
セブン銀行のビジネスモデル|手数料0円でも儲かる銀行
コンビニでお金を引き出したとき、手数料が0円だったという経験は多くの方にあるのではないでしょうか。では、その0円のATMを運営するセブン銀行は、どこで稼いでいるのでしょう。
セブン銀行のビジネスモデルは、ATMという「通り道」を金融機関に貸し、利用1件ごとに通行料を受け取る仕組みです。お金を払うのは利用者ではありません。利用者の口座がある約700の提携金融機関が、セブン銀行にATM受入手数料を支払います。
2026年3月期は、連結経常収益2,200億円の約72%がこの手数料でした。出典はセブン銀行の決算短信(2026年5月)です。利用者の手数料が0円でも収入が減らないのは、この構造があるからです。
本記事の主な材料は、コントリ編集部がまとめたビジネスモデル研究ノートです。最新の決算資料と照らし合わせ、お金の流れ、真似されにくい理由、次の一手、弱点の順に整理しました。最後に、中小企業が自社に置き換えられる4つの問いにまとめました。自社の「本当の顧客」を見直すきっかけになれば嬉しく思います。
セブン銀行のビジネスモデルとは|ATMの「通行料」で稼ぐ銀行
セブン銀行は、預金を集めて貸し出す一般的な銀行とは、収益の柱がまったく違います。2026年3月期の連結経常収益2,200億円のうち、約7割がATM受入手数料でした。銀行免許を持ちながら、実態はATMという「通り道」を貸すインフラ事業者に近い会社です。
融資の利ざやではなくATM受入手数料が収益の柱
一般的な銀行は、預金を集めて企業や個人に貸し出し、金利の差で稼ぎます。この金利の差を「利ざや」と呼びます。例えば、預金に年0.2%を払い、貸出で年1.5%を受け取れば、その差が銀行の取り分です。
セブン銀行の稼ぎ方は違います。主な収入は、提携金融機関から受け取るATM受入手数料です。ATM受入手数料とは、提携先のお客さまがATMを使ったときに、その金融機関が払う手数料のことです。
セブン銀行は2001年に「アイワイバンク銀行」として設立され、2005年に現在の社名になりました。親会社はセブン&アイ・ホールディングスです。事業の柱は、国内事業、クレジットカード・電子マネー事業、海外事業の3つです。
私たちコントリ編集部がこのモデルに注目したのは、「銀行なのに、融資で稼いでいない」という一点でした。業界の常識と違う場所に収益の柱を立てた会社は、学べる点が多いものです。
一般的な銀行とセブン銀行の違いを比較表で見る
違いを、収益源・顧客・拠点・現金の使い方の4つで並べました。
| 項目 | 一般的な銀行 | セブン銀行 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 主な収益源 | 貸出金利息などの利ざや | ATM受入手数料が連結経常収益の約72% | 2026年5月 決算短信 |
| お金を払う顧客 | 預金者・借り手 | 提携金融機関等696先 | 決算短信 2026年5月 |
| 主な拠点 | 支店・自行ATM | 国内ATM28,536台(うちセブン-イレブン内23,179台) | 2026年5月 決算説明資料 |
| 手元の現金 | 貸出や運用に回す | ATM運営用の現金預け金が総資産の過半 | 決算短信 2026年5月 |
表の最後の行を、数字で確かめておきましょう。2026年3月末の総資産は1兆5,457億円でした。
そのうち8,962億円が、ATM運営に必要な現金預け金です(決算短信 2026年5月)。現金預け金とは、手元の現金と日本銀行などへの預け金を合わせたもののことです。お金を貸すためではなく、ATMに入れておくために資産の過半を持っている銀行。この一点に、事業の性格がよく表れていると言えるでしょう。
経営者の挑戦と決断のストーリーを、インタビューでお届けしています。
お金の流れを図解|利用者の手数料が0円でも収入が減らない理由
セブン銀行ATMで利用者が払う手数料は、利用者の口座がある金融機関の収入です。セブン銀行の収入は、その金融機関から受け取るATM受入手数料で、2026年3月期の1件あたり単価は105.7円でした。提携先が利用者向けの手数料を無料にしても、セブン銀行の受取額は直接には変わりません。
三者の関係を図にすると、次のようになります。
利用者・提携金融機関・セブン銀行の三者の関係
お金の流れを、順番に追ってみましょう。
1つめは、利用者と提携金融機関の間の流れです。利用者は、自分の口座がある金融機関のキャッシュカードでセブン銀行ATMを使います。このときの利用手数料は、口座のある金融機関が決め、その金融機関に払います。無料に設定している金融機関もあります。
2つめは、提携金融機関とセブン銀行の間の流れです。提携金融機関は、利用件数に応じてATM受入手数料をセブン銀行に支払います。自前のATMを全国に置く代わりに、セブン銀行のATM網を借りる対価です。
3つめは、セブン銀行と設置先の間の流れです。逆向きの支払いもあります。ATMを置かせてもらう店舗側へのATM設置支払手数料です。単体での2026年3月期の金額は180億円でした(決算説明資料 2026年5月)。
利用者からセブン銀行へ、直接お金が流れる道はありません。BtoC(消費者向け)に見えて、実はBtoB(企業向け)の商売。このねじれこそが、研究ノートで最も重視したモデルの本質です。
本当の顧客は696先の提携金融機関
セブン銀行にとって、お金を払ってくれる顧客は利用者ではなく提携金融機関です。2026年3月末の提携金融機関等は696先でした(決算短信 2026年5月)。銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、JAバンク、証券会社、カード会社、電子マネー事業者などが含まれます。
提携金融機関の側から見ると、損得の計算はシンプルです。自前でATMを全国に置けば、機械代、設置場所、現金の補充、警備に大きな費用がかかります。セブン銀行のATM網を使えば、使われた分だけ手数料を払えば済みます。
言い換えると、セブン銀行は「自前でATMを持つより安い」という選択肢を金融機関に売っていると言えます。商品はATMの機械ではなく、全国どこでも使える現金の出入口です。
提携先の「手数料無料」がATM利用を増やす構造
ネット銀行などが「コンビニATM手数料無料」を打ち出したとしましょう。その金融機関の利用者は、セブン銀行ATMを気軽に使うはずです。利用件数が増えれば、セブン銀行の受入手数料収入も増えます。
つまり、提携先どうしの手数料値下げ競争が、セブン銀行にとっては追い風になりやすい構造です。顧客である金融機関が利用者へのサービスを競うほど、そのサービスを支える土台が使われます。
ただし、受入手数料の単価は一定ではありません。2026年3月期の単価は105.7円で、前期の106.5円から0.8円下がりました(決算説明資料 2026年5月)。単価は提携先との交渉や利用の中身で動くため、件数と単価の両方を見ておく必要があります。
数字で見るセブン銀行|2026年3月期決算のポイント
2026年3月期のATM総利用件数は11億2,200万件で、過去最高です。国内のATM設置台数は28,536台、1台1日あたりの平均利用件数は109.2件です。一方で、クレジットカード事業の減損損失により、純利益は前期比26.0%減となりました。
経常収益2,200億円のセグメント別内訳
経常収益とは、銀行の売上高にあたる数字のことです。例えば、手数料や利息など、本業とその周辺で得た収入の合計を指します。
2026年3月期の連結業績は、経常収益2,200億円(前期比2.6%増)、経常利益301億円(同0.4%減)でした。親会社株主に帰属する当期純利益は134億円で、前期比26.0%減です(決算短信 2026年5月)。
セグメントとは、会社の事業を種類ごとに分けた区分のことです。例えば、飲食店なら「店内飲食」と「持ち帰り」を分けて集計するイメージです。セグメント別に見ると、稼ぎ頭がはっきりします。国内事業は経常収益1,467億円、経常利益271億円でした。海外事業は経常収益436億円、経常利益35億円です。クレジットカード・電子マネー事業は経常収益306億円で、5億円の経常損失となりました。
利益の大部分を生むのは、国内事業です。ATMの強さが、会社全体の利益を支えている構図です。
ATM28,536台・年11億件という規模
2026年3月末の国内ATM設置台数は28,536台で、前期末から546台増えました(決算短信 2026年5月)。内訳は、セブン-イレブン内が23,179台、それ以外が5,357台です。駅や商業施設、空港など、店舗の外への設置も伸びてきました。
年間の総利用件数は11億2,200万件で、前期より3,300万件増えました。1台1日あたりでは109.2件です。
キャッシュレス化が進むなかで、なぜ件数が増えたのか。同社が挙げる理由は2つです。預貯金金融機関の取引が底堅かったこと、そして各種キャッシュレス決済への現金チャージが堅調だったことです。
キャッシュレス決済への現金チャージとは、スマホ決済アプリなどに、ATMから現金で残高を入れる取引のことです。例えば、給料日にATMでスマホ決済アプリへ1万円を入れる場面が当たります。キャッシュレス化が、ATMの新しい使い道を生んでいる点は、直感に反する事実と言えるでしょう。
「収益の9割がATM」は今も正しいか
セブン銀行について「経常収益の約9割がATM受入手数料」という説明を見かけます。これは2020年前後の報道で広く使われた数字です(ダイヤモンド・オンライン 2021年3月など)。
2026年3月期の決算短信で計算し直すと、連結では約72%、セブン銀行単体では約81%でした。連結とは子会社を含めたグループ全体、単体とはセブン銀行1社だけの数字のことです。海外事業とクレジットカード・電子マネー事業が連結に加わった分、比率が下がった形です。
(ダイヤモンド・オンライン 2021年3月)
単体では約81%(1,160億円 ÷ 1,429億円)
私たちが研究ノートを作る際にも、この点は注意書きとして残しました。数字を引用するときは、「どの範囲の、どの年度の数字か」をセットで確認するのが安全です。
あなたの会社の強みを、
伝わる言葉にしませんか。
想いや現場知がうまく伝わらない——そんな経営者の言語化から発信までを、取材ベースで伴走支援しています。
なぜセブン銀行のモデルは真似されにくいのか
ATMという機械そのものは、どの金融機関でも調達できます。それでも同じ形が広がりにくいのは、コスト構造・設置密度・制度の読み方に独自性があるからです。コントリの研究ノートでは、これを3つの壁として整理しています。
壁1:店舗の売上金が現金補充の手間を減らす
ATM事業で大きな負担になるのが、現金の補充です。ATMは引き出しの利用が多いため、放っておくと現金が足りなくなります。補充のたびに警備会社の輸送が必要になり、その回数がそのままコストになります。
そこで組み合わせたのが、「売上金入金サービス」です。売上金入金サービスとは、飲食店などの法人が、その日の売上金をATMから自社口座に入金できるサービスのことです。セブン-イレブンの店舗の売上も、このサービスを使っているといいます(NTT東日本 2025年11月)。
店や企業が売上金を入れ、利用者がそれを引き出す。ATMに定期的な入金があるため、引き出しが多くても現金補充の回数を少なく抑えられる仕組みです。さらに店舗ごとの入出金の比率や紙幣の種類をデータで分析し、置いておく現金の量を最適化する工夫も重ねてきました。
この仕組みは、親会社の店舗網と切り離せません。セブン-イレブンの店づくりや本部と加盟店の関係については、「セブンイレブンのビジネスモデル」で詳しく扱っています。
壁2:2.8万台の設置密度が提携の理由になる
提携金融機関がセブン銀行を選ぶ理由は、「どこにでもある」ことです。国内28,536台という台数は、利用者には便利さそのものです。金融機関にとっては、自前でATMを持たない判断の根拠になります。
台数が多いほど提携先が増え、提携先が多いほど利用が増える。利用が多ければ、さらに設置を広げられる。
そんな循環が、このモデルの芯です。後発の事業者が同じ密度をつくるには、機械と設置場所への膨大な投資が必要です。しかも、提携先を集める前に台数を揃えなければなりません。
一度提携した金融機関にとっても、乗り換えは簡単ではありません。約700先との契約関係そのものが、時間をかけて積み上げた資産です。
壁3:提携ではなく自ら銀行免許を取った
3つめの壁は、制度の読み方です。セブン&アイグループは当初、既存の銀行と組んでコンビニにATMを置く道も検討しました。しかし既存銀行のATMを置くと「銀行の出張所」扱いになります。営業時間などに制約を受ける恐れがありました(NTT東日本 2025年11月)。
そこでグループは、自ら銀行免許を取る決断をします。2001年、アイワイバンク銀行として誕生したのが現在のセブン銀行です。
既存のルールの中で不利なら、ルールの外側から自分の土俵をつくる。この判断が、24時間使えるコンビニATMという今の形の出発点になりました。制度をどう読むかが、そのまま参入障壁になった例と言えます。
現金が減る時代の次の一手|ATMを手続きの窓口に変える
キャッシュレス化は、ATM事業にとって長期の逆風です。セブン銀行は、顔認証や本人確認書類の読み取りに対応した第4世代ATMへの入替を、2025年3月末に完了しました。さらに2026年6月からはファミリーマートへのATM設置が始まり、海外でも同じモデルを広げつつあります。
第4世代ATMと「+Connect」で手続きを受け付ける
第4世代ATMは、2019年から入替が始まった新型のATMです。NECの顔認証技術を使い、本人確認書類の読み取りにも対応しました。ATMでの口座開設も可能です(Impress Watch 2019年9月)。2025年3月末には、国内の全台で入替が完了しています(決算短信 2026年5月)。
この機能を使ったサービスが「+Connect(プラスコネクト)」です。+Connectとは、金融機関などの各種手続きをATMで受け付けるサービスのことです。例えば、銀行の窓口に行かなくても、近所のATMで住所変更の手続きができるイメージです。
研究ノートでは、この動きをATMの再定義と読み解きました。現金を出す機械から、本人確認と手続きの窓口へ、という変化です。
現金取引が減っても、本人確認や手続きの需要は残ります。決済アプリで利用者との接点を広げる動きと比べると、違いが見えてきます。「メルカリのビジネスモデル」もあわせてどうぞ。
ファミリーマートに約16,000台を設置する計画
研究ノートの作成後に確認した、大きな動きがひとつ。ファミリーマートは2026年6月1日から、店内に「ファミマATM」としてセブン銀行のATMを設置し始めました。4年程度で約16,000台を設置する計画です(ファミリーマート 2026年6月)。
これまでファミリーマートの店内には、別の事業者のATMが置かれていました。報道によると、それらをセブン銀行のATMに置き換えていく形です(マイナビニュース 2026年3月)。セブン-イレブンの外に置かれた台数は、2026年3月末で5,357台でした。そこへ競合チェーンの店舗網が加わる意味は小さくありません。
親会社の店舗網から始まったATMが、競合コンビニにも選ばれるインフラになりつつある。国内の設置余地が限られるという弱点に対する、一つの答えとも読めます。
米国・インドネシア・フィリピンへのモデル移植
海外でも、同じ考え方のATM事業を展開しています。
2025年12月末のATM設置台数は、米国が9,583台で前年比15.0%増でした。フィリピンは4,009台で、同14.0%増です(決算短信 2026年5月)。インドネシアは9,073台で同2.5%減です。マレーシアは2025年1月に設置を始めたばかりで、98台です。
海外事業の2026年3月期の経常収益は436億円、経常利益は35億円です。米国のFCTIがATMを置く先は、米国のセブン‐イレブン店舗などです。日本でつくったモデルを、コンビニの店舗網ごと海外へ持ち込む動きと言えます。
セブン銀行の弱点と課題|多角化は順風ばかりではない
ATM事業が好調な一方で、周辺事業には課題も見えてきました。クレジットカード・電子マネー事業は2026年3月期に経常損失となり、約80億円の減損損失を計上しました。強いモデルを持つ会社ほど、2本目の柱を育てる難しさに向き合っていることが分かります。
クレジットカード事業の減損と経常損失
クレジットカード・電子マネー事業の担い手は、子会社のセブン・カードサービスです。2026年3月期のセグメント経常損益は5億円の損失でした(決算短信 2026年5月)。さらに、このセグメントで約80億円の減損損失を特別損失として計上しました。特別損失とは、毎年は発生しない一時的な損失のことです。
減損損失とは、設備やシステムが見込みほど稼げないとき、帳簿上の価値を切り下げて出す損失のことです。例えば、1億円で作った仕組みが3,000万円分しか稼げないと見込めば、差額を損失として計上します。
2026年3月末のクレジットカード会員数は308万人で、前期末から2.8%減りました。2027年3月期も、カード事業の減損を主因に特別損失35億円を見込みます(決算説明資料 2026年5月)。
キャッシュレス化と国内設置余地の限界
長い目で見れば、現金を使う場面は減っていくと考えられます。足元では利用件数が過去最高を更新しているものの、この傾向が続くとは限りません。
国内の設置場所にも限りがあります。セブン-イレブン内の台数は2026年3月末で23,179台で、前期末からの増加は209台でした。店内の台数が大きく伸びる余地は、もう多くありません。ファミリーマートへの設置や+Connectは、こうした制約への対応と位置づけられます。
海外事業の拡大で増える為替・規制の影響
海外事業の経常収益は436億円となり、連結経常収益の約2割を占めるまでになりました。その分、為替レートや各国の規制、景気の影響を受けやすくなったと言えます。
実際、フィリピンでは利用件数が減りました。大手提携行の手数料有料化と景気減速が理由とされています(決算説明資料 2026年5月)。提携先の手数料が有料化されるとATM利用が減るという、日本とは逆向きの動きです。お金の流れの構造が同じだからこそ、提携先の判断が自社の件数を左右します。
なお、2027年3月期の連結業績予想は、経常収益2,355億円(前期比7.0%増)です。純利益は170億円(同26.1%増)を見込みます(決算短信 2026年5月)。
中小企業が持ち帰れる学び|「本当の顧客は誰か」を問い直す
セブン銀行のモデルには、ATMを持たない会社にも応用できる問いが詰まっています。起点は、利用者ではなく提携金融機関を顧客と定義したことでした。研究ノートの読み解きから、自社に置き換えやすい4つの問いにまとめます。
お金を払ってくれるのは誰かを定義し直す
セブン銀行のモデルは、「サービスを使う人」と「お金を払う人」を分けたところから始まっています。使う人は利用者、払う人は提携金融機関。この分け方が、利用者の手数料0円と自社の収益を両立させました。
中小企業でも、同じ見直しは可能です。例えば、介護用品の販売店なら、使う人は高齢者でも、選んで払う人は家族やケアマネジャーという場合が少なくありません。社員研修を売る会社なら、受講するのは社員で、払うのは経営者です。
まず、自社の主な取引を3つ書き出し、「使う人」と「払う人」を別々に書いてみてください。2つが違う取引が見つかれば、そこに新しい値付けや提案の余地があります。
他社の値下げが自社の追い風になる設計を探す
同業との値下げ競争に疲れを感じている経営者の方も、多いのではないでしょうか。提携先が利用者の手数料を無料にするほど、セブン銀行のATMは使われます。値下げ競争の「土台」の位置に立つと、競争が激しくなるほど自社が使われます。
中小企業に置き換えると、競合と同じ土俵で値下げを競うのではなく、競合全員が使う部品や工程を担う発想です。例えば、地域の工務店どうしが価格を競うなかで、共通して使われる現場管理や資材配送を引き受ける会社がこれに当たります。
自社の業界で、競合が共通して困っていること、共通して外に出していることを1つ挙げてみてください。そこが「土台」になれる場所の候補です。
最大のコストを本業の別の活動で相殺できないか
ATM事業の大きなコストである現金補充を、セブン銀行は売上金入金で抑えています。あるお客さまの「入れたい」と、別のお客さまの「出したい」をぶつけて相殺した形です。
この発想は業種を問いません。配送業なら、行きの荷物と帰りの荷物を組み合わせて空車を減らす工夫が近いでしょう。製造業なら、ある工程の端材を別の商品の材料に使う工夫も同じ考え方です。
まずは自社の費用のうち、上位3つを書き出してみてください。そのうえで、「このコストを減らしてくれる別のお客さまはいないか」と問いを立てると、組み合わせの候補が見えてきます。
既存の枠組みで不利なら枠組みごと取りに行く
セブン&アイグループは、既存銀行との提携では営業時間などの制約を受けると考え、自ら銀行免許を取りました。枠組みに合わせるのではなく、枠組みそのものを取りに行った判断です。
中小企業が免許を取りに行く場面は、多くはないでしょう。それでも、業界団体への参加、資格や認証の取得、共同組合の立ち上げなど、自分で枠組みの側に回る道は存在します。
「この条件さえなければ、もっと良いサービスが出せるのに」という制約を1つ書き出してみてください。その制約を外すために、どの資格や立場が必要かを調べるところから始められます。
私たちコントリ編集部も、経営者の方々への取材を重ねるなかで、同じ構造に何度も出会ってきました。自社の「本当の顧客」を言葉にできた会社ほど、次の打ち手を迷わず選べるものです。言葉にするきっかけは、多くの場合、誰かに聞かれることや、人とのご縁から生まれています。
まとめ|セブン銀行のビジネスモデルは「誰が顧客か」の物語
セブン銀行のビジネスモデルは、ATMという通り道を金融機関に貸し、利用1件ごとに通行料を受け取る仕組みです。2026年3月期は、ATM受入手数料が連結経常収益2,200億円の約72%を占めました(決算短信 2026年5月)。
利用者の手数料が0円でも儲かるのは、お金を払う顧客が利用者ではなく、696先の提携金融機関だからです。売上金入金による現金補充の工夫、2.8万台の設置密度、自ら銀行免許を取った判断が、このモデルを真似されにくくしています。
一方で、クレジットカード事業の減損が示すように、強いモデルがあっても2本目の柱は簡単には育ちません。ファミリーマートへの設置と+Connectは、その先の成長をどこに置くかという問いへの答えでもあります。
自社の商品を使う人と、お金を払う人は、本当に同じでしょうか。まずは主な取引を3つ書き出し、2つを分けて書いてみるところから始めてみませんか。
ほかの企業の仕組みと比べてみたい方は、「ビジネスモデル一覧」もご覧ください。現場の数字と仕組みで高い付加価値を生む例としては、「キーエンスのビジネスモデル」があわせて参考になります。
よくある質問(FAQ)
Q1. セブン銀行はどうやって利益を出しているのですか?
A. 主な収入は、提携金融機関から受け取るATM受入手数料です。2026年3月期のATM受入手数料は約1,592億円で、連結経常収益の約72%でした(決算短信 2026年5月)。一方、貸出金利息は約125億円で、一般的な銀行とは稼ぎ方の比重が大きく違います。
Q2. ATMの利用手数料が無料だと、セブン銀行の収入はなくなるのですか?
A. なくなりません。利用者が払うATM利用手数料は、口座のある提携金融機関が決め、その金融機関の収入になります。セブン銀行は、提携金融機関から利用件数に応じてATM受入手数料を受け取ります。利用者の手数料が無料でも、使われた件数に応じた収入が入る仕組みです。
Q3. セブン銀行の収益の9割がATMというのは本当ですか?
A. 2020年前後の報道では、そう紹介されていたのは事実です。2026年3月期は、海外事業などを含む連結で約72%、セブン銀行単体で約81%です(決算短信 2026年5月)。範囲と年度によって数字が変わるため、両方を確認して使うのが安全です。
Q4. キャッシュレス化でセブン銀行のATMは減っていくのですか?
A. 長期的な逆風であることは確かです。ただ、2026年3月期のATM総利用件数は11億2,200万件で過去最高でした(決算短信 2026年5月)。要因の一つは、キャッシュレス決済への現金チャージの増加です。ファミリーマートへの設置など台数を増やす動きもあり、今後の推移は決算で確かめていく必要があります。
Q5. セブン銀行のATMがファミリーマートに置かれるのは本当ですか?
A. 本当です。ファミリーマートは2026年6月1日から「ファミマATM」としてセブン銀行のATMを設置し始めました。4年程度で約16,000台を設置する計画です(ファミリーマート 2026年6月)。現金の入出金に加え、キャッシュレス決済へのチャージや+Connectのサービスも使えます。
Q6. 中小企業がセブン銀行から学べることは何ですか?
A. 「お金を払ってくれる本当の顧客は誰か」を定義し直す視点です。セブン銀行は、利用者ではなく提携金融機関を顧客と捉えました。その結果、利用者の手数料競争が自社の追い風になる構造が生まれています。まずは主な取引を3つ書き出し、「使う人」と「払う人」を分けて書くところから始められます。
参考資料
本記事の土台は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートです。2026年9月時点で確認できた決算資料・公式発表・報道と照合しました。数字は出典ごとに時点と範囲が異なるため、年月を併記する形をとりました。
- セブン銀行|IRライブラリー(決算短信・決算説明資料)
- セブン銀行|2026年3月期 決算短信(2026年5月8日)
- セブン銀行|2026年3月期 決算説明資料(2026年5月)
- ログミーファイナンス|セブン銀行 通期は増収減益も計画を上振れて着地 国内ATM事業の利用件数は過去最高
- ファミリーマート|「ファミマATM」設置開始に関するお知らせ(2026年6月)
- マイナビニュース|ファミマ、セブン銀行のATM設置へ(2026年3月)
- NTT東日本 BizDrive|セブン銀行が「当たり前」の存在になった背景(2025年11月)
- Impress Watch|セブン銀行、口座開設ができる次世代ATM。NECの顔認証技術活用(2019年9月)
- ダイヤモンド・オンライン|セブン銀行「ATM手数料収益が9割」にコンビニ市場飽和とキャッシュレスの大逆風(2021年3月)
- セブン銀行|売上金入金サービス
あなたの経営の歩みを、
次の挑戦者へ届けませんか。
判断の背景や試行錯誤こそ、同じ立場の経営者に届く価値があります。取材から記事化まで編集チームが伴走します。
- 取材・構成・執筆をまるごと支援
- 経営者の言葉を活かした記事化
- 掲載後の発信・活用まで相談可能


編集部コメント
印象に残ったのは、決算資料の総資産の内訳でした。1兆5,000億円を超える資産の過半が、貸出ではなく、ATMに入れておくための現金です。「お金を貸さない銀行」という言い方は、比喩ではなく数字そのものでした。もう一つは、ATM受入手数料単価の注記に「売上金入金等」を除いて計算すると書かれていたことです。お金を払わない入金の取引にも、現金補充を減らすという役割がある。細かな注記の一行に、モデルの工夫がそのまま表れていると感じました。コントリはこれからも、企業や経営者の方が積み上げてきた仕組みを、一次情報に沿って丁寧にお届けしていきます。