
経営者の、あの一言。|経営者百景 Vol.4
経営者を動かすのは、いつも劇的な事件とは限らない。誰かがふと漏らした一言、一冊の本との出会い、若い頃に体で覚えた感覚——きっかけの形はさまざまでも、そこから先の景色は大きく変わる。
「経営者百景」は、コントリが118社以上の経営者に直接取材してきた中から、そんな決断の瞬間だけをテーマごとに集めて届ける連載企画。第4回のテーマも「あの一言」。3人の経営者の実話を、それぞれのインタビュー全文へのリンクとともに紹介する。
受け取った言葉を、本気で引き受けられるか
声で届いた言葉も、本の中で出会った言葉も、若い頃に体で覚えた感覚も——受け取った本人が本気で向き合わなければ、ただの記憶で終わっていたはずだ。3人は、それぞれの形でその言葉を引き受けた。
3人の経営者を動かした、あの一言。
「起きてほしくないことは、基本的に全部起きた」

アクセンチュア出身の松坂直樹氏が、コンサルタントから地方の設計事務所の経営者へと転じたとき、理想と現実のギャップは想像以上だった。振り返って、松坂氏はこう言い切る。「起きてほしいことは、基本的に全部起きたかな、と思います」。
残ってほしかった核となる人材が、ほとんど辞めてしまった。設計側は創業者への依存が強かったぶん、その痛手は大きく、業務が回らなくなりそうなタイミングもあったという。それでも松坂氏は、モデルハウスも住宅営業も置かず、固定費を抑えながら情報のバランスを取る独自のスタイルで、会社を立て直していった。「選んだ道を、正解にする」——それが松坂氏の判断軸だ。
続きを読む:株式会社コラボハウス 松坂直樹氏インタビュー →
一冊の本が、「ケアをやろう」に変わった

慶應義塾大学文学部哲学科で学んでいた高浜敏之氏は、大学卒業を前にして「大学を出て何をするか」を考えあぐねていた。答えを出したのは、就職活動でも先輩の助言でもなく、一冊の本だった。
鷲田清一著『聞くことの力』。フランスの現象学者メルロ=ポンティの研究者による、その哲学的な一冊を読んだとき、高浜氏の中で答えが決まった。「『大学を出て何をするか』と考えたときに、『ケアをやろう』と思ったんです」。以来、経済なき道徳は寝言であり、道徳なき経済は犯罪であるという二宮尊徳の言葉を胸に、47都道府県で介護・ケア事業を展開するまでになった。
「俺を練習に入れてくれ」——16カ国で続けた道場破り

大学時代の菊池康平氏は、スパイクだけを持って海外のサッカークラブへ飛び込むという、独特なやり方で挑戦を続けていた。自分で英語の履歴書を作り、グラウンドに直接訪ねていく。「俺を練習に入れてくれ」「俺をプロにしてくれ」——そんな交渉を、学生の限られた資金の中で近くて安い国を選びながら、16カ国で繰り返した。
13カ国目にたどり着いた南米ボリビアでは、3〜4ヶ月にわたる嫌がらせと孤立を経験した。それでも前を向き続けた結果、現地でプロ契約を勝ち取る。「言葉が通じなくても、文化も環境も違っても、ちゃんと前を向いて頑張っていれば受け入れてくれるんだな」。2019年12月に法人を立ち上げた直後、コロナで海外事業の道が絶たれたとき、菊池氏を支えたのは学生時代から続けていたフットサル仲間20人との縁だった。そこから、個人参加フットサルのコミュニティ事業が動き出した。
あなたにとっての「あの一言」は?
誰かの一言も、一冊の本も、若い頃に体で覚えた感覚も、受け取っただけでは何も変わらない。本気で引き受けたときに、初めて経営の景色が変わり始める。次回もまた、経営者たちを動かした、忘れられない言葉を届けたい。

