目標を決め、原点に戻り続けることが、経営者の積み上げを守る

経営をしていると、「順調なとき」が一番怖いと感じることがある。うまくいっているように見えるとき、人は無意識に緩む。組織も、個人も、緩んだところから崩れていく。今日は、支援現場で目にした出来事と、日頃から自分が大切にしていることを交えながら、「積み上げを守る経営者の習慣」について書いてみたい。

目標は、高すぎても低すぎても機能しない

目標設定の話から始めたいのには理由がある。「調子に乗らない」という状態を保つためには、適切な目標が必要だからだ。

目標設定の3ゾーン

高すぎる目標
達成イメージが持てず、行動が止まる。燃え尽きにつながりやすい。
適正な目標
少し背伸びすれば届く。自分の人生の目的と連動している。力が出る。
低すぎる目標
達成しても充実感がない。成長が止まり、やがて退屈になる。

※ 適正ゾーンは「人生の目的」を軸に設定すると見つかりやすい

高すぎる目標を掲げると、人は焦りと停滞のループに入る。毎日「まだ足りない」「また届かなかった」という感覚が続くと、やがて行動への意欲そのものが削れていく。一方、低すぎる目標は達成感の錯覚を生む。「これくらいできれば十分だ」という慢心が芽生え、成長が止まる。

自分にとって本当に最適な目標を見つけること。それが、成長と謙虚さを同時に保つ基盤になると、僕は思っている。

独立してからしばらくは「できるだけ高い目標を」と考えていた。でも実際には、現実と理想のギャップに消耗して前に進めなくなったことがある。その経験から、自分の今の位置から少し先を見据えた目標に設定し直した。それ以来、小さな達成を積み重ねながら動き続けることができている。目標は結果を決めるものではなく、歩み方を決めるものだと感じている。

適切な目標を持つ人間は、慢心しにくい。「まだやることがある」という感覚が常にあるからだ。この感覚が、調子に乗ることへのブレーキになる。

仕事もプライベートも「どちらも諦めない」と決めること

経営者と話していると、「仕事か家族か」「成果か時間か」という二択の罠にはまっている人をよく見かける。でも僕は、これは選択の問題ではなく、決断の問題だと思っている。

仕事とプライベート、二つの道の分岐点

「両立する」と決めると、人は創意工夫を始める。「どちらかを諦める」と決めた瞬間から、選ばなかった方が犠牲になる。そして犠牲にした方のことを、人は後悔し続ける。経営の場面でも、大切な人間関係の場面でも、この構造は変わらない。

大谷翔平選手が投打の二刀流を実現し続けているのも、「二刀流でやる」と決め続けたからではないかと思う。迷いながらやっていたら、あの結果は出なかっただろう。周囲からどれだけ「どちらかに絞れ」と言われても、その意志が折れなかった。

仕事とプライベートを両立させるには、工夫が要る。スケジュールの組み方も、優先順位のつけ方も変わる。でもその工夫の前に「両方やる」という意志決定が必要だ。この順番を間違えると、工夫よりも言い訳が先に出てくる。「忙しいから仕方ない」「今は経営に集中する時期だから」という言葉が、大切なものから遠ざかる理由になってしまう。

僕自身、今も大切にしている人たちと過ごす時間を諦めたくないと思っている。それを守るために経営の効率を上げる。この順番でいないと、何のために仕事をしているかわからなくなると感じているからだ。

現場で見た「少しできた人」の変化が示すもの

発信実装の支援をしていたとき、ある担当者の方の変化が気になり始めた。

スキル習得と態度変化の落とし穴

知識ゼロ
素直に学ぶ
成長期
吸収が速い
危険ゾーン
少しできた
調子に乗る
原点に戻る
本物の成長

「少しできた」タイミングが最もチームに悪影響を与えやすい

最初は発信もAIもほぼ初心者だった。でも教えるたびに理解が深まり、応用も早かった。質問の精度が上がり、自分で考えてアイデアを出せるようになっていく姿は、支援者として見ていて本当に嬉しいものだった。

ところが、ある程度の知識が蓄積されてきたころから、言葉遣いが変わってきた。社長に対して「社長はご存じないかもしれませんが、こういう仕組みで…」と言うようになったのだ。

一度や二度ならまだわかる。でもそれが続くと、空気が変わる。「あなたたちのために私がやってあげている」という気配が、組織の中に漂い始める。

スキルが上がることは素晴らしいことだ。でも、スキルが上がった分だけ「自分がいないとダメでしょ」という思考が育つと、組織の土台が揺らぐ。本人は「貢献している」と感じている。でも周囲は少しずつ萎縮している。そのギャップが静かに組織を壊していく。

これは支援先の話に限らない。経営者自身も、同じ罠にはまる可能性がある。売上が上がったとき、取引先から頼りにされるようになったとき、「自分の判断が正しかった」という実感が積み重なったとき。そのとき、無意識のうちに「自分がいないとダメだ」という思考が生まれていないか、常に点検する必要があると思っている。

「何のためにやっているのか」をチームで繰り返し問う

こういう場面で、僕が有効だと感じているのは叱責でも制限でもなく、原点への立ち返りだ。

テーブルを囲むチームの原点確認

何のためにこの発信をやっているのか。誰のために、この仕組みを作っているのか。その問いをチーム全員で改めて共有する。この作業が、組織の一体感を取り戻す力を持っている。

発信支援の現場でも、最初に「なぜやるか」をすり合わせておかないと、スキルを持った人間がいずれ「自分がいなければ回らない」という感覚を持ち始める。これは技術の問題ではなく、目的の問題だ。そしてその問いに答えるのは、経営者の役割だと思っている。

「なぜやるか」の問いは、定期的に更新する必要もある。最初に合意した目的が、事業の成長とともに形骸化していくことがある。半年前に設定した「なぜ」が、今の組織の実態とズレ始めていないか。そのズレを放置すると、メンバーがそれぞれ別の「なぜ」を持ち始める。そうなったときに、組織はバラバラになっていく。

チームで目的に合意すると、不思議と謙虚さが戻ってくる。「みんなのために」という視点が、「自分がやってあげている」という感覚を上書きしていく。原点の言葉には、そういう力がある。

積み上げを守るのは、「調子に乗らない」という日々の選択だ

調子に乗ると、積み上げてきたものが崩れる。これは経営者も、チームメンバーも同じだ。

うまくいっているときほど、足元を確認する習慣が要る。「今の自分はなぜここにいるのか」「この仕事は誰のためのものか」という問いを、意図的に繰り返すことだ。

僕自身も、クライアントに感謝されたとき、メディアから声がかかったとき、「認められた」と感じる瞬間があった。そういう瞬間は気持ちいい。でもそこで緩むと、次の判断が雑になる。丁寧さが薄れる。そうやって少しずつ、自分の大切にしていることからズレていく。

「調子に乗らない」とは、成果を喜ばないことではない。喜びながらも、自分の原点に戻り続けることだ。目標を自分に合った形で決め、大切なものを守ると意志決定し、何のためにやっているかをチームで問い続ける。この積み重ねが、積み上げてきたものを崩さずに前へ進む道だと、今の僕は思っている。

経営には「いつかゴールに着く」という終わりがない。だからこそ、歩み方そのものを大切にする必要がある。

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