
損益分岐点の計算方法|中小企業が黒字化を判断する4ステップ
月次試算表を眺めても「結局いくら売れば黒字になるのか」が見えない——。中小企業の経営者から、こうしたお声を伺うことがよくあります。損益分岐点を一度でも計算しておけば、黒字化の目標・値上げの余地・撤退ラインまでが一本の数字でつながります。
本記事では、損益分岐点の計算式と公式、損益計算書から固変分解する4ステップ、損益分岐点比率と安全余裕率の使い方、経営判断への落とし込み方、下げるための4つの打ち手、そして計算を活かすうえでの落とし穴を、中小企業経営者の視点で整理します。
数字が見えると、議論が感情論から判断の話へ切り替わります。中学生に説明できる平易さで、順にほどいていきます。
損益分岐点とは何か|経営判断で使う3つの意味
損益分岐点とは、売上と費用がちょうど一致する売上高のことです。この売上を超えれば黒字、下回れば赤字になります。会計の分類用語というより、固定費をいくら稼げば回収できるのかを示す「経営の物差し」として使います。
| 意味の切り口 | 見える概念 | 経営判断での使われ方 | よくある場面 |
|---|---|---|---|
| 売上と費用が一致する点 | 赤字と黒字の境目になる売上高 | 黒字化目標の数値基準として置く | 年度予算・月次目標の設計 |
| 固定費回収ライン | 固定費を回収しきる売上高 | 投資・採用を加える前の体力確認 | 採用計画・設備投資・新規出店 |
| 意思決定の下限 | これ以下にしてはいけない売上ライン | 値下げ・撤退・契約継続の判断軸 | 不採算店舗の継続判断・値下げ可否 |
※ 3つはどれも同じ「損益分岐点」を指しますが、使う場面で意味の重心が変わります。
売上と費用が一致する点としての定義
教科書的な定義では、損益分岐点=固定費と変動費の合計が売上と一致する売上高です。横軸に売上、縦軸に費用と売上を取ったグラフで、売上の直線と総費用の直線が交わる点として図示されます。
Money Forward Business の解説動画でも、同じ図で定義が紹介されています(損益分岐点を理解しよう)。経営者が覚えておくべきは、この点を1円でも超えた瞬間から利益が積み上がる、という構造です。
固定費回収ラインとしての実務的な意味
実務でよく使うのが、「固定費を回収するために必要な売上高」という捉え方です。家賃・固定給・リース料など、売上が減っても出ていく費用の合計を、売上1円あたりの利益貢献額で割れば、損益分岐点売上高が出ます。
弥生の公式解説でも、知識ゼロでもOK!損益分岐点の意味から計算方法までで、この「固定費回収」の視点が強調されています。筆者自身、新しくオフィスを借りた直後に「今の固定費を回収するラインまで売上がいくら足りないか」を電卓で出し、採用判断の前提にした経験があります。
意思決定の下限として使う考え方
もうひとつが「ここを下回ってはいけない売上高の下限ライン」としての使い方です。新商品の投入、不採算店舗の継続判断、値下げキャンペーンの可否など、経営者が迷う場面で「少なくとも何円売上を立てないと赤字になるか」を可視化してくれます。
MJS税経チャンネルの損益分岐点を学ぼう 第1回でも、この「下限管理」としての損益分岐点の使い方が解説されています。利益率そのものと合わせて見るとさらに判断が立体化します(参考: 利益率の計算方法|中小企業の経営判断を変える5つの利益指標の使い分け)。
損益分岐点の計算式|公式と変動費率・限界利益率の関係
損益分岐点売上高の基本公式は「固定費 ÷ 限界利益率」です。限界利益率は「1 − 変動費率」で、売上1円のうち何円が固定費回収と利益に回るかを示します。式の中身を整えると、現場で混同されがちな用語の関係が一度にそろいます。
公式1|最も使う基本式
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
売上高ベースで「いくら売れば黒字になるか」を出す式です。経営会議で最も使われるのがこの式です。
例:固定費300万円 ÷ 40% = 750万円公式2|関係式
限界利益率 = 1 - 変動費率
限界利益率と変動費率は、必ず足して1になる関係です。どちらか片方が分かれば自動的に計算できます。
例:変動費率60% なら 限界利益率40%公式3|数量ベース
損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷(販売単価 - 単位あたり変動費)
「何個売れば黒字か」で見たい小売・飲食向けの式です。分母は1個売るごとに残る貢献額です。
例:固定費100万円 ÷(単価1,000円-変動費600円)= 2,500個損益分岐点売上高の基本公式
まず押さえるのが 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率 の形です。限界利益率は「売上1円あたりに残る、固定費回収と利益の原資」を意味します。
たとえば固定費が月300万円、限界利益率が40%なら、損益分岐点売上高は 300万円 ÷ 0.4 = 750万円です。この水準に売上が届いた瞬間が、赤字と黒字の境目になります。
限界利益率と変動費率の関係
限界利益率とは、売上から変動費を引いた「限界利益」を売上で割った比率のことです。例えば売上1,000円・変動費600円なら、限界利益は400円、限界利益率は40%、変動費率は60%です。限界利益率と変動費率を足すと必ず1になります。
限界利益率の業種別の目安については、別記事(限界利益率の目安|中小企業の業種別データで黒字化を判断)に詳しくまとめています。自社の数字が業界平均とどれだけ離れているかの参照にしてください。
損益分岐点販売数量の計算式
売上高ではなく「何個売れば黒字になるか」で見たい場合は、損益分岐点販売数量 = 固定費 ÷(販売単価 − 単位あたり変動費)を使います。分母の「販売単価 − 単位あたり変動費」が、1個売るごとに残る貢献額です。
ITすきま教室の損益分岐点売上高を求めようでも、金額ベースと数量ベースの両方の計算が示されています。小売・飲食の経営者は数量ベース、BtoBの経営者は売上高ベースで把握するのが実務的です。
計算の具体例|固定費と変動費を分解する4ステップ
公式を知っていても、自社の損益計算書から固定費と変動費を切り分けられないと計算は動き出しません。月次試算表を題材に、売上高・変動費・限界利益・固定費を分解して損益分岐点を算出するまでの流れを、4ステップで示します。
変動費と固定費を切り分ける
勘定科目にこだわらず、「売上が増減してもほぼ変わらない費用」を固定費、「売上と連動して増減する費用」を変動費として割り切ります。
性質で分解する/迷ったら固定費側に寄せる限界利益と限界利益率を出す
限界利益 = 売上高 - 変動費。これを売上で割れば限界利益率になります。この数字が以降の計算の土台です。
例:売上1,500万円 - 変動費900万円 = 600万円(40%)損益分岐点売上高を計算する
固定費 ÷ 限界利益率で、黒字と赤字の境目になる売上を算出します。電卓1つで出せるシンプルさが利点です。
例:固定費500万円 ÷ 40% = 1,250万円現実の売上と比べて差を数字で見る
損益分岐点売上高と実際の売上を並べ、不足額または余白を金額で可視化します。ここで初めて経営判断につながります。
「あと◯円」を単価×数量×商品ミックスで取りに行くステップ1 変動費と固定費を切り分ける
最初の関門は固変分解です。勘定科目で機械的に分けるよりも、「売上が増減してもほぼ変わらない費用」を固定費、「売上と連動して増減する費用」を変動費として割り切る方が実務的です。
人件費のうち固定給は固定費、残業代や歩合給は変動費。地代家賃は固定費、仕入・材料費・外注費の多くは変動費、水道光熱費は半固定費として固定費側に寄せる、といった整理が現場では使われます。
ステップ2 限界利益と限界利益率を出す
次に、限界利益 = 売上高 − 変動費 を計算します。売上1,500万円・変動費900万円なら、限界利益は600万円です。これを売上で割れば限界利益率が出ます。600 ÷ 1,500 = 0.4(40%)という数字が、以降の計算の土台になります。
限界利益率は月次でトレンドを見ることが大事です。原材料高・外注単価アップの時代は、気づかないうちに月を追って下がっていきます。筆者も半年に一度は時系列で確認するよう経営者の方々にお伝えしています。
ステップ3 損益分岐点売上高を計算する
ステップ1・2の数字がそろえば、公式に当てはめるだけです。固定費が500万円、限界利益率が40%なら、損益分岐点売上高 = 500万円 ÷ 0.4 = 1,250万円となります。
店舗経営者のための財務チャンネルの30秒でできる!損益分岐点売上高の簡単な計算方法でも、同じ順序での計算例が紹介されています。電卓1つで出せるシンプルさが、月次で回し続けやすい理由です。
ステップ4 現実の売上と比べて差を数字で見る
計算した損益分岐点売上高を、実際の月次売上と並べるのが最後のステップです。現在売上1,500万円・損益分岐点1,250万円なら、黒字の余白は250万円。現在売上1,100万円・損益分岐点1,250万円なら、不足150万円で赤字です。
ここで議論が止まらないよう、「あと150万円は、単価×数量のどこで取りに行くか」まで同じ会議で決めてしまうのがコツ。見えるようになれば、人は動けます。損益分岐点の計算は、ここで初めて経営判断につながります。
損益分岐点比率と安全余裕率|今の経営の「余白」を見る
損益分岐点を単独の金額で見るだけでは、売上の変動にどこまで耐えられるかは分かりません。損益分岐点比率と安全余裕率を併せて計算すると、「売上が何%落ちても赤字にならないか」という経営の余白が可視化できます。
| 損益分岐点比率 | 経営状態の目安 | 打ち手の方向性 |
|---|---|---|
| 60%未満 | 優良 | 投資・採用で成長を取りにいける |
| 60〜80% | 安全圏 | 攻めと守りのバランスを取る |
| 80〜90% | 注意 | 固定費と限界利益率の両面を見直す |
| 90%以上 | 危険 | 値上げ・不採算整理に先に手を付ける |
損益分岐点比率の計算と目安
損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100%で求めます。実際の売上1,500万円・損益分岐点1,250万円なら、比率は83.3%です。一般的に80%以下が安全、80〜90%が注意、90%超は危険とされます。
冒頭で紹介した中小企業の平均87.3%という水準は、「注意」ゾーンの中央にあたります。多くの中小企業が、売上が1割強落ちれば赤字になる体力で日々経営を回している、ということです。
安全余裕率で下振れ耐性を測る
安全余裕率は「現在の売上が、損益分岐点からどれだけ上に離れているか」を示す指標です。計算式は (実際の売上高 − 損益分岐点売上高)÷ 実際の売上高 × 100%。損益分岐点比率と安全余裕率を足すと100%になります。
中小企業診断士試験対策チャンネルの損益分岐点売上高分析(CVP分析)のやり方でも、2つの指標はセットで扱われています。筆者は経営者との会話では、まず安全余裕率で「下振れ耐性の%」を見てもらう場面が多いです。感覚的に理解しやすいからです。
業種別の目安水準(製造・小売・サービス)
業種によって損益分岐点比率の水準は変わります。固定費の重い製造業は高めに、仕入連動の小売業は低めに、人件費主体のサービス業は中間に出る傾向があります。
同業種の中央値と比べることが前提です。異業種のベンチマークを自社に当てはめても、「構造が違う」という結論にしかなりません。資金繰りの実力を測るには、キャッシュの動きとセットで見るのも効果的です(参考: 資金繰り表とキャッシュフロー計算書の違い|中小企業の資金判断を変える3つの軸)。
中小企業経営者が損益分岐点から読むべき3つの意思決定
損益分岐点は「赤字か黒字か」を示すだけの指標ではありません。固定費を増やす投資、値上げ・値下げの判断、不採算部門の撤退ラインなど、経営者が日々迫られる意思決定に数字の根拠を与えてくれます。コントリの取材現場で経営者が繰り返し使っている3つの判断軸を紹介します。
人を増やす・設備を入れる
採用・設備投資は固定費を増やす。値上げや商品ミックス改善をセットで実行し、損益分岐点の上昇を抑える判断。
値下げ戦略/シェア取り
固定費を増やしつつ単価も下げる場面。損益分岐点が急激に上がるため、売上数量の確保計画が前提になる。
値上げ・商品ミックス改善
固定費削減と限界利益率引き上げを同時に進める、損益分岐点を下げる王道パターン。経営体力への寄与が大きい。
撤退・縮小判断
固定費も限界利益も削る不採算部門の整理。年間累計・配賦前後の数字で判断し、単月では決めない。
人を増やす・設備を入れる投資判断
採用・設備投資は固定費を増やす行為です。固定費が月100万円増えるなら、同じ限界利益率の下では損益分岐点売上高もその分増えます。限界利益率40%なら、損益分岐点は250万円上がる計算です。
経営者の問いは「250万円の売上増は、何カ月でついてくる見込みか」に変わります。先に数字で描けると、投資は賭けではなく計画になります。コントリの取材でも、計画段階でこの計算をされている経営者の方は、採用の意思決定が早い印象があります。
値上げと値下げの「どこまで耐えられるか」
値上げは限界利益率を上げる行為、値下げは下げる行為です。限界利益率が40%から45%に上がれば、同じ固定費でも損益分岐点売上高は約11%下がります。少しの値上げが大きな体力に変わる、という感覚がここで数字になります。
逆に値下げでは「売上が何%増えれば損益分岐点を維持できるか」を先に出すのが鉄則です。限界利益率が下がるほど、必要な数量増は加速度的に大きくなります。「数が売れるから大丈夫」という感覚判断で入ると、たいてい追いつきません。
不採算部門・不採算店舗の撤退ライン
撤退判断でも損益分岐点は使えます。その部門だけで固定費を回収できる売上に届いているかを見ます。本社間接費を配賦した後の数字で下回っていても、撤退で他部門の売上が落ちるなら、簡単には止められません。
後述する落とし穴にも関係しますが、単月の数字だけで撤退を決めるのは危険です。年間累計・季節性・顧客の重複を含めて見るのが基本線になります。
損益分岐点を下げる4つの打ち手|固定費・変動費・価格・商品ミックス
損益分岐点が高い状態は「稼がないと赤字」の状態です。下げるための打ち手は大きく4つに整理できます。削るだけでなく、商品構成や価格設計で限界利益率そのものを引き上げる方法まで含めて検討します。
※ 上から順に経営体力への寄与が大きい傾向があります。限界利益率を先に動かし、固定費は最後に見直すのが基本線です。
固定費を減らす(人件費・家賃・ソフト費)
即効性があるのが固定費削減です。家賃・リース・使っていないSaaS・遊休資産は見直し候補の筆頭になります。人件費は最後の最後に手を付ける、というのが取材で経営者から繰り返し伺ってきた順序です。
脱・税理士スガワラくんの赤字の仕組みをちゃんと理解していますか?でも、黒字化のためにまず見直すべき経費の順序が解説されています。削り過ぎると「次に伸ばす余地」まで一緒に削るので、固定費は構造の見直しとして進めるのが基本です。
変動費率を下げる(仕入・外注の見直し)
仕入・材料費・外注費の単価と歩留まりを見直すと、変動費率が下がり、限界利益率が上がります。限界利益率が40%から42%に上がるだけでも、固定費が同じなら損益分岐点売上高は約5%下がります。
複数社から相見積もりを取る、まとめ発注で単価を下げる、歩留まり改善で廃棄を減らす、という定石の積み重ねが効きます。「少しの改善を複数の変動費で同時に進める」のが、効果が出やすいやり方です。
値上げで限界利益率を上げる
値上げは、損益分岐点を下げる打ち手の中で最も効果が大きい手段のひとつです。限界利益率を直接上げる効果があり、同時に売上あたりの手元現金も増えます。経営体力への寄与は、固定費削減の数倍になる場面も珍しくありません。
「値上げしたらお客様が離れるのでは」という不安は、取材でもよく伺います。実際には、価値を伝え直し、商品設計を変えることで、価格を上げても離脱を抑えたという経営者の方の経験を何度も耳にしてきました。先に数字で損益への影響を試算しておくと、交渉の腰も据わります。
高利益率商品の構成比を上げる
同じ売上規模でも、高利益率の商品の構成比を上げれば、全社の限界利益率は上がります。「売上の多い商品」ではなく「限界利益の多い商品」で商品ランキングを作り直すのが第一歩です。
営業・販促の優先順位を限界利益ベースに切り替えると、売上横ばいでも損益分岐点が下がっていくことがあります。構造を変えて楽になる、という発想です。
損益分岐点の計算でよくある3つの落とし穴
損益分岐点の計算は難しくありませんが、使い方を誤ると「数字は正しいのに経営判断を間違う」ことが起こります。コントリの取材で経営者がよく挙げる失敗パターンを3つ整理しておきます。
※ ひとつでも心当たりがあれば、損益分岐点の運用そのものを一度見直すサインです。
固変分解を厳密にやりすぎて意思決定が止まる
半固定費の扱いで議論が止まり、「正確な損益分岐点が出せないから使えない」という結論に至るケースをよく見ます。固変分解に100点を求めない——これが取材現場で経営者から学んだ基本線です。
経営判断に使うには、8割の精度の数字が「ある」ほうが、100点の数字が「ない」よりはるかに価値があります。先に走らせて、月を重ねながら整えるほうが実務的です。
単月の損益分岐点だけで撤退を判断してしまう
季節性のある業種では、単月の損益分岐点を下回っただけで撤退を決めると見誤ります。年間累計、繁忙期・閑散期の構造、来期の需要見通しまで含めて検証するのが基本です。
本社間接費の配賦ルール次第で、同じ部門が黒字にも赤字にも見えます。配賦前・配賦後の両方で判断するのが、取材先の経営者からよく伺う実務知です。
固定費を「人数×単価」で把握せず削るものを間違える
固定費を総額だけで眺めると、削るべきものが見えません。「人数×単価×稼働率」で分解すると、採用抑制で解消される部分と、構造を変えないと解消されない部分の区別が付きます。
経営セーフティ共済や退職金制度など、将来のリスク対応費用を一緒に削って後で困るパターンもあります。何を残し、何を削るかは、損益分岐点の数字だけでなく、会社の時間軸ごと見ないと判断を誤ります。
損益分岐点の計算に関するよくある質問
損益分岐点の計算に関して、中小企業の経営者から特に多く寄せられる質問と、実務での答え方を整理します。
Q1. 損益分岐点の計算で、固定費と変動費はどう切り分ければよいですか?
厳密な勘定科目分類にこだわりすぎず、「売上が増減しても金額がほぼ変わらないもの」を固定費、「売上と連動して増減するもの」を変動費として割り切るのが実務的です。人件費のうち固定給は固定費、歩合給は変動費のように、科目ではなく性質で分解します。半固定費は迷ったら固定費側に寄せると、安全側に倒れた意思決定になります。
Q2. 損益分岐点比率は何%くらいが安全ですか?
一般的な目安では80%以下が安全圏、80〜90%が注意、90%以上は危険とされます。ただし業種によって水準は変わり、固定費の重い製造業は高めに、仕入連動の小売業は低めに出る傾向があるため、同業種の平均と比べることが前提です。中小企業全体の平均は80%台後半で推移していますので、まずは平均を一つの参照点にしてください。
Q3. 赤字でも損益分岐点を使う意味はありますか?
むしろ赤字のときほど意味があります。損益分岐点売上高と現在の売上の差を見れば「あといくら売上を増やせば黒字になるか」が逆算でき、増やし方(単価×数量×商品ミックス)に落とし込めます。「赤字をどう止めるか」の議論が、感情論ではなく数字の話に切り替わる、という効果が大きいです。
Q4. 損益分岐点を下げるのに、まず手を付けるべきなのはどこですか?
多くのケースで最もインパクトが大きいのは「限界利益率を上げること」、つまり値上げと商品ミックスの見直しです。固定費削減は即効性がある反面、採用や拠点など「次に伸ばす余地」も一緒に削ってしまうリスクがあるため、価格設計を見直したうえで最後に固定費に手を付けるのが基本です。
Q5. 撤退ラインを損益分岐点だけで判断してよいですか?
単月で損益分岐点を下回っただけで撤退を決めるのは危険です。季節性のある業種では年単位の累計で見るべきですし、本社の間接費を配賦したうえでの数字か、その部門単独で止めても他部門の売上が落ちないか、までセットで検証する必要があります。損益分岐点はあくまで議論の出発点です。
Q6. 損益分岐点の計算は、どのくらいの頻度で見直すべきですか?
月次試算表を締めるタイミングで更新するのが基本線です。固定費や限界利益率は少しずつ変化していくため、半年に一度は時系列で推移を確認し、ドリフト(じわじわ悪化)に気づく仕組みにしておくと、手遅れになる前に手が打てます。
編集部より
取材を重ねるなかで印象に残っているのは、損益分岐点を電卓で出したうえで「あと何カ月で、どの手で届かせるか」まで同じ会議で決めてしまう経営者の方々でした。計算そのものは中学生でもできる難易度です。それでも、数字を手元に置いて意思決定に使えている会社と、そうでない会社とで、意思決定のスピードはまったく違っていました。
まずは今月の損益計算書を広げて、固定費と変動費を大まかに分けるところから始めてみてください。見えるようになれば、人は動けます。

