
事業承継税制のデメリット|中小企業が知るべき5つの落とし穴と回避策
「自社株の相続税がゼロになる」——そう聞いて事業承継税制に飛びつきたくなる経営者の方は、けっして少なくないのではないでしょうか。ただ、私たちが経営者インタビューを重ねるなかでも、この制度で安心したはずが、あとになって想定外の負担に直面した、というお声を何度も伺ってきました。
本記事では、事業承継税制のデメリットを5つの落とし穴として整理し、なぜ専門家が「これで一安心が一番危険」と警鐘を鳴らすのか、そして自社が使うべきかどうかをどう判断すればよいのかを、順を追ってお伝えします。制度に振り回されず、あなたの会社にとって最善の選択を見つける一助になれば嬉しく思います。
事業承継税制とは|まず制度の全体像を押さえる
事業承継税制とは、後継者が受け継ぐ自社株にかかる相続税・贈与税の納税を、一定の要件のもとで猶予・免除する制度です。中小企業のスムーズな世代交代を後押しする目的で設けられた制度。デメリットを正しく判断するには、まずこの骨格を押さえておきたいところです。
制度には「一般措置」と、適用要件を緩和した「特例措置」の2種類が用意されています。特例措置は対象株式の上限がなく、猶予割合も大きいのが特徴です。中小企業庁も、特例措置の活用には期限内の計画提出が前提だと案内しています(中小企業庁 事業承継税制の概要)。
納税猶予・免除の基本的な仕組み
この制度の核心は、「すぐに払わなくてよい」だけであって「払わなくてよい」とは限らないという点にあります。後継者が株式を保有し、会社を続けているあいだは納税が猶予されます。そして先代・後継者の代替わりなど所定の要件を満たしたときに、はじめて猶予税額が免除される流れです。
税理士の橘慶太氏も、解説動画のなかで新事業承継税制の特例措置を「日本一わかりやすく」整理しつつ、あわせてデメリットにも踏み込んで注意を促しています(新事業承継税制の特例措置を解説(YouTube))。制度の入口だけを見て判断するのは危うい、というわけです。
特例措置と一般措置の違い
特例措置は、対象となる株式数の上限がなく、相続時の猶予割合も手厚く設計されています。一方で、特例措置を使うには「特例承継計画」を期限までに提出しておくことが前提です。ここが一般措置との大きな分かれ目です。
計画の提出を忘れたまま承継のタイミングを迎えると、手厚い特例措置を選べず、条件の限られた一般措置しか使えません。まず自社がどちらの土俵に立っているのかを確認するところから始めましょう。
期限が迫る特例措置の申請
特例措置は恒久的な制度ではなく、適用を受けるための計画提出に期限が設けられています。制度の詳しい前提は「事業承継税制とは|後継者にのしかかる自社株の税負担を軽くする制度」でも整理していますので、あわせてご覧ください。
期限が近づいているからこそ、焦って飛びつく前に、次章のデメリットを冷静に見極めることが欠かせません。特例措置と一般措置の違いを、下の表で整理しました。
| 比較項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 対象株式の上限 | 全株式(上限なし) | 総株式の3分の2まで |
| 相続時の猶予割合 | 100% | 80% |
| 特例承継計画の提出 | 必要 | 不要 |
| 適用期限 | 期限あり(要確認) | 恒久制度 |
※出典:中小企業庁「事業承継税制(特例措置・一般措置)の概要」2025年
見落としやすい5つのデメリット・落とし穴
事業承継税制のデメリットは、大きく5つの落とし穴に整理できます。納税は免除ではなく猶予から始まること、要件を外すと利子税ごと一括で戻ってくること、事務負担が長期に及ぶこと、後継者を縛ること、そして制度が複雑で専門家依存になることです。順に見ていきましょう。
まず押さえたいのが、税負担が消えたわけではないという事実です。みどり経営チャンネルでも、税理士が制度の条件とあわせてデメリットを具体的に解説しています(事業承継税制のメリット・デメリット解説(YouTube))。
納税猶予はあくまで猶予であり免除ではない
繰り返しになりますが、猶予は「支払いの先送り」にすぎません。会社を続け、要件を守り抜いてはじめて免除にたどり着きます。ここを「実質タダになる制度」と誤解したまま進めると、後々の判断を大きく誤ります。
実際に私が経営者の方と対話するなかでも、「もう相続税の心配は消えた」と受け止めておられるケースに出会います。そのたびに当社では、猶予と免除は別物です、とお伝えするようにしています。入口の安心感こそ、最大の落とし穴。
要件を満たせなくなると猶予税額+利子税が一括発生
もっとも重いデメリットが、これです。雇用や事業継続などの要件を途中で満たせなくなると、それまで猶予されていた税額に加えて利子税まで上乗せされ、一括での納付を求められます。承継後に業績が傾いた会社ほど、この一括負担が経営を直撃しかねません。
建設業支援TVの動画が「『これで一安心』が一番危険」と題しているのも、まさにこの取消リスクを念頭に置いてのことです(事業承継税制の概要解説(YouTube))。制度を使った瞬間がゴールではなく、むしろ長い管理の始まりだと捉えておきましょう。
継続届出書など事務負担が長期にわたる
猶予を維持するには、税務署や都道府県への継続届出書の提出を、定められた期間ごとに続けなければなりません。提出を一度でも失念すると、それだけで猶予が打ち切られるおそれもあります。
日々の資金繰りや現場対応に追われる中小企業にとって、この長期の事務負担は決して軽くありません。専門家の関与を前提に、届出のスケジュールを仕組みとして管理する体制が求められます。
なぜ「これで一安心」が一番危険なのか
事業承継税制で本当に怖いのは、適用した瞬間に気がゆるむことです。制度は「使って終わり」ではなく「使ってから管理が始まる」——この逆転の発想を持てるかどうかで、数年後の結末が大きく変わってきます。専門家が声をそろえて警鐘を鳴らすのも、この一点に尽きます。
建設業支援TVの解説では、「一安心」した経営者ほど、その後の要件維持を軽く見て猶予を取り消されやすいと指摘されています(事業承継税制のラストチャンス解説(YouTube))。安心は、油断と紙一重なのです。
適用後こそ管理が始まるという逆転の発想
一般的な節税策は「実行すれば完了」というものが少なくありません。ところが事業承継税制は、適用してからが本番です。要件を守り続けた年月の積み重ねこそ、免除という果実を生む土壌です。
だからこそ、適用の可否を検討する段階で「この管理を10年、20年と続けられるか」まで見通しておく姿勢が欠かせません。目先の税額だけで飛びつかない冷静さ。それが後継者を守る盾になります。
雇用維持要件・事業継続要件の実務
特例措置では雇用維持の要件が緩和されたとはいえ、事業を継続していること自体は前提として残ります。廃業や会社の解散、資産管理会社への該当などがあれば、猶予は取り消されかねません。
こうした要件は、承継後の経営判断の自由度を一定程度しばる側面を持ちます。「使いたい制度」と「やりたい経営」がぶつからないか、早めに突き合わせておきましょう。
後継者の途中辞任・株式売却の落とし穴
後継者が途中で代表を退いたり、猶予対象の株式を売却したりすると、それを引き金に猶予が取り消される場合があります。将来的にM&Aで会社を第三者へ譲る道を残しておきたい経営者にとっては、見過ごせないデメリットです。
事業承継の全体像や親族外への引き継ぎ手順は「事業承継とは|親族内・社外への承継方法と進め方の基本」でも解説しています。制度ありきではなく、承継の目的から逆算する視点を持ちたいところです。
デメリットを踏まえた活用判断のチェックリスト
デメリットがあるからといって、使わないのが正解とは限りません。大切なのは「自社株の評価額」「後継者の覚悟」「納税資金の有無」の3点を突き合わせ、自社にとっての損得を具体的に試算することです。感覚ではなく数字で判断できているでしょうか。この姿勢が後悔を防ぎます。
当社では経営者の方々と対話を重ねてきましたが、判断を誤る多くのケースは「試算を省いて雰囲気で決めた」ことに起因していると感じます。まずは足元の数字を並べてみましょう。
自社株評価額と猶予メリットの試算
そもそも自社株の評価額が低ければ、猶予される税額も小さく、長期の管理負担に見合わない場合も出てきます。逆に評価額が高い会社ほど、制度のメリットは大きくなります。
まずは顧問税理士に自社株評価を依頼し、「猶予されるおおよその税額」と「管理に要する手間・年数」を天秤にかけることから始めましょう。ここが判断の出発点です。
後継者が長期でコミットできるか
猶予の維持は、後継者の長期的な経営継続が前提です。後継者が本当に会社を背負う覚悟を固めているか、健康や意欲の面で長い年月に耐えられるか。ここが揺らぐと、制度の土台ごと崩れます。
後継者がまだ定まっていない場合は、制度の前に承継そのものの設計が先決です。「後継者不在の中小企業がとるべき対策|廃業を避ける5つの選択肢」もあわせて検討材料にしてください。
納税資金の代替手段との比較
事業承継税制を使わずとも、生命保険や役員退職金の活用、計画的な生前贈与などで納税資金を準備する道も残されています。制度の取消リスクを負うより、そちらのほうが自社に合う場合も少なくありません。
補助金という切り口で承継コストを抑える方法は「事業承継・M&A補助金の活用ガイド」で整理しています。選択肢を並べたうえで、消去法で最適解を絞り込みましょう。
他の承継手段との比較|税制だけに頼らない選択肢
事業承継税制は、あくまで数ある承継手段の一つにすぎません。持株会社(ホールディングス)化・生前贈与・M&Aといった手段と組み合わせ、全体最適を考えることで、税制単独では届かない安定した承継が見えてきます。一つの制度に依存しない設計が肝心です。
ホールディングス化による対策
ホールディングス化とは、事業会社の上に持株会社を置き、株式を集約する再編手法のことです。株価の上昇を抑えたり、承継をしやすくしたりする狙いで選ばれます。税理士のスガワラ氏も、ホールディングス化に企業が向かう理由を具体的に解説しています(ホールディングス化のメリット解説(YouTube))。
ただし、再編にはコストと手間がかかります。自社の規模や将来像に見合うかどうか、専門家と慎重に見極めることが欠かせません。
暦年贈与・相続時精算課税との併用
自社株を一度に移すのではなく、毎年少しずつ贈与していく暦年贈与や、相続時精算課税を組み合わせる方法も選べます。税制の取消リスクを避けつつ、時間をかけて株式を移せる点が魅力です。
どの手段がどれだけの負担軽減につながるかは、会社ごとに大きく異なります。複数の道を試算し、比較したうえで組み合わせを決めていきましょう。
M&Aという出口も含めた検討
後継者が見つからない、あるいは会社の成長を第三者に託したい場合は、M&Aという出口も現実的な選択肢です。事業承継税制を使うと株式売却が取消事由になり得るため、M&Aの可能性が残るなら制度適用は慎重に判断すべきです。
「事業承継は『いつか』ではなく『今』始めるべき理由」でも触れているとおり、出口の選択肢を早めに広げておくことが、結果として会社と従業員を守る力になります。
専門家に相談する前に経営者が準備すべきこと
事業承継税制の判断には専門家の関与が不可欠ですが、丸投げでは良い意思決定にはたどり着けません。相談前に「承継の目的とタイムライン」「後継者との合意」「顧問税理士の得意分野」の3点を整理しておくと、相談の質が一段と高まります。準備の差が、結果の差になります。
承継の目的とタイムラインの明確化
なぜ承継するのか、いつまでに何を終えたいのか。この目的とタイムラインがぼやけたままだと、専門家も最適な提案を組み立てられません。まずは経営者自身の言葉で、承継の輪郭を描いておきましょう。
目的が定まると、事業承継税制を使うべきか否かの判断軸も自然と定まってきます。手段の議論は、目的が固まってからです。
後継者との合意形成
制度の維持は後継者の協力なくして成り立ちません。にもかかわらず、後継者と十分に対話しないまま制度だけ先に進めてしまう例を見かけます。これでは、要件維持の途中で足並みが乱れかねません。
後継者に制度のデメリットまで正直に共有し、長期の管理を一緒に担う覚悟を確かめ合う。この合意形成こそ、承継の成否を分ける土台です。
顧問税理士の専門領域の見極め
税理士にもそれぞれ得意分野があり、日々の記帳や申告に強い方が、必ずしも事業承継の設計に精通しているとは限りません。事業承継税制の実務経験が豊富かどうかを、遠慮なく確認しておきましょう。
もし現在の顧問だけで不安が残るなら、事業承継・引継ぎ支援センターなど公的な相談窓口を併用する道もあります。複数の視点を取り入れてこそ、判断の精度が磨かれます。
よくある質問(FAQ)
事業承継税制の最大のデメリットは何ですか?
最大のデメリットは、納税が「免除」ではなく「猶予」である点です。雇用維持や事業継続などの要件を満たせなくなると、猶予されていた相続税・贈与税に加えて利子税まで一括で納付する必要が生じます。入口の安心感だけで判断しないことが大切です。
事業承継税制はやめたほうがよいケースはありますか?
後継者が長期にわたって経営を続ける見通しが立たない場合や、将来的にM&Aによる株式売却を検討している場合は要注意です。途中で要件を満たせなくなり、猶予が取り消されるリスクが高まるため、慎重な検討が求められます。
特例措置の申請期限はいつまでですか?
特例措置の適用を受けるには、特例承継計画を制度で定められた期日までに提出する必要があります。期限が近づいているため、活用を検討する場合は早めに専門家へ相談することをおすすめします。最新の期限は中小企業庁の案内でご確認ください。
事業承継税制を使うと本当に税金はゼロになりますか?
要件を満たし続ければ猶予され、最終的に免除される道は開けますが、あくまで条件付きです。要件を満たせなくなれば猶予は取り消され、遡って納税が必要になります。「ゼロになる」と断定するのは危ういと捉えておきましょう。
事業承継税制以外にどんな対策がありますか?
持株会社(ホールディングス)化による株価対策、暦年贈与や相続時精算課税の活用、M&Aによる第三者承継という道も用意されています。税制単独ではなく、これらを組み合わせて全体最適を図る視点が重要です。
編集部より
事業承継税制は、うまく使えば後継者の大きな支えになる一方で、入口の甘い言葉だけで飛びつくと、思わぬ一括負担に苦しむこともある——そんな二面性を持った制度です。経営者インタビューを重ねるなかで、私たちがいつも感じるのは、承継とは節税の技術ではなく、想いとご縁のバトンを次の世代へ渡す営みだということ。
制度はその手段の一つにすぎません。あなたが長い年月をかけて築き上げてきた会社の価値を、いちばん活かせる道はどれか。目先の税額に振り回されず、後継者と膝を突き合わせて考える時間こそが、何よりの財産になります。この記事が、その対話の入口になれたなら、これほど嬉しいことはありません。

