コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

  • HOME
  • 記事
  • コラム
  • 年商2,000万円→3.3億円。三代目が賭けた「カスタム」と「SNS」の二本柱
年商2,000万円→3.3億円。三代目が賭けた「カスタム」と「SNS」の二本柱

年商2,000万円→3.3億円。三代目が賭けた「カスタム」と「SNS」の二本柱

地方で家業の整備工場を継ぐとき、SNSで発信するという選択肢は、遠い話に感じられるかもしれません。

整備業は、地域密着と口コミで成り立ってきた業種です。フォロワー数や再生数が売上に直結するイメージは、持ちにくいものです。

しかし株式会社ENXIA(乾自動車整備工場)の乾雅詞氏は、三代目として工場に入りました。入社にあたり、あえて「カスタム」と「SNS」という二本の柱に経営資源を絞り込みました。

その結果、年商は3年で約2,000万円台から3.3億円へ伸びています。Instagramのフォロワーは1万人を超えました。

この記事では、乾氏がなぜこの二本柱を選んだのかを、本人の言葉と数字から読み解きます。地域密着型の業種で発信に踏み出せずにいる経営者に、判断材料を届けたいと思います。

乾雅詞 氏

株式会社ENXIA(乾自動車整備工場) 乾雅詞 氏

三代目としての最初の決断

乾氏は三代目として自動車整備工場に入りました。まず取り組んだのは、経営資源の中から何を伸ばすかの絞り込みです。

乾氏は入社にあたって、自社の強みと、外部に届いていない部分を分けて考えました。本人は「自分が入ったときに最初に伸ばせる柱は何かと考えたとき、『カスタム』と『SNS』だと決めました」と振り返っています。

多くの選択肢がある中で二つに絞り込んだという判断そのものが、この事例の起点です。

顧客層の若返りという狙い

三代目という立場は、先代・先々代が築いた顧客基盤を引き継ぐ立場でもあります。同時に、その基盤がどう変化しているかを見極める立場でもあります。

乾氏の発言には「衰退していたお客様層を若返らせながら、認知も同時に広げていく」という言葉があります。既存の顧客層だけでは先細りになるという認識が、二本柱を選ぶ背景にあったことがうかがえます。

町の商店が常連客の高齢化だけに頼れば、いずれ客足が細っていくのと同じ構図です。

技術力を可視化する「カスタム」

整備工場という業態は、車検や修理といった実務を通じて信頼を積み重ねる仕事です。技術力そのものは、口コミや紹介がなければ工場の外に伝わりにくい性質を持ちます。

乾氏が「カスタム」を柱の一つに据えたのは、技術面での強みを外部から見える形にするという狙いがあったと読み取れます。

二語に絞り込んだことの意味

三代目が入る組織には、既にできあがった業務フローや顧客対応の型が存在します。新しく入った人間がそこに手を加えるには、何を変え、何を変えないかを自分の言葉で説明できる必要があります。

乾氏が「カスタム」と「SNS」という具体的な二語を挙げていること。抽象的な方針ではなく、実行できる単位にまで絞り込んで示した点に意味があります。

同時に「SNS」を並べて選んだ点は、技術力を磨くことと、それを届けることを分けて考えていたことを示しています。どちらか一方だけでは、強みは伝わらないか、伝える中身がないかのどちらかに陥ります。

家業を継ぐ三代目経営者の多くは、先代までのやり方をどこまで引き継ぎ、どこから変えるかという判断に迷うものです。乾氏の場合、「カスタム」と「SNS」という二つの言葉を最初に挙げました。これは、新しく立てる柱を明確に定義するところから始めたことを示しています。

経営資源(人・モノ・お金・時間など、事業に使える手持ちの元手)は、中小企業の整備工場では限られています。伸ばす柱を絞り込むという判断は、それ以外への投資を抑えるという判断でもあります。この絞り込みそのものが、3年で結果を出すための条件だったと考えられます。

「カスタム」という技術面の柱

二本柱の一つ目は「カスタム」です。乾氏はこれを、工場の技術面での強みを作る柱と位置づけました。

定型業務では差がつきにくい理由

自動車整備工場の技術力は、車検や法定点検といった定型業務の中では差別化しにくい面があります。多くの工場が同じ基準・同じ工程で作業を行うため、外から見て違いが分かりにくいからです。

カスタムという領域は、工場ごとの技術や発想の違いがそのまま形になって現れる分野です。乾氏が最初の柱として選んだ理由の一端はここにあると考えられます。

「作る」と「届ける」の役割分担

乾氏の発言にある「カスタム」と「SNS」という二本柱の並びから、役割分担が読み取れます。カスタムは工場の内側で作る価値、SNSはそれを外側に届ける手段です。技術面の強みを作ること自体を目的にするのではなく、SNSに載せて発信することを前提に据えていた点が、この事例の特徴です。

私たちコントリ編集部がこの言葉から着目したのは、カスタムという柱の役割です。単なる技術投資ではなく、発信するコンテンツを生み出す装置として機能しています。技術面の強みがなければ、SNSで発信する中身自体が薄くなります。

技術力を見える形にする効果

カスタムという言葉が示す領域は、法定点検や車検のような決まった基準に沿う作業とは異なります。工場ごとの発想や技術の蓄積が、そのまま形として表れる分野です。

同じ整備業でも、カスタムに取り組んでいるかどうかで、外から見たときの見え方は大きく変わります。乾氏がここを最初の柱に選んだことは、技術力を見える形にする場所を意図的に作ったと理解できます。

役割
カスタム技術面での強みを作る
SNS全国に店の存在を知らせ、認知を広げる

「SNS」という認知面の柱

二本柱のもう一つが「SNS」です。乾氏はこれを、全国に工場の存在を知らせ、認知を広げる柱と位置づけました。

商圏の前提を変えるという発想

整備工場は本来、商圏(お店の商品やサービスがお客様を集められる地理的な範囲)が限られた地域密着型の業態です。

乾氏の発言「SNSで全国に店の存在を知ってもらう」は、この商圏の前提そのものを変える意図を示しています。

地域の中だけで口コミを積み重ねる従来のやり方に、SNSという手段を加えました。商圏の外側にも工場の存在を届けようとした点が、この二本柱の設計の核心部分です。

既存顧客の若返りという役割

乾氏はSNSの役割を、新しい顧客層の獲得と既存の顧客層の若返りの両方に位置づけています。

「衰退していたお客様層を若返らせながら、認知も同時に広げていく」という発言があります。SNSが、単なる新規顧客の獲得手段ではなく、既存の顧客構成そのものを変えていく手段として使われたことを示しています。

顧客層を若返らせるという表現には、既存の顧客基盤をそのまま維持するだけでは事業が縮小していくという前提があります。整備工場の顧客は年齢とともに車を手放していくこともあり、次の世代の顧客と接点を持てなければ、顧客基盤は自然に痩せていきます。

フォロワー1万人という数字の意味

Instagramのフォロワーが1万人を超えたという数字は、地域密着が前提の業種としては規模の大きい数字です。フォロワー数そのものが売上に直結するわけではありません。

それでも、カスタムという柱で作った技術面の強みを、商圏の外側にいる人にも見える状態にしました。二本柱が噛み合っていたことを示す数字だと言えます。

整備業は本来、実際に車を預けてもらい、仕上がりを見てもらって初めて評価が決まる仕事です。SNSは、その評価が決まる前の段階で、工場の存在や仕事ぶりを知ってもらう手段になります。

地域密着・口コミ中心になりがちな業界の常識からすると、遠方の見込み客に向けて発信するという発想自体が一般的ではありません。乾氏の選択は、その常識から外れた判断だったと言えます。

フォロワー1万人という数字は、投稿を見た人の数そのものではなく、繰り返し工場の情報に触れている人の数です。整備工場という実店舗を持つ業態にとって、遠方のフォロワーがすぐに来店するとは限りません。

それでも認知を広げ続けたことが、次の顧客層につながる入り口を作ったと考えられます。

整備業界でSNS発信を選ぶこと自体が、業種のイメージからすると意外に映るかもしれません。口コミと紹介で成り立ってきた業界の中で、あえて全国に向けた発信手段を選んだ判断。届けたい相手を地域の外まで広げるという明確な狙いがなければ、出てこない選択です。

二本柱の相乗効果とまとめ

カスタムとSNSは、それぞれ単独の施策ではありません。互いを補い合う関係として機能しました。ここでは二本柱が生んだ結果を数字で確認します。

就任時 年商
約2,000万円台
3年後 年商
3.3億円

年商3.3億円という結果

乾氏が三代目として入ってから3年間で、年商は約2,000万円台から3.3億円へと伸びています。

この期間の具体的な月次の推移や個別の施策は、本インタビューでは語られていません。それでも、乾氏自身が二本柱の設計意図を明確に言語化しています。成長が偶然の結果ではなく、狙って作られたものであることがうかがえます。

年商が3年でこれだけ伸びたのは、既存事業の延長線上の伸びとして説明できる数字ではありません。乾氏は「カスタム」と「SNS」を並べて語っています。技術面で作った価値と、SNSで広げた認知が、重なる形で効いたことがうかがえます。

どちらか一方では届かなかった理由

カスタムという柱がなければ、SNSで発信する中身は薄くなり、フォロワーが増えても売上にはつながりにくかったはずです。逆にSNSという柱がなければ、カスタムで培った技術力は地域の中だけにとどまり、商圏の外側の顧客層には届かなかったはずです。

二つの柱を同時に走らせたことが、この伸びの背景にあると私は捉えています。

地域密着・口コミ中心になりがちな整備業界の中で、SNSという手段をあえて選んだ点も見過ごせません。業種のイメージだけで発信手段を選ばず、届けたい顧客層に合わせて手段を選んだという判断が、この事例のもう一つの要点です。

「作る」と「届ける」の欠如を想像する

カスタムとSNSという二つの柱を「作る」と「届ける」に分けて考えると、どちらか一方が欠けた状態を想像しやすくなります。技術面の強みだけがあってSNSがなければ、その強みは工場を訪れた顧客にしか伝わりません。

逆にSNSだけがあってカスタムがなければ、フォロワーは増えても発信し続ける中身が続かなくなります。

乾氏の3年間は、この両方が同時に機能していたことを、年商の大幅な伸びとフォロワー1万人という数字の両方で示しています。

まとめ

ENXIAの3年間からの示唆

  • まず自社の強みを一つ選び、外から見える形に育てる(作るの柱)
  • その強みを届ける発信の手段を、業種のイメージにとらわれず一つ決める(届けるの柱)
  • 「作る」と「届ける」を同時に、同じ期間走らせる

編集部コメント

私たちコントリ編集部が乾氏のインタビューで着目したのは、二本柱という言葉の選び方そのものです。多くの経営資源や施策候補がある中で、最初に伸ばす柱を二つに絞り込みました。その役割を「作る」と「届ける」に分けて説明している点は、業種を問わず参考になる考え方だと感じます。

経営者インタビューを重ねていると、施策の数を増やすことと、成果を出すことを混同している事例に出会うことがあります。乾氏の発言には、増やすという発想ではなく、絞るという発想が一貫しています。

コントリが大切にしているコアバリューのひとつに「Communication × Contribution」があります。技術力という「貢献(Contribution)」の中身を作る。それをSNSで「伝える(Communication)」。

乾氏の二本柱は、この掛け算そのものだと私たちは感じています。どちらか一方だけでは、成果にはつながりません。

整備業界という、SNS発信のイメージから遠い業種で、フォロワー1万人・年商の大幅な伸びという数字が実際に出ている事実。業種そのものではなく、誰に何を届けるかという設計の問題であることを示しています。

地域密着・口コミ中心になりがちな整備業界において、SNSという届け方を選ぶこと自体に迷いがあった経営者は少なくないはずです。まずは自社の強みを一つに絞り、それを届ける手段を一つ決めるところから始めてみてはどうでしょうか。

乾氏の事例は、業種の常識よりも、届けたい相手が誰かを先に決めることの方が、結果につながりやすいことを示していると私は考えています。

今後も業種の枠にとらわれない経営判断の事例を、数字とともに紹介していきます。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

関連記事一覧