PVでは測れない発信の成果——一件の応募が教えてくれたこと
応募フォームに届いた、たった二行
先日、コントリの応募フォームに、こんなメッセージが届いた。

「ENXIAの乾雅詞さんの記事を読んで、自分も話を聞いてほしいと思いました」
会社名も、名前も、あとの記入欄に書いてあった。メッセージ欄には、それだけ。二行に満たない文章だった。
僕はしばらく、その画面を見ていた。
迷いながら公開した記事だった
正直に書く。乾さんの記事を出すとき、僕は迷っていた。
乾自動車 年商の推移
2,000万円台
乾自動車 入社時
1.8億円
1年目
3.3億円
3年目
この熱量を、読まれやすさのために薄めていいのか——迷いながら公開した記事だった。
乾さんは23歳でドリフト競技の日本一になり、その後トヨタのディーラーで10年、600人の中で評価トップを守り続けた人だ。コロナ禍をきっかけに、崖っぷちだった家業・乾自動車に2022年に入った。年商2,000万円台だった会社を、1年目で1億8,000万円まで伸ばし、3年で3.3億円にした。5年後20億、15年後100億という数字を、本人はもう見ている。
すごい話だと思った。ただ、経営者インタビューというフォーマットの中で、ドリフトや車のカスタムという題材は、かなり寄り道した領域だ。中小企業経営者という僕らの主な読者層に、この熱量はちゃんと届くんだろうか?社内でも「PVは伸びにくいかもしれない」という話が出ていた。
原稿の校正をしながら、何度か迷った。冒頭をもっと経営の話に寄せて、ドリフトの話は薄めた方がいいんじゃないか。数字が独り歩きしないよう、抑えた見出しにした方がいいんじゃないか。結局、そのまま出した。乾さんが実際に語った熱量を薄めてまで、読まれやすさを取りに行くのは、コントリのやり方ではないと思ったからだ。
それでも、乾さんの言葉には嘘がなかった。だから、出した。
乾さんへの取材は、移動と撮影を含めると半日仕事だった。それだけの時間をかけた原稿を前に、「これは割に合うだろうか」という考えが頭をよぎることは、正直ある。乾さんの記事も、公開する直前まで、その計算が完全に消えていたわけではなかった。
数字で測っていた自分に気づいた
出した後は、正直あまり見ていなかった。次の取材、次の校正、次の締切。乾さんの記事のことは、忘れかけていたと言ってもいい。

伝えると伝わるは違う。コントリとして、ずっとそう言い続けてきた。なのに、心のどこかで、記事の価値をPVという数字で測ろうとしていたことに、あのメッセージを読んで気づかされた。ニッチだから、寄り道だから、伸びないだろうから——そうやって、公開した瞬間に自分でその記事の可能性に線を引いていたのだと思う。
でも、届くかどうかは、リーチの広さでは決まらなかった。
毎朝、記事ごとのPVを確認するダッシュボードを見る習慣がある。乾さんの記事のPVは、正直、突出して多いわけではない。数字だけを追っていたら、きっと見落としていた一本だ。今回のことがなければ、そのまま「そこそこの記事」として記憶からも消えていたと思う。
出会いの質は、リーチの広さでは決まらない
一人の経営者が語った言葉を、もう一人の経営者が読んで、応募という行動に変えた。そこにあったのは、拡散でもバズでもない。出会いの質そのものだった。
PVという物差し
- 乾さんの記事のPVは、突出して多いわけではない
- 見ていたのは、伸びるか伸びないかだけ
- 数字だけを追っていたら、見落としていた一本
出会いの質という物差し
- 一人の経営者が、応募という行動に変えた
- お金では買えない出会いが生まれた
- 100社を超える取材の先に起きた一件
コントリが経営者インタビューを無料で続けているのは、この一件のような出会いを、お金では買えないと思っているからだ。取材を重ねるほど、記事は増える。記事が増えるほど、次の出会いが生まれる確率も上がる。会社員時代から数えて、これまで100社を超える経営者に話を聞いてきたけれど、こんなふうに記事が次の出会いを連れてくる瞬間に立ち会うたび、この仕事を続けている理由を思い出す。
コントリには「価値と価値の掛け算で新しい価値を生み出す」という理念がある。乾さんが語ってくれた価値と、それを読んだ人が持っていた価値。この二つが掛け合わさって、応募という新しい一歩が生まれた。理念として掲げている言葉が、目の前で具体的な出来事として起きるのを見たのは、これが初めてではないけれど、毎回、少し身が引き締まる。
今回のことを整理すると、こうなる。
- 乾さんの記事:公開前の見立てでは、PVはあまり見込めないと社内で話していた
- 実際に起きたこと:一人の経営者が、応募という一歩を踏み出した
- コントリが受け取ったもの:信頼という、PVには出てこないリターン
これからも、この記事を出し続ける
発信設計という言葉を、コントリではよく使う。誰に、何を、どう届けるか。ただ、今回の一件で、その設計図に足りなかったものがあったと思っている。書き手自身が、記事の本質的な価値を、PVという物差しだけで判断してしまう危うさだ。
経営者の想いは、届く数の大小で測れるものではない。一人に深く届く記事のほうが、100人に浅く届く記事より、次の出会いを連れてくる力を持っていることがある。コントリが、拡散力よりも出会いの質にこだわり続けているのは、こういう瞬間があるからだ。
もし、自社の発信のことで迷っていることがあれば、経営者インタビューという形でも、ハッシンラボという形でも、気軽に声をかけてほしいと思っている。
具体的に、ひとつやり方を変えることにした。これまで応募フォームには「何を見てご応募いただきましたか」という項目がなかった。次からは、必ず聞くようにする。今回のようなご縁は、聞かなければ、僕らの手元に残らないまま流れていたはずだ。継続して記事を出し続けることと同じくらい、こういう小さな声を拾う仕組みを持つことが、これからのコントリには要る。
乾さんには、もうこの話を伝えた。「あの記事が、また一人の経営者を動かしましたよ」と。

