キャリアアップ助成金とは|中小企業の正社員化を最大80万円で後押し

キャリアアップ助成金とは|中小企業の正社員化を最大80万円で後押し

「非正規で来てくれた方を、ようやく一人前まで育てた。そろそろ正社員にしたいけれど、人件費の重みを考えると最後の一歩が踏み出せない」。そんな迷いを抱える経営者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。

結論からお伝えします。キャリアアップ助成金は、非正規労働者を正社員へ転換した中小企業を支援する、厚生労働省の制度です。柱は正社員化コースで、有期雇用から正規雇用への転換に対し1人あたり最大80万円が支給されます(中小企業/令和8年度)。同一事業所で年間最大20人までが対象。コースを組み合わせれば、年単位で大きな後押しが見込めます。

本記事では、制度の全体像と対象要件、6つのコースと支給額、令和8年度の主な変更点、申請の流れまでを順に整理しました。最後に、経営者がキャリアアップ助成金を「人材戦略の意思決定」として活かすための判断軸も提示しました。申請のテクニックを学ぶ手前の、「自社で本当に取りに行くべきか」を見極める一助になれば幸いです。

キャリアアップ助成金とは|非正規人材の戦力化を支える厚労省制度

キャリアアップ助成金とは、非正規労働者の正社員転換や処遇改善を行った中小企業に対し、厚生労働省が支給する助成金です。対象は有期契約労働者・短時間労働者・派遣労働者など。1社で複数コースを組み合わせて活用でき、「育てた人材を社内に定着させる」意思決定を後押しする役割を担います。

近年は人手不足が深刻化し、非正規から正規へと丁寧に転換していく動きが、地域の中小企業ほど増えてきました。その流れに伴走する制度として、年度ごとに金額や要件が見直されています。最新情報の確認は厚生労働省の公式ページが起点です(出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」)。

キャリアアップ助成金の規模感

正社員化コース

最大80万円/人

年間支給対象

最大20人まで

コース構成

6コースの
パッケージ

出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」(中小企業・令和8年度)をもとに作成

なぜ国がキャリアアップ助成金で正社員化を後押しするのか

背景には、非正規労働者の処遇を改善し、労働市場全体の安定を底上げしたいという政策意図があります。雇用が不安定なままでは、人材育成への投資も生活設計も難しくなり、結局は会社の持続力にも跳ね返ってきます。

そこで国は、正社員への転換や賃金引き上げといった「処遇を一段引き上げる行動」に金銭的なインセンティブを設けました。中小企業の負担を国が一部肩代わりすることで、ためらいがちな一歩を後押しする設計です。

コントリ編集部が経営者の方への取材を重ねてきたなかでも、「正社員化したいが、責任が重くて踏ん切りがつかない」という声を繰り返し伺ってきました。その背中をそっと押す制度。そう捉えると、輪郭がぐっとつかみやすくなります。

他の人材系助成金との位置づけの違い

人材系の助成金は数が多く、似た名前のものが並びます。整理して理解しないと、自社の目的に合った制度が選びにくくなってしまうでしょう。

たとえば人材開発支援助成金は、社員の訓練・スキル開発のコストを補う制度です。最低賃金引き上げに伴う設備投資を支える「業務改善助成金」や、人材育成のコストを軽くする「リスキリング補助金」も、目的が異なる制度です。キャリアアップ助成金は、これらと比べて「雇用区分そのものを引き上げる」点に的を絞っているのが特徴といえるでしょう。

目的が違えば、自社が今どの局面にあるかで選ぶ制度も変わります。「育てる」のか、「正社員にする」のか、「両立を支える」のか。経営者の言葉で目的を一度言語化してから制度を選ぶと、迷子になりません。

「6コースのパッケージ」としての全体像

キャリアアップ助成金は、目的別に6つのコースが用意されたパッケージです。中心は正社員化コース。賃金規定の改定や、賞与・退職金制度の導入を後押しするコースも並びます。

1社で同時に複数コースを使うこともできます。たとえば「正社員化コースで人を正規に上げる」と「賃金規定等改定コースで賃金テーブルを引き上げる」の組み合わせ。人件費の意思決定を、まとめて前進させられます。

詳細なコース一覧は厚生労働省の公式案内で確認できます(出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」)。

対象となる事業主と労働者の主な要件

キャリアアップ助成金は、「誰が・どの労働者を対象に・何をしたか」で支給可否が決まります。雇用保険適用事業所であることと、キャリアアップ計画を事前に作成・届出していることが、入口に置かれた共通の関門です。

ここを満たせていないと、後の取り組みが要件を満たしていても支給に至りません。最初の30分で要件を整理しておくことが、結果を大きく分けます。

対象事業主(中小企業の範囲・雇用保険適用など)

対象になるのは、原則として雇用保険の適用事業所である事業主です。労災保険にしか加入していない事業所は対象外になるため、まずは自社の保険加入状況を確認しましょう。

加えて、コースによっては「中小企業」の範囲が金額に影響します。判定は資本金や常時雇用する労働者数で行われます。製造業・建設業・運輸業なら「資本金3億円以下または労働者数300人以下」が目安です。業種により基準額は変わるため、公式の支給要領で必ず照合してください。

なお、不正受給や労働関係法令違反があった事業主は、一定期間支給対象外になります。日常の労務管理が整っているかどうかが、制度の入口で問われているといえるでしょう。

対象となる非正規労働者の条件

対象労働者は、有期契約労働者・短時間労働者・派遣労働者などです。コースによっては、転換・処遇改善の前に一定期間以上の自社雇用実績が求められます。

正社員化コースなら、有期雇用の労働者を6カ月以上雇用したうえで正規雇用へ転換します。さらに6カ月間の賃金を支払った実績が、支給の前提です。短期間しか在籍していない方を慌てて転換しても、要件を満たせないという落とし穴があります。

「いつ入社した方を、いつ転換するのか」をカレンダーに落とし込むこと。これが申請成功の地味で確実な第一歩です。

キャリアアップ計画の事前届出という関門

キャリアアップ助成金で最も見落とされやすいのが、キャリアアップ計画の事前届出です。正社員化や賃金改定などの取り組みを行う前に、計画を作成して労働局へ提出しておく必要があります。

転換が済んでから「申請しよう」と動き始めても、計画の事前届出がなければ対象外。要件を満たしていても、書類の順番を誤ると支給に届きません。

ここで頼れるのが社労士や労働局の窓口です。最初の計画づくりを丁寧に伴走してもらえれば、その後のコース展開がぐっと楽になります。

キャリアアップ助成金の入口要件チェックリスト

申請前に自社が要件を満たしているかを自己点検

6つのコースと支給額|正社員化コースを中心に

キャリアアップ助成金は6つのコースで構成されます。柱は有期雇用を正規雇用へ転換する正社員化コースで、令和8年度は単価が拡充されました。コースを組み合わせれば、1社で年単位の人件費判断をまとめて前進させられます。

ここでは代表的なコースの金額と狙いを押さえます。最新の単価は厚生労働省の支給要領で必ず確認してください(出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」)。

キャリアアップ助成金 6コース 一覧

コース名 主な対象・施策 支給額の目安 向いている場面
正社員化 有期雇用などを正規雇用へ転換 1人最大80万円
(中小・有期→正規)
非正規を正社員に上げたい
賃金規定等改定 非正規の賃金規定を3%以上引き上げ 引上率・人数に応じて加算 非正規のまま処遇を上げたい
賃金規定等共通化 正規と共通の賃金規定を新設・適用 事業所単位で支給 正規・非正規の賃金体系を統合
賞与・退職金制度導入 非正規への賞与または退職金制度を新設 事業所単位で支給 処遇の柱を整えたい
短時間労働者労働時間延長 所定労働時間を延長し社保適用へ 1人単位で支給 「年収の壁」対策
障害者正社員化 障害のある有期雇用などを正社員転換 1人あたりの手厚い支給 障害者雇用を正社員に

出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」(令和8年度)をもとに作成。詳細は最新の支給要領をご確認ください

正社員化コース(中小企業1人最大80万円・大企業60万円)

正社員化コースは、有期契約労働者などを正規雇用へ転換した場合に支給される、もっとも利用されているコースです。中小企業の場合、有期から正規への転換で1人あたり最大80万円(大企業は60万円)が支給されます。

対象人数は同一事業所で年間最大20人まで。これは「同一の支給対象期内に支給申請できる人数の上限」として運用されています。計画的に転換を進めれば、人件費に対するインパクトの大きさが見えてくるでしょう。

支給は、転換後に6カ月分の賃金を支払い終えた後となるのが基本。資金繰り上は「すぐ入金される制度」ではない点も、合わせて押さえておきましょう。

正社員化コース 採用から入金までの時間軸

「すぐ入金される制度」ではない点を、最初に押さえる

  • STEP 1

    採用(有期雇用などで雇用開始)

    時間軸はここから始まります。

  • STEP 2

    6カ月以上 自社で雇用

    在籍期間要件をここで満たします。

  • STEP 3

    キャリアアップ計画を労働局へ事前届出

    転換前に必ず届け出ます(後出し不可)。

  • STEP 4

    正社員へ転換

    就業規則の正社員転換規定に沿って実施します。

  • STEP 5

    転換後6カ月分の賃金を支払う

    賃金台帳・出勤簿で実績を残します。

  • STEP 6

    支給申請(6カ月経過から2カ月以内)

    期限を1日でも過ぎると失権するため要注意です。

  • STEP 7

    労働局による審査

    差し戻しが入ることもあります。

  • GOAL

    入金

    要件を満たした時点から入金まで概ね半年〜1年が目安。

資金繰りは「もらえる前提」ではなく、「もらえたら投資回収が早まる」位置づけが現実的です。

賃金規定等改定コース・共通化コース

賃金規定等改定コースは、基本給の賃金規定を改定し3%以上引き上げた事業主が対象です。「人を正社員にする」のではなく、「非正規のままでも処遇を引き上げる」局面を後押しします。

賃金規定等共通化コースは、正規雇用労働者と共通の賃金規定を新たに設けて適用した場合に支給されます。正社員と非正規の賃金テーブルを同じ土台にそろえる動きを、金銭面で支える設計です。

どちらも、賃金規定や就業規則の整備とセットで初めて要件を満たします。社労士に相談しながら、就業規則の改定と申請を並行で進めていくのが現実的な進め方といえるでしょう。

賞与・退職金制度導入コース/短時間労働者労働時間延長コース/障害者正社員化コース

賞与・退職金制度導入コースは、有期契約労働者などへの賞与または退職金制度を新たに設けた事業主を対象にする制度です。「正社員にする手前で、まずは処遇の柱を整える」という選択肢を後押しします。

短時間労働者労働時間延長コースは、いわゆる「年収の壁」対策としても活用されるコースです。短時間労働者の所定労働時間を延長し、社会保険の被保険者にすることで支給対象になります。

障害者正社員化コースは、障害のある有期雇用労働者などを正社員に転換した場合のコースです。中小企業では1人あたりの支給額がさらに手厚くなる設計で、共生社会の実現と中小企業の人材戦略を同時に支えます。

各コースとも、年度ごとに細目が見直されます。公式の支給要領を必ず参照してください。

令和8年度の主な変更点と加算メニュー

毎年改正される助成金のなかでも、キャリアアップ助成金は変更点が多い制度です。令和8年度は、「多様な正社員」「人材開発支援助成金との併給」「賃上げ」を組み合わせた加算メニューが拡充されました。

「昨年の知識で申請する」のがもっとも危ない領域です。最新の支給要領を読み解き、自社が取りに行ける加算を見極める姿勢が欠かせません。

令和8年度 主な加算メニュー3軸

自社が取りに行ける加算を、計画段階で見極める

A

多様な正社員
(職務・勤務地限定)

育児や介護で時間と場所に制約がある方を、無理なく正社員化していくための加算。

B

人材開発支援助成金
との併給加算

転換前の訓練と組み合わせて、人材投資全体で単価を引き上げる加算。

C

賃上げ要件
加算

正社員化と同時の賃上げで取りに行く加算。中長期の利益計画との整合が必須。

出典: 厚生労働省「キャリアアップ助成金」令和8年度ご案内 をもとに作成

多様な正社員(職務限定・勤務地限定)への加算

「多様な正社員」とは、職務や勤務地、勤務時間を限定する形で雇用される正社員のことです。例えば「ある支店のみで勤務する正社員」「総務業務のみを担う正社員」といった働き方が該当します。

職務や勤務地が限定されていても、雇用契約期間が無期であること。さらに社会保険や賞与・退職金などの処遇が一般の正社員と同等なら、正社員化コースの対象になります。育児や介護で時間と場所に制約がある方を、無理なく正社員化していくための重要な選択肢といえるでしょう。

ここは、社労士へんみちゃんさんのYouTube解説でも「令和8年度の最新動向」として取り上げられていた論点です(参考: 社労士へんみちゃんネル「令和8年度の主な変更点」)。

人材開発支援助成金との併給メリット

キャリアアップ助成金は、人材開発支援助成金との併給で加算を取りに行ける設計です。具体的には、正社員化コースで転換する前に、人材開発支援助成金の対象訓練を一定時間実施します。その結果として、正社員化コースの単価に上乗せが入る設計です。

「育てて、転換し、定着させる」という流れを、2つの助成金で同時に設計できる点が魅力です。訓練のテーマと正社員化の対象者を、計画段階から束ねて考えるのがポイントになります。

訓練の組み合わせ次第で、1人あたりの単価が40万円から80万円に伸びるケースがある」と解説する社労士の方もいます(参考: わがまま社労士の人財革命チャンネル)。コース単体ではなく、人材投資全体で見る視点が大切です。

賃上げ要件を満たすときの加算と注意点

加算メニューのなかでも、賃上げ要件は近年とくに重みを増しています。正社員化と同時に基本給を一定割合以上引き上げると、単価に加算が入る設計が代表的です。

注意したいのは、賃上げ要件は「将来の賃金を増やす」約束をともなう点です。要件を満たせないまま運用が崩れると、加算分の返還や減額を求められる場合があります。

加算を取りに行くなら、賃上げ原資を中期の利益計画にあらかじめ織り込んでおくことが前提条件。助成金の単価だけを見て賃上げを決めるのは危うい進め方です。「自社の利益構造で、いくらまでなら賃上げを続けられるか」を、経営者の言葉で先に決めておきましょう。

申請の流れと「いつ・誰が・何を」やるか

キャリアアップ助成金は、「キャリアアップ計画→正社員化→6カ月の賃金支払い→支給申請」という時間軸で動きます。社内で誰が何を担当するかを最初に決めておきましょう。要件を満たしていても、書類が間に合わず失権するもったいない事態を避けるためです。

ここでは、申請までの動線を3つの工程に分けて見ていきましょう。

正社員化コース 申請の4ステップ

1

キャリアアップ計画
事前届出

取り組み開始前に必ず労働局へ

2

就業規則を改定し
正規雇用へ転換

転換規定の整備が前提

3

転換後6カ月
賃金を支払う

賃金台帳・出勤簿で実績を残す

4

支給申請
(2カ月以内)

6カ月経過の翌日から2カ月以内

期限を1日でも過ぎると失権します。「いつ・誰が・何を」をカレンダーに落とし込みましょう。

キャリアアップ計画の作成と労働局への届出

最初の工程は、キャリアアップ計画の作成と労働局への届出です。計画には、対象となる労働者・取り組み内容・実施時期などを記載します。

ここで重要なのが「取り組みを始める前に届け出る」という順番です。先に正社員化を済ませてから計画を出しても、原則として対象外になってしまいます。

社内では、人事担当者や経営者自身が中心となって、社労士と連携しながら案を固めるのが現実的です。事業計画とも整合させると、計画書の説得力が増します。

正社員転換と6カ月の賃金支払い実績の確保

計画の届出が済んだら、就業規則の整備と対象者の正社員転換を実施します。就業規則に「正社員転換に関する規定」が明記されていることが、申請の前提です。

転換後は、6カ月分の賃金を確実に支払い、賃金台帳・出勤簿に正しく記録します。ここで支給要件が満たされたかどうかは、書類の整い具合に左右される部分が大きいといえます。

賃金支払い期間中に当該労働者が退職してしまうと、対象から外れる場合があります。転換のタイミングは、本人の意向と仕事の繁閑期とを照らしながら丁寧に決めましょう。

支給申請(転換後6カ月経過から2カ月以内)と添付書類

最後の工程が支給申請です。正社員転換後6カ月の賃金支払いが終わったら、その翌日から2カ月以内に労働局へ支給申請書を提出します。

添付書類は、キャリアアップ計画書・就業規則・賃金台帳・出勤簿・労働条件通知書など多岐にわたります。申請書類の取得方法と注意点を解説する社労士の方もいます(参考: 助成金のお兄さん)。

社内で書類を一元管理しておくと、申請段階で慌てずに済みます。「1人転換するごとに、書類一式を1セットまとめておく」ぐらいの運用が安全です。

支給申請時の添付書類チェックリスト

1人転換するごとに、書類一式を1セットまとめておく運用が安全

経営者がキャリアアップ助成金を活かす3つの判断軸

助成金は「もらえるから動く」のではなく、「自社の人材戦略上の意思決定を後押しする道具」として使うのが本筋です。順序を逆にすると、転換後の人件費負担や定着のしくみが追いつかず、せっかくの正社員化が空回りしてしまうことがあります。

ここでは、中小企業の経営者が事前に固めておきたい判断軸を3つの視点から見ていきましょう。

経営者の意思決定3ステップ

助成金は最後の工程に置く。主役は自社の人材戦略

1

事業計画との整合を確認

正社員化が向こう3年の事業計画と整合しているか、複数の視点で点検します。

2

賃上げ原資を利益計画に織り込む

粗利の伸びで賃上げをまかなえるか、中長期の利益計画で点検します。

3

社労士・支援機関を使う前提で工数設計

管理部の時間を本業に向ける割り切りで、伴走を入口から組み込みます。

補助金や助成金は強力な追い風。けれども進む方角を決めるのは、経営者自身の戦略です。

正社員化が事業計画と整合しているか

最初の判断軸は、正社員化が自社の事業計画と整合しているかです。助成金が出るからといって、業務量や売上の見通しがないまま転換を進めるのは危険な選択といえます。

確認したいのは、「この方を正社員として処遇する根拠が、向こう3年の事業計画のなかにあるか」という問いです。受注見通し・取引先の方針・採用市場の動きなど、複数の視点で重ねて見直してみましょう。

コントリ編集部が経営者の方々から繰り返し伺ってきたのは、「正社員化は入口より、出口(=長く働ける土台)が大事」という言葉。入口の助成金より、長く働ける環境設計にこそ、経営者の時間を使いたいところです。

賃上げ原資を中長期の利益計画に織り込めるか

次の判断軸は、賃上げ原資を中長期の利益計画に織り込めるかです。令和8年度の加算メニューは賃上げを軸に据えており、加算を取りに行くなら賃上げ計画とセットで設計する必要があります。

具体的には、「今後3年で年率○%の賃上げを続けるとして、粗利の伸びでまかなえるか」を経営者の目で点検します。粗利の伸びが追いつかないなら、賃上げ幅を見直すか、生産性向上の打ち手を同時に動かすかの判断が必要です。

ご縁あって雇用した方の処遇を、後から下げざるを得ない状況は避けたいもの。助成金の単価よりも、自社の利益構造の体力を基準に置いた決断が、結果として人材定着につながります。

社労士・支援機関を「使う前提」で工数設計する

最後の判断軸は、社労士や支援機関を「使う前提」で工数設計することです。キャリアアップ助成金は、書類の量も論点の幅も大きく、はじめての申請を完全自社対応で乗り切るのは現実的ではありません。

「申請料はかかるが、管理部の時間を本業に向けたほうがプラスが大きい」と割り切れるなら、社労士の伴走を入口から組み込む決断が早く進むはずです。賃上げと社員エンゲージメントの関係については「中小企業の社員エンゲージメントの高め方」もあわせてご覧いただけたらと思います。

つながりを頼ることは、決して弱さではありません。よいご縁が、申請の質も人材定着の確度も高めてくれます。

よくある質問(FAQ)

Q. 1社で複数のコースを併用できますか?

原則として併用は可能です。たとえば正社員化コースで非正規労働者を正社員へ転換し、賃金規定等改定コースで賃金テーブルを引き上げる組み合わせがよく使われます。ただしコースごとに要件と申請期限が異なります。キャリアアップ計画の段階でどのコースを使うかを設計しておくと、混乱を防げるでしょう。

Q. 申請してから入金まで、どのくらいの期間がかかりますか?

正社員化コースの場合、転換後6カ月の賃金支払い実績が必要で、その後2カ月以内に支給申請を行います。労働局での審査を経て入金されるため、要件を満たした時点から入金まで概ね半年〜1年の幅で見ておくと安全です。資金繰り上は「もらえる前提」ではなく、「もらえたら投資回収が早まる」という位置づけが現実的です。

Q. 社労士に依頼せず自社で申請できますか?

自社申請も制度上は可能です。ただしキャリアアップ計画書・就業規則の改定・賃金台帳の整備など、論点と書類が多岐にわたります。労働局からの差し戻しも珍しくありません。はじめての申請や複数コース併用を考える場合は、社労士の伴走が時間と機会損失のリスクを抑えてくれます。

Q. 正社員化コースは、いつ転換した方が対象になりますか?

転換時点で有期雇用などとして6カ月以上自社に在籍している必要があります。さらに、キャリアアップ計画の事前届出が転換よりも前に済んでいることが大前提です。「いつ採用した方を、いつ転換するか」をカレンダーで設計してから動き始めてください。

Q. 賃上げ要件の加算を取らずに申請することもできますか?

はい、賃上げ加算を選ばずに基本部分のみで申請することは可能です。賃上げを継続できるか不安がある場合は、無理に加算を狙わないことが大切。まずは基本部分の確実な受給と人材定着の体制づくりを優先する進め方が現実的です。加算は、利益計画が固まったタイミングで次の申請に組み込めば十分でしょう。

編集部より

非正規で来てくれた方を正社員にする決断には、数字の計算を超えた重さがあります。お話を伺うたびに、経営者の方の責任の重さと、ご縁を結んでくれた方への温かいまなざしに、胸が熱くなるのです。

キャリアアップ助成金は、その決断を国が後押ししてくれる制度。けれども主役は、いつだって経営者の方の人材戦略と覚悟です。助成金は、その背中をそっと押す追い風にすぎません。

小さな一歩に見えても、それが会社の未来を変える大きな力になります。ご縁あって出会えた方の力を信じて、次の人材戦略へと踏み出していただけたらと願っています。私たちコントリも、そのご縁の中で、できる限りの伴走を続けてまいります。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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