コラム

中小企業の経営者・ビジネスパーソンに向けたコラム記事をまとめています。経営戦略やビジネスモデル、人材・組織づくり、マーケティング、財務、法務など、日々の意思決定に役立つ実践的な知見と、経営者自身の言葉による気づきをお届けします。

佰食屋のビジネスモデル|1日100食で利益と時間を得た

佰食屋のビジネスモデル|1日100食で利益と時間を得た

行列ができたら、席を増やす。評判が立ったら、2号店を出す。多くの経営者にとって、それは自然な成長の道筋ではないでしょうか。

京都の国産牛ステーキ丼専門店「佰食屋(ひゃくしょくや)」は、その逆を選びました。佰食屋のビジネスモデルとは、1日100食という売上の上限から、すべてを逆算する仕組みです。

仕入れも人員も営業時間も、その上限から決まります。原価率は一般的な飲食店より高い50%です。それでも広告費をかけず、営業は実質3時間半で、残業ゼロを実現してきました(マネー現代 2019年7月)。

本記事の材料は、コントリ編集部がまとめたビジネスモデル研究ノートです。上限設計、原価の組み替え、採用、コロナ禍の判断、フランチャイズ構想の閉店までを順にたどります。最後に、中小企業が自社に置き換えるための問いも整理しました。売上と時間の関係を見直すきっかけになれば嬉しく思います。

佰食屋のビジネスモデルとは|1日100食・ランチのみ・売り切れ終了

佰食屋は、1日100食限定・ランチ営業のみ・売り切れたら閉店という形を創業時から続けている専門店です。売上を伸ばすほど時間と人が足りなくなる飲食業の構造を、上限を置くことで断ち切っています。

佰食屋のビジネスモデルを支える3つのルール
ルール11日100食限定仕入れも人員も100食分で確定します。効果:ロスが出にくく、予測が要らない
ルール2ランチ営業のみ営業は約3時間半。夜の営業はしません。効果:残業ゼロで夕方に帰れる
ルール3売り切れたら閉店100食が出た時点でその日の営業は終わりです。効果:終わりの時刻が先に見える

※出典:マネー現代(講談社)2019年7月

株式会社minittsと中村朱美氏の歩み

佰食屋を運営するのは、京都市の株式会社minitts(ミニッツ)です。代表の中村朱美氏は1984年、京都府亀岡市に生まれました。専門学校の職員を経て、2012年9月に会社を設立しました(システムブレーン プロフィール)。飲食業の経験はありませんでした。

出発点は「儲けたい」ではありません。「家族で晩御飯を食べたい」という願いでした(Business Insider Japan 2018年10月)。夕方に仕事を終え、家族と食卓を囲む。その暮らしを先に決め、そこに合う店の形を後から設計した順番に、このモデルの本質があります。

2019年には著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版しています。同年には日経WOMANのウーマン・オブ・ザ・イヤー2019で大賞を受けました。2023年からは石井食品株式会社の社外取締役も務めています(システムブレーン プロフィール)。

「売上を追わない」ではなく「売上の上限を先に決める」

佰食屋を「欲のない店」と捉えると、仕組みの面白さを見落とします。中村氏が選んだのは、売上を捨てることではありません。売上に上限を置いて、他の変数を確定させることでした。

一般的な飲食店は、来店数が読めないまま仕入れと人員を用意します。多めに用意すればロスが出て、少なければ機会損失が出る。その揺れを吸収するために、経営者と従業員が長く働く構造になりがちです。上限を置けば、この揺れの大半がなくなります。

一般的な飲食店との違いを比較表で見る

違いを並べると、佰食屋が「何を増やし、何を削ったか」が見えてきます。

項目一般的な飲食店佰食屋出典
原価率30〜40%50%マネー現代 2019年7月
FLコスト60%82%日経クロストレンド 2021年1月
広告費集客のために投下使わないマネー現代 2019年7月
営業時間昼夜の長時間営業が多いランチのみ・約3時間半マネー現代 2019年7月
1日の提供数上限なし100食で終了日経クロストレンド 2021年1月

原価と人件費の比率は一般的な店より高いのに、利益が残る。この一見矛盾した数字を、次のH2から分解していきます。

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「100食」という上限が仕入れ・人員・時間を同時に決める

100食という上限を置くと、仕入れ量・必要人数・営業時間・在庫が一度に確定します。佰食屋の本質は「頑張らない」ことではなく、上限ひとつで経営の変数をまとめて固定した設計にあります。

言い換えれば、「どれだけ売れるか」を毎日読む経営から、「100食をどう届けるか」だけを考える経営への転換です。変数が減れば、判断に迷う場面も減ります。ここでは、上限が何をどう決めているのかを順に見ていきます。

「100食」の上限が経営の変数を同時に決める
1日100食の上限
▼ 上限を置くと、同時に決まる
仕入れ100食分だけ。来店予測がほぼ要らない
人員100食を回せる人数で足りる。100人を5人で迎える体制
営業時間売り切れまで。ランチのみ約3時間半
在庫・ロス売り切れで閉店するため、ほぼ発生しない
品質1食あたりにかけられる手間が増える

※出典:マネー現代 2019年7月/日経クロストレンド 2021年1月(人員体制)

仕入れと食品ロス|予測がほぼ要らない

飲食店の仕入れは、天候や曜日で揺れる来店数を読む作業です。読みが外れれば、食材を捨てるか、品切れで客を帰すことになります。

佰食屋では、仕入れは原則として100食分です。来店予測の精度を上げる努力より先に、予測そのものが要らない状態をつくりました。売り切れたら閉店するので、余った食材が翌日に回ったり廃棄されたりする場面も構造的に減ります。食品ロスへの対応を、努力目標ではなく設計で片づけた形です。

仕入れが読めるということは、取引先との関係も安定するということです。毎日ほぼ同じ量を発注できれば、仕入れ先も準備がしやすくなります。発注の手間が減るぶん、経営者は別の仕事に時間を使えます。

労働時間|営業は実質3時間半、残業ゼロ

営業はランチのみで、実質3時間半です。飲食店でありながら残業ゼロを掲げています(マネー現代 2019年7月)。flierのインタビュー(2020年3月)では、従業員は18時までに帰れると紹介されています。

長時間営業の店では、閉店後の片づけや翌日の仕込みが夜にずれ込みます。佰食屋は100食を売り切った時点で営業が終わり、そのまま翌日の準備に入れます。終わりの時刻が先に見えている職場だからこそ、家族との夕食という創業の願いが守られています。

人員とキャッシュフロー|過剰雇用と在庫を持たない

日経クロストレンド(2021年1月)によると、店舗は10坪15席ほどの広さです。100人のお客様を、5人のスタッフで迎える体制でした。回す食数が決まっているので、必要な人数も決まります。

忙しい日に備えて人を多めに抱える必要がなく、在庫も持ちません。運転資金が軽く、お金の出入りが読みやすい経営につながっています。後に触れるコロナ禍の素早い判断も、この身軽さの上に成り立っていました。

中小企業の経営者であれば、繁忙期に合わせて人を採り、閑散期に人件費が重くのしかかった経験をお持ちではないでしょうか。上限があれば、繁忙と閑散の差そのものが小さくなります。人を増やすか減らすかで悩む時間も、ぐっと減るはずです。

原価率50%でも利益が残る理由|削ったのは原価以外のコスト

佰食屋が原価率50%でも利益を残せる理由は明快です。原価以外のコストを徹底して削り、その分を料理に寄せているからです。利益は原価率ひとつでは決まらず、原価・回転・固定費の組み合わせで決まります。

原価を上げ、原価以外を削る:コスト配分の違い(イメージ)
一般的な飲食店
原価 30~40%
広告宣伝
長時間営業の人件費・光熱費
ロス
その他
佰食屋
原価 50%
人件費 32%(短時間営業)
広告費ゼロ・ロス僅少
FLコスト(原価+人件費):一般的な飲食店 60% / 佰食屋 82%
原価率・人件費・FLコスト以外の区分は、構成の違いを示すイメージです。

※出典:原価率はマネー現代 2019年7月、人件費・FLコストは日経クロストレンド 2021年1月。その他の区分は概念図

原価率とは、売上に占める食材費の割合のことです。例えば1,000円の丼で食材費が500円なら、原価率は50%です。一般的な飲食店では、これが30〜40%に収まるとされています(マネー現代 2019年7月)。

1,000円台で国産牛約120g|料理に寄せた原価

日経クロストレンド(2021年1月)によると、価格帯は1,000〜1,100円です。国産牛を約120g使ったステーキ丼が看板です。この価格でこの量を出すため、原価率は50%に達しています。

お客様から見れば、「この値段でこの肉が食べられる」という驚きになります。その驚きが写真とともにSNSで広がり、料理そのものが広告の役割を担う。原価に投じたお金が、集客費として回収されている構図です。

一般的な店が広告に使うお金を、佰食屋はお客様の満足に直接使っている。そう捉えると、原価率50%は「高すぎる原価」ではなく、「広告費を含んだ原価」と読み替えられます。満足したお客様が次のお客様を連れてくる循環が、ここで回り始めます。

広告費ゼロと口コミ|集客コストが要らない構造

中村氏は「広告費は一切使わない」方針を掲げています(マネー現代 2019年7月)。お客様が自ら写真を撮り、発信してくれるからです。

削っているのは広告費だけではありません。行列ができる店であれば、家賃の高い一等地に出す理由は薄れます。営業時間が短ければ、光熱費や人件費も短い時間に圧縮されます。

100食限定なので廃棄ロスもほとんど出ません。原価以外の固定費をひとつずつ削り、浮いた分を原価に回す。これが「原価率50%でも成り立つ」理由です。

FLコスト82%でも成り立つ組み替えの考え方

FLコストとは、食材費(Food)と人件費(Labor)の合計が売上に占める割合です。例えば売上100万円の月に、食材費35万円と人件費25万円がかかれば、FLコストは60%です。

一般的な飲食店は60%前後が目安とされます。同じ日経クロストレンドの分析では、佰食屋は人件費32%と合わせてFLコスト82%でした。

教科書どおりに読めば、ほぼ利益が残らない数字です。それでも成り立つのは、FL以外の費目、つまり広告・家賃・光熱費・ロスが小さいからにほかなりません。

数字の一部だけを見て「高い」「安い」と判断しない。費目どうしの組み替えで全体を設計するという視点こそ、業種を問わず持ち帰れる考え方です。

コントリの記事「100円ショップ・ダイソーのビジネスモデル」も、低価格でも利益が出る構造を組み合わせで読み解いています。併せて読むと、比較の軸が増えるはずです。

働き方が採用力になる|労働条件を「商品」にした設計

佰食屋では、働く条件そのものが人を集める力になっています。残業ゼロ、夕方に帰れる、有給を取り切れるという条件です。労働条件を「福利厚生」ではなく「採用の武器」として設計した点が、人手不足の飲食業では大きな差になりました。

飲食業は、長時間労働や土日勤務が当たり前とされてきた業界です。その常識の反対側に条件を置いたことで、佰食屋は他店と応募者を奪い合わずに済んでいます。製造業で年間休日約140日・残業原則ゼロを続けながら利益を出している例は、未来工業のビジネスモデルで解説しています。

労働条件を採用力に変える:採用と定着の循環
一般的な飲食店にありがちな循環長時間労働・夜や土日の勤務▼応募が集まりにくい▼求人広告費が増える▼採用しても離職し、また募集
佰食屋の循環残業ゼロ・夕方に帰れる▼子育て中の人やシングルマザーなどに届く▼正社員として登用・有給完全取得▼評判が次の応募を呼ぶ

※出典:Business Insider Japan 2018年10月/flier 2020年3月。左列は一般的な傾向を示すイメージ

シングルマザー・障がいのある人・子育て中の人を正社員に

Business Insider Japan(2018年10月)が伝えた採用の姿は、次のとおりです。シングルマザーや障がいのある人、子育て中の人を正社員として登用しています。ほかの職場では採用されにくかった人も、積極的に迎えてきました。

夕方までに仕事が終わる職場は、保育園のお迎えや家族の介護を抱える人にとって、選べる働き先そのものです。一般的な飲食店が採用しきれない層に、条件がそのまま届く。求人広告を出さなくても応募が集まる理由は、ここにあります。

有給完全取得と「新・ダイバーシティ経営企業100選」

同じ記事では、有給休暇を完全に取得できる運用も紹介されています。従業員どうしで休みを調整する仕組みがあり、休むことが当たり前の職場です(同記事)。

2017年には、経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれました(flier 2020年3月)。「超ホワイト企業」という評判そのものが、次の応募を呼び込む循環を生みました。

休みを取れることは、働く人にとっての安心だけでなく、店にとっての備えにもなります。誰かが休んでも回る体制を平時から整えているからです。急な欠勤や家族の事情にも、チームで対応できる職場。その安心感が、長く働き続ける理由になっていきます。

採用コストと離職コストを下げる仕組み

飲食業では、人を採る費用と、辞めた人の穴を埋める費用が経営を圧迫しがちです。求人広告を出しても応募が来ず、ようやく採用した人が長時間労働で辞めていく。そんな悪循環に悩む経営者の方は多いのではないでしょうか。

佰食屋は、働きやすさを先に設計することで、採用と定着のコストを同時に下げる道を選びました。採用に課題を感じている方は、コントリの「スカウトメールの返信率を上げる3つの型」も参考になります。条件設計と伝え方の両面から見直すと、打ち手が具体的になります。

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コロナ禍と佰食屋1/2の閉店に見る、小さく作る強さと移植の難しさ

2020年、佰食屋は4店舗のうち2店舗の閉店を4月に決め、翌5月には黒字化しました。一方、「働き方のフランチャイズ」を目指した佰食屋1/2は2021年12月に閉店しています。危機に強い身軽さと、他社への移植の難しさ。その両方がこの2つの出来事に表れています。

成功だけでなく撤退も含めて見ることで、このモデルの輪郭がはっきりします。

佰食屋の歩み:拡大・危機対応・撤退・次の展開
2012年9月株式会社minitts設立出典:システムブレーン
2019年6月佰食屋1/2開業(1日50食・9~15時・2人体制)出典:中村朱美氏note 2021年11月
2020年4月11日2店舗の閉店を決断出典:創業手帳 2024年1月掲載
2020年5月黒字化出典:日経クロストレンド 2021年1月
2020年6月30日すき焼き専科・肉寿司専科を閉店出典:創業手帳 2024年1月掲載
2020年8月利益率14%を記録出典:日経クロストレンド 2021年1月
2021年12月15日佰食屋1/2閉店(初期投資約350万円は回収済み)出典:中村朱美氏note 2021年11月
2023年7月ジェイアール京都伊勢丹で土日祝の販売開始出典:佰食屋ニュース 2023年

※各項目の出典は項目内に記載

2店舗閉店を即断し翌月黒字化|固定費の軽さが可動域になる

中村氏が閉店を決断したのは、2020年4月11日でした(創業手帳 2024年1月掲載・取材は2020年10月)。対象は「佰食屋すき焼き専科」と「佰食屋肉寿司専科」の2店舗で、6月30日に閉店しています。

同じ記事では、持続化給付金を法人の上限額の200万円受けたことも語られています。持続化給付金とは、コロナ禍で売上が大きく減った事業者に国が支給した給付金のことです。助成金や家賃補助も含め、使える制度を使い切る判断でした。

閉店を決めた翌月の2020年5月には黒字化しました。8月には利益率14%を記録しています(日経クロストレンド 2021年1月)。

もともと在庫も過剰な人員も抱えない設計だったからこそ、撤退の判断を早く打てました。小さく作ってあることが、危機の場面では動ける幅になる。その実例といえるでしょう。

佰食屋1/2|1日50食・2人体制の「働き方のフランチャイズ」構想

佰食屋1/2は2019年6月に開業した店舗です。1日50食限定、営業は9時から15時の6時間、2人体制で、日曜が定休日でした(中村朱美氏note 2021年11月)。

このモデルを全国へ広げる構想がありました。いわば「働き方のフランチャイズ」です。

フランチャイズとは、本部が店の仕組みやブランドを加盟店に提供し、加盟店が対価を払って同じ形の店を営む方式のことです。2人でも回せる小さな店を、全国に届ける計画でした(Business Insider Japan 2018年10月)。売上の大きさではなく、働き方ごと広げようとした試みといえます。

佰食屋と「働き方のフランチャイズ」佰食屋1/2の比較
佰食屋(本店)
提供数1日100食
営業ランチのみ・約3時間半
看板国産牛ステーキ丼
状況営業継続
佰食屋1/2
提供数1日50食
営業9~15時の6時間・日曜定休
人員2人体制
期間2019年6月~2021年12月15日

※出典:マネー現代 2019年7月/日経クロストレンド 2021年1月/中村朱美氏note 2021年11月

閉店の判断に見る、自社で成立するモデルと他社への移植は別問題

佰食屋1/2は2021年12月15日に閉店しました。中村氏はnoteで、閉店を次のように説明しています。

佰食屋1/2は役割を終えることとなりました。

同じnoteには、コロナ後しばらくは「集客」をするタイプの事業は厳しい時代が続くという見立ても綴られています。そのうえで、事業計画を大きく変える判断に至ったと書かれていました。約350万円の初期投資は、約2年4か月の営業で回収できていたといいます(中村朱美氏note 2021年11月)。

店としては採算が取れていても、他社に広げる構想は止める。自社で成立したモデルが他社でも成立するとは限らない、という事実を、中村氏は自ら公開の場で書き残しています。

成功だけでなく撤退の理由まで言葉にしている点に、経営者としての誠実さが見えます。多店舗化を考えている方は、「フランチャイズ展開の始め方」も合わせて確認しておくと、判断の材料が揃います。

なぜ佰食屋のビジネスモデルは真似されないのか

佰食屋の仕組みは、書籍やメディアで詳しく公開されています。それでも同じ形の店が広がらないのは、模倣を阻む壁が数字の外、つまり経営者の意思と順番にあるからです。コントリ編集部の研究ノートでは、次の4つの壁に整理しました。

どの壁も、数字や手順ではなく、経営者の判断と覚悟に関わるものです。だからこそ、自社の状況と照らし合わせて読むと、得られるものが多くなります。

佰食屋のビジネスモデルが真似されにくい4つの壁
壁1経営者が売上を増やしたいと思っていない上限を外した瞬間にモデルが崩れる
壁2目の前のお客様を断る胆力毎日の小さな決断が仕組みを支える
壁3原価率だけ真似すると赤字になる原価以外を削って初めて成り立つ
壁4働き方が先、業態は後という順番順番を逆にしては作れない

※コントリ編集部 ビジネスモデル研究ノート(2026年9月)による整理

壁1|経営者が「売上を増やしたい」と思っていない

最大の参入障壁は、経営者の動機そのものです。多くの飲食店は、行列ができた時点で席を増やすか、2号店を出します。その判断自体は合理的ですが、上限を外した瞬間にこのモデルは崩れます。

佰食屋の出発点は「家族で晩御飯を食べたい」でした。売上を伸ばすことが目的ではないからこそ、上限を守り続けられます。

逆に、同じ仕組みを「儲かりそうだから」という理由で取り入れた場合はどうでしょう。売れ行きが良い日ほど、あと20食、あと30食と上限を動かしたくなるはずです。上限が1度動けば、仕入れも人員も営業時間も連動して揺れ始めます。動機の違いは、外からは真似できない壁といえます。

壁2|目の前のお客様を断る胆力

100食で閉めるとは、並んでくださったお客様にお断りをすることでもあります。短期的には、明らかな機会損失に見える場面です。

それでも上限を守るには、「今日の売上」より「明日も同じ働き方ができること」を優先する覚悟が要ります。わざわざ足を運んでくださった方に頭を下げる。その場面を毎日のように迎えながら、上限を動かさない。

数字の設計は紙の上で真似できます。けれども、その場で断り続ける胆力までは移せません。仕組みを支えているのは、日々の小さな決断の積み重ねです。

壁3|原価率だけ真似すると赤字になる

原価率50%は、広告費・立地・営業時間・ロスをすべて削って初めて成り立つ数字です。原価だけを上げ、長時間営業や広告投下を続ければ、赤字に向かうのは避けられません。

例えば、駅前の一等地で夜まで営業している店が、原価率だけを50%に上げたとします。家賃も光熱費も人件費も従来のままで、広告も出し続けます。その場合、FLコストが膨らんだぶん、利益はそのまま削られます。

佰食屋の数字は「セット」で読む必要があります。コントリの「キーエンスのビジネスモデル」の解説でも、高い利益率は単一の施策ではなく、仕組み全体の噛み合わせから生まれていると整理しています。

壁4|働き方が先、業態は後という順番

佰食屋は、働き方を先に決め、それに合う業態を後から選んでいます。夕方に帰れるランチ営業、少人数で回せる3品のメニュー(佰食屋公式サイト)は、その結果です。

既存の業態に働き方改革を後から足そうとすると、どこかで無理が出ます。夜の売上が大きい店が夜営業をやめれば、売上の柱が折れます。人を減らせば、残った人に負担が寄ります。

働き方から逆算して業態を選び直す。この順番を逆にしては作れない点が、4つめの壁です。裏を返せば、これから新しい事業を立ち上げる経営者ほど、この順番を取り入れやすいともいえます。

中小企業が佰食屋から持ち帰れる学び|自社に置き換える5つの問い

佰食屋の学びは、飲食業に限りません。学びは5つに整理できます。上限の置き方、原価の組み替え、条件で採る採用、小さく作る身軽さ、モデルの移植の難しさです。いずれも、多くの中小企業がそのまま自社の問いに置き換えられます。

私たちコントリ編集部がこの研究ノートをまとめて感じたことがあります。佰食屋は特別な才能の話ではなく、順番と上限の話だということです。

もう1つ気づいたことがあります。中村氏は、なぜ100食なのか、なぜ閉店するのかを、自分の言葉で公開し続けてきました。経営の判断を言葉にして外に出すことが、共感や応募を呼び込む土台にもなっています。

佰食屋から持ち帰る:自社に置き換える5つの問い

※チェックは記入が済んだ問いの目印としてお使いください(ページを再読み込みするとリセットされます)

問い①|売上の上限を先に決めると、他の変数が決まる

計画が立たない、先が読めない。そうした悩みの多くは、上限を置いていないことから生まれています。受注の上限、稼働日数の上限、1日の対応件数の上限などが考えられます。どれか1つを先に決めるだけで、必要な人員や設備が見えてきます。

例えば、町の工務店が「月の着工は3棟まで」と決めたとします。すると職人の数、仕入れの量、営業にかける時間まで、逆算で決まっていきます。

問い①は「自社が上限を置くとしたら、どの数字か」です。まずは1つ、紙に書き出してみてください。数字が1つ決まると、手をつける順番も見えてきます。

問い②|原価率は単体で評価しない

原価を上げて集客コストをゼロにする。この組み替えは、製造業や工務店、専門サービスにも応用が利きます。品質に投じたお金が口コミや紹介を生み、広告費を肩代わりするケースです。

実際に試すときは、直近1年の広告費と、主力商品の原価を並べて書き出すところから始めます。広告費の一部を品質に回したら、紹介や再来は増えるのか。小さく試して数字で確かめるのが近道です。

問い②は「広告費と原価、どちらに1円を投じると、次のお客様が来るか」です。値上げを検討している方は、コントリの「値上げ率の計算方法」で損益分岐も確かめておくと、判断が数字で固まります。損益分岐とは、売上と費用がちょうど釣り合い、利益がゼロになる点のことです。

問い③|労働条件は採用チャネルになる

求人広告費を積み増すより、条件を設計し直すほうが効く場合があります。夕方に帰れる、土日は休める、有給を取り切れる。こうした条件は、それだけで届く層がいます。

大切なのは、条件を「福利厚生の一覧」の奥にしまい込まないことです。佰食屋の「18時までに帰れる」のように、一言で伝わる形にして求人の先頭に置く。応募者が最初に目にする1行が、採用の成否を分けます。

問い③は「自社の働き方を、求人票の1行目に書けるか」です。書けないとしたら、それ自体が見直しの出発点になります。

問い④|小さく作っておくと、危機で早く動ける

佰食屋は2020年4月に2店舗の閉店を決め、翌月には黒字化していました(日経クロストレンド 2021年1月)。在庫や過剰な人員を抱えない身軽さが、判断の速さを支えていました。

固定費が重い会社ほど、撤退の判断は遅れがちです。家賃の長期契約や使っていない設備、埋まらない人員配置が典型です。こうした重さを平時から点検しておくと、いざという時の選択肢が増えます。

問い④は「危機のとき、何日で撤退の判断を打てる形になっているか」です。固定費の一覧を作り、やめられる費目に印をつけるところから始めてみてください。

問い⑤|成功モデルでも、他社への移植は別問題

問い⑤は「自社のモデルは、自社以外でも成立するか」です。佰食屋1/2は店としては投資を回収しながらも、全国に広げる構想は止まりました。自社で成立するモデルが、他社でもそのまま成立するとは限りません。

多店舗化やフランチャイズを考える前に、そのモデルが経営者本人の想いや判断にどれだけ支えられているかを見極めておく。これが佰食屋1/2の閉店から学べることです。ほかの企業のモデルと並べて考えたい方は、「ビジネスモデル一覧」で30種の型と見比べてみてください。

5つの問いを書き出すワークシート

5つの問いを、そのまま書き込めるワークシートにしました。記入例は、架空の町の工務店を想定したものです。

問い書き出すこと記入例(架空の工務店)
①上限上限を置く数字を1つ月の着工は3棟まで
②原価と集客直近1年の広告費と主力商品の原価広告費の一部を断熱材の標準仕様に回す
③働き方求人票の1行目に書く条件日曜・祝日休み、17時に現場を閉める
④撤退の速さやめられる固定費の一覧使っていない資材置き場の賃料
⑤移植社長がいなくても回る部分と回らない部分見積もりは社長頼み、施工は職人で回る

書き出す順番は①からがおすすめです。上限が決まると、②〜⑤の答えも出しやすくなります。

このモデルの弱点と限界|スケール・原材料高騰・属人性

佰食屋のモデルにも弱点はあります。研究ノートでは、次の3点を限界として整理しました。

  • スケールしない設計のため、事業承継や外部資本の導入とは相性が良くない
  • 1,000円台の価格で原価率50%を保つため、原材料の値上がりへの耐性が低い
  • 中村氏個人の発信力(著書・講演・メディア)がブランドの相当部分を支えている

加えて、ピーク時の4店舗から、コロナ禍を経て店舗数は減りました。それが「売上を減らそう」を実践した結果なのか、コロナによる不可抗力なのかは、評価が分かれるところです。

現在は京都・西院の本店が中心です。2023年7月からは、ジェイアール京都伊勢丹の地下2階でも販売を始めました(佰食屋ニュース 2023年)。土日祝にステーキ丼が並びます。

多店舗展開から、協業や販路の工夫へと軸足を移しているように見えます。2025年11月にはKBS京都の番組にも出演しました(KBS京都公式YouTube 2025年11月)。肩書は国産牛ステーキ丼専門店の代表です。

まとめ|佰食屋のビジネスモデルは「上限」と「順番」の設計

佰食屋のビジネスモデルは、1日100食という上限を先に決め、仕入れ・人員・営業時間をそこから逆算する設計です。原価率50%でも利益が残るのは、広告費・立地・営業時間・ロスを削り、浮いた分を料理に寄せているからでした。

さらに、残業ゼロで夕方に帰れる条件が、他店が採りきれない人材を惹きつけています。コロナ禍では身軽さを生かして翌月に黒字化しました。一方で、佰食屋1/2の閉店は、モデルの移植が別問題であることも示しています。

数字で振り返る佰食屋のビジネスモデル
100食1日の上限。ここから全てを逆算出典:佰食屋の基本ルール
50%原価率(一般的な飲食店は30~40%)出典:マネー現代 2019年7月
約3時間半ランチのみの営業で残業ゼロ出典:マネー現代 2019年7月
14%2020年5月に黒字化し、8月に記録した利益率出典:日経クロストレンド 2021年1月

※数値は各出典の報道時点のもの

まず取り組むなら、問い①の「自社の上限」を1つ書き出すことです。上限が決まれば、人・お金・時間の使い方が順に見えてきます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 佰食屋のビジネスモデルを一言でいうと何ですか?

A. 1日100食という売上の上限を先に決め、仕入れ・人員・営業時間をすべてそこから逆算する「上限起点」のモデルです。売上を追わないかわりに、利益と働く人の時間を確保しています。

Q2. 原価率50%で本当に利益が出るのですか?

A. 出ています。広告費をかけず、営業時間を短くし、100食限定でロスを抑えるなど、原価以外のコストを削っているためです。2020年のコロナ禍でも5月に黒字化しました。8月には利益率14%を記録したと報じられています(日経クロストレンド 2021年1月)。

Q3. 佰食屋1/2はなぜ閉店したのですか?

A. 中村朱美氏のnote(2021年11月)に理由が書かれています。コロナ後しばらくは集客型の事業に厳しい時代が続くと見て、事業計画を大きく変えたという説明です。従業員の卒業退職と移転計画が重なった時期でもありました。約350万円の初期投資は約2年4か月で回収できていたとも記されています。

Q4. 佰食屋のモデルは飲食店以外でも使えますか?

A. そのまま移植するのは簡単ではありません。ただし考え方は応用が利きます。上限を先に決める、原価と集客コストを組み替える、労働条件を採用の武器にする。この3つは製造業やサービス業でも検討できます。

Q5. 佰食屋は今も営業していますか?

A. 京都・西院の本店が営業を続けています。2023年7月からは、ジェイアール京都伊勢丹の地下2階「老舗名店弁当」売り場でも販売が始まりました。土日祝に国産牛ステーキ丼が並びます(佰食屋ニュース 2023年)。最新の営業情報は店舗へご確認ください。

Q6. 中村朱美氏の著書は何ですか?

A. 2019年にライツ社から刊行された『売上を、減らそう。』です。1日100食限定の考え方や、働き方を起点にした経営の組み立てが、本人の言葉で綴られています。

参考資料

本記事は、コントリ編集部のビジネスモデル研究ノートをもとに、2026年9月時点で上記の公開情報を照合して作成しました。記事中の数値は、それぞれの出典が報じた時点のものです。

編集部より

研究ノートをまとめるなかで印象に残ったのは、佰食屋1/2の閉店を、中村氏が自らnoteで詳しく書き残していたことでした。投資をいくらで回収できたか、なぜ構想を止めたのか。成功の話だけでなく、撤退の理由まで数字とともに公開している経営者は多くありません。

売上を減らす決断も、構想を止める決断も、同じ「上限を自分で決める」姿勢から出ているのだと感じました。コントリは、経営者の方とのご縁を通じて、判断の理由をご本人の言葉で伺う取材を続けています。理由まで言葉になった経営判断は、読む人の背中を押す力を持つと、あらためて実感しました。

自社の上限をどこに置くか。その問いを、ぜひ一度書き出してみてください。

飯塚昭博

この記事の著者

飯塚 昭博

Akihiro Iitsuka

コントリ株式会社 代表取締役

青山学院大学卒業後、自動車会社にて年間180億円規模の設備調達を担当。中小企業経営者の想いに触れる中でその価値を伝えることに使命を感じ、2023年独立。経営者インタビューメディア「コントリ」を運営し、100社以上の経営者を取材。SEO・AI活用・発信設計を通じて中小企業の「伝わる発信」を支援している。

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