしません。取引先の工場に社員が常駐し、工程の改善指導まで行うと公式サイトは記します。
輸入に必要な申請や通関などの貿易業務も、すべて自社で実施しています。通関とは、輸入品を国内に入れる際に税関で受ける手続きのことです。ふつうは専門業者に任せる工程を内製することで、コストと時間の両方を削ってきました。
物流・IT|自社DCと内製システムで全体を最適化する
物流では、1980年に業界初の自動立体倉庫を導入したと公式サイトにあります。いまは全国に自社の物流センター(DC)を持ち、店舗や家庭への配送までを担います。DCとは、商品を保管・仕分けして各地に送り出す拠点のことです。
ITも、システムの開発・運用をグループの中でまかなう体制です。2019年には、DXを担うIT人材の新卒採用コースも新設されました。工程ごとに別々の会社が関われば、そのたびにデータの受け渡しが発生します。すべてを同じシステムでつなげることが、工程全体の最適化を支える土台です。
2026年3月期には、商品パッケージの小型化も進めました。持ち帰りやすさと輸送コスト削減を同時にねらう取り組みです。企画から物流までを一社で見ているからこそ、こうした工程をまたぐ改善が打ちやすくなります。
あなたの会社の強みを、
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想いや現場知がうまく伝わらない——そんな経営者の言語化から発信までを、取材ベースで伴走支援しています。
「お、ねだん以上。」の裏側|低価格と為替リスクは表裏一体
「お、ねだん以上。」は安さだけでなく、価格に対して期待以上の品質・機能を届けるという約束です。一方で、商品の9割を海外で製造する構造は、円安がそのまま調達コストに跳ね返る弱点にもなります。強みと弱点が同じ仕組みから生まれている点が、ニトリのモデルを読み解く鍵です。
海外生産とスケールで原価を下げる
低価格を支えるのは、海外の自社工場・協力工場での大量生産です。一度に多く作るほど、一つあたりの原価は下がります。これをスケールメリットと呼びます。
さらにニトリは、原価を下げる手を自社で打てます。2026年3月期の決算短信には、仕様変更による商品の切り替えや原材料の見直しが並びました。新規サプライヤーの開拓や、原材料から自社で製造する体制の整備も並びます。どの工程を変えるかを、自分たちで決められる。それが垂直統合の強さです。
円安が調達コストに直結する構造
裏を返せば、海外で作って日本で売る構造は、為替の影響を強く受けます。円安になれば、同じ商品を輸入するのに多くの円が必要になるからです。
増収増益の記録が2024年3月期に途切れた際も、主な要因は円安だと報じられました(流通ニュース 2024年5月)。低価格を生む仕組みが、そのまま利益を圧迫する要因にもなる。ここに、ニトリのモデルの難しさがあります。
値上げで吸収しようとすれば、「お、ねだん以上。」という約束との折り合いが問われます。だからこそ会社は、仕様の見直しやパッケージの小型化など、価格以外の手段で原価を削る取り組みを重ねてきました。為替は自社で動かせませんが、工程の中身は自社で動かせる。垂直統合の会社にとって、それが円安への現実的な備えになっています。
ユニクロ・無印良品・IKEAとの違い
製造小売業という点では、ニトリはユニクロや無印良品と同じ型に入ります。違いは、扱う商品と、自前で抱える工程の幅です。
| 企業 | 主な商品 | 自前で担う工程の特徴 | 本記事での位置づけ |
|---|---|---|---|
| ニトリ | 家具・インテリア・家電など住まい全般 | 原材料調達・製造・貿易・物流・ITまで自社グループで担う「製造物流IT小売業」 | 本記事の主題 |
| ユニクロ | 衣料品 | 企画から販売までを担う衣料品のSPA | 衣料のSPAの代表例 |
| 無印良品 | 生活雑貨・衣料・食品 | 企画から販売までを担う生活雑貨のSPA | 生活雑貨のSPAの代表例 |
| IKEA | 家具・インテリア | 組み立て式家具を世界で展開する垂直統合型 | 家具の世界的な競合 |
SPAとは、製造小売業を指す英語の略称です。ユニクロは、衣料品のSPAの代表格です。詳しくはユニクロのビジネスモデルで整理しました。生活雑貨のSPAである無印良品(良品計画)のビジネスモデルと並べると、ニトリが物流と貿易まで抱えている点が際立ちます。
家具は、衣料に比べて大きく重い商品です。だからこそ、運ぶ工程を他社に任せるか自前で持つかが、価格に大きく響きます。ニトリが「物流」を社名のような言葉にまで入れた理由は、ここにあると私たちは読み解いています。
36期連続増収増益の終わりと国内客数減
ニトリは1988年から36期連続で増収増益を続けましたが、2024年3月期にその記録が途切れました。2026年3月期は減収ながら増益でしたが、国内既存店の客数は前期比92.8%にとどまっています。会社自身は、客数減の要因を新たな商品の開発が十分に進まなかったことだと認識しています。
記録が途切れた2024年3月期に何が起きたか
ニトリの増収増益は、1988年から36期にわたって続きました。記録が止まったのは2024年3月期で、円安が主な要因と報じられています(流通ニュース 2024年5月)。
一つ補足があります。直前の2023年3月期は、決算期の変更で13カ月超の変則決算でした(流通ニュース 2023年5月)。前後の期を単純に比べにくい時期だった点は、数字を読むうえで押さえておきたいところです。
とはいえ、36期という年月の重みは変わりません。為替や景気の波を何度もくぐり抜けて、増収と増益を毎期そろえてきた記録です。止まったこと以上に、そこまで続いたことに、仕組みの強さが表れていると私たちは捉えます。
2026年3月期|島忠の黒字化と物流改革で増益を確保
2026年3月期は、売上収益が1.8%減る一方で、営業利益は6.7%増えました。これまでの「増収増益」とは質の違う、減収増益という結果です。
利益を押し上げたのは、島忠事業の黒字転換でした。PB商品の開発を進めて荒利益率(売上に占める粗い利益の割合)を高め、広告費や物流費を見直した結果だと決算短信は書きます。PB(プライベートブランド)とは、小売業が自ら企画して売る自社ブランド商品のことです。ニトリで磨いた型を、グループに入ったホームセンターにも移していく流れが読み取れます。
会社が認めた課題|商品開発の質・量・スピード
国内既存店の客数は前期比92.8%、売上は95.8%でした。既存店とは、開業から一定期間が過ぎ、前年と比べられる店のことです。
決算短信は、この客数減の要因を率直に書きました。要旨は「デザインや機能、価格競争力に優れた新たな商品の開発が十分に進まなかった」というものです。そのうえで、商品部の組織体制を変え、商品開発の質・量・スピードを高める体制を整えているとのことです。
課題を外部環境だけのせいにせず、自社の商品開発に求めている点は見逃せません。家電分野では、冷凍冷蔵庫やテレビの販売が好調だったという記述もあります。強みを生んだ「自社で企画する力」に、もう一度立ち返ろうとしている段階だと読めます。
配転教育|ビジネスモデルから逆算した人材育成
垂直統合のモデルは、工程をまたいで考えられる人がいなければ回りません。ニトリは数年ごとに部署や職種を変える「配転教育」で、その人材を計画的に育てています。コントリは、これを「事業の形が求める人材から逆算した育成制度」と読み解いています。
配転教育とは|数年ごとに部署と職種を変える
配転教育とは、社員が数年ごとに部署や職種を移りながら経験を広げる、ニトリ独自の人材育成制度です。同社の採用サイトは、その目的を「広い視野」と「柔軟な思考」を養うことだと説明します。
異動の幅は、店舗だけにとどまりません。ニトリには63部署・100職種以上があると、同社の採用情報に書かれています(2025年6月1日時点)。20代・30代で幅広い経験を積み、将来的には専門分野の中で配転するという流れです。
採用サイトには、店舗運営から都心の出店プロジェクト、EC部門へと移った社員の体験談もあります。配転先によっては仕事をゼロから学び直す必要がある、と本人が率直に語っている点が印象的です。
「ロマンとビジョン」が異動の意味をつなぐ
部署が変わるたびに学び直すのは、社員にとって負担でもあります。それでも制度が続く理由の一つが、ニトリの掲げる「ロマンとビジョン」です。
ロマンとは「暮らしの豊かさを世界の人々に提供する。」という理念のことです。ビジョンとして「売上高3兆円」を掲げています(同社「経営方針」)。遠くの目標が共有されているから、目の前の異動に意味を見いだせる。先の体験談でも、一貫したテーマで考えれば、すべての配転に意味を見いだせたと語られていました。
工程をまたぐ人がいるから、垂直統合がつながる
製造と物流と店舗を一社で抱えても、それぞれの部署が自分の持ち場だけを見ていれば、中間コストは社内に移るだけです。工程の境目で起きるムダは、境目をまたいで見た人にしか見えません。
例えば、パッケージを小さくすれば、店頭では持ち帰りやすく、物流では運べる量が増えます。こうした改善は、店舗と物流の両方を知る人から生まれやすいものです。配転教育は、ビジネスモデルが求める人材の要件から逆算した制度だと、コントリ編集部は読み解いています。
なぜニトリのビジネスモデルは真似されにくいのか
海外工場を持ち、物流網を持ち、システムを内製する、と並べれば真似できそうに見えます。しかしニトリの型は、数十年かけて積み上げた機能と、それを回す人と、長期ビジョンが組み合わさって成り立っています。一方で、同じ仕組みが今の課題も生んでいる点まで含めて整理します。
機能を一つずつ内製してきた時間の蓄積
ニトリの機能は、一度にそろったものではありません。1980年の自動立体倉庫、1989年の海外ソーシング、1994年と2004年の自社工場。数十年をかけて、一つずつ積み上げてきたものです。
後から参入する会社が同じ機能をお金で買いそろえても、工程同士をつなぐ経験までは買えません。時間をかけて積んだ順番そのものが、参入の壁です。
順番には意味があります。まず倉庫で運ぶ力を固め、次に原材料を探す力、そして作る力を持つ。一つの機能が軌道に乗ってから、次の機能に手を伸ばしてきた流れが読み取れます。工場だけ、物流だけを急いで整えても、前後の工程とかみ合わなければコストは下がりません。
工程をまたぐ人材と、長期ビジョンによる投資の一貫性
機能を回すのは人です。配転教育で工程をまたいで育った人材が、工場や倉庫の設備を生きた仕組みに変えています。
加えて、長期のビジョンが投資の向きをそろえてきました。自社DCの整備も、短期の利益だけを見れば負担の大きい投資です。「売上高3兆円」という遠い目標が共有されているからこそ、数年がかりの投資を続けられるのでしょう。
2026年3月期の決算短信にも、戦略的投資を優先したとの記述があります。人材採用や賃金改定などの人的資本と、新たな物流センターへの投資です。販管費が増えることを承知で、将来の基盤づくりを選んだわけです。目先の数字と長期の目標がぶつかったとき、どちらに寄せるかの軸がぶれない。この一貫性は、外から真似するのがもっとも難しい部分だと言えます。
強みの裏返し|為替と商品開発の停滞
ただし、真似されにくい仕組みは、動かしにくい仕組みでもあります。海外生産が9割を占めれば、円安の影響からは逃れにくくなります。
海外事業では、2026年3月期に30店を出して34店を閉めました。特に中国大陸は3店の出店に対し25店を退店し、店舗網の入れ替えを進めています(決算短信)。会社は、この取り組みで収益性が大きく改善し、再成長の基盤が整ったと述べました。
国内の客数減も、同じ構図で読めます。自社で企画するモデルは、商品開発が止まれば売場の新しさも止まります。強みと課題は同じ根から伸びていて、ニトリはいまその根に手を入れている最中だと言えます。
中小企業が持ち帰れる4つの問い
ニトリの規模は大きくても、その発想は中小企業にも置き換えられます。鍵は「値上げできない」と悩む前に、自社のコスト構造そのものを作り替えられないかを問うことです。最後に、明日から自社で考えられる4つの問いにまとめます。
経営者の方への取材を重ねるなかで、私たちは「値上げしたいが、客離れが怖い」という声を何度も伺ってきました。ニトリの歩みは、その悩みに別の角度から光を当ててくれます。
外に払っているマージンのうち、取り込めるものはどれか
最初の問いは、コストの「置き場所」を見直すことです。ニトリは、商社や物流会社に払っていた費用を、一つずつ社内に取り込んできました。
中小企業がすべてを内製する必要はありません。まずは、取引先への支払いを「仕入れ・加工・運送・販売」のような工程別に書き出してみてください。金額の大きい順に並べると、自社で引き取れそうな工程が1つは見えてくるはずです。例えば、配送の一部を自社便に切り替えるだけでも、お客様との接点が一つ増えます。
自社の事業モデルが求める人材を、育成制度に落とし込めているか
二つめの問いは、人材育成を事業の形から逆算することです。ニトリの配転教育は、垂直統合というモデルを回すための制度でした。
自社の強みが「製造と営業の距離の近さ」なら、両方を知る人が必要です。まずは、製造担当が月に一度だけ営業に同行する、といった小さな兼務から始められます。人の動かし方を事業の形に合わせるだけで、部署の境目に落ちていた改善が拾えるようになります。
大がかりな人事制度をつくる必要はありません。最初に決めるのは「うちの事業は、どの工程とどの工程をつなげる人を必要としているか」という一点です。答えが出れば、誰をどこに一時的に動かすかも自然と決まってきます。半年続けたら、同行した本人に気づきを3つ書き出してもらう。そこまでを一つの区切りにすると、取り組みが続きやすくなります。
長く続いた勝ちパターンに、見直しの時期を設けているか
三つめの問いは、うまくいっている時こそ点検することです。36期続いた記録も、為替と商品開発という内外の変化で途切れました。
具体的には、年に一度、売上上位10品目の顔ぶれを前年と並べてみてください。顔ぶれが何年も変わっていなければ、それが見直しの合図です。数字で見えれば、何から手をつけるかも決まります。
ニトリの決算短信が、客数減の要因を自社の商品開発に求めていたことを思い出してください。外部環境のせいにできる場面でも、自社で動かせる部分に目を向ける。点検の場では「何が変わったか」と同じくらい、「自分たちは何を変えてこなかったか」を問うのがおすすめです。
来られないお客様に、別の入口を用意できているか
四つめの問いは、お客様との接点の数です。ニトリは郊外の大型店に加え、都心の小型店やデコホームで、大型店に来られない人にも入口を用意してきました。
自社の場合は、「来てほしいのに来られていないお客様は誰か」を一人思い浮かべてみてください。その人のために、小さな売場やオンライン注文、出張対応などを一つ試す。入口が一つ増えると、既存のお客様の使い方も変わってきます。
ニトリのデコホームは、大型家具を置かずに生活雑貨にしぼった小さな店です。すべてをそろえた大型店と同じものを、小さく縮めたわけではありません。入口ごとに役割を分け、扱うものを絞る。この発想なら、限られた人手や資金でも試しやすいはずです。まずは一つ、期間を区切って始めてみてください。
まとめ|ニトリは「中間」を自社に取り込んで価格をつくった
ニトリのビジネスモデルは、商品企画から製造、物流、販売、ITまでを自社グループで担う「製造物流IT小売業」です。外に払っていた中間コストを取り込み、それを「お、ねだん以上。」の価格に回してきました。
その仕組みは36期連続の増収増益を生み、同時に円安と商品開発の停滞という今の課題も生んでいます。2026年3月期の国内既存店客数は前期比92.8%でした。会社は商品部の体制を変え、自社で企画する力の立て直しに取り組む最中です。
中小企業が持ち帰れるのは、規模ではなく発想です。外に払っているものを見直し、事業の形から人を育て、勝ちパターンに見直しの時期を設ける。どの問いから始めるかを一つ決めることが、最初の一歩になります。
編集部コメント:研究ノートで印象に残ったのは、決算短信が客数減の理由を自社の商品開発に求めていたことでした。為替のせいにもできる局面で、自分たちの課題として言葉にしている。経営者の方がご自身の言葉で課題を語れる会社は、立て直しの順番も自分たちで決められるのだと、取材の現場でも感じてきました。自社の課題を一文で言葉にしてみるところから、始めてみてはいかがでしょうか。
ほかの企業の型も、ビジネスモデル一覧やキーエンスのビジネスモデルで整理しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. ニトリのビジネスモデルを一言でいうと何ですか?
A. ニトリ自身は「製造物流IT小売業」と呼んでいます。商品企画から原材料調達、製造、物流、販売、システム開発までを自社グループで担う垂直統合型のモデルです。中間コストを抑え、その分を価格に回す点が特徴です。
Q2. ニトリの商品はどこで作られていますか?
A. 同社の新卒採用サイトによると、商品の90%は海外で製造されています(2022年7月時点)。インドネシアとベトナムに自社工場を持ち、協力工場にも社員が常駐して工程を管理しています。
Q3. ニトリの増収増益記録はなぜ途切れたのですか?
A. 1988年から続いた増収増益は、2024年3月期に36期で途切れました。円安による調達コストの上昇が主な要因と報じられています。2026年3月期は国内既存店の客数が前期比92.8%となり、会社は商品開発の遅れを要因に挙げています。
Q4. ニトリの2026年3月期の業績はどうでしたか?
A. 売上収益は9,122億円で前期比1.8%減、営業利益は1,255億円で6.7%増の減収増益でした。島忠事業の黒字転換と物流改革が増益を支えました(2026年3月期決算短信)。
Q5. ニトリの配転教育とは何ですか?
A. 部署や職種を計画的に変えていく人材育成制度です。63部署・100職種以上(2025年6月1日時点)のなかで経験を積みます。広い視野と柔軟な思考を持つ人材を育てることが目的です。
Q6. 中小企業がニトリから学べることは何ですか?
A. 外に払っているマージンを取り込めないか考えることが一つめです。事業モデルが求める人材から逆算して育成を設計することも参考になります。長く続いた勝ちパターンに、見直しの時期を設けることも同様です。
参考資料
本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートです。2026年9月時点で確認できたニトリの決算資料・公式サイトと照合しました。数字は資料ごとに時点が異なるため、年月を併記しました。
- ニトリホールディングス|2026年3月期 決算短信(2026年5月14日)
- ニトリホールディングス|ビジネスモデル
- ニトリホールディングス|経営方針
- ニトリ新卒採用サイト|ビジネスモデル 製造物流IT小売業
- ニトリ新卒採用サイト|人材育成
- ニトリ新卒採用サイト|配転教育を経験した先輩たち
- ニトリ新卒採用サイト|募集要項・選考フロー
- 流通ニュース|ニトリ 増収増益記録36期で止まるも似鳥会長「社員に感謝」(2024年5月)
- 流通ニュース|ニトリHD 3月期13カ月変則決算で増収増益(2023年5月9日)
- 流通ニュース|ニトリHD 3月期は減収増益、既存店客数が7.2%減に(2026年5月)
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