
経営者たちは、示し合わせずに同じ本を選んでいた|コントリ取材先65人の“おすすめ本”
コントリの経営者インタビューで伺ったヒアリングシートには、「おすすめ本」の欄があります。この欄の回答を集計したところ、65件が集まりました。経営理念を説く古典から自己啓発書、小説、そして漫画まで、ジャンルは幅広く分かれています。
集計の中で見えてきたのが、同じ本を挙げた経営者が複数いたという事実です。「経営者は人生理念づくりからはじめなさい」(青木仁志)は3社が挙げており、ほかにも2〜3社が重複して挙げた本がいくつか見つかりました。業種も規模も異なる会社が、同じ一冊にたどり着いています。この記事では、65件をテーマ別に整理して紹介します。複数回登場した本や、漫画のような意外な一冊もあわせて取り上げます。
経営者の「おすすめ本」65冊は、テーマで見るとどう分かれるか
65件の回答をテーマで分類すると、大きく5つに分かれます。人としての生き方を説く経営哲学書、経営理念やパーパスを言語化する本の2つです。加えて、自己啓発・マインドセット書、実務に役立つビジネス理論書、小説やエッセイが続きます。
いずれか1つのジャンルに極端に偏ることはありませんでした。経営者ごとに、読む本の種類はさまざまです。ただし、経営哲学・人格書に分類される回答が最も多く、次いで自己啓発・マインドセット書が続きます。業務知識を学ぶ本よりも、判断のよりどころとなる本を選ぶ傾向がうかがえます。
複数の経営者が挙げた本 ─ 業種を超えて重なった一冊
65件のうち、同じ書名を挙げた経営者が複数いるケースがありました。回答全体の1割近くにあたる数字です。集計するまでは、誰も気づいていませんでした。
取材先が重なっているわけではありません。それぞれ別の機会に取材した会社の回答を、あとから集計して初めて重なりに気づきました。事前に示し合わせることのできない状況で、複数の経営者が同じ一冊にたどり着いていたことになります。業種や規模がまったく異なる会社同士でも、選ぶ本が重なることがあるのです。ここでは3社が挙げた2冊と、2社ずつが挙げた本を紹介します。
経営者は人生理念づくりからはじめなさい(青木仁志)─ 3社が挙げた一冊
自身の人生理念を言語化することを説く「経営者は人生理念づくりからはじめなさい」(青木仁志)を挙げた経営者は3名います。ESS株式会社の坪井里奈さん、株式会社GIVETHEWORLDの遠藤大輔さん、株式会社フジカンパニーの大塚拓真さんです。
3社に共通しているのは、事業を拡大させている途中にあるという点でした。坪井さんは全国77店舗まで事業を広げた経緯を、インタビューで語っています。売上や組織の規模が変わっていく局面では、判断の軸となる理念に立ち返る必要が出てきます。3人が同じ本を選んでいた背景には、そうした共通の局面がありました。
そのほかにも重なりがあった本
「万人幸福の栞」(丸山敏雄)を挙げたのはSOCブルーイング株式会社の坂口典正さん、植木鋼材株式会社の植木揚子さん、北一ミート株式会社の田村健一さんの3名です。植木鋼材の回答では、鍵山秀三郎さんの「一日一話」と並べて挙げられていました。
2社が挙げた本は、ほかにも複数見つかりました。「チーズはどこへ消えた」(スペンサー・ジョンソン)を挙げたのはAULIT合同会社の森川香純さんです。同じ本を株式会社日東物流の菅原拓也さんも挙げていました。変化への向き合い方を寓話で説くこの本は、業種を問わず読まれています。
神田昌典さんの「成功者の告白」を挙げたのは株式会社アクティブアンドカンパニーの大野順也さんです。同じ本を株式会社トークナビの樋田かおりさんも挙げています。水野敬也さんの「夢を叶えるゾウ」を挙げたのは株式会社MAJOLIの横幕真理さんでした。同じ本を株式会社コペンフラップの堀之内千恵さんも挙げています。
著者単位で見ると、重なりはさらに広がります。ひすいこたろうさんの著書を挙げた経営者は2名いました。for your smile合同会社の道念祐子さんは「明日死ぬかもよ」を挙げています。ロチャンティー・ジャパン株式会社の指田千歳さんは「今日、誰のために生きる?」を挙げていました。
渋沢栄一さんの著書も2社から挙がりました。株式会社Red Bearの熊瀬哲正さんは「論語と算盤」を挙げています。株式会社ダイマツウの平松朋弥さんは「渋沢栄一 一日一訓」を挙げていました。
テーマ別に見る、経営者たちの選書
ここからは、65件をテーマ別に分けて紹介します。分類は次の5つです。読みながら気になる会社を見つけてみてください。
経営哲学、経営理念、自己啓発、ビジネス理論、小説・エッセイの5つに分けました。前章で紹介した本と重なるテーマもありますが、それぞれで印象的だった回答を中心に取り上げます。会社によって選ぶ本のジャンルは異なり、複数のジャンルにまたがる回答も少なくありませんでした。ジャンルの幅広さそのものが、経営者の関心の広さを表しているといえます。1つの正解に集約されない点も、今回の集計の特徴です。
経営哲学・人としての生き方を説く本
古典や思想書から、人としての生き方や判断の軸を学んだという回答が多く見られました。稲盛和夫さんの「生き方」を挙げたのは、株式会社平沢商会の平澤宏光さんです。65年続く会社の四代目として、黒字が大きく落ち込んだ局面でこの本に立ち返ったと語っています。
新渡戸稲造さんの「武士道」を挙げたのは株式会社流義の岩城博之さんでした。渋沢栄一さんと童門冬二さんの著作をあわせて挙げたのは株式会社タカインフォテクノの松本信一さんです。松本さんは、小山昇さんの「経営の見える化」もあわせて挙げています。
守屋洋さん・安岡正篤さん・苫米地英人さんによる中国古典の解説書を挙げたのは、行政書士岡田俊介事務所の岡田俊介さんでした。行動と結果の関係を説く「原因と結果の法則」(ジェームズ・アレン)を挙げたのは、株式会社HABILISの池畑健太さんです。
生き方
著者 稲盛和夫
武士道
著者 新渡戸稲造
渋沢栄一・童門冬二の著作
経営の見える化 ほか
中国古典の解説書
著者 守屋洋・安岡正篤・苫米地英人
原因と結果の法則
著者 ジェームズ・アレン
経営理念・パーパスを言語化する本
自社の理念や存在意義を言語化するための本を挙げる回答も目立ちました。「経営者は人生理念づくりからはじめなさい」は前章で紹介した3社に加えて登場しています。ジム・コリンズさんの「ビジョナリー・カンパニー2」を挙げたのは株式会社フーバーブレインの輿水英行さんでした。
見城徹さんの「たった一人の熱狂」を挙げたのは株式会社NEXT ONEの斉藤徹さんでした。斉藤さんは、1ヶ月で8.5億円の損失を経験したのちに、債務超過から立て直した経緯を語る一人です。理念に立ち返る本を選んだ背景には、経営の危機を経験した実感があります。株式会社K-Dream1の中井克治さんは「マスタープログラム」を挙げていました。
自己啓発・マインドセットを鍛える本
前章の「チーズはどこへ消えた」に加え、自己啓発書を挙げる回答も多く集まりました。本田健さんの「ユダヤ人大富豪の教え」を挙げたのは株式会社Bewinの河村勝就さんです。ナポレオン・ヒルさんの「巨富を築く思考法」を挙げたのは株式会社ENXIAの乾雅詞さんでした。
やなせたかしさんの「明日をひらく言葉」を挙げたのは美鶴ヒューマンラボ株式会社の上田亜希子さんです。吉岡秀人さんの「救う力」を挙げたのはWELL ROOM株式会社の下田拓海さんの一冊です。
ドリー・クラークさんの「ロングゲーム」を挙げたのは株式会社VILADYの岩崎優貴乃さんです。岡本太郎さんの「自分の中に毒を持て」を挙げたのは株式会社Livelyの岡えりさんでした。長く成果を積み上げる視点と、自分と向き合う視点の両方が、このテーマには含まれています。
ユダヤ人大富豪の教え
著者 本田健
巨富を築く思考法
著者 ナポレオン・ヒル
明日をひらく言葉
著者 やなせたかし
救う力
著者 吉岡秀人
ロングゲーム
著者 ドリー・クラーク
自分の中に毒を持て
著者 岡本太郎
実務に効くビジネス理論・組織づくりの本
マーケティングや組織論など、実務に直結する専門書を挙げる回答も多くありました。水野学さんの「センスは知識からはじまる」を挙げたのは株式会社磯田オートの登坂耕也さんです。佐藤義典さんの「白いネコは何をくれた?」を挙げたのは株式会社バランス&チューニングの秋谷光輝さんでした。
ターリ・シャーロットさんの「事実はなぜ人の意見を変えられないのか」を挙げたのは株式会社ENVYの宮津駿さんです。鷲田清一さんの著作ほか5冊を挙げたのは株式会社土屋の高浜敏之さんの一冊です。
経沢香保子さんの著書を挙げたのは株式会社マルラニの高橋真希さんです。山本有三さんの「路傍の石」ほかを挙げたのは株式会社FeelWorksの前川孝雄さんの一冊でした。
組織マネジメントの実務書を挙げたのはJOBs Japan株式会社の村元康太郎さんです。フロントオフィス設計の専門書を挙げたのは株式会社IT経営ワークスの本間卓哉さんでした。デザイン関連の書籍を挙げたのは株式会社ブランド高知の中島匠一さんです。専門分野は異なっても、自社の実務に直結する一冊を選ぶ姿勢は共通しています。
小説・エッセイから経営を学ぶ
物語を通して経営や生き方を学んだという回答もありました。村上龍さんの「希望の国のエクソダス」を挙げたのは株式会社丸菱製作所の戸松裕登さんです。吉野源三郎さんの「君たちはどう生きるか」を月刊誌「致知」とあわせて挙げたのは第二の実家合同会社の吉村伸子さんでした。
小説やエッセイは、経営の教科書というより、判断に迷ったときに立ち返る物差しとして読まれている様子がうかがえます。数字や手法を学ぶ本とは異なる役割を、経営者の読書は担っているようです。ビジネス書だけでなく物語からも学びを得ているという事実は、経営者の読書の幅広さを表しています。
「意外な一冊」─ ビジネス書ではない選書から見えるもの
65件の回答の中には、一般的な経営書のイメージから外れる本もありました。漫画や専門書、思想書といった選書です。ビジネス書の集計だけでは見えてこない側面が、ここに表れています。
ヒアリングシートには、選んだ理由まで記載されていない回答がほとんどでした。そのため、この記事では推測で理由を補うことはせず、実際に挙がった書名と回答者の事実のみを紹介します。理由が語られていないという事実そのものも、あわせてお伝えします。憶測で物語を作ることは、この記事の目的ではありません。
漫画を挙げた経営者たち
漫画を挙げた回答は2件ありました。「鬼滅の刃」(吾峠呼世晴)を挙げたのはアズウェル株式会社の鷹羽浩介さんです。
「キャンディ・キャンディ」を挙げたのは認定NPO法人Globe Jungleの森絵美子さんです。著者はいがらしゆみこさんと水木杏子さんでした。
両者とも、選んだ理由についてヒアリングシートに記載はありません。ビジネス書に限らず、幼少期から親しんできた作品や、心に残っている物語を挙げる経営者がいます。そうした経営者がいるということ自体が、今回の集計でわかった事実です。理由を憶測で補うより、この事実をそのまま受け止めたいと考えています。
専門書・思想書という意外な選書
漫画以外にも、一般的なビジネス書のジャンルから外れる回答が見つかりました。上野誠さんの「美しい日本語が話せる万葉ことば」を挙げたのは株式会社GINZA Fioreの鈴木一彌さんです。婚礼文化の研究を42年続けてきた鈴木さんらしい選書といえます。
バーチャル美少女ねむさんの「メタバース進化論」ほか複数を挙げたのは株式会社シアンの岩井隆浩さんの一冊です。
マイケル・サンデルさんの政治哲学書を挙げたのはLITEVIEW株式会社のLEE KUNWOOさんでした。書名は「Democracy’s Discontent」です。
農業と民主主義をテーマにした書籍を挙げたのは一般社団法人なないろの入澤繭子さんです。精神世界の書として知られる「奇跡のコース」を挙げたのは株式会社日本デザインの大坪拓摩さんでした。短歌を集めた「昭和万葉集」を挙げたのはツツミ産業株式会社の堤健児さんです。
いずれの回答も、選んだ理由の詳細までは語られていません。ただし、こうした選書が一定数あったこと自体から、経営者の読書がビジネス書だけに閉じていない傾向は読み取れます。
鬼滅の刃
漫画 吾峠呼世晴
キャンディ・キャンディ
漫画 いがらしゆみこ・水木杏子
美しい日本語が話せる万葉ことば
著者 上野誠
メタバース進化論 ほか複数
著者 バーチャル美少女ねむ
Democracy’s Discontent
著者 マイケル・サンデル
百姓は地球を救う ほか
農業と民主主義をテーマにした一冊
奇跡のコース 第1巻
著者 ヘレン・シャックマン
昭和万葉集
短歌を集めた一冊
よくある質問
この記事の「おすすめ本」データはどこから集めたのですか。
コントリが経営者インタビューの際にお願いしているヒアリングシートの「おすすめ本」欄の回答をもとにしています。回答のあった65件を集計・分類しました。
複数の経営者が挙げていた本はありますか。
「経営者は人生理念づくりからはじめなさい」(青木仁志)は3社の代表が挙げています。「万人幸福の栞」(丸山敏雄)も同じく3社でした。「チーズはどこへ消えた」「成功者の告白」「夢を叶えるゾウ」も2社ずつ挙がりました。
なぜ漫画を挙げる経営者がいるのですか。
ヒアリングシートには「鬼滅の刃」「キャンディ・キャンディ」を挙げた回答がありました。選んだ理由まで明記されていた回答は少なく、この記事では推測で理由を補わず、回答の事実のみをお伝えしています。
経営者が読む本には共通の傾向がありますか。
特定の1冊に集中してはいませんが、幅広いジャンルに分かれています。その中でも、人としての生き方や理念を説く本を選ぶ経営者が、比較的多く見られました。
取材先の経営者について、本以外にどんなことが分かりますか。
コントリでは経営者インタビュー記事を通じて、創業のきっかけや経営判断の背景を発信しています。気になる会社があれば、本文中のリンクから該当のインタビュー記事もご覧ください。
まとめ ─ 経営者たちの読書から見えてきたこと
65件を集計してわかったのは、経営者の読書に決まった正解はないということでした。
経営哲学の古典を選ぶ人もいれば、自己啓発書や小説、漫画を選ぶ人もいます。それでも、複数の経営者が同じ一冊に行き着いていました。「経営者は人生理念づくりからはじめなさい」はその代表例です。本の選び方よりも、自分の言葉で語れる一冊を持っている点に価値があります。
気になる本があれば、まず1冊手にとってみてください。本文中のリンクから各社のインタビュー記事もご覧いただくと、経営判断の背景まで知ることができます。
編集部は、業種も規模も異なる会社が同じ一冊を挙げていたことに、強く印象を受けました。示し合わせたわけではない複数の経営者が、それぞれ別の文脈で同じ本にたどり着く。その事実の重なりに、経営者インタビューを積み重ねてきたコントリだからこそ見えたものがあると感じています。

