経営理念の言語化|中小企業が「絵に描いた餅」で終わらせない4ステップ

経営理念の言語化|中小企業が「絵に描いた餅」で終わらせない4ステップ

「うちにも理念はあるんだけど、社員にはうまく伝わっていなくてね」。経営者の方とお話ししていると、こうしたお声を本当によく伺います。胸の中には熱い想いがある。けれど、それが社員に届く言葉になっていない。そんなもどかしさを抱えておられる方は、決して少なくないのではないでしょうか。

先に答えをお伝えします。経営理念の言語化とは、経営者の頭や胸の中にある暗黙の価値観を、誰が読んでも同じ意味で受け取れる言葉に変える作業です。やみくもに美しい一文を探す必要はありません。創業の原点を掘り起こし、判断軸を素材として集め、構造に整理し、最後に磨き込む。この4ステップで進めると、借り物ではない自社の言葉にたどり着けます。

本記事では、まず言語化の意味を整理します。そのうえで4ステップの手順、言葉を集める5つの観点、理念を「絵に描いた餅」にしない浸透の仕組みまでをお届けします。中小企業がつまずきやすい壁とその越え方もご用意しました。お役に立てれば嬉しく思います。

経営理念の言語化とは|「理念がある」と「言葉になっている」は別物

経営理念の言語化とは、経営者の暗黙の価値観を、社員と共有できる言葉に変えることです。「理念がある」と「言葉になっている」は、似ているようでまったく別の状態。ここを切り分けるところから始めましょう。

なぜ両者を分けて考える必要があるのでしょうか。理由は、頭の中にある想いは経営者本人にしか見えないからです。本人にとっては当たり前の価値観でも、社員にとっては未知の暗号のようなもの。言葉という共通のかたちに翻訳して初めて、想いは組織の財産になります。胸にある熱量を、伝わる言葉へ。この翻訳作業こそが言語化の本質です。

経営理念の言語化とは、暗黙の価値観を共有可能な言葉に変えること

経営理念の言語化とは、経営者の中にある「大切にしたい価値観」を、社員が判断や行動に使える言葉へ落とし込むことを指します。暗黙知とは、本人は分かっているのに言葉になっていない知識や感覚のことです。例えば「お客様第一」と一言で言っても、何をもって第一とするかは人それぞれ。そこを具体的な言葉にする作業が言語化にあたります。

言葉になっていない理念は、社員にとって存在しないのと同じです。社長は「言わなくても伝わっているはず」と感じ、社員は「社長が何を大切にしているのか分からない」と戸惑う。このすれ違いは、多くの会社で静かに起きています。

言語化されていない理念が生むすれ違い

経営者

大切にしていることは、言わなくても伝わっているはずだ。

社員

社長が本当に何を大切にしているのか、正直よく分からない。

この溝を「言語化」で埋める

だからこそ、頭の中の想いをいったん外に出し、誰もが同じ意味で受け取れる言葉へ整える。地味に見えて、組織の足並みをそろえる土台となる工程です。

ミッション・ビジョン・バリューの違いと、言語化する順番

経営理念を言語化するとき、避けて通れないのがミッション・ビジョン・バリューの整理です。それぞれ役割が異なります。ミッションは「何のために存在するのか」という使命です。ビジョンは「どんな未来を目指すのか」という到達点、バリューは「日々どう行動するか」という価値基準を指します。

順番にもコツがあります。いきなり3つに分けようとすると、かえって手が止まりがち。まずは理念全体の輪郭をざっくり描き、そのあとで使命・未来像・行動基準へ振り分けるほうがスムーズです。『社長が3ヶ月不在でも事業を拡大する方法』も、理念・使命・ビジョンの違いとつくるポイントを丁寧に整理しています1

三者の違いをきっちり暗記する必要はありません。大切なのは、自社の言葉がこの3つの役割をカバーできているか、という視点。漏れに気づくための地図として使っていただけたらと思います。

中小企業ほど言語化が効く理由──採用・判断・一体感の土台になる

中小企業ほど、経営理念の言語化は効果が表れやすいといえます。少人数だからこそ、理念が一人ひとりの行動に直結するからです。

理由は3つあります。第一に、採用です。理念が言葉になっていれば、価値観の合う人が集まりやすく、入社後のミスマッチも減ります。第二に、日々の判断。現場が小さな意思決定をするとき、言葉になった理念が「迷ったときの物差し」として働きます。第三に、一体感。同じ言葉を共有する組織には、説明しなくても通じ合える空気が生まれます。

『西崎康平 ブラックな社長』も、中小企業こそミッション・ビジョン・バリューを作るべきだと説いています。「理念が採用と売上を変える」という指摘です2。大企業のように制度で人を動かしにくい中小企業ほど、言葉の力が組織を支える。ここに、言語化へ取り組む価値があります。

ミッション・ビジョン・バリューの違い

ミッション

使命

何のために存在するのか

例:地域の暮らしを守る

ビジョン

到達点

どんな未来を目指すのか

例:地域で一番に頼られる存在になる

バリュー

価値基準

日々どう行動するのか

例:スピードより正確さを大切にする

経営理念を言語化する4ステップ|価値観の棚卸しから一文に落とすまで

経営理念の言語化は、4つのステップで進めると迷いません。原点の棚卸し、判断軸の抽出、構造への整理、磨き込みの順です。いきなり完成形を書こうとせず、素材集めから始めるのが近道になります。

なぜ段階を踏むのでしょうか。理由は、言葉は「探す」より「育てる」ものだからです。創業の想いという原石を掘り出し、判断軸という素材を集め、構造という器に整え、最後に磨いて輝かせる。『吉村正裕 小さな会社の経営のツボ』も、理念を「お題目」にしない作成手順を5ステップで示しています3。ここでは、それを中小企業向けに4つへ束ねてご紹介します。

ステップ1:原点の棚卸し──なぜ創業したか、誰の何を解決したいか

最初のステップは、創業の原点を棚卸しすることです。なぜこの会社を始めたのか。誰の、どんな困りごとを解決したかったのか。この問いに向き合うところから、すべてが始まります。

具体的には、紙に書き出すのがおすすめです。「創業のきっかけになった出来事」「これだけは譲れないと感じた瞬間」「お客様に喜ばれて胸が熱くなった場面」。こうした記憶を引っ張り出すと、理念の種が見えてきます。

きれいにまとめる必要はありません。むしろ、ぐちゃぐちゃのまま出し切ることが大切。原点には、その会社にしかない物語が眠っています。ここを飛ばして言葉だけを整えても、どこかで聞いたような理念になってしまう。地に足のついた言語化は、いつも原点の掘り起こしから始まります。

ステップ2:判断軸の抽出──迷ったとき何を選んできたかを言葉にする

2つ目のステップは、判断軸を抽出することです。判断軸とは、迷ったときに「こちらを選ぶ」と決めてきた基準のこと。経営者が無意識に守ってきた価値観が、ここに表れます。

過去の意思決定を振り返ってみましょう。利益が出る話を断ったことはありませんか。逆に、儲からなくても引き受けた仕事はなかったでしょうか。その選択の裏には、必ず理由があります。「目先の利益より信頼を選ぶ」「価格より品質を守る」。そうした言葉が、バリューの素材になります。

社員にも聞いてみると、思わぬ発見があるものです。「社長はいつもこう言いますよね」という社員の証言が、経営者自身も気づいていなかった判断軸を映し出すこともあります。自分一人の記憶だけでなく、周囲の目を借りる。それが言葉の解像度を上げてくれます。

ステップ3:構造への整理──ミッション・ビジョン・バリューに振り分ける

3つ目は、集めた素材を構造へ整理するステップです。棚卸しと抽出で出てきた言葉を、ミッション・ビジョン・バリューの3つに振り分けていきます。

「何のために」にあたる言葉はミッションへ、「どんな未来を目指すか」はビジョンへ、「日々どう行動するか」はバリューへ。付箋に書いて模造紙に貼り分けると、全体像が見えやすくなります。この段階では、まだ文章として完璧でなくて構いません。

振り分けてみると、どこかが手薄なことに気づくはずです。未来像の言葉が一つもない、行動基準が抽象的すぎる、といった具合に。その空白こそが、次に言葉を足すべき場所。構造に整理する作業は、足りないピースをあぶり出す健康診断のような役割を果たします。

ステップ4:磨き込み──短く、自分たちの言葉で、口に出して確かめる

最後のステップは、言葉の磨き込みです。整理した素材を、短く覚えやすい言葉へと仕上げていきます。ここで意識したいのが「短く」「自分たちの言葉で」「口に出して確かめる」の3点。

長く立派な文章ほど、誰の記憶にも残りません。社員がふとした瞬間に思い出せる長さまで削るのが理想です。また、経営コンサルが使うような借り物の表現ではなく、社内で日頃から飛び交う言葉を選ぶと、すっと腹落ちします。

仕上げに、声に出して読んでみてください。口に出して違和感がある言葉は、たいてい机上の言葉です。朝礼で唱えたとき、会議で引用したとき、自然に響くかどうか。言葉は耳で確かめる。この一手間が、絵に描いた餅と生きた理念の分かれ道になります。

経営理念を言語化する4ステップ

1

原点の棚卸し

なぜ創業したか、誰の何を解決したいかを書き出す

2

判断軸の抽出

迷ったとき何を選んできたかを言葉にする

3

構造への整理

ミッション・ビジョン・バリューに振り分ける

4

磨き込み

短く、自分たちの言葉で、口に出して確かめる

言語化で押さえる5つの観点|抽象的な言葉を「自社らしさ」に変える

言語化の精度は、どの角度から言葉を集めるかで決まります。押さえたい観点は5つ。存在意義、提供価値、行動規範、未来像、そして自社らしさです。この5方向から素材を集めると、借り物ではない言葉が立ち上がってきます。

なぜ観点を分けるのでしょうか。理由は、一つの角度だけで考えると言葉が痩せてしまうからです。「お客様のために」だけでは、どんな会社にも当てはまってしまいます。複数の観点を重ねることで、自社にしか言えない輪郭が浮かび上がる。『最強の組織づくり レガシード近藤悦康』も、企業理念で言語化すべき観点を5つに整理しています4

存在意義と提供価値──「何のために」と「誰に何を」を分けて言う

最初の2つの観点は、存在意義と提供価値です。存在意義は「何のために会社があるのか」、提供価値は「誰に、どんな価値を届けるのか」を指します。似ているようで、実は別の問いです。

存在意義は、社会や地域に対する会社の役割を語ります。一方、提供価値は、目の前のお客様に対して何を約束するかを語る言葉。この2つを分けて言葉にすると、理念に奥行きが生まれます。

例えば町の工務店なら、存在意義は「地域の暮らしを守る」、提供価値は「100年住み継げる家を届ける」と整理できます。大きな志と、具体的な約束。両方をそろえることで、社員も「自分たちは何のために働くのか」を実感しやすくなります。

行動規範と未来像──日々の判断と、目指す姿を言葉にする

次の2つは、行動規範と未来像です。行動規範はバリュー、未来像はビジョンにあたります。日々の足元と、遠くの目標。時間軸の異なる2つを言葉にします。

行動規範は、社員が毎日の業務で迷ったときの指針です。「スピードより正確さ」「報告は悪い話ほど早く」といった、具体的で行動に移せる言葉が向いています。抽象的なスローガンより、現場で使える物差しを意識しましょう。

未来像は、数年後に会社がどうなっていたいかを描く言葉です。売上規模だけでなく、「どんな存在として知られていたいか」まで語れると、社員の心に火が灯ります。足元の規範と、遠くの旗。両方があってこそ、組織は同じ方向へ進めるのではないでしょうか。

自社らしさ──同業他社が真似できない個性をどう拾うか

5つ目の観点は、自社らしさです。同業他社が言えない、自社ならではの個性を言葉にします。ここが、理念を唯一無二にする決め手になります。

自社らしさは、欠点の裏側に隠れていることがよくあります。「小さい会社だからこそ、社長が直接対応できる」「歴史が浅いからこそ、新しい挑戦を恐れない」。一見ハンディに見える特徴も、見方を変えれば強みの種。そこに自社らしい言葉が眠っています。

社員や常連のお客様に「うちの会社らしさって何だと思う?」と尋ねてみるのも有効です。内側にいると当たり前すぎて気づけない個性を、第三者の言葉が教えてくれます。借り物の理念を避ける一番の近道は、自社にしか言えない一言を見つけること。その一言が、理念全体に体温を与えてくれます。

言語化で押さえる5つの観点

自社らしい経営理念は、5方向から言葉を集めて立ち上がる

存在意義

何のために会社があるのか

提供価値

誰に、どんな価値を届けるのか

行動規範

日々どう判断し行動するのか

未来像

数年後にどうなっていたいか

自社らしさ

他社が真似できない個性は何か

経営理念を「絵に描いた餅」にしない浸透の仕組み

言語化した理念は、掲示して終わりでは機能しません。浸透とは、日々の判断や評価のなかで理念が「使われる」状態をつくることです。伝えるインプットと、語らせ行動させるアウトプット。この両輪で仕組み化します。

なぜ仕組みが必要なのでしょうか。理由は、人は繰り返し触れたものしか覚えられないからです。一度の発表で浸透するなら苦労はありません。額縁に入れて壁に飾るだけでは、やがて景色の一部になって誰も見なくなります。『吉村正裕 小さな会社の経営のツボ』も、理念を浸透させる仕組みを解説しています。成功事例をもとに、インプットとアウトプットの両面から論じる内容です5

なぜ理念は「絵に描いた餅」になるのか──掲示だけで終わる構造

理念が「絵に描いた餅」になる最大の原因は、掲示だけで満足してしまう構造にあります。立派な理念をホームページや社内の壁に掲げ、それでやり切った気持ちになる。これが落とし穴です。

掲示は、いわば理念のスタート地点にすぎません。社員は毎日その文字を目にしても、自分の仕事と結びつかなければ、ただの背景になってしまいます。「うちの理念、言えますか?」と問われて答えられない会社は、決して珍しくありません。

問題は社員の意識ではなく、仕組みの不在です。理念に触れ、考え、口に出す機会が日常に組み込まれていない。だから忘れられていく。裏を返せば、機会を仕組みとして設計すれば、理念は息を吹き返します。掲示をゴールではなく出発点として捉え直すこと。ここが浸透の最初の一歩になります。

インプットの仕組み──朝礼・1on1・経営計画書で繰り返し伝える

浸透の片輪が、インプットの仕組みです。経営者から社員へ、理念を繰り返し伝える機会を日常に埋め込みます。一度きりの発表ではなく、何度も触れる設計が肝になります。

具体的な接点はいくつもあります。朝礼で理念にまつわる一言を添える。1on1で「理念を感じた場面」を尋ねる。経営計画書の冒頭に理念とその背景を書き込む。こうした小さな反復が、理念を記憶に定着させます。

ここで効くのが、エピソードを添えること。理念の文言をただ読み上げるだけでは響きません。「先週のあの対応は理念どおりだったね」と具体的な出来事に結びつけるほうが、ぐっと伝わります。言葉だけでなく、物語とともに届ける。繰り返しと具体性。この2つが、インプットを血の通ったものに変えていきます。

アウトプットの仕組み──評価・表彰・採用基準に理念を組み込む

もう片輪が、アウトプットの仕組みです。社員自身に理念を語らせ、行動として表に出してもらう機会をつくります。受け身で聞くより、自ら発するほうが何倍も定着するからです。

最も効果的なのが、評価や表彰への組み込みです。人事評価の項目に理念に沿った行動を入れる、月に一度「理念を体現した行動」を表彰する。こうすると、理念は「守ると得をするもの」へと変わります。採用基準に理念への共感を据えるのも有効な一手。入口の段階で価値観をそろえられます。

『PIVOT』では、行動指針をまとめた冊子による合意形成で、強い組織をつくる手法が紹介されています6。語らせ、行動を評価し、入口でそろえる。アウトプットの仕組みが回り出すと、理念は壁の文字から組織の習慣へと姿を変えていきます。

理念浸透の仕組み(インプットとアウトプット)

インプット × 日常

朝礼で理念にまつわる一言を添える

1on1で理念を感じた場面を尋ねる

インプット × 節目

経営計画書の冒頭に理念と背景を書く

入社時の研修で理念の物語を伝える

アウトプット × 日常

理念に沿った行動を人事評価に組み込む

現場の判断を理念で振り返る習慣をつくる

アウトプット × 節目

月に一度、理念を体現した行動を表彰する

採用基準に理念への共感を据える

中小企業が言語化でつまずく3つの壁とその越え方

経営理念の言語化に取り組む中小企業が、決まってぶつかる壁が3つあります。完璧主義でのフリーズ、社長の独り言化、つくって終わる更新停止です。いずれも、越え方を知っていれば恐れる必要はありません。

なぜ多くの会社が同じ壁にぶつかるのでしょうか。理由は、言語化が「正解のない作業」だからです。明確なゴールが見えないぶん、つい完璧を求めたり、途中で力尽きたりしがち。『松田幸之助の仕組み化実践チャンネル』も、理念をうまく言語化できないときの考え方を取り上げています7。ここでは3つの壁を一つずつ見ていきましょう。

言語化でつまずく3つの壁と越え方

壁 1

完璧主義でフリーズする

最初から美しい一文を求めて手が止まる。越え方:まず荒い言葉で出し切る。

壁 2

社長の独り言になる

上から降ってきた言葉は浸透しない。越え方:社員を巻き込み「私たちの言葉」にする。

壁 3

つくって終わる

実態が変わっても理念だけ古いまま。越え方:年に一度、言葉を見直す場をつくる。

壁1:完璧主義でフリーズする──まず荒い言葉で出し切る

1つ目の壁は、完璧主義によるフリーズです。最初から美しい一文を書こうとして、かえって何も書けなくなる。言語化の入り口で、多くの経営者がここでつまずきます。

越え方はシンプルです。まず荒い言葉で出し切ること。文法も体裁も気にせず、思いつくままに書き殴る。誤字だらけの箇条書きで構いません。完成度ゼロの言葉でも、ゼロから一を生むほうが、頭の中で完璧な文章を温め続けるよりずっと前に進みます。

言葉は、後から削って磨けます。けれど、出さなければ磨く対象すら生まれません。「下手でいいから、まず外に出す」。この割り切りが、フリーズを抜け出す合言葉になります。最初の一行を恐れないことが、何より大切なのではないでしょうか。

壁2:社長の独り言になる──社員を巻き込み「私たちの言葉」にする

2つ目の壁は、理念が社長の独り言になってしまうことです。社長が一人で考え抜いた立派な言葉も、社員にとっては「上から降ってきたお達し」に感じられることがあります。これでは浸透しません。

越え方は、言語化のプロセスに社員を巻き込むこと。完成した理念を発表するのではなく、つくる過程に参加してもらいます。「うちの会社らしさって何だろう」をテーマに話し合う場を設けるだけでも、社員の当事者意識は大きく変わります。

自分が関わった言葉には、人は愛着を持つものです。社長の言葉から「私たちの言葉」へ。主語が変わった瞬間、理念は自分ごとになります。すべてを社員に委ねる必要はありません。原点は社長が示し、表現は皆で磨く。この役割分担が、独り言化を防ぐ鍵になります。

壁3:つくって終わる──年に一度、言葉を見直す場をつくる

3つ目の壁は、つくって終わってしまうことです。労力をかけて言語化したあと、見直す機会がないまま放置される。会社が成長して実態が変わっても、理念だけが古いまま、というケースも見受けられます。

越え方は、見直す場を仕組みとして持つこと。年に一度、経営計画を立てるタイミングなどに合わせて、理念を読み返す時間を設けます。「今の自分たちに、この言葉はまだしっくりくるか」を問い直すだけで十分です。

理念は石碑ではなく、生き物に近いものです。会社の成長とともに、言葉も育っていきます。『社長が3ヶ月不在でも事業を拡大する方法』も、「経営理念は本当に必要か」という根本の問いを投げかけています8。必要性を問い直す姿勢こそが、理念を生かし続ける。定点観測の習慣が、言葉の鮮度を保ってくれます。

経営理念の言語化を始める進め方|最初の一歩と外部の活かし方

経営理念の言語化は、大がかりな合宿を組まなくても始められます。今日からできる最初の一歩は、創業の問いを3つ書き出すこと。そこから社内を巻き込み、必要に応じて外部の視点も借りながら、自社の言葉を育てていきます。

なぜ「最初の一歩」が大事なのでしょうか。理由は、言語化は完璧な準備を待っていると永遠に始まらないからです。忙しい経営者ほど後回しになりがち。だからこそ、ハードルを思いきり下げて踏み出すことが、何よりの近道になります。一人で抱え込まず、社内と社外の力を借りる道筋まで、ここで具体的に見ていきましょう。

言語化を始めてから運用するまでの道筋

一人で書き出す

創業の問いを3つ書き出す

社内で広げる

ワークショップで素材を集める

外の視点で磨く

取材・編集の力で言葉を整える

運用の仕組みへ

インプットとアウトプットで浸透

今日からできる最初の一歩──創業の問いを3つ書き出す

最初の一歩は、創業にまつわる3つの問いに答えることです。「なぜこの会社を始めたのか」「誰のどんな困りごとを解決したいのか」「これだけは譲れないと思うことは何か」。この3問に、思いつくまま答えを書いてみてください。

所要時間は、30分もあれば十分です。立派な文章である必要はありません。単語の羅列でも、走り書きでも構わない。大切なのは、頭の中にあるものを一度、紙の上に取り出すことです。

書き出してみると、自分でも忘れていた想いに再会することがあります。創業当時の熱量、悔しかった出来事、お客様の笑顔。それらが、理念の確かな土台になります。完璧な合宿より、今日の30分。小さな一歩が、未来を変える大きな力になります。

社内を巻き込むワークショップの組み立て方

最初の一歩を踏み出したら、次は社内を巻き込む段階です。社員と一緒に考えるワークショップを開くと、言葉に厚みと共感が生まれます。組み立て方には、いくつかの型があります。

まず、少人数のグループに分かれて「うちの会社らしいエピソード」を出し合います。次に、出てきた話に共通するキーワードを拾い、模造紙にまとめる。最後に、全体で共有して「自分たちが大切にしているもの」を言葉にしていきます。半日もあれば、骨格は十分に見えてきます。

進行のコツは、否定しない空気をつくること。どんな意見も一度は受け止めると、社員は安心して本音を出せます。経営者が答えを押し付けず、引き出し役に回る。すると、現場の言葉で語られた理念の素材が、自然と集まってきます。

外部の編集力・取材視点を借りるという選択肢

言語化は、必ずしも社内だけで完結させる必要はありません。第三者の編集力や取材の視点を借りるのも、有効な選択肢です。内側にいると見えない価値を、外の目が言葉にしてくれることがあります。

経営者の頭の中にある想いは、本人にとって当たり前すぎて、自分では言葉にしにくいものです。そこで、聞き手が問いを重ねて引き出し、整理して言葉に変える。インタビューという手法が力を発揮する場面です。私たちコントリ編集部も、経営者の方への取材を重ねてきました。ご本人も気づいていなかった想いが言葉になる瞬間に、何度も立ち会っています。

中小企業基盤整備機構の情報サイト「J-Net21」でも、経営理念やビジョンの考え方が紹介されています9。社内の対話、外部の取材、公的な情報源。使えるものは何でも借りながら、自社の言葉を育てていただけたらと思います。

経営理念 言語化セルフチェック

※ チェック項目はクリックで選択できます(状態はページ再読込でリセットされます)。

経営理念の言語化は、経営者の方が一人で抱え込む作業ではありません。社員と対話し、ときに外部の視点を借りながら、少しずつ言葉を磨いていく。経営者の想いを言葉にするお手伝いをしているコントリの経営者インタビュー。理念の言語化をきっかけに組織が変わった経営者の方の歩みも、たびたび伺ってきました。自社の理念を見つめ直すヒントとして、ぜひサービス案内コラム一覧もご覧いただけたらと思います。

まとめ|経営理念の言語化は「4ステップ」と「浸透の仕組み」で整える

経営理念の言語化とは、経営者の暗黙の価値観を、社員と共有できる言葉に変える作業です。原点の棚卸し、判断軸の抽出、構造への整理、磨き込みという4ステップで進めると、借り物ではない自社の言葉にたどり着けます。

言葉を集めるときは、存在意義・提供価値・行動規範・未来像・自社らしさの5つの観点が地図になります。そして、言語化した理念は掲示で終わらせず、インプットとアウトプットの両輪で日常に組み込む。ここまでそろえてこそ、理念は「絵に描いた餅」ではなく、組織を動かす生きた言葉になります。

完璧主義でフリーズしそうになったら、まず荒い言葉で出し切る。社長の独り言にしないために、社員を巻き込む。つくって終わらせないために、年に一度見直す。今日の30分、創業の問いを3つ書き出すところから、あなたの会社らしい言葉を育てていきましょう。


  1. 社長が3ヶ月不在でも事業を拡大する方法「【中小企業 経営理念 ビジョン】理念・使命・ビジョンの違いとつくる時のポイント」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=8RFvmiqWUPw 

  2. 西崎康平 ブラックな社長「中小企業こそミッション・ビジョン・バリューを作るべき理由と作り方|理念が採用と売上を変える」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=9MON95cPpIk 

  3. 吉村正裕 「小さな会社の経営のツボ」「経営理念の作り方(絵に描いた餅にしないため、お題目にならないため、5つのステップで作成)Vol.119」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=Cehm93gvkoc 

  4. 『最強の組織づくり』レガシード近藤悦康「企業理念で言語化すべき5つの観点」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=Za48paRTX9Q 

  5. 吉村正裕 「小さな会社の経営のツボ」「経営理念を社内に浸透させるための仕組み Vol.120」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=boiusUH_69s 

  6. PIVOT 公式チャンネル「【組織が生まれ変わるコーポレートブランディング術】強い組織のつくり方/経営理念/MVV/WAYBOOK」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=1QF16weER1E 

  7. 松田幸之助の仕組み化実践チャンネル「【経営計画書の極意】経営理念をうまく言語化できない時の考え方」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=VISy2-rLtus 

  8. 社長が3ヶ月不在でも事業を拡大する方法「【中小企業 経営理念 ビジョン】経営理念の必要性を問う」(YouTube) https://www.youtube.com/watch?v=8rho-D4so9Y 

  9. 中小企業基盤整備機構「J-Net21」(中小企業向け経営情報サイト) https://j-net21.smrj.go.jp/ 

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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