労基署の調査・呼び出しへの準備|中小企業が是正勧告を防ぐ対応

労基署の調査・呼び出しへの準備|中小企業が是正勧告を防ぐ対応

ある日、労働基準監督署から1通の封筒が届く。差出人を見た瞬間に、背筋が冷たくなったというお声を、編集部もよく伺います。専属の労務担当を置けない中小企業ほど、何をどう準備すればよいのか、最初の一歩で手が止まってしまうのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、労基署の調査・呼び出しへの準備は、「調査の種類を見極める」「法定書類を整える」「想定される指摘への答えを用意する」という3点が核です。やみくもに身構える必要はありません。届いた通知の中身を正しく読み解けば、やるべきことは見えてきます。

本記事では、調査の4つの種類と当日までに揃える書類リストを整理します。さらに準備の5ステップ、やってはいけないNG対応、是正勧告書が出た後の対応までを順に解説してまいります。経営者の方が「これで備えは整った」と思える状態を、一緒に作っていきましょう。

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労基署の「調査」「呼び出し」には4つの種類がある

労基署の調査は、入り口が4種類に分かれます。定期監督・申告監督・災害時監督・再監督の4つで、どれに当たるかによって、調べられる範囲も心構えも変わってきます。まず届いた通知書で、自社のケースがどれなのかを見極めることが準備の出発点です。

「調査」と聞くと一律に身構えてしまいがちですが、種類を切り分けると、不安はずいぶん和らぎます。とくに多いのは、定期的に対象が選ばれる定期監督と、従業員からの申告をきっかけに行われる申告監督。この2つの違いを押さえるだけでも、見るべき論点が絞れてきます。

労働基準監督署の調査は4種類
労働基準監督署
きっかけ:年度計画

定期監督

業種や規模を基準に対象が選ばれる、計画的な調査です。特定の落ち度がなくても対象になります。

きっかけ:従業員の申告

申告監督

従業員や元従業員の申告を端緒に行われます。指摘の的が最初から絞られている点が特徴です。

きっかけ:労働災害

災害時監督

労働災害が発生したときに、原因や再発防止の状況を確認するために実施されます。

きっかけ:過去の勧告

再監督

過去に出された是正勧告について、改善が実施されたかを確かめるフォローアップの調査です。

定期監督・申告監督・災害時監督・再監督の違い

4種類のうち、経営者がまず区別したいのは定期監督と申告監督です。定期監督とは、労基署が年度ごとの計画に沿って対象事業場を選び、定期的に行う調査のことです。特定の落ち度がなくても、業種や規模を基準に選ばれます。

一方の申告監督は、従業員や元従業員からの申告を端緒に行われる調査です。未払い残業や不当な扱いなどの訴えがきっかけになるため、指摘の的が最初から絞られている点が特徴といえます。残る災害時監督は労働災害の発生時、再監督は過去の是正勧告に対するフォローアップとして実施されます。自社の通知がどれに当たるかで、点検すべき箇所の優先順位が変わってきます。

「呼び出し(呼出調査)」と「臨検監督(立入調査)」の違い

調査の方式は、大きく2つに分けられます。呼出調査とは、必要書類を持って労基署へ出向き、監督官の質問に答える方式のことです。対して臨検監督は、監督官が事業場へ直接立ち入り、職場の実態や帳簿を確認する方式を指します。

通知書には、このどちらの方式かがもれなく記されています。「○月○日に来署してください」とあれば呼出調査、事業場への訪問が告げられていれば臨検監督という読み分けです。人事の実務に詳しい解説者も、手紙が届いたらまず方式と日時を確認することが最初の一手だと述べています(イーリード株式会社・大橋武広氏の解説動画「調査対象になった場合の対処法」✓より)。方式が分かれば、当日どこで何を見られるのかが具体的にイメージできます。

申告監督の根拠となる労働基準法104条と是正勧告の関係

申告監督の法的な土台となるのが、労働基準法104条です。同条は、労働者が事業場の法令違反を労働基準監督官に申告できると定めています。つまり従業員には、正規の申告ルートが法律で保障されているわけです。

この申告を受けた監督官は、必要に応じて事業場を調べ、違反が見つかれば是正勧告へとつなげます。労働法に詳しい解説者も、104条が労働者の申告権を明文化している点を、申告監督を理解する起点として挙げています。経営者としては「誰かに密告されたのか」と身構えてしまいがちです。けれども、法律上のルートが使われたのだと冷静に捉える姿勢が、その後の対応を落ち着いたものにします。

呼び出し・調査で求められる準備書類リスト

調査で最初に確認されるのは、法律で備え付けが義務づけられた書類です。法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)を軸に、労働時間とルールを示す書類を揃えておけば、当日あわてることはありません。逆に、ここが欠けていると初動から印象を損ねてしまいます。

書類は「人」「時間」「ルール」の3カテゴリで整理すると抜け漏れが防げます。当日になって探し回ることのないよう、通知が届いた段階でリスト化しておくのがおすすめです。

準備書類は「人・時間・ルール」の3分類で整理
分類主な書類役割
労働者名簿/雇用契約書 誰を、どんな条件で雇っているのかを示す基本記録です。
時間 タイムカード/36協定/賃金台帳 労働時間と残業の実態、その対価の支払い状況を裏づけます。
ルール 就業規則/賃金規程 会社の運用ルールを文書化し、実態と一致しているかを示します。

法定三帳簿(労働者名簿・賃金台帳・出勤簿)

最初に求められるのが、法定三帳簿と呼ばれる基本書類です。法定三帳簿とは、労働基準法で備え付けが義務づけられた労働者名簿・賃金台帳・出勤簿の3つを指します。会社の労務管理の土台となる記録であり、調査ではほぼ確実に確認されます。

労働者名簿には氏名や生年月日、雇入れ年月日などを記載します。賃金台帳には賃金の計算根拠を、出勤簿には日々の勤務実績を残します。3つの記録が互いに矛盾なくつながっていることが大切です。たとえば賃金台帳の残業代と、出勤簿の残業時間が食い違っていれば、そこを突かれます。整合のチェックまで含めて、ひとそろいで準備しておきたい書類です。

労働時間関連(タイムカード・36協定・時間外労働の記録)

申告監督でとりわけ厳しく見られるのが、労働時間に関する記録です。タイムカードや勤怠データ、36協定、時間外労働の記録がここに含まれます。36協定とは、法定労働時間を超えて働いてもらう場合に、労使で結んで労基署へ届け出る協定のことです。

この届出をしないまま残業をさせていれば、それ自体が法令違反です。実際、未払い残業の申告から調査に至るケースは少なくありません。タイムカードの打刻と実際の業務時間がかけ離れていないか、36協定の上限を超えた働き方になっていないか。平時の運用がそのまま問われる領域だと捉えていただくのが正確です。

ルールを示す書類(就業規則・賃金規程・労働条件通知書)

会社の運用ルールを示す書類も、調査の重要な確認対象です。就業規則は、常時10人以上を使用する事業場で作成と届出が義務づけられています。賃金規程や労働条件通知書とあわせて、働く条件を文書で明らかにする役割を担います。

ここで問われるのは、書類の存在だけではありません。就業規則に書かれた内容と、実際の運用が一致しているかどうかです。規程では支払うとされている手当が実際には支払われていない、といったずれがあれば指摘の対象になります。厚生労働省が公開するモデル就業規則◐を下敷きにしつつ、自社の実態に合っているかを社労士と確認しておくと安心です。

調査前に揃える書類チェックリスト
労働者名簿氏名・生年月日・雇入れ年月日などを記載
賃金台帳賃金の計算根拠を残す記録
出勤簿日々の勤務実績の記録
タイムカード打刻と実際の業務時間の整合を確認
36協定時間外労働をさせる場合の届出
就業規則常時10人以上の事業場で作成・届出が必要
賃金規程手当や計算方法のルール
労働条件通知書採用時に明示した労働条件
書類どうしの数字の整合性を確認出勤簿・賃金台帳・タイムカードの数字が一致しているか
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通知が来てから当日までの準備5ステップ

限られた日数で迷わないために、準備は順番が肝心です。「通知書の確認 → 自己点検 → 書類の整合チェック → 担当者の決定 → 専門家への相談」という5ステップで進めると、抜けなく備えが整います。最初に全体像をつかめば、何から手をつけるかで悩まずに済みます。

順番を誤ると、書類は揃っていても説明が噛み合わず、かえって疑念を招きかねません。経営者がたどるべき準備の流れを、5段階で具体的に見ていきましょう。

通知から当日までの準備5ステップ
1

通知書の確認

調査の種類・対象期間・日時を読み解く

2

自己点検

残業・休憩・賃金の弱点を先回りで洗い出す

3

整合チェック

書類どうしの数字の食い違いを確認

4

担当者の決定

当日の回答役と説明の役割を分ける

5

専門家へ相談

論点が複雑なら社労士・弁護士へ事前相談

Step1:通知書で調査の種類・対象期間・日時を確認する

最初のステップは、通知書の読み込みです。ここで目を通したいのは、調査の種類、対象となる期間、そして来署または訪問の日時の3点。種類が分かれば論点が絞れ、対象期間が分かれば準備する記録の範囲が定まります。

私自身、経営者の方の相談に同席してきた経験から申し上げると、通知書を流し読みしたまま当日を迎えてしまう例が驚くほど多いと感じています。日付や持参書類の指定を見落とすと、その時点で準備の前提が崩れます。封筒を開けたら、まず落ち着いて通知書の隅々まで目を通すこと。すべての準備は、ここから始まります。

Step2:指摘されそうな点の自己点検をする(残業・休憩・賃金)

次に行うのが、自社の弱点を先回りして洗い出す自己点検です。とくに残業代の支払い、休憩時間の確保、最低賃金の遵守は、申告監督で指摘されやすい三大論点といえます。痛いところを自分で先に把握しておけば、当日の質問にも動じずに答えられます。

たとえば固定残業代を導入している会社なら、実際の残業時間が想定の範囲に収まっているかを点検します。休憩を取れていない実態がないか、パート従業員の時給が改定後の最低賃金を下回っていないか。指摘されてから慌てるのではなく、自ら気づいて改善に動く姿勢こそが、監督官からの信頼を育てていきます。

Step3:書類どうしの数字の整合性をチェックする

3つ目のステップは、書類間の数字を突き合わせる整合チェックです。出勤簿の労働時間、賃金台帳の支給額、タイムカードの打刻が、互いに矛盾なくつながっているかを確認します。書類が単体で揃っているだけでは、まだ不十分です。

数字の食い違いは、監督官が最も注目する手がかりのひとつです。たとえば出勤簿では残業が記録されているのに、賃金台帳に残業代の支給がなければ、未払いを疑われます。複数の書類を横に並べ、同じ事実が同じ数字で表れているか。この地道な照合が、当日の説明を一本筋の通ったものにしてくれます。

Step4:当日の回答担当者と説明の役割を決める

4つ目は、当日の体制づくりです。誰が監督官に対応し、どの質問に誰が答えるのかを、事前に決めておきます。経営者が一人で抱え込むより、労務に詳しい担当者と役割を分けておくほうが、落ち着いた対応を生みます。

ここで意識したいのは、分からないことを無理に取り繕わない姿勢です。即答できない質問には「確認して後日ご回答します」と伝えれば問題ありません。あいまいな記憶で答えて事実と食い違うほうが、かえって不信を招きます。誰が何を話すかを整理しておくだけで、当日の緊張はぐっと和らぎます。

Step5:論点が複雑なら社労士・弁護士に事前相談する

最後のステップは、専門家への事前相談です。論点が込み入っている、あるいは過去に労務トラブルを抱えている場合は、社労士や弁護士へ早めに相談しておくと安心でしょう。当日の立ち会いを頼める場合もあるのです。

専門家に相談する最大の利点は、自社では気づけない論点を客観的に洗い出してもらえる点にあります。準備の優先順位づけも、ぐっと的確になっていきます。私自身、相談の場に同席して「そこは論点になりますよ」と専門家が先回りする瞬間を、幾度となく見てきました。費用を理由に相談を後回しにした結果、是正勧告の対応で何倍もの労力がかかった、というお話も少なくありません。人事労務・コンプライアンス関連の記事一覧もあわせてご覧いただくと、平時からの備えのヒントが見えてくるはずです。

中小企業がやりがちな「NGな準備」と3つのリスク

焦った経営者ほど、やってはいけない方向に準備を進めてしまいがちです。書類の改ざん、虚偽の説明、調査の拒否は、行政指導で済むはずの話を刑事リスクに変える3大NG。準備の段階で、ここだけは線引きを誤らないでいただきたい点です。

善意のつもりの一手が、状況を一気に悪化させることがあります。なぜこれらがハイリスクなのかを、具体的に押さえておきましょう。

準備でやってはいけない3つのNG対応
NG 1

× 書類の後付け・改ざん

虚偽として書類送検の引き金に

NG 2

× 事実と異なる虚偽の説明

信用を失い調査が長期化

NG 3

× 調査の拒否・妨害

正当な理由なき拒否は罰則の対象

日程が合わないときは拒否せず、監督官へ連絡して日程変更を相談しましょう

書類の後付け・改ざんは厳禁(虚偽は書類送検の引き金)

最もやってはいけないのが、書類の後付けや改ざんです。揃っていない書類を慌てて作り直したり、不利な記録を書き換えたりする行為は、虚偽として極めて重いリスクを負います。揃っていないなら、正直に現状を伝えるほうがはるかに安全です。

監督官は多くの事業場を見てきた専門家であり、後から作られた書類の不自然さを見抜きます。社労士の解説でも、調査対応を誤れば書類送検や社名公表に至る可能性があると指摘されています(あそう社労士の解説動画「労働基準監督署の調査の注意点」✓より)。一時しのぎの改ざんが、会社の信用を根こそぎ失わせる引き金になりかねません。

立入調査の拒否・妨害には罰則がある

次に避けたいのが、立入調査の拒否や妨害です。労働基準監督官には法律に基づく臨検の権限があり、正当な理由のない拒否や妨害には罰則が定められています。「都合が悪いから断る」という対応は、状況をさらに悪化させてしまいます。

社労士の解説動画でも、立入調査を拒否した場合のリスクが具体的に取り上げられています(解決社労士の解説「立入調査を拒否したらどうなるか」✓より)。日程の都合がつかないのであれば、拒否するのではなく、監督官へ連絡して日程変更を相談するのが正しい対応です。誠実に向き合う姿勢そのものが、その後の評価を左右します。

「調査企業の7割以上が是正対象」という指摘が示す現実

ここで知っておきたいのが、調査を受けた企業の多くが何らかの是正を求められているという現実です。社労士の解説では、調査した企業の7割以上が違法状態にあったという指摘も紹介されています。これは決して脅しではなく、労務管理の難しさを物語る数字といえます。

裏を返せば、指摘を受けること自体は珍しくないということ。大切なのは、指摘されたときに誠実かつ冷静に対応できるかどうかです。多くの企業様が同じ課題を抱えているからこそ、隠すより向き合うほうが結果として傷が浅く済みます。法務・リスクマネジメント関連の記事も、平時の備えの参考になさってみてくださいね。

是正勧告書が出た後にやるべき対応

調査はゴールではなく、むしろここからが本番です。是正勧告書を受け取ったら、指摘された違反を期限内に改善し、是正報告書にまとめて提出するのが基本の流れになります。受け取った書面の種類を取り違えると、対応の優先順位を誤って損をしかねません。

書面には「是正勧告書」と「指導票」の2種類があり、性質が異なります。まずはどちらを受け取ったのかを正しく見極めることが、適切な初動につながります。

是正勧告書と指導票は性質が違う
是正勧告書

優先度:高い

法令違反に対して是正を求める文書です。期限内に改善し、是正報告書で報告する必要があります。

指導票

改善の余地への指導

法令違反とまではいえないものの、改善が望ましい事項を指導する文書です。

共通点 どちらも「是正報告書」の提出を求められる

「是正勧告書」と「指導票」の性質の違い

まず押さえたいのが、是正勧告書と指導票は性質が違うという点です。是正勧告書は法令違反に対して是正を求める文書であり、指導票は法令違反とまではいえないものの改善が望ましい事項を指導する文書です。どちらも是正報告書の提出を求められますが、対応の重みが異なります。

社労士の解説でも、両者を取り違えると優先順位を誤って損をすると注意が促されています(解決社労士の解説「是正勧告書と指導票の違い」✓より)。法令違反である是正勧告書のほうが、当然ながら優先度は高くなります。まずは受け取った書面の表題を確認し、どちらにどう答えるかを切り分けることから始めてください。

是正報告書の提出期限と書き方の基本

是正勧告書には、是正の期限が示されています。その期限までに改善を実施し、何をどう直したのかを是正報告書にまとめて提出します。報告書には、指摘された事項ごとに、具体的な改善内容と実施日を明記するのが基本です。

書き方で大切なのは、抽象的な決意表明ではなく、事実に基づく改善の記録を残すことです。たとえば未払い残業の指摘なら、対象者へいくらをいつ支払ったのかを具体的に書きます。再発防止のために運用をどう変えたのかまで添えると、誠実さが伝わります。形式に迷う場合は、管轄の労基署に書き方を確認しても差し支えありません。

期限内の改善が難しいときの相談先と進め方

指摘の内容によっては、期限内の完全な改善が難しいこともあります。そのときに最もやってはいけないのが、報告も連絡もせずに放置することです。実現の見通しと現在の進捗を、期限前に監督官へ伝えて相談する姿勢が求められます。

未払い賃金の精算に時間がかかる、就業規則の全面改定が必要といったケースでは、社労士や弁護士と段取りを組むのが現実的です。専門家が入れば、優先順位の整理と現実的なスケジュールづくりが進みます。誠実に対応している事実が伝われば、監督官も状況を踏まえた対応をしてくれます。人材・組織づくりカテゴリの記事も、再発を防ぐ体制づくりの一助になるはずです。

調査対応を「労務リスクを断つ仕組みづくり」につなげる

一度の調査を乗り切るだけでは、また同じ不安が巡ってきます。経営者の視点で見れば、調査は自社の労務管理を点検し直す機会でもあります。指摘を一過性で終わらせず、再発させない仕組みに落とし込むことが、本当のゴールです。

監督官からの指摘は、いわば外部からの無料の健康診断のようなもの。痛みを伴う指摘ほど、放置していた弱点を教えてくれます。ここからの取り組み方こそが、会社の地力を左右します。

調査対応を「再発させない仕組み」へ
取り組み 1

指摘を就業規則と運用に反映する

取り組み 2

勤怠と残業の記録を平時から残す

取り組み 3

外部専門家との関係を整えておく

3つを循環させて再発防止へ

指摘を一過性で終わらせず就業規則・運用に反映する

調査で得た学びは、就業規則と日々の運用に反映してこそ意味を持ちます。指摘された事項を修正するだけでなく、なぜそのずれが生まれたのかを掘り下げ、ルールと実態を一致させる作業に落とし込みます。書類だけ直して運用が元のままでは、同じ指摘を繰り返します。

たとえば残業代の計算方法に誤りがあったなら、計算ルールを規程に明記し、担当者間で共有します。一度の是正を、組織の標準に変えていく発想です。指摘を「片付ける」のではなく「組み込む」。この姿勢の差こそ、半年後の安心感へと育っていきます。

勤怠と残業の記録を平時から残す体制をつくる

再発防止の土台になるのが、平時からの記録づくりです。勤怠や残業の記録を日常的に正確に残しておけば、次に調査があっても慌てる必要はありません。記録は、いざというときに会社を守る最も確かな証拠になります。

人事の実務に詳しい解説者も、日々の記録の積み重ねが調査対応の明暗を分けると述べています。打刻の習慣化、残業申請のルール化、月次でのデータ確認といった地道な運用が効いてきます。特別な投資は要りません。当たり前の記録を、当たり前に残し続ける。その積み重ねが、最強の備えになります。

顧問社労士・外部専門家との関係を平時に整えておく

最後に大切なのが、平時からの専門家との関係づくりです。調査の通知が来てから慌てて探すより、日頃から相談できる社労士や弁護士とつながっておくほうが、いざというときの初動は見違えるほど速くなるはずです。自社の事情を知る専門家がいる安心感は、何ものにも代えがたいものです。

顧問契約まで結ばずとも、スポットで相談できる関係を築いておくだけでも違います。法改正の情報をいち早く受け取れる、就業規則の定期点検を依頼できるなど、平時の恩恵も少なくありません。経営者が本業に集中するためにも、労務の専門家を「困ったときの保険」として持っておく。それが、ご縁を大切にする経営の一つの形ではないでしょうか。

今日から着手できる5項目
指摘事項を就業規則と運用に反映するルールと実態のずれをそろえる
勤怠と残業の記録を平時から残す打刻と残業申請をルール化
月次でデータを確認する数字の食い違いを早期に発見
顧問社労士との相談ルートを整えるスポット相談でも効果あり
法改正情報の受け取り体制をつくる専門家経由で最新情報を把握
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よくある質問(FAQ)

Q1. 労基署からの呼び出しを欠席・無視するとどうなりますか?

正当な理由のない出頭拒否や立入調査の妨害には、労働基準法上の罰則が定められています。日程の都合がつかない場合は無断で欠席せず、事前に担当の監督官へ連絡し、日程変更を相談してください。誠実に対応する姿勢そのものが、その後の評価にも影響します。

Q2. 調査までに書類が揃わない場合はどうすればよいですか?

不足分を慌てて作り直すより、現状を正直に伝えるほうが安全です。書類の後付けや改ざんは虚偽として重いリスクになります。揃っていない理由と、いつまでに整備するかの見通しを説明できるよう準備しておきましょう。判断に迷う場合は社労士へ相談するのが確実です。

Q3. 呼び出し(呼出調査)と立入調査(臨検)の違いは何ですか?

呼出調査は、必要書類を持って労基署へ出向き説明する方式です。臨検監督は監督官が事業場に立ち入り、現場や帳簿を直接確認します。通知書にどちらの方式かが示されますので、まずそこを確認し、求められた書類と場所に合わせて準備を進めてください。

Q4. 是正勧告書を受け取ったら、いつまでに何をすればよいですか?

是正勧告書には是正の期限が示されます。期限内に改善を実施し、その内容を是正報告書にまとめて提出します。期限内の完了が難しい場合は、放置せず監督官に進捗と見通しを報告して相談してください。指導票とは性質が異なるため、書面の種類を確認したうえで優先順位をつけることが大切です。

Q5. 従業員の申告がきっかけのようですが、誰が申告したか調べてもよいですか?

申告者を特定しようとする行為は避けてください。労働基準法は労働者の申告権を保障しており、申告を理由とする不利益な取り扱いは禁じられています。犯人探しに労力を割くより、指摘された事実そのものに目を向け、改善に集中するほうが建設的です。

Q6. 社労士や弁護士に立ち会いを依頼することはできますか?

可能です。論点が複雑な場合や過去に労務トラブルを抱えている場合は、事前相談に加えて当日の立ち会いを依頼するケースもあります。専門家が同席することで、回答の整理や後日の対応がスムーズになります。費用面も含め、早めに相談しておくと安心です。

調査・呼び出しのFAQ 6つの要点
Q1呼び出しの無視

正当な理由なき欠席は罰則の対象。日程は事前に相談を。

Q2書類が揃わない

改ざんせず正直に伝える。整備の見通しを説明できるように。

Q3呼出と臨検の違い

呼出は来署して説明、臨検は事業場へ立入。通知書で確認を。

Q4是正勧告書が出たら

期限内に改善し是正報告書を提出。難しければ早めに相談を。

Q5申告者の特定

犯人探しは避ける。指摘された事実の改善に集中する。

Q6専門家の立ち会い

依頼可能。論点が複雑なら同席で対応がスムーズに。


調査の通知が届いたときの不安は、経験した方にしか分からない重さがあります。それでも、一つひとつ準備を進めていけば、きっと落ち着いて当日を迎えられます。お話を伺うなかで、指摘を真摯に受け止め、自社の仕組みを磨き直していく経営者の方々の姿に、編集部は何度も胸を打たれてきました。

労務管理は、会社で働く一人ひとりとの信頼を形にする営みでもあります。今回の備えが、その信頼をより確かなものにする一歩となれば、これほど嬉しいことはありません。困ったときは、どうか一人で抱え込まず、信頼できる専門家や仲間を頼ってくださいね。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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