コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

掛け率の計算方法|卸値の決め方で中小メーカーの粗利が残る

掛け率の計算方法|卸値の決め方で中小メーカーの粗利が残る

「取引先から何掛けで出せるかと聞かれたが、根拠を持って答えられなかった」。卸取引を始めたばかりの経営者から、そんなお声を伺います。掛け率は、一度決めると簡単には戻せない数字です。

掛け率は「卸値÷上代(小売価格)」で計算します。上代1,000円の商品を600円で卸すなら0.6で、現場では「6掛け」と呼びます。逆に卸値を出すなら「上代×掛け率」、上代を出すなら「卸値÷掛け率」です。ただし計算より大切なのは、自社の原価と取引コストから掛け率の下限を先に決めておくことです。

本記事では、計算の式と早見表、粗利率との違い、相場の考え方を押さえます。そのうえで、経営者が見るべき4つの数字と、原価高騰時の見直し方を整理しました。取引条件を決める場面の判断材料になれば嬉しく思います。

掛け率とは|上代に対して何割で卸すかを示す数字

掛け率とは、小売価格(上代)に対して卸値(下代)が何割にあたるかを示す取引用語です。「7掛け」なら上代の70%で卸すという意味で、メーカー・問屋・小売店が同じ物差しで条件を話すために使われています。

上代・下代・掛け率の関係

上代とは、メーカーが決める小売価格のことです。例えば定価1,000円の商品なら、上代は1,000円です。下代とは、小売店や問屋がメーカーから仕入れるときの価格、つまり卸値を指します。

この2つをつなぐのが掛け率です。上代×掛け率=下代という関係で、上代1,000円に6掛けなら下代は600円。小売店は1,000円で売れば、400円を手元に残せます。メーカーは600円から自社の原価を引いた額が粗利です。

つまり掛け率は、上代という1つの価格を、メーカーと小売店がどう分け合うかを決める数字だと言えます。上代を「パイ」とすると、掛け率はその切り分け方。ここを押さえておくと、後の計算で迷いません。

上代1,000円を6掛けで卸したときの分け合い

掛け率は、1つの上代をメーカーと小売店でどう分けるかを決める数字

メーカー原価
400円
メーカー粗利
200円
小売店の粗利
400円
下代(卸値)600円=6掛け
小売店の取り分 40%

上代 1,000円 × 掛け率 0.6 = 下代 600円

※上代1,000円・原価400円・6掛けの場合の計算例

「6掛け」「65掛け」など現場での言い方

現場では、掛け率を小数や%ではなく「〇掛け」と呼ぶのが一般的です。0.6なら6掛け、0.65なら65掛け(ろくごがけ)と言います。上代の何割で卸すかを、短く伝えるための言い回しです。

注意したいのは、「6掛け」と「6割引き」がまったく別物だという点です。6掛けは上代の60%で卸すこと、6割引きは上代から60%を差し引くことを指します。金額にすると600円と400円で、200円も違います。

商談の場では、相手が「掛け」と言ったのか「引き」と言ったのかを聞き返す。私たち編集部は、これを条件交渉の最初の確認事項と考えています。言葉の確認ひとつで防げる失敗です。

掛け率が業界の共通言語になっている理由

掛け率が広く使われる理由は、比べやすさにあります。上代が決まっていれば、どの取引先とも同じ尺度で条件を比べられるからです。卸値を金額だけで話すと、商品ごとに数字が変わって比較できません。

食品展示会を解説するYouTubeチャンネル「ゾエチャンネル」も、この話題を取り上げています。バイヤーとの商談で、掛け率が最初に話題になる場面です。展示会に出る前に、自社の掛け率を決めておくことが前提という整理です。

国際物流入門(エフシースタンダードロジックス株式会社)の物流用語解説でも、掛け率は基本用語として扱われています。業界をまたいで同じ言葉で通じる。それが掛け率の便利さであり、同時に「なんとなく相場で決めてしまう」危うさにもつながっています。

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掛け率の計算方法|3つの式と早見表

掛け率の計算に使う式は「卸値÷上代」「上代×掛け率」「卸値÷掛け率」の3つです。どれを使うかは、手元にどの数字があるかで決まります。

手元の数字で選ぶ 掛け率計算の3つの式

上代1,000円・6掛け・卸値600円での計算例

卸値と上代がわかっている
→

掛け率=卸値÷上代

例:600円÷1,000円=0.6(6掛け)

上代と掛け率がわかっている
→

卸値=上代×掛け率

例:1,000円×0.6=600円

卸値と掛け率がわかっている
→

上代=卸値÷掛け率

例:600円÷0.6=1,000円

掛け率=卸値÷上代

すでに卸値が決まっていて、それが何掛けにあたるかを知りたいときの式です。掛け率=卸値÷上代で計算し、小数第2位までで丸めるのが一般的です。

例えば上代1,500円の商品を870円で卸しているなら、870÷1,500=0.58で「58掛け」。取引先ごとに卸値がばらばらな会社は、一度この式で掛け率に換算してみてください。金額では見えなかった条件の差が、数字で並びます。

Excelなら、B列に卸値、C列に上代を入れ、D2に次の式を入れて下の行へコピーします。表示形式をパーセントにすれば一覧の完成です。

=B2/C2

取引先が10社を超えるなら、この一覧を作るだけで値付けの見直しの出発点が整います。

卸値=上代×掛け率/上代=卸値÷掛け率

掛け率が先に決まっている場合は、卸値=上代×掛け率で卸値を求めます。上代2,000円で65掛けなら、2,000×0.65=1,300円です。

反対に、卸値の下限が決まっていて上代を設定したい場合は、上代=卸値÷掛け率を使います。卸値を最低1,200円にしたい商品を6掛けで流すなら、1,200÷0.6=2,000円が上代の目安です。

新商品の値付けでは、この「卸値から上代を逆算する」順番が欠かせません。上代を先に感覚で決めると、掛け率を合わせたときに自社の粗利が残らない、という事態が起こりやすいからです。

上代1,000円の早見表(5掛け〜8掛け)

上代1,000円を例に、掛け率ごとの卸値と小売店に残る粗利を一覧にしました。商談の場で即答を迫られたときの目安として使えます。

掛け率の早見表 上代1,000円の場合

掛け率が5ポイント動くと、小売店の粗利は50円動く

掛け率卸値(下代)小売店の粗利小売店の粗利率
5掛け500円500円50%
55掛け550円450円45%
6掛け600円400円40%
65掛け650円350円35%
7掛け700円300円30%
75掛け750円250円25%
8掛け800円200円20%

※上代どおりに販売した場合の計算例。金額は税抜き

掛け率が5ポイント動くたびに、小売店の粗利も50円ずつ動く。表から読み取れるのはこの関係です。上代が1万円なら500円単位の差です。掛け率の交渉は、そのまま両社の取り分の交渉だと言えます。

掛け率・粗利率・原価率・値入率の違い

掛け率と混同されやすいのが、粗利率・原価率・値入率です。どれも割り算の比率ですが、分母と分子が違います。そのため同じ「3割」でも、残る利益は別物です。

分母が上代か、売価か、原価か

4つの比率は、何を分母に置くかで整理すると混乱しません。掛け率の分母は上代、粗利率と原価率の分母は売価、そして「原価に何%乗せるか」という考え方の分母は原価です。

粗利率とは、売価に対して粗利(売価−原価)がどれだけ残るかを示す比率です。例えば1,000円で売って原価が600円なら、粗利率は40%です。原価率はその裏返しで、600÷1,000=60%です。

同じ取引でも、メーカーから見るか小売店から見るかで、使う比率が変わります。メーカーは卸値を売価として粗利率を出し、小売店は上代を売価として値入率を出す。この視点の違いを押さえておくと、商談で話がかみ合います。

掛け率と似た比率の違いは「分母」で見分ける

上代1,000円・卸値600円・原価400円の場合

指標計算式分母主に使う人計算例
掛け率卸値÷上代上代メーカー・問屋600÷1,000=60%
粗利率(メーカー)(卸値−原価)÷卸値卸値メーカー200÷600≒33.3%
原価率(メーカー)原価÷卸値卸値メーカー400÷600≒66.7%
値入率(小売店)(上代−卸値)÷上代上代小売店400÷1,000=40%
原価加算率(卸値−原価)÷原価原価見積担当200÷400=50%

※同じ取引でも、分母を変えると比率の数字は大きく変わる

「原価×1.3」と「粗利率30%」の差

値付けで多い誤解が「原価に3割乗せれば、粗利率も3割」という思い込みです。原価700円に3割乗せると売価は910円で、粗利は210円。このときの粗利率は210÷910=約23%にとどまります。

粗利率30%を本当に確保したいなら、売価は原価÷(1−0.3)で求めます。原価700円なら700÷0.7=1,000円です。910円と1,000円、1個あたり90円の差。数千個の取引なら数十万円の開きです。

YouTubeチャンネル「優しい『カイゼン』の授業」も、見積り計算の間違えやすさを取り上げています。トヨタ生産方式をもとに業務改善を解説する番組です。利益の計算は、式を一度紙に書いて確かめるのが確実です。利益率の考え方は「利益率の計算方法」で詳しく整理しています。

小売側の値入率は掛け率の裏返し

値入率とは、売価に対して小売店がどれだけ利益を乗せたかを示す比率です。上代どおりに売る前提なら、値入率=1−掛け率という関係です。6掛けで仕入れれば、値入率は40%です。

小売店のバイヤーは、この値入率を基準に仕入れを判断しています。「うちは値入率35%以上が条件」と言われたら、掛け率は65掛け以下でなければ取引が成り立ちません。

裏を返せば、取引先が求める値入率を聞けば、掛け率の上限はすぐ計算できます。商談の前に相手の基準を聞いておく。それだけで、条件の当たりがつけやすくなります。

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掛け率の相場は業界と流通経路で変わる

掛け率に全業種共通の正解はありません。商品の回転の速さ、返品の有無、間に入る問屋の数で、適正な水準が変わるからです。

直販・問屋経由・委託で変わる掛け率

直販か問屋経由かで、メーカーが受け取る掛け率は違ってきます。問屋を挟めば、問屋の取り分のぶんだけメーカーの卸値は下がる仕組みです。

仮に小売店への掛け率が6掛けで、メーカーが問屋へ5掛けで卸すとします。この場合、差の1割が問屋の取り分です。問屋は在庫を持ち、配送や代金回収を代行するため、その対価が掛け率の差になります。

委託販売とは、売れた分だけ代金を受け取る形のことです。在庫リスクをメーカーが負うぶん、掛け率は高めに設定されるのが通例です。流通経路を増やすときは、経路ごとに掛け率を分けて考えることが前提です。販路を広げる考え方は「BtoB代理店開拓の方法」も参考になります。

流通経路で掛け率が変わる理由

誰が在庫リスクと代金回収を担うかで、取り分が変わる

直販(小売店へ直接)

掛け率の傾向:基準となる水準

在庫リスク:仕入れた小売店

代金回収:メーカーが各店から

向く商品:取引先が少なく単価が高い商品

問屋経由

掛け率の傾向:メーカーの受取は低め

在庫リスク:問屋が一部を負う

代金回収:問屋がまとめて代行

向く商品:全国の多数の店に並べたい商品

委託販売

掛け率の傾向:高めに設定されやすい

在庫リスク:メーカーが負う

代金回収:売れた分だけ後から

向く商品:初めての売り場で試したい商品

※傾向を示したもので、実際の掛け率は商品と取引条件で決まる

返品条件と掛け率はセットで決まる

掛け率を単独で比べると、判断を誤りかねません。返品を受け付けるか、売れ残りを買い取りにするかで、同じ掛け率でも実質的な条件はまったく違うからです。

返品ありの取引では、小売店は売れ残りのリスクを負いません。そのぶん、低い掛け率は求めにくいものです。反対に買い取り(返品なし)なら、小売店がリスクを負います。掛け率を下げてほしいという要望が出やすい条件です。

掛け率と返品条件は、セットで提示する。条件書にこの2つを並べて書くだけで、後から「返品できると思っていた」という行き違いを防げます。

業種ごとの目安は「回転」と「保管コスト」で見る

業種による掛け率の違いは、商品の回転と保管の手間で説明できます。回転とは、仕入れてから売れるまでの速さのことです。例えばパンは数日、冬物衣料は数か月かかります。

日用品や食品のように回転が速い商品は、薄い利益でも数で稼げます。そのため小売店側の取り分は比較的小さめです。

一方、衣料品や雑貨のように売れ残りや季節の切り替えがある商品は、小売店が値下げや在庫処分の負担を見込みます。そのぶん、小売店の取り分を厚くした掛け率が求められる傾向です。

他社の掛け率に合わせるより、自社の商品がどちらに近いかを考える。そのほうが根拠のある数字に近づきます。相場はあくまで交渉の入口で、決め手は自社の数字です。

経営者が掛け率を決めるときに見る4つの数字

掛け率は、会社に残る粗利を左右する経営判断です。営業担当が取引先ごとにその場で決めてしまいがちな数字でもあります。見るべきは、自社の原価、送料などの取引コスト、取引量、そして取引先ごとの実質掛け率の4つです。これらを並べ、下限を経営者が先に決めておくことが大切です。

原価から逆算した掛け率の下限

最初に見るのは、自社の原価です。掛け率の下限=原価÷(1−目標粗利率)÷上代で計算できます。原価400円・上代1,000円の商品で、卸値に対し粗利率30%を確保したいとします。この場合、400÷0.7≒571円が卸値の下限です。

571÷1,000=0.571なので、この商品は57掛け(570円)まで下げると目標の粗利を割ります。余裕を見て、58掛けを即決ラインにしておくと安全です。営業担当に「58掛けまでなら即決してよい、それ未満は相談」と伝えておけば、現場は迷わず動けます。

私たち編集部は、この線を「ここから下は社長決裁」という形で商品ごとに引いておくことをおすすめしています。線があるから、営業は迷わず交渉できます。

送料・リベート・協賛金を含めた実質掛け率

表面上の掛け率が同じでも、送料負担やリベート、販促協賛金で実際の取り分は下がります。販促協賛金とは、小売店のセールやチラシ掲載の費用をメーカーが一部負担するお金のことです。リベートとは、取引量などに応じて売上の一部を取引先に戻す仕組みのことです。

例えば上代1,000円・6掛けで卸値600円の取引を考えます。送料30円を自社負担し、卸値の3%(18円)をリベートで戻すと、手元に残るのは552円です。実質掛け率は55.2%で、表面より5ポイント近く低い水準です。

表面の掛け率と実質の掛け率

送料とリベートを差し引くと、手元に残る卸値は下がる

600円
−30円
−18円
552円
表面の卸値
6掛け
送料
自社負担
リベート
卸値の3%
実際の受取額

実質掛け率 55.2%(表面より4.8ポイント低い)

※上代1,000円・6掛けの計算例

取引先ごとに実質掛け率を出すと、意外な結果が出ることもあります。「条件のよい取引先」だと思っていた相手が、実は最も利益の薄い相手だったという例です。見えるようにすると、どこから手をつけるかが決まります。

取引量と掛け率のバランスをどう取るか

大口の取引先ほど、低い掛け率を求めてきます。量が増えれば製造単価が下がるので、一定の範囲で応じるのは合理的な判断です。ただし、量に対する値引き幅を決めずに応じると、利益の薄い大口取引に工場の稼働が占められてしまいます。

判断の目安は、損益分岐点(売上と費用が等しくなり、利益がゼロになる点)です。固定費をまかなえる量を確保しているなら、追加の大口取引は掛け率を下げても粗利の上乗せです。考え方は「損益分岐点の計算方法」にまとめています。

逆に、すでに設備や人手がいっぱいの状態なら、低い掛け率の取引は高い掛け率の取引の枠を奪います。量と掛け率は、自社の余力とセットで判断するのが基本です。

取引先別の掛け率表を作る

ここまでの数字を1枚の表にまとめると、判断のスピードが上がります。行に取引先、列に表面の掛け率・返品条件・送料負担・リベート・実質掛け率・年間取引額を並べるだけです。

取引先別の掛け率表をつくる6つの確認

上から順に埋めると、見直す取引先が決まる

1
商品ごとの原価を最新の数字にそろえた
2
目標粗利率から、商品ごとの掛け率の下限を決めた
3
取引先ごとの表面の掛け率を一覧にした
4
送料・リベート・協賛金を差し引いた実質掛け率を出した
5
返品条件を掛け率の横に書き添えた
6
年間取引額と並べ、下限を割る大口取引を洗い出した

試算例として、上代1,000円・原価400円の同じ商品を3社に卸している場合を並べてみます。下限は先ほど計算した57.1%です。

取引先(試算例)表面の掛け率送料・リベート等実質掛け率判定
A社(直販・小口)65掛け(650円)送料30円62.0%下限を上回る
B社(チェーン・大口)6掛け(600円)送料30円+リベート3%(18円)55.2%下限割れ
C社(問屋経由)58掛け(580円)送料は問屋負担58.0%下限を上回る

表面の掛け率だけ見ると、下限に一番近いのは58掛けのC社です。ところが実質で比べると、下限を割っているのは6掛けのB社だけ。大口の取引先が、実は一番利益の薄い相手でした。

表ができたら、実質掛け率が下限を割っている取引先から順に、条件の見直しを検討します。全部を一度に変える必要はありません。最も差が大きい1社から話をする。それが現実的な一歩です。

原価高騰時に掛け率をどう見直すか

原価が上がったときに取れる手は、「上代を上げる」か「掛け率を上げる」かの2つです。どちらを選ぶかで、取引先の受け止め方は大きく違ってきます。

上代改定と掛け率改定のどちらで転嫁するか

原価400円の商品が440円に上がったケースで考えます。1個あたりの粗利200円以上を守る前提です。卸値は640円に上げる必要があります。

上代1,000円を据え置いて掛け率を64掛けに上げると、小売店の粗利は400円から360円に減ります。一方、6掛けを維持して上代を1,080円に改定すれば、卸値は648円です。自社の粗利は208円、小売店の粗利は432円になり、端数を切りのよい上代にそろえたぶん双方の取り分が少し増えます。上代改定なら、小売店の取り分も守りながら転嫁できます。

原価が上がったときの2つの転嫁パターン

原価400円→440円。自社の粗利200円以上を守る場合

パターン上代掛け率卸値自社の粗利小売店の粗利
改定前(原価400円)1,000円6掛け600円200円400円
A案:上代据え置き(原価440円)1,000円64掛け640円200円360円
B案:上代改定(原価440円)1,080円6掛け648円208円432円

※B案は上代を切りのよい金額にそろえた計算例。上代を上げると販売数に影響する点も考慮する

ただし、上代を上げれば最終消費者の価格も上がり、販売数が落ちることがあります。どちらが正解というより、取引先と「どちらなら売れ続けるか」を考えることが大切です。その材料として、両方の数字を持っていきましょう。

価格転嫁の実態と取引先との対話

中小企業庁の調査では、コスト上昇分のうち価格に転嫁できた割合は全体で54.2%でした。価格交渉そのものは9割の企業で行われていますが、上がった分を取り戻せているとは言えない状況です。

区分項目割合(出典:中小企業庁 2026年6月公表)
全体価格転嫁率54.2%(2026年3月調査)
コスト要素別原材料費の転嫁率55.7%
コスト要素別労務費の転嫁率50.0%
コスト要素別エネルギーコストの転嫁率48.9%
交渉の状況価格交渉が行われた割合90.7%(同調査)

※出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査」2026年6月公表

表のとおり、労務費やエネルギーコストは原材料費より転嫁率が低い水準です。人件費や電気代の上昇も、根拠となる数字を添えて交渉の材料に含めることが欠かせません。調査の詳細は中小企業庁の価格交渉促進月間フォローアップ調査のページで公開されています。

数字が示しているのは、交渉の場は開かれていても、根拠を示して条件を変えるところまで届いていない現実です。掛け率の見直しを「お願い」ではなく「数字を共有する対話」にできるか。そこが分かれ目です。下請け構造から抜け出す考え方は「下請けからの脱却」も参考にしてください。

交渉に持っていく根拠資料

掛け率の見直しを申し入れるときは、3つの資料をそろえておくと話が進みます。1つ目は、原材料・人件費・物流費の上昇を示す数字。仕入先の値上げ通知や、最低賃金の改定額が使えます。

2つ目は、先ほどの上代改定と掛け率改定の2案を並べた試算です。取引先の取り分がどう変わるかを先に示すことで、一方的な値上げではないことが伝わります。3つ目は、改定の時期と、次に見直す条件です。

「次にどんな状況になったら、また相談させてほしい」まで書いておくと、交渉が一度きりの勝負になりません。取引は長く続くもの。だからこそ、条件を変えるルールを先に共有しておく価値があります。

掛け率の計算でよくある失敗

掛け率は式が単純なぶん、数字がずれやすい指標です。税込みと税抜きの混在や、値引きとの二重適用が典型例です。実務で起きやすい誤りを3つ押さえておきます。

掛け率の計算でよくある3つの失敗

どれも、事前のひと手間で防げる

失敗1 税込みと税抜きの混在

税込み上代1,100円に6掛けして660円を税抜き卸値として請求 → 取引先の計算と1割ずれる

対策:条件書に「上代・卸値ともに税抜き」と明記

失敗2 値引きを足し引きで重ねる

6掛けから5%引きを「55掛け」と計算 → 正しくは600×0.95=570円の57掛け

対策:最終の卸値を金額で確定してから伝える

失敗3 商談の場で即答する

関係づくりを優先して低めに答え、後から下限割れに気づく

対策:即答ラインと持ち帰りラインを事前に決める

税込み上代と税抜き上代の混在

掛け率は、税抜きの上代と税抜きの卸値で計算するのが一般的です。ところが、上代を税込みで覚えている担当者は、税込み上代に掛け率を掛けがちです。

例えば税抜き上代1,000円(税込み1,100円)を6掛けで卸す場合、正しい卸値は税抜き600円です。税込み1,100円に0.6を掛けた660円を、税抜き卸値として扱ったとします。消費税を足すと726円で、取引先の計算と1割ずれます。

見積書や取引条件書には、「上代・卸値ともに税抜き」と一行明記しておく。それだけで、この種の行き違いは防げます。

掛け率と値引き率を重ねて計算してしまう

キャンペーンで「6掛けからさらに5%引き」とした場合、卸値は600×0.95=570円。実質57掛けです。これを「6掛けから5ポイント引いて55掛け」と計算すると、550円で請求してしまいます。

反対に、上代から3割引きした価格に6掛けを重ねると、1,000×0.7×0.6=420円です。値引きと掛け率は掛け算で重なるため、足し算・引き算で考えると数字がずれます。

値引きを重ねるときは、最終的な卸値を金額で確定させてから伝える。社内の計算ルールとして決めておくと安心です。

商談の場で掛け率を即答してしまう

展示会や商談会では、バイヤーから「何掛けで出せますか」とその場で聞かれます。関係を作りたい気持ちから低めの掛け率を答えてしまい、後から実質掛け率を計算して赤字に気づく。実務で起こりやすい失敗です。

防ぐ方法は、商談の前に「即答してよい掛け率」と「持ち帰る掛け率」の線を決めておくことです。先ほどの下限の計算をもとに、商品ごとに数字を書いたカードを営業担当に持たせておけば、現場で迷いません。

持ち帰ることは、失礼ではありません。「社内で確認して明日までにお返事します」と伝え、その日のうちに数字を確かめる。その誠実さこそ、長く続く取引の土台です。

まとめ|掛け率は「計算」より「下限を先に決める」

掛け率の計算そのものは、3つの式で足ります。掛け率=卸値÷上代、卸値=上代×掛け率、上代=卸値÷掛け率です。経営者が押さえたいのは、その先の判断です。

1つ目は、原価から逆算した下限です。下限=原価÷(1−目標粗利率)÷上代で求め、商品ごとに即決ラインを決めます。2つ目は、送料・リベート・協賛金を差し引いた実質掛け率で、取引先を比べることです。3つ目は、原価が上がったときに、上代改定と掛け率改定の2案を数字で持っていくこと。

まずは主要な取引先の実質掛け率を一覧にし、下限を割っている1社を見つけるところから着手してみてください。

よくある質問

Q. 掛け率の計算式は? A. 掛け率=卸値÷上代(小売価格)です。上代1,000円の商品を600円で卸すなら、600÷1,000=0.6で「6掛け」です。卸値を求めたいときは上代×掛け率、上代を求めたいときは卸値÷掛け率で計算します。

Q. 「7掛け」と「3割引き」は同じですか? A. 金額は同じで、上代1,000円ならどちらも700円です。ただし掛け率は卸取引の条件を示す言葉、値引き率は売価から下げる幅を示す言葉で、使う場面が違います。掛け率で決めた卸値からさらに値引きを重ねると、想定より粗利が減るので注意が必要です。

Q. 掛け率と粗利率の関係は? A. 小売店から見ると、上代どおりに売る前提で値入率(粗利率)=1−掛け率です。6掛けで仕入れれば40%になります。メーカー側の粗利は、卸値から自社の原価を引いた額で考えます。

Q. 掛け率は消費税込みで計算しますか? A. 一般的には税抜きの上代と税抜きの卸値で計算します。税込みと税抜きを混ぜると、1割近くずれることがあります。見積書や取引条件書に、どちらで計算したかを明記しておくと安全です。

Q. 取引先によって掛け率を変えてもよいですか? A. 変えて問題ありません。取引量・返品条件・送料負担・支払条件が違えば、適正な掛け率も変わります。ただし、取引先ごとの違いを説明できるよう、実質掛け率と条件を一覧にしておくことをおすすめします。下限を割る条件は、経営者が判断する線として決めておくと安心です。

編集部コメント

掛け率は「誰がどこで決めているか」に会社の姿勢が表れる指標だと、私たちは考えています。

経営者の方々と対話してきて、感じることがあります。値決めの根拠を自分の言葉で語れる経営者ほど、現場に判断を任せられているのです。数字の根拠を言葉にして渡すから、現場が自信を持って交渉できる。経営者の言語化は、取引条件にまで届くものです。

掛け率の見直しは、取引先とのご縁を長く続けるための対話でもあります。まずは主要な取引先5社の実質掛け率を出すところから、始めてみてください。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、経営者の方々への取材を重ねている。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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