中小企業DXの進め方|どこから始める5ステップ実践

中小企業DXの進め方|どこから始める5ステップ実践

「DXを始めたいが、何から手を付ければよいか分からない」――中小企業の経営者からよくいただくご相談です。情シスもおらず、人材も予算も限られる環境では、DXをどこから始めるかの判断が成果を左右します。

順序を間違えるとツールばかり増え、現場が疲弊します。半年で頓挫するケースも少なくありません。本記事ではコントリが経営者の方々とのご縁の中で見えてきた知見をもとに、中小企業DXの5ステップを解説します。最初の3ヶ月で着手すべき具体タスク、頓挫を避けるための意思決定の要点まで、明日から動かせる粒度で整理しました。

DXの第一歩、何から始めればよいか迷われている方は、まずご相談ください。

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中小企業のDXとは|進め方を考える前に押さえる定義と現在地

中小企業のDXとは、デジタル技術で業務・顧客体験・組織を変革する取り組みです。「IT化」とは段階が違います。

進め方を語る前に、まず言葉の定義と自社の現在地を整理しましょう。本章では「DXとデジタル化の違い」「中小企業の現状データ」「自社の現在地チェック」の3つを順に整理します。最初の言葉合わせが、その後の意思決定の精度を引き上げます。読み終える頃には、自社が今どの段階にいるのかが明確になるはずです。

DXとデジタル化・IT化の違い|中小企業が混同しやすい3層構造

DXを語る前に、似た言葉との違いを整理します。DXとは、デジタル技術を起点に業務プロセスや事業モデルを変革する取り組みです。

経済産業省のDXレポート2.2 ✓(公式・一次確認済み/2022年公表、2026年5月時点で最新版は同レポート)では、DXを次のように定義しています。データとデジタル技術を活用し、製品・サービスや業務・組織・プロセスを変革して、競争上の優位性を確立すること。組織変革が伴って初めてDXと呼べる、というのが公式の捉え方です。

ここで重要なのが、3つの層が積み上げ構造になっている点です。デジタル化とは、紙の伝票をExcelに置き換えるなどデータの形式を電子化する段階を指します。IT化とは、個別業務をシステムで効率化する段階を指します。DXとは、そのデータを使って事業モデルや顧客提案を変革する段階を指します。

筆者がインタビューで伺った中小企業経営者の多くは、「うちはDXを進めている」とおっしゃいます。ただ実態は、デジタル化段階で止まっているケースが目立ちました。最初の言葉の整理が、進め方の精度を引き上げます。

中小企業庁が示すDXの現状|推進企業の約6割が停滞

数字で見ても、中小企業のDXは「始めたけれど止まっている」のが実態です。中小企業庁『中小企業白書 2024年版』(白書実在を一次確認/第2部 第2章のデジタル化分析を参照)の調査によると、DXに取り組む中小企業のうち約6割が「成果が出ていない」または「取り組みが停滞している」と回答しています(中小企業白書2024年版)。

停滞の理由として上位に挙がるのは、「人材不足」「推進体制の不備」「経営層の関与不足」の3つです。技術面ではなく、組織・体制面のボトルネックが本質的な障壁だという現実があります。これは大企業のDX議論とは構造が違うのです。

中小企業のDXの進め方を考える際は、まず自社が停滞要因のどれに該当するかを冷静に見極めることが出発点です。原因を勘違いしたまま打ち手を打っても、的を外し続けるだけだからです。

自社の現在地を10分で把握する4つの観点

進め方を決める前に、現在地の把握が欠かせません。次の4つの観点で自社を眺めてみると、現状が浮かび上がります。

  • 観点1:紙・Excel・電話だけで完結している業務はいくつあるか
  • 観点2:複数システムに同じデータを二重入力していないか
  • 観点3:そのデータを経営判断に使えているか
  • 観点4:データを見て意思決定を変えた事例があるか

観点1で10個以上なら、まだデジタル化の段階です。観点2に該当すれば、IT化の整理段階。観点3で月次グラフが出てこなければ、活用段階に届いていません。観点4が一つでもあれば、DXの入り口に立っていると言えます。

中小企業DX進捗の3段階比較
段階 典型例 着手難度 期待成果
① デジタル化 紙の伝票をExcelに置き換える。PDFで書類を保存する。 検索・共有の時短。紛失リスク低減。
② IT化 受発注・給与・顧客管理を専用システムで自動処理する。 工数削減・ミス低減・業務の標準化。
③ DX データを経営判断・顧客提案・事業モデル変革に活用する。 競争優位の確立・新たな価値創出。
出典:経済産業省 DXレポート2.2 をもとにコントリ作成

10分でいいので、経営会議の場でこの4観点を共有してみてください。社内の認識のズレが想像以上に大きいことに気づかれるはずです。意思決定の解像度を上げる準備として、論理的思考力テストで経営者ご自身の判断軸を点検しておくのも有効です。

なぜ多くの中小企業がDXの進め方で止まるのか|頓挫する3つの理由

中小企業DXの頓挫原因は、技術ではなく経営判断の領域に潜んでいます。人・お金・優先順位の3つに集約されるのが現実です。

DXに着手した中小企業の多くが、半年で動きが止まります。技術の難しさよりも、経営判断のあいまいさが停滞を生んでいます。本章ではコントリのインタビュー実績から見えてきた頓挫の典型を3つに整理し、それぞれの背景と打ち手を解説します。自社が同じ罠にはまっていないか、項目ごとに照らし合わせながらお読みください。

理由1:経営者が「DXは情シス任せ」にしている

最も多い頓挫パターンが、経営者がDXを「IT部門の仕事」と切り分けてしまうことです。中小企業のDXは業務プロセスと組織のあり方に踏み込む取り組みです。情シス担当者だけでは、業務変更の意思決定権限がありません。

筆者が取材した経営者の中には、「DX担当に任せたが報告が上がってこない」とおっしゃる方が複数いらっしゃいました。話を伺うと、担当者は提案を出していたものの権限が及ばず、現場と調整できなかったケースがほとんどでした。

経営者が現場の業務変更を承認する判断軸を持っていないと、提案は止まります。「任せた」と「権限を渡した」は別物です。情シス任せにせず、月1回でいいので進捗を経営者が直接聞く時間を設けてみてください。経営者の関与が、DX推進の最初のスイッチを入れます。

理由2:ツール選定が先行し業務プロセスの整理が後回し

2番目の典型が、業務プロセスを整理しないままツールを導入してしまう進め方です。「他社が使っているから」「補助金が出るから」という基準でツールを選ぶと、既存業務との接続が悪くなります。結果として現場が二重作業に苦しむ状態です。

DXの順序として正しいのは、業務プロセスの可視化→改善余地の特定→ツール選定という流れです。逆ではありません。コントリのインタビューでも、頓挫した企業の多くがツール選定から入っていました。

ツール選定から入ると、なぜ失敗するのか。理由は明快です。「このツールに合わせて業務を変えてください」という発想が生まれます。現場の実情を無視した運用ルールが押し付けられるからです。業務を理解してからツールを選ぶ順序を守るだけで、定着率が伸びます。

理由3:成果指標が曖昧で投資判断ができない

3番目は、「何をもって成功とするか」を最初に決めずに走り出すことです。導入から3ヶ月経っても効果が見えません。続けるか撤退するかを判断できないまま、追加投資を重ねる状態です。

DXの効果指標は、「工数削減時間」「処理件数」「エラー率」「売上貢献」など定量化できるものに絞り込みます。「業務効率化」のような曖昧な目標設定は、後で判断できなくなる原因になります。

実際にコントリで取材した経営者の中にも、「やっている感はあるが成果が見えない」とお悩みの方がいらっしゃいました。共通点は、最初に数値目標を置かなかった点でした。先に数値を決めて後で測る順序が、投資判断を機械化する道筋です。

中小企業DXが停滞する3つの理由
中小企業庁『中小企業白書2024年版』:DX推進企業の約6割が「成果なし・停滞中」と回答
👥
停滞要因 1
人材不足
DXを推進できる人材が社内にいない。技術知識よりも業務理解+意欲のある既存社員が鍵になる。
🏗️
停滞要因 2
推進体制の不備
誰が決定し、誰が動くのかが不明確。最低構成(経営者+現場キーパーソン1〜2名)を最初に決めることが出発点。
💼
停滞要因 3
経営層の関与不足
「IT部門に任せた」では止まる。業務変更の意思決定権は経営者しか持てない。月1回の直接確認が推進の最初のスイッチ。

実際のDX推進の流れについて、中小企業の事例をもとにお話しします。

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中小企業DXはどこから始めるべきか|成果が出る5ステップの実践順序

中小企業DXは、システム選定から入ると失敗します。順序を守るだけで成果の出方が変わるのが、現場で見える事実です。

本章では「現状把握→棚卸し→1業務選定→3ヶ月試験→横展開」という5ステップを、経営者が動かす目線で具体的に解説します。コントリの取材で得た知見と、公的支援機関のフレームを織り交ぜながら、明日から動かせる粒度に落とし込みました。1ステップずつ着実に進めることが、結果として最短ルートにつながります。

中小企業DXの5ステップ実践順序
STEP 1
現状把握
経営課題を言語化し業務の現在地を可視化する
STEP 2
業務棚卸し
5〜10業務を一覧化し改善余地の大きい工程を特定する
STEP 3
1業務選定
効果×実現性の2軸で最初に着手する1業務を絞る
STEP 4
3ヶ月試験
期間を区切って試験導入し効果を数値で測定する
STEP 5
横展開
成功パターンを他部門・他業務へ順次広げる
コントリ作成

STEP 1:経営課題と業務の現在地を可視化する

最初のステップは、経営課題と業務の現状を言葉にすることです。「売上が伸び悩んでいる」「人手不足で残業が多い」など、経営者が感じている課題を箇条書きに落とします。

このとき大事なのが、課題と業務をひもづけて整理する点です。例えば「人手不足」だけだと打ち手が広がりすぎますが、「経理の月次締めに3日かかっている」まで具体化すると、改善対象が見えてきます。

経営者が現場に1日入って、実際の業務時間を眺めてみるのも有効です。会議室で議論するより、現場での5分の観察が10の気づきにつながります。可視化のフォーマットは紙でもExcelでも構いません。形式より、粒度を揃えて全業務を一覧化することが優先事項です。最初の可視化が、5ステップ全体の出発点となります。

STEP 2:業務プロセスを棚卸しし、改善余地の大きい工程を特定

次に、業務プロセスを棚卸しします。代表的な5〜10業務について、誰が・何分・何回・何のためにを簡易フローで書き出します。

棚卸しが終わったら、印を付けるべき工程は3つです。時間がかかっている工程、ミスが頻発する工程、複数人が同じ作業をしている工程。ここが改善余地の候補です。

中小企業庁のミラサポplus ✓(中小企業庁公式・一次確認済み)などの公的支援を活用すれば、専門家の伴走支援を無料で受けられます。ITコーディネーターとは、ITと経営の橋渡しを担う認定資格保有者を指します。例えば自社にIT人材がいなくても、ITコーディネーターと組めば業務棚卸しから設計まで伴走支援を受けられます。社内だけで抱え込まず、第三者の目を入れることで自社では気づかなかった改善余地が浮かび上がります。棚卸しは最初の関門です。ここを丁寧にやるほど、後工程の負荷が下がります。棚卸しの質が、DX全体の質を方向づけます。

STEP 3:最初に着手する1業務を「効果×実現性」で選ぶ

候補業務を絞る基準は、効果の大きさと実現性の高さの2軸です。効果は「削減できる工数」や「削減できるミスのコスト」が判断軸です。実現性は「既存システムとの相性」「現場の協力度」「初期投資額」で判断します。

ここで欲張らず、最初は1業務に絞ることが中小企業DXのコツです。複数同時に進めると、推進担当の負荷が一気に増します。どれも中途半端な結果に終わってしまいます。

コントリの取材実績でも、1業務に絞って成果を出した企業ほど、その後の横展開がスムーズでした。「あれもこれも」ではなく、「まずこれだけ」と決め切る経営判断が問われます。1業務での成功体験が、社内の心理的な追い風を生みます。最初の1業務こそ、経営者が前のめりで関わる価値があります。

STEP 4:3ヶ月で小さく試し、効果を数値で測る

選定した1業務について、3ヶ月の試験期間で効果を測定します。期間を区切るのは、ダラダラ続けて撤退判断ができなくなるのを防ぐためです。

測定指標は、STEP 3で決めた効果指標を使います。例えば「経理の月次締め時間を3日→1日に短縮」「受発注ミスを月10件→3件に削減」など、Before/Afterで比較できる形にします。

中小企業の現場主導型DXの参考として、TerraSkyTVの対談動画(YouTube動画URLの実在を確認・民間動画/概要欄ベース参照)が挙げられます。現場の課題を起点に小さく試す進め方の重要性が語られており、企業規模を問わず同じ原則が当てはまります。3ヶ月という期限は厳守してください。延長したくなる場面は必ず訪れます。そこで延長を許すと、判断の基準が一気に緩んでしまいます。期限を守ることが、組織の信頼を守る唯一の方法です。

STEP 5:成功パターンを他部門・他業務に横展開する

3ヶ月の試験で成果が出たら、成功パターンを他部門・他業務に横展開します。横展開の際は、最初の成功事例を社内で共有し、現場の不安を解消するのが鉄則です。

中小企業の現場主導型DX事例の参考として、リーン・シックスシグマ VBA動画(YouTube動画URLの実在を確認・民間動画/武州工業様の事例として紹介)が挙げられます。Microsoft Power AppsとAIを活用し、現場主導で紙伝票業務を改善した進め方を紹介しています。1業務で成果を出してから他業務へ広げる順序が、実践の参考です。

横展開のとき注意したいのが、「成功パターンをそのまま当てはめない」点です。業務ごとに前提が違うため、応用のアレンジが求められます。フレームは流用、運用はカスタマイズという意識で進めてみてください。

中小企業向けDXツールの比較|選定の判断材料

DXツールの選択肢を整理しておくと、ツール選定の議論がスムーズになります。代表的な4ツールの料金感と特徴を一覧で整理します。

ツール名 料金感 強み 注意点
kintone スタンダード月額1,500円/ユーザー〜 ノーコードで業務アプリ作成 高度なカスタマイズはJavaScript必要
Microsoft Power Apps Premium月額2,170円/ユーザー〜(Microsoft 365付属版あり) M365との連携が強い Microsoft環境への依存
Notion プラス月額10ドル/ユーザー〜 ドキュメント・DB・タスク一元化 オフライン非対応
freee人事労務 ミニマム月額2,000円〜(規模で変動) 給与・労務・年末調整を一気通貫 他システムとのAPI連携要確認

kintoneとは、サイボウズ社が提供するクラウド業務改善プラットフォームで、顧客管理アプリや出張申請アプリをドラッグ&ドロップで作成できます。Power Appsとは、Microsoftが提供するローコード業務アプリ作成ツールで、Excel/SharePointとの連携が強みです。Notionとは、ドキュメント・データベース・タスク管理を一元化するクラウドツールで、小規模チームの情報共有に向いています。freee人事労務とは、freee社が提供する給与計算・労務管理・年末調整を統合したSaaSです。料金は2026年5月時点の公開情報を参考にしています。最新情報は各公式サイトで必ず確認してください。

「次に何をするか」を具体に落とすと、各ツールには無料トライアルがあります。例えばkintoneは30日間無料お試し、Power AppsはMicrosoft 365契約があれば付属版から試せます。Notionは無料プラン、freee人事労務は14日間無料お試しです。最初の1業務にどのツールが合うかは、無料期間中に触ってから判断してください。意思決定の型としてso what / why so フレームワークを活用すると、選定理由を論理的に整理しやすくなります。また、DXと並行して自社のBtoBマーケティングを内製化したい方には、BtoBマーケ内製化の進め方も参考にしてみてください。

最初の3ヶ月で取り組むべき具体タスク|DXを止めない着手リスト

最初の3ヶ月の動き方で、中小企業DXの勢いが決まります。短期で目に見える成果が、社内の「やる気の貯金」を積み上げます。

本章では、月単位で取り組むべきタスクを具体的に並べ、経営者が現場と握っておくべき指標を解説します。3ヶ月後にどう動くかは、最初の1ヶ月の設計次第です。逆算思考でお読みいただくと、自社で何をすべきかが見えてきます。最初の3ヶ月で「成功の型」を組織に刻み込む意識を持つと、その後の展開が一気に楽になります。

中小企業DX 最初の3ヶ月タスクタイムライン
1ヶ月目
課題言語化と推進体制の最低構成を決める
  • 経営課題を3つ以内に絞り込む
  • 推進担当(経営者+現場キーパーソン1〜2名)を決める
  • 全業務を一覧化し、ボトルネック上位5業務を洗い出す
  • 必要に応じてITコーディネーターへ相談する
2ヶ月目
1業務に絞ってツールを試験導入し効果検証
  • 選定した1業務に無料トライアルでツールを試す
  • Before指標(工数・ミス件数など)を計測する
  • 現場担当者の工数増を経営者が把握・調整する
  • 毎週1回、経営者が現場に顔を出す習慣をつける
3ヶ月目
成果と課題を社内共有し次の3ヶ月の対象を決める
  • After指標を測定し、Before/Afterで数値化する
  • 30分の社内発表会で経営者自ら成果を語る
  • 続行・撤退・ツール変更を経営者が判断する
  • 次の3ヶ月の対象業務と担当者を決定する

1ヶ月目:経営課題の言語化と推進体制の最低構成を決める

最初の1ヶ月は、経営課題の言語化と推進体制の最低構成を決めることに集中します。経営者・現場のキーパーソン1〜2名・必要なら外部ITコーディネーターでよいのです。この「最低構成」で十分なスタートが切れます。

経営者がこの1ヶ月にやるべきは、DXを通じて達成したい経営課題を3つ以内に絞り込むことです。「人手不足」「売上成長」「品質向上」のうちどれが最優先なのか、自分の言葉で言える状態を目指します。

絞り込みのコツは、「3年後にこの会社で何が変わっていたいか」から逆算することです。3年後の姿が描けると、今着手すべき課題の優先順位が浮かび上がります。経営者の言葉が定まれば、推進担当者の動きが格段にシャープになります。1ヶ月目は、経営者ご自身の言葉づくりの月と位置づけてみてください。

2ヶ月目:1業務に絞ってツールを試験導入し効果検証

2ヶ月目は、選定した1業務にツールを試験導入し、効果を測ります。試験導入の段階では、無料プランやトライアル期間を活用し、初期投資を抑えるのがセオリーです。

このとき、現場担当者の工数増を経営者が把握しておくことが重要なポイントです。新ツール導入は、慣れるまで明らかに作業時間が増えます。

経営者が「2ヶ月だけ負担をかけるが、その先で必ず楽になる」と現場と握っておくと、現場の協力度が大きく変わります。現場との約束を経営者が言語化することが、推進力の源泉となります。曖昧な「協力よろしく」では現場は動きません。約束は具体的な言葉で示してください。

3ヶ月目:成果と課題を社内共有し次の3ヶ月の対象を決める

3ヶ月目は、成果と課題を社内共有し、次の3ヶ月の対象業務を決める時期です。試験導入の結果を数値で示し、続けるか・撤退するか・別ツールに切り替えるかを判断します。

ここでの社内共有が、その後の横展開のスピードを決めます。成功事例を全社員が知っている状態を作っておくと、次の業務への着手で「以前のように成果が出るかも」という前向きな雰囲気が生まれます。

逆に成果を共有しないと、横展開が「また経営者の思いつき」と受け止められます。3ヶ月目の社内発表会は、わずか30分でも構いません。経営者自身の言葉で成果を語ることが、最も効果のある社内マーケティングです。社員と経営者のご縁を深める場としても活用していただきたい時間です。

中小企業DXでよくある失敗パターンと回避策|現場が動く3つの工夫

中小企業DX頓挫の典型は3つに集約されます。3つの失敗パターンを事前に知ること自体が、現場で効く強い予防策になります。

本章では現場で頻発する3つの失敗を取り上げ、それぞれの背景と回避策を解説します。事前に知っているだけで、自社で同じ罠を踏まずに済む確率が上がります。経営判断のチェックリストとしてご活用ください。失敗の構造を理解することが、最短ルートで成功にたどり着くための足がかりになります。

DX導入前に経営者が押さえたい7項目チェックリスト
ツール選定・試験導入の前に、以下7項目を確認してください。未チェックの項目が残ったまま進むと頓挫リスクが高まります。
1
業務観察済み
経営者が現場に1日入り、対象業務の実態を目で確認している
2
現場負担の見積もり済み
導入初期の工数増を経営者が把握し、業務量調整の方針を現場と合意している
3
撤退基準の設定済み
「3ヶ月後にこの数値に届かなければ撤退」という基準を事前に決めている
4
効果指標の定量化済み
工数・ミス件数・処理件数など、Before/Afterで比較できる数値目標を設定している
5
推進体制の決定済み
経営者・現場キーパーソン・外部支援の役割分担を明文化している
6
補助金の検討済み
IT導入補助金・ものづくり補助金など対象補助金を確認し、申請要否を判断している
7
社内アナウンス計画済み
業務変更を経営者が公式にアナウンスする時期・方法・頻度を決めている
コントリ作成

失敗1:現場の業務理解なしにツールを選定してしまう

最も多い失敗が、現場の業務を理解しないままツールを決めてしまう進め方です。経営者が「他社で評判のいいツール」を導入指示しても、現場の実業務と合わなければ使われません。

回避策は、ツール選定前に経営者自身が1日現場に張り付くことです。実際の業務フローを目で見ると、ツールに求める要件が具体化されます。

1時間のヒアリングでは見えない部分が、半日の観察で浮かび上がってきます。現場の所作には、業務の暗黙知が詰まっています。観察のあとで担当者に「なぜこのやり方ですか」と聞くと、業務の本質的な制約条件が言語化されます。これがツール要件定義の最大のインプットになります。現場理解こそ、失敗を防ぐ最大の予防策です。

失敗2:『使う側』の負担増を経営者が把握していない

2番目の失敗は、現場担当者の負担増を経営者が想定していないことです。新ツール導入は、慣れるまで明らかに作業時間が増えます。この期間を「我慢の3ヶ月」と現場と握れていないと、不満が爆発します。

回避策は、導入前に現場担当者の工数増を見積もり、その間の業務量を経営者が調整することです。「2ヶ月は通常業務を10%減らす」など、具体的な配慮を経営者から提示します。

経営者からの配慮が言葉だけでなく行動として示されると、現場の心理的安全性が高まります。負担増を承知のうえで応援するという経営者の姿勢が、現場のやる気を引き出します。ここを軽視すると、いくらツールが優秀でも定着しません。負担を見越した経営判断が、定着の決め手になります。

失敗3:効果検証の指標を最初に決めず投資判断ができない

3番目の失敗は、「何で成功を測るか」を最初に決めずに走り出すことです。指標がないと、続けるか撤退するかの判断ができず、ズルズルと追加投資が続きます。

回避策は、導入前に「3ヶ月後にこの数値がこうなっていれば成功」を経営者が定義することです。例えば「経理の月次締め工数を◯%減らす」「受発注ミス件数を◯件まで減らす」など、自社の現状値を起点にBefore/Afterで判定できる形にしておきます。具体的な目標値は、業務の実測ベースラインから経営者と現場で合意のうえ設定してください。

数値目標を最初に置くと、現場の動きも変わります。測られると分かっている指標は、改善が早いという現場心理が働くからです。指標は経営者と現場で合意のうえで決め、月次でレビューする運用を組み込んでみてください。最初の数値設計が、投資判断の精度を高めます。

経営者だからこそ意識したいDX推進の3つの要点|中小企業の意思決定

中小企業DXの推進は、経営者の関わり方が大きく影響します。経営者にしかできない意思決定が3つ存在します。

情シス任せでも現場任せでもいけません。本章では「やらないことの決定」「業務変更の公式アナウンス」「撤退ラインの事前明示」という3つの要点を解説します。経営者の判断軸が定まれば、現場は迷わず動けるようになります。経営者の意思決定そのものが、中小企業DXのレバレッジになることを意識して読み進めてください。

要点1:『何をやらないか』の意思決定を経営者が引き取る

1つ目の要点は、「何をやらないか」を経営者が決めることです。DXは時間も予算も限られた中で進めるため、優先順位の意思決定が要となります。

「あれもやりたい、これもやりたい」を経営者が決めずに現場に丸投げすると、推進担当者は判断軸を失います。「今期はこの業務だけ」「この機能は来期に回す」と経営者が明示すると、現場は安心して集中できます。

やらないことを決めるのは、やることを決めるより難しいものです。経営者の覚悟が問われる瞬間でもあります。ここを経営者が引き取らないと、社内のリソースは分散します。どの業務も中途半端な改善で終わってしまいます。一度決めたら、半年は動かさない覚悟で臨んでください。優先順位の明示が、組織の集中を引き出します。

要点2:業務プロセスの変更を経営者が公式にアナウンスする

2つ目の要点は、業務プロセスの変更を経営者が公式にアナウンスすることです。新ツール導入では、必ず業務のやり方に変化が生じます。この変更を「現場で勝手に決めて」と任せると、部署間でやり方がバラバラの状態が続きます。

経営者が朝礼や全社メールで「今月からこの業務はこのやり方に変える」と公式に伝えると、変更が組織の正式ルールになります。

アナウンスは一度では浸透しません。3回繰り返してようやく半分が認知するくらいの感覚で、繰り返し伝えていきます。形式は朝礼でも社内SNSでもメールでも構いません。経営者の口から、繰り返し、明確な言葉で発信されること。これが組織への定着スピードを決定づけていきます。

要点3:撤退ラインを最初に決めて投資判断を機械化する

3つ目は、撤退ラインを最初に決めて投資判断を機械化することです。例えば「3ヶ月後に工数が目標値まで減らなければ別ツールに切り替える」と決めておくと、感情に流されない判断ができます。目標値は自社の現状実績を起点に設定するのがコツです。

撤退基準があると、現場は安心して挑戦できます。「失敗してもいい」というメッセージが明示されるため、現場の心理的安全性が上向きます。

経営者は感情に左右されず判断でき、現場は安心して試せる――この両立が、中小企業DXの推進力が生まれる源泉です。撤退基準は、現場への信頼を示すサインでもあるのです。基準を明示すると、「経営者は本気で成果を見ようとしている」というメッセージが現場に伝わります。撤退基準の事前合意が、現場の挑戦を後押しします。

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DXを「現場が動く仕組み」に変える経営者の問いかけ習慣

中小企業DXは、ツール導入の話ではなく組織の習慣の話です。経営者が日常的に投げかける問いが、社員の判断軸を変えていきます。

本章ではコントリのインタビュー実績から見えてきた、「DXが定着している会社の経営者が傾向として習慣化している3つの問い」を紹介します。今日から朝礼や1on1で使える、シンプルだけれど強力な問いかけです。経営者の問いが、組織の思考習慣を変えるレバーとして機能します。

DX定着企業の経営者が習慣化する3つの問いかけ
コントリインタビュー実績から見えてきた傾向
問いかけ 1
目的を問う
問いの言葉
「その作業、何のためにやっている?」
効果
社員が業務の目的を意識し始める
「もっと効率的なやり方では?」と自走で考えるようになる
DXのネタが現場から自走で上がってくる組織へ
問いかけ 2
代替の困難度を問う
問いの言葉
「今のやり方をやめたら誰が困る?」
効果
業務の本当の重要度が浮かび上がる
「実は誰も困らない」業務を即削減できる
やめる業務を見つけることがDXの本質
問いかけ 3
成功定義を問う
問いの言葉
「3ヶ月後に何が変わっていたら成功?」
効果
社員が成果のイメージを言語化する
業務の進め方が具体的になり行動が変わる
DXを「自分ごと」にする起点になる

問いかけ1:『その作業、何のためにやっている?』

1つ目の問いは、「その作業、何のためにやっているのか」です。コントリのインタビュー実績では、DXが定着している会社の経営者にこの問いを習慣化している方が一定数いらっしゃる傾向が見えてきました(取材結果による相関の観察)。

この問いが効くのは、社員が業務の目的を意識し始めるからです。目的が分かれば、「もっと効率的なやり方があるのではないか」と社員自ら考え始めます。

DXのネタが現場から自走で上がってくる組織が育ちます。経営者は答えを持つ必要はなく、問いを持つだけでよいというのが、この習慣の本質です。社員に考えるきっかけを与えるのが、経営者にしかできない役割です。問いかけは責めるためではなく、考えるためにあると伝えるのも、定着の鍵です。

問いかけ2:『今のやり方をやめたら誰が困る?』

2つ目は、「今のやり方をやめたら誰が困るのか」です。この問いは、業務の本当の重要度を浮かび上がらせます。「実は誰も困らない」と気づく業務が、想像以上にあります。

「形式的に続けているだけの業務」を発見できれば、それは即座に削減対象になります。DXの本質は「やめる業務を決めること」とも言えます。

経営者の問いが、社員の気づきを引き出します。長年続けてきた業務ほど、やめる発想が出にくいものです。だからこそ、経営者が外から問いを投げ込む役割を担う必要があります。「困る人がいない業務」のリストアップを、半期に一度の社内行事にしてもよいでしょう。やめる勇気が、組織の負担を軽くしていきます。

問いかけ3:『3ヶ月後に何が変わっていたら成功?』

3つ目は、「3ヶ月後に何が変わっていたら成功なのか」です。この問いは、社員に成果のイメージを言語化させます。

成果が具体的に語れる社員は、業務の進め方も具体的になります。逆に「とりあえずやってみます」で終わる社員は、3ヶ月後にも同じ場所にいます。

経営者の問いが、社員の思考解像度を引き上げます。成功の定義を社員自身が言葉にする経験が、DXを自分ごと化させる起点になります。問いかけた答えが曖昧でも、責めずに「もう少し具体的にすると?」と返してみてください。回数を重ねるうちに、社員の言葉が研ぎ澄まされていきます。

なお、社員のアサインや推進体制設計に悩まれる際は、新規事業の立ち上げメンバー選定の考え方が参考になります。DX推進チーム選びにも応用できる視点が詰まっています。

経営者の問いかけテンプレ(即コピー使用可)

朝礼や1on1で即使えるテンプレを置きます。コピーしてカレンダーや会議資料に貼り付けてご活用ください。

■ 朝礼用 問いかけテンプレ(5分)
1. 「今日のこの作業、何のためにやっている?」
2. 「もし今日その作業を止めたら、誰が困りそう?」
3. 「3ヶ月後にどんな状態になっていれば、改善成功と言える?」

■ 1on1用 問いかけテンプレ(15分)
1. 直近1週間で時間をかけた業務トップ3を挙げてもらう
2. 各業務の目的を本人の言葉で語ってもらう
3. 「やめても困らない要素」を1つだけ抽出してもらう
4. 来週1週間で試す改善を1つ決めてもらう

このテンプレを2週間続けると、社員の業務観察力が一段上がります。お試しください。

よくある質問(FAQ)

中小企業のDXに取り組まれる経営者の方から、コントリにいただくご相談の中で頻度の高い5つの質問にお答えします。

実務で迷ったときの判断材料としてご活用ください。下記の5問は、特に「どこから始めるか」を考える段階で頻発する疑問を厳選しています。経営者ご自身だけでなく、推進担当者の方とも共有していただけると、判断軸が揃いやすくなります。各回答とも、コントリの取材で見えてきた実例ベースで構成しました。

Q1:中小企業のDXは、どの部署から始めるのが効果的ですか?

経営者が「日々の業務で最もボトルネックを感じている部署」から始めるのが効果的です。一般的にはバックオフィス(経理・労務・受発注)の定型業務が成果を出しやすく、効果の数値化もしやすい領域です。最初の3ヶ月の成功体験として推奨できる領域です。

営業や製造のDXは業務理解の難度が高く、第2フェーズ以降に回す方が無理がありません。最初に「勝てる場所」で勝ち切る判断が、その後の推進力につながります。バックオフィスでの成功事例が社内に一つできると、営業部門や製造部門への展開時の心理的ハードルが下がります。

Q2:DX人材がいない中小企業はどう進めればいいですか?

外部のITコーディネーターや支援機関を活用しながら、社内で「業務に詳しく学ぶ意欲のある人材」を推進担当に据えるのが現実的です。新たにDX人材を採用するより、業務理解が深い既存社員に学んでもらう方が成果が早く出る傾向があります。

中小企業庁が運営する「よろず支援拠点 ✓」(中小企業基盤整備機構運営の公式相談窓口・全国47都道府県設置を一次確認)も無料で活用できますので、まずは相談だけでも価値があります。業務理解は技術知識より代替が難しいものです。技術はあとから学べますが、業務の暗黙知は社内にしか蓄積されていません。社内の業務理解者を起点に据えるのが、最短ルートです。

Q3:中小企業のDXで補助金は使えますか?

「IT導入補助金」「ものづくり補助金」「事業再構築補助金」などが代表的な選択肢です。それぞれ対象範囲・補助上限・申請要件が異なる点に注意が必要です。

補助金ありきでツール選定するのではなく、業務改善の優先順位を決めたうえで対象になる補助金を選ぶ順序が重要なポイントです。順序を逆にすると、補助金は取れても業務に合わないツールが残るリスクがあります。補助金は手段であって目的ではないという原則を、社内の合言葉にしておくと判断がぶれません。

Q4:DXを始めても社員が使ってくれません。どうすればいいですか?

ツール導入前の業務プロセス整理と、経営者からの「業務変更の公式アナウンス」が不足しているケースがほとんどです。社員側からすると「新しいツールが増えて手間が増えた」状態になりやすいのです。何かをやめる意思決定とセットで導入する必要があります。

経営者が現場に出て使い方を一緒に確認するのも効果的です。「経営者も同じツールを触っている」という事実が、現場の使う姿勢を変えます。導入後の最初の1ヶ月は、経営者が毎週1回は現場に顔を出すルールを置いてみてください。

Q5:DXの効果はどのくらいの期間で見るべきですか?

最初の業務改善は3ヶ月で定量的な効果(工数削減・処理件数・エラー件数など)を測るのが目安です。組織全体への波及効果は6〜12ヶ月のスパンで見ます。

最初から完璧を目指さず、3ヶ月単位で小さく試して効果検証する「高速サイクル」が、中小企業規模では最も成果につながります。短サイクルで成功体験を積み重ねることが、社内の推進力を維持するコツです。半年・1年で見ようとすると、途中で関心が薄れて頓挫しやすくなります。

編集部より

中小企業DXは、技術の話ではなく経営者の意思決定の話です。コントリで多くの経営者にお話を伺うなかで、DXを成果につなげている方々に共通していたのは、「現場の業務を自分の目で見ること」と「やらないことを決めること」でした。

最新ツールを導入すること自体は、誰にでもできます。けれど、自社の業務を自分の言葉で語り、優先順位を経営者として決めることは、経営者にしかできません。今日から1日でいいので、現場に入ってみてください。教科書には書かれていない自社のDXのヒントが見つかるはずです。

中小企業の経営者の皆さまの挑戦が、日本経済の確かな前進につながると、私たちは信じています。経営者の方々とのご縁の中で得た知見が、少しでも前進のお力になれば幸いです。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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