
ミッション・ビジョン・バリューの例|中小企業が参考にすべき15社の実例
自社のミッション・ビジョン・バリューを言葉にしたい。でも、他社の例を調べれば調べるほど、どれも立派すぎて自社に落とし込めない。そんな経験はないでしょうか。
結論から言うと、他社のMVVの例は「文言」を真似しても機能しません。真似すべきは、ミッションの抽象度・ビジョンの時間軸・バリューの粒度という3つの構造です。この構造さえ押さえれば、従業員10名の町工場でも、創業30年の家族経営でも、自社の言葉でMVVを組み立てられます。
本記事では、大企業・スタートアップ・中小企業の実例15社を紹介し、刺さるMVVと飾りのMVVを分ける3つの境界線、そして自社に落とし込む5ステップまでを解説します。読み終えた経営者の方が、今日から自社のMVVを書き始められる状態を目指します。
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の基本と「例」を見る前に押さえたい3つの違い
MVVとは、ミッション(使命)・ビジョン(目指す姿)・バリュー(価値基準)の3つを指す経営の言語化フレームワークです。他社の例を見る前に、この3つが何を担うのかを揃えておくと、15社の比較が一気にクリアになります。
多くの経営者の方が「ミッションとビジョンの区別が曖昧なまま、他社の例を眺めてしまう」とお話しされます。実際、取材のなかでも「うちのMVV、ビジョンだと思っていたのが実はミッションだった」という振り返りをよく伺います。まず定義を整えるところから始めましょう。
ミッション・ビジョン・バリューの定義(この記事での統一基準)
本記事では、3者を次のように定義します。ミッションは「当社が社会に対して果たす役割」、ビジョンは「3〜10年後に実現したい姿」、バリューは「日々の意思決定で優先する価値基準」です。
抽象度でいえば、ミッションがもっとも高く、バリューがもっとも具体的です。時間軸でいえば、ミッションは半永久、ビジョンは3〜10年、バリューは今この瞬間の判断に使うもの、と整理できます。この3つの違いを押さえると、他社のMVVを「どのレイヤーの言葉か」で分類しながら読めます。
「経営理念」「クレド」「パーパス」とMVVの位置関係
MVVに似た概念として、経営理念・クレド・パーパスがあります。経営理念はMVV全体を包み込む日本独自の総称、クレドは信条や行動指針(バリューに近い)、パーパスは存在意義(ミッションの一部)と捉えると混乱が減ります。
実務上、中小企業では経営理念とミッションを厳密に分けず、1つの短い文に集約する企業が多数派です。パーパス経営の文脈でパーパスを別途定義する企業もありますが、従業員50名以下の規模ではMVV3つに絞ったほうが現場で使われやすい、というのが取材で繰り返し伺うお声です。
| 概念 | 定義 | 抽象度 | 時間軸 | 主語 |
|---|---|---|---|---|
| ミッション | 当社が社会に果たす役割 | 高 | 半永久 | 自社/社会 |
| ビジョン | 3〜10年後に実現したい姿 | 中 | 3〜10年 | 自社 |
| バリュー | 日々の意思決定で優先する価値基準 | 低 | 今この瞬間 | 社員 |
| 経営理念 | MVV全体を包み込む日本独自の総称 | 高 | 半永久 | 自社 |
| クレド | 信条・行動指針(バリューに近い) | 低 | 今この瞬間 | 社員 |
| パーパス | 当社が存在する社会的理由 | 高 | 半永久 | 社会 |
例を見るときに意識したい3つの比較軸(抽象度・時間軸・主語)
ここから15社の例に入ります。読み方のコツは「抽象度・時間軸・主語」の3軸で比較することです。
抽象度は「ミッションの文がどれくらい大きなことを掲げているか」、時間軸は「ビジョンがどれくらい先を見ているか」、主語は「お客様が主語か・自社が主語か・社会が主語か」で判定します。この3軸をメモ代わりに手元に置きながら読み進めてください。文言のきれいさに引っ張られず、構造が見えるようになります。
【大企業・有名企業】真似したいミッション・ビジョン・バリューの例6選
ここからは広く知られた大企業・有名企業のMVVを6社取り上げます。文言そのものではなく、抽象度・時間軸・主語の3軸で読み解いてください。真似すべきは言葉遣いではなく、文の設計思想です。
ソニーグループ|テクノロジーで世界を感動で満たすミッション
ソニーグループは2019年に発表したPurposeで「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」を掲げています。主語は「世界」、動詞は「感動で満たす」という、極めて抽象度の高いミッションです。
この文の秀逸さは、ハードウェア・エンタメ・金融とまったく異なる事業領域を抱える同社において、全社共通の判断基準になり得る点です。中小企業がそのまま真似する必要はありませんが、「複数事業を抱える会社ほど、ミッションは抽象度を上げる」という設計思想は参考になります。
グーグル(Google/Alphabet)|情報整理を使命とするミッションとOKR連動のバリュー
グーグルのミッションは「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」です。1998年の創業以来ほぼ不変で、半永久的に有効なミッションの代表例といえます。
さらにグーグルの特徴は、ミッションがOKR(目標設定フレームワーク)と連動している点です。四半期ごとの目標設定時に「このOKRは、情報整理ミッションに寄与するか」を確認する運用が、組織文化として定着しています。MVVを掲げるだけでなく、評価・運用の仕組みと接続するという設計の実例として、中小企業にも応用可能です。
パタゴニア|「地球を救うためにビジネスを営む」というミッションの先鋭さ
パタゴニアは2018年にミッションを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」に改訂しました。主語を自社に、目的語を「地球」に置いた、極めて先鋭的なミッションです。
このミッションが機能しているのは、文言が立派だからではありません。実際に売上の1%を環境団体に寄付する「1% for the Planet」の実践、傷んだ商品の修理サービス、使用済み商品の回収プログラムなど、ミッションを裏付ける具体行動が営業活動そのものに組み込まれているからです。中小企業がパタゴニア型のミッションを掲げるなら、必ず裏付け行動とセットで考える必要があります。
ユニリーバ|サステナビリティと利益を両立させるミッション
ユニリーバのパーパスは「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に」です。2010年から「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を推進し、環境負荷の削減と事業成長の両立を10年計画で実行しました。
ミッションを長期計画(10年)に落とし込み、毎年進捗を社外に公表したのがユニリーバの特筆点です。中小企業にそのまま適用するのは難しいかもしれませんが、「ミッションには時間軸つきの到達目標を添える」という設計は小さく真似できます。
ソフトバンクグループ|「情報革命で人々を幸せに」の長期ビジョン
ソフトバンクグループの経営理念は「情報革命で人々を幸せに」。シンプルで覚えやすく、創業時から孫正義氏が繰り返し語ってきた言葉です。経営者本人の信念と、企業ミッションが完全に重なっているのがソフトバンクの強みです。
中小企業で特に参考になるのは、ミッションを経営者自身が本気で信じている言葉にすることの重要性です。外注した美しい文言より、創業時の原体験から出てきた不器用な言葉のほうが、現場に浸透しやすいという事実は、取材のなかでも繰り返し確認してきました。
三井物産|「挑戦と創造」をバリューに置くMVV構造
三井物産は、ミッション「世界中の未来をつくる」、ビジョン「360°business innovators」、バリュー「挑戦と創造/自由闊達/人の三井」の3層構造を採用しています。
このMVV構造の整った並びは、大企業の典型的な3層フォーマットとして参考になります。ミッションは世界を主語に、ビジョンは自社の在り方、バリューは社員の行動指針、という役割分担が明快です。自社MVVの叩き台を作るとき、まずこの三井物産型のフォーマットに文字を埋めてみると、構造の違和感に気づきやすくなります。
| 企業名 | ミッション文(抜粋) | 設計思想の特徴 | 策定/改訂時期 |
|---|---|---|---|
| ソニーグループ | クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。 | 主語を「世界」に置いた高抽象度ミッション | 2019年1月(Purposeとして発表) |
| グーグル(Alphabet) | 世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること | OKR(目標設定フレームワーク)と連動 | 1998年創業以来ほぼ不変 |
| パタゴニア | 私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。 | 売上1%寄付など裏付け行動とセット | 2018年12月(旧ミッションから改訂) |
| ユニリーバ | サステナビリティを暮らしの”あたりまえ”に | 10年計画で毎年進捗を社外公表 | 2010年11月(10年計画開始) |
| ソフトバンクグループ | 情報革命で人々を幸せに | 創業者本人の信念と企業ミッションが一致 | 1981年創業以来の経営理念 |
| 三井物産 | 世界中の未来をつくる | ミッション/ビジョン/バリューの3層構造が明快 | 2020年5月(新経営理念体系発表) |
※出典:各社公式サイトのMVV・経営理念ページ(2026年10月時点で参照)
【スタートアップ・急成長企業】尖ったミッション・ビジョン・バリューの例4選
次に、創業から時間が短くMVVが日々の意思決定にそのまま使われているスタートアップ4社を取り上げます。中小企業・成長企業の経営者には、こちらのほうが参考にしやすい粒度のはずです。
メルカリ|「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイス」のミッション
メルカリのミッションは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」です。「新たな価値を生みだす」という動詞が、不要品の循環というビジネスモデルを言葉で説明しています。
さらにメルカリは、バリューを「Go Bold(大胆にやろう)/All for One(全ては成功のために)/Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」の3つに集約。短く、覚えやすく、英語でも日本語でも使える設計は、グローバル展開を前提にする中小企業にも応用できます。
SmartHR|「well-working 労働を、もっとワクワクするものに」のミッション
SmartHRのミッションは「well-working 労働を、もっとワクワクするものに。」。労務管理SaaSを提供する同社が、プロダクトの機能ではなく「労働体験そのものの変革」を掲げている点が特徴です。
プロダクトの説明ではなく、プロダクトで変えたい世界を書くのがSmartHRのミッション設計の秀逸さ。中小企業のミッションが「〇〇の商品を提供する」で止まっているなら、SmartHR型に置き換えてみる価値があります。「〇〇という商品を通じて、どういう世界を作りたいのか」。この問いが、ミッションを一段深くします。
LayerX|バリュー駆動の組織運営とMVV
LayerXのバリューは「Trust/Fact Base/Bet Technology」の3つ。経理DX・ブロックチェーンなど複数事業を抱える同社が、全事業共通の判断基準として使っています。
LayerXで注目すべきは、バリュー駆動(Values-driven)という組織運営方針を明文化していること。バリューを掲げるだけでなく、「迷ったときはこの3つに戻れ」という運用ルールとして機能させています。中小企業でも、意思決定が社長一人に集中している会社ほど、バリュー駆動への切り替えは有効です。
BUDDICA|組織を爆速成長させたMVVの作り方(一次情報)
中古車販売のBUDDICAは、中野氏が2024年にYouTubeで「組織が爆速成長したMVVの作り方」を公開し、12.6万回視聴されています。約38分の動画のなかで中野氏が繰り返し強調しているのは、MVVは「作る」より「使う」のほうが100倍難しいという事実です。
同社は、ミッションを週次の全体朝礼で経営者自身が読み上げる、バリューを採用面接の最終評価軸にする、新入社員研修でMVVの背景を2日間かけて説明する、といった運用を徹底しています。MVVを飾りにしない運用こそが、組織拡大のレバーになった事例として、中小企業の経営者には必見の内容です。
【中小企業・取材事例】地に足のついたミッション・ビジョン・バリューの例5選
ここは当メディア(コントリ)が経営者インタビューを重ねるなかで得た一次情報をもとに紹介します。従業員50名以下の中小企業が実際に使っているMVVの実例を、作られた経緯とあわせて5つピックアップしました。固有名詞は本記事では伏せていますが、現場で機能している言葉です。
製造業の二代目経営者|「現場の誇り」を言語化したバリュー
ある金属加工業の二代目経営者は、創業者である父親の時代から残っていた「技術で勝つ」という抽象的な理念を、「0.01ミリの誤差を見逃さない」「新人の最初の失敗は上司が謝る」「廃材から次の仕事を生む」の3つのバリューに書き換えました。
書き換えた結果、採用応募数が前年比で約1.5倍に増え、若手の定着率も改善。抽象的な理念を、現場の具体的な行動言語に落とし込んだことが、採用・定着の両面で効いた事例です。中小企業のバリュー設計で参考になるのは、動詞を使って「何をするか」を明示するアプローチです。
士業事務所|「お客様の意思決定に伴走する」というミッションの効果
税理士事務所のある代表は、ミッションを「数字を作る専門家ではなく、お客様の意思決定に伴走する専門家でありたい」と再定義しました。もともと「地域一番の税理士事務所」を掲げていましたが、「一番」の定義が曖昧で、スタッフが日々の判断に使えなかったためです。
ミッション改訂後、新規顧問契約時の面談で代表自身がこのミッションを説明するようになったところ、「他の税理士事務所と違いが明確になった」という理由で成約率が向上。ミッションを営業トークに組み込めることが、士業の差別化において効くという学びです。
採用に強い中小企業|バリューを採用面接の評価軸に組み込んだ事例
従業員30名規模のITサービス企業では、バリュー「素直・貢献・学習」を採用面接の3段階評価軸としてそのまま使っています。1次面接では素直さ(指摘を受け止められるか)、2次面接では貢献意欲(会社に何を還せるか)、最終面接では学習意欲(3年後にどうなっていたいか)を評価する運用です。
この運用により、面接官による評価のばらつきが減り、入社後のミスマッチも減少。バリューは掲げるだけでなく、採用面接の評価シートに落とし込むと、組織の統一性が自然に生まれます。
家族経営から脱皮した会社|ビジョンを数値目標に落とし込んだMVV
創業40年の建設会社では、二代目社長が就任のタイミングで「地域で愛される会社」という曖昧なビジョンを、「5年後に売上10億円・従業員50名・新築受注の50%を自社設計案件にする」という具体数値ビジョンに書き換えました。
書き換えの効果は、幹部ミーティングの議論の質に表れました。「地域で愛される」ではKPIが決まらず会議が精神論に流れていましたが、数値ビジョンにしたことで、毎月の売上と設計案件比率が議題の中心になり、意思決定のスピードが上がりました。ビジョンは、できるだけ数値に落とすという原則の実例です。
地域密着型サービス業|「お客様の第二の家族」をコンセプトにしたMVV
家事代行サービスを運営するある会社では、ミッションを「お客様の第二の家族でありたい」と設定しました。「家事代行会社」ではなく「第二の家族」と言い切ったことで、スタッフの振る舞いが変わりました。
具体的には、訪問時にお客様の体調変化に気づいて家族に連絡する、記念日を記録して翌年もさりげなく祝う、といった「家事代行会社なら不要な行動」が自然発生するようになったとのこと。ミッションの一言が、スタッフの行動を日常的に方向づけるという好例です。
関連記事:中小企業の経営理念を言語化する具体的な手順は経営理念の言語化|中小企業が「絵に描いた餅」で終わらせない4ステップでも詳しく解説しています。
刺さるMVVと「飾りのMVV」の違い|機能するMVVを分ける3つの境界線
同じようにMVVを掲げても、現場が動く会社と動かない会社に分かれます。この違いを分けるのは、文言の美しさではなく、以下の3つの境界線です。経営者インタビューを重ねるなかで繰り返し見えてきた分かれ目を整理します。
境界線①|ミッションが「社長の言葉」か「現場の言葉」か
飾りで終わるMVVは、ほぼ例外なく社長が外部コンサルと作った「立派な文言」です。文法は整っているが、現場メンバーが日常会話で使えない。一方、機能するMVVは、創業時の原体験や現場の口癖から拾い上げた、ややゴツゴツした言葉であることが多いです。
判定方法はシンプルで、「このミッション、朝礼で読み上げたときに照れくさいか?」と自問することです。照れくさいなら、現場の言葉から離れすぎています。ソフトバンクの「情報革命で人々を幸せに」が機能するのは、孫正義氏本人が本気で言える言葉だからです。
境界線②|バリューが評価・採用の判断基準として機能しているか
飾りで終わるバリューは、額縁に飾ってあるだけで、評価シートにも採用面接にも使われていません。機能するバリューは、評価制度の項目・採用面接の質問・1on1の確認項目のいずれかに必ず組み込まれています。
実務的な導入手順としては、まず評価シートの一項目にバリューを追加するところから始めるのが現実的です。全評価を書き換える必要はありません。「このバリューに照らすと、今回の仕事はどうでしたか?」という1行を1on1シートに加えるだけでも、現場の意識は変わり始めます。
境界線③|ビジョンの時間軸が3年以内で検証可能か
飾りで終わるビジョンは、「10年後に業界No.1」のように検証不能な表現が多いです。機能するビジョンは、3年以内に達成状況を確認できる具体性を持っています。
@comtri_media のアカウントで経営者の方々と対話してきた経験から申し上げると、「10年後」の壮大なビジョンだけ掲げる会社は、3年経っても何も変わっていないことが多いのが現実です。長期ビジョン(10年)と中期ビジョン(3年)の2層構造にすると、現場が今動くべき方向が明確になります。
ミッション・ビジョン・バリュー浸透の施策|現場が動く7つの仕掛けでは、作ったMVVを現場に定着させる具体的な仕掛けを解説しています。あわせてご覧ください。
MVVの例を参考に、自社のミッション・ビジョン・バリューを作る5ステップ
ここまでの15社の例を踏まえて、自社のMVVを作る実務ステップを示します。他社の文言をそのままコピーするのではなく、構造だけ借りて中身は自社の言葉で埋めるのが基本方針です。
ステップ1|創業の原体験と、残したい価値観を書き出す
まずは経営者お一人で、2つの問いに答える時間を30分確保してください。「なぜこの事業を始めたのか(創業の原体験)」と「10年後も絶対に残したい価値観は何か」です。
このステップの目的は、MVVの素材を自分の中から取り出すこと。きれいな文章にする必要はなく、箇条書きで構いません。外部コンサルや本から言葉を借りる前に、自分の中にある言葉を一度全部出し切ることが、オリジナリティの源泉になります。
ステップ2|ミッション・ビジョン・バリューの草案を3つの比較軸で整える
次に、ステップ1で出した言葉を、抽象度・時間軸・主語の3軸でミッション/ビジョン/バリューに振り分けます。抽象度が高く半永久的な言葉はミッション、3〜10年の到達目標はビジョン、日々の判断基準はバリューです。
このときの注意点は、ミッション・ビジョン・バリューを必ずしも1文ずつにする必要はないことです。中小企業の実例では、ミッション1文・ビジョン1文・バリュー3〜5つ、という構成がもっとも使われていました。
ステップ3|現場メンバーの言葉で検証する(経営者だけで決めない)
草案ができたら、必ず現場メンバー数名に見てもらってください。「このミッション、朝礼で読み上げられる?」「このバリュー、新人に説明できる?」の2つを聞くのが実務的な検証方法です。
ここで照れくさい、説明しづらい、という反応が出たら、文言を磨き直します。経営者だけで決めたMVVは、ほぼ100%現場で使われません。検証プロセスを飛ばして飾りのMVVを量産しないためにも、現場の声を素材として取り込んでください。
ステップ4|評価制度・採用・1on1に組み込んで運用設計を作る
MVVの文言が固まったら、同時に運用の仕組みも設計します。評価シートの1項目にバリューを追加する、採用面接の質問にミッションを組み込む、1on1シートに「今月、どのバリューを使いましたか?」の欄を加える、のいずれかから始めてください。
ここで重要なのは、全部を一度にやろうとしないことです。最初の3ヶ月は1on1シートの1行追加だけでも、半年続けると現場に浸透し始めます。急がず、しかし着手は今、というペースが現実的です。
ステップ5|半年ごとに「使われているか」を測定し、言葉を磨き直す
半年に1回、MVVが実際に使われているかを測定します。測定方法はシンプルで、幹部ミーティングで「この半年、MVVを使った意思決定はいくつありましたか?」を聞くだけです。
数が少なければ、文言が現場に合っていないか、運用の仕組みが足りていないか、のどちらかです。MVVは一度作って終わりではなく、半年ごとに磨き直す運用物と捉えてください。パタゴニアも、ユニリーバも、過去にミッションを改訂しています。中小企業も改訂してよいのです。
ミッション・ビジョン・バリューの例に関するよくある質問
最後に、取材・読者の方々から特によく伺う6つの質問にお答えします。
Q. 中小企業にMVVは本当に必要ですか?
必須ではありませんが、従業員10名を超えたタイミングで導入を検討する価値があります。10名を超えると経営者の言葉が全員に直接届かなくなり、意思決定が属人化しやすくなります。MVVは経営者の判断基準を言語化して全員に配布する装置、と捉えると役割が明確です。
Q. ミッションとパーパスの違いは何ですか?
ミッションは「当社が果たす役割」、パーパスは「当社が存在する社会的理由」を指すのが一般的です。中小企業の実務では両者を厳密に分けず、ミッション1本に集約する企業が多数派です。パーパス経営の文脈でパーパスを別途定義する選択肢もありますが、言葉を増やすほど現場での混乱も増える点に注意してください。
Q. バリューは何個あれば十分ですか?
3〜5個が運用上もっとも使われやすい数です。7個を超えると現場で思い出せず、評価制度にも組み込みづらくなります。本記事で取り上げた中小企業の実例でも、ほとんどが3〜5個の範囲に収まっていました。迷ったら4つから始めるのが実務的です。
Q. 他社のMVVを真似するのはアリですか?
文言のコピーはNGですが、構造を参考にするのは問題ありません。たとえばパタゴニアのミッションを読んで「短く、意思決定の判断基準になる文にする」という構造だけ学び、中身は自社の言葉で埋めるのが王道です。本記事の目的も、15社の文言ではなく構造を提供することにあります。
Q. MVVを作ったあとに現場が覚えてくれません。どうしたら?
覚えさせるのではなく、使う機会を増やすのが先です。1on1の質問項目、採用の面接評価、週次のKPI確認の冒頭にバリューを引用するなど、業務動線に組み込むと自然に浸透します。暗唱テストや壁ポスターより、業務に組み込むほうが10倍効きます。
Q. MVVを変更してもよいタイミングはいつですか?
ミッションは10年単位、ビジョンは3〜5年、バリューは1〜2年で見直すのが実務的な目安です。事業内容の大幅な変更や二代目への事業承継のタイミングでは、ミッションも含めて再定義する企業が多くみられます。パタゴニアもユニリーバも過去に改訂しています。「変えてはいけない」という思い込みを外してください。
編集部コメント
経営者インタビューを重ねるなかで、「MVVを作ったけれど現場で使われていない」というお声を本当によく伺います。印象に残ったのは、BUDDICAの中野氏が38分の動画で「MVVは作るより使うほうが100倍難しい」と語り続けていたことでした。言語化のテクニックより、作ったあとの運用に時間と労力をかけている会社ほど、組織が動いているという事実です。
本記事で紹介した15社の例は、どれも「正解」ではありません。構造を借りて、中身は自社の言葉で埋める——この一点だけ押さえていただければ、他社の例に飲まれず、自社らしいMVVを言葉にできます。中小企業の経営者の方が、ご自身の原体験から出てきた言葉で、現場メンバーに自信を持って語れる日を、心より応援しています。

