コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

年商135億円をつくった社長が見ている、人・物・金という視点

年商135億円をつくった社長が見ている、人・物・金という視点

「決算書を見るのが苦手」「PL・BSと聞くと、それだけで身構えてしまう」。そう感じている社長は、決して少なくありません。実は経営で行き詰まる原因は、それほど複雑なものではないのです。突き詰めれば、人・物・金という3つの資源のうち、どこか一つがボトルネックになっているだけです。

中古車販売事業を7期で年商135億円まで伸ばした企業の話です。BUDDICA代表の中野氏は、財務の専門知識がなくても、この3つを見極める視点があれば経営判断は続けられると語ります。本記事では、人・物・金のボトルネックの見つけ方と、経営者が使うべき数字の考え方を解説します。辞めない組織のつくり方も、実例とともにご紹介します。数字が苦手な方にこそ、読んでいただきたい内容です。

社長が数字に苦手意識を持つのは、当然のこと

経営で行き詰まる社長の多くは、実は数字に弱いのではありません。どこを見ればいいかが、整理できていないだけです。 見るべきは人・物・金という3つの資源のうち、どこがボトルネックになっているかという一点です。

会社を経営していると、こんな感覚を覚えたことはないでしょうか。「売上は伸びているのに、なぜか手元にお金が残らない」。この感覚の正体は、たいてい人・物・金のどこかで起きている機能不全です。原因を探すとき、決算書の細部を読み解く力より先に必要なのは、3つの資源のどこが詰まっているかを見極める視点です。

売上は伸びているのに、利益が残らない社長に共通する視点

売上と支出くらいは、多くの経営者が把握しているものです。しかし「そのお金をどこに投資すべきか」という判断になると、途端に迷いが生じます。表面の数字の奥にある構造、つまり資金がどこで滞っているのかまで見えている社長は、意外なほど少ないものです。

会社という仕組みは、健康診断の結果に近いといえます。数字を細かく分析することよりも、まず「どこが悪いのか」という当たりをつける方が、実務上はずっと役に立ちます。

起業した瞬間、経営者に降りかかる「全部自分でやる」という現実

会社員として働いていたときは、営業・経理・採用のどれか一つを担当していれば十分でした。ところが社長になった瞬間に訪れるのは、すべてを一人で背負う現実。営業だけは得意でぐいぐい売上を伸ばせても、その先の資金繰りや採用でつまずく社長も、決して珍しい話ではないでしょう。

ここで一つ、私が感じてきた実感を共有します。会社の規模にかかわらず、経営者が最初にぶつかる壁は「何から手をつけていいか分からない」という漠然とした不安です。この不安の大半は、経営という仕事の重さそのものではなく、構造が見えていないことによる重さだといえるでしょう。

経営を支える3つの資源――人・物・金
採用・育成・定着を支え、現場を動かす力になる
在庫・設備を回転させ、売るものを用意する力になる
人と物を動かす元手として、両者をつなぐ力になる
※どこか一つが細くなると、会社の成長はそこで止まる

経営のボトルネックは、人・物・金の3つに集約される

会社が伸び悩む原因は無数にあるように見えても、突き詰めれば人・物・金のいずれかの機能不全に行き着くものです。瓶の首の細い部分を広げると、また別の場所が細くなる。この繰り返しで、会社は段階的に大きくなっていきます。

BUDDICA代表の中野氏によれば、この3つの資源配分こそが社長の判断そのものとのことです。今は人を育てる段階なのか、資金を調達して商品を増やす段階なのか、それともマーケティングで攻めに転じる段階なのか。どこに重心を置くかという見極めこそが、経営における最も難しい判断です。

目指すゴールの規模によって、必要な人員や資金の桁も変わってきます。以下では、人・物・金それぞれのボトルネックが、具体的にどう現れるのかを見ていきます。

人のボトルネック――採用できない、辞めていく

総務省統計局「労働力調査」 でも、生産年齢人口の減少傾向が続いているとのことです。こうしたなか、人の問題でつまずく経営者が目立つようになりました。組織には物理的に人が必要ですが、人を増やすだけでは解決しません。生産性が育たないまま人員だけが増えると、人件費が固定費として重くのしかかる構造です。その結果として現れるのが、利益率の低下です。

「人さえ確保できれば、もっとできるのに」と感じている経営者は、意外と多いものです。人のボトルネックを解消すると、他の資源をうまく活かせるようになる場面が増えます。

金のボトルネック――回転させる元手がなければ、売るものがない

どれだけ優秀な営業担当者が揃っていても、売る商品や在庫がなければ成果は出ません。在庫や設備を回転させる元手、つまり資金がボトルネックになっている会社は少なくありません。

BUDDICAの例で考えると、この構造が分かりやすくなります。10億円の在庫資金を年12回転させれば、120億円の売上になります。元手が1億円しかなければ、同じ10回転でも10億円にしかなりません。営業が100人いても、車の在庫が10台しかなければ意味がないのです。100人で10台を奪い合うだけで、次に売る車が足りなくなるだけです。

マーケティングのボトルネック――商品設計から流通まで

「マーケティング」という言葉が指す範囲は、思っている以上に広いものです。商品設計、価格設定、認知の獲得、そして流通まで、すべてがこの領域に含まれます。良い商品ができていても、知られなければ届かないままです。届いても売り切る仕組みがなければ、在庫として売れ残ってしまうのです。

たとえば商品を2,980円で売るか、3,980円で売るかという価格設定も、極めて重要な経営判断です。安く設定すれば数は売れる一方、そこに立ちはだかるのが人手不足という壁。利益を厚く取って広告を打つのか、薄利多売でシェアを取りにいくのか。この蛇口の開け閉めを経営フェーズに応じて判断するのが、社長の役割だといえます。

3つのボトルネック、機能不全のサインはどこに出るか
採用できない・辞めていく
人員は増えても定着せず、現場が回らなくなる
物・金
在庫・設備を回せない
売る商品や在庫を用意する元手が足りず、営業人員が余る
マーケ
知られない・売り切れない
商品や認知が届かず、在庫が滞留してしまう

数字は経営者の共通言語――粗利率と回転率で儲かる仕組みを見る

利益率だけを見て満足する経営者は少なくありません。しかし実際に会社にお金が残るかどうかを決めるのは、利益率と回転率のかけ算です。

BUDDICAの粗利率は15%です。車の販売単体では業界平均で10%程度とされる水準です。コーティングや整備といった付帯サービスを含めて、ようやく15%が上限の目安です。決して高い数字ではありませんが、この水準で年商135億円という規模を実現しました。粗利率をどこに設定するかは、他社のIR情報なども参照しながら、社内で議論を重ねて決めているとのことです。

利益率だけでなく、回転率も掛け合わせて見る
利益率
×
回転率
=
会社に残るお金
利益率が高くても、回転が遅ければ残るお金は増えない。逆に利益率が低くても、回転が速ければ残るお金は大きくなる。

100万円使って10万円稼ぐ人と、1,000万円使って50万円稼ぐ人はどちらが優秀か

売上と粗利だけを追いかけていると、見落としがちな視点があります。1,000万円を使って50万円の利益を出す場合の利益率は5%です。一方、100万円を使って10万円の利益を出す場合は利益率10%になります。数字だけを見れば後者の方が効率的で、同じ元手なら10回転できる分、会社に残るお金が膨らむということです。

利益率と回転率を掛け合わせて評価する仕組みがなければ、この差には気づけません。 BUDDICAでは、仕入れ担当者ごとに予算を設け、1人あたりの回転率を指標として管理する仕組みです。お金の使い方を社内に公開している会社は珍しいといいます。この可視化があるからこそ、機能不全に陥っている箇所を早く見つけられるのです。

一度きりの販売から、関係が続く販売へ――LTVという発想

ここで欠かせないのがLTV(顧客生涯価値)という指標です。LTVとは、1人の顧客が取引を始めてから終えるまでに、会社にもたらす利益の総額のことです。売って終わりの商売と、その後も関係が続く商売とでは、1人の顧客にかけられる予算がまったく変わってきます。

たとえば月5,000円のサービスを10年間利用してもらえれば、LTVは60万円です。この視点があれば、獲得コストに10万円をかけても、十分に採算が合うと判断できます。反対に、1回限りの取引で関係が終わってしまえば、同じ10万円の獲得コストはそのままマイナスになってしまいます。

顧客LTVの計算方法 は、業種を問わず経営判断の土台になる考え方です。BUDDICAでも、来店した顧客が友人を紹介したり、下取りや車検を任せてくれたりする場面が増えています。そうして単価が積み上がって初めて、広告予算をかけられる余地が生まれるといいます。

同じ1,000万円の元手、どちらが会社に残るお金は大きいか
比較項目 1,000万円使って50万円稼ぐ 100万円使って10万円稼ぐ
利益率 5% 10%
同じ1,000万円での回転回数 1回 10回
最終的な利益額 50万円 100万円

「網の目理論」――辞めない組織を、資金調達より先につくる

いくら資金を調達しても、回転が悪ければ会社にお金は残りません。人も同じで、辞めていく穴を塞がないまま採用を増やしても、労力が漏れ続けるだけです。

BUDDICA代表の中野氏は、人が増えない最大の要因は採用できないことではなく、辞めていくことだと語っています。先に取り組むべきは、入り口を広げることよりも出口を締めることだといいます。

網の目を細かくしてから資金を調達し、そのあとに教育投資へ進むという順番です。BUDDICAではSNSでの発信を採用の入口として活用しており、この順序を守ることで組織に人材が定着してきたといいます。

入り口を広げる前に、出口を締める

採用してきた人材が定着せず辞めていく状態のまま、採用予算だけを増やしても、効果は限られます。穴の開いたバケツに水を注ぎ続けるのと、同じ状態だからです。 辞めていく理由を一つずつ潰し、網の目を細かくすることが最初の一手だといいます。出口が締まって初めて、入り口から入れた人材が組織に溜まっていきます。

その後に取り組むのが教育です。せっかく教育の手間をかけても、辞めてしまえば意味がありません。定着という土台があって初めて、教育投資という支出が意味を持ちます。

評価軸を「台数」から「粗利」に変えた理由

BUDDICAが営業担当者を増やし始めた当初、評価軸をどこに置くべきかという議論があったといいます。価格設定を会社側でコントロールしているため、販売台数で評価するか、粗利で評価するかという選択肢がありました。最終的に、評価軸は粗利に決めたそうです。

かつては1台あたりの粗利が5万円という時期もあり、売上を100万円にすること自体が大変な状況でした。ブランドへの投資や個人の生産性向上に取り組んだ結果、現在は平均20万円前後まで水準が上がっているといいます。月商にすると、200万〜300万円程度の水準です。評価軸を明確にしたことが、社内の意思決定を速くする土台になったと考えられます。

朝の光が差し込む、書類の並ぶ静かな執務スペース

数字を軸にした経営判断は、経営者の思考法 を鍛える過程とも重なります。判断の基準を社内で明文化することが、その第一歩です。そのうえで右腕となる人材 と共有できれば、社長一人がすべての判断を抱え込まずに済みます。 コントリは、こうした経営者の判断基準を自分の言葉で語っていただく場を、経営者インタビューを通じてつくり続けています。

なお、今回取り上げた内容の元になっている動画は、以下から視聴できます。

まとめ|数字は、社員を守るための武器になる

経営の数字感覚は、経営者自身のためだけでなく、そこで働く社員の生活を守るための武器になります。人・物・金のどこにボトルネックがあるかを見極める視点は、専門的な財務知識がなくても身につけられるものです。

筆者は、決算書の数字を前にすると身構えてしまう時期がありました。しかし人・物・金という3つの軸で捉え直すと、見るべき場所は驚くほど絞り込めます。 難しいのは数字の計算そのものではなく、どこを見るかという視点の持ち方です。

まずは自社の粗利率が、業界の平均に対してどの水準にあるかを確認してみてください。そこから、人・物・金のうち今どこが成長を止めているのかを1つ特定します。それだけで、次に投資すべき場所がおのずと見えてきます。

よくある質問

Q1. 経営者が最初に鍛えるべき数字感覚とは何ですか。

PL・BSを細部まで読み解く力ではなく、人・物・金のどこにボトルネックがあるかを見極める視点です。3つのうちどこが会社の成長を止めているかが分かれば、次に投資すべき場所が自然に定まります。

Q2. PL・BSが苦手でも、経営を続けることはできますか。

できます。財務諸表を精緻に読めなくても、経営判断の精度は大きく変わります。粗利率・回転率・LTVといった数個の指標を、定点観測できれば十分だからです。 まずは自社の粗利率が業界平均に対してどの水準かを把握することから始めましょう。

Q3. 人・物・金、どれから手をつければよいですか。

現時点で最も足を引っ張っている資源からです。人が採用できず現場が回らないなら、人から手をつけます。資金が足りず在庫や設備が用意できないなら、金から着手します。商品や販路が整っていないなら、マーケティングを優先します。今のボトルネックを1つ特定することが、最初のステップです。

Q4. LTVはどの業種でも重要な指標ですか。

重要度は業種によって変わりますが、考え方自体はほぼ全業種に応用できます。1回限りの取引で終わる商売より、顧客との関係が続く商売の方が、同じ獲得コストをかけられる余地が大きくなります。

Q5. 資金調達と人材確保、どちらを優先すべきですか。

資金だけを先に増やしても、対応できる人材がいなければ回転させられません。反対に人材だけ増やしても、扱う商品や在庫がなければ稼働できません。両者は連動するため、まず自社のボトルネックがどちらにあるかを見極めた上で、そちらに優先的に資源を配分します。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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