
「同情では買わせない」社会性と収益性を両立させる商品づくり
「社会貢献にもなる事業をやりたい。でも、きれいごとだけでは食べていけない」。そんな葛藤を抱える経営者は少なくありません。結論からお伝えします。社会性と収益性は、二者択一ではありません。両立の鍵は、社会性を「割引の理由」ではなく「選ばれる理由」に変えることにあります。
ソーシャルビジネスの収益化でつまずく多くのケースは、「社会貢献だから応援して」という、同情に頼ってしまう点にあります。本記事では、その落とし穴と、本業の商品力で選ばれるための設計を整理します。差別化・値付け・人材活用の三つの視点から、一人のお菓子屋さんの実践を手がかりに読み解きます。
「社会貢献だから買ってください」が事業を弱くする理由
社会貢献を「買う理由」にした瞬間、事業は弱くなります。同情や付き合いで一度は買ってもらえても、それは次の一歩を支える力にならないからです。まず、この落とし穴を直視しましょう。
多くの社会的事業が、ここでつまずきます。志は立派でも、収益が続かない。その背景には、「意義」を語るほど「品質」で選ばれる道から離れてしまう、という構造が横たわっているのです。
お客様は「社会性」ではなく「おいしさ」で選ぶ
△ 手に取る理由は、味と質
同情や応援ではなく、商品そのものの価値で選ばれる。
その状態をつくることが、収益化の出発点になる。
社会性を「買う理由」にすると価格競争から抜けられない
社会性を前面に出した訴求は、短期的には効くこともあるでしょう。しかし、それは価格競争と同じ構造に陥りがちです。「応援」で買う人は、より安い応援先が現れれば、そちらへ移っていきます。
なぜでしょうか。それは、商品そのものの価値で選ばれていないからです。「応援」は、品質への評価とは別の動機です。動機が同情である限り、リピートや紹介は生まれにくく、値上げの余地もありません。
例えば、同じ価格で味の良い競合が現れたとします。同情で買っていた顧客は、簡単にそちらへ流れます。土台が「意義」だけだと、事業は驚くほどもろいのです。だからこそ、まず商品の力で選ばれる状態をつくる必要があります。
同情で積み上げた売上はプライドも資産も残さない
同情で得た売上には、もう一つの落とし穴が潜みます。作り手のプライドも、事業の資産も積み上がらない、という点です。
「かわいそうだから買った」と言われて、心から嬉しい作り手はいません。技術を磨いても、それが評価されていないと感じれば、成長の意欲は削がれます。売上の数字は残っても、誇りと実力は残らないのです。
これは、働く人の定着にも直結します。自分の仕事が同情の対象として扱われる職場に、人は長くは留まりません。持続する事業をつくるなら、同情ではなく、実力で選ばれる土台が欠かせません。
「同情で売るモデル」と「商品力で選ばれるモデル」。両者が事業にもたらす違いを、3つの観点で整理しました。自社がどちらに近いか、点検の材料にしてください。
「情けで買われたくない」お菓子屋ジューヴル池添さんの覚悟
社会性と収益性の両立を、行動で示す経営者がいます。北海道でグルテンフリー菓子ブランドを営む、株式会社ジューヴルの池添幸子さんです。就労継続支援の事業を営みながら、「福祉だから買って」とは決して言いません。
ここからは、コントリが行った取材の一次情報をもとにお伝えします。福祉とビジネスの間で揺れがちなテーマに、池添さんは明確な一線を引いています。その覚悟には、多くの経営者が学べる普遍性が宿っているといえます。
「付き合いや情けで買ってもらいたくない」という一線
池添さんは、自分が作り手ならと考えたうえで、こう語っておられます。「付き合いや情けで買ってもらいたくない。それでは、自分のプライドは積み上がらないから」。
この言葉には、事業の本質が凝縮されています。福祉施設という立場に甘えれば、同情による売上は得やすいでしょう。しかし池添さんは、その安易な道を選びません。おいしいから選ばれたい。その一点に、お菓子屋としてのプライドを賭けています。
私がこの取材記事を読んで感じたのは、これは福祉に限らないという点です。補助金や人脈、立場。何かに寄りかかって売上をつくる誘惑は、どんな事業にも存在します。その誘惑を断ち、実力で勝負する。池添さんの一線は、すべての経営者への問いかけでもあります。詳しくは株式会社ジューヴル池添幸子さんの取材記事で語られています。
プライドが積み上がる売り方を選ぶ
なぜ、あえて難しい道を選ぶのでしょうか。それは、プライドが積み上がる売り方でなければ、人も事業も育たないと知っているからです。
情けで買われた実績は、砂上の楼閣です。一方、品質で選ばれた実績は、確かな自信となって作り手に蓄積されます。一つひとつの「おいしい」が、技術者としての誇りを育てるのです。その誇りこそ、次の挑戦への原動力です。
売り方は、単なる販売手法ではありません。そこで働く人の尊厳と、事業の未来を決める選択です。池添さんの覚悟は、この本質を鮮やかに映し出しています。
社会性を「選ばれる理由」に変える3つの設計
社会性は、割引の口実ではなく、選ばれる理由に変えられます。差別化・値付け・人材活用という三つの設計で、社会的意義と収益性を同じ方向へそろえていきます。
一つずつ見ていきましょう。いずれも、特別な資源がなくても、発想の転換から始められるものばかりです。
社会性を「選ばれる理由」に変える3つの設計
差別化
「ただの商品では勝てない」を前提に、独自の価値を立てる。
値付け
社会性を理由に安売りせず、価値に見合う価格を提示する。
人材活用
「それしかできない」を「それができる」と捉え、強みを活かす。
差別化 ただの商品では勝てない前提で設計する
第一の設計は、差別化です。池添さんは「ただのお菓子屋さんでは競合に勝てない」と判断しました。この前提から出発した点に、戦略の核が見えます。
そこで選んだのが、グルテンフリーという領域です。小麦を使わない菓子は、健康志向やアレルギーへの配慮という明確な価値を持ちます。さらに、地域の米の産地性を活かした米粉エクレアが、看板商品へと育ちました。社会性の前に、まず商品としての独自性を立てる。この順番が肝心です。
大切なのは、社会性を差別化の「言い訳」にしないことです。あくまで商品そのものが選ばれる理由を持ち、その上に社会的意義が重なる。この構造なら、社会性は強みとして働きます。
値付け 社会性を理由に安売りしない
第二の設計は、値付けです。社会的事業ほど「利益を乗せてはいけない」と考えがちですが、これは危険な発想です。安売りは、事業の持続性を静かに蝕みます。
適正な価格は、品質への正当な対価です。そして、働く人へ還元される大切な原資でもあるのです。安く売ることは、優しさではなく、事業と人材への負担になりかねません。社会性を理由に価格を下げるのではなく、価値に見合う価格を堂々と提示する姿勢が求められます。
もちろん、価格に見合う品質が前提です。だからこそ、第一の差別化とセットで考える必要があります。独自の価値があるから、正当な価格をつけられる。この一貫性が、収益性を支えます。
人材活用 「それしかできない」を「それができる」に変える
第三の設計は、人材活用です。ここに、社会性と収益性を両立させる最大のヒントがひそんでいるのです。鍵は、価値の定義をし直すことです。
池添さんの現場には、グラス磨きに特化したスタッフがいます。その捉え方が印象的です。「それしかできないからダメ、ではなく、それができるという価値を見いだす」。できないことを数えるのではなく、できることの価値を最大化する。この発想の転換が、一人ひとりを戦力に変えます。
これは、障がい者雇用に限った話ではありません。すべての人材マネジメントに通じる視点です。弱みの矯正に費やす労力を、強みの活用へ振り向ける。そのほうが、本人の力も事業の成果も、はるかに伸びていきます。
社会性と収益性の両立度セルフチェック
○が多いほど商品力で選ばれる事業、×が多いほど同情に頼る事業
×が付いた項目こそ、商品力を磨き直す入り口です
障がい者雇用を「戦力」に変える価値の定義
障がい者雇用は、コストでも慈善でもありません。価値の定義をし直すことで、確かな戦力になるのです。池添さんの現場には、その具体的なヒントが息づいています。
法定雇用率の引き上げが進むいま、この視点はいっそう重みを持ちます。義務として消極的に受け止めるのか、戦力として積極的に活かすのか。その差が、事業の成果を分けていきます。
障がい者雇用を、どう捉えるか
できないことを数える
義務だから仕方なく雇用する
苦手の矯正に労力を費やす
戦力にならないと決めつける
できることの価値を最大化する
強みが活きる仕事を設計する
一点特化で高い品質を生む
貢献に上下はないと捉える
価値の定義をし直せば、一人ひとりが戦力になる
グラス磨きに特化したスタッフが生む価値
一つの作業に特化することは、弱みではなく強みになりえます。グラス磨きに特化したスタッフは、その道においては誰にも負けない品質を生み出します。
一般的な職場では、あれもこれもできる人が評価されがちです。しかし、一点を極める力もまた、確かな価値です。特化は、質の高さと引き換えに得られる強みと捉えられます。求められるのは、その強みが活きる仕事を、経営者が設計することです。
適材適所とは、まさにこのことです。人を仕事に合わせるのではなく、その人の強みが最も光る場所を用意する。この設計ができる組織は、多様な人材を戦力に変えていきます。
機械カットとパティシエの仕事を同一価値と捉える発想
池添さんの価値観を象徴するのが、仕事の価値づけです。ホールケーキをナイフできれいに切るパティシエの仕事と、機械でカットする人の仕事。この二つを、同じ価値と捉えています。
一見、技術の差があるように見えます。しかし、どちらも完成品を届けるために欠かせない工程です。役割が違うだけで、貢献の価値に上下はない。この考え方こそ、多様な人が対等に働ける土台を生みます。
価値の定義を、経営者がどう置くか。それによって、同じ仕事が「価値の低い作業」にも「不可欠な貢献」にもなります。人を戦力に変える第一歩は、この定義の見直しから始まります。こうした価値観の詳細は、池添幸子さんの取材記事に丁寧に語られています。
10年後の「脱福祉」ビジョンに学ぶ、事業の伸ばし方
池添さんが掲げるのは、「脱福祉」というビジョンです。支援する側とされる側の関係を超え、対等な仲間として事業を伸ばす。その視座に、社会性と収益性を両立させる本質があります。
これは遠い理想ではなく、日々の商品づくりと地続きの目標です。おいしさで選ばれる実績が、働く人の自立と誇りを支え、やがて対等な関係へとつながっていきます。
「支援する関係」から「対等な仲間」へ
就労継続支援
支援する側とされる側。まずは技術と誇りを育てる土台をつくる。
雇用契約への転換
利用者ではなく、給与を得て働く一員へ。関係性を組み替える。
脱福祉というビジョン
「一緒に働く仲間」として、対等に事業を担い合う姿を目指す。
利用者ではなく「一緒に働く仲間」へ
池添さんは、就労継続支援から雇用契約への転換を見据えています。その想いを、こう語っておられます。「利用者さんじゃなくて、一緒に働く仲間になりたい。好きだから、ですかね。みんなのことが」。
この言葉にこそ、脱福祉の核心が宿ります。支援の対象としてではなく、事業を共に担う仲間として向き合う。関係性の再定義が、人の可能性を最大限に引き出すのです。同情ではなく、対等な信頼。そこにこそ、持続する事業の土台があります。
経営者にとって、これは大きな問いを投げかけます。自社の働き手を、どんな関係で捉えているか。コストか、戦力か、仲間か。その捉え方が、組織の伸びしろを決めていきます。
社会性と収益性は二者択一ではない
ここまで見てきたように、社会性と収益性は対立しません。むしろ、正しく設計すれば、互いを支え合います。
おいしいから選ばれる。選ばれるから、働く人に誇りと対価が還元される。誇りが技術を高め、さらに選ばれる商品が生まれる。品質を軸にした好循環が、社会性と収益性を同時に育てるのです。同情に頼る事業には、この循環は生まれません。
拡大期に理念が揺らぐ場面もあるでしょう。組織づくりの視点は、「『くれない族』が組織を蝕む理由|拡大期の理念再浸透の一手」でも詳しく取り上げています。あわせてご覧いただくと、社会性を貫く経営の全体像が見えてきます。
よくある質問
ソーシャルビジネスで収益を上げるのは難しいのではないですか?
社会性を「割引の理由」にすると難しくなります。逆に、本業の商品やサービスの質で選ばれる設計にすれば、社会性はむしろ選ばれる理由になります。同情に頼らない商品力づくりが、収益化の出発点です。
「社会貢献だから応援して」という訴求は、なぜ弱いのですか?
同情や付き合いで一度は買ってもらえても、リピートや紹介につながりにくいためです。また、価格競争から抜け出せず、作り手のプライドや技術も積み上がりません。持続的な事業には、品質そのもので選ばれる状態が欠かせません。
障がい者雇用は、本当に戦力になりますか?
価値の定義をし直すことで戦力になります。「これしかできない」ではなく「これができる」と捉え、その強みが活きる仕事を設計する発想が鍵です。一つの作業に特化することで、高い品質を生む例もあります。
社会性と収益性は、どちらかを犠牲にするしかないのですか?
二者択一ではありません。社会性を事業の差別化や商品力に組み込めば、両者は同じ方向を向きます。むしろ社会的意義が、他社にはない独自の価値として収益性を支えることもあります。
社会的な事業でも、しっかり利益を乗せてよいのですか?
問題ありません。適正な価格は品質への正当な対価であり、働く人へ還元される原資でもあるのです。安売りは優しさに見えて、事業の持続性と人材の待遇を損ないます。価値に見合う価格を堂々と提示する姿勢が大切です。
まず何から始めればよいですか?
「社会性を抜きにしても、この商品は選ばれるか」を自問することから始めるとよいでしょう。答えがノーなら、商品やサービスそのものの磨き込みが先です。社会性は、その確かな土台の上で初めて、強みとして働きます。
取材を通じて池添さんのお話に触れ、背筋が伸びる思いがしました。同情ではなく、おいしさで選ばれたい。その覚悟は、社会性を掲げるすべての事業への、静かな激励のように感じます。
きれいごとと収益は、対立するものではありません。むしろ、品質という一本の芯を通したとき、両者は同じ方向を向きます。あなたの事業が大切にする想いも、確かな商品力に支えられて、より遠くまで届いていきますように。

